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Rozen Maiden 〜eine neue seele〜



第2話 『友人 〜Freund〜』




『某日 時刻7:30 高峰宅』


ジリリリリウリリリリリリリリリリリリッ!!!

オウ 「…む」

朝早く、シンプルな目覚まし時計がベルを鳴らす。
あまりにけたたましい音で、俺は意識を少しづつ覚醒させていく。
まず、目を開く。
見えるのは天井だ。
そして電気の点いていない電灯が目に映る。
その更に上に木造の古臭い屋根が見え、俺は今自分が部屋で寝ているのだと言うことを理解した。

オウ 「……」

ガバッ!

俺は勢いよく布団を吹っ飛ばす。
朝特有の肌寒さを身に感じ、俺はすぐに着替えに入る。



………。



オウ 「……」

ブゥゥゥゥ…

俺は制服に着替え終わると、いつもの様に食パンを焼く。
古臭いオーブントースターだが、ちゃんと動いてる。
ちなみに、ゴミ捨て場で見つけた物で、もったいないから拾ったのだ。

チンッ!!

オウ 「……」

俺は冷蔵庫からバターを取り出し、焼きあがった食パンを更に移してバターを塗る。

ザリザリザリッ!

少々力を入れすぎたのか、食パンに穴が開いた。
まぁ、食べる分には問題ないので気にしなくてもいいだろう。

オウ 「…いただきます」

? 「…いただきます」

オウ 「………」

一瞬の沈黙。
俺はあんぐりと口を開けたまま、右手に持っている食パンを口の前で止めていた。
そして、そんな俺を無視して一体の紫人形は、バターもつけずに食パンをかじり始めていた。

もぐもぐ…

? 「………」

オウ 「……」

もぐもぐ…

人形はパンの耳に苦戦しながらも、ゆっくりかじっていく。
ハタから見たら、可愛いことこの上ないが、俺はまだどうにも現実が見えていないようだった。

オウ 「……」

? 「………」

もぐもぐ…

? 「……」

もぐ…

やがて、人形はかじるのを止めた。
腹が一杯になったのだろうか?

? 「…味が無い」

オウ 「当たり前だ! 食パンだぞ!?」

俺は的確にツッコム。
いつになったら気づくのかと期待していたが、ここまで遅いとは…
おかげで、食パンが程よく冷めてしまったではないか。

オウ 「ったく…いいかバラスイ、こいつは食パンと言ってだな…基本的に味が無い」
オウ 「だから、味が欲しい場合は、このバターを塗れ」
オウ 「そしたら、塩気が着いて食えるようになる」

俺はそう説明して、食パンを食い始める。
すると、バラスイはバターを手に取り、食パンに丁寧に塗り始めた。

ぬ〜り、ぬ〜り…

薔薇水晶 「…ばたー」

オウ 「んぐんぐっ!」

俺は手早く食パンをコーヒー牛乳と一緒に流し込む。
そして、皿を炊事場に置き、水でさっと流しておく。
後は、学校へ向かうだけだが…時間はまだ余裕だな。

オウ 「おう! いいかバラスイ? 俺は学校に行くが、お前はここにいろよ?」
オウ 「出歩くのは構わんが、人目にはつかないようにしろ!」

薔薇水晶 「…もぐぐ」

バラスイは、食パンを口にくわえながら頷く。
何と言うか…人形がパン食ったり喋るんだからなぁ…世の中進化したもんだ。

オウ 「うっし! んじゃ行ってきます!」

ダダダッ! ガチャッ!! バタンッ! カチリッ!!



………。



オウ 「さってと、鍵も閉めたし…ガスも使ってないから大丈夫だ」
オウ 「バラスイは…まぁ多分大丈夫と信じよう」
オウ 「うしっ、テストがウゼェがこの際どうでもいい!」
オウ 「適当にヤマかけて教科書見てれば、行けるだろ…」

かなり情けないが俺は頭が悪い。
幸い、いつもギリギリで抜けるので何とか凌いではいる。
だが、さすがに冬休み前のテストは自身がない!
何とか、なればいいんだが…

オウ (ならないだろうな…どうせ)

考えてもいい案が出るわけ無い。
この際割り切って、何とかしよう。



………。
……。
…。



オウ 「……」

男子A 「げっ…」
男子B 「やっべ…」

オウ 「…ちっ」

校門を潜って、いきなりふたりの男子学生が俺を見るなり背中丸めて逃げていった。
あいつらは2年の男子で、前に俺に突っかかってきた奴らだ。
カツアゲのつもりで来たんだろうが、返り討ちにしてやった、ふはは。

