ポケットモンスター パール編




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おまけ





『ギンガ団幹部ジュピター』

『ギンガ団には3人の幹部がいる』

『その一人がジュピターである』

『冷静沈着、確実に相手をしとめるポケモントレーナー』

『常にうすら笑ったような表情は妖しく美しい』

『謙遜な性格ではあるが、その実力はこの広大なシンオウ地方でも相当の物と言われる…』


−ギンガ団幹部の説明その1−





ウィィィン…。

ハクタイジムのシャッターが軽快に開く音。

ヒカリ 「いやぁ〜! 接戦制して見事勝っちゃったね!」

コウキ 「うん、これからどうしようか?」

ヒカリ 「そうね、とりあえず今後の指針だけどまずはここから南下してテンガン山を抜けてヨスガシティに向かおうか」
ヒカリ 「そこに3つ目のジム、ヨスガジムがあるからね」

コウキ 「うん、ヒカリちゃんに任せるよ」

ヒカリ 「まぁ、でもとりあえず今はポケモンセンターに行ってポケモンの回復を頼もうか?」

コウキ 「うん」

僕たちはハクタイジムにてナタネさんとの戦いを無事終えて、一旦ポケモンの回復のためポケモンセンターに寄るのだった。







第10話 『Queen』




『同日 某時刻 ハクタイシティ 病院』


カツン…カツン…。

ハクタイシティにある小さな総合病院。
リノリウムの床はカツンと音を立てて、歩行者を知らせた。

女 「…ここね」

私は、ハクタイの病院で目当ての部屋を見つけて足を止める。
体調を崩して入院している友人に会いに来たのだ。

女 「入るわよ」

私は扉を叩いてそう言うと、中から「どうぞ」という声が聞こえる。
私はなるべくゆっくりと扉を開けて中に入るのだった。
中に入ると、一人のまだ若干幼さを残す女性が普段の団服ではなくパジャマに身を包んでベットに腰掛けていた。

女 「無理せず、横になった方がいいわよ、マーズ」

マーズ 「わざわざあなたが見舞い? ジュピター?」

私はそれを聞いて微笑する。
まぁ、見舞いに来たのは事実ではある。
けど、目的はそれじゃない。

ジュピター 「聞いたわよ、あなた程のトレーナーがやられたそうじゃない?」

マーズ 「ええ…」

私は近くにあった丸椅子に腰掛けて、マーズを見る。
マーズはそこまで負けたことを意識した様子はない、俯きながらも微笑している。
これなら、そこまで今後の作戦に影響は出なさそうね。

ジュピター 「それにしても、あなたが負けたなんて信じられないわね」

マーズ 「強いもあるけど…怖かったわ…人間を相手にしている気分じゃなかった…」

ジュピター 「……」

報告は聞いている。
谷間の発電所での作戦、二人の少年と少女の手によって阻止されたと。
そのうちの一人の少年、これにこのギンガ団幹部の一人マーズは完封された。
命まで取られかけ、偶然にも助けられたおかげで無事こうしていられる。

