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Rozen Maiden 〜eine neue seele〜



番外編 『水銀燈と猫』




水銀燈 「………」

バサッ…

めぐ 「…あ、おはよう」

朝のこの時間…大体いつも同じ時間に、彼女は私の元に訪れる。
彼女の名は…『水銀燈』
私は、毎日この時間を楽しみにしてる。
水銀燈は、ちょっと無愛想で、ツンとしてて…でも、優しい娘。
特に夏が終わってからか…水銀燈は何だか変わった気がした。
アリスゲームと言う、人形たちの戦いが終わってしまったのか。
水銀燈はあれから戦いには行かなくなった。
夏の季節…最期の戦い。
水銀燈は…あの日のことは一切口にしなかった。

ただ帰ってきて一言…

「…おはよう」

そう言ってくれた…初めてのことだった。
いつも何も話さず、ただ気がついたら側にいる…そんな水銀燈。
そんな水銀燈が…初めて挨拶をしてくれた、軽く横目に微笑んで…ちょっとだけはにかんで

めぐ 「…水銀燈、いつも、ありがとう♪」

水銀燈 「…何よ、突然?」
水銀燈 「私は…礼を言われるようなことはしていないわ」

他愛のない会話…
でも、私にはこれが嬉しい。
水銀燈が私の側にいてくれる…それが何よりも嬉しい。

めぐ 「…♪」

私はクスリと笑う。
そんな私を見てか、水銀燈は少しムッ…として顔を背けてしまう。
素直じゃない…水銀燈。
でも…それは、私もだ。



………。



私は…前までずっと死にたいと思っていた。
水銀燈が初めて私の前に現れた時、私はやっと死ねるんだと思った。
私を…天国に連れて行ってくれる天使様。
黒い…天使様。

でも、死ねなかった…
水銀燈は、私の命を吸わずに…ずっと側にいてくれる。
そんな水銀燈と一緒にいる内に…私は、『死にたくない』…と、思うようになり始めた。

めぐ (水銀燈と、一緒にいたい…)

水銀燈 「………」

私は水銀燈の背中を見ながら、自分の胸に手をそっと当て祈る。
いつかは、水銀燈はいなくなってしまうかもしれない。
でも、私はずっと一緒にいたい。
そのために、私は『生きたい』と、思う。

めぐ 「(水銀燈……ありがとう)」

私は、彼女に聞こえないように、そっ…と、呟く。
そして、私はゆっくりとベッドに背中を預け、休む。
まだ…起き続けるのは辛い。
でも、少しづつでも…変わっていこう。
水銀燈が、少しでも笑ってくれるように……





………………………。





これは、ある秋の一日のお話…

毎日の様に姿を見せてくれた水銀燈が、たった一日だけ…姿を見せない日があった

後で、水銀燈から聞いた、とても…とても、悲しい、お話……





Rozen Maiden 〜eine neue seele〜 番外編


『水銀燈と子猫』





めぐ 「……」

サァァァァァァ……!

とある秋の日…私は雨の降る外を見る。
雨だから、普段は窓を閉めないと怒られるけど、私は構わず開けていた。

めぐ (…今日は、遅いな)

いつもなら、水銀燈が来てくれる時間。
水銀燈は時間に正確だから、遅れることは無かった。
でも、今日に限っては…まだ来てくれない。

ガチャ…

ドアの開く音、朝ご飯の時間だ。
私は窓から目を一旦背け、ドアの向こうから現れた、いつもの看護婦さんを見る。
部屋の様子を見てか、看護婦さんはやや顔をしかめた。

看護婦 「めぐちゃん…また、窓を開けっ放しにしてるの?」
看護婦 「雨の日だから、窓は閉めておくわよ? 雨風は体に悪いわ…」

看護婦さんは食事の乗ったトレイをいつもの場所に置く。
そして、やや早足に窓の側に向かい、窓を閉めてしまった。

ガラ…パタッ

雨の音が小さくなり、部屋が閉鎖された様な感覚に陥る。
私は…この空気が嫌い。
私は看護婦さんの顔を見ることなく、ただ窓の外だけを見続けた…

看護婦 「…めぐちゃん、窓は開けちゃダメよ? それじゃあ、もう行くから」

めぐ 「………」

私は何も答えず、看護婦さんが出て行くのを待つ。
きっと、看護婦さんはこう思っている…

(どうせ、すぐに開けるんでしょうね…)