? 「あ〜っ! 高峰君、おはよう」

オウ 「あん…?」

俺は鬱陶しそうに後ろを振り向く。
すると、いつものように無邪気な笑顔を振りまくメガネ女がいた。
短めのお下げを左右に垂らしており、まぁ…見た目はそんなに悪くは無いだろ。
しっかし、何でまた俺みたいなのに声をかけるのか…

オウ 「…桜田かよ」

俺はそう言って、目を細める。
普通の奴ならこの時点で逃げる。
しかし! こいつはこともあろうに、笑い出すのだからたまった物ではない。
ちなみに、こいつの名前は『桜田 のり』
一応クラスメートだ。

のり 「高嶺君、相変わらずだね〜」
のり 「もうちょっと、愛想良くしてみたら? きっと人気出ると思うんだ〜!」

オウ 「…アホくさ」

俺は軽く一蹴する。
当然だ、何を考えていきなり不良が愛想まくんだ! 気持ち悪いわ!

のり 「あっ、待ってよ高嶺君! そんなに急がなくても〜」

オウ 「やかましい! お前と歩くと色々目立つから嫌なんだ」

事実、こいつにはそれなりの隠れファンがいるのか、男の視線がウザイ。
そもそも、何でこいつが俺に話しかけてくるのか…未だに謎だ。

オウ (入学して、同じクラスになってからと言うもの…会う度に声かけてきやがる)

別に、普通の相手ならそこまで気にも留めないんだが、こいつは例外だ!
何て言うか…その天然ボケを何とかしろ!!と言いたくなる。

オウ 「はぁ…」

のり 「どうしたの? あ! わかった!! テストで悩んでるんでしょ〜?」
のり 「うんうん…高峰君、ちょっと…成績良くないもんね」

桜田はわざと言ってるのか、やや控えめにそう言う。
ダメだ…精神的にきつい。
これから学校が始まると言うのに、いきなりダレそうだ。

オウ 「…もういいから、黙っててくれ」

のり 「あう…ご、ごめんね…また怒らせちゃったかな?」

これもいつも通り、俺がちょっと突っぱねると、こいつはこうやって謝る。
他人に気遣いをかけすぎなんだよ…ったく。

オウ 「……」

カツカツカツッ!

俺は早足で昇降口に向かう。
下駄箱で靴を履き替え、早足で上っていく。
俺たちの教室は2階だ。

のり 「あ…待ってよ〜! 同じクラスなんだから、一緒に…」

オウ 「だったら、急げ…俺は待たん」

カツカツカツッ!

俺はそのまま、桜田の言葉を無視して教室にたどり着いた。



………。



ガララッ!

オウ 「……」

男子A 「それでさ〜…っておい!」

男子B 「やれやれ…今日も機嫌悪そうだぞ」

窓際のふたり組みが俺を見て、目を逸らす。
1学期から変わらず、俺への対応はこんなもんだ。
そして、俺の後ろからドタバタと足音が…

のり 「はぁ…はぁ…もう〜高峰君、足速いよ〜」

オウ 「……」

ドスンッ!

俺は鞄を机の横にかけ、椅子にドカッ!と座った。
両手はズボンのポケットに突っ込み、社長座りで体を休める。

女子A 「…相変わらずの態度よね」

女子B 「ホント…何様のつもりなのか」

ひそひそと、女子の声が聞こえる。
これでも耳ははいい、陰口叩くならもっとひっそりやりやがれ。

のり 「ねぇ…高峰君、もうちょっと皆と仲良くしたら?」

オウ 「…ウザッてぇよ、んなもんやりたくもねぇ」

俺はわざと他の奴らに聞こえるようにそう言う。
全員の視線が俺に集中する。
明らかな敵意だ。
だが、別に知ったことじゃない。
俺は、1学期からこの中で生きてきたんだ。
文句があるなら、言ってきてみろってんだ!

のり 「もう! そんなこと言っちゃダメよ! クラスメートなんだから!」

言ってこられた…畜生。
こいつは本っ当に世話を焼きすぎる。
何で、こんな天然馬鹿が俺の隣の席なのか…しかも席替えは無しと言う。

オウ 「…はぁ」

俺は再びため息。
もう、やる気が出ねぇ…

キーンコーンカーンコーン!