ジュピター 「報告書で見たけど、この魔法使いと名乗った女性は何者なの?」

マーズ 「さぁ? わからないわ…ただ、あたしを助けてくれた、それだけ」

ジュピター 「私たちギンガ団を助けるなんて、よほどの狂気の沙汰か、それともただのお人好しか…」

マーズ 「あたしたちは間違っていることをしているとは思っていないわ」

マーズは真顔でそんなことを言う。
それを見て私は思わず噴出しそうになってしまった。

マーズ 「なにがおかしいの?」

ジュピター 「ふふ、いえ、世間体で考えれば私たちはどう考えても悪者なのにね」

マーズ 「あなたは自分を悪だと思ってギンガ団にいるの?」

ジュピター 「まさか、というより私はただアカギさんの側にいたいだけ、正義だとか悪だとかあまり興味ないわね」

マーズ 「…ジュピターらしいわ」

ジュピター 「ふふ、それであなたを襲った二人だけど、今この街にいるらしいわよ」

マーズ 「!? あの二人がっ!?」

マーズはそれを聞くと驚いた顔をして聞きなおした。
ふふ、やっぱり面白いわ、まだまだ子供だものねぇ…。

ジュピター 「ギンガ団員がハクタイジムに入っていくのを確認しているわ」
ジュピター 「名前は…報告によると男の子の方がコウキ、女の子の方がヒカリ…だったわね?」

マーズ 「そのヒカリちゃんはそんなに大したことはないわ、コウキ君にしても通常時ではあなたの敵じゃない」

ジュピター 「イマイチわからないことがあるんだけど、その通常時って?」

マーズ 「変わるのよ…突然別人のように人が…」

ジュピター 「あなたみたいに…?」

マーズ 「違うわ…あれはまるで二重人格…自分のポケモンや仲間のトレーナーさえも恐怖で怯えさせるほど…」

ジュピター 「…ようは化けの皮を剥ぐ前に倒せばいいんでしょ?」

マーズ 「……」

マーズは暗い顔をして俯いたまま喋らない。
あらあら、怯えさせてしまったかしらね。

ジュピター 「しっかりしなさいな、過去12歳にしてポケモンリーグを制覇した女の子がそんな弱気でどうするの?」

マーズ 「…肩書きなんて、必要ないわよ…」

ジュピター 「ふぅ…重症ね」

どうやら、相当怖かったみたいね。
このマーズ、6年前、天性の才能で天才と謳われ、ポケモンコンテストグランドフェスティバル準優勝、ポケモンリーグ制覇をこなした天才少女だった。
ただ、元々体が弱く、6年前に彼女に何かがあって、表舞台からマーズは姿を消した。
ちなみに、マーズって本名じゃないらしい。
本当の名前はなんていうのかしらね?

男 「大丈夫か! マーズ!?」

ジュピター 「あら?」

突然、またこの部屋に一人の男が入ってきた。

マーズ 「サターン…どうしてここに?」

入ってきたのはギンガ団幹部の一人サターンだった。
マーズ、ジュピター、サターン、これがギンガ団3幹部と呼ばれる存在。

サターン 「マーズが倒れたと聞いてトバリシティから飛んできた、大丈夫か?」

ジュピター 「ふふ、それじゃ私は作戦に戻るわ、お大事にねマーズ」

私はサターンが来たので、病院をでることにする。
18歳のマーズに19歳のサターン、お似合いねぇ。
おばさんはさっさと退散しますかね。



…………。



ヒカリ 「…むぅ」

コウキ 「…どうしたのヒカリちゃん?」

ポケモンセンターに寄る途中、僕たちはある見知った格好をした人物を見かけた。
それ以来、ヒカリちゃんはずっとふて腐れたような顔をしていた。

ヒカリ 「あれって…どう考えても、ギンガ団よね?」

コウキ 「…うん、そうだね」

僕はポケモンセンターの窓ガラス越しから外を見る。
外にはギンガ団の団員が結構見受けられた。
また、この街でも悪さをしているのだろうか?

ヒカリ 「おっし、いっちょ脅しかけてみるか!」

コウキ 「お、脅すって…穏便にいったほうが…」

ヒカリ 「何言っているの! 相手はあのギンガ団! 悪・即・斬よ!」

そう言ってヒカリちゃんは手をぶんぶんと振り回した。
弱ったなぁ…まぁ、でも放っておけないのも事実だし。

ヒカリ 「さぁ、ポケモンも万全なんだから、行くわよ!」

コウキ 「う、うん…」

僕は少し戸惑いながらもヒカリちゃんと一緒にポケモンセンターを出るのだった。

コウキ 「…ギンガ団、またあのマーズさんかな?」

ヒカリ 「さぁ? でも、そうだとしたらちょっとやばいわね…あたしたちもあれから強くなっているけどまだ勝てるかどうか…」

正直、まだ勝てないんだろうな…。
あの時、僕の記憶はない。
気がついたらギンガ団は撤退していた。
僕がどうにかしたみたいだけど…まったく、覚えていない。

ギンガ団員 「……」

ヒカリ 「…それにしても、ギンガ団ったらこの街で何やっているのかしら?」

コウキ 「さぁ?」

僕たちはそんなことを言いながらギンガ団の団員を尾行する。
よくよく思うけどあんな目立つ格好でよく町中を歩くなぁ…。

ギンガ団員 「……」

ギンガ団の団員はとあるビルの前に立つと周囲を見渡して足早にビルに入った。

コウキ 「あのビルは…?」

ヒカリ 「やけに特徴的なビルね…まさか、ギンガ団の秘密基地かしら?」

秘密という割にはどうどうと聳え立っているけど…。
しかも、変な装飾がいっぱい付いているせいで、かなり目立っている…。

女性 「あら? あなたたち…一体何をしているの?」

ヒカリ 「は?」

コウキ 「え? あなたは…?」

突然、目の前に長身の女性が現れる。
ブロンドのヘアーを腰まで伸ばして、前髪は左目が髪に覆われている。
服装は黒いドレスのような服で、大人のお姉さんと言った風貌だった。

ヒカリ 「あ、あはは…え〜と、街中のポケモンを調べていたり〜」

ヒカリちゃんはそう言ってポケモン図鑑を取り出して、ごまかそうとする。
しかし、その女性はそれを見ると。

女性 「あらポケモン図鑑? もしかしてナナカマド研究所の人かしら?」

ヒカリ 「あれ? 知っているんですか?」

女性 「ええまぁね、あなたたち名前は?」

コウキ 「僕はコウキです」

ヒカリ 「あたしはヒカリです」

女性 「そう、コウキ君とヒカリちゃんね、覚えておくわね」
女性 「あたしはシロナ、ポケモンの神話を調べている物好きなトレーナーよ」

女性はそう言って自己紹介をした。
トレーナーだったんだ。

ヒカリ (シロナ? はて…どこかで…?)

