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Rozen Maiden 〜eine neue seele〜



第5話 『恩 〜Gunst〜』




『某日 時刻19:00 桜田宅』


のり 「えっと…ここはね、これをこう当てはめて…」

オウ 「ふむ…」

俺は、桜田の家で『テスト勉強』をしていた。
ここ数日で、とりあえず今回のテスト範囲だけでも攻略するつもりだ。
とはいえ、今までやろうと思ったことさえない俺だけに、難航しまくっている。
桜田には数日に渡って迷惑をかけているが、こいつは『気にしないで』…としか言わねぇ。
さすがに…このままじゃ、なぁ…

オウ (…明日は学校休みか。この際、何かプレゼントでも…?)

とはいえ、財布には余力0。
儚い夢だったな…

のり 「高嶺君? 聞いてる?」

オウ 「んっ!? おおっ! すまんすまん!」

ヤベェ…今の状況忘れてたぜ。
とはいえ、何かいい案は無い物か。

コンコン!

のり 「あら? は〜い!」

ジュン 『姉ちゃん、そろそろ…』

のり 「あっ! もうこんな時間! ごめんね〜…」

ジュン 『僕はいいけど…翠星石辺りがうるさいから、早めに頼むよ』

翠星石 『誰がうるさいですかチビ人間!』

ゲシッ!

ジュン 『痛って〜!! このぉ! 何すんだ!!』

翠星石 『チビ人間がいらんことを言うからです!!』

ドアの向こうから、痴話喧嘩が聞こえてくる。
やれやれ…騒がしいこった。

のり 「あ、あはは…ごめんね高嶺君♪」

のりは複雑そうな顔をして両手を顔で前に合わせる。
要するに、今日はお仕舞いってことだ。

オウ 「しゃあねぇな、ここまで引っ張った俺のせいだ」

のり 「ううん! 気にしないで! それに、オウ君はやる気になればちゃんとできる人だから!」

オウ 「…できる、ねぇ」
オウ 「まぁ、いい。じゃあ、次は明日だな」

俺は一度深めのため息をついてから、そう言う。
だが、俺がそう言うと…

のり 「あ…あの高嶺君、悪いんだけど、明日はちょっと…」

オウ 「あん? 何かあんのか?」

のり 「うん…ちょっと用事があって、隣町まで出ないといけないから」

桜田はそう言って、やや『心配そう』な顔をする。
それは、俺のことを心配しているわけではなさそうだ。
と、なると…

オウ 「…何だ、弟君が心配ってか?」

のり 「えぇっ!? あ、いや…その」

顔に出る奴だ、分かりやすいのはいいが、な。
俺は軽く笑って、こう言うことにした。

オウ 「日帰りだろ? だったら、俺が面倒見てやる」

のり 「ええっ!? そ、そんないいわよ!!」
のり 「オウ君だって、ここの所頑張ってるし…休みの日はちゃんと休まないと」

オウ 「そんじょそこらのもやしと一緒にすんな…一日休まなくたって平気だ!」
オウ 「どうせ、家にいても勉強するわけじゃねぇし…バイトも行けねぇからな」

って言うか、行ったら逝く!
あの人は絶対に殺る!!

のり 「で、でも…」

オウ 「…まぁ、勉強の礼とでも思え」
オウ 「お前が俺に気を使うように、俺も気を使う」
オウ 「…それで貸し借りは無しだ、お前は家を気にせずに行って来い!」

俺がそう言ってやると、桜田は少し微笑む。
そして…

のり 「うん、わかった」
のり 「それじゃあ…お願いするね♪」

オウ 「おう!」



こうして、俺はとある休日に、桜田家の面倒を見ることになった…
この時俺は…『あんなこと』になるとは、思っているわけも無かった。
今回の話は…その『事件』(?)の話だ……





………………………。





『翌日 時刻8:00 桜田宅』


のり 「えっと、それじゃあ、よろしくお願いします!」

オウ 「アホッ、畏まることあるか! とにかく家は気にすんなよ?」

のり 「うんっ、わかった♪ 大体、戻るのは夜になっちゃうけど…」

オウ 「食材はあるんだろ? メシ位は作ってやる」

のり 「何かあったら、携帯に電話してね?」

オウ 「おう」



…こんな感じで、後数分に渡って、会話が続く。
こいつの心配性は、永久に治らんだろうな。
それがよくわかる、数分だった…



………。



オウ 「ったく…結局10分以上も同じ様な会話しやがって」

ジュン 「あの…どうもすみません」

オウ 「あん?」

ジュン 「あ…いや、その…」

俺が『普通』に応対すると、弟君は実に『普通』の反応を示してくれる。
くっそ…俺の普通は、やはりビビるのか。

バシッ! ガシガシッ!

ジュン 「わわわっ!?」

オウ 「俺のこたぁ気にすんな! お前の姉ちゃんへの恩返しだからな」
オウ 「それに…無関係、ってわけでもないしな」

薔薇水晶 「………」

ジュン 「あ……はい」

弟君は、バラスイを見て、納得したようだった。
互いに、おかしな相棒を連れることになってる。
運命…とでも言うのだろうか?
さしずめ、人形は人形に惹かれあう…とでも言うのか?

