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Rozen Maiden 〜eine neue seele〜



最終話 『道 〜Weg〜』




『某日 時刻6:00 虹孔雀のフィールド』


オウ 「行くぞバラスイ! 勝つんだ!! 絶対に!!!」

俺は、呼吸を分け、3つ言葉を連ねる。
ひとつひとつに己の意思を込め、絶対に退かない勇気を振り絞る。
俺は弱くてもいい…だが、バラスイが負けるのは許されねぇ!!

薔薇水晶 「…うん!」

キィィィィィィッ!!

バラスイが呼応すると、バラスイの体から虹孔雀と同様の光を放出し始めた。
色は違うが、明らかに同質の力だと俺は理解する。
そして、今のバラスイは虹孔雀に負けないと言うことも…

虹孔雀 「…くっ!? この私が押されるだと…!!」

グググ…ッ!!

バラスイは虹孔雀との鍔迫り合いを段々と前に押しはじめる。
今まで防戦一方、押され続けていた波を一気に押し返すのだ。
虹孔雀もまた、全ての気力を持って押し返そうとするが、それでもバラスイは止まらなかった。

バラスイ 「……ふぅっ!!」

虹孔雀 「あぁっ!!」

ガキィィィィンッ!!

ついに、バラスイは虹孔雀を巨大剣ごと後ろに吹き飛ばす。
今までにないバラスイへの力の放出に、俺は気を失いそうになるが歯を食いしばって耐える。

オウ (絶対後ろは振り向くなよ…! 俺を信じてくれるなら、止まるな!)
オウ (俺が勝たせる! お前が勝つ!! 俺は、そのために命を賭ける!!!)

俺は血が滲むほどの握り拳を両手で握り、滴り落ちる血が気にならないほど意識を戦いに集中させる。
気力は溢れていた…恐怖はまだあるというのに。
俺のバラスイに対する想いが、ミオリさんへの恐怖を打ち消してくれていた。

ミオリ 「やるじゃねぇか…さすが、俺の弟子だ」
ミオリ 「虹孔雀! こんなもんで終わるんじゃねぇぞ!? 俺の相棒なら叩き潰せ!!」

虹孔雀 「応! これでこそ戦い甲斐があると言う物!! 勝つ意味がある!!!」

キィィィィィィィィィィンッ!!!

虹孔雀は更に強烈な光を放つ。
ミオリさんの力が更に注ぎ込まれているんだ。
俺は今の状態でも相当な消耗を強いられているのに、ミオリさんは表情ひとつ緩めない。
平気なのか? あれでも、まだ揺るがないのか?
俺の中に迷いが生まれる、だが次の瞬間それは容易く吹き飛んだ。

虹孔雀 「はぁぁっ!!」

ガッ! キャアアァァァァァァンッ!!!

薔薇水晶 「うぅっ!!」

ズザアアァァァァァァァァッ!!

薔薇水晶は再び後ろに押し返されてしまった。
虹孔雀の強烈な剣撃を受け止めようとした物の、力負けしてしまったのだ。
単純にパワーでは負けている、今はミーディアムの力比べに近い…
ただでさえミオリさんを超える力を俺が与えないとダメなのか…?

オウ (だが折れねぇ! 退かねぇ!! 背を向けねぇ!!!)
オウ 「受け取れバラスイ!! 俺の力をーーーーーーーーーー!!!!」

俺は血の滴る右拳を天高く上げ、俺の全ての力をバラスイに注ごうとする。

キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!!!

薔薇水晶 「!! オウの力…! これなら…!!」

虹孔雀 「貴様…正気か!! それだけの力を使えば、貴様のミーディアムもろとも…!!」

薔薇水晶 「!? オウ…!?」

パァ…

何と、虹孔雀の余計な一言で、バラスイは力の供給を遮断してしまう。
途端に俺の身体は一気に脱力するが、何とか倒れずに俺は踏み止まった。

ミオリ (正念場だな…ここを乗り切れなきゃお前は…)
オウ 「バカヤロウ!! 敵の言葉を真に受けてんじゃねぇ!!」

ミオリ (!? あいつ…)

薔薇水晶 「…オ、オウ…?」

オウ 「そう簡単に俺が死ぬか!! 俺を信じてくれるなら勝てる!! 俺が勝たせる!!」 オウ 「行けぇ!! バラスイーーーーーーーーーーー!!!」

俺は再び右拳を天高く掲げる。
滲み出る血が俺の額に当たって落ちてきたが、俺は意に介さなかった。
そして、今度こそバラスイは全力で呼応してくれる。

キュイィィィィィィィィィィンッ!!!

薔薇水晶 「……虹孔雀!」

虹孔雀 (こ、これが薔薇水晶の力なのか!?)
虹孔雀 (ローゼンメイデンを相手に、ミーディアム無しで、勝利を収めたドールの力…!)

あの虹孔雀がバラスイに対し、若干気圧されている様だった。
ミオリさんでえ、ついに表情を変え始める。
この時、俺は確信した…俺は、多分ここで終わりだ。
この戦いで、俺は終わる……

オウ (だが、お前は何も気にするな! 俺は、お前のためなら…何度でも!!)

薔薇水晶 「…この力で、あなたに勝つ!!」

虹孔雀 「!! 来るがいい薔薇水晶!! この私を倒さぬ限り、ローゼンメイデンを超えた等とは言わせはせん!!!」

ミオリ 「そうだ! 戦え虹孔雀!! 力を絞るのはテメェだけじゃねぇぞ!!!」

キュィィィィィィィィィィィィンッ!!!

何と、ミオリさんまでもが拳を天高く上げ、力をドールに集約させる。
俺とほぼ同等の注ぎようだ…あれでも、ミオリさんは持つというのか!?
だが、俺は退かないと決めた。
例えミオリさんが何度立ちはだかろうと、俺はもう退かない!!
バラスイの勝利のためになら、この命捨てると決めた!!

オウ 「行くんだバラスイーーーーーーーーーー!! この力! 全部持っていけーーーーーーーーーーー!!!!」

ブワァッ!! ビュゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!

