ポケットモンスター パール編




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おまけ





ブォーン……!

『まもなくこうてつ島行きの船がでます』

ヒカリ 「レンさん、早く早く!」

レン 「わ、わわっ!」







第26話 『ゲンとレンと』




ヒカリ 「……はぁ、心臓に悪い」

コウキ君と別れて、レンさんとこうてつ島へ向かうことになった私ヒカリ。
どうやらこの異色のタッグの最初の冒険は船に乗ることから始まるようだった。

レン 「ふぅ〜……間に合ってよかったぁ〜」

ヒカリ 「よかったぁ〜……じゃないですよぉ」

それは船に乗る少し前。
こうてつ島とを繋ぐ定期船に何事もなく乗った私。
ところがレンさんはというと何時まで経っても定期船乗り場にやってこない。
最初のうちはなにかあったのか程度。

しかし、5分、10分と経つと次第焦りも生まれてくる。
もしかしたら何か大事に巻き込まれたんじゃないか?
しかし、すでに乗船チケットを購入しているためこのまま降りたら、確実に乗り遅れる。
と、その時出現するレンさん。
ストールを不便そうに抑えて颯爽と走りこんでくる。

だが、タッチの差で船が出発。
思わず焦る私。
ところが、レンさんはと言うとチケットを然るべき人に渡すと突然、海へと走りこむ!

レン 「さぁて、じゃあ久しぶりにウォームアップいくよ! フッ君!」

フローゼル 「フローッ!」

突然レンさんがボールを投げる、出てきたのはオスのフローゼルだった。
フローゼルが一瞬早く海へと飛び込むと、続いてレンさんが海へと飛び込む。
レンさんが着水する間際、フローゼルが海面から顔を出してレンさんを背中に乗せると、一気に泳ぎ始めた。
船との速度差は歴然、だが船が巻き起こす波は強く、更に今日は若干シケ気味。
だがフローゼルはその波を超えて、どんどん船へと近づく。
だが、肝心の船の横に付いても海面から船上まで約10メートル。
ここからが本当の問題だ。

レン 「フッ君よろしく」

フローゼル 「フロッ!」

しっかりとフローゼルにしがみつくレンさん。
直後フローゼルが……。

ヒカリ 「と、とんだぁ!?」

そう、それはまるでトビウオのように。
なんとフローゼルは10メートルどころか、20メートルはジャンプしたのだ。
そのまま、華麗に船上に着地。


――というわけで、無事レンさんは船に乗船。
……て、いいのこれ?

レン 「むぅ……服濡れてる……フロさんが衰えたかなぁ? それとも単純に僕が大きくなったから?」

ヒカリ 「多分後者だと思います」

フローゼルの上に乗っていたんだから濡れて当然だろう。
それとも昔はそんなに人を乗せて泳ぐのが上手だったのか?
……て、想像したらやっぱりありえないし。

レン 「……さて、こうてつ島は、あ、あれかな?」

レンさんはフローゼルをモンスターボールに戻すときょろきょろと船の行く先を見る。
服が濡れて気にしていたのに、潮風は気にしないのだろうか?
わりと気持ちよさそうに風を受けて、髪の毛が宙を待っていた。

……この人、やっぱり美しすぎる。
本当に男性でしょうか? 失礼ながら私女性ですが、一瞬惚れてしまいそうなほど美しかったのですよ、彼女……じゃなかった彼。
濡れた藍色の髪は艶を得て太陽の光の反射とともに美しく輝き、顔はやや童顔ながらも凛としており美しい。
そしてなによりもその女性的な体格、包まれれば母親に抱擁されている気分になれるであろうこと請け合いの細い腕。
この人……反則すぎる!

レン 「ねぇヒカリちゃん、あれこうてつ島だよね?」

ヒカリ 「え? あ……そうですね、はい」

思わず見入ってしまった……不覚、この私が……。
目の前にはすでに剥げた岩山が姿を表している。
かつては良質の鉄鉱石を排出する炭鉱だったらしいが、現在では採掘も終わり、野生のポケモンが静かに暮らすだけの寂しい島となった。
今では、ここで修行するとトレーナーや、ポケモンのゲットのためにきたトレーナーと、そんなトレーナーを監視する巡査員がいるくらい。
目の前にコテージがみえてきて、船は桟橋につくと私たちは船から降りた。




ヒカリ 「……こうてつ島、か」

表面上はただの岩山だが、その中はかなり複雑な坑道が広がり、かつての作業の跡地が見て取れる。
出てくるポケモンも洞窟ではおなじみのイシツブテにズバット……だけではなく、日本中探してもおそらく数少ないハガネールの生息地となっている。
ハガネールはイワークにメタルコートを持たせて通信環境を通過させると進化するというのが今では有名だが、昔はイワークとハガネールは別のポケモンと思われていた。
だが、近年にオーキド博士がジョウト地方で書いた論文にはイワークが高密度下の圧力に長い時間晒されると、イワークの体成分の結合がより凝固して、ハガネールへと変化するとあった。
強烈な圧力で変化するもので有名なのはやはり炭素だろう。
炭素は一般的なものなら鉛筆の芯が有名だけど、凝固すれば木炭……さらにダイアモンドとなる。
一応ハガネールはこの島の記念物扱い。
捕まえるのは問題ないけど、大量ゲットはご遠慮となっている。

