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Rozen Maiden 〜eine neue seele〜



第8話 『休日 〜Feiertag〜』




『某日 時刻9:00 高峰宅』


チュン…チュンッ

オウ 「……」

俺は朝に目が覚める。
しばらく意識が掠れていたが、次第に今の状況を理解していく。

オウ 「…ふぁ」

俺はあくびをする。
外では小鳥がさえずってやがる…呑気なもんだ。
時間はまだ9時…微妙な時間だな。

オウ 「…はぁ、テストも終わったし、学校は休みだからな」

俺はうん…と背伸びをし、そう呟く。
今回は何だかんだで桜田に世話になりっぱなしだった。
テストの感触としては上場…まぁ、赤はねぇだろ。
ミオリさんも、テスト休み位はゆっくりしていい、と言ってくれたし…

オウ 「……さて、時間は早ぇな」

思いつきだが、今日は桜田に感謝の意を込めて遊びに連れて行ってやることにした。
あいつも、家のことやらで普段から忙しそうだからな。
とりあえず、11時に待ち合わせなんだが…

オウ 「…はぁ、まずは朝飯だな」

俺は次第に空腹感を感じ、立ち上がって炊事場に向かう。
バラスイは…まだ寝てるのか。
ここの所、バラスイはずっと朝は眠っていた。
学校がある時は、顔も会うことが無く、帰って来たら来たで、バラスイは家にいない。
結局、桜田の家にもいなかったし、またどっかの世界に行っていたのだろうか?

オウ (…避けられてるのかねぇ〜俺)

何となく、そう思ってしまった。
バラスイは食事中以外、俺と顔を合わせなくなった。
俺が会話を振っても、バラスイは無言…
たまに『うん…』とか『ん…』とか会釈をする程度だ。
元々、そんな感じな気もするだろうが、そんなことはない!
あいつは、どことなく俺を避けている…そう思えてしまう。

オウ 「…起こしても、起きないだろうな」

バラスイは朝食は採らない…いや、採らなくなった。
起こそうとしても、軽く反応するだけで、起きようとはしない。



………。



オウ 「……」

ボォォッ!

俺はガスコンロの火を入れ、フライパンを炙る。
油を満遍なく敷き、そこへ卵を割って放り込む。
後は綺麗に広げて、固める…

オウ 「いっちょ、あがり!」

俺は自分でも惚れ惚れする『卵焼き』を見て感動する。
さて、皿に盛っていただきますかね〜

? 「た、卵焼きの匂いかしら〜!!」

オウ 「ぬおっ!? お、お前はーー!!」

俺が声の方を振り向くと、突然見知った姿が這いずっていた。
ってか、何故這いずる!?

オウ 「…お〜い、大丈夫かキンちゃん? それと久し振りだな…」

金糸雀 「…久し振りでも呼び方は相変わらずかしら〜」
金糸雀 「ちなみに、カナはピンチかしら〜…お腹が減って…」

そう言ってキンちゃんは畳に這いつくばる。
飯食ってねぇのか?

オウ 「飯ぐらい食ってから来いよ…家の奴は?」

金糸雀 「うう…みっちゃんは出張でしばらく家にいないかしら〜」

出張かよ…てぇことは、その『みっちゃん』とやらは社会人か…
別にミーディアムとか言うのは、子供じゃなくてもいいってことか。
って、別に制約は聞いてないもんな。

オウ 「しゃあねぇな…ほれ、これを食え…味は保障せんがな」

金糸雀 「か、かたじけないかしら〜…」(涙目)

俺はテーブル(こたつ)の上に卵焼きの乗った皿を置いてやる。
キンちゃんはそれを見て、皿の前に座った。
やれやれ…急な来客だな。

オウ 「…ほれ、箸」

金糸雀 「ありがとうかしら〜♪」

キンちゃんは満面の笑みで可愛く箸を握る。
しかし、一瞬固まった。

オウ 「…?」

金糸雀 「……」

ブスッ

オウ 「……」

キンちゃんは箸で卵焼きを突き刺す。
いや…う〜ん、まぁ…ねぇ。

オウ 「…キンちゃん、フォーク出すか?」

金糸雀 「だ、大丈夫かしら! ちゃんと食べられるかしら!」

俺は少し不安になる。
キンちゃん、家では箸使わないのか?

