勇者と魔王〜嗚呼、魔王も辛いよ…〜




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第34話 『信じるもの』





リリス 「この世に闇あれば光あり、悪あれば正義あり、無があれば有があり…」
リリス 「白あれば黒あり…『アルティマ』とはふたつの対なる魔法」
リリス 「光にして、有であり、白で、また無限を意味するアルティマ…」
リリス 「かたや闇にして、無であり、黒で、また零を意味するアルティマ…」
リリス 「共にアルティマであり、この世の全ての事象を司る力なり…」



…………。



パチパチ…パチチ!

エド 「……」

真夜中…俺達は次の街、城塞都市ビスラファスタを目指してた。
その途中で俺達は手ごろな森林を発見し、野宿をしていた。
現在はエドと俺が寝ずの番をして、焚き火の火を絶やさないようにしていた。

エド 「なぁ…レオン」

レオン 「? どうしたエド?」

エド 「正直、アビスが来たらどうなると思う?」

レオン 「リリスちゃんを信用するしかないだろう?」
レオン 「俺達は、あんな超魔法の前にはただただ無力なだけだぜ?」

エド 「そうだけどよ…」

レオン 「エド…不安を持って戦ったら勝てる戦いも勝てない…」

エド 「……」

レオン 「まぁ、臆病になるのはわかるよ…大陸の形が変わるほどの魔法ときた…正直俺だって怖いんだ」
レオン 「でも…俺はリリスちゃんを信じる」

エド 「…それっきゃねぇよな」

エドだって分かっている。
それ以外に対抗策がないんだ。
防ぐだけなら可能だが、それじゃ意味がない。

リリス 「ううん…」

レオン 「!」

リリス 「ふあ…!」

エド 「まだ、深夜だぜ? ゆっくり眠ったらどうだい? お嬢様?」

リリス 「…うん、でも…ちょっと散歩してくるね」

レオン 「…一人は危険だ、俺も一緒に行くよ」

リリス 「あ、うん♪ ありがとう勇者様♪」

俺は立ち上がり、フランツェを持つ。

レオン 「後は頼むぞ、エド?」

エド 「わぁってるよ」

俺達は暗い夜道、月の照らす光だけを参考に歩き出した。

リリス 「ねぇ…勇者様」

レオン 「ん? なに?」

リリス 「どうして、勇者様は、こんな危険なことをしようと思ったの?」

レオン 「? 危険なことって?」

リリス 「いっぱいあるじゃないですか、この勇魔大戦…」

レオン 「…そうだね、たしかに危険なことだらけだった」
レオン 「まぁ、強いて言うのなら…勇者だから?」

リリス 「ゆ、勇者だからって…」

レオン 「まぁ、宿命みたないものだから」

俺はそう言って笑った。
リリスちゃんは信じられないといった顔だった。

レオン 「おっ、綺麗な泉だな…この森にこんな泉があったとは…」

俺達は夜の森を散策していると小さな泉のある開けた場所に出た。

リリス 「わぁぁ…! 綺麗…泉が月の光を照らして…まるで星の絨毯みたい…」

リリスちゃんは子供の様に顔を和らげて、しゃがみこみ泉に手を入れて、バシャバシャと水を弾いていた。

レオン 「…リリスちゃん、結構可愛いね」

リリス 「世辞ですか? ありがとうございます勇者様♪」

レオン (世辞で言ったつもりはないんだけどな…)

リリスちゃんには世辞と思われたようだ。
だけど、本当にリリスちゃんは可愛いと思えた。
俺達に人間にはないブロンドのヘアーが月の光を浴びて、光り輝き、凛とした金色の瞳が少し大人っぽく見える。
だけど、まだ年端もいかない女の子、ちょうど大人と子供の境目なんだよな。
子供っぽく普段は見えるけど、時折大人びて見える。

リリス 「キャハハ! 勇者様、えい!」

バシャン!

