勇者と魔王〜嗚呼、魔王も辛いよ…〜




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第8話 『戦わないといけないの?』





ワイワイガヤガヤ!!

男A 「おい! どうしたんだ!?」

男B 「殺人だ! 殺人!」

男A 「あんだって!?」

エド 「……」

アルル 「な、なんだか凄く騒がしいよ〜?」

もう深夜に回りみな寝静まる時間だというのに街はまるで火事でも起きたかのようだった。
聞けば殺人とか言っている。
まさかと思うが…。

アルル 「まさかと思うけど…シーラさんが…」

エド 「それはさすがに…」

俺も少しシーラさんたちの様子を想像する。

アルル 「やっぱり逆上して、殺しちゃったんじゃ…?」

エド 「逆上はしないと思うんだけどな…」

確証があるわけではない。
あの人だって人間だからな…。
でも、普通レオンたちが止めると思うんだけどな…。

アルル 「で、ど、どうする私たち…?」

エド 「どうするって…町長の家に向かうしかないだろ!」

俺はそう言って走り出す。

アルル 「あ! ま、待ってよ!」

一体全体何が起きているんだよ!



…………。



レオン 「はぁ…はぁ…大丈夫?」

シーラ 「だ、大丈夫です…」

ウンディーネ 「困ったわよね…どうすればいいかしら?」

何とか逃走できたが、俺達は追われる身だ。
早いとこ解決しないとギルドから指名手配を受けちまうぜ。

レオン 「一番手っ取り早いのはアンダインをとっ捕まえて自分がやりましたと自白させることだよな」

ウンディーネ 「…絶対に無理だと思うわ」

シーラ 「そうですね…自白なんて出来るとは到底…」

レオン 「じゃあ、どうするよ?」

ウンディーネ 「アンのことは私ひとりに任せて…その他の事はシーラさんたちにお任せします」

レオン 「ウンディーネさん…?」

シーラ 「…わかりました」

ウンディーネさんはとても重苦しい顔でそう言った。
シーラさんはその顔を察して受けた。

レオン 「仕方ないよな…」

シーラ 「戻りましょう…町長宅へ」

レオン 「戻るって…捕まりに行くようなものだぜ!?」

シーラ 「大丈夫です、私たちを裁くことは出来ません…後は私に任せてください」

レオン 「…信頼してるよ」

もうシーラさんを信じるしかない。
俺はあんまり頭を使うことは得意じゃない。
こういうことはシーラさんに任せるしかない…。

レオン 「ウンディーネさん…何があったかは知りませんけど、お願いします」

ウンディーネ 「…ええ」

俺はそう言うとシーラさんと共に再び来た道を戻る。




…………。
………。
……。




アルル 「来たのはいいけど、野次馬が多すぎるー!」

エド 「死んだのは町長だな…一体何が起きているんだ?」

町長の家にはたくさんの野次馬がいた。
残念ながら、死体のある部屋には入れない。
ついでにレオンたちの姿も見えない。
どうなっているんだ、本当に…。

男A 「おい! あれは…!?」

エド 「…レオン!?」

ある男が騒いで二階を指すとそこにはレオンとシーラさんがいた。
ウンディーネさんはなんでいないんだ!?

メイド 「あ! あなた達は!」

メイドが顔を青くする。
やっぱりか…。

シーラ 「私たちは町長の死を目撃しました!」

ザワザワ!!

アルル 「いきなり何言っているのよシーラさん〜…」

エド 「あの目はマジだぜ…」

シーラさんはおかしくなったわけじゃないようだ。
ただ、何をしようとしているのかはさっぱりだ…。

男A 「あいつらが犯人か!?」

男B 「だったら捕まえないと!」

アルル 「なんかやばいよ…」

エド 「どうする気なんだ…?」

すでに場はふたりを捕まえるムードだ。
俺達も危ないかもしれない…。

シーラ 「ですが、私たちは町長を殺害してはおりません!」

男A 「あいつなに言っているんだ!?」

男B 「そんな大ぼら信じる奴はいねぇよ!!」

シーラ 「当然、証明はできません! しかし!」
シーラ 「しかし、私たちが殺したという証明もできません!」
シーラ 「なぜなら、殺される瞬間を目撃した者はいません! 私たちも殺された後見つけたのですから!」

ザワザワ!