オウ (はっ…自分で言っててくだらねぇ)

俺は自分の考えに嘲笑し、家の中に入っていった。



………。



オウ 「…?」

翠星石 「……」

見ると、リビングの入り口辺りで隠れながらこっちを見る緑色。
何やら警戒しているようだが…今更何で?

ジュン (な〜んか、よからぬことを考えてるな?)

翠星石 「!!」

タタタッ!

オウ 「……何だありゃ?」

ジュン 「…あんまり考えない方がいいかもしれませんよ?」

弟君は、そう言って緑色が逃げていった方を見る。
鏡が、ある部屋だな。

オウ 「…まぁいい」
オウ 「とりあえず、今日一日は俺が保護者代わりだ」
オウ 「面倒ごとは御免だが、何かあったら言え」
オウ 「とりあえず、俺はリビングにいるから」

ジュン 「あ…はい」

俺はそう言って緑色がいなくなった後のリビングに入る。
特に、何も変わった様子はないな。

ジュン 「…?」

オウ 「…どうかしたか?」

ジュン 「いえ…何も、無いと思って…」

てぇことは、何かある…と思ったんだな。
あの緑色…何か匂うな。

ジュン 「…とりあえず、僕は自分の部屋にいますから」
ジュン 「その…翠星石には、できるだけ気をつけて」
ジュン 「何するか、わかりませんから…」

オウ 「…忠告はありがたくいただいておく」

薔薇水晶 「…ちゅうこく?」

オウ 「…ありがたいお言葉ってこった」

薔薇水晶 「……なるほど」

ジュン 「いや…微妙に違う、かも…」

薔薇水晶 「…?」

バラスイは、よく理解していないようだった。
はぁ…やれやれだな。



………。
……。
…。



『時刻 9:30 桜田宅・リビング』


オウ 「…これが、『メシ』…だ」

薔薇水晶 「…め、し…」

俺は、この休みを利用して、バラスイに『字』を勉強させることにした。
何はともあれ、文字を理解できるようなってもらわないと、困るからな。

薔薇水晶 「めし…ご飯…お米」

オウ 「まぁ、ゆっくり覚えろや…時間はあるしな」
オウ 「とりあえず、よく使う言葉だけでも覚えてくれると助かる」

薔薇水晶 「…これは?」

バラスイは、分からない所を指差す。
俺はそれを見て、答えてやる。

オウ 「レンジ、だ…電子レンジのこった」
オウ 「使い方は、前に教えたろ?」

薔薇水晶 「…レンジ……電子レンジのこと…なるほど」

こいつはこいつで、よく学ぶ。
勤勉というわけではないが、言ったことはすぐに覚える。
好奇心は元々強いのか、始めて見た物には特に興味を燃やすからな。

薔薇水晶 「…ねぇ、オウ」

オウ 「あん?」

バラスイがまた何かを聞きたそうに俺を呼ぶ。
だが、今度はちょっと内容が違うようだ。

薔薇水晶 「……」

オウ 「…あんだよ?」

バラスイは何かを考えているようだった。
さしずめ…何を言えばいいか?って所か。

薔薇水晶 「……誰かに何かをもらったら、返さないとダメ?」

オウ 「…はぁ? いきなりだな…」
オウ 「もらった物だろ? 相手がどう思ってやったかはしらねぇが…それはそれだ」
オウ 「受け取ったからには、もらった『責任』がある」
オウ 「事情はどうであれ、『恩』って物が生まれるな」

俺は、自分でも難しいと思う言葉を並べて答えた。
しかし…何でバラスイは急にそんなことを?

薔薇水晶 「………」

オウ 「…バラスイ、お前…恩返しでもしたいのか?」

薔薇水晶 「…おん、がえし?」

オウ 「…誰かに助けてもらったんだろ? それで、それをお返ししたい…違うか?」

俺は、勘ながらも、ある程度の確信を持って言った。
すると、バラスイはしばし俯き、数秒間考える。
そして…ゆっくりと顔を上げ、俺の目を見て…コクリ、と頷いた。

オウ 「…そうか」
オウ 「なら、そうしろ」

薔薇水晶 「……そう、する?」

オウ 「返したいんだろう? だったら、何か持って行ったらいいんじゃないのか?」
オウ 「例えば…そいつが好きな物とか…」

薔薇水晶 「……」

バラスイはまた俯いて考えてしまう。
しかも、今度はやや悲しそうな顔をする。
…思い浮かばなかったか。

薔薇水晶 「…オウ、『あんパン』の代わりは何がいいの?」

オウ 「……はぁ?」

唐突だないきなり…しかも『あんパン』かよ。

オウ 「別に、『あんパン』なら『あんパン』でいいんじゃねぇのか?」
オウ 「珍しいもんでもないだろ…」

薔薇水晶 「でも…『あんパン』は好きじゃないって言ってた」

オウ 「…む」

なるほど、それはそのまま返すとマズイな…
あんパンが嫌いってことは、甘い物はダメな口か…
辛い物…カレーパンと言う手があるが、パンその物を嫌っている可能性もあるな。

