勇者と魔王〜嗚呼、魔王も辛いよ…〜




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第14話 『過去』





アルル 「ねぇ? 人族で1番強いのって誰なのかな?」

それが、今回の物語の発端だった。
それは、バシュラウクの森に入って30分も経たない頃だった。

エド 「一番強い人族か…」

アルル 「アルルはやっぱりレオンじゃないかなって思う!」

なんと、アルルは俺を指名する。
おいおい…。

レオン 「え? 俺?」

アルル 「やっぱり勇者様だもんね! 魔王を倒せる唯一の存在だってんなら間違いなく最強だよ!」

等と言って楽観的に笑う。

レオン 「でも、今の俺は全然弱いし…」

実際、俺なんてまだまだヒヨッコだ。
俺より強い奴なんていくらでもいる。

エド 「俺は案外シーラさんじゃないかと思うんだが?」

と、今度はエドがシーラさんを指名する。
なるほど、たしかにシーラさんは…。

シーラ 「え? 私なんてとんでもない!」

しかし、シーラさんは強く否定する。

アルル 「あ〜、ある意味わかるかも…」

シーラ 「もう、私は全然弱いですのに…」

エド 「レオンは誰だと思う?」

レオン 「俺か? う〜ん、やっぱりあの人かな?」

思い当たる人物はいる。

アルル 「あの人って?」

俺は迷わず答える。

レオン 「『ルーヴィス』」

シーラ 「あ、知ってます、銀色の風の異名を持つ、槍術使いですね」

レオン 「うん、今も生きてるならきっとこの北側で戦っているんじゃないないかな?」

俺は思い出す。
俺があの人とであったのは4年前だった。
あの人は偶然、俺の住んでいた村にやってきたんだ。
無口な人だったけど、冷淡ではなく、どこか優しさを持って、そして大きく、とても強い人だった。
俺はあの人に憧れて、今のようになったのは事実だ。
だが、俺は槍術ではなく剣術を学んだ。
魔法は、才能がなく、ほとんど使えなかったけど。
俺は何にも駄目なんだよな…。

レオン (ルーヴィスさん、あなたは今どこにいるんですか?)



…………。



『同日:某時刻 魔王城 訓練室』

アンダイン 「はぁっ!」

シーザー 「クッ!? たぁ!」

ズバァン!

魔王城の2階の一室には頑丈な造りの部屋があった。
そこは訓練室、あまり使われることはないが頑強な造りのため、シーザーなどは良く自己鍛錬の場として使用していたのだった。

アンダイン 「甘いわよ!」

アンダイン殿はそう言って、水の鞭を振るう。
さすがに、精霊族、屈指の戦士…相当の強さだ!

シーザー 「くっ! はぁ!」

ゴォォォォォッ!

私は2メートル程はなれた位置から火炎の息をアンダイン殿に放つ。

アンダイン 「水の理力よ、水の幕を張り、我を守れ! アクアカーテン!」

アンダイン殿は即座に精霊魔法を唱えて、私のブレス攻撃を防ぐ。
しかし、私はその一瞬の隙を見逃さない。

シーザー「はぁっ!」

アンダイン 「!? くっ!」

私は即座に切りかかり、左手に持たれたカムシーン(円月刀)で斬りかかる。
アンダイン殿は反応が遅れて半歩下がる。

アンダイン 「ウォーターロープ!」

シーザー 「まだです!」

アンダイン殿は瞬時に魔力を溜め、地面から無数の水のロープを出して、私の体を拘束しようとする。
しかし、私の体に触れた水のロープはいとも容易く蒸発した。
それもそのはず、今の私の体温は130℃もあるのだから。
この円月刀も私の熱を受け、やや赤くなり、威力を増している。
しかし、この円月刀が熔けることはない。
私の豪炎でも熔けない特殊なコーティング施されている。
ただ、熱を持ったヒートサーベルとなるのみ!

シーザー 「はぁ!」

アンダイン 「くぅっ!?」

ビュン!

