ポケットモンスター パール編




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おまけ





『好きだった…』

『だけど、残酷だった…』

『やがて、彼女は彼を嫌いになった…』

『大きな溝が生まれ、それはとりかえしのつかないことへと発展した…』



−とあるコーディネーター−





ヒカリ 「いやぁ〜、昨晩はお世話になりました〜」
ヒカリ 「でも、おかげであたしのポケモンたちもいい休養になったと思います」

レン 「いいのいいの♪ コウキ君の友達なら僕の友達だよ♪ またきてね♪」

ヒカリ 「はい、それじゃ!」

コウキ 「ありがとうございました」

レン 「ジム戦もコンテストも頑張ってね〜、でも、ゆとりは忘れちゃいけないよ〜?」

コウキ 「はいっ!」
ヒカリ 「はい!」







第21話 『ヨスガ大会再び! 渦巻く因縁!』




『某日 時刻18:24 ヨスガシティ』


ヒカリ 「おっし! なんとか、間に合った〜!」

コウキ 「ふぅ…疲れた〜…」

ヒカリ 「あははっ♪ 急いでいたからね、けどおかげでコンテストの前日にヨスガシティに着けたわ」

コウキ 「今日はポケモンセンターでゆっくり休もうよ」

ヒカリ 「あたし、ちょっとコンテスト会場へ行ってくるわ」

コウキ 「え? でももう閉まっているんじゃ?」

ヒカリ 「や、明日のコンテストのルールとか確認しようってね」

コウキ 「でもそれだったら、ポケモンセンターでも出来るんじゃない?」

ヒカリ 「気分的なものよ…コウキ君は先にポケモンセンターに行ってて!」

コウキ 「うん…いいけど、もう暗いし気をつけてね?」

ヒカリ 「あはは♪ コウキ君の方が気をつけなよ! あたしは大丈夫よ!」

コウキ君はその気はないだろうけど、あたしが夜に一人歩きするのを心配してくれている。
まぁ、コウキ君なりの心配ってところか。
気にかけてもらえるだけありがたいかな?

ヒカリ 「はぁ…これでこの街来たのは3回目か…」

あたしはコウキ君をさっさとポケモンセンターへと送り、あたしは街灯と街路樹の下を通って、コンテスト会場へと向かう。



ヒカリ 「…3度目の正直…かぁ」

さすがにきついわよねぇ…ここではなんせ2連敗。
明日負けたらヨスガでの戦績3連敗よ?

ヒカリ 「っと、いかんいかん、感慨深くなるのは30過ぎてから!」
ヒカリ 「あたしはまだ若い! 負けてなんぼよ!」

と言って本当に負けたら洒落にならないんだけど…。
いくらなんでも負ける気でコンテストに出るわけは無い。

ヒカリ 「えっと、コンテストの予定は…」

あたしは会場の前のボードに張られている張り紙に目を向ける。
街灯にひっそりと照らされて、少し確認しにくいがあたしはそれに目を通す。

ヒカリ (ヨスガコンテスト…ランク、ハイパーランク)
ヒカリ (リボン授与者は1幕から5幕までに行われる5つのトーナメントでの優勝者5名)
ヒカリ (続いて広報…)

リン 「うふふ…どう、調子は?」

ヒカリ 「! リン…、おかげさまでほら! リボン2め!」

アタシはリボンケースを取り出して、リンに見せ付ける。

リン 「ふぅん、これであたしと並んだわけか」

ヒカリ 「え? リンもまだ2つ?」

リン 「焦る必要なんてないからね」

ヒカリ 「そっか、やっぱりグランドフェスティバル経験者は余裕だなぁ〜」

リン 「あらぁ? それは嫌味かしら?」

ヒカリ 「違う違う! いやリンを見てるとあたしって頑張りすぎてるな〜って…」

リン 「あなたにはあなたのペースがあるんでしょ、気にすることは無いわ…けど」

ヒカリ 「ゆとりは忘れない方がいい…てか?」

リン 「…ふぅん、あなたもカンナギのヒーラーに会ったわけか」

ヒカリ 「あなたもって…え、リンも?」

リン 「うふふ、ポケモンセンターへ行きましょう?」

ヒカリ 「あ…うん」

あたしはリンに連れられてポケモンセンターへと向かうのだった。



………。



リン 「ポケモンをよろしくお願いしますね♪」

ポケモンナース 「はい、明日のポケモンコンテスト頑張ってくださいね♪」

ヒカリ 「あたしもお願いします!」

ポケモンナース 「はい、お預かりします!」

ザワザワ、ザワザワ…!

ヒカリ 「…う〜ん、なんなのよ…この空気」

夜のポケモンセンターには多くのトレーナーがいる。
だけどなんだか、今日は人が多い上、ギスギスした空気さえ感じさせる。

リン 「明日はコンテストがあるからね…余裕が無いのよ、みんなね」

それを聞いてあたしは『ああ…』と呟く。
ポケモンコンテストの期間はすでに半クールを過ぎている。
明日の大会は5幕あるとはいえ、物凄い倍率の大会になるわね…・

ヒカリ 「あたしってまだ余裕ある方だったのかなぁ…」

リン 「いい人に出会えたわよあなたは、出会えなかったらきっとあなたも彼らと同じ」

ヒカリ 「あ、そうそう。あなたもレンさんに会ったのよね?」

あたしはコンテスト会場前での会話を思い出す。

ヒカリ 「ねぇ、少しあなたの話も聞かせてよ」

リン 「いいわよ」

ザワザワ…ザワザワ…!