やがて、HRのチャイムが鳴り、担任が入ってくる。
担任は軽くテストのことを説明して、さっさと教室を出て行った。
今日の授業は、国語、数学、体育、社会、化学、美術だ。



………。



教師 「よ〜し、それじゃあ高峰! この文を読んでみろ」

オウ 「ちっ…むかしむかしあるところに〜」

教師 「誰が昔話を読めと言ったぁ! ちゃんと教科書ぐらい開け!!」

のり 「高峰君…ここ、ここ」

桜田が教科書を俺に渡して、場所を教える。
やれやれ…メンドクセェ。



………。



教師 「…で、あるからして、こうなるわけだ! よし、高峰…この式の答えは?」

オウ 「あん…? −3」

教師 「よしよし…あってるな〜、って勘で答えたろ!?」

オウ 「合ってたんならいいじゃねぇか…」

のり 「高嶺君…ちゃんと公式覚えて!」

桜田がまたしても、ノートの切れ端に公式とやらを書いて俺に見せた。
俺は頭を書きながら、それを覚える。
当然、意味はわからん。



………。



教師 「よ〜しっ! 後3週!!」

オウ 「ウザッ…」

のり 「高嶺君、頑張れ〜!」

体育の時間でも声をかけてきやがる…注目されるから止めろと言うのに。
見ると女子は、テニスか…桜田の奴、確かラクロス部だったな…案外運動神経はいいのか。



………。



教師 「…高峰、ここの土地で特徴なのは何だ〜?」

オウ 「エルニーニョ」

教師 「アホか! 土地の話だ! 大体日本の地理だろうが!!」

のり 「高嶺君…ここだよ」

桜田がちりの教科書を開いて、教える…が、意味不明だ。
何で、んなこと覚えなきゃならんのか…



………。



『昼休み 1年教室』


オウ 「くっそ…何で今日に限って集中攻撃がきやがる」

のり 「…先生たちも、高嶺君の成績を何とかしようと思ってるんだよ!」
のり 「それより、今日はお昼一緒に食べよ! 高嶺君、どうせ昼抜きでしょ?」

オウ 「…おう、300円しか持ってねぇからな」
オウ 「だが、施しは受けねぇ…テメェのケツ位はテメェで拭く」
オウ 「昼くらい抜いたって、死にゃしねぇ」
オウ 「お前はお前で、ダチと食ってろよ…こちとら、今まで以上に節制しなきゃならなくなったからな…」

俺はそう言って、腹を抑える。
今にも鳴り出しそうだ…しかし耐えねばならない。
何故なら、今までギリギリで食事を取っていたのに、バラスイが増えたことにより食費が倍化…
しかも予想以上に食いやがる…このままではヤバイ。

のり 「高嶺君、別に気にしなくてもいいよ? 今日はちょっと作りすぎちゃったから…」
のり 「…つい、5人分作っちゃって、ね」

オウ 「…?」

俺は桜田が妙にしんみりとした顔をしたのに気づいた。
そして、同時に気になる、コイツの言動が。

オウ 「…5人? お前の家って両親と弟位しかいないんじゃないのか?」

のり 「えっ!? あっ…あ、あははっ! ちょ、ちょっとね! そ、そう!!」
のり 「やだなぁ…最近、ちょっとペットを飼い始めて! それで、あの!!」

思いっきりうろたえやがる…何か隠してやがるな?
とはいえ、追求するのも悪い気がする…別に知りたいわけじゃないからな。

オウ 「貸せよ…多いなら食ってやる」
オウ 「もったいないからな」

のり 「あ…うん、ありがとう」

桜田はすぐに笑顔に戻る。
やれやれ…こいつは、何かあるってことか。

オウ (くそ…無駄に美味い飯作りやがって)

正直、美味い…前にも何度か食ったことはあるが、やっぱり美味い。
こいつ、確か家では家事全般をこなしてるとかで、相当なヤリ手のようだ。
とりあえず…当面の空腹問題は去ったな。



………。



教師 「よ〜し、高峰! これとこれが反応したら何になる?」

オウ 「…金」

教師 「って、できるわけないだろ! 頼むから教科書くらい読め…」

のり 「高峰君…これは、これとくっつくから…」

本日4度目ヘルプ…視線が痛い。



………。



教師 「は〜い♪ 皆さん、どんな絵ができましたかぁ〜?」
教師 「お〜…高峰君は上手ですね〜♪ これは、人形…ですか?」

オウ 「…まぁ」

全員が全員で俺に注目する。
美術…と言っていいかは知らんが、俺は絵を描くのは得意な方だ。
今回書いたのは人形…それも、バラスイに似た。
服とかはオリジナルで、色も適当だ。
まぁ…背景とかはセピア調でごまかして、椅子に座らせてる…そんな感じの絵だ。

のり 「…高峰君、今日は人形を書いたんだ…あはっ」

オウ 「…?」

何だか、桜田は俺の絵を見て、今まで以上に微笑む。
何だ…こいつ、俺の絵に何か思い出すような笑みを…?