虹孔雀 「!? くぅっ!! こ、この力…何と言う!!」

俺を通し、薔薇水晶から放たれる光と重圧が虹孔雀を押し始める。
ミオリさんも更に力を与えるが、それでもまだ足りないようだった。

ミオリ (…オウ、お前…まさかそこまで)
オウ (悪ぃな、ミオリさん…今回ばかりは俺が勝つぜ!!)

もっとも…勝ち逃げになるかもしんねぇけど、な……

オウ 「行けぇぇぇぇぇ! 勝つんだ!! 薔薇水晶ーーーー!!!」

薔薇水晶 「…うんっ!! 勝つ!! オウのためにも!!」

ゴゥッ!! ブチィィッ!!!

バラスイが剣を両手に持ち、今まで最大の力を込める。
その力に、バラスイの眼帯は千切れ、吹き飛んでしまった…だがバラスイは両目をギンッ!と見開き、虹孔雀への闘志を燃やす。

虹孔雀 「…!! 負けられぬ…! 私は、こんな所では!!」

ビュゥンッ!!

虹孔雀は翼をはためかせ、バラスイの頭上に飛び上がる。
そして巨大剣を真上に構え、一気に振り下ろす気だ。
まともに受ければ、確実に粉々だろう…だがな!!

オウ 「今のバラスイには通用しねぇ!!」
薔薇水晶 「はぁぁ…っ!!」

ギュゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!

虹孔雀 「!? ば、馬鹿な!?」

虹孔雀はバラスイの変化した剣を見て驚愕する。
バラスイは己の剣を虹孔雀の巨大剣よりも更に大きな、超巨大水晶剣を作り出したのだ。
そして、バラスイはそれを上から向かってくる虹孔雀に向け、下から全力で切り上げる!

虹孔雀 「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
薔薇水晶 「うあああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

ギンッ!!! コオォォォォッ!! バァァァァァァァァァンッ!!!!!

薔薇水晶 「!!」
虹孔雀 「…!? がぁはぁっ!!」

巨大剣が交錯し、七色の光が弾け飛んだ。
虹孔雀の剣は砕け、バラスイの剣は虹孔雀の身体を吹き飛ばす。
虹孔雀の力が強かったせいか、虹孔雀の身体は粉々にはならず、服が弾け飛び、身体にはいくつかヒビが入る程度のダメージで済んでいる様だ。
これで……本当に、終わったんだな………



………。



薔薇水晶 「…はぁ……はぁっ……!」

ザシッ!

私は両膝を地面に落とし、両手を地面に着いた。
もう、力は残っていない…本当に使い果たした。
作り出した剣はすぐに砕け、光と消えた…オウからの力が絶たれたからだろう。
虹孔雀は…立ち上がらない……終わったんだ。

真紅 「…! 薔薇水晶!?」

翠星石 「いたですぅ!! 虹孔雀は…?」

金糸雀 「倒れているかしら!! 薔薇薔薇が勝ってるかしら!!」

水銀燈 「…ふん、無駄足だったんじゃないのぉ?」

戦いが終わり、しばらくした後に真紅、翠星石、金糸雀、水銀燈の4体がこのフィールドに訪れた。
もしかして、私を心配して…?

ミオリ (…? なるほど、あれがお仲間、か)

真紅 「薔薇水晶! あなた…どうしてひとりで!!」

真紅は私の側まで走り、そう咎める。
私は、彼女たちには何も告げずに戦いへ挑んだ。
オウもこれは納得してくれたこと…この戦いは、私ひとりで勝つことに意味があった。

薔薇水晶 (…これで、7体のローゼンメイデンを倒したことになる)
薔薇水晶 (お父様…私は、勝ちました……でも)

ポタ…ポタ……

翠星石 「ば、薔薇水晶!? どうして、泣いてるですかぁ!?」

金糸雀 「ど、どこか痛いのかしらぁ!? あわわっ!!」

水銀燈 「……ふぅ」

私は涙した。
確かに、虹孔雀は倒した…だけど、彼女は自分で言ったように『ローザミスティカ』を持たない。
倒れた、虹孔雀からはローザミスティカの放出が確認できなかった。
つまり、この勝利は…お父様にとっては…何の意味も。

薔薇水晶 「…っぅ!!」

私は泣き声を我慢し、地面の砂を握り締めた。
何で、こんなに胸が痛いんだろう?
どうして、私は苦しいんだろう?
お父様は何も答えてくれない…何も……

オウ 「…泣けよ、バラスイ」

薔薇水晶 「…オ、オウ?」

オウは私の背中に優しく手を当て、笑ってくれた。
お父様は、何も言ってくださらない…でも、オウはこうやって私を見てくれる。
私はわかった気がした…私には、これが必要なんだと。
こうやって、笑いかけてくれる人が、私には……

薔薇水晶 「…オウッ!!」

ガバッ!!

オウ 「おっとと!! オイオイ!!」

私はオウの胸に飛び込んだ。
声には出さず、オウの胸に顔を埋めてしばらく泣く。
オウは全く嫌がることはせず、優しく私を抱きとめてくれた。
それだけでも、私は救われた気がした。



………。



水銀燈 「…哀れね、こうなると」

虹孔雀 「ふ…どうする? 私は残念ながらまだ無事のようだ」
虹孔雀 「トドメを刺すなら、止めはしないぞ…」

水銀燈は地面に倒れ、天を仰ぐ私を見て、つまらなさそうにため息をひとつ吐いた。

水銀燈 「くだらないわねぇ…終わりかけのあなたを倒した所で、ローゼンメイデンの名が汚れるだけだわ」
水銀燈 「好きにしたら? 別に今のあなたをどうしようとも、私は思わない…」

