ポケットモンスター パール編




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おまけ





『美というもの』

『それは儚くも気高く』

『また猛々しくも華やかで……』





−ポケモンコンテスト 美とは?−





コウキ 「それで、ヒカリちゃん。これからの目的地はどうなるの?」

ヒカリ 「それなんだけど、ちょっと悩んでいるのよねぇ〜」

コウキ 「悩んでる?」

ヒカリ 「うん。ミオにするかそれともソノオにするか」

コウキ 「ソノオ……てあの?」







第23話 『ポケモンコンテスト、花薫る決戦!』




『某日 時刻09:14 ヨスガシティ:ポケモンセンター前』


メリッサさんとのジム戦の次の日。
僕たちは次の目的地へと出立しようとしていた。
何も予定がないのであれば次の目的地はミオシティとなる予定だったけど、ヒカリちゃんには何か考えがあるらしく頭を捻っていた。

コウキ 「ソノオタウンになにかあるの?」

ヒカリ 「うん? いやね……コンテストが開かれるらしいのよソノオで」
ヒカリ 「それで急げば間に合うかなぁって感じなんだけど、別にあたしはリボンもう3つあるわけだし、そんなに急ぐ必要ないかなぁってね」
ヒカリ 「ほらさ、ミオシティに行ったらもしかしたらコウキ君の謎も分るかもって話しだし。そっち優先したっていいわけだからさ」

とはいえ、ヒカリちゃんとしてはやはりコンテストが気になるのだろう。
僕としては僕のことを優先してくれるのは嬉しいけど、ヒカリちゃんにももうちょっと自分のこと考えて欲しい。

コウキ 「だったらソノオタウンに行こうよ。僕の方は別に構わないよ。逃げる物でもないしね」

ヒカリ 「……コウキ君は優しいねぇ。そんじゃお言葉に甘えますかな」

僕の言葉を聞いて、ヒカリちゃんは考えを固めたようで、笑顔を見せてくれた。
とりあえずこれで次の目的地はソノオタウンということになる。
だけど、遠いなぁソノオタウンって……。

ヒカリ 「じゃ、そろそろお世話になりますか、出てきてフワライド!」

フワライド 「フワワ〜♪」

コウキ 「フワライド? 一体何をする気なのヒカリちゃん?」

ヒカリ 「ポケモンの秘伝の技のひとつ! 『そらをとぶ』! というわけで一気に行くわよー!」
ヒカリ 「さ、掴まって♪」

コウキ 「え?」

ヒカリちゃんは僕の腕を掴み、身体を密着させる。
そのままヒカリちゃんはフワライドに命令を出す。

ヒカリ 「フワライド、『そらをとぶ』よ! ソノオタウンまでお願い!」

フワライド 「フ〜ワワ〜」

フワライドはゆっくりと僕たちを持ち上げて、天へと上がる。

コウキ 「わわっ!? だ、大丈夫なの!?」

ヒカリ 「ちょ、暴れないでよコウキ君! だ、大丈夫だから!」

僕たちはフワライドに運ばれて、ソノオタウンを目指すのだった。



…………。



ヒカリ 「ふぃぃ……と、到着〜」

コウキ 「ふう………」

フワライドに運ばれて、僕たちはヨスガシティからソノオタウンへとやってきた。
その道中は中々の地獄であり、特にテンガン山上空に差し掛かったときは凍死するかと思った。
くわえて、フワライドは飛行速度が遅くまた、風に流されやすい。
丸一日以上は飛んだ。
ちなみに休憩なども含めると4日かかった。

ヒカリ 「あぁ〜……腕痛い……対策考えないとこりゃやばいわ」

フワライドには乗る場所がないから必至で上からしがみ付いていないといけない。
これがかなりの重労働で、ソノオタウンまで飛ぶには何十回と休憩が必要だった。

ヒカリ 「んじゃ、早速コンテスト会場に行ってみるわ」

コウキ 「コンテストって明日だよね?」

ヒカリ 「先にエントリーしておこうと思ってね」

ヒカリちゃんはそう言ってソノオに立てられた仮設コンテスト会場へと向かった。
僕は先にポケモンセンターに向かい、ヒカリちゃんを待つことにした。



ヒカリ 「ん〜……仮設会場ってあそこかな?」

あたしはコンテスト会場を探してソノオタウンを歩き回った。
元々コンテスト会場がないこの町でコンテストが開かれるというのも不思議だけど、どこでやるのかしら?
それともコンテスト会場はないわけ?

ピーポーピーポー!