………。



担任 「よ〜しっ、今日はここまで! 桜田は、後で職員室に来るように!」

担任はそう言って、締める。
起立、礼の挨拶を終え、俺たちは本日の授業を終えた。

オウ (桜田が呼ばれてたな…どっすか)

ちょっと話をしたかったんだが…引き止めちゃマズイか。

オウ (バイトまではまだ時間があるな…つっても、テスト前になるから帰されそうだが)

俺の言っているバイト先は、雇い主が気さくで、結構口うるさい。
特にテスト勉強をサボって俺がバイトしようものなら怒鳴りつけて来る位だ。
今回も、まぁ…追い返されるだろうな。
あの人には正直勝てる気がしねぇからな…

オウ (ん…桜田の奴、鞄置いて行っちまった)

桜田は、鞄も持たずに職員室に向かったようだ。
と言うことは、教室に帰ってくるな。
だったら、少し待つか…どうせ、バイトまでは時間あるし。



………。
……。
…。



『時刻16:00 1年教室』


オウ 「んがっ!? しまった…寝てた!?」

俺は飛び起きて、周りを見る。
すでに誰もいないようで、夕日が目に染みた。
やっべ…まさか眠っちまうとは。

オウ 「しまったなぁ…桜田はもう帰ったろうな」

のり 「あ、まだいるよ」

オウ 「うっ!? な、何で!?」

俺はガタンッ!と椅子から飛び上がり、隣を見た。
すると、桜田が自分の席で座っていることに今気づいた。
まさか、待ってやがったのか?

のり 「あ…えっと、何か用があったの?」

オウ 「む…まぁ、な」
オウ 「その…何だ、ちょっとばかし助け舟を出して欲しい」

のり 「? 助け舟…って」

桜田は、?を浮かべて俺の言葉を待っていた。
そう、とりあえず俺は現状、危機を脱する最良の方法を模索したのだ。
それは…

オウ 「恥を忍んで頼む! テスト勉強手伝ってくれ!!」

俺はそう言って、土下座をする。
幸い、他の生徒はいやしねぇ…まぁ、見られても気にしないが。

のり 「わわわっ! そんな、頭なんか下げないで!!」
のり 「テスト勉強だったら、いくらでも手伝ってあげるよ!」

オウ 「それは助かる…正直、今回ばかりはマジでやばい」
オウ 「補修だけは絶対に避けたいからな…頼む!」

俺は立ち上がって、もう一度頭を下げる。
やれやれ…俺ともあろう物が…こいつに頼ることになるとは。
しかし、無謀に突っ込んで玉砕するのは死活問題だ…バラスイに食わせてやらにゃならんからな。

のり 「えっと…それじゃあどうする? 幸い、私も部活はテスト休みだし」

オウ 「…俺がお前ん家に行く、それで大丈夫だろ?」

のり 「えっ!? そ、それはちょっと…マズイ、かなぁ…」

予想外に断られる。
な〜んか、隠してやがるな。
見られたらマズイもんでもあるのか?

のり 「た、高嶺君のお家はダメかな?」

オウ 「ダメだ」

俺は即拒否する。
バラスイがいるのに、他の人間をいれられるか!
どんな噂が流れるかわからん

のり 「う…それじゃあ図書館位しかないね」
のり 「…それでいい?」

オウ 「…できれば、人目は避けたいんだが?」

ぶっちゃけ、他の人間に見られたらどうなるかわからん。
できれば、ツーショットは避けたい所だ。

のり 「う…どうしよう」

オウ 「どうすっかねぇ…」

俺たちは互いに悩んでいた。
しかし、お互いにいい案は出ず、とりあえず現状は帰宅することにした。
勉強自体は明日でいいだろう。



………。



『時刻16;30 帰路』


のり 「それじゃあ、私はこっちだから…」

オウ 「おう…明日には何か考えとくぜ」

のり 「うん、私ももうちょっと考えてみるよ! それじゃ…」

オウ 「…?」

桜田は、別れの挨拶の最中、いきなり視線が泳ぐ。
どうやら、足元の何かを見ているようだ。
俺は気になって、自分の足元を見てみる…すると。

薔薇水晶 「……」

オウ 「!!」

ガバッ!