虹孔雀 「…そうか、なら皆を集めてくれ」
虹孔雀 「お前が思っている疑問を…知っている限りで話してやる」

水銀燈 「!! わかったわ…」

水銀燈は明らかに表情を変え、そう承る。
とうとう…この時が来たか。
だが、真相を話すことがどれだけ、辛い結果を呼ぶのか…私にも。



………。



オウ 「…おう、虹孔雀…何を話すってんだ?」

ミオリ 「黙ってろ、すぐにわかる…」

俺はミオリさんに制され、言葉を失う。
やれやれ…

虹孔雀 「…まず、私はあくまで、『ローゼン』が創り出した、人形だということを覚えておいてくれ」

真紅 「…ええ、わかったわ」

他全員 「………」

体が自由に動かない虹孔雀をミオリさんが支え、虹孔雀は言葉を放った。
その言葉に真紅が頷き、他全員は黙って次の言葉を待った。

虹孔雀 「…『ローゼン』は人形に情熱を燃やしていた」
虹孔雀 「『アリス』と言う、究極の人形を創り出すために、幾度もの試作品を作り出した」

翠星石 「…試作品? 私たちのことを言ってるですかぁ?」

翠星石はそう聞くが、虹孔雀は首を横に振り、否定する。

虹孔雀 「…もっと前のことだ」
虹孔雀 「まだ、水銀燈さえ作られていない時代…の」

水銀燈 「…私より、前」

虹孔雀は首を上に向け、思い出すように語り始める。

虹孔雀 「ローゼンは、悩んでいた…何度創っても、どれだけ思いを込めても…アリスは創れなかった」
虹孔雀 「ある日、ローゼンは『ローザミスティカ』を創り出した…それを『アリス』封入するために」

金糸雀 「!? 『ローザミスティカ』を…」

ローゼンメイデンを動かす動力とも言える、『ローザミスティカ』
つまりは、それが始めて搭載されたドールが、『アリス』1号ってわけか?

虹孔雀 「…お前たちの中にも存在する『ローザミスティカ』は、実は欠片なのだ」

真紅 「欠片!? と言うことは…」

虹孔雀 「そう…7つある『欠片』はひとつになることで、『アリス』となる」
虹孔雀 「そして、その7つは元々ひとつで…私の身体に内包されていたのだ」

水銀燈 「!? 何ですって…!」

翠星石 「ということは、虹孔雀は…初の!?」

金糸雀 「ローゼンメイデン…」

真紅たちは驚愕していた。
何と、虹孔雀は初めて『ローザミスティカ』を与えられたドールだと言うのだ。
それが本当かどうかはわからないが、俺には嘘だとは思えなかった。

虹孔雀 「…私は、かつて『アリス』と呼ばれていた」

真紅 「!? そんな…! あなたが、アリス?」

水銀燈 「馬鹿なことを言わないで! アリスがすでに創られていたのなら、何故私たちが創り出されたのよ!?」

真紅と銀ちゃんは虹孔雀に突っかかる。
だが、虹孔雀は、淡々と答える。

虹孔雀 「…今の私と、アリスだった頃の私はほとんど別物だ」
虹孔雀 「当時の私は…まさにアリスと呼ぶに相応しかったはず」
虹孔雀 「だが、そんな『アリス』に対しても、ローゼンは妥協できなかった」

オウ 「…妥協って」

ミオリ 「お前…まさか」

虹孔雀 「…私は、『捨てられた』のだよ…ローゼンにな」

真紅 「そんな…! お父様が…アリスを!?」

翠星石 「し、信じられないですぅ!! あのお父様がそんな酷いことするはずが!!」

水銀燈 「…作り話も、そこまで行けば笑い話にもならないわ」

金糸雀 「…お父様は、誰よりもドールたちを愛してらっしゃるのに」

真紅たちローゼンメイデンは全員が虹孔雀の言葉を否定していた。
そりゃ、仕方がない…そこまで信じきっている父親なんだからな。
もっとも、バラスイは全く無関心、か…

薔薇水晶 「…続きは?」

虹孔雀 「…うむ、信じる信じないは好きにすればいいからな…私は、語るべきことを語るだけだ」

バラスイが促し、虹孔雀は再び語り始める。

虹孔雀 「…父ローゼンは、私を『アリス』と創り出した」
虹孔雀 「だが、私は究極の少女と言うコンセプトには足りない物があったのだ…」

真紅 「…足りない物?」

虹孔雀 「…それは、『力』だ」

虹孔雀は静かに答える。
だが、思いの外誰も薄い反応のようだった。

虹孔雀 「戦い、勝利する力、統率し、支配する力」
虹孔雀 「私にはそれが無かった…そして、父はそれを許せなかった」
虹孔雀 「父は、己が創りだした『究極』の人形でさえ、納得できなかった」
虹孔雀 「そして、父は己に絶望し、私から『ローザミスティカ』を抜き出し、それを砕き割った…」

金糸雀 「ひぃ…! 何か、怖いかしらぁ!!」

翠星石 「くだらねぇです…どうせ全部作り話ですよ!」

翠星石はそう言うが、真紅と水銀燈は若干戸惑っているようだった。
信じてはいない…だが、思い当たるフシでもあるのか?
そんな、どこか完全否定できない何かを考えているか…そんな風に見えた。

虹孔雀 「砕き割られた『ローザミスティカ』は7つになり、いつしか父はそれを7体の人形に移す事となった」
虹孔雀 「それらが、お前たち『ローザンメイデン』なのだ…」

オウ 「…ちょっと待てよ、だったらバラスイは、やっぱり『ローザミスティカ』ってのは持ってないのか?」

薔薇水晶 「………」

バラスイは自分の胸に手を当てて俯く。
自分でもよくわかっていないのだろう。

虹孔雀 「…それは私にも、よくわからない」
虹孔雀 「そもそも、槐が父に弟子入りしたのは、私が捨てられた後…」
虹孔雀 「ローザミスティカの製法までを知っているとは、思い難いな」

ミオリ 「そんだけ、難しいもんだってことか…」

真紅 「…まさか、『アリスゲーム』の存在とは」

真紅は何かに気づいたのか、そんなことを口ずさむ。
『アリスゲーム』…かつて真紅たちがローゼンメイデン同士で戦い合った悲劇の戦いだ。
最終的には、バラスイがこれに勝利したらしい…だが、バラスイはアリスになることなく、崩壊してしまった…

薔薇水晶 「……っ!」

オウ 「大丈夫だバラスイ、何も苦しむことはねぇ」
オウ 「今のお前には俺がいる、皆がいる」
オウ 「だから、気にすんな」

薔薇水晶 「……うん」

バラスイは過去を思い出したのか、辛そうな顔をした。
俺はそれを察知し、宥めてやる。
バラスイの心の穴は、相棒の俺が埋めてやればいい。
互いに足りない物があるからこそ、相棒が必要になるんだからな…