ヒカリ 「? 救急車?」

突然救急車がソノオタウンを疾走する。

ヒカリ 「いやねぇ、事故かしら?」

こういう時は他人の振り見て我が身を直せ。
何も起きないようなるべく注意ね、うん。

ヒカリ 「さてと……で、会場はどこかなぁ」

あたしは会場の場所がわからず右往左往してしまう。



『ポケモンコンテストソノオ大会 参加申し込み場』

コウキ 「なんでポケモンセンターに?」

僕はポケモンセンターにやってくると妙に人が多いことに疑問を持った。
ポケモンナースのお姉さんに聞くと、この町にはコンテスト会場が存在しないからポケモンセンターで受付をするとのこと。
そのため、トレーナーもコーディネーターも集まっていつも以上に密度が上がっている。

ピーポーピーポー!

コウキ 「?」

聞きなれないサイレン音が聞こえてくる。
近づいてきておりどうもここにやってきそう。

救命士 「急患です! 道を開けてくださいっ!!」

突然シャッターを潜って急患がやってくる。
白い担架に載ったのはなにやら苦しそうにしているピカチュウだった。
突然ポケモンセンターは慌しくなり、ピカチュウはポケモンセンターの奥、集中治療室へと向っていった。

男 「不幸だ……」

コウキ 「!?」

突然真横少し後ろから男の人の声が聞こえる。
さっきまでそこに気配がなかったためにいきなりでビックリしてしまう。
男の人は一言呟くとトボトボと集中治療室へと向っていく。
しかしある程度歩くといきなり雄たけびを上げて集中治療室へと駆け込んでいった。

男 「うおおおおおおっ!!!」

コウキ 「……」

ポケモンセンターが静かになる。
あまりの光景に皆我を忘れて呆然としていたのだ。

男A 「あれって……もしかして伝説の?」

男B 「間違いない……あれは伝説の……」

コウキ 「?」

伝説の?
伝説の何?

ヒカリ 「ちょっと、伝説の何なの?」

男A 「て、うおっ!? あ、あんだよ?」

コウキ 「ヒカリちゃん?」

突然ヒカリちゃんが後ろから現れる。

ヒカリ 「おかしいおかしいとは思っていたけど、まさかコンテスト申し込みがポケモンセンターで行われるなんてね……」
ヒカリ 「で、伝説のなんなの?」

男B 「あ、あいつの名はダン。ある伝説を打ち立てた男」

男A 「その伝説ってのは……連続不戦敗数!」

ヒカリ 「ハァ?」

コウキ 「不戦敗?」

男A 「そう、やつはコンテストに参加するたびに何かしらのアクシデントに見舞われ相手に不戦勝を与えてしまう」

男B 「その数が連続10に達した時やつは伝説となった、そしてその不戦敗数は今なお数を増やしている!」

ヒカリ 「なんてくだらないの……」

コウキ 「……」

僕は思わず呆然と呆けてしまう。
世の中にはそんな不思議なものもあるんだ……。

男A 「ところであんた、『あのヒカリ』では?」

ヒカリ 「え? そうだけど何?」

男B 「あ、やっぱり! 『あのヒカリ』!」

ヒカリ 「だから何よ、あたしはヒカリだけど!?」

男A 「この雑誌を見てくれ!」

突然、一冊の雑誌を取り出しそれを差し出してくる。
丁度良くページがあるところで開かれており、僕たちは一目でそれがわかった。

コウキ 「あ、これってヨスガ大会の時の」

堂々1ページヒカリちゃんが情報誌の一面に映っていた。
なんでも、今年期待の新人コーディネーターの特集みたいだ。

ヒカリ 「あらら〜……いつの間に雑誌に載るまでになってんだろあたし……」

男A 「今年一番の期待株と噂されるその名、通称『あのヒカリ』!」

コウキ 「あ、雑誌にも書いてある」

ヒカリ 「『あのヒカリ』ってもしかしてあたしの別名?」

どうやらそうらしい。
なんとも奇妙な異名が付けられたみたいだった。

ヒカリ 「嫌な予感するんだけどぉ」

ヒカリちゃんは目を細めて困っていた。
とにかく明日は何かありそうだった。



…………。



ナナコ 『コンテストがあるなら地球の裏まで! ここソノオタウンで今まさにポケモンコンテストが開かれようとしています!』
ナナコ 『いつも通り進行は私ナナコ! 会場がないんで今回はこの花吹雪くソノオの花畑を舞台としております!』
ナナコ 『座る椅子も用意できなかったけどそこはかとなく自由に観戦してってねーっ!?』