私はアンダイン殿の頭上で寸止めする。
もう、私の体から発せられる熱もどんどん冷めている。

シーザー 「一本…でよろしいですな?」

アンダイン 「負けたわ、さすがね、シーザー」

シーザー 「今回は私が勝ちましたが次は勝てるかはわかりません、互い精進しましょう…」

アンダイン 「相変わらずね、この人間界じゃ最強なんじゃないあなた?」

シーザー 「そんなことはありません、私でもサタン様やルシファー様には勝てませんし、あなたの姉君、ウンディーネ様にも勝てるかどうか…」

アンダイン 「姉さんの強さはあたしと同じくらいなんだから、シーザーなら勝てるわ、もっとも実戦わからないけどね…」
アンダイン 「まぁ、人間相手ならシーザーに勝てるやついないでしょ?」

シーザー 「いえ…一人いました…」

アンダイン 「え? あなたを負かせられるような人族が存在するの?」

シーザー 「負けたわけではございませんが…4年前に」

私は思い出す。
4年前のあの日…。
まだ、私もただ、ガムシャラだったあの日を…。
まだ、サタン様がこの人間界におらず、戦争も始まっていない、平和だった頃を。



…………。



『4年前 バシュラウクの森』


モンスターA 「キキー!!」

モンスターB 「キィイー!!」

子供 「う、うわぁー!?」

バシュラウクの森では様々な種族が住んでいる。
様々なモンスター、魔族に人族、精霊族、エルフもいる。
そして、そんなある日の昼下がり、私は子供が鳥類型モンスターに襲われているのを発見した。
あのモンスター、たしか、人食い鳥。
襲われているのはまだ10にも満たない魔族の子供だった。
子供なら、人も魔族も関係ないということか。

シーザー 「ふん!」

ザシュ! ザシュゥ!

私は一瞬にして2匹のモンスターを切り裂く。

シーザー 「大丈夫か? 少年よ…」

子供 「う、うん! ありがとう! トカゲのおじさん!」

シーザー 「お、おじさん…」

子供はそう言うと元気に手を振って森の奥へと走り去った。
恐らく、魔族の住む村でもあるのだろう。

? 「見た目によらず、優しい所があるんだな…」

シーザー 「? 貴殿は?」

突然、後ろから私の事を話す者がいた。
私は振り向いてその者を見る。

その者は碧眼で髪が銀色に輝き、その髪は綺麗にカットされていた。
服装からすると人族のようだった。
顔はまだまだ若く、青年といった感じをまだ残していた。
手には槍を持っている。
実力の程はわからないが、それなりの力をそのいでたちから感じ取れるようだった。

シーザー 「貴殿は?」

? 「俺はルーヴィス、別に覚える必要はないがな…」

シーザー 「ルーヴィス殿ですか…私はシーザーと申します」

その青年はあまり自分自身に対して興味を持っていないようだった。
自分の名前をつまらなさそうに名乗った。
不敵といえば不敵、無愛想といえば無愛想。
なんとも、奇妙な青年だった。
しかし、青年というにはあまりに若者らしさが感じられなかった。
この平和な時代に、このような青年が槍を持ち、このような気を感じさせるのだから…。
なんとも皮肉な物よな…こんな青年が武器を持つとは…。

シーザー 「貴殿はこのような場所で一体どうなさった?」

ルーヴィス 「別に旅をすることに理由などない…」

シーザー 「理由などない…? ならば、貴殿の旅はどこまで続く?」

ルーヴィス 「終わりなどないさ…終わらせることは出来るがな…」

シーザー 「……」

その青年はあまりに異様だった。
終焉のないの旅を続け、いつでも終わらせられる旅を続ける…。
その様はまるで時の旅人…冒険者のようだった。

シーザー「貴殿は冒険者か?」

ルーヴィス 「さぁな、どうとられようが興味などない」
ルーヴィス 「俺にとって俺は在るだけ存在だ」

やはり、この青年、青年らしくない。
けっして大人びているわけではなく、かといって少年のようでもない。
まるで…そうそのすがたはまるで…。

シーザー 「まるで、自分を見失った者のようだ…」
シーザー 「貴殿は自分探しをしているのか?」

ルーヴィス 「…さぁな」

ルーヴィス殿はそう言って俯いた。
わからない…この青年は何を考えているのだろうか?
あまりに、その青年は興味深かった。
しかし知ろうとすれば引きずり込まれそうな…そんな感覚もあった。

子供 「うわー!?」

ガササササッ!!