ヒカリ 「…?」

なんだかやっぱり変。
明日のコンテストに余念が無いんじゃなくてもっと別の…。

女 「なによあの女…リン様になれなれしくして…」

ヒカリ 「あ…」

そうか、そういうことか…。
そういえば、リンってばファンクラブさえある超人気コーディネーター。
コンテストファンにとってはアイドルのようなものだ。
それが今年コーディネーターとなった新人が馴れ馴れしくしているのだ…。
まずいわねぇ…明日殺されるかも…。

リン 「こっちよ」

ヒカリ 「あ…うん」

あたしはリンに先導され、場所を移動する。
そういえば、コウキ君はどこにいるんだろう?





『同日 某時刻 ポケモンセンター 裏庭』


リン 「ここなら誰もいないわね」

ヒカリ 「裏庭かぁ、ちょっと寒いけど悪くないか」

リン 「うふふ…私はヨスガで生まれヨスガで育ち、ヨスガから旅立ったコーディネーター」
リン 「…といってもコーディネーターになったのは14歳の時なんだけどね」

ヒカリ 「そういえば、リンって何歳なの?」

リン 「私? 私は16歳、あなたは?」

ヒカリ 「あ、あたしもよ。そうか、おないか」

それは知らなんだ、リンってばあたしと同じ歳だったのね。
じゃあ、トレーナーになったのも?

ヒカリ 「あたし5歳の頃からポケモンと触れ合ってきた、それからずっとレコーダー、ナナカマド研究所でポケモンの生態記録者をしてた」
ヒカリ 「10歳からはトレーナーになってずっと研究所で飼われていたポッチャマとずっと一緒だったな〜」

リン 「うふふ、そうなんだ」
リン 「あたしはその頃はふれあい広場でポケモンたちと毎日の様に遊んでたわ」
リン 「10歳の時トレーナーの資格所得した時はまだコンテストなんて考えてなかった」
リン 「ずっとポケモンリーグを目指してた」

ヒカリ 「出場したことあるの?」

リン 「2回ね、けど本戦出場はしたことないわ」

ヒカリ 「そうなんだ」
ヒカリ 「…でも、どうしてコーディネーターになったの?」

リン 「…向いてないと思ったからかなぁ…」

ヒカリ 「向いてない?」

リン 「それより、あなたはどうなの?」

ヒカリ 「あたしは単にタマゴ欲しさに大会でて、リンに馬鹿にされてムッと来たから」

思えば、それはこのヨスガでの出来事だったわね。
それもすごく最近のこと。

リン 「うふふ、それだけじゃないでしょ?」
リン 「あなたはどう考えてもポケモンリーグ向き、にもかかわらずコンテストに身を投じた」
リン 「あなたはあなたよりコンテスト経験豊富なコーディネーターたちを打ち破ってリボン2つ、対抗心…てだけじゃないんじゃない?」

ヒカリ 「あはは…かなわないなぁ…そうね、すっごく楽しい!」
ヒカリ 「ポケモンバトルとは違う、魅せるバトル! すっごく新鮮で…そして楽しい!」
ヒカリ 「きっと、この楽しさが忘れられないからコーディネーターやってるのね…」

リン 「うふふ…辛い事もあったでしょうに」

ヒカリ 「うん、負けるのは怖い、このヨスガに来てずっとそのジレンマがあたしを襲っている…」

正直、あたしは常勝の女神というわけじゃない。
負けたことだって一杯ある。
何回負けたって慣れない…慣れはしない。

ヒカリ 「…だけど、今は安心かなぁ?」

リン 「? どうして?」

ヒカリ 「あたしよりよっぽど、あたしの心配してくれる人がいるから…」
ヒカリ 「すっごく自分に対して自信が無くて、いっつも弱気で、そしていっつも不安がってる…」

リン 「もしかして恋人?」

ヒカリ 「あはは、違うって! でも、そんなの見ているとね…自分がちっぽけに思えるわけさ」
ヒカリ 「まぁ、あたしはあたしなりに頑張りますか…てね!」

リン 「うふふ、大物ね」

ヒカリ 「そんなことないって、それよりカンナギのあのレンさんって?」

リン 「あたしにとっては運命の転機を与えてくれた人…」

ヒカリ 「え? てことはもしかして…レンさんと恋仲だったり?」

リン 「違うわよ、そうじゃなくて…」

リンは何故かそこで口ごもってしまう。

ヒカリ 「もしかして…愛のキューピットってやつ?」

リン 「昔の…ね」

ヒカリ (む…昔のって…)

いわゆる元カレのってこと…?
なるほどねぇ…でも、これは触れてはいけない事項だったか…?

リン 「はぁ…戻りましょうか、ここは寒いわ」

リンはそう言って寒そうな素振りをして、中へ入るのだった。

ヒカリ 「…地雷だったかなぁ?」

あたしはそう呟いて、リンを追うように中へと入るのだった。



…………。



『次の日 時刻10:30 ヨスガシティ コンテスト会場』


ナナコ 『さぁ、今回もやって参りましたポケモンコンテスト!』
ナナコ 『ここ、心が触れ合う街、ヨスガシティでは今まさにこのリボンを賭けて、熱く、そしてクールなアピールが続いています!』
ナナコ 『今回は、演技及び、見た目審査は1幕から5幕まで一緒に行っています!』
ナナコ 『ここから、各幕につき、4名のコーディネーターがトーナメントへ進出、そして各々の幕の優勝者にリボンが進呈されます!』
ナナコ 『さぁ、それではさっそく演技審査行ってみよう!』
ナナコ 『まずは第一幕出場、現在快進撃を続けるヒカリさん!』

ヒカリ 「ポッタイシ、ステージ・オン!」

一番手はあたし、あたしはやや縁起悪いながらも、かつてヨスガ大会に出た時と同じ掛け声でポケモンを出す。

ポッタイシ 「ポッター!!」

ポッタイシは2回転宙捻りを加えて登場。
ただし、ただ着地させるだけじゃつまらない!