? 「あらぁ…食事中かしら?」

オウ 「……いや、いいけどな」

金糸雀 「ぶっ!? す、水銀燈〜!? 何故ここに来るかしら〜!?」

突如現れたのは、何と水銀燈こと銀ちゃんだ。
まさか、銀ちゃんまで卵焼きに釣られて…って、こたぁないわな。

オウ 「…銀ちゃんも腹減ったのか? 卵焼きでいいなら、すぐ作るぞ」

水銀燈 「べ、別に食事に困ってはいないわよ…」
水銀燈 「別件よ…とはいえ、寝ているようね」

一瞬、戸惑ったような顔をしたが、銀ちゃんはすぐにクールな表情になる。
どうやら、バラスイに用があるようだが…

オウ 「バラスイだったら、多分起きないぞ」

水銀燈 「でしょうね…タヌキ寝入りの癖に」

金糸雀 「…薔薇薔薇、何かあったの?」

何も知らないであろうキンちゃんに対し、銀ちゃんはいかにも知っているかのような口ぶり。
って言うか、タヌキと宣言したぞ…どういうことだ?

水銀燈 「…その様子じゃ、何も言ってないってことね」

オウ 「…どういうこった? バラスイ、もしかして銀ちゃんと会ってたのか?」

水銀燈 「…はぁ、面倒ね」

銀ちゃんは頭を抱え、ため息を吐く。
面倒ごと…なのか?

水銀燈 「…あなたは直接、聞いた方がいいわね」
水銀燈 「本当は、薔薇水晶と1対1で話したかったし」
水銀燈 「また、改めるわ…じゃあねぇ〜」

バサッ!

そう言って、銀ちゃんは窓からフィールドへ出て行く。
やれやれ…バラスイの奴、何やったのか。

金糸雀 「…何かあったの?」

オウ 「あん? いや…ちょっと、な」

俺はそう濁して、再び炊事場に立つ。
今度はハムエッグでも作るか…
キンちゃんは、俺が言いたくないのを察してくれたのか、それ以上は何も言わないでくれた。



………。



金糸雀 「ふぅ〜、ご馳走様かしら♪ 意外と美味しかったわ!」

オウ 「おう、お粗末さん」
オウ 「で、キンちゃんは何しにここへ来たんだ? よもや飯の匂いに釣られて…は、ないだろう?」

俺がそう言うと、キンちゃんは少しだけ焦る。
だが、すぐにいつもの笑顔で切り替えした。

金糸雀 「家はみっちゃんがしばらく帰らないし、たまには真紅たちの所に行こうかと思ったんだけど〜」
金糸雀 「薔薇薔薇の様子がちょっと気になってここへ来たの! すると…いきなりいい匂いが〜」
金糸雀 「気がついたら、カナの空腹が一気に目を覚ましてしまっていたのよ!!」

オウ 「…まぁ、大体わかった」
オウ 「バラスイのことを気にかけてくれたのは礼を言う」

俺は素直に礼を言っておく。
キンちゃんもそうだが、銀ちゃんも何だかんだでバラスイのことを考えてくれているようだ。
真紅や翠には前の件でも世話になったし…な。

オウ (…考えてもみりゃ、世話になりっぱなし…か)

俺は皿を水洗いしながら考える。
桜田のこともそうだが、真紅や翠、キンちゃん銀ちゃん…
皆にどことなく世話になってる…
俺は…何もしてねぇのにな。
バラスイもそうだろう…何もしてない。
このままじゃ…マズイよなぁ。



………。



ジャーー!! キュッ!

オウ 「…さて、そろそろ準備だけでもしておくか」

金糸雀 「? どこか、出かけるのかしら?」

俺は洗物をザッと片付けると、着替えの用意をする。
キンちゃんはそれを問いかけてきた。

オウ 「ああ…今日は、チッ…とな」
オウ 「夕方までには戻るつもりだし、何だったらバラスイと一緒にいてくれてもいいぜ?」

金糸雀 「う〜ん、でも水銀燈が妙な事言っていたし、やっぱり真紅の所に行くわ」
金糸雀 「気になると言えば気になるけど…できれば水銀燈と事は構えたくないかしら…」

そう言って、キンちゃんはややうな垂れる。
そうか…銀ちゃんが苦手なのな。
まぁ、銀ちゃんは他のドールたちとはイメージが違いすぎるからな…

オウ (…あえて、大人と子供…とは言うまい)

金糸雀 「?」

俺は心の中で完結する。
さ〜て、バラスイは起きる気配ないし、時間はまだ余裕か…

オウ 「……」

金糸雀 「…な、何かしら?」

俺はキンちゃんを凝視する。
キンちゃんは意味がわからないかのように聞いてきた。

オウ 「…いや、着替えたいんだが…そのまま見る気か?」

金糸雀 「おっと、それはさすがにノーサンキューかしら…」
金糸雀 「じゃあ、カナはそろそろ行くかしら! 卵焼き、ご馳走様かしら♪」

タタタッ! ヒュンッ!