虹孔雀 「『アリスゲーム』…それは私に足りなかった『戦う力』を得るための儀式」
虹孔雀 「全てのローゼンメイデンが戦い、最終的に勝利したドールが『アリス』となる…」
虹孔雀 「真のアリス…美しさだけでなく、戦う力をも究極となった、最強のドール…」
虹孔雀 「お前たちは、戦うために創られたのだ…」

真紅 「嘘よ! お父様は仰ったわ!! 『アリスゲーム』だけが『アリス』になる方法じゃないと!!」

水銀燈 「…他にも、道はある…そう仰ったわ!」

真紅と水銀燈がそれぞれ、そう反発する。
ふたりが直接聞いた言葉なのだろう、確信めいた表情だ。
虹孔雀はそれに驚くことなく、ただこう告げる。

虹孔雀 「それが父の意思か…ならば、好きにすればいい」
虹孔雀 「ただ…覚えておくがいい。遠からず、父は動く…」
虹孔雀 「お前たちが思っているほど、父は全知全能ではない…」

ローゼンメイデンの皆は言葉が無いようだった。
父を信じなければ、何を信じる?
あいつらはそれで悩んでる。

オウ 「おう、虹孔雀…まだ言ってねぇことがあるぞ、お前は何でバラスイを狙ったんだ?」

ミオリ 「そう言えば、俺にも話してくれなかったな…理由があるんじゃないのか?」

俺は最初からずっと疑問に思っていたことを虹孔雀に問い詰める。
すると、虹孔雀は俺の顔を真っ直ぐに見た後、バラスイに目をやり。

虹孔雀 「試すためだ…薔薇水晶が本当にローゼンメイデン超える人形なのかどうかを」

薔薇水晶 「……?」

虹孔雀 「…ふ、とはいえ本当に超えているかは誰にもわからん」
虹孔雀 「…7体目が姿を現さないうちはな」

真紅 「!! 7体目…ローゼンメイデンの…」

水銀燈 「……まだ姿を現していない、最後の一体」

翠星石 「…一体、どんな奴ですかねぇ〜」

金糸雀 「気になるかしら…虹孔雀は知っているの?」

7体目と言う言葉に真紅たちは驚きを隠せなかった。
それほど重い意味を持つのだろう…その7体目とやらは。

虹孔雀 「…詳しくは知らぬ、名前はおろか姿すら確認されていない」
虹孔雀 「だが、確実に存在はしている…でなければ、『アリス』は生み出せないのだから」
虹孔雀 「恐らくは…7体目も『アリス』になるため、どこかで息を潜めているのだろうな…」

オウ 「…虹孔雀、最後の質問だ、お前…何で『ローザミスティカ』無しで動けるんだ?」

俺の質問に全員が注目する。
誰もが思っていたはずだ、動力源の無い人形がどうして動くのか。
いわば、電池式のラジコンが電池無しで動いているようなもんだからな…

虹孔雀 「それは、私にもわからない…」
虹孔雀 「何故、私が動けるのか? どうして、薔薇水晶が動いているのか?」
虹孔雀 「ひょっとしたら、これも父の思惑通りなのかも、な…」

虹孔雀は悔しそうだった。
父の描いたシナリオが余程気に食わないのか、唇をかみ締めて言い放った。
結局、虹孔雀や薔薇水晶が動く理由は…わかんねぇってこと、か。

オウ 「…うっし! なら話はこれで終わりだ!!」

虹孔雀 「………」

ミオリ 「……」

薔薇水晶 「…オウ?」

俺がバラスイを抱きかかえ、立ち上がると皆が注目する。
俺は、天を一度仰ぎ、一言。

オウ 「帰ろうぜ! 俺たちの日常に!!」













































………その日、戦いは終わりを告げた………



……思えば、小さな戦いだった……



…ただこの日、少年は成長することができた…














































『12月24日 時刻18:00 高峰宅』


薔薇水晶 「……」

私は家でオウの帰りを待っていた。
今日は、クリスマス・イヴと言う特別な日、らしい。
オウは、帰りにケーキと言う食べ物を買ってきてくれる。
私は、どんな物か楽しみにしながら、窓の外の景色を眺めていた。
雪が降り、夜の街並みを美しく照らす照明…
オウは、今どこにいるのかな?





………………………。





『同時刻 好々爺』


オウ 「へい、お好み焼きお待ち!!」

ミオリ 「オウ! そろそろ上がっていいぞ!! 今夜は速めに帰ってやれ!!」

オウ 「え…いいんすか!?」

俺が厨房に顔を出すと、忙しそうなミオリさんが笑って答える。

ミオリ 「バカヤロウ! こんな日位はしっかり相手してやれ!!」
ミオリ 「別にここは俺ひとりでもいいんだし、な…」

そう言って、ミオリさんは焼きソバを焼いていた。
俺は、余計なことは言わずにただ一言…

オウ 「ありがとうございます! お先に失礼します!!」

そう言って一礼する。
そして、俺はエプロンをさっさと脱いで更衣室に向かった。



………。



オウ 「うっし、着替えも終わり! えっとカバンカバン〜」

俺は自分のカバンを取り、中を一応確認しておく。
えっと、財布は大丈夫…金は、ギリギリだがショートケーキ位は買えるな。
必要な物は全部入ってる…が、ん?

オウ 「封筒…? これって…」

俺はカバンの中、無造作に入っていた茶封筒を確認した。
どうやら、ミオリさんが入れていたらしい…中には、何と金一封が…(汗)

オウ (ミオリさん…感謝しやす! これでもう1ランクいいケーキが買えるぜ!!)

俺は手を合わせミオリさんに心で感謝の意を述べた。
そして、荷物を持って俺は店を後にする。



………。



オウ 「へへっ! 待ってろよ〜、今日はいいもん食わせてやるからな〜!」

俺は期待に溢れ、足早に街中を走る。
駅前はこの時期さすがに人が多く、夜になると街がライトアップされていい感じに見える。
今日はクリスマスだからな…どこもかしこもカップルだらけだ。

オウ (とはいえ、俺は俺で待っている女がいてくれるからな♪)

などと思いながら、俺はケーキ店へ向かう横断歩道で信号待ちをしていた。
俺は信号を待ちながら、どんなケーキを買うか考えておく。
でかいのを買っておいた方がいいよな…どれだけ喰うか目に見えるし。
問題は味だ…単純な物もいいが、ここは被らないようチョコレート系で……

女 「危ない!!」

オウ 「!?」

女性の悲鳴に似た声が俺の耳に響き、俺は前を見る。
信号はまだ赤のまま、だが道路を横切ろうとする少女がひとり…

オウ 「ざぁけぇんなぁぁぁっ!!!」

プアァァァァァァァァァァンッ!!!!

