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Rozen Maiden 〜eine neue seele〜



第4話 『生活 〜Leben〜』




『某日 某時刻 ???』


薔薇水晶 「……」

真紅 「あなたさえ…! あなたさえ、あんなことしなければ!!」

目の前に真紅がいた。
真紅は、私に対して馬乗りになり、私の首を絞めている。
突然の光景に、私は何が何だかわからなかった。

薔薇水晶 (?)



………。



金糸雀 「で、でもっ!!」

翠星石 「…もう、誰かのローザミスティカが奪われるのを見るのは、御免なのですよ」

今度は金糸雀と翠星石…急に風景が変わった。
周りはまるで庭のような感じ…でも、どこか懐かしい。
更に風景は切り替わる。



………。



謎の少女A 「それが、お父様の願いなら…僕は、叶えたい!!」

謎の少女B 「!!」

今度はふたり。
帽子被った短い髪のハサミ使いと、黒い翼の少女が戦っていた。
何故…どうして、こんな光景が…?



………。



黒い翼の少女 「そう言うこと…なら、あなたのローザミスティカもいるわね!」

薔薇水晶 「………」

また、別の風景。
近くに人間の少女が寝ている。
黒い翼の少女は、私を睨み付けている。

薔薇水晶 (どうして…何故、こんな光景を見るの?)



………。



金糸雀 「ダ、ダメかしら!! 翠星石は私が守るかしら!!」

薔薇水晶 「……?」

次の風景、金糸雀が後ろで水晶に固められている翠星石を庇って叫んでいた。
どうして…? どうして…こんなにも嫌な気分になるの?



………。



黒い翼の少女 「ごめんね…メグ……」

真紅 「水銀鐙!!」

薔薇水晶 「……」

黒い翼の少女が真紅の足元に倒れる。
何故か…真紅は辛そうだ。
私も…何故か、辛い…気がする。



………。



? 「素晴らしいよ!! 薔薇水晶!! 君は勝ったんだ!!」

薔薇水晶 「…?」

今度は金髪の知らない男が私を称える。
勝った…? 何に…?
この辺りから、段々風景が不鮮明になっていく。
言葉も聞き取りづらい…

? 「…も越え…なか…た、我が…を…えた!!」

ジュン 「……ンじゃ、…い…か…?」

? 「ロー……スティ…を吐………だっ!!」

? 「!! …! ………」

私が見られるのは…ここまでだった。





………………………。





『某日 時刻10:00 高峰宅』


ガチャ…

薔薇水晶 「…………」

私は、トランクを開けて外に出る。
何故か、頭が非常に重かった。
夢を…見ていた?
でも、まるで思い出せない…
何か、嫌な気分になった…それだけは覚えている。
ぽっかりと…頭に穴が開いたようだった。
夢…か。

薔薇水晶 「…オウ?」

私は部屋を探すが、オウがいない。
時計を見る…10時だ。
なるほど…オウは学校へ行っている。

薔薇水晶 「………」

私はお腹が空いたの確認した。
でも、今この家には食事がない。
オウは少し我慢しろ…と昨日言っていた。
私は冷蔵庫を開けてみることにした。

薔薇水晶 「……元に戻ってる?」

私は、冷蔵庫に手をやる前に気づく。
よく思い出したら、昨日…この部屋で何かと戦った。
いや…何かじゃない、確か…

薔薇水晶 「…2時9弱?」

よく覚えてなかったけど…そんな名前。
昨日…私が家に帰ると、途端に襲われた。
私は部屋の中で何とか応戦したけど、戦い方がよくわからずに家の物をたくさん犠牲にしてしまった。
でも、この冷蔵庫だけは覚えている。
私は、全力でこの冷蔵庫だけは守った。

薔薇水晶 「…オウの命綱」

私はオウが前に呟いていたのを思い出す。



オウ 「いいかバラスイ! この冷蔵庫は何と言ってもこの家の命綱だ!!」
オウ 「冬場はともかく、夏場は必須だ! だからこれだけは絶対に壊すなよ!?」



薔薇水晶 「…何とか守れた、オウは褒めてくれる?」

呟くも、答えは返ってこない。
どうして、部屋が元に戻ったのかは知らないけど、私はとりあえず冷蔵庫を開けた。

ガチャ…

私はノブを引いて冷蔵庫を開ける。
この家の冷蔵庫は小さい。
オウは必要最小限だからいい…と言っていたけど、真紅たちの家のはもっと凄かった。

薔薇水晶 「…ばたー」

中には、2Lの水と『ばたー』が入っている。
食べ物は…『ばたー』以外にはない。

薔薇水晶 「…お腹、空いた」

私は、諦めることにした。
そして、何か置いてないかと淡い期待を胸に、私はテーブルに飛び乗る。

スタッ!!