キンちゃんはウインクをして笑顔で礼を言い、フィールドに出て行く。
やれやれ…休みだってのに慌しい朝になったな。



………。



『時刻10:00 高峰宅』


オウ 「……」

俺はバラスイの鞄を凝視する。
起きる気配はやはり無い。
起きているなら、会話とかは聞こえているだろうに…

オウ 「…おい、バラスイ」

俺は答えの返ってこない鞄に対し、独り言を言うことにした。

オウ 「…お前が何を悩んでいるかはわからねぇ」
オウ 「まぁ、どうせ大したことじゃないと思うんだがな…」
オウ 「前に…言ったよな、俺らの間に隠し事は無しだ…って」
オウ 「俺は…お前が自分から動くのを待ってる」
オウ 「このままじゃダメだって事位…お前も、わかってるはずだからな」

俺はそう言って、鞄に背を向ける。
とりあえず先に桜田の家に向かうか…時間は余裕があっても文句ねぇだろ。

ザッザッ! ガチャ…バタンッ!!



………。



カチャ……

薔薇水晶 「………」

水銀燈 「…やっと、お目覚めかしらぁ?」

薔薇水晶 「……」

私が鞄を開けると、狙いすましたかのようなタイミングで水銀燈が声をかけてくる。
待っていた…と言うことだろう。

薔薇水晶 「……」

水銀燈 「…言いたいことは、わかってるわね?」

薔薇水晶 「…でも、私は」

水銀燈 「…どうするか、なんて物はあなたが勝手に決めればいいわ」
水銀燈 「でも、せいぜい後悔はしないことね」
水銀燈 「…あなたの記憶が戻ったのなら、いつ襲い掛かってきてもおかしくないんだから」

薔薇水晶 「…!」

水銀燈は無表情に言い放つ。
それは…私に対する、少なからずの『怒り』だろう。
私はかつて、彼女を倒した…不意打ちとはいえ、彼女の命を絶った…
プライドの高い水銀燈が、それを根に持っていないはずは無い。
本当は…今ここで殺したい程、私を憎んでいるはずだ。
でも…彼女から攻撃の意思は感じない。
彼女も…真紅と同じ考えだからだろう。
戦うことの辛さ…悲しさ。
痛みも憎しみも…全部知っているから……だから、彼女は…いや、彼女たちは…

水銀燈 「…気に入らないわね、少しは言い返してくるかと思えば、ダンマリだなんて」
水銀燈 「あなた…結局、何も変わらなかったの?」

薔薇水晶 「…? 変わ、る…?」

私が問い返すも、水銀燈はその場で背を向ける。
答える気は無い…そう言うことだろう。

水銀燈 「つまらなぁい…面白くなぁい…」
水銀燈 「そう言う御飯事には、付き合っていられなぁい」

薔薇水晶 「…?」

水銀燈 「…真紅たちの様に、御飯事をやっている生活なんて…私には理解できなかった」

薔薇水晶 「………」

彼女は背中越しに首だけコチラに向け、そう言う。

水銀燈 「でも、今なら少し位はわかってあげられるようになったわ」
水銀燈 「…あなたには、そう言う物はない?」
水銀燈 「…それなら、もう何も言うことはないわ」
水銀燈 「いつでもいらっしゃぁい…私が、バラバラのジャンクにしてあげる!」

バサッ!

水銀燈は、言うだけ言って去っていく。
最後の言葉は…本気だろう。
彼女は…戦うなら、いつでも来いと言っている。
でも、裏返すなら…戦わないなら……

薔薇水晶 「…オウ」

私は、『待っている』…と言ってくれるミーディアムを想う。
記憶が戻ってから…私は彼を避け続けている。
記憶の戻った私は…もう、彼の知っている薔薇水晶ではない。
…私のお父様…『槐』によって作られた、アリスを超えるための…ローゼンメイデンを壊すための人形。

薔薇水晶 「……お父様」
薔薇水晶 「…私は、ジャンクなのですか?」

ドス…

私は両膝を畳に着き、両手で胸を抑えて俯く。
静かな部屋の中…私ひとりが、こうやって存在している。
オウは…私に語りかけてくれる。
オウは……私に笑いかけてくれる。
オウは………私を信じてくれる。

薔薇水晶 「…お父様」
薔薇水晶 「……私、は…」

帰ってこない返事。
今まであった返事が、今は何一つ帰ってこない。
それもそのはず…お父様は、ここにはいないのだから…
でも、私には答えを探す術がわからない…

薔薇水晶 (こんなに……こんなに苦しいのに)

オウは私を信じてくれている、待っていてくれている。
でも、私はお父様に作られたドール…戦わなければならない。
私は…どうすればいいのですか?