レオン 「!? 冷たい…」

俺はリリスちゃんに突然泉の冷水をぶっ掛けられる。
俺はびっくりして目を見開いた。

リリス 「あはは! 注意力が足りませんよ! 勇者様!?」

レオン 「…参ったな」

俺はそう言って頭をぽりぽりと掻く。

レオン 「ねぇ…リリスちゃん、リリスちゃんは怖くないの…?」

リリス 「…そうですね」

俺はちょっと不躾かと思ったが、そんな質問をしてみた。
リリスちゃんはしゃがんだまま手のひらに水を掬い、それを持ち上げて、さらさらと泉に戻しながら…。

リリス 「怖くないって言ったら…嘘になります」

レオン 「やっぱり…怖いよね」

リリス 「そりゃ当然ですよ、怖くないはずないじゃないですか」
リリス 「私、戦闘経験なんてまるでない素人ですよ? それにいきなりアルティマを使わないといけないなんて…怖くて怖くて仕方がないですよ」

レオン 「……」

リリスちゃんは怖いという割にはとても落ち着いており、むしろ笑顔さえも見えた。
怖いのに…笑顔…か。

リリス 「だけどですね、私、勇者様のこと信じてます! 勇者様が私を信じてくれる! だから私は勇者様のことを信じます!」
リリス 「アハハ! 大丈夫ですよ、絶対何とかなります! あのセリアさんて人、きっとあの人たちと一緒にいたら不幸です!」
リリス 「救いましょうね、私も勇者一行の一員ですから!」
リリス 「て、あはは…ごめんなさいね、素人が根拠もないのに変なこと言って!」

レオン 「…そんなことないよ、その言葉、とても心強い…」
レオン 「信じてもらっている…それが何よりも力になるんだよ」

リリス 「レオンさん…」

レオン 「正直、本当に辛い…セリア王女を助けられるか? それ以前魔王に勝てるのか?」
レオン 「なにがなんだか、わからなくて…ごちゃごちゃして…とにかく厄介だ」
レオン 「ははは…こう言うときは素直に眠るのが一番かな?」

リリス 「……」

レオン 「あれ? リリスちゃん?」

リリス 「…大丈夫、勇者様は絶対に魔王様に勝てますよ! うん、絶対!」

レオン 「絶対か…最高のおまじないだね」
レオン 「ねぇ、リリスちゃん、勇者様って言われるのも悪くはないけど、俺のことはレオンって呼んでくれないか?」

リリス 「え…でも?」

レオン 「リリスちゃん、俺達はリリスちゃんを護衛するボディーガードでもある、でもそれ以上に俺達は仲間だろ?」

リリス 「そうですね…えと、レオンさん? あ、あはは…なんだか変だなぁ…」

リリスちゃんはそう言って顔を赤くしていた。
なんだか、リリスちゃんには少し恥ずかしいらしい。

レオン 「…それじゃ、そろそろ帰ろうか?」

リリス 「はい、レオンさん」

俺はリリスちゃんの手を取ると、ゆっくりと引っ張った。
リリスちゃんの手をとてもやわらかく、繊細だった。



…………。



『翌日 時刻08:55 北側の大陸北部』


レオン 「…さて、じゃみんな出発するよ?」

リリス 「はい!」
エド 「おう!」
アルル 「うん!」
シーラ 「ええ」

俺達は朝ご飯を食べ、出発の準備を終えると歩き出した。
今日中には次の街、城塞都市ビスラファスタに着くはずだ。

アルル 「あ〜、なんていうのかね? こういう時に限ってアビスに襲われそうな気がする?」

エド 「ふ、不吉なこと言うなよアルル…」

レオン 「そうだぜ? 一応こっちとしては出来れば現われて欲しくないんだから」

もしまたセリア王女たちが現われたら、こっちは分の悪い賭けで戦わないといけないんだ。
ズブの素人のリリスちゃんにセリア王女を殺さないように、なおかつこちらがやられないようにアルティマを調整しないといけない。
不安でしかたがないが、もうリリスちゃんを信じるしかないからな…。

エド 「まあ…モンスターは現われたようだがな!」

竜火虫 「キィィィ!!」

レオン 「! 竜火虫か!」

アルル 「速攻で、全滅だよ! ブリザードブレス!」

ビュオオオオオッ!!