ナナコ 『おおーっと!? ポッタイシ、嘴を地面に突き立て、絶妙な感覚で姿勢を制御しています!』

ヒカリ 「ポッタイシ、そのままジャンプ! そして『バブルこうせん』!」

ポッタイシ 「ポッタッターッ!」

ビュオゥ! ビビビビビ!!

ポッタイシは両翼で地面を叩き、飛び上がり、そのまま地面『バブルこうせん』を放つ。
すると『バブルこうせん』が地面にせめぎ合い、一種のクッションが出来上がる。
ポッタイシは体勢を整え、お尻から『バブルこうせん』のクッションに着地し、そしてもう一度高くジャンプ。

ドッカァァァン!!

間もなく、『バブルこうせん』の影響で爆発が起きる。
ポッタイシは間一髪逃れ、そして空中でポーズを決めると、逆光を浴びてポッタイシの輪郭線が輝く。
そして、着地。

ポッタイシ 「ポッターッ!!」

ポッタイシは両手を高く上げ、アピールをした。

ナナコ 『素晴らしい! 使った技はたった一つ、『バブルこうせん』だけなれど、まるでサーカスのように鮮やかに動き回るポッタイシ!』
ナナコ 『いきなり魅せてくれます! さぁ、次はホウエン地方からはるばるやってきたコーディネーター、ミツキさん!』

あたしはポッタイシをボールに戻すと、足早に控え室へと戻った。
丁度ステージを降りているとき、ステージへと登る女性がいた。
たった今紹介されていた、ミツキさんだと思う。

ミツキ 「出てきて、キュウコン!」

キュウコン 「コーン!」

どうやら、ホウエンからやってきてくれたコーディネーターさんはキュウコンを使うらしい。
あたしは演技までは見ず、さっさと控え室へと帰るのだった。



…………。



リン 「お疲れ様」

ヒカリ 「あ、リン! どうだった…あたしの演技?」

リン 「成長したわね…よりポケモンを魅せれるようになったのね」

ヒカリ 「トーゼン! 昔のあたしとは一味違うわよ!」

控え室へ帰ると、リンが迎えてくれる。
控え室は幕ごとというわけではなく、エントリー順に選ばれている。
リンは3幕に出るわけだけど、こうして同じ控え室になったのだ。

ヒカリ 「そういえばエガミちゃん居たな〜、第2幕みたいだったけど」

リン 「あら? その娘は知り合い?」

ヒカリ 「うん、ズイ大会でやりあってね」

リン 「ふぅん、さて私の出番はまだまだ後ね…」

それはそうだ、今回はエントリーしているコーディネーターだけで140名も居るそうだ。
見た目審査の時はこれが一同に介するわけだから、中々票を獲得しにくくて仕方ない。
とはいえ、おかげで見た目審査の時エガミちゃんを発見できたのだ。
さすがにミタマちゃんは見なかったわね…カンナギにいたし、さすがに参加してないか。

ナナコ 『さぁ、二人目の演技も終わり次は…!』

ヒカリ 「この調子だと、リンの出番は1時間後位ね」

リン 「じっと観戦しているのも暇ね」

ヒカリ 「そう? あたしは結構楽しいけど?」

リン 「あなたの場合はたしかに色んな人の演技を見ておいた方がいいでしょうね、コーディネーターとしての経験は少ないんだから…」

ヒカリ 「うぅん、まぁそうよね〜、まだまだ新米同然だし」

リン (…でも、新米同然のこの娘が早くもリボン2つ)
リン (ショックよね…私が初めてコンテストに挑んだ時はリボン3つ…それも1年間の期間をフルに使っての結果だった…)
リン (この娘はもう2つ目…この勢いならこのヨスガ大会さえ抜いても不思議じゃない…この娘の成長速度を考えれば年内リボン5つもありえてしまうかも…)
リン (1年目のコーディネーターに…か)

ヒカリ 「どうしたの、リン?」

リン 「あたし、裏の広場にいるわ…時間になったら呼びに来てくれる?」

ヒカリ 「ええ、いいわよ」

リンはそう言うとタキシード姿のまま控え室を出て行く。
コンテスト敷地内の会場だからいいけど、やっぱり男装しているリンって浮くわよね〜…。

ヒカリ (…思えば、リンってどうしてタキシード姿なんだろう?)

折角可愛いんだからドレスを着れば似合うと思うんだどなぁ〜?
それとも男装するのには何か意味があるのかなぁ?



…………。



エルレイド 「エールーッ!」

ビュオゥッ!!

リン 「左の動きが少し遅れているわよ! 魅せるだけじゃ駄目! しっかりと打ち込みなさい!」

エルレイド 「エルッ!」

私はエルレイドに演技指導を行っていた。
エルレイドは僅かに左への動きがぶれる癖がついている。
ずっと治そうとしてきているけど、治せるものじゃない。
カンナギのヒーラーでも駄目だった。

リン 「皮肉ね…あなたの左肘がクラッシュしてなければ…」

元来、エルレイドは不定形ゆえに筋肉や骨などといった物はない。
だけど、代わりにサイコパワーが血液や電気信号の代わりにエルレイドの体中を駆け巡る。
エルレイドはとある事故で左肘のエネルギー集約ポイントをクラッシュしてしまった。
当初は左腕は肘から下が全く動かず、コンテストもバトルも断念せざるを得ない状況だった。
だけどエルレイドはその特性にも持つ『ふくつのこころ』にて這い上がってきた。
諦めないからこそ、頑張れる。
だからエルレイドは戦えるようになった、コンテストに出られるようになった。