薔薇水晶 「…誰も……答えてくれない」

水銀燈に聞いてもわからなかった…
水銀燈は知っているはずなのに…教えてくれない。
わからない……わからない………わから、ない。





………………………。





『時刻11:00 映画館前』


オウ 「…お前、こんなの見るのか?」

のり 「え? だって、面白そうだよ! 今冬ヒット間違いなしのホラー映画!」

のりは子供のようにハシャぐ…って、俺たちゃまだ子供か。
夏ならともかく、冬のホラーってどうなんだ?
とりあえずパンフを見てみるが、CGだか何だかの知的生命体が描かれている…
要は、地球人VS宇宙人だ…タイトルはあえて省かせてもらう。

オウ 「…まぁ、桜田が見たいってんならいいが」
オウ 「てか、俺も見るのか?」

のり 「もちろん! だって、ひとりじゃ怖いし〜」

だったら、初めから見るなよ!と、ツッコミを入れたくなるが、天然のこいつにツッコンでも空しいだけだ。
きっと楽しいのだろう…コイツは。

オウ 「しゃあねぇな…まぁいいか」
オウ 「すんません! 大人2枚!!」

店員 「はい、お待ちください………こちら、2枚で2400円です」

オウ 「うす…これで」

店員 「はい、丁度お預かりいたします…こちらが、チケットになります」
店員 「こちら、11:15より放映となりますので、時刻に遅れないよう、お気をつけください」

オウ 「うし…ほれ」

のり 「あ…お金自分の分は出すわ!」

俺はチケットを2枚ゲットし、一枚を桜田に渡す。
桜田は例によって予想通りの反応をするが、俺は断っておく。

オウ 「…オゴリだ、世話になったからな」
オウ 「つか…今回はお前のためにやってんだから、お前が世話焼いてどうする」

のり 「で、でも…高峰君、あまりお金ある方じゃないでしょ?」

痛い所を突かれる…確かにその通りだ。
とはいえ、冬休みに入ればバイトの時間も長くできるし、休み明けは結構ホクホクだろう。
恩返しと思えば、安い安い♪

オウ 「俺のこた気にするな…やりたくてやってる」
オウ 「お前はお前で楽しむよう善処しろ! いいか? 今日は絶対に気を使うなよ!?」

俺は念押しに言っておく、コイツはバカだから絶対に気を使う。
ぶっちゃけ…言うだけ無駄かもな(泣)

のり 「わ、わかったわ! きょ、今日だけは…頑張る!」

桜田はわけのわからない解釈をしているのか、妙に力む…
やれやれ…こいつの彼氏になる奴は絶対!苦労するな…頑張れよ山本君〜



………。
……。
…。



『時刻12:45 映画館前』


のり 「あ〜! 怖かったな〜!!」

オウ 「…そうか」

桜田はこれでもかと言うほどに楽しんだようだ。
てか、コイツは…上映中にビビりまくるし!
ホラーシーンに入る度、ガタガタしやがる…
隣にいる俺が、思いっきりハズいじゃねーか!

オウ (はぁ…何か予想以上に疲れる)

のり 「はぁ…今夜は眠れないかも〜翠星石ちゃんに添い寝してもらおっと!」

オウ (ご愁傷様…緑の妖精)

俺は心の中で翠に黙祷を捧げる。
まぁ、これも運命か…

オウ 「…さて、メシ食ってから解散すっか」

のり 「あ、そうだね♪ 良かったら、私がお店選んでもいい?」

オウ 「ん? ああ…別にいいが」
オウ 「お? あれって…弟君じゃないのか?」

のり 「え? あ! ホントだーー!!」

俺たちは映画館から離れていくと、途中ゲーセンの前で桜田弟を発見する。
どうやら、女連れのようで、店前のクレーンゲームをやっているようだ。



………。



ウィィィィ…ポスッ!