アルルの放つ猛吹雪の魔法で、弱点の竜火虫たちは次々と落ちていく。
もう雑魚モンスターくらいにはさすがにてこずらないか。

アルル 「はい、瞬殺」

あっという間に戦闘は勝利。
まぁ、これにてこずったらセリア王女は確実に助けられないからな。

リリス 「みんな強いですよね〜…私、頑張らないと…」

アルル 「あんまり、気負わない程度にね?」

シーラ 「ええ、一応リリスさんは護衛対象ですからね」

リリス 「う、うん…」

レオン 「リリスちゃん、もしもの時、その時だけでいいからね?」

リリス 「う、うん、レオンさん…」

アルル 「う〜? なんか、いつの間にか勇者様からレオンさんにランクアップしているねぇ?」

エド 「それってランクアップなのか?」

アルル 「何言っているの! 勇者様とレオンさんじゃ親しみが段ちに違うわ! いいえ、違いすぎる!」

エド 「そうかぁ?」

アルル 「じゃあ、ちょっと実践、ねぇ聖騎士様?」

エド 「え? それ俺?」

アルル 「これと、ねぇ〜、エド〜?」

レオン 「?」

アルル 「さて? どっちの方が親しみがある?」

エド 「後者…」

アルル 「そう! それくらい今のは変わっていたのだよ!?」

エド 「て、それは親しみというか馴れ馴れしいだけでは?」

アルル 「十分だよ!! いい? 今まではリリスちゃんのレオンへの恋愛値はざっと30だったとして…」
アルル 「それが一気に、恋愛値50! 親しい友達レベルまで発展しているんだよ!?」

レオン 「ちょっと待て…その恋愛値ってなんだ」

アルル 「モチ、レオンが攻略中の女の子のパラメータだよ!? あ、それとも攻略されたいタイプ?」

レオン (攻略ってなんだ!?)

シーラ 「あ、えーと、ここにいてはまた敵が現われる可能性もあることですし…」

レオン 「! と、それより行くよ! リリスちゃんは仲間なんだ、他人行儀のままもどうかだろう!?」

アルル 「むぅ…そうだけどさ…」

アルルはやや納得できないようだった。
俺は強引に話を打ち切って、先へと進む。
だから、俺は恋バナは苦手なんだっての!



…………。



『同日 時刻14:39 城塞都市ビスラファスタ跡地』


レオン 「えーと…ここは城塞都市ビスラファスタですよね?」

リリス 「あ、あれ? か…壊滅している…?」

アルル 「まさか、ここもアビスに!?」

エド 「いや…この傷跡、かなり古い…古戦場と化してるぜ?」

俺達は地図に従い、城塞都市ビスラファスタへとやってきた。
城塞都市は見事に壊滅しており、戦場となった跡もあった。
今度こそベットで眠れるかと思いきや、またもやその夢は儚く消えるのだった。
よもやここまで立ち寄れる街が無いとは。

アルル 「ふぇぇ…もう3週間も宿屋で眠ってないよ〜」

エド 「まだ、ここは雨風防げるだけましだろう?」

確かに、廃墟となった町でも、屋根があり、塀があるところもある。

レオン 「どうします?今日はここで待機しますか?」

シーラ 「そうしましょう、出発は明日の朝ですね」

アルル 「あ〜あ〜…せめてフカフカの毛布でもあったらなぁ〜」

エド 「我慢しろ…」

俺達はせめてものと、街中を探し回ってみる。
しかし、毛布なんて見つかるはずも無く、仕方なく木の板の上に塀と屋根のある場所を寝床に選ぶのだった。



アルル 「屋根があるだけでマシって言うけどさぁ…アルル、森で生活してきたわけよね、だからさぁ木々が屋根代わりだったわけよ」
アルル 「森っていうのはねぇ…保水性も通気性も最高なわけよ? フカフカ毛布は木の葉のベットがあるわけよ…」
アルル 「それに比べて街とは…なんともまぁ…温かみも無いものよ…」

エド 「おおい、アルル〜…ホームシックならぬフォレストシックか?」

俺達は昼飯を食いながらいつも通り、アルルが不意打ち的に謎の言葉を喋りだす。
アルルはここ最近、特に意味不明な言葉を口走っている。
もしかしたら、精霊魔法のスペルだったり?

ポツポツ…ザァァァァァァ!

アルル 「え〜…やだ〜、雨降ってきたし」

なんと、今日はやや雲行きが悪かったのは認めるが、まさか雨まで降り始めるとは…。

シーラ 「通り雨だといいですけど…あと、エドさんは常にラーで周囲の監視を、射程距離を判定に入れるならば周囲5キロで」

エド 「ういっす…というわけでラー」

ラー 『了解だ、ここ中心から5キロ先まで写す、ここならば人の気配は皆無だ、近づけば気付く』

ラーはその鏡面にここを中心としたマップを表示した。
モンスターが多数いるだけで、人の気配はないようだ。

リリス 「雨じゃ、ちょっと視界が悪くなるもんね」

レオン 「まぁ、よほどの驟雨でもなければ、問題はないけどね」

そんな、驟雨が起きるわけも無いだろうし、第一これくらいなら通り雨といったところだろう。

ザァァァァ…ザアアアアアアアアッ!!

