勇者と魔王〜嗚呼、魔王も辛いよ…〜




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第3部 神魔大戦編

ダイナマイツ&ボラス編 『阿修羅姫』






『勇魔暦3202年1月1日 シン国領内』


? 「ほう……ほほ、意気が良いの二人もおるのぉ……」

旧シャリアール領内で戦いを始めようとするミスター・ダイナマイツとボラス。
その二人を山脈の上から眺める謎の少女が居た。




ボラス 「……」

ダイナマイツ 「……」

互い動かない。
先に動けばやられる……というような空気がピリピリと肌を焼くのだ。
だが、ボラスの気性、必ず奴は動く!

ボラス「! いくぞーーーっ!!」

? 「あいや! またれぃ!!」

ダイナマイツ 「!?」
ボラス 「!?」

突然私たちの目の前に一人の少女が降り立つ。
どこから降ってきたのかに驚いたが、地面に降り立ちその反動で手をついた状態からゆっくりと立ち上がったとき私は驚愕した。

ダイナマイツ 「ッ!? 姫……? フェニメール……姫?」

突然この戦いを仲裁し、我々の前に立ちはだかったのは一人のあどけない少女だった。
なにやら不思議な格好をした少女で、シン国の服を割と大胆に改造した……そんな感じの服を着た少女。
150センチくらいの小さな体格で、とても華奢に見えるその体は折れそうな程細い。
そしてその顔は……かつての……20年前のフェニメール姫そっくりであった。

姫? 「ふむ……ふむふむ♪ 今時武具を着けず戦う丈夫がおるとはうれしいのぅ!」

ボラス 「嬢ちゃん、一体なんだ? 俺たちの戦いを止める気か?」

姫? 「ん? いやそれは悪かったのぉ……だが、久しぶりの『下界』じゃ、ちと、体がうずいてのぅ」
姫? 「どれ……おぬし等、妾とやってたもう?」

そう言って両手でかかってこい、少女はクイクイと手で挑発してくる。
なんという豪気……だと思ったが、その少女からは体に危険信号が出る。

ボラス 「へ……上等だ」

ダイナマイツ 「ボラス! 見た目に――ッ!」

ボラス 「わかってらぁ! こいつが化け物なくらいな!」

姫? 「化け物? やれやれ……酷い言い草じゃのう、こんな美少女捕まえて」

化け物……それは私もこの少女に感じた感想だった。
我々二人を前にして物怖じしないその様子、そしてそんな少女から放たれているのはとてつもない殺気とプレッシャーだった。

姫? 「ほれ、はよかかってこい。いつまで妾を待たせる気じゃ?」

ボラス 「ち……うらぁぁぁ!!」

ダイナマイツ 「ボラス!? くっ!!」

ボラスが痺れを切らし、少女に襲いかかる。
あまりに無警戒すぎると感じ、私もボラスの援護に向かう。
この少女が何者なのかはわからない、悪意は感じないが……この殺気は異常だ!

ボラス 「シャアッ!!」

姫? 「……ふむ」

パシィ!

ボラスの放った渾身の右ストレート、だがその少女は何事も無かったように左手一本で受け止める。

ボラス 「ッ!?」

姫? 「スピードもパワーも申し分ない。筋肉も良く鍛えたのぉ、じゃが……」

ボラス 「うおおっ!?」

少女はボラスの拳を掴んだまま放り投げた。
瞬時に少女はこっちを振り向く。

ダイナマイツ 「くっ!?」

迂闊に手を出せばボラスの二の舞だと頭が理解する。
だから少女を射程距離に入れても手が出せなかった。
だが、そんな様子を見て少女は無防備に私の懐に入ってくる。

姫? 「どうした? ここまで来てやったのになにもせんのか?」

ダイナマイツ 「くっ!? はぁぁっ!!」

私は少女に組み技を仕掛けにかかる。
相手の腕を取り、そのまま地面に……。

姫? 「ふん!」

ダイナマイツ 「!?」

少女は瞬時に私の手を捕り返し、そのまま私の腕を決めたまま地面に押し倒してくる。

姫? 「小細工無用じゃ」

ダイナマイツ 「ぐっ!?」

少女は少し私の腕を極めるとすぐに放して立ち上がる。

やがて私たちはゆっくりと立ち上がった。

ボラス 「けほけほっ! てめぇやっぱり化け物じゃねぇか!? 武神かなんか?」

ダイナマイツ 「参りました……」

姫? 「ほっほっほ♪ 少し本気を出しすぎたのう♪ いや、悪い悪い♪ 苛める気はなかったんじゃよ♪」

と言いつつもなんだか上機嫌な少女。
まるで久しぶりに体を動かせて嬉しいといった感じだった。

ダイナマイツ 「失礼かと存じますが、あなた様は高名な武神様では?」

姫? 「武神? ふーむ、言い得て妙じゃが、ちょっと違うのぉ。妾の名は阿修羅姫、武神ではなく戦う修羅じゃ」

ボラス 「阿修羅姫……戦う修羅?」

ダイナマイツ (なるほどあの殺気、たしかに修羅と言う相応しいものだった……まさに修羅の体現者というわけか)