ジュン 「あ…」

のり 「あらら〜、惜しい!」

ジュン 「うっ!? ね、姉ちゃん! それに…」

オウ 「おう、彼女連れか?」

少女 「……?」

俺は弟君の隣にいる少女と目が合う。
だが、無表情に返されるだけだった…う〜む、バラスイみたいな反応するな…

のり 「巴ちゃん! 久し振り〜♪ 最近来てくれないから、心配したよ〜?」

巴 「…あ、ご無沙汰してました」

ジュン 「……」

オウ 「……まぁ、固まりなさんな」

ポンポンッ!と、俺は弟君の頭を叩く。
正確には帽子を被っているから、その上だな。

ジュン 「(高峰さん、お姉ちゃんと一緒で疲れませんか?)」

オウ 「(…激しく疲れる)」

ジュン 「(…ですよね)」

俺たちはヒソヒソ声で言葉を交わす。
今目の前で能天気に話している女のことだ…
まぁ…あれで疲れない男がいたら、、きっとそいつはあいつのために存在するんだろう。

巴 「……」

オウ 「……ん?」

のり 「あ、巴ちゃんに紹介するね! 彼は私のクラスメートで…」

巴 「知ってます…高峰 オウさん」
巴 「…有名ですから、事件起こした人って」

オウ 「……」

ジュン 「じ…事件?」

のり 「あ…え、えっと……巴ちゃん?」

巴…と呼ばれる少女は俺を睨みつける。
どうやら、あまりいい印象は無いらしい。

巴 「高校に入る前…暴走族と喧嘩して100人いたチームを壊滅させたって…ウチの学校では伝説になりつつあるんじゃない?」

オウ 「…懐かしいもんだな」

ジュン 「…か、壊滅って」

のり 「ち、違うのよ巴ちゃん! 高峰君は…」

オウ 「気にすんな!!」

のり 「!?」

俺は弁護する桜田を荒々しい口調で止める。
嘘は言われちゃいねぇ…やったのは事実だからな。

オウ 「…邪魔したな、俺はそろそろ帰るわ」

のり 「え…でも、食事は…」

オウ 「悪ぃな…今回はパスだ」

俺はそう言って、早足に去ろうとする。
だが、やはりバカはバカで…追いかけてこようとした。
今回ばかりは…それがマズかった。

のり 「高峰君! 待って…キャァッ!!」

ドンッ!!

男 「うおっ!? あんだテメェ!?」

オウ 「!? 桜田…!」

桜田は妙な男とぶつかり、尻餅を着く。
一瞬、状況を見失った桜田は目の前を見て蒼い顔をする。

男 「おい! 人にぶつかっといて挨拶無しかぁ!?」

のり 「ひっ…! ご、ごめんなさい!!」

桜田は明らかにビビって後ずさる。
だが、そんな光景を見て、男は笑う。

男 「ギャハハッ! ビビッてやんの! へ〜結構ハクイじゃん! 彼女、俺と遊ばねぇ?」

ガシッ!

のり 「キャッ! は、離してください!!」

ジュン 「お、おい! あんた、何やって…!」

巴 「その手を離してください! 人を呼びますよ!!」

男 「あ〜ん、あんだ!? ガキはお呼びじゃねぇんだよ!!」

ゲシッ!

巴 「キャァッ!!」

ズシャァッ!!

のり 「巴ちゃん!!」
ジュン 「柏葉!?」

男に足蹴りされ、地面を転がる巴ちゃん。
俺はこの瞬間、男に駆け寄る。
だが、その前に動いたバカがひとり。

ジュン 「このぉっ!!」

ブンッ!

男 「おっと! へっ、ガキはガキ同士でイチャついてな!!」

ドガッ!

ジュン 「ぐはっ!?」

ドシャァッ!!

のり 「ジュン君!!」

今度は桜田弟が蹴り飛ばされる。
全く…喧嘩の仕方も知らない奴がでしゃばるなってんだ!

男 「ギャハハッ! さ〜て、そんじゃ…」

オウ 「オイ」

男 「ギャハ……あ?」

バキィッ!!

男 「グベッ!?」

のり 「キャアッ!?」

ガシィッ!

俺は男の後ろから右肩をタッチし、男の振り向き際に思いっきり右拳で殴り飛ばす。
狙うポイントは眉間だ。
で、吹っ飛ぶ男から俺は桜田の手を奪う。

のり 「…あ」

男 「…ぐっ、テメェ…!!」

チャキィッ!

ジュン 「!? ナ、ナイフ!?」

男は事もあろうに、逆上して光物を出す。
やれやれ…小せぇ野郎だ。

オウ 「おう!? テメェ…それ出すからには、死ぬ覚悟できてんだろうなぁ〜!?」

ギンッ!と、俺はメンチを切る。
それにビビッたのか、男は明らかに手を震わしていた。
どうやら、使うのは初めてか…ハッタリもいいとこだな。

男 「テ、テメェ…こいつが怖くねぇのか!?」

オウ 「そう言うセリフは刺してから言えや! ビビッてんじゃねぇぞコラァ!?」

俺がそう言って凄むと、男は後ずさる。
もう一声だな。
俺が、もう一歩近づこうとする…だが。

バキィッ!!