シロナ 「このハクタイは大昔のポケモンを象ったポケモンの像があるの」
シロナ 「なんでもすごい力を秘めたポケモンだったって残されてる」
シロナ 「君もポケモンを探していればそんなポケモンに出遭えるかもね…」

シロナさんはそう言って僕を見た。
神話のポケモンか…。

ヒカリ 「ディアルガとパルキアね…」

シロナ 「ご名答、さすがナナカマド研究所出身の人ね、そうだ! これを使ったらどう?」

シロナさんはそう言って突然、ある『しーでぃー』を僕たちに渡してきた。

ヒカリ 「これって秘伝マシン…」

シロナ 「秘伝マシン01『いあいぎり』よ」
シロナ 「『いあいぎり』を使うとこれまで行けなかった場所にも行けるわ」
シロナ 「それってポケモン図鑑に大事なことでしょ?」
シロナ 「じゃあ、頑張ってね、トレーナーさん」

シロナという女性はそう言うと僕たちの横を通ってポケモンセンターの方に行った。

ヒカリ 「ええっと…まぁ、気を取り直してビルに行こうか?」

コウキ 「あ、うん…」

僕たちはなんだか釈然としないが、とりあえずこの目の前の派手なビルに侵入するのだった。



ヒカリ 「…うざ」

コウキ 「…あはは」

とりあえず僕は苦笑いを浮かべる。
中に入ると、ギンガ団の団員がいっぱいいた。
逆を言うと、ギンガ団の団員以外は見あたらない…。
まさにギンガ団ビル…。

ギンガ団員A 「ん? なんだ、なんで子供がここに?」

ギンガ団員B 「正面から入ってきたのか?」

当然ながら、みんな僕たちに気づく。
僕たち真正面から白昼堂々と入っているもんな…。

ギンガ団員C 「おい、そこのお子ちゃまたち! ここがどこだかわかっているのか!?」
ギンガ団員C 「あの自転車屋のおっさんのように痛い目に会いたくなかったら帰ったほうが見のためだぜ!?」

ヒカリ 「ぴく…自転車屋のおっさんのように…?」

突然、ヒカリちゃんの目の色が変わる。
今、ギンガ団員は禁句ワードを言ってしまったようだ。
なんとなく次の展開が読める。

ヒカリ 「出てきなさい! ルクシオ!」

ルクシオ 「ルックー!」

ギンガ団員A 「うおっ! 結構強そうなポケモンだぞ!?」

ヒカリ 「あなたたち、一体何をしたの!? 事の次第によってはただじゃ済まさないわよ!?」

そう言ってヒカリちゃんはギンガ団員を威圧する。

ギンガ団員B 「ふん! 上等だ! いけズバット!」

ギンガ団員D 「いきなさい、ケムッソ!」

ズバット 「ズバー!」

ケムッソ 「ケムケム…」

ギンガ団員たちはポケモンを出してくる。
やっぱり避けられないよね…。
とりあえず多数に無勢なので僕もボールを取り出す。

コウキ 「でてきて、ブイさん!」

ブイゼル 「ブイブイ」

僕はブイさんを外に出す。
見たところしたっぱのポケモンはあまり強そうではないけど…。

ヒカリ 「ルクシオ、ズバットに『スパーク』!」

コウキ 「ブイさん、じゃあケムッソに『アクアジェット』!」

ルクシオ 「ルクー!」
ブイゼル 「ブーイ!」

バチィン! バシャァッ!

ズバット 「ズバー!?」
ケムッソ 「ムッソー!?」

ズシャァッ!

とりあえず、先制攻撃で相手を倒す。
本当に弱いな…。

ギンガ団員B 「しまった! あっさりやられた!」

ギンガ団員D 「うう…お子ちゃまのくせに〜!」

ヒカリ 「さぁ、まだやるの!? 言っておくけど、やるなら容赦しないわよ!?」

ヒカリちゃんはそう言って周囲を睨みつける。
なにか思う節があるのか、今日のヒカリちゃんは随分といきり立っていた。

コウキ (…もしかして、以前マーズさんに何もできずに負けたのを気負っているのかな?)

だとしたら危険だ…。
ヒカリちゃんほどのトレーナーが自分をコントロールできないとは思えないけど、やっぱりギンガ団に因縁を感じているのかもしれない。
ここは僕が支えないと!