薔薇水晶 「……あ」

私は、紙を見つけた。
オウの字で、何かが書いてある。

薔薇水晶 「………」
薔薇水晶 「……」
薔薇水晶 「…読めない」

紙には何か文字の様な物が書かれている。
だけど、それが何を表しているのかが私にはわからなかった。

薔薇水晶 「………」

私は諦めてテーブルから降りる。
オウはできるだけ外には出るな、と言っていた。
だから、あまり出歩くのはいけないことなのだろう。
昨日も、オウはちょっと怒っていた。

薔薇水晶 「……」

私は畳の上で三角座りをする。
オウが帰ってくるのを…待つしかない。



………。
……。
…。



薔薇水晶 「………」

1時間位経っただろうか?
まるで、帰ってくる気配がない。
どうしよう…お腹が空いた。

薔薇水晶 「……」

外に出ようかとも思う…でも、出てもどこへ行って何をしたらいいかがわからない。
だけど、このままここにいても、お腹が空いてしまう。
オウは…多分まだまだ帰ってこない……そんな気がする。

薔薇水晶 「……」

ガララッ!!

私は部屋の窓を開け、外に出る決心をした。
誰にも見つからなければ、オウにも迷惑はかからない…はず。

薔薇水晶 「…戸締り」

ガララッ!

私は窓の外から窓を閉める…鍵……は持ってない。
大丈夫…昨日もこれで出た。
多分……大丈夫。

薔薇水晶 「……!」

ピョン♪

私は昨日と同じように、下の川に落ちている足場へ乗り移る。
その調子で少しづつ陸へ向かって行った…



………。
……。
…。



『それから数分後、高峰宅』


パァァァァッ!

真紅 「…随分、汚らわしい部屋ね」

翠星石 「うわ…さっすがヤンキーの部屋ですぅ」
翠星石 「って言うか、薔薇水晶はどこにいるですか?」

私たちは、とある事情で薔薇水晶の居場所を訪れた。
金糸雀から聞いた所、この家の窓からならフィールドを通って侵入が可能、と聞いたけど…確かだったようね。

真紅 「…トランクが開いたままね」

翠星石 「…いないようですね? ドアは鍵が閉まってるですよ」

真紅 「…窓はロックされてないわね」
真紅 「もしかして、外に出て行ったのかしら?」

翠星石 「だったらしゃあないですよ…さっさと帰るですぅ」

そう言って、翠星石は窓へ向かう。
…いないようなら、仕方がないわね。

真紅 「ふぅ…のりのお弁当、無駄になってしまうわね」

翠星石 「金糸雀からの情報で、貧乏していると聞いたから、届けに来てやったですのに!」
翠星石 「本人がいないようじゃ、どうしようもないですぅ…」
翠星石 「持って帰るですよ! どの道、薔薇水晶にはもったいないですぅ!」

真紅 「…そうはいかないでしょう?」
真紅 「形はどうあれ、のりが薔薇水晶のために作ったのだから」
真紅 「帰ってくるかもしれないし、ここに置いておきましょう…」

私はそう言ってトランクの側に弁当箱を置く。
後は、私たちも帰るとしましょうか…



………。
……。
…。



『時刻11:40 どこかの建物』


薔薇水晶 「……?」

私は、あれから移動を続けた。
今まで行ったことのない場所を色々散策してみた。
だけど、食べ物はない。
どんどんお腹は空く…このままでは動けなくなってしまうかもしれない。

薔薇水晶 「………」

私はふと、建物の窓が開いていることに気づく。
そして、私はそこから妙な物を見つけた。

薔薇水晶 「!? …黒い、翼」



………。



少女 「…♪〜〜♪ ♪〜♪♪〜〜♪」

水銀鐙 「……」

私は、『めぐ』の鼻歌を聴いていた。
今、病室にはめぐと私以外には誰もいない。
私は窓際でいつものように座り、めぐの歌を聴く。

少女 「♪〜……水銀鐙」

水銀鐙 「……」

めぐが誰かの気配を感じ、私に伝える。
私もすでに気づいている。
すぐに、私はそこから地上へ降りる。
この辺りには誰もいない…まぁ、いたとしても、見つかるほど私はマヌケじゃないわ。