リン 「…駄目ね、やっぱり今日は別の子でいくわ」

エルレイド 「…! エル…」

リン 「わかってちょうだい、今回の大会はそれなりにレベルが高いわ」
リン 「欠点を見逃すわけにはいかない」

バトル審査…コンテストバトルではそこまでの差にならなくても演技では些細なことが点引きの対象になってしまう。
とはいえ、エルレイドはできれば『シングルバトル』では使いたくない。

リン (…ポケモンを魅せる演技と人を魅せる演技…世の中にはふたつある)

同じ魅せるでも意味合いが違う。
ポケモンを魅せる演技とは即ちポケモンを光り輝かせる演技のこと。
対して人を魅せる演技とは審査員の興味を引く魅せ方のこと。
どちらも重要だけど、両立は出来ないコントラディクション(矛盾)…。
上へ立つコーディネーターにとって常に惑わさせる単語だ。

ここヨスガに集まる人間はただポケモンが好きという人間が6割、あとは素晴らしい演技を求める者が2割。
残りはその他ね。
これらから踏まえると今回私の手持ちのポケモンでは…。

リン 「パチリスね…」

パチリスは可愛い系のポケモン。
女性人口も多く、大好きクラブのシンオウ支部のあるこの街では一番適切となるでしょうね。

リン (未だに結論は出ない、どれだけそのポケモンを光り輝かせても、結局採点するのは人間)

ならば、その人間に気に入られるように演技するのは当然。
だけど、そこにコーディネーターにとってのパラドックスが生まれる。

リン (ポケモンか…人か…トップコーディネーターを目指す者には誰もがぶち当たる矛盾だ)

あの娘…ヒカリはまだそれに気付いていない。
気付かぬならそれでいい、傷つくことも無く、また痛みを自覚することも無い。
でも…気付いてしまうととても苦しむ。
ポケモンをコーディネイト(調整)する者として、ポケモンのあるべき物を求めるべきではないのだろうか?
だが、最高の演技ができたとしてもそれが見る者にとって興味の範疇外では意味が無いのだ。
コンテストには大きく纏めて5つのステータスに分類される。
それぞれ、『格好良さ』、『美しさ』、『可愛さ』、『賢さ』、『逞しさ』だ。
これらはそれぞれ人によって好みが違う。
ゴーリキーやハリテヤマなど逞しさを好むトレーナーもいれば、パチリスやピッピなど可愛さを好むトレーナーがいるように。
その日の審査員や観客のニーズを捉え、どのジャンルのポケモンを適切に出すかは重要だ。

例えばだけど、観客が女性ばかりだというのにむさ苦しいポケモンを出されても喜ぶだろうか?
個体差、価値観はあるにしろその場合喜ばれるステータスは美しさ、可愛さなどだ。
逆に格闘馬鹿が多いようなら、同情も呼ぶような格闘ポケモンで逞しさをアピールすればいいだろう。
だが、逆の価値観というのも存在する。
時に人は反発する存在に惹かれる時がある。
ガリ勉の東大出身のインテリがある日、逞しい肉体美に憧れるように。
可愛いと評判の女の子が、ある日男装の似合う女性に変身するように。
その存在にとってあるべきでない存在は時にして、未知への探求として人を魅了する。
かなり危険だが、一見受け入れがたい存在も、その価値観を認めさせれば票を取ることはできる。

もちろん、コンテストではかなり危険なのでよほどのことが無い限りこんなことをするべきではない。

リン (今のヒカリは揺れているわね、観客を魅せる演技もポケモンを魅せる演技もこなしている)
リン (だけど、いつか気付く…どちらを取るのが正しいのか…そのコントラディクションに)

ヒカリ 「リンーッ! そろそろ出番よー!」

リン 「! すぐ行くわ!」

私はエルレイドをボールに戻すとコンテスト会場へと向かった。



…………。



ナナコ 『さぁ、次はシンオウ地方でも三指に数えられるコーディネーター、リンさんの出番ですっ!』

ワァァァァァァッ!

ファンA 「キャーッ! リン様ーっ!」
ファンB 「リン様ーっ! こっち見てーっ!」
ファンC 「リン様ファイトーッ!」

ヒカリ (相変わらず、すごい人気なことで…)

耳を塞ぎたくなるほどの大喝采。
リンも大変ねぇ…。

ヒカリ (さて、控え室からだけどどんな演技をするのか見せてもらいましょうか)

リン 「パチリス、ステージ・オン!」

パチリス 「パッチーッ!」

パチリスは空中でクルクルと前転をして、一番高い地点で花咲かすように大の字に体を広げる。
その際、電気タイプ特有の火花をバチバチッと散らして、登場の演出をアピール。
そして、体より大きな尻尾をクッションに地面に着地。

リン 「パチリス、『てんしのキッス』」

パチリス 「パッチ〜♪ パァッチィ〜♪」

パチリスは会場中に両手で投げキッスを送り、愛想を振舞う。
その際、ハート状の何かがステージ上を漂っていた。
何故ハートなのかは永遠の謎ね…ちなみにあれが当たっちゃうと混乱状態になるわ。

ヒカリ (パチリスかぁ〜、いわゆるかぁいい系のポケモンね、あれならその気なくてもお持帰りぃしたくなるわね)

リン 「パチリスおいで、『ほうでん』!」

パチリス 「パッチーッ!」

ナナコ 『おおーっと!? リン選手、パチリスを右手の甲に乗させて『ほうでん』! すごい火花がフィールドを多い、宙に浮くハートを的確に打ち抜く!』

ヒカリ(ひゃあ〜! あぶなっかしいことを…でも、トレーナーとポケモンが見事に目立って輝くわね…)

パァァァァァァァン…!