ギンガ団員A 「くそ! こいつかなりの強さだ!」

ギンガ団員B 「援軍を呼んでくる!」

ギンガ団員C 「なめやがってー!」

いきなりの戦闘に場が急に騒ぎ出した。
何名かは上に上って援軍を呼んだみたい。
一人一人は強くなくても…これは厄介になりそうだ。

ヒカリ 「いくよ…コウキ君」

コウキ 「うん…!」



…………。



ジュピター 「…随分、騒がしいわね」
ジュピター 「一体何が起きているのかしら…あなたはどう思います? ふふ…」

私はそう言って真正面で私を睨んでいるおじさんを見る。

おじさん 「貴様ら、一般人からポケモンを奪って何をする気だ…!」

ジュピター 「ふふふ、そんなこと知ってどうするのかしら? 自転車屋さんのおじさん?」

ミミロル 「ミミ…」

ピッピ 「ピィ…」

私の後ろでは随分と可愛らしいポケモンたちが怯えていた。

おじさん 「ふざけるな! こんなことが許されると思っているのか!」

ジュピター 「それがまかり通るのがこの世界よ」
ジュピター 「一体あなたに何が出来るのかしら?」

私はそう言いながらモンスターボールをひとつ構えて微笑みかける。
それを見るとおじさんは…。

おじさん 「く…! ワシがあと20若ければ…!」

ジュピター 「ふふ、それでもあなたには何も出来ないでしょうけどね」
ジュピター 「あなたじゃ、一生分使っても私には勝てないでしょうね」

おじさん 「…!」

ジュピター 「ふふ、睨んでもダメよ、おじさんもポケモンを取られたくなければ大人しくしているのね」
ジュピター 「ただし、その階段を降りちゃだめよ?」

私はそう言ってボールを再びラックに戻して階段を指差す。
さすがにのこのこやってきた人を素直に帰すわけないわね。
まぁ、ポケモンを取られないだけ温情を感じてもらいたいわね。

ジュピター (…それにしても、一体誰かしら下で暴れているのは…)
ジュピター (ふふふ…もしかしたら例の二人かしら?)

そうだとしたら少し楽しみだ。
色々原因は重なったにしろマーズを倒したほどの実力…見せてもらいたいわね。



…………。



ブイゼル 「ブイ…ブイ…!」

ハヤシガメ 「ガ…ガメー!」

コウキ 「く…」

ヒカリ 「くぅ…さすがに多いわね!」

既にギンガ団ビル2階、敵は集まっており、各個撃破しているものの押され気味だった。

ヒカリ 「みんな、頑張るのよ!」

ポッタイシ 「ポッター!」
ルクシオ 「ルク!」
フワンテ 「フ、フワワ〜!」

ミツハニー 「ミ、ミツ…」

ヒカリ 「!? ミツハニーどうしたの!?」

なんだか、ヒカリちゃんのミツハニーの様子がおかしかった。

ヒカリ 「どうしたのよ、ミツハニー!? ダメージは受けていないはずなのに!?」

コウキ 「ミツハニーの体調が悪いのかもしれない! 一旦戻した方がいいよ!」

ヒカリ 「く…戻ってミツハニー!」

ヒカリちゃんはミツハニーを戻す。
一体ミツハニーになにが…?

ギンガ団員 「ニャルマー、『ひっかく』だ!」

ヒカリ 「あ!?」

突然、後ろからギンガ団が命令を出してきた。
まずい、不意打ちだ!

コウキ 「ブイさん! 『ソニックブーム』!」

ブイゼル 「ブイー!」

ズバァン!

ニャルマー 「ニャー!?」

僕はブイさんに命令して、ヒカリちゃんをサポートする。
ニャルマーは『ソニックブーム』を受けて、壁際に吹き飛んだ。

ヒカリ 「サンキューコウキ君! ポッタイシ『バブルこうせん』!」

ポッタイシ 「ポッター!!」

ビビビビビ!

ニャルマー 「ニャニャー!?」

ポッタイシはニャルマーに『バブルこうせん』を放ち、追い討ちをかける。
それを受けてギンガ団のニャルマーは倒れた。

ギンガ団員 「ああ!? ニャルマー!?」

コウキ 「さすがに数が多い…ヒカリちゃん! ここは僕が引き受けるから上に行って!」

ヒカリ 「な! そんなこと出来ないわよ! 数が数なのよ!?」

コウキ 「でも、これじゃこっちがジリ貧だよ!」

僕は強くそう言ってヒカリちゃんを上に促す。

コウキ 「3階までは一緒に行こう! だけど…4階はお願い!」

ヒカリ 「くぅ…わかったわ! 頼むわよ!」
ヒカリ 「戻ってみんな!」

ヒカリちゃんはしぶしぶポケモンたちを戻す。
僕たちはギンガ団の攻撃が和らいでいる今の隙に3階へと上がるのだった。

ギンガ団員 「きたぞー! みんな一斉に…!」

コウキ 「いけ! ヤミカラス!」

ヤミカラス 「カー!」

ツンツンツンツン!