オウ 「う〜ん、好きな物は聞いてねぇのか?」

薔薇水晶 「……」

バラスイは困った顔で首を横に振る。
畜生…可愛いが、何とかしてやらないと。(汗)

オウ 「ちっ…しゃあねぇな」
オウ 「そいつ、ここに連れて来い!」

薔薇水晶 「…ここに?」

オウ 「おう! こうなりゃ直接聞いてやった方がいいだろ!」
オウ 「口下手なお前の代弁してやんよ!」

俺はそう言って笑う。
すると、バラスイは少し嬉しそうな顔をして。

薔薇水晶 「…うん」

それだけ言って、足早にリビングを出て行った。
本当に可愛い奴…って、最近俺もおかしくなってきたか?
人形相手に可愛いは、不良的にマズイだろ普通…

オウ (まぁ…本当に可愛いからいいだろ)

結局、それで片付けた。
しかし…これもまた、事件の火種になるとは、俺は予想だにしていなかったのだ……



………。
……。
…。



『時刻13:00 桜田宅・ジュンの部屋』


ジュン 「おい…お前、本当にやるつもりか?」

翠星石 「もちろんですぅ! あそこまで馬鹿にされて黙っていられんですぅ!!」

真紅 「全く…あれ位の事で」

僕たちは、とあることについて、部屋で話し合っていた。
事の発端は、昼ご飯の時だ…



………。



金糸雀 「あ、あああ〜!?」

オウ 「んだよ、キンちゃん…どうかしたのか?」

ジュン 「い、いきなり何なんだ?」

昼前、キンちゃんこと金糸雀がちょうど昼飯時に現れたのがきっかけだった。
この時、まだバラスイは帰ってきてなかった。

金糸雀 「カ、、カナの玉子焼きぐぁ〜!!??」
金糸雀 「無くなっているかしらーーー!!??」

オウ 「はぁ…? 玉子焼きは全員分、均等に作ったろうが」
オウ 「甘いの辛いの、リクエスト通りにやったはずだぞ?」
オウ 「加えて、全員統一5切れまで! 不公平なことなど何もない!」

翠星石 「その通りです〜♪ 金糸雀は意地汚いですから、自分で食ったことを棚に上げてるですぅ〜」

そう言って、翠星石は自分の皿に乗っている玉子焼きを頬張る。
まるで、見せ付けるかのように、翠星石は隣で座っている金ちゃんの目の前で美味しそうに頬張った。

金糸雀 「す、翠星石! これは、カナに対する挑戦の意思と判断するかしら!!」
金糸雀 「ネタは上がってるかしらーー! 素直に吐くかしらーー!!」

翠星石 「な、なんのことですぅ〜!?」
翠星石 「翠星石は、無実ですーー!!」

キンちゃんは怒りを露にして翠星石の襟元を掴む。
ガクガクと揺らしながら、食って掛かっていた。

ジュン (うん…? この光景…どっかで見たような?)

真紅 「…子供ね」

弟君は、何やら考え込む仕草。
赤いのはマイペースに食を進めていた。

オウ 「こらこら! キンちゃん、食っちまったんなら止めとけ!」
オウ 「緑の生モノも、これみよがしに見せ付けるな!」

翠星石 「だ、誰が生モノですぅ!?」

金糸雀 「!! か…かくっ…ううぅ……ゆ、ゆるさないかしらーーー!!!」

ダダダダダッ!!

オウ 「あ、おいっ!!」

ジュン (やっばぁ…この光景、まさか…)

翠星石 「……」(にやそ)

オウ 「はぁ…ったく、しゃあねぇな」
オウ 「作り直すにも、卵は後ふたり分か…バラスイの分があるからな」

真紅 「あら、それならひとり分浮くのではなくて?」

オウ 「…できれば使いたくねぇ、もしもがあるからな」

俺はそう言って、赤いのに呟く。
すると、赤いのはやや何かを考えたようだったが、すぐに気にするのを止めた。

翠星石 「全く…とんでもない奴ですぅ」
翠星石 「よりにもよって、翠星石のを狙うとは…」

オウ 「…とにかく、お前らはメシ食ってろ」
オウ 「キンちゃんは俺が宥める…」

そう言って、俺はその場を出て行く。
キンちゃんがどこへ向かったかな…と。



………。



オウ 「…上、はないだろうな」
オウ 「外に出て行ったとは思えんが」

キィィンッ!

オウ 「ん? こいつは…」

突然、俺の周りを黄色の光が回る。
確か…キンちゃんが前に使ってた光だ。

オウ 「えっと…ピンキーだっけ?」

キィィンッ!!