ヒカリ 「……すごい場所でやるなぁ」

コンテスト会場の舞台となるフィールドは草原が生える大斜面を観客会場とし、その下の平坦をフィールドとしていた。
コンテスト出場者は仮設テントで待機をしている。
よく見ると大会のランクはフリーとなっていた。
ようするに所持リボン数無制限の大会のようだ。
そして今回リボンを手に入れることができるのはたった1人。
たった1幕だけの特別大会、その出場者はゆうに100名を越えているそうだ。
もっともここから、第1次の見た目審査と演技審査でこれが8名まで削られるわけだけど。

女A 「ねぇ……あの人って」

ヒカリ (あら? なにかしら?)

突然なにか声が聞こえる。
もしかしてあたしかしらって思ったけど、それは違ったようで……。

男A 「あの人、なんでコンテストに参加しているのかね?」

女A 「トレーナーでしょ? あの人」

男A 「だよな……去年のポケモンリーグでみたぜ?」

ヒカリ (ポケモンリーグ出場経験者?)

あたしはチラっと周りを見渡して見た。
参加者の数が数だけに、誰のことを言っているのかさっぱりわからない。
とはいえポケモンリーグに出場するほどのトレーナーならそれなりの雰囲気があるはず。

ヒカリ 「……」

ダメだ、さっぱりわからん。
ていうかあたしに人探しは無理ね。
大体トレーナーやコーディネーターの違いなんてほとんどない訳だし。

ヒカリ (まぁ、そんなに気にしなくてもいいや。トレーナー上がりなら対処法もあるでしょ)

最も2次審査のポケモンコンテストまで上がれたならの話だけど。
存外トレーナーに慣れるとコンテストは脆くなる。
ポケモンもトレーナーもコンテストにすぐに対応できるほどこの世界は甘くない。
それはあたし自身も身をもって知った。
その道を究めるつもりならどちらかは切らないといけないのはある種の必定だろう。

ヒカリ (ただお祭りに参加したいってだけなら話にならないでしょ)



…………。



コウキ 「――?」

僕は観客席からコンテストの様子を観客として観戦していた。
今回は場所が場所なので全て自由席(?)でお金も取られない。
最初の見た目審査も終わり、いよいよ演技審査に入ろうとしていた。
そんな時に僕は気になる人を見つけた。

コウキ 「あの人は……」

僕はその人を見つけると立ち上がって追いかけた。



コウキ 「あの……!」

ダン 「……あ?」

コウキ 「えと……ダンさん、ですよね?」

ダン 「……そうだけど君は?」

コウキ 「あ、僕コウキっていいます」
コウキ 「あの、昨日のピカチュウは大丈夫ですか?」

ダン 「ああ、とりあえずは。心配してくれるたのか」

コウキ 「ええ、そうですか……よかった」

僕はあのピカチュウが心配だった。
担架で運ばれたピカチュウは意識を失っているのにその表情は苦しそうだった。
僕にはその表情を見るだけで辛い。

コウキ 「ダンさんコーディネーターなんですよね? 出場しないんですか?」

ダン 「する気になれねぇ……」

コウキ 「? 何故です?」

ダン 「あの大会はピカチュウの復帰戦にするつもりだった……それができないんなら出る意味なんてねぇ」

コウキ 「復帰戦? それって……」

ダン 「あいつ病弱+虚弱なんだよ、今回もそれが原因だ」
ダン 「いいか、笑うなよ? あいつが今回担架で運ばれた理由だけどな……あいつ自身の力に耐えられなくてバタンッ! だ」
ダン 「ひっさびさに演技の練習したら『10まんボルト』の電流に自分が感電だぜ? やってらんねぇよ……はぁ」

ダンさんはそう言って項垂れる。

コウキ 「ダンさんはバトルはやるんですか?」

ダン 「あん? ああ……やるぜ?」

コウキ 「だったら僕の相手をしてくれませんか?」

僕はそう言って笑顔でボールラックにあるモンスターボールを手に取る。

ダン 「コンテストの観戦はいいのかい?」

コウキ 「ダンさんが見ないなら僕もいいです」

ダン 「……お前いい奴だな」

ダンさんはそう言うと腰からひとつボールを取り出す。
少し後ろ屈みに構え投げると同時に後ろに動く構えだ。
僕は周りを確認し、いつでも投げられるよう構える。

ダン 「! でてこいカモネ……どわっ!」

コウキ 「出てきてスコルピ……て、えっ!?」

ダンさんが後ろにジャンプしてボールを投げると、着地の際姿勢を崩して後ろに倒れる。
更に運が悪いことに後ろは坂になっており、ダンさんはその坂をゴロゴロと転がり落ちてしまった。