シーザー 「!?」

ルーヴィス 「?」

突然、子供の絶叫が静かな森に響き渡る。
それと同時に草木かけ分け、高速に動く者がいる。

ガサァ!

子供 「うわーっ!?」

ヘルハウンド 「ガウゥゥッ!!」

突然、正面から人間の子供が現れる。
それと同時に後ろから子供に飛び掛る4メートル大の大きな黒い犬が出てきた。
ヘルハウンド…炎の加護を受けた、大型肉食獣モンスター。

シーザー 「くっ!」

ヘルハウンドは一瞬にして子供に馬のりした。
そのまま大きな口をあけて子供を食べようとする。

シーザー 「はぁ!」

私は、ヘルハウンドの胴体に円月刀で斬りかかる。

ザシュウ!

ヘルハウンド 「ギィィッ!?」

ヘルハウンドは苦痛で暴れた。
しかし、致命傷になっていない。
この巨大な体に加え、私自身も炎の加護を受けているため思うようにダメージがいかなかった。
ヘルハウンドは子供から離れると、背中から血を流し、こちらを睨みつけ、威嚇する。
私は冷静に構える。

子供 「は、はわわ…」

子供は恐怖のあまり腰を抜かしていた。

シーザー 「く…」

私はこの場でヘルハウンドを仕留めることにする。
このままでは子供の命があぶない。
人間も魔族も種族は違えど、同じひとつの命であることには変わりない。
それに、重いも軽いもないはずだ!

ヘルハウンド 「グアアアアアッ!」

シーザー 「!?」

ヘルハウンドは4メートルほど高く跳び、私に飛び掛ってくる。
私はヘルハウンドに押されて、馬乗りにされてしまう。

ヘルハウンド 「ガァァァッ!」

ヘルハウンドは炎を口に溜め、噛み付こうとする。
フレイムバイツか!?

シーザー 「このぉ!!」

ザシュウ!

ヘルハウンド 「!?」

私はヘルハウンドが大きく口を開けたところに円月刀を突き刺す。
そして、そのまま下に引き、ヘルハウンドを真っ二つにする。

ブシャアアアッ!

血が飛び散る。
私の体にもヘルハウンドの熱い血が付着する。
人間なら火傷するかもしれないがヒートリザードマンの私にはぬるま湯のようなものだ。

シーザー 「はぁはぁ…大丈夫か少年…」

私は、少年に近づく。
しかし、少年は…。

少年 「う、うわー! モンスターだ! 助けてー!」

シーザー 「!?」

少年は怯えて街の方に走り去った。
モンスター…か。

シーザー (そうだな…何をしようとも私がモンスターであるということには変わりない)

それは半分諦めだった。
私はモンスターに過ぎない。
私も所詮は魔獣でしかないのだ…。

ルーヴィス 「人の子にとってはどちらも魔物に変わりはない」
ルーヴィス 「その善悪など…人には無意味…助けられたのに恐怖に顔を染めに逃げる…皮肉だな…」

シーザー 「手厳しいですな…」

ルーヴィス 「事実を述べたまでだ…」

シーザー 「…なぜ、子供を助けようとしなかったのです?」

ルーヴィス 「あの程度のモンスター、あんたひとりで十分だった」
ルーヴィス 「まぁ、その結果子供は逃げ出したがな…」

シーザー 「仕方のないことです…それが、種族の溝なのですから」

ルーヴィス 「俺にはあんたはよき人に思えるがな…」

シーザー 「…私が?」

ルーヴィス 「こんな考え方をする人族は変か?」

シーザー 「そうですな…変わっているでしょう…」
シーザー 「しかし、不快ではありません」

不思議な感覚だった。
この青年の放つ一言一言はとても重みのあるように思えた。
よき人か…初めて言われたな…。

シーザー 「もし、この北側を目指すのならこの先にシーファルと呼ばれる町があります、そこで宿を取られるとよろしいでしょう…」

ルーヴィス 「助言、感謝する…」

シーザー 「いえ…」

ルーヴィス 「だが…!」

シーザー 「!?」

キィン!