俺は全力で目に入った紫色の物体を桜田の目から隠す。
そして俺はそのまま…逃げようとするが。

のり 「た、高峰君…もしかして、その人形って」

オウ 「知らん!! 俺は何も知らん!! 何も見てない! お前も見てない!!」
オウ 「いいか、きっと幻覚だ!! 白昼夢と言う奴だ!」
オウ 「忘れろ…忘れるんだ…そしたら全てが上手くいく」

薔薇水晶 「…お腹、空いた」

のり 「あっ、やっぱり! その娘も喋るお人形さんなんだ!」

オウ 「…は?」

俺は予想GUYに桜田を見る。
すると、桜田の顔からは満面の笑みが溢れていた。
同時に、俺の手が緩んでバラスイが地面に着地する。

ストッ!

のり 「あっ、可愛い〜♪ 真紅ちゃんよりもちょっと背が大きいね」

薔薇水晶 「…真、紅」

オウ 「な、何が…」
オウ 「どうなってんだーーーーー!?」

それは…誰に言ったわけでもない叫び声だった。





………………………。





『時刻17:00 桜田宅』


のり 「それじゃあ、上がって!」

オウ 「…お、おう」

俺は、あれからバラスイと一緒に桜田宅に招き入れられた。
何か知らんが、これで勉強の問題は無くなったらしい。

オウ 「お邪魔します」

薔薇水晶 「…お邪魔…します?」

のり 「はい、いらっしゃい! えっと、とりあえずリビングの方で待ってて! 私、着替えてくるから」

そう言って、桜田は階段をドタバタと上っていく。
俺はこの時点で、あることに気づく。

オウ (靴がひとつだけあるな…あいつの弟の物か)

それ以外には無い。
あいつが帰ってきたにも関わらず、家族の物はひとりとして出てこないのだ。
何かあるのか…?

薔薇水晶 「………」

オウ 「お、おい…勝手に動くなよ?」

薔薇水晶 「…大丈夫。昨日…来たから」

オウ 「…は?」

そして、1分後…俺はその意味を知ることになる。



………。



ガチャッ!

真紅 「あら…のり、おかえりなさ…あら?」

翠星石 「げっ!? ヤンキーが来やがったですぅ!」

オウ 「……」

薔薇水晶 「………」

俺は絶句する。
何と…この家にはもう二体ほど、お仲間さんがいたとさ。
しかも、赤と緑。
赤い方は…何か優雅っぽい。
紅茶を片手に椅子で落ち着いている。
緑の方は…何かウザッぽい。
見た目は可愛いが、どう考えても動きにくそうな服装、片目だけ色違うし。
大体、俺を見ていきなりヤンキーと言いやがった…否定はしないが。
なるほど…これであいつの慌て様もわかった。
こいつらがいたせいか…俺と同じ理由だったわけだな、家に招きたがらなかったのは。

真紅 「…なるほど、それが貴方の『ミーディアム』というわけね」

オウ 「はぁ?」

薔薇水晶 「…ミーディ、アム?」

翠星石 「言ってもわかってないですよ…多分」
翠星石 「それより、何をしに来やがったですぅ!? 今度こそ戦いに来たと言うわけですか!?」

薔薇水晶 「………」

真紅 「翠星石…彼女からは、敵意を感じないわ」
真紅 「きっと…別の理由があったのでしょう」

赤い人形が、そう言って緑色…『翠星石』とか言ってたな。
そいつをなだめた。
何だか短気そうな奴だな…バラスイとは対照的だ。

ジュン 「お〜い、お前ら…って!?」

オウ 「ん…? おう、お邪魔してるぞ弟君!」

突然現れた、メガネの少年に、俺は挨拶をする。
すると、明らかに驚いた顔で少年は一歩後ろに退いた。

ジュン 「い、一体誰なんだよ!? 何でヤンキーがここに…」

オウ 「……」

まぁ、普通はそうだわな…その反応がわからんでもない。
しかし、どう説明したらいいのか…って。

? 「お邪魔してるかしら〜! って、先客かしら?」

オウ 「…また増えた」

今度は金髪の黄色いのが増えた。
何て言うか、子供っぽい? いや、バラスイに比べてだが。
何だか、妙な雰囲気を持っているようだが、どこと泣く見た目がガキ臭い…
髪型は七三分けで、左右のお下げがドリル(?)になっている…左側の頭に、花のアクセサリが着いてるな。

真紅 「あら金糸雀(かなりあ)、来ていたのね」

翠星石 「全く…ややこしい時に限って来やがるですね」

薔薇水晶 「…金…糸雀?」

金糸雀 「そう、私が金糸雀…ってぇ!?」

ズザザザァッ!!