コウキ 「ダ、ダンさーん!?」

ダン 「ふ……不幸だ」

ダンさんは坂の下でぐったりと大の字に倒れてしまった。

コウキ 「た、戦う前に再起不能?」




ナナコ 『――さぁ、じゃあ演技審査も終わっていよいよ2次審査に進出する8名を紹介するよ〜!?』

ヒカリ 「……さぁて、入っていることを祈りましょ」

演技審査を終えたあたしは控え室からマイクを持って名前を呼ぶナナコさんの口から放たれる一言一言に注意を振り絞る。
フリーランクの大会だけに出てきているトレーナーは凄いトレーナーもいる。
あたしはあたしなりにがんばってみたけど、結果的にはどうなっているやら。

ナナコ 『――アタミ選手、ウスバネ選手、サラ選手、テイ選手、トオル選手、ナミ選手、ヒカリ選手、マコト選手! 以上8名2次審査進出おめでとう!』

ヒカリ 「おっしゃ! 2次審査進出ぅっ!」

あたしは無事2次審査進出にガッツポーズを取る。

ナナコ 『続いて組み合わせを発表するよ!?』
ナナコ 『第一試合はサラ選手VSマコト選手! 第二試合はナミ選手VSヒカリ選手――!』

第二次審査進出者決定の際発表され、その対戦者結果はこうだ。

第一試合:サラ選手VSマコト選手
第二試合:ナミ選手VSあたし。
第三試合:ウスバネ選手VSトオル選手
第四試合:テイ選手VSアタミ選手

とりあえずあたしは第二試合に出場となった。
さて、無事4個目のリボンゲットとなればいいけどね。




マコト 「――スボミー、『タネマシンガン』!」

スボミー 「スボーッ!」

ユンゲラー 「ゲーッ!?」

ビィィィィィィ!!

ナナコ 『ここでポイントアウト! 第二回戦進出はマコト選手だーっ!』

試合の方を見ていると、ポケモンにおいてはスボミーが不利ではあったが、勝利したのはマコト選手とスボミーだった。
ポケモンコンテストはただのバトルとは違う。
一概ポケモンの強さが決めるものじゃない。

ヒカリ (とはいえ、あのレベルの相手に負けたら恥ね)

第一試合といい、演技審査といいそれほど優秀なコーディネーターは出ていないように思える。
ランクフリーの大会では、優秀なコーディネーターは出ないのかしら?

ナナコ 『さぁ、次は第二試合! ナミ選手、ヒカリ選手出てきてください!』

ヒカリ 「はいはーい!」

あたしは呼び出しに応じてステージに出る。
こんな田舎の町興しのような大会だけどポケモンコンテスト執行委員公認のコンテスト。
ちゃんと公認リボンも手に入るけど、ランクフリーというのが嫌に気になる。
リボンを3個以上手に入れているコーディネーターで参加しているのはなんとあたしだけなのだ。
フリーの大会は全てのコーディネーターが参加できるにも関わらず上位コーディーネーターは参加したがらないのか?

ヒカリ (名のあるコーディネーターがこういった大会に出るのはなにかタブーでもあるのかしら?)

まだ、コーディネーターにはなりきっていないあたしには分らないことなのかもしれない。
たしかにコーディネーターはやや格式を意識することはあるみたい。
トップコーディネーターは一種のアイドルと化すし(これがあたしの気に入らない点だけど)、それに応じてそういった意識が形成される。
元々アイドルとかそういった格差的意識が嫌いなあたしにはどうにもそこは馴染めない点ね。
そもそもアイドルというのは宗教的信仰の元崇拝、尊敬をする人物や物に対するものであり、人気者のことではない。
あたしはどうもそういった人でありながら人を隔てるというのは嫌だ。

ナナコ 『さぁ、それじゃサクッと第二試合はじめちゃうわよ! 第一回戦だからって手を抜いたらおねえさん容赦しないわよっ!?』

私は仮設フィールドで対戦相手と対峙する。
対戦相手はナミという少女で海兵の方のセーラー服みたいなのを着た小学生くらいの少女だった。

ナナコ 『じゃ、二人ともポケモンを出して!』

ヒカリ 「出てきてビークイン!」

ナミ 「キャモメ、ゴーッ!」

ビークイン 「ビィィィ〜♪」
キャモメ 「キャモ〜♪」

極力可愛らしく振舞って登場するビークイン。
厳つい面持ちに対して心は清純な乙女系ポケモンのビークインだけど、同じく可愛らしさをアピールして登場するキャモメの可愛さには全く無意味だった。
そもそもポケモンの表現の仕方に問題があるんでしょうけど、ビークインは一途に可愛らしくありたいという思いがあるんだしあたしはそれを尊重する。