メイド 「うそ…じゃあどうしてあの人はいないの!?」

エド 「ウンディーネさんか…」

アルル 「間違いないよね…いないもん」

シーラ 「もうひとりは、真犯人を追っています!」

男A 「真犯人!?」

男B 「それはお前達だろ!」

アルル 「ちょっとちょっと! あなたちさっきから言いたいこと言ってるけど、証拠あんの証拠!」

男A 「な、なんだあいつ…?」

レオン (アルルのやつ…)

シーラ 「メイドさん、あの時私たちの他に訪れたお客がいましたね?」

メイド 「え…あ!」

シーラ 「私たちはアリバイを証明することはできない…でも、もうひとりの客アンダインもそれを証明できない!」
シーラ 「つまり、まだ殺人犯の決定はできません!!」

男A 「……」

エド 「……」

メイド 「……」

場が静まり返る。
さすがシーラさん。
しかし、アンダイン?
一体それは誰なんだ?



? 「た、大変だーっ!!」

レオン 「!」
エド 「!?」
シーラ 「!!?」

アルル 「なっ、何!? なんなの一体!?」

突然静寂を崩すように一人の男が屋敷の中に駆け込んできた。

? 「マ、マーフォークの集団が攻めてきた!!」

エド 「なんだって!?」

アルル 「そんな! どうして急に!?」

シーラ 「……」

首の筋を冷ややかな汗が走る。
また、アンダインが…?

シーラ 「嫌な予感がしてなりません…レオンさん、お願いがあります」

レオン 「一体どうしたんだ…シーラさん?」

シーラ 「マーフォークの住処に急いでください…きっとウンディーネ様もいると思います…」

レオン 「俺一人で…?」

シーラ 「マーフォークは私たちが何とかします、レオンさんはどうか…」

レオン 「…それ以上は言わなくていいよ、わかった、任せてくれ」

この状況はよくわかる。
そして、俺がどうすればいいかも。
ここはみんなを信じるしかない。

シーラ 「裏口から…なるべくマーフォークには見つからないように」

レオン 「OK」

俺はそう言って裏口に回る。
ようはアンダインの逃走経路なのだが…。



シーラ 「エドさん、アルル! 急いで外へ!」

エド 「了解!」
アルル 「わかったよ!」

私はそう言うと目の前の落下防止用の柵を飛び越えて1階に落ちる。

男A 「あぶなっ!」

男B 「なんて度胸だ!」

シーラ 「どいてください! みなさん!」

エド 「シーラさんこっちだ!」

私は人の山を掻き分けて屋敷を出る。
外に出ると、周りは静寂の中だった。
しかし、海岸側は騒がしい様子だった。
きっと武装したマーフォークたちがいるからでしょう。

アルル 「こ、怖いけど行こうよ!」

エド 「どうするんだ、一体?」

シーラ 「戦いはしません…なんとか止めてみせます」

ここまで事態が悪化するなんて予想していなかった。
アンダイン…どうしてこんなことをするのか?
きっと彼女は裁かれてしまう。
でも、怖いのはその前後…どうか、ウンディーネ様に神のご加護を…。



…………。



マーフォークA 「マー!!」

マーフォークB 「ママー!!」

シーラ 「ここまできているなんて…!」

アルル 「街の広場までくるなんて…」

エド 「民家とかは特に傷つけてないみたいだな…どうやら怪我人も出てないみたいだ」

町長の屋敷を出て、真っ直ぐ海の方に向かうと街の中央にある、広場に来た。
そこには無数のマーフォークの軍団があった。
私たちは少し隠れた所からそれを見た。
しかし、そのままでいるわけにはいかない。
なぜなら…。

男A 「マーフォークだ!」

男B 「くそ! 俺達の町は俺達で守らないと!」

シーラ 「エドさんたちは暴徒化しないように住民たちをお願いします」

エド 「おうよ!」

アルル 「あたしも、シーラさん〜?」

シーラ 「ええ、お願いね」

アルル 「う、うん…」

私はアルルを見送るとマーフォークの大群のまん前に立つ。
当然マーフォークの視線は私に来る。

マーフォークA 「なんだマー!?」

マーフォークB 「あいつ! 勇者一行のだマー!!」

マーフォークたちは強い目で私を睨み、トライデントをかざす。

シーラ 「突然街に来るとはどういう用件ですか、海の住人達よ!」

マーフォークA 「ふざけるなマー!」

マーフォークB 「長老を暗殺した罪は償ってもらうマー!!」

シーラ 「長老を…暗殺?」

まさか、そんな事態になっているというの?
アンダインはこの街を…この種族を消すつもりなの?