オウ 「うおっ! 許せ! 悪気はなかったんだぁ!!」

名前を間違えたのがマズかったのか、光は俺を威嚇するかのように飛び回った。
だが、すぐに収まり、光は鏡の部屋に向かった。

オウ 「ん…あそこか」

俺は確信して、鏡の間に向かう。
すると、光に導かれ、俺は暗い部屋でふてくされているキンちゃんを見つけた。

オウ 「こんな所にいたか…おい、キンちゃん」

金糸雀 「…金糸雀かしら、その呼び方はちょっと嫌かしら〜」

オウ 「…堅ぇこた言うなよ」
オウ 「なぁ、正直に言ってくれや…誰が悪いんだ?」

俺は、ヤンキー座りでキンちゃんの前に座って言う。
すると、キンちゃんはキッと鋭い目をして断言する。

金糸雀 「絶対に翠星石かしら! 私が余所見をしている隙にやったかしら!」

オウ 「…証拠はあるか?」

金糸雀 「う…それは、無いけれど」

キンちゃんは、嘘をついているようには見えない。
逆に、緑には色々と引っかかる所がある。
やれやれ…な〜んか、嫌な予感がするな。

金糸雀 「…オウは、どっちの味方かしら!?」

オウ 「あん?」

キンちゃんは真剣な眼差しで俺に問う。
敵か味方か…か。

オウ 「…今の状況じゃどっちもどっちだ」
オウ 「だが、緑のがやや怪しい…って所か」

金糸雀 「……だったら、オウはこっち側に着くかしら!」
金糸雀 「翠星石の非道を暴くかしら! それでカナの無実を証明するかしら!!」

? 「あらぁ、何だか面白そうな話してるわね…」

金糸雀 「ふえ…って、ええぇ!?」

オウ 「おわっ!? 黒い悪魔!?」

? 「…失礼な奴ね、もしかして…これがあなたのミーディアム?」

薔薇水晶 「……うん」

オウ 「バ、バラスイ!」

金糸雀 「何で、水銀鐙が来るかしら〜!?」

突然現れた、黒い人形。
キンちゃんの言う所、『水銀鐙』と言うらしい。
で、バラスイが連れて来たってことは…

オウ 「もしかして…このゴスロリっ娘が恩人か?」

薔薇水晶 「………」

バラスイはコクリとゆっくり頷く。
何てこった…よもや同じ人形だったとは。
しっかし…

水銀鐙 「……?」

オウ (何つー服装…逆十字まで書いてあんぞ)

何と言っても、黒と白!
ドレスと言えば聞こえはいいが、どこか悪魔的な印象を受ける。
ゴシックロリータではあると思うのだが、性格はきつそうに感じる。
しかし、仮にもバラスイの恩人だと言う…悪い奴ではないのだろう。

オウ 「はぁ…とにかく、お帰り」

薔薇水晶 「…ただい、ま」

水銀鐙 「…あら? ここって、真紅がいる家じゃ…」

金糸雀 「あなた、そんなことも知らずに来たかしら〜?」

キンちゃんはややビビッたように、言う。
そう言えば、前に苦手とか言ってたな…

水銀鐙 「…知らないわよ、この娘が無理やりに連れて来たような物だから」
水銀鐙 「それも、恩返しがしたい…なんて言う物だから、無下にするのも…」

オウ 「うわ…こう言うのって、ツンデレって言うのか?」
オウ 「俺、初めて見たわ…」

俺はプチに感動する。
ゲームや漫画の中だけと思ってたからな!

水銀鐙 「よく分からないけれど…どうなっているの?」
水銀鐙 「何だか、不穏な空気を感じるのだけど?」
水銀鐙 「…特に何も無いなら、帰るわよぉ?」

薔薇水晶 「…オウ」

オウ 「すまねぇな、ちょっとすぐには…」
オウ 「えっと、水ちゃん…? じゃ、問題あるから、銀ちゃんか!」
オウ 「ちょっと、待っててくれるか? ゴタゴタ終わらしたらすぐに済ませる!」

俺がそう言うと、銀ちゃんは鬱陶しそうな顔をする。
気安く呼ぶな…とでも言いそうだな。

水銀鐙 「妙な、呼び方をしないで…普通に呼びなさいよ」

金糸雀 「全くかしら…しかも、ネーミングセンスが古臭いかしら〜」

ダブルで非難された、チクショウ。
呼びやすいんだから、いいじゃねぇか…

オウ 「…さて、どうするキンちゃん?」

金糸雀 「…場合によっては好都合かしら〜♪」

突然、キンちゃんは嫌な笑みを浮かべる。
ま、まさか…

金糸雀 「…ふっふっふ、ローゼンメイデン一の頭脳派! 金糸雀の策の前に血反吐を吐くがいいわ!!」
金糸雀 「ピチカート! 翠星石を呼んでくるかしら! こうなったら決戦かしら!!」

オウ 「ちょ! キンちゃん!? 不良が言うのもなんだが、ここは平和的にだな…!」

金糸雀 「シャラップ! かしら!! 折角だから、薔薇薔薇と水銀鐙にも手伝ってもらうかしら!!」

薔薇水晶 「…手伝う?」

水銀鐙 「やぁよ、面倒臭い…私は何もしないわよ?」

金糸雀 「大丈夫! いるだけでもいいかしら!!」

どうやら、本当に策があるようだが…何か、話がヤバイ方向に…

翠星石 「こらぁーー! 金糸雀! 翠星石を呼び出すとは何事ですかぁ!!」

部屋の外から大声が聞こえる。
どうやら、来たようだ。
ヤベェな…こうなったら、流れに身を任せてみっか!