バラスイの顔を見るなり、金糸雀が後ろに後ずさる。
そして、何やら厳しい表情をして、こう言い放った。

金糸雀 「い、一体何の用かしら薔薇薔薇!?」

薔薇水晶 「…薔薇薔薇?」

オウ 「お前の本名か? 薔薇水晶じゃないのか?」

金糸雀 「あだ名かしらーーー!? マジにされると困るかしらーー!?」

ジュン 「ああ、もううるさい! とりあえず、暴れるのだけは止めろよ?」
ジュン 「全く…」

バタンッ!

そう言い残して弟君は出て行った。
やれやれ…肝心の桜田は何をやってるのか?

ガチャッ!

のり 「お待たせ〜! 時間かかってごめんね〜…電話が長引いちゃって!」

オウ 「…遅いぞ」

薔薇水晶 「………」

金糸雀 「うう…完全に無視を決め込まれたかしら」

真紅 「金糸雀…薔薇水晶は、今の所敵ではないわ」
真紅 「構えるのはおよしなさい」

そう言って、赤い奴が金色をなだめる。
なるほど…この赤いのがリーダーか。
確かに、戦隊物では赤が定番のリーダーだからな。

金糸雀 「敵じゃ…ない?」

薔薇水晶 「……?」

薔薇水晶は、金糸雀を見て、不思議がる。
何を考えているのかは、わかりそうになかった。

翠星石 「…はぁ、何かウザッてぇです」
翠星石 「翠星石は、部屋に戻るですよ」

真紅 「…そう」

翠星石は、鬱陶しそうにリビングを出て行った。
な〜んか、口の悪そうな人形だな。

のり 「…あ、あははっ驚いた?」
のり 「実はね…私の所も、お人形さんがいるのよ」

オウ 「…見りゃわかる、3体いるとはな」

金糸雀 「ちなみに私は、ここのドールじゃないかしら!」

金糸雀が、そう言って胸を張る。
偉そうに主張することか?

薔薇水晶 「…お腹、空いた」

真紅 「あら…でも食事にはまだ早いわね」

のり 「そうね…だったら、何かお菓子でも作りましょうか?」

オウ 「いや、俺が作る! お前はしばらく休んでろ」

俺はそう言って、炊事場を発見し、向かうことにする。
そんな俺を見てか、のりが俺を引き止める。

のり 「あ、あの! 私がやるから、高嶺君は」

オウ 「気にすんな…今日弁当もらっただろ」
オウ 「あれのお返しだ…もっとも、大したもんは作れねぇがな」
オウ 「それに…」

のり 「?」

薔薇水晶 「………」

俺はバラスイを遠めに見て微笑む。

オウ 「家のモンのことは家で何とかする…後はついでだ」

のり 「高峰君…それじゃ、お願いするね!」

俺は無言で親指を立て、まずは材料を探す。
冷蔵庫と…豚肉と卵…キャベツもあるな、おっ紅生姜もあるじゃねぇか…
冷蔵庫はこれだけ、次は粉だ…小麦粉発見!
片栗粉に味の素もあるな…よし行けそうだ。

のり 「な、何を作るの?」

オウ 「俺の得意分野だ…とは言っても、誰でもできる」
オウ 「鉄板…はねぇだろうから、フライパンで行くか」
オウ 「火の通りが若干悪いが、何とかならぁな」

こうして、俺は自称得意分野の料理(?)を作り始めた。
これなら20分以内でできるし、量も結構あるからな。



………。



ジューーー!!