シーラ 「それを私たちがやったと?」

マーフォークA 「誰がやったかはわからないマー」

マーフォークB 「しかし、暗殺したのはお前達人間以外に考えられないマー!!」

当然、そういうことになりますわよね。
この街の怨恨をていよく利用されているのですね。
しょうがありませんわね…。

シーラ 「人間と争うことをやめはしませんでしょう…今のあなたたちは」
シーラ 「しかし、少しでいい…少し、時間をください!」

マーフォークA 「なんだとマー!?」

マーフォークB 「ふざけるなマー!!」

シーラ 「…無論ただでとはいいません、私の命をあなた方に捧げましょう!!」

マーフォークA 「なんと…マー?」

マーフォークB 「…どうするマー?」

私はこの状況に命を捧げてもいい。
『人間こそが悪そのもの』…全くその通りかもしれません。
私は聖職者として誇りをもっています。
これが神に捧げられるものなら喜んで捧げます。

シーラ 「どうか、お願いします」

マー 「どうか、頭を上げてほしいマー…」

シーラ 「! マーさん!」

そこへマーさんが現れる。
まさか、マーさんがいるなんて…。

マー 「お願いだマー…、自分の命を差し出してもいいマー…どうか、お願いマー」

シーラ 「マーさん…」

マーフォークA 「…わかったマー、あと3時間待つマー…」

マーフォークB 「3時間経ったらあんたの命も貰ってこの街を攻撃させてもらうマー…」

シーラ 「よしなに…」

後は…おねがいします、ウンディーネ様、レオンさん…。



…………。
………。
……。



アンダイン 「星が綺麗だわ…ねぇ? ウンディーネ?」

ウンディーネ 「……」

私は何となく海岸に来ていた。
特にその間何かを考えてもいなかった。
無心…そういうのかしら…?
ただ、考えたくなかっただけかもしれない。
私にとっての最も大きな不幸は私の最愛の妹…。

『どうして…』

ウンディーネ 「どうしてなの…アン…」

アンは海面に浮いていた。
空にはアンが言ったとおり美しい星々が絨毯のように空に敷き詰められている。
そして、その真下にいるかのようにアンは佇んでいた。
海面には星が映り、アンを優しく照らす。
神秘的…そう言うのが一番適当だろう。
…どうして、アンはあんな酷いことをしたのか…。
そんな妹の姿を見て私はどうすればいいのだろうと思ってしまう。

アンダイン 「…何がどうしてなのかしら?」

ウンディーネ 「なぜ、私を陥れるような真似を…いえ、それは構わない…」
ウンディーネ 「あなたが私のことをどう思っているかはわかっているつもりだったから…」

アンダイン 「あんまりわかったような口をきいてほしくないわね…」

アンはとても冷静な娘…私はいざという時平常心を失っちゃう…。
アンにとって私は目の上のたんこぶなのよね…。
でも、こんなことする娘じゃなかった…。
これは…私の妄想だったの?

アンダイン 「…私の目的は勇者一行の始末、その一環としてあなたを始末させてもらうわ」

ウンディーネ 「……」

アンは静かに構える。
元々精霊族は武器は使わない。
大抵はその属性の理力で武器を作るからだ。

アンダイン 「構えなさい…ウンディーネ」

ウンディーネ 「……」

私は構えることができない。
いや、それ以前にアンの目を見れない。

アンダイン 「「この!」

バチィ!!

ウンディーネ 「あう!?」

アンの水の鞭が私を襲う。
私はなす術なく、それを受けて倒れてしまう。

アンダイン 「…楽にあなたを殺せるならそれに越したことはないけど…それじゃ意味がないのよね…」
アンダイン 「もう一度だけ言うわ…構えなさい!」

ウンディーネ 「…できない」

アンダイン 「…言っていることはわかっているの?」

ウンディーネ 「私にはあなたと戦うなんて出来ない!」
ウンディーネ 「妹なのよ! どうして攻撃できるっていうの!」

アンダイン 「私は…そんなあなたが嫌いなのよ!!」

ビシィン!!

ウンディーネ 「きゃあっ!?」

また、アンの攻撃をまともに受けてしまう。
痛い…体も…心も…。
このまま私が死ねば、そんな痛みからも解放されるかな…?
私は…どうなっちゃうんだろ…?
このまま…死ねるのかな?

アンダイン 「もういいわ…そのまま死になさい!」

ウンディーネ 「!!」

私はその場で目を瞑る。
アンを見ながら死にたくはなかったからだ。
でも、様子がおかしい。
いつまで経っても痛みがこない…。

ウンディーネ (もしかして、痛みを感じさせることなく殺してくれたの…アン?)

? 「目を開けて…ウンディーネさん…」

ウンディーネ 「え…?」

私は目を開けるとそこにはレオン君がいた。
レオン君が私をかばってくれたんだ。

ウンディーネ 「レ、レオン君…」

レオン 「…しっかりして、ウンディーネさん…」
レオン 「諦めることは弱者のすることだ…立ってウンディーネさん」

私は困惑している。
どうすればいいのか…。
私は戦わないといけない。
戦えない…戦わないといけない…たたかえない…たたかわないといけない…。
タタカエナイ…タタカワナイトイケナイ…。



『わたしは…どうすればいいの…?』




To be continued



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