俺は向かってくるトラックよりも速く駆けつけた。
だが、このままだと俺は少女と心中することになる。
間に合わない…だったら、俺が取った行動は…ひとつだった。

キィィィィィィィッ!!!! ドガァッ!! ザッシャァァァァァァァァァァッ!!!!





………………………。





薔薇水晶 「……」
薔薇水晶 「…オウ、遅い」

時間はもう21時を回ろうとしていた。
今日は早めに帰ってくると言っていたオウは、まだ帰ってこない。
今夜は、真紅たちの所でクリスマスパーティをやるのだと聞いていた。
ひょっとしたら、オウは先に行っているのだろうか?
私は、様子を見に行こうと思い、窓に扉を作ってフィールドへ入った。



………。



薔薇水晶 「…え?」

水銀燈 「…来たわね、薔薇水晶」

ヒュンッ!

薔薇水晶 「!?」

突然、水銀燈は私に向けて羽を飛ばしてきた。
あまりに急なできごとに私は混乱する。
一体、これはどういうことなのか?

薔薇水晶 「…水銀燈?」

水銀燈 「…あなたとの決着は、ここで着けておくわ」

ヒュヒュヒュンッ!!!

水銀燈は連続して私に羽を向けてくる。
全てが私を正確に狙ったもので、冗談の類には感じられなかった。
でも…どうして?

薔薇水晶 「…止めて、水銀燈」

水銀燈 「あらぁ? 随分いい娘になったものねぇ〜」
水銀燈 「前に戦った時は、遠慮なく私の背中を攻撃したくせに!」

チャキッ!

薔薇水晶 「!? ……それは」

水銀燈はそう言って、剣を構える。
私はあの時のことを思い出し、水銀燈の顔を直視することができなくなった。
裏切り…と言うわけではなかったけれど、私は水銀燈の隙を狙って背後から彼女を攻撃し、倒した。
彼女は、今もそれを忘れず、私を憎んでいる…

水銀燈 「記憶を無くしていた間位は、様子を見ていたけれど…戻った今なら話は別!」
水銀燈 「あの時の屈辱は、ここで返させてもらうわ!!」

ギュンッ!!

水銀燈は、剣を持ち高速で飛び掛ってきた。
私は反射的に手を前に出し、人工精霊を出す。

キィィィンッ!!

水銀燈 「くっ!!」

バサァッ!!

クリスタニアは盾となり、水銀燈の剣を止める。
だが、クリスタニアから放たれる光はやけに弱弱しく感じた。

薔薇水晶 「…クリス、タニア?」

クリス 「………」

キィィ…パァァァ……

クリスタニアはそのまま粒子の様になって消えてしまう。
まるで、力を失ってしまったかのように、私自身も妙な感じだった。
一体、何が…?

薔薇水晶 「!? まさか…オウに何か……」

水銀燈 「!! 薔薇水晶ぉぉぉっ!!」

ドガァッ!!

水銀燈は考える私に対し、身体を蹴りつけた。
私は腹部に強烈な前蹴りを浴び、その場から吹き飛び、地面を転がった。

薔薇水晶 「…っ! どうし、て…こんな」

水銀燈 「どうして? 何を言ってるのよ…あなたと私は敵同士!」
水銀燈 「私は真紅たちとは違うわ…あなたとお仲間ごっこなんかしない!!」
水銀燈 「まさか、私を仲間だと思ってたの? だとしたら傑作だわ!!」
水銀燈 「私はあなたから受けた痛みは忘れてない…絶対忘れない!!」

チャキッ!

水銀燈は地面を這い蹲る私の首元に剣を当てる。
水銀燈が本気なら私はいつでもやられる状態だ。

薔薇水晶 「…止めて、水銀燈」

水銀燈 「どうして私があなたの言うことを聞かなければならないの?」
水銀燈 「それとも、あなたの様な心無い人形でも壊れるのは怖い?」

水銀燈は剣を突きつけたままそう言い放つ。
だけど、私はそんな彼女の言葉を否定する。

薔薇水晶 「…壊れることは怖くない……怖いのは、オウに会えなくなること」

水銀燈 「!! あなた…」

水銀燈は私を悲しい目で見ていた。
この時、私はわかってしまった…彼女は嘘を吐いていると言う事に。
水銀燈は、私に何かを隠している…そして、それを知らせまいとしてる。
きっと…オウの身に何かがあったのだろう、オウは私のミーディアムなのだから、何となくわかる。
ひょっとしたら、もう……

薔薇水晶 「水銀燈、お願いだから止めて…私はオウの所に行きたいだけ」

水銀燈 「むかつくわね…私のことは眼中に無いってことかしら?」
水銀燈 「私が邪魔なら、力づくでどかせばいいでしょう!? 前の戦いみたいに!!」

水銀燈は、言葉を荒げ私をなじる。
私はそんな言葉を受けても、水銀燈の目を真っ直ぐ見て答えた。

薔薇水晶 「私は…あなたとは戦いたくない」

水銀燈 「止めなさい! 虫唾が走るわ!!」
水銀燈 「このまま戦わないって言うなら! ここで私があなたをジャンクにしてあげるわ!!」

薔薇水晶 「…それは、ダメ」
薔薇水晶 「オウに会うまで、私は壊れない…」

水銀燈は、口ではああ言いつつも、私を本当に怖そうとは思っていない様に感じた。
恐怖など、無い…水銀燈を信じているから。

水銀燈 「…! 薔薇水晶…あなた、そこまであのミーディアムを……」

チャ…

薔薇水晶 「?」

水銀燈は剣を引き、私に背を向ける。
私はゆっくりと立ち上がり、水銀燈の背中を見た。

水銀燈 「…行けばいいでしょう、そこまで言うならもう止めないわ」
水銀燈 「前のことは、とりあえず先延ばしにしてあげるわ…」

薔薇水晶 「…水銀燈、教えて」
薔薇水晶 「どうして、こんなことをしたの?」

私は水銀燈の背中に疑問を投げつける。
だけど、水銀燈は答えなかった。
私は言葉をしばらく待ったが、諦める。

薔薇水晶 「…ごめんなさい、水銀燈」

バッ!