………。



金糸雀 「来たわね! 翠星石!! 玉子焼きの恨みは恐ろしいかしら!!」

翠星石 「だから、それはオメェが食っちまったんでしょうが!!」

金糸雀 「黙るかしら! この際、口で言うより力ずくかしら!!」

オウ 「はぁ!? 策はどうした!?」

金糸雀 「それは、決戦で使う策に決まってるかしら…」

甘かった…どうやら、本気でやり合う気らしい。
バラスイと銀ちゃんは部屋で待機している。
つまり、緑にはこっちがふたりだけだとしか思えない。

翠星石 「こ、この〜! 金糸雀ごときが翠星石に勝てると思ってるですか!?」
翠星石 「翠星石を敵に回すということは、真紅を敵に回すと言うことですよ!?」

この期に及んで、緑は脅しをかけてくる…
だが、それ位当たり前…と言わんばかりに、キンちゃんはチッチッチ…と指を顔の前で振った。

金糸雀 「たかだか、ふたり! かしら〜♪」
金糸雀 「それとも、真紅がいないと何もできないかしら〜?」
金糸雀 「まぁ、こっちとしてはどっちでもいいけどね!」

キンちゃんの挑発は功を制し、緑は顔を真っ赤にして怒る。
あいつ…おとなしそうに見えて、実の所短気だよなぁ…
赤いのとは偉い違いだ…

翠星石 「きぃ〜!! その言葉、宣戦布告の意思と判断するですぅ!!」
翠星石 「思い知らせてやるですぅ!! 1時間後に決戦ですぅ!!」

金糸雀 「オーッホッホッホ!! 望む所、かしら!!」

オウ (うわぁ…奈落)

ダメだ…俺には止められん。
許せ桜田…約束、守れんかもしれん。





………………………。





『時刻13:30 鏡の間』


金糸雀 「ふんふんふ〜ん♪ 今日こそ、目に物見せてやるかしら!」

そう言って、キンちゃんはいつの間にやら取り出した『ベレッタM92』を磨いている。
って! 拳銃かよ!!

オウ 「待てい! よもや実弾ではあるまいな!?」

俺はさすがにストップさせる。
いくら人形が使う小さいサイズとはいえ、実弾だと室内戦はマズイ!

金糸雀 「大丈夫かしら〜、ただの水鉄砲だもん♪」

オウ 「…あ、そう」

最近の水鉄砲はよくできてんなぁ〜…
エアガン並みのクオリティじゃねぇか…あのデザイン。

水銀鐙 「…何だか、妙なことになって来たようだけど?」

薔薇水晶 「………」

オウ 「…はぁ、とにかく早く終わらせよう」
オウ 「惨事にだけはしたくねぇからな!」

俺はそう言って立ち上がる。
そろそろ1時間、決戦だ。

オウ (って…本気でやるのかぁ〜?)

翠星石 「来てやったですよ!! 金糸雀!!」

金糸雀 「待ってたかしら!!」

有無を言わさず、緑が現れる。
後ろには、赤いのと弟君の姿も見えた。

ジュン 「高峰さん…あなたまで」

オウ 「何も言うな! そして察しろ…」

ジュン 「…はい」

どうやら、弟君も似たような心境のようだ。
どこか、やるせない…そんな表情に感じるな。

真紅 「!? す、水銀鐙!?」

水銀鐙 「あらぁ〜? 真紅じゃなぁい…相変わらず現実でも不細工ね」

オウ 「って、いきなり挑発伝説ですか銀ちゃん!?」

俺は出会って早々悪口を叩く銀ちゃんにツッコム。
だが、赤いのは割と冷静だった。

真紅 「…ふぅ、何がどうなったのか知らないけれど、これで金糸雀の自信も察しがついたわね」

水銀鐙 「勘違いしないでよ…私は何もしないわ」
水銀鐙 「ただ、ちょっと面白そうだから、見ててあげるわ♪」

薔薇水晶 「……」

赤いのは冷静に状況を分析し、銀ちゃんは傍観を決め込む。
そして、当の元凶どもは…

金糸雀 「いい加減に、罪を認めるかしら! これが最後通告かしら!!」

翠星石 「何度言っても無駄ですぅ! 証拠はないですぅ!!」
翠星石 「オメェこそ、とっとと泣いて謝るです! いくらヤンキー一緒でもそっちに勝ち目は無いです!!」

緑はそう言って、笑う。
実に勝ち誇ったような笑みだ。
だが、そんな事くらいではキンちゃんの自信は揺るがなかった。

金糸雀 「あさはかなり! かしら!!」

翠星石 「!?」

キンちゃんは大声でそう言う。
それに驚いたのか、緑は怯んだ。

金糸雀 「人の玉子焼きに手を着けた挙句、人に罪を擦り付ける暴挙! もう許さんかしら!!」
金糸雀 「真実は、カナの元にあるかしら!! こっちには4人! そっちは3人!!」
金糸雀 「多数決で、翠星石が不利かしら〜♪」