オウ 「…!? がっ…!!」

巴 「高峰さん!? 酷い! 後ろから…それもバットで殴るなんて!!」

のり 「高峰君…キャアッ!!」

男2 「ほ〜いゲット〜♪ オイ、お前こんな奴と遊んでんじゃねぇぞ〜?」

男 「せ、先輩〜!」

男が喜ぶ…増援かよ。
俺は片膝着くも、すぐに起き上がろうとする。
だが、頭から血が滴ってきやがる…ちっ。

男 「コ、コイツまだ…!」

男2 「あ〜ん? しぶてぇな…」

ガゴンッ!!

のり 「キャアァ!! もう止めてぇ!! 高峰君が死んじゃう!!」

オウ 「…!!」

俺は再び片膝を着く。
二発目…意識が飛びかけたな。
チックショウ…金属バットかよ。
だが、俺はすぐに立ち上がる。
その姿に、男2が驚いた。

男2 「おいおい…お前、頭大丈夫か? それとも、今のでネジ飛んだか〜? クハハッ!」

オウ 「……」

ドガァッ!!

男2 「ブッ!!」

俺は高笑いする男の顎に向かって右足の前蹴りを放つ。
男の顎が当然のようにカチ上げられ、男は桜田を離して後ろに下がった。
ちなみに身長は俺の方が大分高い…こっちは170以上、向こうはせいぜい160後半か。

男 「せ、センパイ!?」

男2 「テメェ…いい度胸してんじゃん! どこのモンだ!?」

男2は俺に対してメンチを切る。
だが、俺はすでに聞く耳は持ってなかった。

バキィッ!!

男2 「グッ!? や、やろ…」

ガンッ!!

男2 「ガハッ!?」

オウ 「……」

バキィッ! ドガッ! ブンッ!!

俺は無言で男2を殴って蹴る。
男は何度か俺の攻撃を食らって、地面に這いつくばった。

男2 「ひぃ…ひぃ…!」

男 「テ、テメェ…俺たちに手を出してタダで済むと!」

オウ 「それがどうしたコラァ!? 10人だろうが100人だろうがかかって来いやぁ!!」

男2 「…ぐぅ…畜生!!」

男2が立ち上がる…しぶとい野郎だ。
だが、当然のようにそろそろ仲裁が現れる。

ピーポー! パーポー!!

男 「ヤベェ! ポリですぜ!?」

男2 「ちっ! ズラかんぞ!! テメェ覚えてやがれよ!? 絶対に潰してやっからなぁ!!」

ダダダダダッ!!

男たちはさっさと逃げ帰る。
チッ…バット位持って帰れってんだ。

警察官 「警察だ! そこ動くな!!」

オウ 「ちっ…」

のり 「あ…あ……」

オウ 「ジュン! 姉ちゃん連れてさっさと行け!!」

俺は明らかに涙目で放心している桜田を見て、弟君に叫ぶ。

ジュン 「!? え…た、高峰さんは!?」

オウ 「俺は…こっちの人間だ」

俺はそう言って、警察の方に向かう。
やれやれ…とんだ一日になっちまったな。

のり 「た、高峰…君」

ジュン 「ね、姉ちゃん! ここは、高峰さんに任せよう!」

弟君が桜田の手を引いて歩こうとする。
だが、やはり大バカは大バカ…桜田は俺の方に向かってきた。

のり 「高峰君! 私も、警察で一緒に…」

オウ 「やかましい! お前が来てどうする!?」
オウ 「邪魔なんだよお前は!!」

のり 「!? た、高峰…君」

俺はきつい口調で言い放つ。
頭から血が滴り、足元に落ちる。
俺のその姿を見てか、桜田は明らかに戸惑う。
だが、こいつはいつになく真剣な顔だった。

のり 「ううん!! 私は今日は退かない! 絶対に着いて行く!!」

オウ 「アホか!! 来るなって言ってんだ!!」

のり 「絶対に行く!!」

オウ 「来るな!!」

のり 「行く!!」

オウ 「いい加減にしろ!! どうしてもってんならなぁ…力づくで来いやぁ!?」

のり 「!!」

バシィンッ!!

オウ 「ぶっ…!!」

ジュン (行ったーーー!? 我が姉ながら無茶過ぎる!!)

巴 「!!」

桜田の右平手打ちが俺の左頬にクリーンヒットし、俺は不覚にも膝が笑う。
あまりに予想外の一撃だったためか、俺は意識が飛びかけた。
チックショウ…血が余計に出たじゃねぇか!