破裂音とは違う、ちょっと変わった音。
パチリスの『ほうでん』を受けて、空中を漂っていたハートははじけ、鮮やかなピンクの輝きを放って花火のように散った。
会場の空が、ドーム場に光に包まれる。

パチリス 「パーチーッ♪」

パチリスは最後にリンの掌ポーズを決めて、演技終了。
悔しいわね…やっぱりリンってすごい…。
真似できないな…今のあたしじゃ…。

ヒカリ 「ま、だけど今回リンは対戦相手じゃないし、素直に褒めに行きましょうか!」

あたしは控え室を出るとステージに向かう。
やっぱりリンってすごい、あたしもいつかあんな仰々とした演技がしたいものだ。



ヒカリ 「リーンー…て…あれ?」

あたしはステージへの花道でリンを見つけたが、なにやら一人の長身のトレーナーを睨み付け、様子が普通じゃなかった。

リン 「まさか…貴方が出ているなんてね…!」

長身の男 「ふ、私は最初の見た目審査の時に気づいていたがね」

リン 「あんたには…絶対負けない!」

長身の男 「ふ…相変わらずだな、そのタキシードは決意の表れということかい?」

リン 「!? うるさいっ! アンタに私の気持ちがわかってたまるかっ!」
リン 「あんたなんかに…あんたなんかに!」

長身の男 「私も…随分とひどい言われようだな…」

ナナコ 『ライさーん? いないんですかー!? 出番ですよー! 早くステージに来てくださいー!』

長身の男 「私の出番だ、失礼するよ」

リン 「リボンをゲットするのは…私よ!」

長身の男 「ふ…」

カツン…カツン…カツン。

ライっていう長身のお兄さんはそのままステージに残る。
その場に残ったのはなんとも複雑な表情をしたリンだった。

ヒカリ (…修羅場だった?)

ちょっと汗である…。

リン 「あんたなんかに…わかるもんか…」

ヒカリ 「わかんないから、説明して」

リン 「!? ヒ…ヒカリ!? ど、どうしてここに!? てかいつから!?」

ヒカリ 「冒頭から? つーか、どうしたのよリン、あんなに感情剥き出しにして、つーかあのお兄さんは誰?」

リン 「あなた…ライを知らないの?」

ヒカリ 「いや、全く…」

もしかして、有名人でしょうか?
芸能界とかぶっちゃけあまり興味ないしな〜…歌番組にでも出てそうな美形のお兄さんだったけど。

リン 「呆れた…はぁ、まぁあの男もその程度とさげずんでおきましょうか…」
リン 「あいつの名はライ…3年度連続ポケモンコンテストグランドフェスティバルシンオウ大会制覇者…いわゆるトップコーディネーター…」

ヒカリ 「はい!? トップコーディネーター!?」

そいつはいわゆるチャンプですな。
い…いやぁ…まさかチャンプとは…。
つくづくあたしもコンテストを知らなかったものだ。
さすがに少し深刻に思えてきた…。

リン 「私が…昨年、グランドフェスティバルの決勝戦で戦い…敗れた男…」

ヒカリ 「そうか〜、積年の恨みってわけねぇ…だからあんな怨念だしまくって…ん?」

いくらなんでも、それくらいであんな憎しみで人が殺せたら的顔する?
ありゃ、よっぽどのことよ?

ヒカリ 「これは聞いたら悪いかもしれないけど…あの男、リンの何なの?」

リン 「! …昔の彼氏…今は別れているわ」

ヒカリ 「アッチャ〜! やっぱ地雷だったか〜!? 聞かなきゃよかった〜!」

リン 「ちょ、ちょっと聞いといてそれはないんじゃない!?」

ヒカリ 「え〜、だってもうこうなったらドロドロの昼の連ドラ的なサスペンス確定じゃん…ああ〜聞きたくない聞きたくない」

リン (はぁ…人の気も知らないで…)

ヒカリ (しかし、あれがリンのね〜……レンさんが愛のキューピットだそうだけど、一体何があったのやら…)

だが、聞いたらおどろおどろしそうで聞きたくない。
なんせ、今でもリンったら憎しみで人が殺せたらといわんばかりの顔しているんだから。
よっぽどあの男に恨みがあるようだ。

ヒカリ 「ほら、帰るわよ!」

リン 「…わかっているわよ」



…………。



その後…全選手の演技も終わり、いよいよサードステージのバトル審査に移行しようとしていた。
あたしはとりあえず、問題なく審査を突破し、第1幕の第1試合に入っていた。
そんなに強敵はいないけど、2回戦…まぁいわゆる第1幕決勝戦で来たら手強いかっていうのがミツキ選手。
無駄にどっかの少年漫画のあたしと似た名前ね…。

ヒカリ (まぁ…問題は第3幕よねぇ…)

第3幕第2回戦は間違いなくリンVSライ。
リンてば大丈夫かな…?
相手もさることながらリン自体にも心配がある。
あのリンに…普段どおりの演技ができるかな?