レン 「……全然鉄の匂いしないね?」

ヒカリ 「島の外ですから当然でしょう」

レン 「それもそっだね♪ じゃ……とりあえずコテージ行こうか?」

ヒカリ 「わかりました」

私たちはまず島の中腹にそびえる木造のコテージを目指して歩く。
中腹なので、当然山を登っていくわけだけど、道はしっかりと舗装されており、階段となって私たちは一段一段を登っていく。
すると。

男性 「ようこそ、こうてつじまへ、お嬢さん方」

深い青のカジュアルスーツを着て、その服とセットと思われる帽子を被った若い男性が階段の端の落下防止柵に持たれながらそう言った。
誰だろう? 私は多少疑いながらも、とりあえずペコリと頭を下げた。

ヒカリ 「……どうも、初めまして」

すると男性はニッコリと笑うと私たちに駆け寄ってくる。
何をする気だろうと悠長に構えていると、突然男性は私の両手を取って握手をしてきた。
相当フレンドリーな人ねぇ……と直感する。
人によってはセクハラ扱いするかもしれないけれど私はそこまで心は狭くない。

男性 「いいねぇ、初々しくて、うん。私はゲン、訳あってこの島に滞在している」

ゲン……という男性はニコニコしながらそう言って手を離してくれない。
見た目からも年上だというのはわかるものの、さすがにちょっと鬱陶しく思えてきた。
いい加減手を無理やり解こうとしたときに、突然後ろのレンさんが声をあげる。

レン 「ゲンさん? あなたが僕に手紙をくれたゲンさんなんですか?」

ゲン 「おっ、とすると君がレン君か、君の噂は兼ね兼ね聞いているよ」

……ん? レンさんとゲンさんは知り合いなの?
気がつくとゲンさんは私の手を離して、レンさんの方に向かった。
レンさんはパァッと顔を明るくするとまるで抱きつくようにゲンさんに近寄る。

ゲン 「ははは、噂どおりの美貌だ! これじゃ知らない人間は間違いなく惚れてしまうだろうな!」

ヒカリ (……知っていても惚れちゃいますけどね)

私は心のなかで苦笑する。
女性から見てもレンさんは綺麗すぎる。
男性から見たら……そりゃあもう。
ジュンとかには絶対に見せたくない人ね!

レン 「あはは! ゲンさんって面白い人なんですね! それじゃ調査に行きましょうか!」

ゲン 「ああ……と、言いたいところだが……私が依頼したのはレン君だけのはずだが?」

そう言うと突然、不思議そうな顔でゲンさんは私を見た。
あ、そうか……ゲンさんからすると何故私がここにいるのか疑問に思うのは仕方がない。
私はゲンさんから手紙をもらってここに来たわけじゃない。
あくまでポケモン図鑑完成のためにきたにすぎないからだ。

レン 「あはは♪ 彼女はねミオでたまたま会ったの! それでご一緒にどうですか? ってね!」

ゲン 「……なるほど。まぁレン君が許可したってことは問題ないとは思うが、一応チェックをさせてもらおうか」

そう言ってフッとゲンさんは微笑を浮かべると腰にぶら下げたボールラックからモンスタボールをひとつ取り出す。

ゲン 「でてこい、ルカリオ」

ルカリオ 「……ルッカ」

ゲンさんはボールを地面に落とすと、そこから一匹の獣型のポケモンが姿を現した。
あのスモモちゃんも使っていたポケモン……はどうポケモンのルカリオだ。
震えるぞハート、燃える血液のビート……て、もう最近の人はこのネタわからないかなぁ。
私のパパとかよくズームパンチやってくれたのに。
余談だけどジュプトルの『リーフブレード』って輝彩滑刀のモードよね?

レン 「ゲンさん?」

ゲン 「まずは君の実力が知りたい……かかってきてくれるかい?」

ヒカリ 「ポケモンバトルですか、わかりました……それといい忘れていましけれど私はヒカリです。それじゃ出てきてポッタイシ!」

ポッタイシ 「ポッタ!」

私はボールを投げると、そこからポッタイシが姿を表す。
ポッタイシは久しぶりの出番ということもあり張り切っているようだった。

ゲン 「ほお、ポッタイシか……よく鍛えられているのが分かるな」

ゲンさんはポッタイシを見ると目を細めて笑っていた。
帽子を深くかぶり顔に影がかかってまるで、獲物を見る獣のような瞳に見えた。
ルカリオ……あまりいい思い出とはいえないわね、苦戦したし。

ヒカリ 「先制攻撃よ! ポッタイシ、『バブルこうせん』!」

私はすかさずポッタイシに命令する。
ポッタイシは口から『バブルこうせん』を放ち、それがルカリオに襲いかかる。

ゲン 「相手の方が素早いと想定される場合先制攻撃はベストとはいえないな。ルカリオ、『しんそく』!」

ルカリオ 「!!」

冷静な態度を覆さないゲンさんはあくまで冷静にルカリオに命令した。
ルカリオは命令を聞くと直ぐ様走りだす。
それは目で追える速度ではなく、そしてさらに驚かされるのは!

ヒカリ 「うそっ!? 『バブルこうせん』の合間をっ!?」

なんとルカリオは『しんそく』の速度を殺さずに『バブルこうせん』のバブルとバブルの合間を縫うように最短ルートで走り抜けてきた。
こんな避け方は見たことがない、あのフロさんでも何発かは被弾するのに!

ゲン 「トレーナーが驚きを口にするのは感心しませんな」

ヒカリ 「!? ポッタイシ、地面に『メタルクロー』!」

ポッタイシ 「ポッタ!」

レン (地面に?)

