勇者と魔王〜嗚呼、魔王も辛いよ…〜




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第2話 『絶対なる力』




『魔王城:魔王サタンの寝室』


サタン 「……」

コンコン。

サタン 「入れ」

俺は寝室で本を読んでいると、突然ドアをノックされる。
俺は本を閉じるとドアに向かって入る許可をする。

メビウス 「失礼します」

中に入ってきたのはメビウスだった。
一体どうしたというのか?

メビウス 「先ほど、シーザー殿が帰還されました」

サタン 「シーザーが?」

メビウス 「はい、現在は応接の間にて御寛ぎ願っております」

サタン 「…わかった、すぐ向かおう」

俺はそう言うと立ち上がる。
そして、シーザーの待つ応接間へ向かうのだった。



…………。



『魔王城:応接の間』


セリア 「…はい、王手♪」

シーザー 「ぬぅ…詰みですか、参りました…」

セリア 「ふふふ、これで3勝0敗ですね♪」

シーザー 「いやはや、しかしセリア殿人間ながらお強い…」

セリア 「いえいえ、私などまだまだ♪」
セリア 「それより、トカゲ頭かと思ったらシーザーさん賢いのですね」

シーザー 「と、トカゲ…」

中に居たのは捕らわれの筈の王女セリアと来客のシーザーだった。
シーザーはヒートリザードマンと呼ばれるトカゲ人間だった。
体は大きく2メートル近くあり、爬虫類独特の皮膚でヒートリザードを示す赤いうろこをしている。
リザードマンらしく鎧も着込み、腰には剣の入った鞘が差してあった。

シーザー 「もう一番願えますか?」

セリア 「受けて立ちましょう♪」

さて、シーザーとセリアが行っているのは将棋だった。
現在セリアが三戦して三勝、セリアは顔に似合わず強かった。

セリア 「どうぞ♪ シーザーさん♪」

シーザー 「うむ、ではまずは歩を…」

サタン 「…て、オイ!!」

セリア 「あら、サーちゃん、サーちゃんもやる?」

サタン 「じゃ、ないだろうが! 貴様何故ここに居る!?」

セリア 「あら? 居たらいけませんの?」

サタン 「貴様は囚われの身だろうが! さっさと牢獄に戻れ!」

セリア 「あら? てっきりこの鍵はくれたものかと…?」

サタン 「!? それは牢獄の鍵ぃ!? なんで貴様が持っている!?」

セリア 「えーと、あれは10年前…」

サタン 「まだ、お前いねぇよ!!」

シーザー 「あ、あの…」

サタン 「ぬ? シーザー…すまない見苦しい所を…」

シーザー 「あ、いえ…それより…」

サタン 「すまないな、すぐに場所を変え話を…」

シーザー 「いえ、もう一番待ってくれます?」

サタン 「……」

もはやサタンは呆れるばかりだった。
結局セリアとシーザーの4番勝負が始まるのだった…。



…………。



セリア 「はい♪ 詰みです♪」

シーザー 「むぅ…参りました」

サタン (やっと終わったか…やれやれこれでやっと…)

シーザー 「もう一番…」

サタン 「待てぇい! いい加減にしろ! ここで名人戦する気か!?」

セリア 「あらやだ、名人だなんて、私なんてまだ2段ですよ♪」

サタン 「段位持ってんのかい!?」

シーザー 「成る程、道理で強い…」

サタン 「納得してもらった所で今日はやめてもらいたい」
サタン 「ここに着いて早速で悪いが話がある…」

セリア 「あら? それはお仕事のお話ですか〜?」

サタン 「貴様が知る必要は無い! てか、牢獄に帰れ!」

セリア 「あらやだやだ、それでは帰りますわ、珠のお肌に夜更かしは禁止ですわ♪」


サタン 「…まったく」

シーザー 「いやはや、サタン様も手を焼いておられる様で…」

サタン 「……」

シーザー 「さて、勇者の件ですが…」

サタン 「現在リアウの森にいる、本物かどうかはまだわからん…」

シーザー 「…勇者の見極め、私にやらせてもらえませんでしょうか?」

サタン 「お前が? 今の勇者一行に貴様を倒すことは不可能に近い、まだお前の出番ではない」

シーザー 「確かに私のレベルと勇者達のレベルでは合計を足しても私の方が上でしょう」
シーザー 「だからこそ、確かめてみたいのです。その勇者を」

サタン 「…自由にしろ」

シーザー 「ハッ!」

サタン 「今日はこの城で休むがいい、明日向かえ」

シーザー 「仰せのままに…」

サタン (…どうなるかな?)