………。



薔薇水晶 (! 降りてくる…)

私は、空中からゆっくりと下降してくる黒い翼の少女に注目した。
何故だろう…? 見覚えがある気がした。
私は…無意識に彼女へと近づいていく。

水銀鐙 「……」

彼女は私がいる方向とは逆を向いている。
私はゆっくりと近づいていく、そして次の瞬間。

ヒュンッ!!

薔薇水晶 「!!」

私の左頬を、何かが掠める。
突然すぎて、何が飛んできたのか目視できなかった。
ただ、目の前の少女は何やら鬱陶しそうにこちらを見ていた。

水銀鐙 「…まさか、生きていたとはねぇ」
水銀鐙 「今更、何の用かしら? 私に壊されに来たのぉ?」

薔薇水晶 「…?」

彼女は、わけのわからないことを口走る。
いや…私にはわからなくても。

薔薇水晶 (彼女は…私を知っている!?)

水銀鐙 (…何? 様子が随分おかしいわね)

彼女は、不思議そうな表情をしていた。
私の存在その物を不思議がっているのか、それともこの状況をおかしいと思っているのか?
だが、次の瞬間…

水銀鐙 「……」

バサッ!!

彼女は一瞬にして空高く消えていった。
私はその理由をすぐに察し、隠れられる場所へと向かう。

ザッ!!

看護婦 「あらぁ? おかしいわね…今、話し声が聞こえたような気がしたのに」

薔薇水晶 「……」

私は、花壇の影に身を隠してやり過ごす。
どうやら、見つかってはいないようだ。

薔薇水晶 「……」

水銀鐙 「……」

私は空を見上げ、黒い翼の少女を見る。
少女は屋上の辺りに立ち、こちらを見下ろしているようだった。

薔薇水晶 「……」

看護婦はすでに通り過ぎた。
私は、彼女のいる所まで行こうと思った。
彼女は…私を知っている。
でも、私は知らない。
私は何かを得られると思った。
だけど…出向くこともなかった。

スタッ!

  水銀鐙 「…私に用があるなら、着いてきなさい」
水銀鐙 「ここじゃ、ゆっくり話もできないわ」

彼女は自ら地上に降り立ち、そう言って移動を始める。
私は…それに着いて行った。



………。
……。
…。



『時刻12:00 どこかの建物』


薔薇水晶 「……」

私は少女に着いて行くと知らない建物の中に入った。
そして、その建物にある鏡へ彼女は入って行った。

スゥ…

薔薇水晶 「!!」

昨日のと同じだ。
自分を写す物へ吸い込まれる。
この鏡も…どこかへ通じる扉のようだ。
私は、同じ様にそれを潜る。
自然に…何の違和感もなく、私はそこへ入ることができた。



………。



『某時刻 nのフィールド』


水銀鐙 「…ここなら邪魔は入らないわ」

薔薇水晶 「……?」

少女はそう言って微笑する。
何を考えているのかはわからない。
だけど、その笑みは少し不気味に思えた。

水銀鐙 「……」

薔薇水晶 「………」

水銀鐙 「………」

薔薇水晶 「……」

水銀鐙 「…用があるんじゃないの?」

薔薇水晶 「……?」

言われる。
だけど、何を聞けばいいのかがわからなかった。
彼女は何かを知っている…でも、何を聞けばいいのかがわからない。

薔薇水晶 「私は…誰?」

水銀鐙 「……そんなこと、知らないわよ」
水銀鐙 「自分のこともわからないほど、壊れちゃったのかしらぁ?」

そう言われる。
自分のことがわからない…それは壊れてる?
壊れる…それは何?

薔薇水晶 「………」

水銀鐙 「…あなた、今度は何を考えているの?」

薔薇水晶 「……?」

少女は不思議そうに聞く。
考えていること…今、考えてること…

薔薇水晶 「!! …お腹、空いた」

水銀鐙 「………」
水銀鐙 「……」
水銀鐙 「…はぁ?」

彼女は、何やら脱力していた。
呆れられたのか…それとも?