私の命令はかなりぎりぎりの時間、ルカリオの攻撃が命中する前にやれるかは正直微妙な所。
でも、ここで躓くとそのまま逝く可能性がある以上、やるしかない!

ポッタイシ 「ポッターー!!」

ポッタイシのメタルクローが地面を叩くと、地表の表面が吹き飛ぶ。
そこへルカリオは当然飛び込んでくるわけ。

ルカリオ 「ッ!? ルカッ!」

ドカァ!

ルカリオの拳打が性格にポッタイシの腹部を貫く。
直撃ならば一撃でダウンもありえたかもしれないが、事前に地面を叩くことによりルカリオの顔面に砂が飛び散り、正確に急所を押さえることだけは阻止した。

ヒカリ 「よし、このまま――ッ!」

ゲン 「『はどうだん』」

ゲンさんの小さな声はバトルの中ではまるで聞こえない小さなもの。
それでもルカリオはその命令を正確に聞き取り、実行する。
ルカリオという種にはそういう能力がある。
ルカリオの『しんそく』を耐えて、クロスレンジの射程距離。
ポッタイシの反撃と思った瞬間にはすでに、ルカリオの手に波動がねられている。
『しんそく』の反動、ルカリオ自身の体も流されて距離はほぼ密着状態。
そこで『はどうだん』は放たれた。

ズバァン!

ヒカリ 「!? ポッタイシ!?」

ポッタイシの体が宙を舞う。
そのまま地面に叩きつけられたポッタイシはよろよろと立ち上がるが、すでに戦うだけの体力はない。
私はこのバトルを止めようとすると。

ゲン 「――ここまでだな」

ヒカリ 「……く」

なにもできなかった。
勝てないにしても、いいところを見せるつもりだったのに、その見せ場さえなかった……。
レベルが違いすぎるのか……。

ヒカリ 「参りました」

私はモンスターボールを握りしめると、歯ぎしりをする思いでそう言った。
いつまで経っても負けるのは苦しい。
どんなに頑張っても負ける時は負ける……それはわかるけど、これほど悔しいことはない。

ゲン 「……ふむ、荒削りだが実力は本物と言えるか」

ゲンさんはそういうと、懐から『かいふくのくすり』を取り出すと、それをポッタイシに与えてくれた。
ポッタイシは直ぐ様元気になるが、私の気分は到底晴れるものではない。

レン 「ヒカリちゃん、気にする必要ないよ、ヒカリちゃんは十分強いもん」

ヒカリ 「……十分じゃ、駄目なんです」

レン 「……え?」

そう……十分じゃだめなんだ。
私は……何も進歩していないの?
マーズに負けて、ジュピターに申し訳程度に勝った。
今の力では到底ギンガ団とまともにぶつかりあうことは不可能。
こんな力じゃチンピラには勝てても……ッ!

ゲン 「ヒカリ君、といったかな?」

ヒカリ 「……?」

ゲン 「とりあえず悪い点をザラッと述べておこう、感情をコントロールしきれていない。これはポケモンに対して負担をかける場合がある」
ゲン 「目から得た情報の認識が不足している。百聞は一見にしかずという、まずは情報を制しよう」
ゲン 「実力以上の働きを求めている。これもポケモンに対して負荷となる、気をつけたほうがいい」
ゲン 「後命令に正確性がない、奇抜な選択は時に力を発揮するが、まずは基本を覚えることだ」
ゲン 「最後に……ポケモンを信じてあげてくれ、これで終わりだ」

ヒカリ 「!? わたしが……私がポケモンを信じてないというんですか!?」

私は最後の言葉は聞き捨てならなかった。
私はポケモンを信じている、だからこそポケモンたちと頑張ってきた、それを侮辱するのならば誰であれ許せない!

ゲン 「ふぅ……仕方ない、あまりルーキーを傷つけたくはないがはっきり言っておこう」

ヒカリ 「! 私はルーキーじゃないわ!」

ゲン 「……ベテランでもルーキーでもどちらでもいいさ。君は自分のことをやれば何だってできる熟練のトレーナーと思っているだろう……だからこそ負けたときの反動が大きい」
ゲン 「今回のことにしても、君は私とのバトルでレベルが違うと思ったろう? だが実際はほんの少しこちらの方がレベルが高いだけだ」

ヒカリ 「ッ!?」

(ジュピター 「私のポケモンはあなたのポケモンとそんなにレベル差はないわ」)

ジュピターとの戦いの時を一瞬思い出してしまう。
ゲンさんの言葉、ジュピターが言ったセリフと一緒……?
私のポケモンとゲンさんのポケモンのレベルは同じくらい……と?

ゲン 「私とて実力は本物たちから比べると下の下だ」

レン 「ええ? そんなことないと思いますよ?」

ゲン 「それは重疊、とはいえ本物であるレン君に比べられると恥ずかしくてとてもやっていけませんよ」
ゲン 「なぜ同じレベルなのにこうまで実力差がでるのか……それは簡単だが実に奥が深い、トレーナーのレベル差だ」
ゲン 「君はちょっとずつ勝っていき、それを糧に実力を上げてきた……そしてそれは自分の実力だと思っている、実際にはその上もいるというのにだ」
ゲン 「私が君にポケモンを信じて欲しいというのは、君のトレーナーとしての実力も認めて欲しいということだ」

ヒカリ 「……私の……トレーナーとしての実力……?」

ゲン 「君は自分の実力に心酔して、ポケモンを想うことを勘違いしている……ポケモンを大切にすることと、ポケモンを信じることは別だ」
ゲン 「君が信じているのはポケモンの力じゃない、自分の築き上げた実績だ」