翠星石 「はっ! とんだ、策士ですぅ〜♪」
翠星石 「証拠も何も無いのに、勝手に決め付けるな! ですぅ〜」

まさしくその通りなのだが、あいつの態度を見ていると、怒りがこみ上げて来るのは何故だろう?

金糸雀 「やっぱりこうなると思っていたかしら! だったら、これを見るかしら!!」

ばばーーん!!

翠星石 「ああーー!? 翠星石の鞄がぁ!?」

いつの間にパクっていたのか…キンちゃんは人質作戦に入った。
って、もしかしてこれが策かぁ!?
思いっきり悪党じゃねぇか!!

金糸雀 「さぁ、翠星石…とっとと罪を認めなさい!」
金糸雀 「今なら、落書きだけで済ませてあげるわよ〜♪」

オウ 「金プチ先生! それは脅迫と言います!!」

金糸雀 「シャラップ!! かしらー!!」

俺の懇親のツッコミも突っぱねられる。
どうやら、いく所まで行くしかないらしい。

翠星石 「ひ…卑怯な! 見たですかふたりとも!? あんな卑怯な奴が真実かざすとは許せんですぅ!!」

真紅 「はぁ…もうどうでも良くなってきたわ」

ジュン 「僕も…もうどっちでもいいよ」

翠星石 「って、何でふたりしてやる気無いですかぁ!? ここは翠星石を弁護する所でしょう!?」

ジュン 「いや、もう大体読めてるし…デジャブだし」

真紅 「…子供の喧嘩には付き合っていられないわ」

何だか…丸く収まろうとしているのでは?
実の所、上手く行ってんじゃね!?

金糸雀 「ふっ! 仲間からも見放されたようね! どうするの翠星石!?」

キンちゃんは鞄をブラブラとさせて待つ。
すると、翠星石は悔しそうな顔をする。
って、こっちも味方はやる気ないが…そこんとこキンちゃんわかってるんだろうか?

翠星石 「きぃ〜!! こうなったら、最後の手段ですぅ!!」
翠星石 「スイドリーム!」

バッ!!

オウ 「…あん?」

金糸雀 「あれは…」

最後の手段と言って、緑のは何かを呼ぶ。
すると、突然天井辺りから『人形』が降りてきた。

オウ 「あんだ?」

金糸雀 「あれは『くんくん』かしら〜」
金糸雀 「何で、上から…?」

くんくん 「やぁ〜、皆〜♪」

オウ 「しゃ、喋った!?」

金糸雀 「でも…何か変な感じが」

ジュン (あいつ…いつの間に人形を)
ジュン (しかも…スイドリームが動かしてるのか? って、空中で如雨露の先に紐張ってるだけか!!)

翠星石 「ふふん! これで、こっちの勝利は確実ですぅ!」
翠星石 「『くんくん』がいる限り、金糸雀に勝ち目はないです♪」

オウ 「はぁ〜? 何だそりゃ…それのどこが…」

金糸雀 「全くかしら! 一体何を考えて…」

真紅&水銀鐙 「くんくんっ!?」

オウ (って! 何か本気にしている人がいるんですけど〜〜!?)
金糸雀 (しかもふたりかしら〜〜〜!!??)

ジュン (す、水銀鐙が反応するとは思ってなかった!)
翠星石 (よもやの事態ですぅ…こんな状況になるとは……)

空中から吊るされている『くんくん』とか言う人形を挟み、赤と銀がにらみ合う。
やべぇ…もしかして一触即発!?

真紅 「…あら? どういうことかしら水銀鐙? あなたは何もしないんじゃなかったのかしら?」

水銀鐙 「おバカさぁん♪ あなたこそ子供の喧嘩には付き合えないんじゃなかったのぉ?」

真紅 「……!」
水銀鐙 「…!!」

ふたりは距離を徐々に詰め、にらみ合う。
ヤバイ…今にもおっ始めそうだ。
これは、かな〜りヤバイ。

薔薇水晶 「………」

オウ (ダメだ…バラスイには何も期待できん!!)

止めろと言っても逆効果だろう…
とはいえ、このままでは惨事は必至!!

ジュン 「(お、おい翠星石! これは、マズイぞ! あいつらがここで暴れたら、姉ちゃんが…!)」

翠星石 「(し、しまったですぅ!! それを忘れてたですぅ!!)」
翠星石 「(って言うか、水銀鐙が来るとは思って無かったですよ!!)」
翠星石 (な、何とかしなければですぅ…!)