………



バシッ!

水銀鐙 「…それでも食べれば?」

薔薇水晶 「…?」

あれから彼女は何も告げずにどこかへ向かった。
そして数分後、戻ってきた彼女は私に対して何かを投げた。
食べ物のようだけど、これは…一体?

薔薇水晶 「……」

ガジ…

まずはかじってみる。
だけど、妙な歯ごたえだった。

水銀鐙 「!? 何やってるのよ…?」

薔薇水晶 「…妙な味がする」

と言うより、この袋の様な物は味がない。
一体、この食べ物は?
彼女はそんな私を見て、不思議そうな顔をした。

水銀鐙 「…袋位、取れば? …本格的に壊れてるわね、あなた」

薔薇水晶 「…取る、なるほど」

私は言われた様に袋を取る。
すると、中に入っている丸い何かを取り出すことができた。
さっそく、私はそれをかじることに…

パク…モグモグ

薔薇水晶 「……! 中に、何か…入って」

水銀鐙 「…飲み込んでから喋りなさぁい、汚いわよ」

私は無言で口の中の物を飲み込む。
そして、甘い味のする黒い何かを見て。

薔薇水晶 「……これは何?」

水銀鐙 「…『あんパン』と言うそうよ、私はあまり好きじゃないわ」

薔薇水晶 「…あんぱん」

モグモグ…

私はお腹が空いていたので、一気に食べてしまった。
美味しかった…こんな食べ物もあったなんて。
今度、オウに買ってもらおう。

水銀鐙 (…妙ね、本当に何もしてこない? 何だか、警戒するのが馬鹿らしくなってくるわね)

薔薇水晶 「……ありがとう」

水銀鐙 「!? …礼なんていらないわ」
水銀鐙 「捨てるはずの物をあげただけよ…」

彼女はそう言って、そっぽを向く。
何だか複雑そうな顔をしていた。
私は、次の言葉を放つ。

薔薇水晶 「…あなたは、誰?」

水銀鐙 「………」
水銀鐙 「……」
水銀鐙 「…忘れているなら、最初に言いなさぁい」

そう言って、彼女は何度目かの呆れた顔をした。
最期のは…特別複雑そうだった。



………。



薔薇水晶 「…水銀、鐙」
薔薇水晶 「ローゼンメイデン…第1ドール」

水銀鐙 「思い出したかしらぁ? 私は、覚えているわよ…薔薇水晶」

彼女はそう言って、やや身構える。
こちらを威嚇するかのように、何か攻撃的な感覚を感じた。

薔薇水晶 「…わからない」
薔薇水晶 「……私は、あなたを知っているようで、知らない」

水銀鐙 「……そう」

私がそう言うと、彼女は攻撃的な意思を解く…ように感じた。
どうでもよくなったのか、大して気にもしていないのか…
ただ、彼女は鬱陶しそうな顔をしていた。

水銀鐙 「…あなた、本当に何も覚えていないの?」

薔薇水晶 「? …何を?」

私が言うと、彼女は一度目を瞑り。
すぐに、次の言葉を放つ。

水銀鐙 「……いいわ、私は別にどっちでもいい」
水銀鐙 「後は、勝手にしなさぁい」

バササッ!