…でもまぁ、色々あってあたしはエレキブルで問題なく一回戦突破。
案の定、あたしの目のつけた選手ってのはいつもあたしの強敵となって帰ってくるらしく、見事に対戦相手はミツキ選手。
リンに比べりゃ弱いとはいえ、あたしの対戦成績ではエガミちゃんやミタマちゃんより上手いかもしれないのよねぇ…年の分だけ。
古だぬきって怖いからなぁ〜…経験なら負けないけど。


ナナコ 『さぁー! では第1幕も最後の試合! 二人とも手を抜いちゃ駄目よ!?』
ナナコ 『それじゃ、両者ポケモンを出してー!』

ヒカリ 「エレキブル、ステージ・オン!」

なんだかんだで、これが板に着いてきた気がする。
キャラ違うし、最初は一発ネタでやったんだけど、気がついたらこれね…。

ミツキ 「出てきて、ブースター!」

エレキブル 「エレーッ!」
ブースター 「ブーッ!」

ミツキ選手は演技の時もそうだったけど炎タイプのエキスパートなのだろうか?
今度はブースター、シンオウ地方でも見れないことはないけど、珍しいポケモンね。
嘘か真かポケモン転送システムの生みの親、マサキが大量にイーブイを育てて、色んなひとに子猫や子犬のようにあげているとか。
そのせいで、イーブイ種の進化形が広く使われるようになったとか…ほとんど都市伝説だけど。

ナナコ 『それじゃー! レディ…ゴー!』


ヒカリ:250
ミツキ:250


ヒカリ (持ち点250…バトルの理論なら削りきる前にダウンね…バトルなら)

だけど、これからやるのはコンテスト!
バトルしているようで、バトルとは違う演技…いっくわよ〜!

ヒカリ 「エレキブル! 『でんこうせっか』!」

エレキブル 「エレッキ!」

ミツキ 「だったらこっちも、『でんこうせっか』よ! ブースター!」

ブースター 「ブー!」

ドッカァァ!!

互い真っ向勝負、頭からぶつかってその衝撃で、両者後ろに引き下がった。

ヒカリ:230(−20)
ミツキ:230(−20)

ナナコ 『力と力のぶつかり合い! 勝負は五分と五分かぁー!?』

ヒカリ (やぁ〜エレキの方がちょっと押されてた、パワー負けなんて珍しいわねぇ…)

ミツキ (パワーでは勝っていたけどスピードで負けていたから押し切れなくて五分になっちゃった…)
ミツキ 「一気にポイント奪いに行くわよ! ブースター、『かえんほうしゃ』!」

ヒカリ 「エレキブル、『ひかりのかべ』!」

エレキブル 「エレキッ!」

ピキィン! ゴオオオオッ!!

ミツキ:200(−30)

ミツキ 「しまった! 『ひかりのかべ』!?」

ナナコ 『これはミツキ選手予想外、コンテストではこういった技でのダメージ軽減だけでもポイントダウンに繋がります! ちょっと厳しいか!?』

ミツキ 「くっ! ブースター! 『ほのおのキバ』!」

ヒカリ 「だーめだめ! 楽しまないとコンテストは損よ!」

ミツキ 「へ?」

ヒカリ 「短気は損気! ほらっ! 笑って笑って!」

ミツキ 「あ…は…はい!」
ミツキ 「え、えとブースター、『ほのおのキバ』よ!」

ブースター 「ブー!」

ヒカリ 「そうそう、いい笑顔の方が、ポケモンも喜ぶわよ♪」
ヒカリ 「ま、勝負は別だけどね、エレキブル『かみなりパンチ』!」

エレキブル 「ブッルーッ!」

エレキブルは真正面から向かってくるブースターに同じく真正面からこぶしを構える。

ミツキ 「今よ! 避けてブースター!」

ブースター 「ブーッ!」

エレキブル 「エレッキ!?」

ブォン!!

ナナコ 『ああっと、ブースターエレキブルの背中に飛びついた!』

なんとブースター君、当たる寸前にハイジャンプでエレキブルの頭を飛び越えて、後ろから首背中に噛み付いてきた。

ヒカリ:170(−60)

うわ…一連動作で見事にポイントごっそり持ってかれたわねぇ…。
調子こいて玉砕したか…。

ヒカリ 「エレキブル、『でんきショック』!」

エレキブル 「! レッキ!」

バチィン!

ミツキ:190(−10)

軽い電流がエレキブルから走る。
だけど、ブースターはそれじゃ怯まない。
以前エレキブルに取り付いたままだ。

ミツキ 「どうやら、後ろにこられたらそれくらいの攻撃しかできないみたいね! ブースターそのまま…!」

ヒカリ 「違う違う、それで十分なの、走り回れエレキブル!」

エレキブル 「エレッ!」

ブースター 「ブ…ブーッ!?」

ナナコ 『ああっと速い! エレキブル突然スピードを上げ、高速にフィールドを走り出した!』
ナナコ 『背中に乗っているブースターはさながらジェットコースターに乗った気分か!?』

ミツキ 「しまった! 『でんきエンジン』!?」

ヒカリ 「そうそ♪ あれだけ体を密接されれば電気もエレキブルに流れるわよ♪」

ブースター 「ブ…ブーッ!?」

ナナコ 『ああっと! ブースター、ついにスピードに耐え切れずエレキブルから引き剥がされた!』

ヒカリ 「フィニッシュ! エレキブル『ほうでん』!」

エレキブル 「エッレーーーッ!!」

バチチチチチチチチィ!!

ブースター 「ブーッ!?」

ミツキ 「ブースター!?」

ミツキ:140(−50)

ブースター 「ブ〜…」

ビィィィィィィ!

ナナコ 『ブースター、バトル・オフ! よって第1幕優勝者はヒカリ選手だーっ!』

ミツキ 「はぁ…やられちゃったか…ご苦労様、ブースター♪」

ブースター 「ブー♪」

ミツキ選手はブースターをいたわりながら、ボールへと戻す。
一方こっちはっと。

エレキブル 「エレッエレッエレッ♪」

ヒカリ 「お疲れ様。アンタ、バトルできて満足そうねぇ…けど、コンテストの時の動き思いっきり忘れているじゃない」
ヒカリ 「たくましさは完璧だけど、美しくないわよ?」

エレキブル 「エレ〜?」

ヒカリ 「はぁ…これではエレキブルに品性を求めるなど絶望的ね…」

どうやら、エレキブルにはコンテストはあまり向かないのかもしれない。
何、真っ向勝負のバトルしているのよ…まぁ、結果的に早期にバトル・オフできたけどさ…。

ヒカリ (さて…後は頑張ってよ、リン…!)