弟君と緑が、何やら耳打ちをしていた。
あのふたり…何か企んでるのか?
どっちにしても…こっちはもうヤベェ!

金糸雀 「ちょ、ちょっとふたりとも落ち着くかしら! それはただの人…」

真紅&水銀鐙 「『くんくん』よ!!」

金糸雀 「は、はい〜〜〜!! かしら〜〜〜〜…」

ふたりは同時に強調する。
ダメか…キンプチ先生でも止められない。

薔薇水晶 「……ねぇ、あれは何?」

オウ 「あん? あれって…?」

薔薇水晶は、何やら空中を指差す。
すると、それは如雨露のようだった。

オウ 「如雨露か…って、何か紐で吊るされてるようだな、あの人形」

薔薇水晶 「人形…? 吊るされてる?」
薔薇水晶 「…オウ、ふたりはどうして怒っているの?」

オウ 「そりゃ、あの犬人……」

真紅&水銀鐙 「『くんくん』よ!!」

オウ 「…『くんくん』が大好きだからだ」

薔薇水晶 「…だい、すき…?」

真紅 「当たり前のことよ…私以上に『くんくん』を愛しているものなどいないわ…」

水銀鐙 「あらぁ〜? 随分自信があるようだけど、本人はどうかしらねぇ…?」

真紅 「それはどういうことかしら!?」

水銀鐙 「簡単よ♪ 『くんくん』があなたを好きとは一言も言ってないでしょぉ?」

真紅 「はっ!?」

赤いのは、痛い所を突かれた…という風に悲しそうな顔をする。
な、何か…レベルの低い争いに思えてきた。

水銀鐙 「うふふ、おバカさぁん♪ あなた、自分が一番愛されている…と、調子に乗っているんじゃないの?」
水銀鐙 「『くんくん』が本当に愛しているのは、この私よっ!!」

真紅 「…あなたこそ、わかっていないようね」

水銀鐙 「!?」

真紅 「確かに、『くんくん』は私を愛しているとは一言も言っていない」
真紅 「でも! あなたを愛しているとも言ってないわ!!」

水銀鐙 「くっ!?」

ハタから見てると、子供の喧嘩にしか思えん。
しかしながら、このふたりは本気なのだからマズイ。

水銀鐙 「だったら! どっちを本当に愛しているか、本人に聞くことにしましょう!」

真紅 「望む所よ! 私は退かないわ!!」

ジュン 「(おい、どうするんだ!! 話がマズイ方向に向かってるぞ!?)」

翠星石 「(し、仕方ないですぅ! こうなったら成り行きですぅ!!)」

ジュン 「(って言うか、ここは僕がやる!!)」

オウ 「ん?」

見ると、何やら緑の背中側で、弟君が隠れている。
何をする気だ?

真紅 「さぁ、くんくん! あなたの本当の気持ちを聞かせて!!」

水銀鐙 「本当に愛しているのは、どっちなの!?」

くんくん 「…残念だよ、ふたりとも」

真紅&水銀鐙 「えっ!?」

オウ 「(あれって、弟君の声だよな?)」

金糸雀 「(間違いないと思うかしら…でも、ふたりは気づいてないかしら)」

どうやら、アテレコで弟君がくんくんの声をやろうとしているらしい。
なるほどな、これならあるいは丸く治められるか?

くんくん 「ふたりとも、これほど魅力的な女性なのに…」
くんくん 「本当に大切なものを忘れてしまっている…」

真紅 「本当に…」

水銀鐙 「大切な…もの?」

いいぞ…効いている!
考えたな弟君! 上出来だ!!

くんくん 「本当に大切なもの…それは」

真紅&水銀鐙 「そ、それは…?」

ヒュッ! ブツッ! ドサァッ!!

瞬間、視界がネガポジ反転したかと錯覚する。
それ位、その瞬間はインパクトが強かった。

真紅 「く、くんくん!?」

水銀鐙 「な、何が起こったの!?」

薔薇水晶 「……紐、切った」

真紅 「ひ、紐?」

そう、何とバラスイは事もあろうに、犬人形が吊るされていた『紐』を切断したのだ。
当然、支えるものが無くなった人形は地面へと無残に落下する…というわけだ。

水銀鐙 「…こ、これはまさか、ニセモノ!?」

翠星石 「(ひぃ〜!! 何てことするですか、薔薇水晶!!)」
ジュン 「(折角、丸く収まるところだったのに!!)」

オウ (もうダメだ…終わった)
金糸雀 (うう…頃合を見て逃げた方がいいかしら〜?)
金糸雀 (って! 何だか話がズレ過ぎているかしら!?)