ヒカリ 「……ッ!?」

……本心を貫かれた、そんな気分だった。
私は……本当はポケモンを信じていなかった?
そんなことが……そんなことがあるわけ。

ヒカリ 「そ、そんなの嘘よ! 私はポケモンを……」

ゲン 「これ以上自分を偽るな! 君というちっぽけな存在をその程度の価値に収めて本当に満足なのか!?」

ヒカリ 「!?」

ゲンさんが突然怒鳴ってくる。
私はビックリして体を萎縮させてしまう。

ゲン 「……私はひとつだけ君に謝らないといけないことがある。私は波動というエネルギーを操る事ができる術者だ」
ゲン 「この波動を使えば、相手の気配は勿論のこと、感情や何を考えているのかもわかるようになってしまう……だから失礼ながらバトルの間も君の真意はずっと私に真摯に教えてくれた……」

ヒカリ 「!?」

私の心が覗かれた!?
じょ、冗談じゃないわ! な、なんなのよそれ!
ありえない……ありえないわ!

ゲン 「ありえないと思ってくれても結構、だが……私はそう言う存在だ、ある意味では普通のトレーナーより上にいってしまうのは仕方がない」

ヒカリ 「く……そんなの……ないわよ……じゃあなに、私が信じてきたものはなんだったていうのよ!? こんなの……あんまりよ!?」

私は地面に膝を落として泣いてしまった。
泣けども泣けども涙は滝のようにこぼれ落ちてしまう。
なんで泣いてしまうのか……それさえ私にはわからない。
今まで築き上げた自尊心を完全に砕かれたから?
それとも本当にポケモンのことを想っているからななの?
ゲンさんは私に自分に嘘ついているというけれど、私にはなにが嘘なのかわからない。

ゲン 「君は優秀なトレーナーだ、それはポケモンを見てもよくわかる、これほど鍛えられたポッタイシは初めて見たよ」

ヒカリ 「やめて! やめてよ! そんな言葉聞きたくない」

レン 「……やれやれ、ヒカリちゃん。よく聞いて私もあなたと同じ悩みを抱いたことがあるわ……」

ヒカリ 「? レンさん……じゃ、ない……?」

私は顔を上げると、そこにはレンさんがいた。
レンさんは私の体を抱きしめると、ゆっくりと思い出話を語ってくれる。

レン 「私は昔はポケモンが嫌いだった……ううん、嫌いというよりは苦手だったの」
レン 「ポケモンに臆病でね、本当なら……一生ポケモンと触れ合うことだって無かったはず」
レン 「でもね……ある人と出会って、ポケモンを愛するということを教えられたの……信じられる? 私10歳でヒーラーのお仕事やったのよ? まぁといってもお手伝いに過ぎないけれどね」
レン 「12歳の時、私はポケモントレーナーになった。ある人と再会するために……その人は、とんでもない高みにいた、ポケモンリーグで優勝するほどに」
レン 「4年前のホウエン大会ベスト4の決戦……私のその人と戦った……絶望したわぁ……その人は逆立ちしても敵わないほど強いんだもの」
レン 「でも……私が築き上げた実績がなんの意味もない、なんにも通用しないのよ? それは惨めなものだったわ……でも……その人はこんなこと言ったら笑うような人なのよ?」
レン 「トレーナーはポケモンの付属品だってさぁ、トレーナーはポケモンが受ける痛みがわからないから、ポケモンの上にいるのは失礼だって……そう言うんだよ?」
レン 「だから気づいたの……その人が言ったポケモンを愛するっていう意味を……」

ヒカリ 「……レンさん? もしかして泣いてます?」

レン 「うん? ふふ……そうかもね」

レンさんの頬から涙がこぼれて、私の頬を伝うのがわかった。
何が哀しいんだろうか……私にはそれがわからない。
気がつけば私の涙は止まっている。

レン 「ヒカリちゃん! あなたはまだまだ発展途上! 気にすることなんて無いわ! それとゲンさん! あなたちょっと言い過ぎよ! 物には限度というものがあるでしょう!?」

ゲン 「!? あ、ああ……す、済まない……て、君二重人格?」

レン 「まぁ、そんなところね」

二重人格かというと一応肯定するレンさん。
え? レンさんって二重人格だったの?
だから私は違和感を感じたのかな……。
全然怖くはなかったけど、コウキ君の時と同じような感じを受けた……二重人格とかそういうベクトルじゃない。
同じなのに同じじゃないみたいな感じ……あれはなんだったんだろう?

レン 「ほら、ヒカリちゃん立って♪」

ヒカリ 「あ……は、はい」

私はレンさんに手を引かれて、その場から立ち上がった。
見ると服に砂がついており、レンさんは私の誇りをパッパッと払ってくれる。

レン 「ふふふ、ヒカリちゃん。あなたは十分優秀なトレーナーよ、大丈夫、あなたには元気な足もあれば、自由に動く手もある。今は駄目でもいつかなんとかなるわ」

ヒカリ 「……いつかって」

私は苦笑いを浮かべてしまう。
やっぱりこののほほんとした人格は変わらないのだろうか?
私はいつかでは間に合わないというのに……。

レン 「ヒカリちゃんは私と違ってポケモンが大好きでしょ? なら大丈夫よ♪」

ゲン 「おいおい、私の言動を全否定する気かい?」

レン 「あら全否定もなにも、そもそも私とあなたじゃ持論が違うもの、仕方が無いでしょ?」
レン 「それともなに? 貴方が本物と認めたトレーナーを否定しちゃうわけ?」