突然、青年はすれ違い様、その両手に持たれた槍をこの私に振るってきた。
私は咄嗟に剣で受け止める。

シーザー 「貴殿! 一体どういうつもりだ!?」

ルーヴィス 「あんたに興味がある…俺自身があんたにどれだけ対抗できるのか?」
ルーヴィス 「人に俺を倒せる者はいなかった…だが、あんたのそれは人のそれとは違う」
ルーヴィス 「試したくなった…!」

ブゥン!

青年はそう言って槍を下に突き刺す型、いわゆる竜騎士の型を取る。
一体どういうつもりだ?

シーザー 「本気ということですかな…?」

ルーヴィス 「……」

私の体の体温が上がる。
緊張が高まっている。
この青年…強い!

シーザー 「命の保障はしませんぞ…?」

ルーヴィス 「……」

ルーヴィス殿は静かに構える。
さて、どうしたものか?

ルーヴィス 「…!」

シーザー 「!?」

ルーヴィス殿は先に仕掛けてくる。
一直線の動きだがかなり速かった。

シーザー 「ぬぅ!」

私は直線の動きを見切り、後の先を放つ。

ブォン!

シーザー 「!?」

ルーヴィス殿は当ると見せかけていきなり横に動く。

ルーヴィス 「!」

死角を取られた!
まずい! やられる!?

ヒュン! ガッ!

ルーヴィス 「!?」

シーザー 「なに!?」

突然、ルーヴィス殿にショートボウが放たれる。
ルーヴィス殿は咄嗟に見切ってそれを打ち落とす。

ルーヴィス 「…誰だ?」

? 「フホホ、あぶなかったなシーザーよ…」

シーザー 「…ディミトリ殿か」

矢を放って横槍を入れたのは魔族のディミトリ殿だった。
ディミトリ殿はこの辺りに住む魔族で、ここらでは魔界貴族として名を馳せていた。
性格は残忍で、ずるがしこい。
人としても最低の人物だ。

シーザー 「一体何の真似です、ディミトリ殿?」

ディミトリ 「フホホ、なに、例の返答を貰いたくてな」

例の返答…。

シーザー 「お断りします…、我が鞘はあなたにあらず…」

例の返答とは、こうだった。
私をディミトリ殿は配下として欲していた。
しかし、私は誰かに仕える気などない。
少なくとも、あの約束がある限り、今は…。

ディミトリ 「フホホ、しかしそなた程の戦士、野放しにするのはもったいないな…」

シーザー 「私は誰かに仕える気はありません、これは再三申したはずです」

ディミトリ 「フホホ、そう言うと思って実はパーティの用意をしてある」

シーザー 「パーティ? 興味ございませんな…」

ディミトリ 「フホホ、実はさっき小さくうまそうな『ディナー』が手に入ってな、今日はそれを捌こうと思っている」

シーザー 「…? まさか…!?」

私はまさかと思うと、冷や汗が流れる。
小さくうまそうな『ディナー』…まさかさっきの人族の子供!?

ディミトリ 「フホホ、ディナーは今日の午後8時から…来る来ないは自由だ…」
ディミトリ 「では、さらばだシーザーよ! 良い返事を待っているぞ、フホホ!」

ディミトリ殿はそのまま闇に消え去ってしまう。

ルーヴィス 「……」

シーザー 「なんということだ…まさか、そうまでするとは…」

私は自分のふがいなさに嘆いた。
まさか、あの少年が人質にされようとは…。
しかもよりにもよって相手はあのディミトリ殿…。
もし、私が来なければ本当に殺し、食べてしまうだろう…。

シーザー 「申し訳ございませんが、この勝負預けさせてもらいます」
シーザー 「私の負けでも構いません、私はディミトリ殿の館に向かわなければなりません」

ディミトリ殿の館はここから東へ6時間ほどの所にある。
今は午後2時、急がなければ!

ルーヴィス 「……」

シーザー 「さらば、ごめん!」

私は急いでディミトリ殿の館を目指す。
私には、黙って見過ごすことなどできない!



ルーヴィス 「たしかあれはA級犯罪者ディミトリ…」
ルーヴィス 「……」






To be continued



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