レオン 「…て、強くなってきたな…」

アルル 「ちょっと〜、レオンが変なこと言うから〜」

レオン 「お、俺の性なのか?」

なんだか俺の性にされる。
たしかに、雨足が強くなったのは事実だがいくらなんでもねぇ?

エド 「案外、この雨が魔法で人工的に作られた雨だったり」

レオン 「……」
シーラ 「……」
アルル 「……」
リリス 「……」

全員が固まる。

エド 「え、えと…ラー! こいつって魔法ってことは…?」

ラー 『我も気になって調べてみた、魔法だ! かなりの水魔法使いだろう! 一体どこから魔法が使われているのかさっぱりわからんが!』

エド 「やべぇ! 魔法だ! 下手すりゃ本気でアビスだぜ!?」

シーラ 「皆さん! 武器を! リリスさんは申し訳ございませんが準備を!」

レオン 「おっけ!」
アルル 「やーん! まだ昼ごはんの途中なのに〜!?」
リリス 「はい!」

俺達は武器を構え、雨の中、外へ出る。

エド 「くそ!? ラー! 本当に気配はないのか!?」

ラー 『間違いない! 以前の白の巫女には生体反応があった! だが、今は無い!』

レオン 「気配があるぞ…どこだ…どこにいる!?」

俺はかすかだが、何か敵意を感じとり、周囲に注意をかざす。

レオン (くそ…廃墟エリアに入ったのミスか!? 視界が悪すぎて、まるでわからない!)

ズパァァァン!! ギュオオオオオッ!!

レオン 「!? みんな伏せろ!!」

突然、物凄い水柱が俺達を襲った。
俺達は咄嗟にしゃがんでそれを回避する。

エド 「おいラー! やっぱりいるじゃねぇか! どういうことだ!?」

ラー 『わからん! 考えられることは、私の感知能力の範囲外の存在だということだ』

エド 「ちっ! みんな、敵はいる…どうやらアビスの連中はレーダーに反応しないらしいな!」

レオン 「反応しない…厄介だな…」

ムーン 「ひゃっはっは…顔見せだ」

ラー 『!? 生体反応が出たぞ! 前斜め上を見ろ!』

エド 「!? アレを見ろ!」

レオン 「!? 的中か…!」

エドの指す先を見ると、空中にアビスの者とセリア王女がいた。
どうやって浮いているのかは知らないが、ご丁寧に俺達を上から見下ろすかたちなっている。

ムーン 「ひゃっはっは! 久しぶりだな、ホムンクルス!」

シーラ 「!? あなたはエドワウさん! いえ、ムーン!!」

ムーン 「そう、俺だよ! こいつはすげぇぜぇ!?」
ムーン 「こいつはお前たちを皆殺しにしてくれるんだぜぇ!? ヒャハハハハハッ!!」

レオン 「セリア王女ーッ!!」

ムーン 「ヒャハハハ!! 無駄だ! 俺の幻術は完璧だ! こいつの精神はない!!」

エド 「幻術!? あいつ…幻術士なのか!?」

アルル 「厄介だよ…幻術士は幻を見せるだけじゃなく、人を操ったりも出来るからね…」
アルル 「もし、セリア王女を助けるんだったら、どうにかしてその幻術を解かないと!」

エド 「方法は!?」

シーラ 「…術者を倒せば大抵治りますが…術の進攻が深く彼女の精神へと侵食している場合は…」

アルル 「廃人になることも…」

レオン 「!!? リリスちゃん! 悪いけど…俺達の命預けたぜ!?」

リリス 「あ…は…はい!」

俺は一番後ろで構えるリリスちゃんにすべてを託す。
後は、奇跡を信じるだけか!

レオン 「目標はあくまでムーン! 行くぞ!?」

シーラ 「はい!」
アルル 「うん!」
エド 「おう!」

俺達はそれぞれのフォーメーションで、ムーンに向かう。

ムーン 「けけけ…でかい花火打ち上げな…」

セリア 「はい…アルティマ…」

リリス 「一か八か! アルティマ!!」

カッ!! ドドドドドドドドドドドドッ!!!!

ムーン 「なに!?」

レオン 「うおおおっ!?」
シーラ 「きゃあっ!?」

ふたつの強大な魔法がぶつかり合い、俺は愚か、仲間も、ムーンもマナの奔流に流され、吹き飛ばされてしまう。

リリス (まずい!? こっちの威力が若干弱い! もうちょっと強めないと!!)

ギギギギギギギギ!!