私は一言、そう謝ってその場を去る。
水銀燈は、そんな私を見送るように眺めていた。



水銀燈 「……」

真紅 「ごめんなさい、あなたにこんな役をやらせてしまって」

水銀燈 「…ふん、貸しにしておくわ」

真紅 「ええ…必ず返すわ」
真紅 (薔薇水晶…気持ちを強く持つのよ……)





………………………。





ヒュゥゥ…

薔薇水晶 「? ここは…どこ?」

私がたどり着いた場所は、知らない場所だった。
オウの元へたどり着くように移動したはずだけど、そこは知らない場所。
いや、ちょっと違う…ここは前に見たことが……

めぐ 「あれ? あなた…どこから来たの?」

薔薇水晶 「!?」

私は突然横から声をかけられ驚く。
見ると、電気も点けずにベッドに横たわる少女がひとりいた。
確か…前に見た。
水銀燈のミーディアム、『柿崎 めぐ』
と言うことは…ここは、病院?

めぐ 「…あなた、名前は?」

薔薇水晶 「……? 私は…薔薇水晶」

めぐ 「薔薇水晶…何だか不思議な名前ね」

彼女はそう言って不思議そうな顔をする。
私は彼女のことを何度か見たことがあるが、彼女は私のことは知らない。
水銀燈が話すことも無かったのだろう。

薔薇水晶 「…ここに、『高峰 オウ』と言う人間はいるの?」

めぐ 「えっ…? 高峰、オウ? 男の人かな…でもそんな先生は聞いたこと無いけど」
めぐ 「それとも、患者さん? だとしたら、別の部屋かも…」

薔薇水晶 「…そう」

私はそれを聞くと、この場から離れようとする。
だけど、すぐに私の後を追ってここに入ってくる者が現れた。

ヒュゥゥ…

翠星石 「…薔薇水晶、オメェ…やっぱり来たですか」

薔薇水晶 「翠星石? どうして…ここに」

翠星石は鏡の中から現れ、私の姿を見て表情を変えた。
まるで…私に来て欲しくない…そんな風にも見える。
翠星石は床に着地すると、服の埃を手でパッパと払い、私の方をしっかりと向いた。

翠星石 「…とりあえず、来ちまったもんはしょうがねぇですぅ」
翠星石 「先に、話してやるです…」

薔薇水晶 「?」

翠星石は悲しそうな表情をし、少し躊躇ったような感じで俯き、言葉を放ち始めた。
まるで、これから嫌な話を聞かせる…そんな風にも感じる。

翠星石 「…今、オメェのミーディアムは死の淵に立ってるです」

薔薇水晶 「!?」

こう言うのを、鈍器で殴られたような…とでも言うのだろうか?
その言葉ひとつで、私の体はバラバラにされたかのような衝撃を受けた…気がした。
私は両手で自分の胸を抑え、倒れそうになる自分の足を踏み止まらせる。
オウが…死の淵にいる……オウが、死ぬ?

翠星石 「…まだ、死んだとは決まってねぇですぅ」
翠星石 「でも、医者が言うには…可能性は低い」
翠星石 「……体の中味を入れ替えでもしないと、ダメだそうですぅ」

入れ替え…私たちで言う、部品の様な感じ?
人間のことはわからないけど、部品を入れ替えればいいのなら…

翠星石 「言っておくですが…そんな簡単なことじゃないですよ?」

薔薇水晶 「………」

すぐに諭される。
簡単なことじゃない…それはそうだ、簡単なら翠星石はこんな話をわざわざしないだろう。
それが難しいから、オウは……

翠星石 「…とにかく、今はここで待つですぅ」

薔薇水晶 「…何故? 私は、オウの所に…」

翠星石 「ダメです! オメェがいったら確実に死んじまうですぅ!!」

薔薇水晶 「!?」

翠星石 「…あ」

めぐ 「あ、あの…あまり大きな声は出さない方が」

私は翠星石の一言で、全身にヒビが入ったかのような錯覚を受けた。
私が行ったら、オウが死ぬ?
それって…私のせいで、オウが死ぬということ?
どうして……まさか、前の戦いの影響で!?
思いつくフシはどこにでもある…前の戦いでは明らかにオウは無茶をしていたはず。
私に過剰なまでの力を送って…それが今になって影響してきたのかも。

薔薇水晶 「………」

私は自分の胸を握り潰してしまうかと思う位、強く指先に力を込めた。
いっそ、私が消えれば…オウは助かるかもしれない。

めぐ 「あ、あの…薔薇水晶、ちゃん?」

薔薇水晶 「……」

めぐが私に話しかけてくる。
私は無反応のまま、その場で床を見つめていた。
構わずに、めぐが話しかけてくる。

めぐ 「その…あなたにとってのミーディアム、きっと…助かるわ」

薔薇水晶 「!?」

私はバッ!と凄い勢いでめぐの方に顔を向けた。
めぐは驚いた顔でちょっと後ろに退いたが、すぐに笑う。

めぐ 「あなたは…その人のことが大好きなんだよね?」
めぐ 「だったら、きっと大丈夫…その人は助かるわ」
めぐ 「根拠は、ないけれど…誰かが必要としてくれるなら、きっとその思いは届くはずよ」

薔薇水晶 「…必要、とするなら」

翠星石 「…まぁ、どうなるかはわからんですよ」
翠星石 「あのヤンキーの生命力を信じるしかねぇですぅ〜」

翠星石はそれでも不安な顔はしていた。
何だかんだで、翠星石もオウのことは嫌いではないのだろう。
そうだ…オウが死んで悲しくなるのは、私だけじゃない…

翠星石も、真紅も…水銀燈や金糸雀だってきっと悲しいはずだ。
短い間かもしれないけど…一緒に笑ったり、怒ったり、ご飯を食べたりしたんだから…

薔薇水晶 「………」

不思議と、落ち着いた気がした。
『想い』の力…とでも言うのだろうか?
私の中に何故か安心感が生まれた。
そして、その中から私は『力』を感じた…この時……私は、確信する。