ゲン 「……全く、こんな人物とは思いもよらなかった……もっと天真爛漫だとおもっていたんだが、どうして好々爺としてしたたか」

レン 「あら失礼ね、せめてこんな可愛い子が女の子のはずがないとか、それくらいにしてくれない?」

ヒカリ 「それだと論点がずれます」

……まぁ、それ以前の問題なんだけど。

レン 「トレーナーが自分を信じる……結構じゃない、自分に自信がなければ的確な命令は出せないわよ」
レン 「ただまぁ……ポケモンのことを信じるっていうのは、難しいことね。他人を信じるということは自分を捨てるということ……これは本当に難しいわ」
レン 「すぐにできるようになることもできるけど……まぁ、これは時間しか解決しないでしょ」

ヒカリ 「……」

ポケモンを信じる……。
私はずっとポケモンを愛しているし、信じていると思っている。
この想いは間違いなの、それとも正しいの?

レン 「さて、まぁそれじゃ調査に行きましょうか?」

ゲン 「……なんだか気がついたら私が悪役にされてないか?」

レン 「気のせい気のせい♪」

レンさんはそう言うと山の奥へと進んでいく。
ゲンさんは帽子の上から頭を掻くとその後ろを付いて行った。
私は慌ててポッタイシをボールに戻すと、その後ろを付いていく。



ヒカリ 「? そういえばゲンさんはルカリオをボールに戻さないんですか?」

ゲン 「うん? ああ……普段からボールに入れて無いからな、それにレーダーがわりになる」

ルカリオは正確に波動を読み取ることができる。
波動を読み取れば、さきほどのゲンさんからわかるように、感情はおろか、生物の気配すら読み取るのだ。
おそらく『バブルこうせん』を正確に避けれたのもその力の恩恵だろう。
でも、ゲンさん自身が波動の使い手なのにルカリオに頼る必要ってあるのかな?

ゲン 「ふう……一応入っておくけど、僕は不完全でね、ほうっておくと波動の情報が駄々漏れで入ってくるの、だから疲れるのだよ」
ゲン 「だからこそ、ルカリオに頼るの」

ヒカリ 「……心を読むのは悪い趣味だと思います」

ゲン 「君、最初っから今までずっと私に悪意向けてるねぇ……たしかにきつい言葉を言ったけどあんまりじゃない?」

レン 「あなたトレーナーとしても波動使いとしても優秀だけど、人間として欠陥あるわよ……デリカシーがなさすぎるわ、そういうのわね言わなきゃいいのよ」

ヒカリ 「心の中見られているとわかりつつ、何も言われないとそれはそれで嫌です」

レン 「大丈夫、知らないものに真理はないから」

ヒカリ 「?」

レンさんは構わずどんどん先へと進む。

レン 「あら……行き止まり?」

ゲン 「ああ、そっちは行き止まり、向かうのは反対側だよ」

ある程度進んで、分かれ道にきたとき、レンさんは構わず左を選んだが、そこは行き止まりだった。
行き止まりに着いた後に反対だというゲンさんに、心なしかレンさんの体が震えていた。

レン 「よくわかったわ……あなた、デリカシーどこから、空気も読めないわね、波動が読めるくせに、その他は何も読めないんだ」

ゲン 「ああ言えばこう言う……そんなんだから私は波動使いというのは極力隠しているのだが」

ちなみにこの行き止まりの件は波動は関係ないと思う。
やっぱりこのゲンさん、絶対空気よめないタイプだ。

ゲン 「ふぅ……これで私絶対記憶の持ち主だったら、一日で頭がパンクする気がするよ」

ルカリオ 「……ルク」

突然なにを言うのか……と思うと、突然ルカリオもコクリとうなずき構える。

レン 「あら? なにかキャッチしたみたいね」

ゲン 「ああ、どうやら招かねざる客もいるらしい……何でもかんでも入ってきてしまうのは本当に厄介だな」

招かれざる客……?
そう聞くと私は否が応にも構えてしまった。

ゲン 「心配しなくてもいい、まだ先さ……だが、嫌な予感もするし注意は必要か」

レン 「そうね」

私たちはそう言って山の地下へと下っていく。
中の坑道は本当に複雑で、正直ゲンさんがいなかったら確実に道に迷っていただろう。

ゲン 「――さっそくおでましか」

ヒカリ 「え?」

地下へと潜り、暗い中を進んでいき、階段を下り更に下の階へ。
そうやって進んでいくと、突然先頭をあるくゲンさんが立ち止まり、帽子を深く被ってやれやれとため息をつく。
一体どうしたのだろう?

ヒカリ 「あの、一体……?」

レン 「ヒカリちゃん、目の前よぉく見て」

ヒカリ 「目の前?」

? 「グググググ……」

ヒカリ 「?」

何か唸り声のようなものが聞こえる。
よおく目の前をみると、何か壁がある。
私は声を聞き、上を見上げると無数のイワークやハガネールが待ち構えていた。

ヒカリ 「へ? ちょ……え?」

薄暗さも相まってあまりの大きさに気がつかなかった。
その唸り声はハガネールの歯軋りの音だったようだった。
て……冷静に分析している暇なさそう!?