アルル 「せめぎあっている?」

ムーン 「馬鹿な…? 共鳴して無効化しやがっただと!?」

なんと、セリア王女の放った白いアルティマとリリスちゃんの放った黒いアルティマがぶつかり合い、同じ波長のせいか共鳴し、無効化しあっていた。

レオン 「今だ!! てぇぇああ!!」

ムーン 「!? ちいいいっ!!」

キィィン!!

俺は最初のマナの奔流で地上に叩きつけられたムーンに切りかかった。
ムーンは剣を取り出し、俺の一撃を受け止める。

レオン 「言っとくが互角じゃないぜ!? 貫け!!」

ズドォォン!!

ムーン 「!? ぐぁぁぁっ!?」

フランツェの特殊能力は貫通、防御しても意味なんて無いぜ!?

ムーン 「やっろう!!」

ギュン!!

レオン 「!?」

アルル 「わ…わわ!? ムーンが4体に増えた!?」

シーラ 「落ち着いてください! 残り3体は幻です!」

ムーン 『ひゃははは、だが、どれが本物か分かるか!!?』

4体のムーンはすべてが同じ動きをする。
正直、見分けはつかないわ。

エド 「生憎だが…俺には幻なんて通用しないぜ! ラー、答えは!?」

ラー 『右斜め! そいつだ!!』

エド 「そいつかぁ!!」

ムーン 「なんだとぉ!?」

ガキィィン!!

エドはラーの力で、幻術を見抜く。
幻術もラーの鏡の前では意味がないようだな!?
ムーンはエドの攻撃をなんとか受け止めるが、吹き飛ばされた。

ムーン 「てめぇらぁぁ!! 調子に乗るんじゃねぇぇぇ!!」

ムーンの腕に魔力が集まる。
なにか大きな魔法を使う気か!

ムーン 「タイダルウェイブ!!」

ゴゴゴゴゴゴォッ!! ザッパァァァァァァァン!!

ムーンから放たれた魔法は10メートルを越える超特大の高波を作り、俺達全員に襲い掛かってきた。

アルル 「アルルをぉぉぉ!! なめないでよーっ!!」
アルル 「ファイアーフレア!!」

カッ! チュッドォォォォォォン!!

アルルの手からも特大の魔法がぶっ放される。
炎による大爆発を起こし、雨を干上がらせ、大波を突き破った。

ムーン 「くうっ!?」

シーラ 「聖なる力よ、その力でかの者を拘束せよ、アースバインド!」

シュルルル!

ムーン 「なにぃ!? ちぃ! こんな初歩魔法で!」

エド 「! おせぇよ!」

エドは瞬歩で一瞬のうちにムーンの背後をとり、エクスカリバー・レプリカで斜めにムーンを切り裂く。

ムーン 「ぐ…あ…!?」

レオン 「終わりだー!!」

俺はムーンの正面から、ムーンの胴を斜めに切り裂いた。

ムーン 「ぐはぁ…!? ば…かな…畜生…こ…こんな…ところで…」

ドサァァァ!

ムーンが倒れる。
やった…ムーンを倒した!

レオン 「やったーっ!! ついにアビスの敵を倒した!!」

俺達は歓喜に震える。
だが、それも束の間俺達は慌ててセリア王女の方を見た。

セリア 「……」

リリス 「くぅ…! だめ…このままじゃ!」

なんと、セリア王女は依然、アルティマを放ち続けている。
このままではリリスが危ない!

アルル 「そ、そんな! セリア王女助からないの!?」

シーラ 「わかりません! なんにせよ、このアルティマのぶつかり合いをどうにかしませんと!」

現在はセリア王女とリリスちゃんのアルティマが物凄いぶつかり合いを行っており、10メートル以上近づくのは大変危険そうだった。

シーラ 「私がテラーフィールド、セリア王女の精神集中をかき乱します! おそらくそれでアルティマは止みます!」
シーラ 「同時にリリスさんもアルティマを解除してください! このタイミングがずれたらそれだけで、どちらかが死にます!」