ナナコ 『それじゃ、レディーゴーッ!』

ヒカリ:150
ナミ:150

ヒカリ (たった150……注意しないとあっという間に無くなっちゃうじゃないのよ)

あたしはさすがにポイントを見て、若干消極的になってしまう。
なんせ変化技ひとつでポイントが10ポイントも減るだけに迂闊には動けない。
一応コンテストは攻撃側より防御側の方が有利なことが多いため、基本的に攻撃側はボーナスが着くのが利点だけど。

ナミ 「キャモメ、『なきごえ』から『みずでっぽう』!」

キャモメ 「キャモーッ!」

キャモメはその場から可愛い声で甲高く鳴き声を上げる。
ビークインはそれに『ウッ』とたじろき、防御力が下がってしまう。

ヒカリ:140(−10)

そして鳴き声を上げたあと一度息を吸ってキャモメは『みずでっぽう』を勢いよくビークインに放った。

ヒカリ 「ビークイン、『ぼうぎょしれい』!」

ビークイン 「ビィィ……!」

ビークインの前方に小蜂が集まり、壁を作る。
キャモメのヒョロッちい『みずでっぽう』はあっさり止めてみせた。

ナミ:130(−20)

防御技で返した場合、減りは普通に攻撃するより減る。
しかし私の行動はまだ終わらない、更にアクセントを加える。

ヒカリ 「ビークイン、そこから『かいふくしれい』」

ビークインの前方でバリアの役割を果たした小蜂は今度はビークインの身体をケアし始める。
これをやっている中ビークインの身体は淡い翠色の光で輝き、ビークインの美しさが際立つ。

ナミ:100(−30)

ダメージは受けていないし、意味はほとんどないが、ポケモンコンテストにおいてはこういう技を成功させたということがあいてのポイントを奪うステータスになる。
特にこの指令系の技はビークイン特有の技だけに評価も高い。
加えて『ぼうぎょしれい』から『かいふくしれい』の連携は、無駄なく素早くやれるのが利点。
これで一気にあいてのポイントの3分の1を奪う結果になった。

ナミ 「! だ、だったら『つばさでうつ』!」

キャモメ 「キャモーッ!」

ナミ選手はなおも強気に先手で攻めてくる。
コンテストは返し技の方が有利だというのに。

ヒカリ 「一気に終わらせるわよ! 『パワージェム』!」

ビークイン 「ビィィィ……!」

ビークインは両手を上げ、やや時間をかけて『パワージェム』を生成する。
キャモメはその隙に正面やや上からビークインに強襲するが、あと少しのところでビークインは完成した『パワージェム』を正面に持ってきてそれをキャモメに発射した。

ビークイン 「ビィッ!」

キャモメ 「!? キャモーッ!?」

発射された『パワージェム』を至近距離で受けたキャモメは『パワージェム』の前に吹き飛ばされる。
『パワージェム』は琥珀色に美しく輝き、発射された弾道をまるで流星の尻尾のように光の塵が尾を引いてビークインの技を際立たせる。
そして爆発、『パワージェム』が拡散し、爆発を起こしキャモメに大ダメージを与える。
この技法は生成に若干時間がかかるが、光の粒子が溢れ、非常に美しく魅せられるのが利点だ。
ちなみにそれだけで攻撃力は普通の『パワージェム』である。

キャモメ 「キャモ〜……」

ナミ 「ああっ! キャモメッ!?」

ビィィィィィ!!