その後、第2幕の決勝戦も行われ、危ない場面もあったけどエガミちゃんが僅差で勝利、リボンをゲット。
そして、その次、今大会最大の注目試合…第3幕第2回戦。



ナナコ 『さぁ、今ここに昨年度グランドフェスティバル準優勝者リン選手と優勝者ライ選手が向かい合います…』
ナナコ 『この試合…事実上今年の優勝争いとなるのか!? 今、決戦です!』

リン 「エルレイド、ステージ・オン!」

ライ 「フーディン、ゴー!」

エルレイド 「エルッ!」
フーディン 「フー!」

リン:250
ライ:250

ヒカリ (果たして…リンは…?)

あたしは控え室からリンの表情を必死で探っていた。

ミツキ 「あの…どうしたんですか、そんな真剣な顔して…」

ヒカリ 「え? ああ…ミツキさん? ちょっと…ね…」

控え室でモニターを凝視していると、突然さっき戦ったミツキさんが声をかけてきた。
あたしは少し曖昧に答えて、再びモニターを凝視した。

ミツキ 「…あのリンって人…まるでヒカリさんとは真逆ですね…楽しさや喜びがまるで感じられない…」

ヒカリ 「やっぱ…そう感じる…?」

ミツキ 「ええ…まるでこれから殺し合いでも始めるかみたいに殺気立っている…」

ヒカリ (あたしのアプローチは無意味だったか…)

リン……あたしはコンテストに関しては素人だわ。
だけど、ポケモンに関してはよく知っている。
ポケモンはね、トレーナーを写す鏡なの。
トレーナーがそんな気持ちじゃ、ポケモンは毒されてしまうわ。
あなたはそんなコーディネーターじゃないでしょう?
コンテストとはなに?
そんな顔しちゃだめよ…リン…。



…………。



ライ 「! エルレイドか…良いのか?」

リン 「アンタは絶対にエルレイドで倒すって決めたんだっ! 今日こそアンタに引導を渡してやる!」

エルレイド 「エ…エル…」

リン 「エルレイド! 気合を入れなさい! 敵は目の前よ! アンタが不安そうな顔してどうするの!」

ライ 「…やれやれ、完全に憎しみに駆られたか…しょうがあるまい、フーディン、いくぞ!」

フーディン 「フッディン!」

リン 「エルレイド、『つじぎり』!」

エルレイド 「エルッ!」

エルレイドは一瞬戸惑いを見せたが、すぐに割り切って、フーディンに突っ込む。

ライ 「フーディン、『シャドーボール』」

フーディン 「フーディ!」

フーディンは両手で前に突き出して、黒い球体を作り出し、それを高速でエルレイドに打ち出す。

リン 「エルレイド! ジャンプよ!」

エルレイド 「エルッ!」

ビュオウッ!

エルレイドはムーンサルトジャンプでフーディンに距離を詰めながらも回避する。
鮮やかにしなるエルレイドの体が観客の目を引く。

ライ:215(−35)

エルレイド 「エールー!」

エルレイドはそのまま空中からフーディンに襲い掛かる。
次にやる行動は!

ライ 「フーディン、『テレポート』!」

フーディン 「フーディ!」

ヒュン!

フーディンはその場から消え去り、エルレイドの攻撃は失敗する。
だけど、この一連の攻防はまだ終わってない!

リン 「エルレイド! 後ろに『サイコカッター』!」

エルレイド 「エルッ!」

エルレイドは肘を後ろに振ると、後ろを向いたまま『サイコカッター』を真後ろに放った。
そのまま、エルレイドは真後ろへと走り出す。

ヒュン!

フーディン 「フーディ…!?」

ドカァン!

完璧なタイミングで『サイコカッター』が真後ろに出現したフーディンに直撃した。
相性は今ひとつでも動きを止めることくらいはできるわ!

リン 「そのままもう一度『つじぎり』!」

私は『サイコカッター』で発生した爆煙でフーディンの状況がつかめないものの、即座に追い討ちにかかる。
あいつには時間を与える方が危険だ。

ピキィン!

リン 「!?」

ナナコ 『ああっと!? エルレイドの攻撃が止まった! フーディンは…!?』

フーディン 「フーディ!」

ライ 「…ふ」

リン 「ち…『まもる』か…エルレイド、『フェイント』!」

エルレイド 「エルッ!」

ライ 「フーディン、『かなしばり』!」

フーディン 「フーディ!」

エルレイド 「!? エル…!?」

ナナコ 『おおっと! エルレイド、寸での所で『かなしばり』にあい、動けない! その隙に再びフーディン距離を詰める!』

リン 「ち! エルレイド! 気合入れなさい! 『シャドーボール』!」

エルレイド 「エルレ…!?」

ズパァン!!

リン 「!?」

突然、エルレイドの周りの空間が歪んだかと思うと、エルレイドがダメージを受けていた。
フーディンの『みらいよち』か!

リン:150
ライ:215

リン (まずいわね…ポイント的に覆すのは難しくなってきたわ…)

伊達にトップコーディネーターやってないわね…押してるかと思ったら、全部いなされてこっちに負債がきたか。
そうなると、こっちはバトル・オフ狙いね。

リン 「エルレイド、『かげぶんしん』!」

エルレイド 「エルッ!」

ヒュンヒュンヒュン!!