ゲン 「ふぅ……落ち着いてくれ……と言ったところで聞いてくれるわけもないか」

ハガネール 「ガァァァネェェェェェェェ!!!」

突然ハガネールが巨体を唸らせ襲ってくる。
私は慌ててモンスターボールを投げようとするが、その手はレンさんに阻まれた。

レン 「ヒカリちゃん、ここから先は私たちの戦いを見ておきなさい」

ヒカリ 「え? でもっ!」

なんとレンさんが見ていろという。
だが、相手は野生とはいえかなりの数がいる。
人数は多いほどいいと思うけど。

レン 「ふふ、見ることも戦いよ。よぉく観察してあなたの糧にしてね?」

ヒカリ 「あ……はぁ」

レンさんはそう言うと、懐からボールを取り出し、それを投げた。
そこから出てきたのはフローゼル。
あの荒波にも打ち勝った、レンさんのフローゼルだった。

レン 「いくよ、フローゼル。まずはかるぅくウォームアップといきましょうか?」

フローゼル 「……フロ」

レンさんは楽しそうに微笑むと、周りを見渡しフローゼルに命令も与えない。
しばらくフローゼルもチラリと振り返りレンさんの様子を伺っていたがすぐに何を思ったかまた正面を向いた。
ゲンさんの方を見ると帽子を深くかぶり、その表情は見えない。

ルカリオ 「……」

ポケモンの方は深くは語らない性格なのか、静かに構えて様子を見た。

ハガネール 「ハーガネー!」

ハガネールが吠えると、一斉にとりまきのイワークが襲いかかってきた。

レン 「フローゼル、『うずしお』」

フローゼル 「フロッ!」

フローゼルはレンさんの命令を受けると口から水を垂れ流しながら、両手でろくろを回すようにクルクルと小さな渦潮を創りだす。
しかしそれもすぐに大きくなりそれを頭上で支えると、イワークの集団に投げつけた。

イワーク 「イワッ!?」

イワークのように大きな巨体が洞窟に犇めき合うとそれだけで圧迫感は相当な物になる。
それだけに、イワークはそれ自身が固まるとなかなか身動きが取れにくい。
レンさんのフローゼルはそのイワークたちの集団にむけて『うずしお』を放ち、イワークたちが『うずしお』に巻き込まれて一箇所に押し込まれる。

ゲン 「ルカリオ、『メタルクロー』。野生のポケモン相手だ、ほどほどにな」

ルカリオ 「……ルク!」

ルカリオは命令を受けると渦潮の渦中へと飛び込み、イワークたちに硬質化した手の甲の突起で『メタルクロー』をイワークたちに放ち、軽く戦闘不能に落としていく。
その所業はあまりに鮮やかで、あっという間に野生のポケモンは減っていった。

レン 「フィニッシュはどうする?」

ゲン 「お任せしますよ」

レン 「ん〜、フローゼル『アクアジェット』」

気がついたら相手はもう一匹、一番後ろにいるハガネールだけとなった。
どちらが最後を飾るかと相談の結果、レンさんが最後を飾るということになりフローゼルが水を纏ってハガネールに突っ込む。
やり方はコウキ君のフロさんので見慣れているし、同じ種類のポケモンだけに戦い方も似ている。
……だけど、どうせどこかで規格外なところあるんだろうな。

フローゼル 「フロッ!」

ハガネール 「ハ、ハガーッ!?」

ハガネールはフローゼルの『アクアジェット』の一撃に怯む。
だけどハガネールはいかに水に弱いといえど、その豊富で高い物理防御力が相手では『アクアジェット』の効果は薄い。
フローゼルとハガネールが交差して、互いが背中を合わせた状態。
だが……次の瞬間にはハガネールが前のめりに倒れた。

あたりに砂埃が飛び散る。

レン 「うーん、やっぱり勘が鈍ったかなぁ? 『アクアジェット』一発で終わると思ったのに『ソニックブーム』のおまけ付きか」

フローゼル 「……フロ」

フローゼルは済まないというふうに自分の頭を叩いた。
過度の暴行を加えたくないという両者の優しさの結果だろう。

ヒカリ 「ケホケホッ! これで終わりですか?」

レンさんとゲンさんは不思議なほど清々しく佇んでいるがこっちはあまりの埃っぽさにむせている。
ああ……戦っている間ってそういうの気づかないんだね。

レン 「まさか、今のはちょっとした現地のポケモンの歓迎……氷山の一角ですらないわ」

ゲン 「申し訳ないね、こうてつ島のポケモンたちは縄張り意識が強いから奥へ進むにはどうしても……ね?」

ヒカリ 「……」

前フリで招かれざる客とか言っていたくせに今のバトルは一切関係なしですか……。

レン 「さて、ヒカリちゃんは私たちのバトルを見てなにかわかったかな?」

ヒカリ 「え? えと……」

私は二人のバトルをみたけど、別段そんなに変わった戦い方をしていたようにはみえない。
特に大きな技術を用いたわけでもないし、何が私と違うのか……?

レン 「うーん……まぁもう少し時間を見積りましょうか」

レンさんがそう言うとまた道を歩きだす。
レンさんとしては当てが外れた……ということだろうか。

レン 「ゲンさん! こっちでいいのーっ?」

ゲン 「ええ、そうです」

私たちはそのまま奥へと進む。
私はその間ずっと何が違うのかを考えていた。



ゲン 「……!」

ヒカリ 「? どうしたんですゲンさん?」

突然ゲンさんが足を止める。
一体何があったのかと思い、慌てて私たちも足を止めた。

ゲン 「来るぞ……ちょっと気をつけろ」

ヒカリ 「へっ? て……わわっ!?」

ゴゴゴゴゴゴゴ!

突然その場に地震が起きる。
気をつけろって……地震のこと!?