のり 「わぁ…いい匂いね〜」

真紅 「これは…何と言う食べ物かしら?」

薔薇水晶 「………」

金糸雀 「えっと…みっちゃんに聞いたことあったような〜」

ガチャ…

ジュン 「一体、何をやってるんだ…って、この匂い…『お好み焼き』?」

翠星石 「何かいい匂いがしやがるですぅ…何焼いてるですか?」

のり 「あ、ジュン君に翠星石ちゃん! ふたりもこっちに来て!」
のり 「高峰君が、『お好み焼き』を焼いてくれてるのよ! 一緒に食べましょう♪」

ジュン 「って、まだ夕飯には少し早いような…」

オウ 「安心しな…そんなにでかくは作らねぇ」
オウ 「4等分すりゃあ、おやつぐれぇになるだろ」

俺はそう言って、まずひとつを完成させる。
卵閉じも完璧だ…後はお好みソースだな。

オウ 「うっし、んじゃ4等分っと…ほれバラスイ」

薔薇水晶 「…これが、お好み焼き?」

のり 「そうよ〜…すっごく美味しそうね」
のり 「待ってて…ソースを出してあげるわ」

桜田はそう言って棚からお好み焼き用のソースを出した。
俺はすでに二枚目にかかっている…



………。



翠星石 「ほ〜…中々美味そうですぅ」
翠星石 「とはいえ、所詮…ヤンキーが作った物、味は想像つかんですぅ」

オウ 「文句言ってないで、食ってみろ! マズイならマズイと言え」

薔薇水晶 「…美味しい」

金糸雀 「た、確かに美味しいかしら…意外かしら」
金糸雀 「でも辛いかしら〜…このソース〜」

のり 「え…そんなに辛かった? あ!」

桜田はソースを見て驚く。
まさか…定番の天然ボケか?

ジュン 「おいおい…それって『どろソース』じゃないか」
ジュン 「そりゃ、辛いわ…」

金糸雀 「うう…薔薇薔薇は平気な顔で食べてるかしら〜」

薔薇水晶 「………」

もぐもぐ…

翠星石 「あ、危なかったですぅ…危うく、口にしそうになったですぅ」
翠星石 「とはいえ、すでにソースはかけられている状態…退くこともできんですぅ」

オウ 「しゃあねぇな! 緑のと赤いのはこっちを食え! 2枚目だ!!」

俺はそう言って、手早く二枚目を上げる。
同時に作っといて正解だったな。

真紅 「全く…のりらしいわね」

翠星石 「今度は普通のソースですよねぇ?」

のり 「あ、あはは…大丈夫大丈夫! 今度は普通のお好み焼き用よ♪」

そう言って、桜田は新たなソースを出して、ふたりの分に塗った。
やれやれ…世話を焼かすぜ。

オウ 「さて…すでにかけちまった二枚は」
オウ 「俺とお前で食うか」

ジュン 「えっ!? 僕が食うのか!?」

弟君は派手に驚いて、そう言う。
そりゃあ、そうだろ普通。

オウ 「お前、女子にどろソースを食わせる気か?」
オウ 「さすがに、試練だぞそれは…」

見ると、ソース自体の量も相当かかってる…正直かけすぎだ。
普通のソースならあれでもいいが、『どろ』は格別。
あれだけかけたら、味が辛さしか残らんぞ。
間違いなく、これは窮地だろう。

薔薇水晶 「…オウ、おかわり」

オウ 「…どうやら、助け舟が出たか」

ジュン 「た、助かった…」

予想外の『おかわり』により、俺と弟君は窮地を脱した。
結局、薔薇水晶は計3切れ(4分の3)を食べた。
桜田姉弟も問題なく食べたようだ。
…俺だけ食えなかったな、まぁいいが。



………。



『時刻18:00 桜田宅・リビング』


オウ 「…もうこんな時間か」

のり 「あ…結局勉強は進まなかったね」

俺たちは、あれから少しでも勉強を進めたが、ほとんどはかどらず、今回はここで切ることにした。
あまり長居しても問題だろうし、な。

薔薇水晶 「…帰るの?」

オウ 「おう! そろそろな…ちょっと寄る所もあるし」
オウ 「バラスイはひとりでも帰れるか?」

薔薇水晶 「………」

バラスイは小さく頷く…大丈夫と言うことだろう。

のり 「バラスイちゃん、またね♪」

桜田はそう言って、手を振ってやる。
それを見て、バラスイは真似をする。

薔薇水晶 「また…ね」

真紅 「…そうね、いつでもいらっしゃい。戦いに来るのでないのなら」

翠星石 「…ふん」

金糸雀 「それじゃあ、私もそろそろ行くかしら〜」

タタタッ!

オウ 「うん? あいつ…どこに?」

見ると、金糸雀は玄関とは逆方向に向かった。
どうやら、別の部屋に入ったようだが…。

ジュン 「ああ…鏡から直接来るんだよ」
ジュン 「薔薇水晶もできるだろ?」

オウ 「…そうなのか?」

薔薇水晶 「…わからない」
薔薇水晶 「でも……できるかもしれない」

オウ 「…何か曖昧だな」

ジュン (そっか…記憶を無くしてるから、普段当たり前のようにやってたことも忘れてしまっているのか)

オウ 「まぁいいや! とりあえず、明日からよろしく頼まぁ!」
オウ 「んじゃな!」

のり 「うん! また明日学校でね!」

オウ 「おう!」

薔薇水晶 「………」

ガチャッ!!