そう言って、彼女は飛び去ってしまった。
もう少し…話がしたかったけど。

薔薇水晶 「…オウは、帰っているかな?」

わからなかったけど、私は帰ることにした。
帰り方はわからない…だけど、私が帰りたいと思ったら、自然と扉は開いた。
私は、迷いもせずにその扉を潜る。



………。



パアァァァァァ…

薔薇水晶 「…ここは」

私が降り立ったのは、見覚えのある場所。
忘れるはずもない、オウの部屋だった。
どうやら、いつも出入りしている窓から繋がっていたらしい。

薔薇水晶 「……これは?」

私は、トランクの側にある何かに気づいた。
ピンクの包みに何かが包まれているようだ。
私は、その包みを解いてみた。

パラ…

薔薇水晶 「……箱?」

箱が入っていた。
でも、この箱からは何故かいい匂いがした。
私は箱を開ける。

薔薇水晶 「!? ……食べ物」

中には、色々な色をした食べ物らしき物が入っていた。
見たことのない食べ物がズラリ…いや、食べられるかはわからない。

薔薇水晶 「……」

私は、手づかみで黄色の物を食べてみた。

薔薇水晶 「…!」

甘い。
そして美味しい。
柔らかな食感がふわふわとしてとても美味しい。
私は次に赤く反った何かを食べる。

薔薇水晶 「…!」

これも美味しい。
今度はちょっと辛い。
ブニブニとやや弾力のある食感が何ともいい感じだった。

薔薇水晶 「……」

次は箱の中に半分ほど敷き詰められている白い何かの集団を手に取る。
ややネバネバしている。
手に引っ付くが、私は何とか口に運ぶ。

薔薇水晶 「……」

味は薄かった。
でも、何故か美味しい。
これは…他の物と一緒に食べると美味しさが増す気がした。
その後、私は数分かけて箱の中の物を平らげた。





………………………。





『時刻15:30 学校』


オウ 「…チックショウ、腹減ったなぁ」

のり 「ごめんね! 私ったら…ついお弁当忘れちゃって!」

オウ 「いや、気にすんな…普段から財布に余裕を持たせなかった俺の不始末だからな」
オウ 「…それに、そうそう何度もタダでもらうのは気が引ける」

俺はそう言って、腹を軽く押さえつつ、強がる。
正直、結構辛い。
とはいえ、いちいちその度にこいつに心配されるのは問題だ。

オウ 「…ちょっと、購買行って来るわ、余ったパンでも買う」
オウ 「この時間は、余り物を安売りしてくれるからな!」

何を隠そう、放課後のこの時間はもうロクなパンが残っていない。
ゆえに、売れ残った悲しきパン(賞味期限切れかけ)が半額以下で安売りされているのだ!
正直、これは貧乏学生にはありがたい! 俺なんかはよくお世話になるからな。

のり 「あ、だったら私も一緒に行くわ」

オウ 「いや、トイレも寄るから先に帰ってろ…どの道一度家に戻ってからそっち向かうし」

のり 「あ、そう? うん…だったら待ってるね♪」

オウ 「おう…じゃ、後でな!」

俺はそう言って、駆け足気味に購買へと向かった。



………。



オウ 「…お、今日はあんパンあるじゃん。食パン…も買っとくか」
オウ 「おばちゃん、これだけでいくら!?」

おばちゃん 「あいよ! そのあんパンはもう期限切れてるから食パンとセットで100円にしとくよ!」

オウ 「いよっ! さっすが貧乏学生の鑑!!」

おばちゃん 「はははっ! 褒めてもそれ以上は安くしないよ!」

オウ 「そこまで考えてねぇよ! ほい100円! あんがとさん!!」

おばちゃん 「毎度あり! また来な!!」

俺は100円ポッキリで期限切れのあんパンと食パン2切れを買うことに成功した。
想像以上の戦果だ! 家にバターはあるからな…食パンも貴重な戦力だ!
バラスイにはあんパンをやるか…? 期限切れが心配だが。
まぁ、切れてるって言っても数時間の世界だ。
人形が食中毒とか…まぁ想像できんしな。
その後、俺はトイレで用を足してから、帰宅することにした。



………。



『時刻 15:50 通学路』


オウ 「あん? あれは…桜田じゃねぇか」

のり 「……」

俺はふと、帰り道途中で桜田を発見する。
って、よく見ると男と一緒か?
あいつ、実はモテるからなぁ…何故か隠れファンに、だが。
理由はまぁあいつが天然だからだろうな。
しかし、勇気のある奴だ…難攻不落と言われる桜田に挑むとは。
嘘か真か、桜田はすでに10人以上もの誘いを蹴ったとか…
まぁ、噂だしよくはわからねぇが。

のり 「あ、ごめんなさい…私、すぐに帰らないと!」

男 「え!? あ、ちょっと…!」

男は無残にも敗北。
ってか、どういう誘い方したのかは知らんが。
ちょっと興味あるな…

男 「…はぁ、またダメか」

オウ 「おう、あんた」

男 「ひぃっ!? 高峰君!?」

男はあからさまに怯える。
そうだな、普通の反応だ。
どうも、最近自分の存在感を忘れつつある気がするな。

オウ 「まぁまぁ…ちょっと聞きたいだけだ」
オウ 「いや、だからビビるな…正直に答えりゃいい」

男 「は、ハイ……」

男は、なおもビビっていたが、とりあえず俺は男に詰め寄ってこう聞く。

オウ 「…で、何て誘ったんだ?」

男 「…は?」



………。
……。
…。



オウ 「なるほどなぁ…山本君も苦労しているのか」

男の名は『山本』と言うらしく、どうやら本気で桜田のファンらしい。
入学からずっと、隠れるようにアプローチを続けているそうだが、全て惨敗だそうだ。
まぁ、世の中…宿命的に運の悪い奴はいる。
まさしく、こいつがそうだろう。