…………。



サタン 「勇者達は現在リアウの森内、アーチスの村にいるようだ、付近に転送しよう」

シーザー 「ありがとうございます、しかし、メビウスは?」

メビウス 「うっす」

俺は二人を転送印の間に呼んでいた。
これから二人を同じ場所に転送するのだ。

サタン 「メビウスには別の任務だ、転送先で行動は別に行う」

シーザー 「…そういう事ですか、わかりました」

サタン 「では、健闘を祈る」

シーザー 「…仕事は確実に遂行します」

メビウス 「行ってきますです」


ヒュウウウ…ヒュン!


サタン 「…シーザーのやつめ、一体どういう働きをするつもりだ?」

俺は二人が転送して考える。
奴の任務は勇者の討伐ではない。
勇者の見極め。
俺を倒せない勇者なら捨て置いてもいい、その程度の存在だからだ。
しかし、倒せる存在なら…。

サタン 「全力で屠らねばなるまい…」

かつて、幾人もの魔王がこの人間界に降り立った。
そして、その度に先代の魔王たちはその『役目』で勇者に倒された。
そして俺にもその時が来たのかもしれない。
人間には人間の役割があり、魔族には魔族の役割がある。
『魔王』は『勇者』に倒されなければならない…。
これは宿命として魔界に存在する…そして代々の魔王たちがそれによって死んでいった。

サタン 「だが、俺は抗う! 真の勇者…『光の勇者』は俺が倒す!」

セリア 「なーに、真顔になっているの?」

サタン 「!? セ、セリア!?」

セリア 「あら? 驚かしちゃったかしら?」

サタン 「何度も言わせるな! さっさと帰れ!」

セリア 「あらあら、怖い怖い、あら? これは…?」

セリアは俺の目の前の地面にある転送の魔方陣に注目する。

サタン 「これは…」

セリア 「あら? 単なる魔法陣じゃ…」

ヒュウウ…ヒュン!

サタン 「て、おい!」

何とセリアは転送印から転送されてしまった。
しまった! 転送先はリアウの森だぞ!?



……………。



さて、そんな頃勇者一行は?


レオン 「ふぅ、まだ森は続くのか?」

アルル 「んーと、この先にコボルトが縄張りにするエリアがあって、その先を抜けると山に出るんだって」
アルル 「で、その山を越えたらようやく海沿いにでるらしいわよ」
アルル 「で、その先に魔族がより多く生息する大陸があるわけね」

シーラ 「魔王城は当然その大陸にあるのですから、向かうべき場所はそこですね」

エド 「とりあえず、海を渡るためにもこの森を抜けないとな」

レオン 「それじゃあ、準備も出来ているところで行こうか!」

全員 「おー!」

…俺たちは今アーチスの村にいる。
ここにあった宿屋で一泊すると俺たちは次なる目的地ステイの村に向かわなければならない。
ステイの村はこの先のコボルトたちが根城とするエリアに存在する村だ。
コボルトたちはゴブリンよりも少し高位で炎の属性を持っている。
とはいえ、相手をできないレベルではない。
むしろ辛いのはその後だろう。



…………。



アルル 「あ〜あ、それでもまだしばらくはゴブリンの相手をしないといけないんだよね」

エド 「楽に相手できるに越したことないぞ」

レオン 「でも、俺たちが強くなるにはより多くの敵を相手しなければならない」

シーラ 「できれば、戦わないことが一番よろしいんですけどね」

エド 「そりゃそうだ」

アルル 「んなこと、通用するんなら今頃私たち戦っていないって!」

シーラ 「そうですね…」

確かに、戦わないことにこしたことはない。
争いなんて無い方が良いに決まっている。
でも、今は戦わないといけない時代なんだ。

レオン (俺って不幸な時代に生まれたもんだ…)

それでも、嘆いている暇はない。
とにかく一刻も早く魔王を倒さないと…!