ハガネール 「ハーガーーーッ!」

ヒカリ 「わ……わわわぁっ!?」

ルカリオ 「!」

突然地面がせり上がり、そこからハガネールが飛び出してきた。
ルカリオは瞬時に私を抱き抱えると、地面に下ろしてくれる。

ヒカリ 「あ、ありがとうルカリオ」

ルカリオ 「……」

ルカリオは気にするなという風にハガネールの方を向いた。

ハガネール 「ガーネーーッ! ガネーーッ!?」

レン 「……ゲンさん。あのハガネール様子がおかしいわね」

……突然現れたハガネール、その様子はレンさんじゃなくてもわかった。
突然場に現われるとその場をめちゃくちゃにするように暴れまわる。
近くを飛びまわるズバットは慌てて逃げ出し、洞窟そのものを破壊しかねない勢いだった。

ゲン 「なんということを……! ルカリオ、『はっけい』! ハガネールを気絶させろ!」

ルカリオ 「!」

ルカリオは飛び上がり、ハガネールの頭に手を当てると一気に力を開放してハガネールに大ダメージを与える。
ハガネールの巨体が一撃で静かになった。

ゲン 「……すまないハガネール、しばらくここで眠っていてくれ」

ゲンさんはハガネールに近づき、手を当てるとそう言って帽子をまた深くかぶり直した。
そして、立ち上がると大きな声で叫びだす。

ゲン 「見ているんだろう!? ハガネールに何をした!?」

レン 「さて、招かれざる客のご登場か」

ヒカリ 「……!」

レンさんの言葉に私は緊張感を増した。
一体何が出てくるのか……それをずっと待っていると。

ギンガ団員A 「おっとこれは予想外だね」

ギンガ団員B 「ふむ、こうてつ島のポケモンを使ってポケモンを操る研究をしていたのに、妨害されるとは予想外」

ヒカリ 「ギンガ団?」

突然現れたのは下っ端と思われるギンガ団の人間二人だった。
どうしてこんなところにまでギンガ団がいるのかと問いただしたくはあるが、どうせロクでもないのは確定的に明らかだろう。

ヒカリ 「アンタたちここで一体何をしているの!? いや……それよりもアンタたちは何が目的なの!?」

ギンガ団員A 「ふふふ、そんなこと聞いてなんになるのかな? まぁいい……折角上手くいきかけてちょっとハッピーなところに現れたおじゃま虫、身ぐるみならぬポケモンを渡してもらおうか!」

ギンガ団員B 「ははは、そうしようそうしよう! というわけでギンガ団のためにポケモンを差し出しなさい!」

ヒカリ 「誰が――」
レン 「いいわよ」

ヒカリ 「……て、レンさん!?」

ギンガ団員A 「ほお? 中々殊勝な心がけだ、感心感心」

なんと、突然レンさんはポケモン差し出せときたら、いいわよとか言い始める。
さすがに私はそれには度肝を抜かされた。

レン 「ほら、受け取りなさい私のポケモン」

レンさんはそう言うとボールをギンガ団に投げつける。
なんのモンスターボールかはわからなかったがギンガ団をそれを受け取ると一体どんなポケモンなのか気になってボールに顔を近づける。

ギンガ団員B 「ふむ、一体どんなポケモンが入っているんだ?」

レン 「ふふ……ただし」

ゲン (やれやれ……えげつないな)

ギンガ団員たちはボールの開閉スイッチを押してどんなポケモンが入っているのかを確認しようとする。
すると中から出てきたのは……。

マスキッパ 「キッパーッ!」

レン 「その娘はちょっと凶暴よ? 食べられちゃうかもね♪」

ギンガ団員A 「わ、わわわ!? 喰われる喰われる! ギャーーッ!?」

マスキッパはボールから出るとギンガ団の一人を頭から飲み込もうとする。
慌ててもう一人のギンガ団はボールを出し、ポケモンを繰り出した。

ギンガ団員B 「スカンプー! 『つじぎり』です!」

スカンプー 「カップーーッ!」

マスキッパ 「! キッパ!」

スカンプーが飛び上がると、マスキッパは危険を察知してギンガ団員を吐き出し、直ぐ様レンさんの元へと帰ってくる。

レン 「あはは♪ やっぱりあなたたちじゃマスッキは気に入らなかったみたいね」

ギンガ団員A 「くそぉ、もう怒ったぞでてこいズバット!」

ゲン 「ふん……君たちに一応最終勧告としておく。すぐにこの島から出て行け」

ギンガ団員B 「そのような脅しをは通用しないと一応言っておく!」

ゲン 「なら……実力で排除させてもらおう!」

ルカリオ 「ルカッ!」

ルカリオが構えるとゲンさんも構えた。
怒っている……というのがうっすらと分かる。
ゲンさんもルカリオもこうてつ島を荒らされて怒っているんだ。

レン 「マスッキ、かるぅくのしちゃって♪」

マスキッパ 「キッパ!」

……対してレンさんはすごく楽しそう。
見た感じからしても相手は本当に雑魚だと思えるけど、ここまで楽しんでいるというのもなんだかおかしな感じだ。

ヒカリ 「あの……私も手伝いましょうか?」

レン 「え? ああ、いいよいいよ。ゲンさんもいるし」

ヒカリ 「……はぁ」

まぁ、たしかにレンさん一人でも問題ない相手だと思うけれど、大丈夫かなぁ?
……色々と。

ギンガ団員A 「ズバット、『ちょうおんぱ』!」
ギンガ団員B 「スカンプー『きりさく』攻撃!」

ズバット 「ズバッ!」
スカンプー 「カップッ!」

レン 「マスキッパ、『つるのムチ』!」

まずマスキッパは『つるのムチ』でズバットをたたき落とす。
明らかに効果は今ひとつの技だけど、レベルが違いすぎるのか単純にズバットが弱いのか大ダメージをうけていた。