ナナコ 「キャモメバトル・オフ! 第二回戦進出はヒカリ選手だーっ!!」

ヒカリ 「おっし、お疲れビークイン♪」

ビークイン 「ビー♪」

ビークインは両手を頬に当て、嬉しそうながらも照れた様子を見せた。
あたしはそんなビークインに微笑みかけてボールに戻す。
ボールの中ではポケモンはいつも一人ぼっち、だからトレーナーはこうやってポケモンに安らぎを与える。
モンスターボールはどう言い繕ってもポケモンの拘束機に過ぎない。
旧式のモンスターボールなどそれこそ、ポケモンにとっては光無き監獄のような物だったと聞く。
現代においてもモンスターボールの中ではポケモンは肉体が粒子化し、精神のみがボールの中にある粒子に内包された結果となるらしい。
これは光の漏れないボールの中で肉体が無いのは、意識だけが覚醒し喋ることも歩くこともできない。
欲求の生まれないと同時に、何も出来ない空間を意味する。
ポケモンは本来ボールに入りたくは無い。
それでも入るのはトレーナーを信用しているからだ。
だからトレーナーはそのポケモンに報いる。
それが、こういったスキンシップだ。

ヒカリ 「……さて、次の試合を見ますか」

あたしはビークインをボールに戻すとテントに戻って次の試合の見学をすることにする。

ナナコ 『さぁ、続いては第三試合ウスバネ選手対トオル選手の対決だぁ!』

ヒカリ 「……」

ウスバネと呼ばれる女性は黒い髪をストレートに腰くらいまで伸ばしている反面、蒼い瞳をしているのが特徴的だった。
身長はあたしよりも高く170センチ程度かしら、多分年上の長身のお姉さんね。
灰色のジャンパーを深く着込み、下は緑色のジーンズだった。

対するトオル選手は見た目においては普通の鳥使い。
カントー地方の鳥使いはなぜか一応にモヒカン頭だそうだが、この人は普通である。
特に美形でもないし、面白みのある男ではない。

ウスバネ 「出てきて、メガヤンマ」

トオル 「出てこいムクバード!」

ウスバネ選手が出したのはメガヤンマ、対するトオル選手はムクバード。
タイプ相性だけでいえばトオル選手有利ね。
でも、ポケモンのポテンシャルでいえばメガヤンマは本当に高い。
とは言っても何度も言うとおりコンテストはポケモンの強さがすべてではないけど。

ヒカリ (とはいえ、あのメガヤンマ明らかに鍛え方が違う)

私は始まる直前のとある参加者の話を思い出す。
たしかポケモンリーグに参加していたほどの猛者が今大会参加しているらしい。
ポケモンリーグに参加するには最低8つのジムバッジが必要になる。
それだけを含めてもそのトレーナーのポケモンは強さの違いが見た目からでもわかるというもの。

ヒカリ (確信はないけどねぇ……あのウスバネって選手がそうなの?)

私はあの選手をマークしながらも中立的にコンテストバトルを見守ることにした。

ナナコ 『それじゃ、レディ……ゴーッ!』

トオル 「ムクバード、『つばめがえし』!」

まずはトオル選手が先に仕掛ける。
ムクバードは超低空を飛び、メガヤンマに襲い掛かった。

ウスバネ 「メガヤンマ、『みきり』」

メガヤンマ 「メガッ!」

ムクバードは地表2メートルくらいの高さで浮遊するメガヤンマに高速に襲い掛かる。
メガヤンマの真下から垂直に跳ね上がり、メガヤンマにぶつかる直前に超高速でターンし、メガヤンマの後ろ上を捉える。
しかし、ここで神の動きを見せたのはメガヤンマの方だった。
メガヤンマはムクバードが来る直前に、素早く空中旋回し、メガヤンマの頭上を通り過ぎてムクバードの後ろを取る。
ドッグファイトにおける基本的戦法ではあるけれど、攻撃の最中に行われるメガヤンマの動きにはムクバードも着いていくことが出来なかった。

ウスバネ 「メガヤンマ、『エアスラッシュ』」

そして、当然のごとく繰り出されるメガヤンマの一撃。
後ろを取ったメガヤンマはすかさずムクバードの背中に『エアスラッシュ』を放つ。
風は刃となって容赦なくムクバードを襲った。
ムクバードは不意の後ろからの攻撃に対応できず、そのまま地に落ちた。

ビィィィィィィィィ!

ムクバードは一撃の下倒されてしまう。
バトル・オフの笛が容赦なく鳴り響き、トオル選手の敗退を示した。

ヒカリ (実力の差が明白ね)

それにしてもまるでコンテストの試合とは思えないわね。
魅せていないわけではないけど、ちょっと力技が目立ちすぎじゃないかしら?
まぁ、あんな猪突猛進に攻めたトオル選手が悪いんだけど……。

ヒカリ (こりゃ決勝進出確実かもね……)