レオン 「で、北はどっちだ?」

アルル 「こっちこっち! 早く次の村に向かおうよ!」

そう言ってアルルは先に走って行ってしまう。

エド 「アルル! ちょっと待て!」

アルル 「遅いよみんなー!」

そして、俺たちもアルルの後を追うのだった。
既にアーチスの村からかなり離れている。
そろそろモンスター達と出くわしそうだな…。

シーラ 「! アルル前!」

アルル 「え? ひゃあ!?」

ドン!

アルル 「あた! て、うわわ!」

シーザー 「……」

エド 「リザードマン!?」

正面に現れたのは赤い皮膚をしたリザードマンだった。
鎧を着込み、腰には剣を差してある。
明らかにここらのモンスターじゃない!?

アルル  「と、友達になりたいって顔じゃないわよね…?」

レオン 「アルル! 早く戻って来い!」

アルル 「うっひゃー!!」

アルルは大急ぎで俺たちの後ろに戻ってくる。
俺とエドは剣を構えリザードマンと対峙する。
不思議とこのリザードマンはアルルを捕らえようともしなかったな…。

シーザー 「…貴殿が勇者レオンか?」

レオン 「…! こいつ喋れるのか!?」

意外や意外、このリザードマンは喋ってきた。
思わず驚いてしまう。

シーザー「貴殿は勇者かと聞いている」

レオン 「そ、そうだ!」

シーザー 「そうか、私はシーザー、ヒートリザードマンのシーザーだ」

シーラ 「ヒートリザードマン…シーザー」

このリザードマンはシーザーと名乗る。
明らかに今までの敵とはレベルが違う。
まさしく魔族のナイトだ!

シーザー 「悪いが、貴様ら勇者一行の旅はここでおしまいだ」
シーザー 「このシーザーが相手だ!」

レオン 「!」

シーザーはそう言って剣を左手で抜く。
こいつ、左利きか!

エド 「く、いくぞ!」

レオン 「はぁ!」

俺とエドはシーザーに向かう。
相手は冷静に構える。
見る所隙はなさそうだ、全力で戦うしかない!

アルル 「うう! アイスボール!」

アルルはそう言うと、手から氷のつぶてを出して、シーザーに放つ。

シーザー 「はぁぁ!」

ゴォォォォ!

レオン 「く!?」

エド 「うお!?」

シーザーは突然、口から炎を吐く。
火炎の息か!?
そして、火炎の息はアルルのアイスボールを消滅させる。
そして、水蒸気が大量に周りに立ち込める。
しまった! これでは視界が利かない!

シーザー 「ふん!」

レオン 「!?」

キィン!

アイスボールが蒸発した水蒸気で視界は一気に悪くなってしまい、その隙にシーザーは俺に切りかかってくる。
俺はそれを何とか剣で受け止めた。

シーザー 「よく、受け止めた…だが!」

レオン 「くぅぅぅ!」

相手は物凄い力で押してくる。
こちとら両手で持っているのに、相手の片手の力に負けるのか!?

エド 「レオン!」

シーザー 「フン!」

ドコォ!

エドは上段に剣を構え、援護に来るが、がら空きの腹部に右の裏拳を喰らう。

エド 「ぐぅ!?」

レオン 「クソォ!」

シーラ 「風の力よ、鋭き刃となりて敵を切り裂け! ウインドカッター!」

シーザー 「む!」

キィン!

シーザーは咄嗟に剣でウインドカッターを弾く。
瞬間俺はその隙を見逃さず、剣を構える。

レオン 「もらったー!」

俺は突き刺すように剣で突く。

シーザー 「く!」

シーザーは咄嗟に体を仰け反り、避けて後ろに下がる。

レオン 「くそ! 千歳一隅のチャンスだったのに!」

シーザー 「危ない危ない…だが、次はないぞ」

シーザーは落ち着いたところで構えなおす。
あの左構えは何ともやりづらい。
その上、技も力も相手のほうが上だ。
なんとか四人で倒さないと。

エド 「く、そぉ…」

レオン 「大丈夫か? エド…」

エド 「な、なんとかな…」

相手の強烈な一撃を受けたんだ、肋骨の一本や二本折れていても不思議ではないが。

シーラ 「相手の弱点はやはり水や氷のはずです、何とかそこをつかなければ…」

アルル 「頑張って当てないといけないわけね!」

シーザー 「しかし、そう簡単に当たるかな?」

確かに、簡単には当たってくれないだろう。
だが、やってみるしかないだろう!