………。



ジュン 「姉ちゃん…あの高峰って人、クラスメート?」

のり 「え? うん、そうよ…」
のり 「隣の席でね、結構お話しするの♪」

そう言って、姉ちゃんは笑う。
まぁ…他意は無さそうだな。

ジュン 「あの人…聞いたことある」
ジュン 「こっちの学校でも噂になってた…不良だって」

のり 「…そうかもしれなけど、でも高峰君はいい人だよ?」

姉ちゃんはちょっと悲しそうな顔でそう言う。
なるほど、ね…いい人、か。

ジュン 「まぁ…僕もどうこう言う気は無いけど」
ジュン 「初めて男友達なんて連れてきたもんだから、少し驚いた」

のり 「や、やだっ! 別にそう言う関係じゃないわよ!?」

姉ちゃんは思いっきりそう言う。
まぁ、わかってるけどね。

ジュン 「…部屋に戻るよ、夕飯できたら呼んで」

そう言って僕は2階に上がる。
真紅たちは…テレビを見ているな。

のり (…ジュン君)



………。
……。
…。



『時刻18:15 駅前』


? 「バッカ野郎!! 連絡位しやがれ!!」

オウ 「す、すんません…」

俺はバイト先に来て早々怒鳴られる。
ちなみに、俺のバイトとは、いわゆる『お好み焼き屋』だ。
駅前にひっそりと佇み、主に昼から深夜まで営業してる。
俺の雇い主である店長は、20代後半の『女性』で、とにかく我が強い。
自分の主張は絶対曲げないし、人に合わせるなんてもっての外。
正直、これでよく接客業ができるもんだと感心する位だ。
しかしながら、腕は天下一品でマジすげぇ。
俺もこの人に教わって色々料理を作ったが、どれも足元に及ばなかった。
正直、尊敬してるし、俺が一番頭の上がらない人物でもある。
ちなみに、名前は『弥栄 ミオリ』(やさか みおり)
営業中は長い髪を縛って垂れないようにしているが、実際には腰まで伸びる長髪。
昔は、水泳をやってたとかで、体のラインはすこぶる綺麗。
とはいえ、昔っから腕っ節がかなり強く、今ではやや筋肉多し。
身長は160程度だが、力じゃ俺でも歯が立たないだろう…。

ミオリ 「オウ! テスト勉強は大丈夫か!?」

オウ 「ウ、ウスッ! 何とか、なりそうです!!」

俺はそう言って、胸を張る。
とりあえず、本気でやらないとこの人に殺されかねん。
ミオリさんは身寄りの無い俺を育ててくれてると言えるほど、厳しく躾けてくれた。
俺が働き始めた当時、世間のことを何一つ知らない俺はこの人の厳しさに値を上げた。
だが、一度逃げた時、俺は二度と逃げないと誓った…その理由は。

ミオリ 『今度、逃げてみろ…例え地獄の果てまでも追い詰めてシゴイてやる!!』

オウ (あれは…本当に怖かった)

ぶっちゃけ、生きてるだけマシだろう。
この人、本当に何人か殺してるんじゃないだろうか?
それ位の気迫を感じたなあれは…。

ミオリ 「聞いてんのか!?」

オウ 「は、はいぃっ!!」

俺はビシィッ!と背筋を伸ばす。
とりあえず、今を生きることを考えよう。

ミオリ 「うっし…なら、もう帰れ!」
ミオリ 「テスト期間中は来るんじゃねぇぞ!? 来たらぶっ殺す!」

オウ 「は、はいっ! 命に代えましても!!」

俺はそう言って一礼し、店を出て行った。
はぁ…全く生きた心地がしねぇ。
やっぱり、先に連絡するべきだったか。

オウ (あ…しまった、今日の晩飯どうしよう?)

俺は買い置きのカップ麺が底を着いていたことに気がついた。
バラスイはまぁ…あれ食ったから今日位は大丈夫だろう。
問題は俺だ…食えなかったからな。
しかし…今更店に戻って、食い物をねだるわけにもいかん…命に関わる。
はぁ…帰るか。

オウ (今日一日は…ガマンだ)

俺は明日に希望を残しつつ、帰宅することにした。
そして…この後、俺はとてつもない戦いに巻き込まれることになる。
その戦いの中で…俺は、決断を迫られることになる。



…To be continued




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