あたしは危惧感を覚えながら次の第二回戦の準備を進める。


ナナコ 『――きまったぁ! ウスバネ選手、テイ選手を下して決勝進出!』


あたしの予想通り、ウスバネ選手は決勝まで上がってくる。
テイ選手との戦いの時もウスバネ選手の圧倒的な一撃にテイ選手のポケモンが持たず、一撃でダウン。
あたしもとりあえずマコト選手のニャルマーを倒して、先に決勝へと駒を進めていた。

ナナコ 『……静かに花薫るソノオの町風景、この決勝を見守るのは花々も一緒!』
ナナコ 『さぁ、このソノオリボンを獲得して、満面の笑みを裂かせるコーディネーターはどちらか!?』

決勝と言うこともあり、少し語りを加えるお馴染みナナコさん。
思えばこの人あたしが行く先々で現れるわね……ある意味不思議。

ナナコ 『それでは一輪の華を咲かせてもらいましょう! ヒカリさん、ウスバネさん!』

ヒカリ 「出てきてビークイン」

ウスバネ 「出番よ、メガヤンマ」

ナナコ 『美しく薫る花の香りに誘われたかのように現れた二匹の虫ポケモン』
ナナコ 『ここはポケモンコンテスト、支配するのは己の美! さぁそれではコンテストバトル……レディ、ゴーッ!!』

ヒカリ:150
ウスバネ:150

ヒカリ 「ビークイン、『かぜおこし』!」

ビークイン 「ビィィッ!」

ビークインはその小さな羽を羽ばたかせて、突風のような風を起こす。

ウスバネ 「メガヤンマ、かわして『げんしのちから』」

ヒカリ (予想通りの反応ありがとう! 後は伸るか反るか!)
ヒカリ 「ビークイン、かわして『あやしいひかり』よ!」

メガヤンマは上空に飛びあがり、そこから『げんしのちから』を放つ。
地面から岩が浮かび上がるとそれはメガヤンマの周りを浮遊し、一気にビークインに放たれるのだった。

ビークイン 「ビィッ!」

しかし、何のためにこんな簡単な技を出させたのか。
それは当然のようにビークインに次の行動への負担を与えないためだ。
『げんしのちから』により飛ばされた岩は当たればビークインも一撃でやられるだろう。
どう見てもあのメガヤンマレベルが違う。
バトルなら何も出来ずに負けちゃうでしょうね。
だけどこれはコンテスト、力が全てじゃない!

ナナコ 『おおっとビークイン、怪しく光りながら巧みに岩石の崩落をすり抜けていく! これは美しくも見事だ!』

ビークインは身体を黒っぽい光で包みながら、ゆらりゆらりと『げんしのちから』の岩を回避する。
『あやしいひかり』を見たメガヤンマは混乱すると同時に、その怪しい輝きで観客も魅了するのだった。

ヒカリ:140(−10)
ウスバネ:110(−40)

『かぜおこし』をかわされたから当然こちらもポイントダウンを喰らっているけど、相手はもっと痛い。
鮮やかに回避できればよりポイントを削れる、もっと削れても良かった気もするけど今回はこれで我慢しよう。

ヒカリ 「さぁ、今度はコッチの番よビークイン! 『パワージェム』!」

ビークイン 「ビィィ……クイィィーッ!」

ビークインは今度は素早く『パワージェム』を生成し、それを混乱している上空のメガヤンマに放った。

ウスバネ 「……メガヤンマ、『みきり』!」

メガヤンマ 「ヤ〜?? ヤーッ!」

メガヤンマは寸前のところでビークインの『パワージェム』を回避する。
『みきり』が成功したのかメガヤンマには鮮やかに回避されてしまった。

ヒカリ:120(−20)

ヒカリ (正攻法じゃとても勝てないからね……先にポイントリードしようとしたら失敗か、さすがにトレーナーは考えているか)

『みきり』の成功確率は混乱の性で50%って所だったけど、それを引き寄せるのもトレーナーの運か。
仕方ないので、ここからは攻撃は控えることにする。

ヒカリ 「ビークイン、まずはもう一度『かぜおこし』よ!」

ビークイン 「ビーッ!」

やや遠いように思えたが、ビークインは地表付近から上空のメガヤンマに『かぜおこし』を行う。

ウスバネ 「メガヤンマ! 『でんこうせっか』よ!」

メガヤンマ 「マ〜マ〜!?」

上空にいるメガヤンマにウスバネさんが声を上げて指令を出すが、やはり混乱が残っているのかビークインの『かぜおこし』でメガヤンマの羽がやられる。
メガヤンマは羽にダメージを受けて、クルクルと錐揉みしながら地面に落ちた。

ドサァッ!

ヒカリ (おっ! これは予想外の急所の一撃!)