レオン 「俺たちが全力で相手をすれば勝てないはずがない!」

エド 「おうよ!」
シーラ 「ええ!」

アルル 「んじゃ、いっくよー! アイシクル・スピアー!!」

キュウゥゥ! ヒュン!!

アルルの手から大きな氷の槍が生まれる。
これなら溶かされ前に何とかダメージを与えられるかも!
そして、それは当然シーザーへ向かう。

シーザー 「ふ、当然当たりは…」

当然シーザーは回避動作を取ろうとする。
しかし、それを見越して俺とエドは切りかかる。

セリア 「あら〜? シーザーさん?」

シーザー 「!? セリア殿!?」

レオン 「!?」

突然アイシクル・スピアの対放射線状女の子が現れる。
ヤバイ! 当たったら死ぬに決まってる!

シーザー 「くっ!?」

ドス!

アルル 「ええっ!?」

シーラ 「自分から当たった!?」

なんと、シーザーは女の子を確認すると自らを盾にして女の子を守った。
アイシクル・スピアはシーザーの右肩をを貫き蒸発した。

セリア 「シ、シーザーさん…?」

シーザー 「貴殿、お怪我はないか?」

セリア 「え、ええ」

シーラ 「あれはまさか、セリア王女…!?」

エド 「! まさか!?」

レオン 「王女…だと!?」

そういえば、見つけた瞬間シーザーはセリア殿と言った。
服装も純白のドレスを着て、どこか気品を感じる。
でも、話では魔王城に幽閉されているはずでは!?

シーラ 「もしや、あなた様はセリア王女様では!?」

セリア 「え、ええ、いかにも私はセリアです、あなた方が勇者一行ですね?」

アルル 「うっそー!? 本当にセリア王女なの!?」

エド 「信じられんが、好機に違いない!」

確かに、囚われの身のはずのセリア王女、取り返せば一気に有利になる。
幸い、今戦っているシーザーは右肩を負傷した、いける!

レオン 「悪いが、セリア王女は返してもらうぞ!」

サタン 「そうはいかん…」

レオン 「!?」

アルル 「な、なにこの強大な魔力!?」

突然、俺たちの目の前に黒い服を纏った魔族の男が現れた。
こいつが現れた瞬間、体は硬直し今俺は恐怖している。
こいつ、何者だ!?

セリア 「あら? サーちゃん?」

シーザー 「サタン様…」

サタン 「この人間の王女は大切な人質なんでな、渡すわけにはいかん」

レオン 「サタン!? まさか魔王!?」

サタン 「貴様が勇者レオンか、お初目お目にかかる…私が現魔王のサタンだ」

エド 「そんな! 何で魔王が!?」

シーラ 「これはまずいですわ! とても勝てる相手ではありません!」

アルル 「やばいよやばいよ!?」

レオン 「くっ!? セリア王女様! 急いでこっちに!」

せめてセリア王女の身柄だけでも確保しないと!

セリア 「申し訳ありませんわ、私はもうしばらく魔王城におりますわ」

シーラ 「!?」

レオン 「セリア王女様!?」

何と、セリア王女はそう言ってサタンの後ろに隠れてしまう。
何故だ!? この好機に!?

サタン 「今回はこれで見逃してやる…せいぜい強くなるのだな勇者よ…」

サタンはそう言うと後ろを向く。
逃げるのか…?

シーザー 「サタン様…」

サタン 「退くぞシーザーよ、今回はこれで十分だ」

シーザー 「御意…」

そう言って、サタンたちは森の奥に消えていってしまう。
俺たちは魔王が消えるまでその場から動くことさえできなかった。

エド 「く…あれが魔王か…!」

シーラ 「勝てない…このままでは…!」

アルル 「ふぇぇぇ…怖かったよ〜…」

レオン 「くそ…」

悔やまれる…。
あの場で一歩も動けないなんて…。
くそ!
今日一日は結局そんな後味の悪い気分が続くのだった。
それはまさしく絶望という雰囲気だった。
今のままでは絶対に勝ち目がない…。





To be continued




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