真紅 「薔薇水晶…あなた、くんくんがニセモノと気づいて?」

薔薇水晶 「…? よくわからない」
薔薇水晶 「でも…ふたりが怒ってたから」

水銀鐙 「…?」

バラスイは俯きながら、そう呟いた。
それは…小さな訴えだった。
バラスイは、それ以降は無言だった。
だが、その意思を組むかのように、ふたりは…

真紅 「…そうね」
真紅 「こんなことで、喧嘩をするのは…子供ね」

水銀鐙 「…興醒めね」
水銀鐙 「ニセモノごときに振り回されるなんて、恥ずかしくて死にそうだわ!」

オウ (た、助かった…?)
金糸雀 (お、収まったのかしら〜?)

ジュン (…一時はどうなることかと思った)
翠星石 (と、とりあえず首の皮一枚繋がったですぅ…)

薔薇水晶 「オウ…?」

オウ 「あ、あぁ? 何だ?」

薔薇水晶 「…お腹、空いた」

ジュン 「ぷっ! くっはははははっ!!」

金糸雀 「あはははっ!! 薔薇薔薇、面白いかしらーー!!」

真紅 「ふふふ…そうね、あなたはお昼を食べていなかったものね」
真紅 「水銀鐙…良かったら、あなたも食べて行ってはどう?」
真紅 「この人間の作る料理は、変わった味で面白いわよ」

オウ 「って…それは褒めてるのか?」

水銀鐙 「そうねぇ…元々薔薇水晶に連れられてきたんだし、少しはもてなされてもいいわよぉ?」

銀ちゃんは銀ちゃんで、ふてぶてしいな…って、これが地か?

オウ 「おっしゃ! しゃあねぇ!! 未熟モンだが、腕振るってやる!!」
オウ 「キンちゃんも、もう一遍玉子焼き作ってやらぁ!!」

金糸雀 「本当かしら!? それは嬉しいかしら〜♪」

オウ 「ただし、2つを3等分だから、そんなには作れねぇ!」
オウ 「…そこは我慢してくれ」

金糸雀 「仕方ないかしら…オウに免じて今回は許すかしら…」

そう言って、キンちゃんは緑を横目でチラ見する。
それに気づいてか、緑のは…

翠星石 「な、何ですか…? この敗北感は〜」

ジュン 「さぁてね…自分にやましいことでもあったんじゃないのか?」

翠星石 「オ、オホホホホホッ! やぁですぅ! チビ人間は何を言い出すのか!!」
翠星石 (と、とりあえず…今回はこれで良しとするですぅ…ボス猿の怒りは勘弁ですからね〜)



………。



こうして、嵐は過ぎ去った。
無事に事なきを得た俺たちは、食卓を囲むことで和解し、今回の事件は幕を閉じたのだ…





………………………。





『時刻15:00 鏡の間』


真紅 「もう、行くの?」

水銀鐙 「…長居する気は無いわ」
水銀鐙 「今回は特別…」
水銀鐙 「誰かさんのせいよ…」

オウ 「へっ…懲りずにまた来い! 今度はヨーグルトでも作ってやる!」

薔薇水晶 「……さよう、なら」

俺たちが別れの言葉を告げると、銀ちゃんは無言で鏡を抜けて去って行った。
照れてたのか、何も言わなかったな。

真紅 (水銀鐙…変わったわね、あなたも)
真紅 (そう、変わっていく…私たちは)
真紅 (でも…わからない)

オウ 「…どうかしたのか赤いの?」

真紅 「…真紅よ、いい加減名前で呼んでもらえる?」

オウ 「…そうだな、考えとく」
オウ 「それより、何考えてた?」

俺が軽く流して問い詰めると、真紅は不思議そうな顔をする。
俺は、その顔がどうにも気に入らなかった。

オウ 「…お前、隠してることあるな?」

真紅 「…何のこと?」

オウ 「……」

真紅 「……」

薔薇水晶 「……?」

俺は何も言わなかった。
真紅も言うつもりは無いようだ。
だが、微かに…真紅はバラスイを見た。
それが何を意味するのかはわからない。
ただ…真紅は、不安そうだった。

真紅 「…ごめんなさい、何でもないの」

オウ 「お、おう…何かあるなら、気軽に言えよ?」
オウ 「『俺たち』でできることなら、協力すっから」

真紅 「ええ…ありがとう」

最期にそう微笑んだ。
俺は、それで満足することにする。
何を思いつめてるかはわからねぇ。
だが、不安は俺もある。

オウ (『虹孔雀』…あれから一度も出てきてねぇ)
オウ (バラスイと、何の関係があるか知らねぇが…あいつは一体?)

薔薇水晶 「……?」

オウ 「ん? どうした?」

薔薇水晶 「…オウ、何を考えているの?」

そうか…こいつ、心配してくれているのか。
俺は、無言で笑い、バラスイの頭を撫でる。
バラスイは嬉しいのか恥ずかしいのか、照れたような顔をする。
俺は、そんなこいつの顔を見るのが、好きになっていた。

オウ 「…何でもねぇ、大丈夫だ」

薔薇水晶 「…うん」

バラスイは納得してくれたのか、頷く。
大丈夫だ…バラスイは、絶対に大丈夫。
俺は、不安を塗り潰すように…ただ、それだけを想った……



…To be continued




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