ギンガ団員 「う、うわなんだこいつ!?」

僕は今までボールに仕舞っていたヤミカラスを解放する。
ヤミカラスはこれ見よがしにギンガ団員たちの頭を突付きまくる。
だが、これは好機である。

コウキ 「ヒカリちゃん! 今のうちに!」

ヒカリ 「…うん! たのむわよ!」

僕はヒカリちゃんを上に一気に送ると階段の前でギンガ団をせき止める。
数は多い…でも、上に上げるわけにはいかないよ!



…………。



ヒカリ 「4階! どこまで上ればいいわけ!?」

ジュピター 「あら? ふふ、ガールの方だけ来たの?」

おじさん 「! 君は…!?」

ヒカリ 「…!」

4階に上がるとそこは行き止まりだった。
だけど、一人明らかに異様は雰囲気を持った女性がいた。
全身タイツで、身長の高い、大人の女性。
赤い口紅をしており、赤紫の髪は結ってあった。
ピッチリした全身タイツだからわかるけど…胸がすごい…ちょっと羨ましいかも…Dカップはあるわね…。
でも、ここでスタイルは関係なし!
後ろには怯えた目をしたポケモンたちがいた。
銀色の服だし…間違いなくギンガ団!

ジュピター 「お嬢さん、たしかヒカリ…だっけ?」

ヒカリ 「!? あたしを知っているの!?」

ジュピター 「ふふ、谷間の発電所ではウチのマーズがお世話になったみたいだし?」
ジュピター 「ああ、名乗り忘れていたわね…私はジュピター、ギンガ団幹部の一人よ」
ジュピター 「実力的には…まぁ、マーズより弱いかな?」

ヒカリ (怪しすぎる…)

この女性なんだか軽い…。
随分、なれなれしく喋ってくるし随分謙遜だ。
だけど…この怪しい雰囲気はとてもマーズさんより格下とは思えない…。
むしろ格上の雰囲気だ…。

ヒカリ (く…マーズさんとやったときは全く歯が立たなかった…)
ヒカリ (あの時より強くなっている自信はあるけど…それでも追いついたとは思えない…)
ヒカリ (この人はマーズさんより強そうな雰囲気を持っているのにこのあたしが勝てるの…?)

ジュピター 「ふふ、どうしたの? そんな強張って…可愛い顔が台無しよ?」

ヒカリ 「! くぅ…ギンガ団! あなたたち一体何が目的なの!?」

あたしはせめて精一杯の勇気を振り絞ってそう聞く。
それを見るとジュピターさんはなにが面白いのかくすくす笑い始めた。

ジュピター 「さぁ? 何でしょうねぇ? うふふ」

おじさん 「そいつらは罪のない一般人からむりやりポケモンを奪っているんだ!」

ヒカリ 「!? ポケモンを強奪!? な、なんでそんなことを!?」

ジュピター 「それを考えるのはあなたの役目よ」

ジュピターさんは何が面白いのか、微笑を浮かべながらそんなことを言う。
ちょいっとムッとくるけど、感情を押し殺しジュピターさんを睨んだ。
怪しく…そして妖しい女性…気だけは…気だけは飲まれるなあたし!

ヒカリ 「く…今すぐに返しなさい! さもないと…!」

ジュピター 「さもないと…容赦はしない…そう言いたいの?」

ジュピターさんの顔が少し真剣になる。
瞬時にプレッシャーを感じたあたしは半歩下がり、筋肉が硬直していたがすぐに体勢を立て直す。
簡単に恐怖を感じるんじゃないわよ…あたし…まだ、戦っても無いんだから…!
あたしは心の中で自分に渇を入れる。

ジュピター 「ふふ、いいわ本当はボーイの方と戦いたかったけど、退屈だったし相手をしてあげるわ」
ジュピター 「でなさい、スカタンク」

スカタンク 「スッカー!」

ヒカリ 「!? スカタンク!?」

『スカタンク スカンクポケモン』
『高さ 1,0m 重さ 38,0kg』
『尻尾から臭い汁を飛ばす』
『お腹で熟成させる時間が長いほど臭いは酷くなる』

あたしは図鑑でスカタンクの説明を見て、ギョッとする。
こ、これは女の子としてはあまりにお勧めできないポケモンね…。

ジュピター 「さぁ、あなたは一体なにを出すのかしら?」

ヒカリ 「スカタンク…たしか、弱点は地面のみだったはず…ここは強気に!」
ヒカリ 「でてきて、ルクシオ!」

ルクシオ 「ルックー!」

あたしはルクシオを出してジュピターさんのスカタンクと構える。
はっきり言って相当強いんでしょうね…でも、あたしは負けないわ!