警察 「お…おいおい、大丈夫か!?」

オウ 「くっそ…効いたじゃねぇか」

のり 「これで、文句無いよね!?」

オウ 「…勝手にしやがれ!!」



………。



俺は観念して同行を許すことにした。
ちなみに、警察に連れて行かれることは無く、その場の尋問だけで済んだ。
桜田姉弟や巴ちゃんがキチンと説明してくれたからだ。

ピーポー! パーポー!!

オウ 「くっそ…血が止まらねぇ」

のり 「大丈夫?」

ジュン 「一度、病院に行った方が…」

オウ 「…ちっ、あんま厄介になりたくねぇんだがな」
オウ 「しゃあねぇか…保険証はサイフに入ってるし、ちっと行ってくるか!」

のり 「あ、だったら私も…」

オウ 「お前はもういい! 病院ならそんな遠くもないし、弟君連れて帰れ…」
オウ 「真紅たちも腹空かせて、待ってるだろ…」

俺がやや強がり、そう言ってやると桜田は思い出したかのように。

のり 「ああーーー!! 忘れてた!! 真紅ちゃんたちのご飯……」

ジュン 「え…? 作ってあったんじゃ…?」

のり 「レンジでチンすればいいんだけど…レンジに入れっぱなしで入っていると伝えてないのよぉ!!」

ジュン (…バカ)
オウ (大バカ)
のり 「こうしちゃいられないわ! ごめんね高峰君! 私急ぐわ!!」

ダダダダダッ!!

そう言って、桜田はひとりで走っていく。
忙しい奴だ…ってか、今の瞬間は俺の怪我とか記憶から飛んだな…

巴 「…あの、高峰さん」

オウ 「…あん? どうかしたのか?」

巴 「…いえ、一言だけ……失礼なこと言って、すみませんでした!」

そう言って、巴ちゃんは深々と頭を下げる。
いきなりだったので、俺も戸惑ってしまったではないか…

ジュン (…柏葉)

巴 「私…高峰さんの事、誤解してました」
巴 「不良って言うし、事件を起こしたって聞いていたから、もっと怖い人かと…」

ジュン (いや、『怖い』と言うのは間違ってないと思う…)

弟君は複雑そうな表情だった。
まぁ、何考えているかは何となくわかるがな…

オウ 「…あ〜、何だ」
オウ 「……巴ちゃんも気にするな」
オウ 「俺が不良ってのは間違ってねぇ…怖いってのもな」

巴 「…はい」
巴 「でも…高峰さんは、私たちが傷つけられて怒ってくれました」
巴 「その事に関しては…お礼を言いたいんです……ありがとうございました!」

再び巴ちゃんは深く頭を下げる。
う〜ん、何か体育会系の匂いを感じる…しかしどことなくお嬢様な気質も…

オウ (…深くは問うまい)
オウ 「…さて、んじゃ俺は行くわ」
オウ 「弟君、彼女をしっかりな!」

ジュン 「なっ!? 僕と柏葉はそう言うんじゃ…」

オウ 「がっはっは! そうやって反論するのは逆効果だな!」
オウ 「じゃあな! 姉ちゃんによろしく言っといてくれ」

ジュン 「…あ、はい」

巴 「…桜田君、行きましょう」

スタスタスタ…

ジュン 「あ、待てよ柏葉!」

オウ 「へ…」

巴ちゃんはさっさと歩き出してしまった。
何て言うか、サッパリした娘だな〜弟君もあれは手を焼くぞ…

オウ 「…っといけね」
オウ 「早めに行くか…倒れるかもしれん」

俺はそう思い、ここから一番近い大きな病院に向かった。



………。
……。
…。



『時刻15:00 総合病院』


バサッ!

めぐ 「…? 水銀燈…お帰り」

水銀燈 「…別に、帰ってきたわけじゃないわ」
水銀燈 「私は、単にここに寄っただけ」
水銀燈 「……それだけよ」

私はそう言って、めぐに背中を向け、いつものように窓の格子に腰掛ける。
そんな私を見てか、めぐは不思議そうに尋ねる。

めぐ 「…? 水銀燈、何か嫌なことでもあったの?」

水銀燈 「…別に」

嫌なこと…と言えなくもないかもしれない。
薔薇水晶…あの娘はどうするのかしらね?
私がこんなことを気にするのもどうかしてる……私もある意味『壊れている』のかもね。