薔薇水晶 (…お父様、私の中にもあるのですね……『ローザミスティカ』は)

私の胸の中にある、小さな煌き…それはローゼンメイデンの物からすれば小さな欠片なのかもしれない。
でも、私の中には想いがこもった力が生まれる。
それは、他の人形とは違う、絆の力。
姉妹では無いけれど、私は皆と繋がっている気がした…そして、オウとも……

ヒュゥゥゥ…

金糸雀 「た、大変かしら!」

翠星石 「金糸雀!? ど、どうしたですか! まさか…」

金糸雀が突然鏡から現れ、今にも泣きそうな顔だった。
その顔に私たちは不安感を募らせる…
そして…

金糸雀 「オウが、助かったかしらーー!!」

翠星石 「!?」
薔薇水晶「…!!」
めぐ 「やった!」

不安は、すぐに塗り替えられた。
オウは助かったと、金糸雀が報告してくれる。
その言葉に私と翠星石、そしてめぐまでが喜んでくれた。
私は翠星石、そして金糸雀と共に、オウのいる病室に向かうことにした。



………。



『同日 時刻23:30 オウの病室』


薔薇水晶 「…オ、オウ?」

オウ 「…お〜……バラスイか〜」

オウは力ない声で、鏡から現れた私たちを見て反応した。
その顔は青く、顔もかなり弱弱しかった…相当なダメージを負っていたのだろう。

薔薇水晶 「…オウ……良かった……」

虹孔雀 「…とりあえず、我慢できたようだな」

翠星石 「…虹孔雀、オメェの言う通り薔薇水晶は足止めしたですが」
翠星石 「肝心の、理由を聞いてないですぅ! 一体、どういうことですか!?」

金糸雀 「そうよそうよ! どうしてバラバラを足止めする必要があったのかしら!?」

ふたりはそう言ってその場にいた虹孔雀を問い詰めた。
そして、虹孔雀が答える前に、弱弱しい声でオウが答える…

オウ 「…俺のせいだ」

薔薇水晶 「?」

オウ 「俺が…ボロボロになっちまったから、ダメだったんだよ……バラスイがここに来たら、力を吸い取られちまうから」
オウ 「だから、ダメだったんだ…せめて、俺の意識が回復する位までは、な…」

薔薇水晶 「…やっぱり、私のせいで……」

オウ 「違う! げほっ!!」

私の言葉をオウはすぐに否定する。
掠れた声を大きくあげ、オウは咳き込んでしまった。

虹孔雀 「…オウは、自分の意思でこうなった」
虹孔雀 「薔薇水晶、自分を責めるな……ただ、お前はミーディアムのコントロールがまだできない」
虹孔雀 「オウは普段からお前に多過ぎるくらいの力を与え続けた…お前はそれが普通だと思っていただろう?」
虹孔雀 「だが、本来ローゼンメイデンであるなら、ミーディアムの力が弱まった時はちゃんと対処する物だ」

翠星石 「そうでしたか…薔薇水晶はミーディアムとの契約は初めてだから」

金糸雀 「しかも、力はありあまってるオウだったから…」

オウ 「悪かったな…どうせ俺が全部悪いんだよっ」

オウは両腕を枕にし、その場で天井を見上げてふてくされた。
だけど、その顔はどこか笑っている。
こんなやりとりでも、楽しいと思っているのだろう…オウは、そう言う人だ。

ヒュゥゥゥ……

真紅 「どうやら、助かったようね?」

翠星石 「真紅! 水銀燈は?」

真紅 「…彼女なら、自分のミーディアムの所よ」
真紅 「今のまま、薔薇水晶と顔を合わせるのは少し、ね…」

金糸雀 「…ど、どんな足止めしたのかしら〜!?」

薔薇水晶 「…もしかして、水銀燈は」

真紅 「…ええ、芝居よ」
真紅 「ああでもしなければ、多分時間を稼げないと思ったから…私がけしかけたの」

真紅はサラリと凄いことを言った気がした。
つまりは、だ…水銀燈は真紅にけしかけられて、あんなことを……。

オウ 「…何か、滅茶苦茶やったんじゃないだろうな? 銀ちゃん大丈夫なのか?」

真紅 「大丈夫よ…薔薇水晶のおかげで、ね…」

薔薇水晶 「……」

虹孔雀 「……理由の方はもういいな? そろそろ私の話もさせてもらう」

翠星石 「…オメェの話?」

金糸雀 「一体、何を…」

虹孔雀 「…オウ、お前は事故で内臓に致命傷を負った」
虹孔雀 「だが、お前は生きている…と言うことは、その理由がわかるか?」

オウ 「…回りくどいな、はっきり言え。誰が提供者なんだ?」

虹孔雀 「…弥栄 ミオリ」

オウ 「…!! ちっ、どうせんなことだろうと思ったぜ!!」
オウ 「で? そのミオリさんはどうしてんだよ!?」

オウは苦しそうな顔をしながらも、強い口調で虹孔雀を問い詰める。
虹孔雀はそんなオウを冷静に見ながら、一言…こう告げる。

虹孔雀 「…ミオリはもう、この世にいない」

オウ 「…は?」

真紅 「…まさか、死んだというの?」

翠星石 「オウの、ために…ですか?」

金糸雀 「嘘……」

薔薇水晶 「……オウ?」

虹孔雀と私を除く全員がうろたえていた。
まるで、信じられない…とでも言いたげな。

オウ 「何かの冗談か? あの人が何で…」

虹孔雀 「他の提供者が見つからなかったそうだ…仕方なく、ミオリが自分で提供することにした」
虹孔雀 「……どの道、ミオリに残された時間は少なかったからな」

オウ 「!? 何だそれ…何のことだよ!?」

虹孔雀 「……」

虹孔雀は黙っていた。
オウの態度からして、知らなかったことに少し戸惑っているようだ。
だけど、意を決してか、虹孔雀は言葉を放つ。

虹孔雀 「…ミオリの余命は後1年ほどだったそうだ」

オウ 「!? 1年…余命…? 何だそりゃ? そんなの聞いたことも…」

虹孔雀 「心臓と肺を患っていたらしい…発見された時はすでに手遅れだったそうだ」
虹孔雀 「幸い…提供する臓器には何の問題もなかったそうだ、だからお前に移植された」
虹孔雀 「…どの道長くない命なら、お前のためにと…ミオリは命を捨てたのだ」