ジュピター 「ふふ、いいわねそのルクシオよく育てられているわ…まだまだ強くなりそうね」

ヒカリ 「…それはどうも」

ジュピター 「さて、お手並み拝見といきましょうか? そちらからどうぞ」

ジュピターさんは超余裕だ。
はっきり言ってなめられているんでしょうね…。
だったら…その余裕を消してやるわ!!

ヒカリ 「お言葉に甘えて! ルクシオ、『スパーク』!」

ルクシオ 「ルックー!!」

あたしはルクシオに『スパーク』を命令する。
ルクシオは電撃を帯びるとそのまま猛スピードでスカタンクに突撃する。

ジュピター 「いいわね、動きもいい、当たればかなりの高威力を見込めるでしょうね」

当たれば…か。
そう言うからには当たらないということかしら?

ルクシオ 「ルックー!!」

ヒカリ (当たれば大ダメージ! 一体どうするのジュピターさん!)

ルクシオはスカタンクに一直線に向かっている。
スカタンクは動く様子はない。

ジュピター 「……」

ヒカリ 「!? め、命令は…!?」

ジュピターさんは笑みを浮かべたまま命令をする様子が全くない。
既にもう命令しても行動は間に合わない…まさか、自分で大ダメージをと言っておいて受けるつもり!?

ルクシオ 「ルックー!」

ドカァ!!

スカタンク 「!!?」

ルクシオはそのまま頭からスカタンクにぶつかり、スカタンクは後ろにのけぞる。

ジュピター 「スカタンク、『きりさく』」

スカタンク 「! スッカー!」

ザシュウ!

ルクシオ 「ルクー!?」

ヒカリ 「!? ルクシオ!?」

スカタンクは攻撃を受けきった後そのままルクシオを『きりさく』攻撃をだす。
ルクシオは体が前にのけぞった所に完璧にカウンターで受けてしまった。

ジュピター 「スカタンク、そのまま『ヘドロばくだん』」

スカタンク 「ターン!」

バシャァン!! ドカァン!!

ルクシオ 「ルクー!!?」

ヒカリ 「しまった!? ルクシオー!?」

ルクシオはそのままスカタンクの素早い連続攻撃を受けてダウンしてしまう。
そんな…こんなに簡単にやられてしまうなんて…。

ヒカリ 「く…もどってルクシオ」

あたしはやむなくルクシオをボールに戻す。
ジュピターさんはさっきからずっと笑みを浮かべっぱなし。
超余裕ね…。

ジュピター 「次のポケモンは? まさかあれで最後ってことはないでしょう?」

ヒカリ 「余裕ですね…でてきてポッタイシ!」

ポッタイシ 「ポッター!」

あたしは、ポッタイシを2番手にだす。
この子まで負けたら…絶望でしょうね…。

ヒカリ 「ポッタイシ、バブル…!」

ジュピター 「それだけ?」

ヒカリ 「…!? ど、どういうことですか!?」

ジュピターさんはつまらなさそうにあたしを見た。
あたしは思わず命令を途中で途切らせてしまう。

ジュピター 「これは公式戦じゃないのよ? あなた一対一で勝てると思っているの?」
ジュピター 「ほら、三体目もだしてみなさいな」

余裕すぎ…いくらなんでもなめすぎだわ。
でも、そこまで言うのなら見せてもらおうじゃない!

ヒカリ 「負けても言い訳聞きませんから! 出てきてフワンテ!」

フワンテ 「フワ〜」

ジュピター 「まぁ、可愛いわね、まだ子供みたいだけど」

ヒカリ 「甘く見ないでくださいよ! フワンテ『10まんボルト』! ポッタイシは『バブルこうせん』!」

フワンテ 「フワー!」
ポッタイシ 「ポッター!」

アタシは2匹に同時に命令を与える。

ジュピター 「いい攻撃ね、あまり受けすぎるとこちらも問題よね、スカタンク『えんまく』」

スカタンク 「スッカー!」

ヒカリ 「!? お、オナラ!?」

スカタンクは突然後ろを向くと肛門から『えんまく』を放ってくる。
あそこから放たれると…技とわかっていても嫌なものよね…。

ジュピター 「さぁ、さっさと終わらせるわよ、スカタンク、フワンテに『つじぎり』」

スカタンク 「スカタンッ!」

ヒカリ 「! フワンテ!」

スカタンクは『えんまく』で一瞬視界から消えた後、すぐにこちらの攻撃をすり抜けてフワンテに詰め寄る。
まずい、このままじゃフワンテが!