エルレイドは十数体の分身を作り出して、フーディンを囲む。

ライ 「む…フーディン、『ミラクルアイ』!」

フーディン 「フーディ!」

フーディンは目を光らせ、本物を探る。
確かに、その技には『かげぶんしん』も意味がない。

リン (だけど、動きを一瞬鈍らせれば…それでいい!)
リン 「エルレイド、突っ込んで!」

エルレイド 「エルッ!」

分身たちは一斉にフーディンへと突っ込む。

ライ 「フーディン、『シャドーボール』だ!」

フーディン 「フーッディ!」

フーディンはエルレイドを的確に見切り、左の本物に『シャドーボール』を放ってきた。

リン 「エルレイド! 『サイコカッター』で迎え撃て!!」

エルレイド 「!! エールーッ!!」

ギュオオオオッ!! ドッカッァァァァァッ!!

エルレイドを右肘の刀で『シャドーボール』に『サイコカッター』を叩き込み、そのまま『シャドーボール』をフーディンに跳ね返す。

フーディン 「フーディ!?」

ナナコ 『あーっと!? なんと、エルレイド、『シャドーボール』をはじき返した!! フーディン攻撃を跳ね返されて絶体絶命!!』

ライ 「フーディン、『パワートリック』だ!」

フーディン 「!! フーディ!」

リン 「なっ…!?」

ライ 「同じことをやってやれ、フーディン!」

フーディン 「フーディーー!!」

ドッカァァァァ!!

突然、フーディンが『パワートリック』を使い、その両手に持たれたスプーンにサイコパワーを溜め込む。
そして、片手で払うようにして、『シャドーボール』を跳ね返してきた。

ナナコ 『なんと、フーディン、跳ね返された『シャドーボール』を同じく『サイコカッター』で跳ね返したーっ!!』
ナナコ 『フーディンの『パワートリック』だからこそなせる技! すでに跳ね返したエルレイド! まだ体勢を整えれていない!!』

リン 「エルレイドーッ!?」

ドッカッァァァァァン!!

ナナコ 『エルレイド、直撃ー!! カウンターで入った!! 大丈夫かーっ!?』

エルレイド 「エル…」

ビィィィィィィ!!

ナナコ 『エルレイド、バトル・オフ! 激闘を制したのはライ選手だーっ!!』

ワァァァァァァァァッ!!!

リン 「…そんな」

エルレイドはバタリと前のめりに倒れてしまう。
その結果は……誰の目にも明らかな…私の…負け。
負けた…また…ライに…負けた。
私の手からエルレイドを入れるボールがガランと音を立てて、私の足元に落ちた。

リン (なんで…どうして勝てないの…私じゃ…勝てないの…ライに!?)

ライ 「リン…」

リン 「くっ!!」

ライが私に勝利して、フーディンをボールに戻し、近づいてくる。
私は走ってその場から逃げ出す。



…………。



『同日 同時刻 コンテスト会場 中庭』


リン 「ヒック…ヒック…」

ヒカリ 「…リン」

あたしは中庭でリンを見つけた。
ステージから逃げるように去ったからもしかしたらここじゃないかと思ったけど。

ヒカリ 「リン…」

リン 「どうして…どうしてよ!? どうして勝てないの…努力したあいつに勝つために…あいつを超えるためだったのに…!」
リン 「それなのに…それなのに…!」

ヒカリ 「リン、先に謝っとくわ。ごめんなさい」

リン 「え?」

バチィン!

あたしはリンの濡れた頬にビンタを入れる。

ヒカリ 「あたしはコーディネーターとしては素人だから、リンには何も言えない。だからトレーナーとして怒らせてもらうわ」
ヒカリ 「いい? ポケモンは貴方を写す鏡なのよ? ポケモンは憎しみでは戦わない。それなのにあなたがそれじゃなんにもならないじゃない!」

リン 「だ、だって…」

ヒカリ 「主役はリン!? 違うでしょ! ポケモンでしょ!?」
ヒカリ 「はっきり言って今日のリン、ポケモンにも観客にも失礼だった!」
ヒカリ 「リンらしくないじゃないのよ? リンはもっと気高くてポケモンのことを思ってあげられる尊敬できるコーディネーターだったはずよ?」

リン 「…ごめんなさい……」

ヒカリ 「うん、ふふ…今度は気をつけてよ? 辛いんだったら相談乗るからさ?」

リン 「ありがと…」

ヒカリ 「ふふ、あ、そうそうはい。エルレイドのボール!」
ヒカリ 「駄目じゃない、エルレイドを放って行っちゃ」

リン 「あ…ありがとう…エルレイド、ごめんなさい」

あたしはリンにエルレイドの入ったボールを渡した。
リンにはリンの人には言えないよっぽどの事情があるのだろう。
あたしはとやかくは言えない。
でも、あたしはリンにはやっぱり最大の目標でいて欲しい。
ちょっと、今日のリンは格好悪いから。

ナナコ 『さぁ! ついにタイムアーップ! 本日最後の試合を勝利したのは久々に帰ってきたジムリーダーメリッサ選手だ!!』

ヒカリ 「あ…最後の試合終わったんだ…ん?」

リン 「ん? どうしたの?」

ヒカリ 「ジムリーダー…て…えええええっ!?」

なんと、ジムリーダーが出ていたですって!?
どこへ行っているかと思ったらここぉっ!?

こうして…なんとなく明日の指針は決まった気がした。






ポケットモンスターパール編 第21話 「ヨスガ大会再び! 渦巻く因縁!」 完







おまけ

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