ウスバネ:70(−40)

メガヤンマは意識が回復次第すぐにでも動き出すだろうけれど、今は確実に参っていた。
あたしはこれを好機と思い、命令を出す。

ヒカリ 「一気に行くわよビークイン、『パワージェム』!」

ビークインも好機と見てか溜めの長いコンテスト用の『パワージェム』を用意する。
力をゆっくり溜めることでより美しく仕上げるこの一撃、今が最大のチャンス!

ビークイン 「ビーッ!」

ビークインの手から琥珀の塊が投げられる。
それは光の尾を引いてメガヤンマを襲った。
しかし……。

ウスバネ 「! しっかりしなさいメガヤンマ! かわして『エアスラッシュ』!」

メガヤンマ 「! メガッ!」

メガヤンマは普段大人しそうなウスバネ選手のイメージを吹き飛ばす一喝で目を覚まし、一気に浮上して『パワージェム』を避けた。
さらにカウンターで『エアスラッシュ』をビークインは直撃する。

ビークイン 「クィィィーッ!?」

ヒカリ 「しまっ!? ビークイン!?」

ビークインは後ろ向けに倒れ苦しそうにする。
まだバトル・オフとは判断されていないものの、これがまさに虫の息だった。

ヒカリ (まずいこれじゃ『かいふくしれい』は間に合わない! どうするどうする!?)

ウスバネ 「よしトドメよ! げんしの……!」

ビィィィィィィィ――!

ヒカリ 「!?」

突然笛が鳴る。
何事かと思ったその時。

ナナコ 『タイムアーップ! そこまで!』
ナナコ 『さぁ、力と技のぶつかり合いのような様相になっちゃったけど勝ったのはぁ!?』

ヒカリ:80
ウスバネ:70

ナナコ 『winnerヒカリ選手! 最後はタイムアップに救われる結果になったが見事ソノオ大会優勝だっ!!』

ヒカリ 「た……助かったぁぁ……」

あたしは脱力してその場にへたれ込む。
あの一瞬、もう負けたと思った。
ビークインは辛うじてメガヤンマの一撃を耐えられただけだし、もう動くことも出来なかった。
もしタイムアウトがなければ負けていたのはこっちだった。

ビークイン 「……ビィ」

ビークインは自身の身体を『かいふくしれい』でケアし、起き上がるとあたしのそばに戻ってくる。
ビークインはへたれ込むあたしになんだが自分が不甲斐ないといった表情を見せていた。
あたしはそんなビークインに立ち上がって頭を撫でてあげる。

ヒカリ 「よしよし♪ ビーは悪くないない。勝ったんだから誇らしくしなさいな」

ビークイン 「ビィ……」

ヒカリ 「ビークイン、優勝おめでと、アンタのおかげよ♪」

ビークイン 「……ビ♪」

ビークインはようやく嬉しそうな顔をしてくれた。
あたしはそんなビークインのあたまをワシワシとなでまくった。

ウスバネ 「……優勝おめでとう」

ヒカリ 「え? あ、ありがとうございます」

突然ウスバネさんが近寄ってきて優勝を称えてくれる。
そっと手を差し出してきたので私はちょっとこの展開には戸惑ったけどその手を握って握手を交わした。

ヒカリ 「今回の勝利時間に救われました、素直に喜べませんね」

ウスバネ 「負けは負けよ、ありがとう」

ヒカリ 「こちらこそ、ウスバネさんが力押しばかりだったんで、ちょっと戸惑いましたけど」

ウスバネ 「え、そうかしら?」

ヒカリ 「そりゃもう、まるでポケモンリーグ! 受ける方としてはたまったもんじゃない」

ウスバネ 「……そう」

あたしがポケモンリーグという単語を出すと突然ウスバネさんは暗い顔をした。
ほんの一瞬程度ではあったが明らかに憂いを落としたのだ。

ウスバネ 「またコンテストで会いましょう、次はもっとコーディネーターらしくなってみせるわ」

ヒカリ 「その時はもっとこっちもポケモンのレベル上げてますよ!」

あたしたちは改めてガシッと握手をかわすのだった。
こうしてポケモンコンテストソノオ大会は幕を閉じる。
決して満足のいく勝利ではないけれど、この勝利でようやくあたしはグランドフェスティバルに王手をかけた。

ヒカリ 「リボンゲットでだいじょ〜ぶ! な〜んてね♪」







ポケットモンスターパール編 第23話 「ポケモンコンテスト、花薫る決戦!」 完







おまけ

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