ヒカリ 「ポッタイシ! スカタンクを止めて!」

ポッタイシ 「ポ、ポッター!」

ポッタイシはやや反応が遅れて、フワンテの壁になる。

ジュピター 「ふふ、そう上手くいくかしら?」

スカタンク 「スカッ!」

ポッタイシ 「ポタッ!?」

スカタンクはポッタイシの眼前に来ると、そのままジャンプしてポッタイシを踏み台にしてフワンテに襲い掛かる。

スカタンク 「スカー!」

フワンテ 「フワ!? フワー!?」

ザシュウッ!

ヒカリ 「フワンテ!?」

一閃だった。
フワンテとの距離がなくなった刹那、フワンテはスカタンクに切り倒されて、地面に横たわる。

ジュピター 「ほら、後一匹よ、心配している暇あるの?」

ヒカリ 「くっ! ポッタイシ『バブルこうせん』!」

ポッタイシ 「ポッター!」

ジュピター 「その技はさっき見たわよ、まして遠距離攻撃をこのクロスレンジで使うなんてね、スカタンク、『きりさく』攻撃」

スカタンク 「スカッ!」

スカタンクは鮮やかにポッタイシを中心点に円を回って真後ろに回る。
まずい…どうにもならない!

スカタンク 「スカターン!」

ポッタイシ 「ポ、ポッター!?」

ザシュウッ!

ポッタイシの攻撃は当たらず、スカタンクの攻撃が鮮やかにヒットする。
急所にも当たった…まるで…なにもできない…。

ヒカリ 「も、戻って…ポッタイシ…フワンテ…」

あたしは2匹をボールに戻す。
本気で戦われると…ここまで実力差があるなんて…。

ジュピター 「ふふ、暗い顔しちゃって、まるでレベルが違う…そう思ったのね?」
ジュピター 「でも、それは少し違うわよ」

ヒカリ 「…え?」

ジュピター 「私のポケモンはあなたのポケモンとそんなにレベル差はないわ」
ジュピター 「ただ、私とあなたではポケモンの実力の引き出し方がまるで違うだけ」
ジュピター 「実のところ最初の『スパーク』が結構効いていてね、あとそう何発も耐えられないのよね」

ヒカリ 「……」

それはもう耐えられない…けど、当たらないということ?
ポケモン自体の実力は同等…だけどトレーナーの実力が違いすぎる…?
トレーナーの力がここまで圧倒的な戦闘に変えるの?

ジュピター 「さて、まだあなたはポケモンを残しているのかしら?」
ジュピター 「もしいないのなら…ゲームオーバーよ」

ジュピターさんはやはり余裕だ。
あたしは…絶望的か。

ヒカリ (あと残っているのはもうミツハニーだけ…でも、ただでさえ調子の悪そうなミツハニーにこんな強いスカタンクを相手に出来るのだろうか?)

しないといけないのはわかっている…でも、あたしには勝てる自信がない。

ジュピター 「諦めちゃだめよ? 諦めない限り…人は何度でも戦え…そして無限の可能性を出すものよ?」

ヒカリ 「無限の可能性…」

……疑問だ。
どうして、ジュピターさんはあたしを応援するのか?
敵に塩を送るなんて余裕にも程がある…。
でも、少し開き直れた気がする。
そうね…下ではコウキ君が必死に敵をせき止めているはず。
ここで、あたしが弱音を吐いて良いわけない!
それに弱音を吐くなんてあたしらしくないわよね!

ヒカリ 「もうあなたしかいないわ! お願いミツハニー!」

ミツハニー 「ハニィ…」

あたしは全てをミツハニーに託してボールから出す。
だが、やはりミツハニーはなぜか元気がない。
一体どうしてなの…?

ジュピター 「? あまり元気がないみたいね…これはまさか…?」

ヒカリ 「?」

ジュピターさんは少し笑みが割れた。
なに…ミツハニーを警戒しているの?

ジュピター 「試してみますか…スカタンク、『みだれひっかき』!」

スカタンク 「スカッ!」

ヒカリ 「ミツハニー! 上昇して攻撃を凌ぐのよ!」

ミツハニー 「……」

ヒカリ 「!? どうしたのよミツハニー!?」

しかし、ミツハニーはその場から動こうとしない。
いや、それどころか体を小刻みに震わしている…。

ミツハニー 「ミ、ミツハーニー!! ビィィィーッ!!」

ジュピター 「! やっぱり…」

ヒカリ 「え!? こ、これって…!?」

ミツハニーは突然激しく輝き始める。
これって…進化!?