リリス 「…!? だ、ダメなんです! も…もう…手が…暴走しちゃう…コントロールが」

レオン 「! リリスちゃん! 後もうちょっとだ! 頑張るんだ!」

リリス 「だ…だめぇ! た、助けてレオンさん! 私…私!!」

レオン 「!! くっ!!」

俺は急いでリリスちゃんに駆け寄った。

レオン 「リリスちゃん…」

リリス 「ひゃ…!? れ…レオンさん…!?」

俺はリリスちゃんは後ろから抱きしめる。
リリスちゃんは驚きのあまり、奇妙な声を出してしまった。

レオン 「リリスちゃん…自分と…そして俺を信じて、俺がリリスちゃんを守る…大丈夫、制御…できるから」

リリス 「レ…レオンさん…は…はい!」

シーラ 「! いっせいのーでで行きます!テラーフィールドのドの音に合わせて解除です!」

リリス 「は…はい!」

シーラ 「いっせーの! テラーフィール…!」

レオン 「落ち着け…落ち着くんだリリスちゃん…」

リリス 「は…はい、レオンさん!」

シーラ 「…ド!」
レオン 「今だ!」
リリス 「くっ!?」

キィィィィィン!!

いきなり耳を切り裂くような音。
そしてその瞬間、セリア王女は無造作に重力に従い落ちてくる。

エド 「よっと!」

ドサァ!!

セリア 「……」

エド 「オッケー! 救出成功!」

エドはセリア王女を見て、親指を立てて、オッケーサインを出す。

リリス 「やった…やりました! レオンさん!」

レオン 「ああ、やったな…! リリスちゃん!」

俺はリリスちゃんから離れ、無事を喜ぶ。

リリス 「…あ」

レオン 「? どうした?」

リリス 「…もうすこしあのままで居たかったな…」

レオン 「!? か、勘弁してくれよ…ちょっと恥ずかしいんだから」

俺も咄嗟にあんなことやってしまった、もう二度と出来ないだろう。

アルル 「ねぇ、セリア王女は大丈夫なの?」

エド 「ぐっすり眠っているぜ?」

シーラ 「恐らく、目覚めたら、元に戻っていますよ…」

エド 「時間が治してくれるか…」

アルル 「あ〜あ、にしてもレオンがまさかあんな行為に走るとは…」

シーラ 「え!? あ…そ、そうですね…」

アルルは溜息をつき、シーラさんは赤面する。
ちなみに、俺も赤面した。
我ながら、破廉恥なことをしてしまった…。

レオン 「ごめんな、リリスちゃん」

リリス 「ううん、むしろ嬉しい!」

レオン 「うわぁぁっ!?」

リリスちゃんは突然、俺の腕に抱きついてくる。
小さいながらもリリスちゃんの胸の感触が腕に…。

リリス 「レオンさん! レオンさんは私のこと好きですか?」

レオン 「え? き…嫌いじゃないけど…」

リリス 「好きですか!? 嫌いですか!?」

レオン 「う…す、好きです…」

リリス 「はーい! というわけで一番乗りー! やったー! シーラさんよりも、アルルさんよりも先越せたーっ!」

アルル 「ちょ、ちょっとちょっと! そ、それずるいよ!」

シーラ 「そ、そうです…あ!」

エド 「へぇ…やっぱ二人ともレオンが好みだったのか…はぁ、俺とことんモテねぇよな…」

なんと、見事にアルルとシーラさんの気持ちを聞いてしまった。
その事態にアルルは。

アルル 「そ、そーだよ! アルルはレオンが好きだよ! だ、だからまだ諦めてないよ!?」

シーラ 「は…はううう…私としたことが」

二人とも顔を真っ赤にしていた。

リリス 「ざーんねん! レオンさんと付き合うのは私ですもーん♪」

レオン 「え…えと? い、一体なんなのーっ!?」

俺は頭がパニクってきた。
みんな戦闘が終わったからって、緊張感抜けすぎ!!



…………。



『同日 同時刻 魔王城』


メビウス 「なんと…! ゆ、勇者一行がセリア王女を見つけ、助けたようです!」

シーザー 「なんですと!?」

ティナ 「は…はうぅぅ〜良かった〜やっぱりセリアさんは無事だったんだ!」
ティナ 「そうだ! 早速このことをお兄ちゃんに!」

アンダイン 「やめときな、今言ったら間違いなくサタンは制止の声を聞かず飛び出していくよ?」
アンダイン 「魔王なんだから、ここを離れるわけには行かないからね、サタンには内緒よ?」

ティナ 「で…でも」

ヴァルキリー 「可哀相だけど、余計な混乱を生まないためには…ね?」

ティナ 「は…はい」

アンダイン 「とにかく、これでやっとこっちも一安心ね…だけど」

ルーヴィス 「よりにもよって、勇者一行のところにか…」

メビウス 「一難去って、また一難…ですね」

何はともあれ、セリアさんの無事が確認されただけで行幸である。








To be continued



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