山本 「…あの、高峰君? 君は、桜田さんと仲いいの?」

オウ 「あん?」

山本 「ああいや! ごめんなさい!! 忘れてください!!」

いちいち山本はビビる。
やれやれ…別に脅してるわけじゃねぇんだが。

オウ (これも、普段の素行の悪さか…いざ、誰かと話そうと思うと、ややこしくなるもんだ)
オウ 「桜田なぁ…お前からはどう見える?って…クラス違うからあんまりわからねぇのか」

山本 「あ…うん……でも、ここ2〜3日一緒にいること多いみたいだし、仲は良く見えるんじゃないかと…」

オウ 「…なるほど」

貴重な第3者の意見を聞いた気がする。
俺と桜田は…仲が良さそうに見えるらしい。
なるほどねぇ…あの超天然とこの不良がねぇ…

オウ (って、それだけだと、全然良く見えねぇ!)

考えておきながら、馬鹿らしくなる。
まぁ、俺には無縁だろうな。

オウ 「…まぁ、頑張れや山本君」

バンバン!

俺はやや強めに山本の右肩を左手でバシバシ叩く。
一応、激励しているつもりだ。
山本は不思議そうな顔で俺を見ていたが、すぐに目を逸らす。

山本 「…高峰君って、実はいい人?」

オウ 「アホか…不良にいい人なんていねぇだろ」

山本 「そ、そう…」

俺は素で突っ込む。
どこをどう見たら俺が善人に見えるのか…まぁ、悪人と自分で言う気は無いが。
そんな感じで、それからは終始無言で俺たちはしばらく歩く。
ハタから見たら、見た目優等生系の山本君と、見た目ヤンキーの俺が並んでいるのは滑稽だろう。
ぶっちゃけ、俺が一方的に連れ歩いているように見えなくも無い。

山本 「…あ、僕こっちなんで」

オウ 「おう…そうか、じゃあな」

山本 「あ…はい」

山本はそう言ってペコリとお辞儀をし、俺とは違う方向へ去っていく。
複雑な気分だが、俺は左手を軽く振って見送ってやった。

オウ (やれやれ…慣れないことはあまりするもんじゃねぇな)

つくづくそう思う。
ってか、自分でもおかしいと思う。
今までの俺だったら、絶対にこんなことはしなかった。
不思議なもんだな。



………。
……。
…。



『時刻16:00 高峰宅』


オウ 「てで〜ま〜」

薔薇水晶 「…おか、えり」

俺が帰ってくると、バラスイが拙い言葉で出迎えてくれる。
無表情な所がミソだ…こいつはこれでも精一杯の笑顔で出迎えてくれている…と、俺は勝手に思ってる。

オウ (まぁ、いきなりこいつが愛想振り撒くってのもそれはそれで気味悪いが)
オウ 「さて、いきなりだが俺は着替えたら桜田のトコに向かう! お前はどうする?」

薔薇水晶 「どうする? どうすればいいの?」

バラスイは例によって、答えを求めてくる。
やれやれ…自主性の無い奴だな。
まぁ、俺もあまり人のことは言えねぇが。

オウ 「そだな、お前の好きにしろや」
オウ 「着いて来たいなら来い、嫌なら留守番だ」

薔薇水晶 「………」

オウ 「……」

俺が言って、数秒。
バラスイは一瞬考える素振りを見せるが、すぐに俺の側まで近づく。
つまりは…連れて行って、とのことなのだろう。
俺は少し屈んでバラスイの頭をグリグリと撫でてやった。

薔薇水晶 「……?」

オウ 「そう言う時は、『連れて行って』…って言うもんだ」

薔薇水晶 「…つれて、いって?」

オウ 「…着替えるからちょっと待て」
オウ 「着替え終わったら、連れて行ってやる…ってか、お前は場所知ってるか」

薔薇水晶 「……桜田、真紅と翠星石が、いる家…」

どうやら、ちゃんと覚えてはいるようだな。
忘れっぽくはないようだ…関心関心。

オウ (…とはいえ、こいつは前の戦いで)