ミツハニーの進化形 「ビー!」

『ビークイン 蜂の巣ポケモン』
『高さ 1,2m 重さ 38,5kg』
『ピンチになると6つの巣穴から子供が飛び出し反撃する』
『群れにビークインは一匹だけ』

ヒカリ 「ビー…クイン…?」

ビークイン 「ビー…」

ミツハニーはビークインに進化した。
ビークインはその場に浮遊し、少し高い位置からあたしを優しい瞳で見下ろしていた。
これが…ビークイン…初めて見た。

ジュピター 「やっぱりね、まさかここで進化するとはね」

ビークイン 「ビィィ…!」

スカタンク 「ス…スカ…」

ビークインは振り返り、相手を睨みつける。
それだけ、スカタンクはビビッて後ずさっていた。

ジュピター 「ビークインの特性『プレッシャー』、私のスカタンクでさえ、たじろく程なのね」

プレッシャー…たしか、アブソルやヨノワールなんかも持っている特性ね…。
そうか、ビークインの特性は『プレッシャー』…。

ジュピター 「スカタンク、『えんまく』!」

スカタンク 「ス、スカッ!」

スカタンクは戸惑いながらも後ろを振り向いて肛門を向ける。
その技なら…!

ヒカリ 「ビークイン、『かぜおこし』!」

ビークイン 「ビー!」

ブォォォッ!

スカタンク 「スカッ!?」

ジュピター 「くっ!?」

ジュピターさんから笑みが消えた。
ビークインは力強い羽ばたきで、煙をジュピターさんの方に押し返す。

ヒカリ 「今よビークイン! 『パワージェム』!」

ビークイン 「ビー! クィーン!」

ビークインは両手に力を集め、宝石のような光を放つバレーボール大の球体をつくり、上投げでスカタンクに投げつける。

ドカァン!!

スカタンク 「スカターン!!?」

スカタンクはビークインの攻撃が直撃し、吹っ飛ぶ。

スカタンク 「スカカ〜…」

ジュピター 「…戻りなさい、スカタンク」
ジュピター 「やられちゃったわね…さすがに4匹は相手に出来ないわね」

ヒカリ 「たとえ、何が出てきてもあたしは負けない!」

ジュピター 「ふふ、いいわねさっきと違ってとっても強気、とても不安定な精神だけど、若さの特権ね」
ジュピター 「まだ手持ちは残っている……だけど…いいわ、ここは退いてあげる、あなたの頑張りに免じてね」

ジュピターさんはそう言ってポケモンをボールに戻した。
やった…なんとか勝てた…。

ジュピター 「まぁ、いいわ…ポケモンの調査は大体終わったし、エネルギーもマーズが大体集めてくれたし」

ヒカリ 「エネルギー? まさか、あの発電所の!?」

ジュピター 「ふふ、ギンガ団のボス、アカギさんはわね、神話のポケモンを探しているの、そしてその力を使ってこの世界を支配しようとしている」
ジュピター 「その力はあなたたち子供にどうこうできる物じゃないわ、これ以降は下手に首を突っ込まないことよ」

ヒカリ 「そう聞いて、黙っていると思いますか?」

ジュピター 「ふふ、そうね…それじゃ失礼」

ジュピターさんはそう言って優雅に階段を下りてしまう。
なんだか…その場で捕まえられなかった…て、やったとしても返り討ちくらいそうだけど…。

ピッピ 「ピ、ピッピ〜!」

おじさん 「おお、ピッピ! ありがとう君のおかげでピッピを取り戻すことが出来た!」

ヒカリ 「どういたしまして」

さっきまで囚われて怯えていたピッピはジュピターさんが消えると一目散にこのおじさんの下に駆け寄った。

おじさん 「それにしてもあいつら…ピッピは月からきたポケモンだからよこせって訳のわからんこと言っていたな」
おじさん 「まったく意味がわからなさすぎる、まるで宇宙人だな」

ヒカリ 「あ、あはは…たしかに」

見た目的にも宇宙人みたいだしね。
ある意味あれもステキファッション?

ヒカリ 「ところで、おじさんは誰?」

おじさん 「おお、ワシはこの街で自転車屋を経営しているしがない親父だよ!」
おじさん 「後でお礼がしたい! 良かったらウチの店に来てくれ! それじゃ!」

おじさんはそう言うとポケモンたちを連れて階段を下りる。

ヒカリ 「…はぁ、疲れた〜」

あたしはやっと解放されてその場に倒れこむ。
よく勝てたものね…本当に。

ビークイン 「ビー…」

ヒカリ 「ビークイン…あなた随分いかついポケモンになっちゃったわねぇ…まぁいいわ、これからもよろしくねビークイン♪」

ビークイン 「ビー♪」

その後あたしたちはコウキ君と一緒にビルを出て、自転車屋に向かうのだった。





ポケットモンスターパール編 第10話 「Queen」 完







おまけ

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