めぐ 「…水銀燈、ひとりで悩まないで」
めぐ 「私…頑張るから、ね?」

水銀燈 「……別に、悩んでなんかいないわ」

めぐは少しではあるが強がって見せる。
あれから、めぐの体調は少しづつだが回復している。
それが、私との契約が原因かどうかはわからない…でも、めぐは私とであったことで、『変わった』
めぐの中で、『生きる』と言う事に理由が見つかったのだろう。
今まで、めぐは死にたいと思い続けてきた。
私と契約した理由は、速く死にたいから…

めぐ 「…今日もね、私ちゃんとご飯食べたんだよ」
めぐ 「美味しいとは思わないけど…それでも食べた」
めぐ 「だって…そうすれば、あなたは笑ってくれるから」

水銀燈 「………」

めぐは、変わった。
私のただひとりのミーディアム…
かつて、薔薇水晶に騙され…私は、めぐのためと思い、真紅たちと戦った。
だけど、私は勝つことはできなかった。
お父様は、夢の中で仰った…誰もがアリスになれる輝きを持っている…と。
アリスになる道は…アリスゲームだけではない、とも…

めぐ 「ごほっ! けほっ!!」

水銀燈 「めぐ!?」

めぐが急に咳き込み、私はつい、振り向いてしまう。
めぐの体は、完全には治ろうとしていない。
回復してきているとはいえ、まだこうやって体調を崩す。

めぐ 「…ごめんね、水銀燈」
めぐ 「私の体が、もっと満足なら……水銀燈にもっと力を分けてあげられるのに」

めぐはそう言って強がる。
私はそんなめぐを救いたかった。
私の存在が、めぐに生きる理由を与えるなら…私はめぐの側に居続ける。
薔薇水晶が向かってくるなら、容赦はしない…今度こそ、めぐのために私は戦う。

水銀燈 「…ゆっくり休みなさぁい、今日一日はここに居てあげるから」

めぐ 「うん……ありがとう、水銀燈」
めぐ 「いつも、優しくしてくれる…私の……天使様」

スー…スー……

めぐは、話し疲れたのか、すぐに眠ってしまう。
今にも切れてしまいそうな吐息が、弱々しく…私の耳に入ってくる。
私はそんなめぐの側でただ、座っていた。

水銀燈 「……? あれは」

私は突然、見知った顔を見つける。
何故…ここに?と、思うのはお馬鹿ね…病院なんだから理由はわかる。
私は、めぐの様子をもう一度見て、寝ていることを確認する。
そのまま、私は窓から地上まで降りた。



………。



ヒュゥ…!

オウ 「!? うおっ…銀ちゃん!」

水銀燈 「…声が大きいわね、ここでは静かにした方がいいわよぉ?」

突然、俺の背後から現れる銀ちゃん。
何でまたこんなとこに?

水銀燈 「…薔薇水晶は、何か話したかしら?」

オウ 「…? いや、あれからまだ会ってない」

俺がやや暗めにそう言うと、銀ちゃんは、はぁ…とため息を吐いた。

水銀燈 「…この際だから、言っておくわ」
水銀燈 「薔薇水晶をどうするかは、あなたが決めなさぁい」

オウ 「…!? はぁ…? どういうことだ?」

俺はさっぱり銀ちゃんの意図が読めなかった。
だが、銀ちゃんは構わないと言った風に話を進める。

水銀燈 「…薔薇水晶はミーディアムを持った経験が無いわ」
水銀燈 「槐の手を離れ、今頼れるのはミーディアムであるあなただけ…」
水銀燈 「……もっとも、あなたがどうとも思ってないなら関係はないわね」

オウ 「…なぁ、銀ちゃん」
オウ 「銀ちゃんは…バラスイを恨んでるか?」

水銀燈 「……!」

俺が神妙な顔で尋ねると、銀ちゃんは明らかに顔を曇らせる。
恨んでない…と言えば嘘になるのだろう。
それがわかっただけでもいいか…

オウ 「…すまねぇな、余計なこと聞いた」
オウ 「バラスイとは、腹割って話す…ありがとな、銀ちゃん」

水銀燈 「ふん…別に礼を言われるようなことはしていないわ」
水銀燈 「薔薇水晶とあなたが敵に回るなら、迎え撃つだけのこと…覚えておきなさぁい」

バサッ!!

そう言って、銀ちゃんは飛び去ってしまった。
銀ちゃん…病院に住んでるのか?
しかし…何だかんだで、銀ちゃんはいい奴だな。
遠まわしに…バラスイを心配してくれてる。

オウ (良かったな、バラスイ…お前…友達たくさんできるぞ、きっと…)

俺はそう思い、空を見上げる。
夕日が沈み始める中、俺はひとつの事を頭に思い…帰宅するのだった。



…To be continued




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