俺は、着替えながらふと…昨日のキンちゃん(金糸雀のこと)が言った言葉を思い出す。



金糸雀 「薔薇水晶は、ローザミスティカを全て受け入れることができず、バラバラに崩れ去ったかしら…」

オウ 「!!」
オウ 「あいつは…死んだのか?」

金糸雀 「私たちはそう思ってたかしら…」
金糸雀 「でも、この娘はこうやって私たちの前に再び姿を現した。
金糸雀 「理由はわからないかしら…でも」
金糸雀 「前みたいな、怖い雰囲気は無いかしら…」



オウ (キンちゃんたちの敵だった人形…)
オウ (バラスイ……俺の相棒、か)

ミーティアだか、ミディアムだか知らねぇが、俺はそう言うのになっちまったらしい。
この左手の薬指にハマっているのがそれだ。
今日は所々白い目で見られたらが、まぁアクセサリーだとでも思ってくれてるだろ。
俺は別に気にしねぇ…してたらキリがねぇからな。
自分で選んだ道だ…少々の不都合は気にしねぇ。



………。



オウ 「うっし! 準備は完了だ…行くか!」

くいくい…

オウ 「あん?」

薔薇水晶 「……」

俺が行こうかと思うと、バラスイは何かを差し出す。
ピンクの包み…って、これは。

オウ 「…弁当か、どうしたんだこれ?」

薔薇水晶 「…わからない、気がついたらここにあった」

そう言って、バラスイはトランクの側を指差す。
って…誰が置いたかはわからないわけね。

オウ 「…ん? 紙がはさんであるな」
オウ 「って、これ桜田のじゃねぇか! 紙に書いてあんぞ?」

薔薇水晶 「…?」

俺が追求するも、バラスイは?を浮かべる。
俺はここであることに気づく…もしかして。

オウ 「お、お前…字読めるのか?」

薔薇水晶 「……じ、って何?」

確信した。
そうか…言葉は話せても字は読めないのか…

オウ 「くっそ〜…んじゃ俺の書置きも読んでねぇんだな」

薔薇水晶 「…書置き?」

オウ 「これだこれ! テーブルの上に置いておいた奴!!」
オウ 「レンジの中に焼きソバ入れてるって書いたんだよ!!」

俺はそう言って、レンジを開ける。
手をつけた様子は無し…見事にラップのまま入っている。

オウ 「はぁ…まぁいいか、どの道ヤバそうだったしな」

俺はそう思い、ラップを取って焼きソバを捨てる。
臭いも少々ヤバそうだな…食わせなくてある意味良かったか。

薔薇水晶 「…? …??」

バラスイは少々混乱気味のようだった。
まぁ、字が読めなきゃダメか…

薔薇水晶 「…数字は読める、これは1…これは2」

オウ 「それはレンジで暖める時間の目安だ」
オウ 「1〜2分温めろって書いてあんの!」
オウ 「あ〜、今度は字の読み方も覚えにゃならんな…あの赤いのに頼んでみるか?」

少なくとも、頭は良さそうだ。
知的な感じはするしな!
引き受けてくれるかは微妙だが…

薔薇水晶 「…?」

バラスイは良くわかっていないようだ。
まぁ、こうやってても仕方ねぇ! そろそろ行かねぇとな!!

オウ 「おうバラスイ! ちょっと急ぐぞ!」
オウ 「何かカバンにでも入ってろ…って」

薔薇水晶 「…オウ、こっち」

オウ 「?」

バラスイは突然窓の側に向かった。
何かあるのだろうか?

オウ 「おい、急ぐんだから…」

薔薇水晶 「……」

パァァ…スゥ……

オウ 「な、何っ!?」

バラスイはいきなり窓に吸い込まれて消える。
これって、昨日のと同じ奴か!?
もしかして…また?

オウ (バラスイはあっさり行っちまった…しゃあねぇな)

俺は覚悟を決めて窓に触れる。
すると、あまりにもあっさり手が吸い込まれてゆく。
これも…バラスイの能力なのか?
俺は一瞬迷うも、覚悟を決めて窓を潜ることにした。



…To be continued




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