ゲン 「ふぅ、悪いトレーナーといると元がいいポケモンも悪くなる……悲しい話だ、ルカリオ『インファイト』!」

対してこっちはスカンプーの『きりさく』をたやすく避けて、容赦なしの『インファイト』をスカンプーに浴びせる。
スカンプーは大ダメージを受けて、一撃で倒れた。

ギンガ団員B 「ぬ、ぬぅぅっ!? も、もどれスカンプー!」

ゲン 「はぁ……本当につまらない相手だ、ルカリオはどうしたい?」

ルカリオ 「……」

ゲン 「……そうか」

ルカリオは視線だけをゲンさんに向けると、ゲンさんもルカリオがどうしたいかわかったようで、帽子を軽く上げてレンさんの方を見た。

レン 「あら? もうフィニッシュ? しょうがない、マスキッパもう一度『つるのムチ』!」

マスキッパ 「キッパーーッ!」

ズバット 「バーーッ!?」

マスキッパの強烈な『つるのムチ』はズバットに直撃、ズバットは壁面に叩きつけられた。

レン 「ふふ、ぐっちょぶマスッキ♪」

そう言うとレンさんはいつの間にか回収したボールでマスキッパをボールに戻した。
そしてジロリとポケモンを倒されビビっているギンガ団を睨みつけるゲンさんとルカリオ。

ゲン 「もしまだ戦う意志があるのなら、ポケモンを出すといい、その度に君の心が折れるまで叩き伏せてあげよう」

ギンガ団員A 「え、ええい! まぁいい……今回の作戦なんて余興のようなものだ! もどるぞ!」

ギンガ団員B 「あ、ああ! わかった!」

ギンガ団員たちはポケモンをやられると、最初出てきたときの余裕はどこ吹く風と足早にその場から逃げ出した。

レン 「私としてはもうちょっとバトルを楽しみたかったな」

ゲン 「……やれやれ、相手からすればあなたは遊ぶ気でも、相手は熊に襲われている気分でしょうよ」

レン 「あら、失礼ね」

レンさんは心外だと目を見開いたが、すぐにまた目を細めて笑っていた。
なんていうか……レンさんにしろゲンさんにしろ鮮やか……というか余裕を感じられるなぁ。
ん……あれ、これって?

レン 「どお? 今度は分かったかしら?」

丁度私がピンときたときにレンさんが遠くからそんなことを聞いてくる。

ヒカリ 「答えかどうかはわかりません……だけど、二人からは余裕を感じました。バトルに対しての余裕が」

ゲン 「……ほお、やはり優等生だな」

レン 「ふふ、まぁまぁ正解ね」

私たちはギンガ団を追い出すとこうてつ島から出る。
外は日が照っており、今頃コウキ君はジム戦を終えたころだろうか。
コウキ君は勝ったのかな?

レン 「ヒカリちゃん……あなたが本当にポケモンを信じてあげられているのならトレーナーには心に余裕が出来ているはずよ」

ゲン 「人は他人がわからないから、信じることができない……だから信じるというのは本当に難しいことだ、だから人は争うし、ポケモンバトルなんていうゲームまで産み出してしまった」

レン 「一朝一夕では手に入らないわ……信頼ってね」

ヒカリ 「……そう、ですね」

考えてみると、私のバトルはいつも私に余裕なんて無かった。
私が戦ってきた一流の相手たちはみんな心に余裕があった。
そうか……ポケモンを信じているんだ、だから自分が駄目でも余裕があるんだ。
私は自分を信じてた……だから自分がだめになると何もできなかった。
ははは……本当に……本当にだめだなぁ……私って。

ゲン 「さて、レンさん……約束の報酬のことですが」

レン 「ああ、あれは気が変わったわ……ゲンさん、ヒカリちゃんにあげて」

ヒカリ 「? あの何がですか……て、わっ!?」

一体なんのことかと聞こうとすると分かっていましたと言わんばかりにゲンさんが私に卵の入ったケースを押し付けてきた。
それはポケモンのタマゴで何が入っているかは皆目見当もつかない。

ヒカリ 「ポケモンのタマゴですか」

ゲン 「ここから生まれるポケモンはとても繊細だ……ガラスのように繊細で同時に他者を簡単に傷つけてしまいかねない美しい硝子細工の少女に渡すのは多少危険とも思えるけど、可能性にかけてみよう」

ヒカリ 「あ、相変わらず一言多いなぁ……まったく」

レン 「ふふ、あなたは才能の塊よ。精進すれば私より上にだって辿りつけるわ」

ヒカリ 「……あの、ゲンさん。このタマゴ、大事に育てます!」

ゲン 「ああ、兄弟を頼むよ」

私はポケモンのタマゴをありがたく受け取ることにする。
タマゴを信じるって変かもしれないけれど、私は私の思う道を、信じる道を行こうと思う。

レン 「さて、じゃあミオシティに帰りましょうか?」

ゲン 「私はここに残っているよ」

ヒカリ 「はい! ありがとうございました!」

こうして私たちは無事こうてつ島での仕事を終えてミオシティへと帰るのだった。



レン 「そういえば、ポケモン分布図はよかったの?」

ヒカリ 「あっ! 忘れてた!」







ポケットモンスターパール編 第26話 「ゲンとレンと」 完






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