…と。

パタン…

めぐ 「……」

看護婦さんが出て行き、部屋に静寂が訪れる。
私は1分程時間を置き、立ち上がって窓を開ける。
立ち上がるのはまだ辛いけど…水銀燈が、入って来れなくなるから。

カラ…カララ………サァァァァァァァァァァァァァ!!

めぐ 「きゃっ…」

窓から風が入り込み、私は雨風をまともに受けてしまう。
ちょっと怯んでしまい、その場で蹲ってしまった。

めぐ 「…うぅ」

私は一瞬、倒れそうな感覚に襲われる。
でも、強い意志を持ってベッドに戻った。
私が、辛い顔をしたら…水銀燈は笑ってくれないから。

ポスッ…ギィ…

私がベッドに横たわると、少し軋む。
その音を聞いて、ちょっと驚く。

めぐ (体重…上がったのかな? あれから、食事を採るようになったから…)

私は落ち着いてから体を起こし、食事の乗ったトレイを手に取った。
今日も全部食べたら…水銀燈は、褒めてくれるかな?
きっと、言葉には絶対してくれない。
でも、水銀燈は笑ってくれる…それを思うと、どんなに不味い病院食でも、食べようかと思える。





………………………。





ザァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!

水銀燈 「………」

私は、とある『ゴミ捨て場』で立ち往生していた。
屋根も無く、振り続ける雨の中、私はある一点を見続けていた。

子猫 「…ミィ……」

水銀燈 「……」

子猫だ。
まだ幼い…多分、産まれて間もないのだろう。
目も開いていない、雨に打ちひしがれ…子猫は小さな鳴き声をあげていた。
今頃、めぐは待ちくたびれているかもしれない。
だけど、今はここを離れられなかった。

水銀燈 「……」

子猫 「…ミィ……ミィ……」

子猫は一定のリズムで鳴き声をあげ続ける。
本当なら、親猫が世話をするであろう。
でも、ここには親猫はいない。
穴の開いた発泡スチロールの中、子猫は堂々とゴミ捨て場に『捨てられて』いたのだ…

水銀燈 「……」

子猫 「…ミィ」

私は子猫をそっと抱き上げる。
タオルひとつすら与えられず、この雨の中発泡スチロールに閉じ込められていた子猫。
その体は冷え切っており、今にも呼吸は止まりそうだった。

水銀燈 「……」

私は翼を胸の前まで広げ、子猫を雨から守る。
人に見つからないよう、私は隠れながら歩く。
自身が雨に濡れる事など…すでに頭には無かった。



………。
……。
…。



水銀燈 「……」

子猫 「………ミィ」

私の胸の側で、子猫の鳴き声が遠くなっていく。
所詮、私の体は人形…人と同じ温もりを与えることは出来ない。
なのに、何故私は、子猫を抱いているのだろう?

子猫 「…………ミィ」

水銀燈 (私と同じ…産まれてすぐに、放置された)

私は過去を思い出す。
私は…作りかけの人形。
捨てられたことを信じることが出来ずに、お父様に会うため動き続けている。
夏のある戦いの日……私はお父様の声を聞いた

水銀燈 「……アリスゲームだけが、アリスになる道じゃない」
水銀燈 「………他に、道はある」

子猫 「……ミィ………」

私は俯き、呟く。
お父様が仰ったことを、私は思い出す。
私は作りかけの人形…でも、アリスになることを許された。
アリスを目指すことを……

水銀燈 (でも、この子猫には…それすら、与えられない)

子猫 「………」

私の腕の中、子猫は次第に鳴くことも無くなった。
私は、体温を失い、体の力を無くし始めた子猫を、強く抱きしめた。



………。



水銀燈 「……」

子猫 「………」

サァァァァァァァ…

歩き続けていた私は…ピタリと立ち止まる。
数秒…経った後、私は子猫の鼓動が止まったのを……理解した。

水銀燈 「………」

子猫 「……」

子猫の命が旅立って行くのを感じた。
この子は…もう、ここにはいない。

水銀燈 「………」

バサァッ!!