虹孔雀はそう言って顔を伏せる。
自身のミーディアムが自ら命を経ったのだ…思う所はあるのだろう。

オウ 「畜生……何で、一言も言ってくれなかったんだよ……」

オウも顔を手で隠し、泣いているようだった。
『弥栄 ミオリ』…戦った相手のミーディアム…だけど、オウにとっては、とても大切な人だったのか…

真紅 「…そろそろ私たちは帰りましょうか?」

翠星石 「え? あ…はいですぅ…」

金糸雀 「えっと…私も帰るかしら〜」

ヒュゥゥゥゥンッ

そう言って、よそよそしく3人は鏡を潜った。
真紅は気を利かせたのだろう…
今、ここにいるのは私とオウ、そして虹孔雀だ。

虹孔雀 「………」

オウ 「…なぁ、ミオリさん、死ぬ前に何か言ってたか?」

虹孔雀 「…一言、お前に宛てた言葉があった」
虹孔雀 「……『がんばれ』、だそうだ」

オウ 「…!! くっ……ぅぅ!!」

オウにとって、それがどれほどの意味を持つのか私にはわからない。
だけど、たった4文字のその言葉が、オウを泣かせている。
少し、羨ましい……私には、まだわからないから。

虹孔雀 「…薔薇水晶、少し出ようか」

薔薇水晶 「え…?」

虹孔雀 「…今は、オウをひとりにしてやれ」
虹孔雀 「その後に、お前が側にいてやれ…」

薔薇水晶 「………」

私はそう言われ、虹孔雀と共に鏡を潜った。
そして…その先は。





………………………。





『12月25日 時刻0:00 高峰宅』


虹孔雀 「……」

薔薇水晶 「………」

たどり着いたのはオウの部屋だった。
何故、ここを選んだのかはわからない。
だけど、虹孔雀はやけに感慨深く、部屋を見ていた。

虹孔雀 「…ここがお前たちの部屋か」

スタ…スタ…

虹孔雀は歩いて部屋を見渡す。
照明も点いていない暗い部屋…その中に私たちはいる。

虹孔雀 「…さて、薔薇水晶」
虹孔雀 「本題だ、お前はこれからどうする?」

薔薇水晶 「? どうする…?」

質問の意味がわからなかった。
虹孔雀は私の反応を見て、言い方を変える。

虹孔雀 「…お前は、いつまでこの世界に留まる?」

薔薇水晶 「……?」

私はまだよくわからない。
いつまで…と言われても、私にはどう答えていいのか…

虹孔雀 「…ふむ、お前は自分の存在が少し曖昧なようだな」

薔薇水晶 「……?」

虹孔雀 「ローゼンメイデンであるなら、この世界に留まり続ける理由もわかる」
虹孔雀 「だが、お前は違う…そうだろう?」

薔薇水晶 「………」

ローゼンメイデンは、『アリスゲーム』のためこの世界で戦い続けている。
アリスゲームが終わらない限り、彼女たちの戦いに終わりはない…
だけど、私はローゼンメイデンではない…
留まり続ける必要は…ない?

虹孔雀 「私は、まだ別の目的があるゆえに、この世界に留まる必要がある」
虹孔雀 「だが、お前はそうではあるまい? その気になればひとりで世界を渡り歩くこともできよう」
虹孔雀 「で、どうする? お前はそれでも…この世界に留まるのか?」

薔薇水晶 「…オウがいるなら、私はここにいる」

私はそれだけ答えた。
私の答えを聞いてか、虹孔雀は微かに顔を伏せ、笑う。
私の答えはわかっていた…とでも言いたそうな顔だった。

虹孔雀 「ならばいい…だったら、私に手を貸すつもりは無いか?」

薔薇水晶 「…? あなたに…?」

虹孔雀 「ああ、悪い様にはしない…無論断ってくれても構わない」
虹孔雀 「すぐに答えることもない…オウが回復してからでも、な」

そう言って、虹孔雀は背を向ける。
そして、私の答えを待たずにその場から飛んでフィールドに入っていった。
その場に残されたのは…私ひとり。

薔薇水晶 「…これからどうするか」
薔薇水晶 「……私は、オウと一緒にいたい」
薔薇水晶 「オウは……どうしたいの?」

ふと、そんな考えに行き着いた。
私のしたいこと、オウのしたいこと…それは一緒なんだろうか?





………………………。





『同日 時刻13:00 オウの病室』


オウ 「…俺のしたいこと?」

薔薇水晶 「……うん」

昼食を終え、ベッドで休んでいる俺にバラスイが突然そう尋ねてきた。
突然言われて驚くところだが、俺にはすでにやることができていたので軽く答える。

オウ 「…俺は、ミオリさんの店を継ぐ」

薔薇水晶 「店…?」

オウ 「ああ、ミオリさんの店…お好み焼き屋やってんだ」
オウ 「その店、俺が継いで商売する…とは言っても、高校卒業してからだけどな」
オウ 「話はまだ始めてもいねぇけど…俺はそうしたいと思ってる」

バラスイはそれを聞いて、不思議そうな顔をしていた。
意味がよくわかってないに違いない…

オウ 「難しく考えんなよ…お前とはずっと一緒だからさ」

俺はそう言ってバラスイの頭を撫でてやる。
こうすると、こいつは頬を赤らめて、少しだけ微笑む…これが破壊力高ぇんだ

薔薇水晶 「…うん、私はオウとずっ…と、一緒にいたい」

オウ 「ああ、どこにもいかねぇよ…お前がいなくならない限り、な」
オウ 「つっても、理由無にどっかいったら追いかけるぞ?」
オウ 「ミオリさんの受け売りだが、地獄の果てまでも追いかける!」
オウ 「だから……」





『これからも…よろしくなっ』















俺たちは、ここから始まっていく…

悲しい別れや戦いはあったけど…俺たちはその分強くなる

そして、その先にはきっと……

俺たちが目指す、『道』があるのだろう…

突然現れた、少女の人形…

これは、そんな人形の成長していく様を描いた物語…

薔薇水晶という…『新たな魂』を宿した、人形の……



Das Ende…




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