私は無情に降り注ぐ雨を憎らしく見上げ、翼を広げた。
子猫の亡骸を胸に抱き、私は飛び立つ。

ババババババッ!!

水銀燈 「!!」

私は雨に立ち向かい、上空へと羽ばたいていく。
自身を強く打つ雨をもろともせず、まるで子猫が旅立った魂を追いかけるかのように…私は雨雲をも突き破った。

バァッ!!

水銀燈 「………」

私は雲を突き破り、太陽の光が溢れる雲の上へと辿り着いた。
暖かい秋の日差し。
まだ朝の日差しだけど、とても心地よかった。

水銀燈 「……」

私は子猫の亡骸を抱き、太陽の光を浴びる。
そして…一言だけ、こう呟いた。

水銀燈 「………ごめんね」

ボオオオオオオォォォッ!!!

私は亡骸を両翼で包み、灰ひとつ残さぬよう、焼き尽くした。
もう子猫はいない…あの子は、旅立ってしまったから。

水銀燈 「…!! ふっ!!」

ブォワァァァァッ!!!!

私は翼から力を込め、雨雲に向かって力を放出する。
まるで怒りをぶつけるかのように、力を全力で放出した。
力を受けた雨雲には穴が開き、私はその穴から下に降りた。





………………………。





めぐ 「…!? 太陽の光…どうして、ここだけ?」

私は突然雨が止んだのに驚き、窓の外に体を乗り出した。
真上を見ると、雨雲に穴開いており、そこから太陽の光が差し込んでいる。
そして…そこからゆっくりと、ひとつの影が降りてきた。

水銀燈 「………」

めぐ 「…水銀、燈?」

水銀燈 「……」

私は言葉を失った。
太陽の光を受けながら私の病室へと降り立った水銀燈は、全身を雨で濡らしていた。
太陽の光を浴び、反射で光り輝く水銀燈は…まさに天使のようだ。
でも……


水銀燈は……泣いていた





………そして、その日の夜………





水銀燈 「……」

めぐ 「…ねぇ、水銀燈」

水銀燈 「……」

「……どうして、あの時泣いていたの?」

と、言いたかったのに、私は言えなかった。
水銀燈が振り向き、私を見た目は、『何も言わないで』…と言う、感じがしたから。

めぐ 「…ごめんなさい」

水銀燈 「……」

私は謝ってしまう。
水銀燈はそれを聞くと、何も言わずに空を見た。
そして、ぽつり…と、一言だけ。

水銀燈 「……めぐ、歌って」

めぐ 「……うん」

私は水銀燈のリクエストに何の疑問も抱かず、気の向くままに歌を捧げた。
いつも、歌っている歌。
水銀燈が、聞いてくれる…歌。

水銀燈 「……」
水銀燈 「………」

めぐ 「♪〜♪♪〜〜♪〜」

私は歌いながら水銀燈の背中を見た。
微かに肩を落とし、水銀燈は俯く。
ここからじゃ見えないけど…水銀燈は泣いているように見えた。
でも、私は歌を止めなかった。
歌を止めたら…水銀燈は笑えないだろうから……

水銀燈 (…さよう、なら)





…これは、水銀燈と一匹の子猫のお話

空高く旅立った…子猫の、お話……










〜Fin〜




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あとがき…のような物
この作品は、とある動画に感化されて書いた物です。
その元ネタの動画もご紹介いたしますので、どうぞ♪





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