戦いの終わった今はただのあどけない少女にしか見えない。
だが戦っていた間のこの少女はまさに殺気の塊、手を出す気がなかったようだが、それが逆に常に攻め続けられているかのような恐怖を感じた。
あれが……人間では体得し得ない、神の領域か?

阿修羅姫 「まぁ気軽に姫と呼んでたもう♪」

ボラス 「じゃ、姫さんよぉ、アンタ神族だろ? なんでこんなところうろついてるんだ?」

それは私も感じた疑問だった。
神は土着する神ばかりではないが、それにしてもこの少女……いや姫はまるでせわしなさそうに見えた。

阿修羅姫 「う……それは……えーと」

ダイナマイツ (? 答えにくいことなのか?)

まさかの予想外の切り返し、瞬間的に思った。
この神様、強さは武神的だが、多分アホの娘だ。

阿修羅姫 「ええーーいい! そんなもん秘密じゃ秘密!! それよりおぬし等! 妾と遊んでくれて感謝してたもう♪」
阿修羅姫 「お詫びと言ってはなんじゃが、おぬし等に少しご教授してしんぜよう♪」

ボラス 「ご教授って……何を教えてくれるんだ?」

阿修羅姫 「馬鹿モン! 師匠と呼べ! おぬし等強くなりたいのだろう!?」

ボラス 「はぁ!? テメェコロコロ変えて、何様だ!?」

阿修羅姫 「妾は阿修羅姫なるぞ! 妾を崇めよ♪ 称えよ♪」

ボラス 「ぐ……無駄に神の威厳発揮しやがって……」

ダイナマイツ 「(ボラス……この神はアホの子だ、突っ込むとキリが無いぞ)」

私は小声でボラスに私の意見を打ち明かす。

ボラス「(俺も薄々そう感じてたぜ……こいつ、付き合いににくいぜ……だが)」

ダイナマイツ 「(? だが……?)」

ボラス 「アンタの強さは本物だ! 俺の名はボラス! 師匠だが姫だがしらねぇが強くなれるんだろうな!?」

阿修羅姫 「なれる! おぬし等二人とも、まだ限界ではないぞ!?」

ボラス 「へっ! なら決まりだ! アンタの強さ吸収させてもらうぜ!」

ボラスはそう言って阿修羅姫に肩膝を着く。
確かに強さに飽くなき執念を持つ、ボラスなら当然の結果だろう。
だが……私は……。

阿修羅姫 「? どうしたお主は嫌か?」

ダイナマイツ 「いえ……嫌ではありません。ですが私は本当に強くなれるのでしょうか? 正直私に年齢が年齢です、強さを維持するだけで必死な状態なのです」

阿修羅姫 「ふん、年齢など強さには関係ありはせん! おぬしは間違いなく強くなれる! 妾の目に狂いはないわ!」

ダイナマイツ 「もう一つ……私は修羅を目指せません」

私は修羅になるつもりは無い。
彼女の扱う業は間違いなく修羅の業。
私はそれを教わる気にはどうしてもなれなかった。
私はあくまで護る者でいたい。

強くなれるのなら強くなりたい。
だが、その業によって、修羅羅刹になるのなら御免だ。

阿修羅姫 「ふむ……お主、鬼子母神を知っておるか?」

ダイナマイツ 「は? いえ……シン国の宗教はあまり……」

阿修羅姫 「鬼子母神は羅刹と呼ばれた女の修羅神の一人じゃ、千人の子の母でありながら、その気性は非常に荒く、女子供も殺して食ってしまう残虐性を持っておった」
阿修羅姫 「だがな、鬼子母神は一人の子を失って大層悲しんだ、その時知ったんじゃ子を失い事への悲しみを」
阿修羅姫 「己の気性、行いを悔やんだ鬼子母神は慈愛の神、菩薩となったのじゃ」

ダイナマイツ 「修羅が……菩薩に?」

その後、突然姫は私の体に抱きついてきた。
トクントクンと姫の心臓音と体温が私に伝わってくる。

阿修羅姫 「この温もりを、音を止めるのは簡単じゃ……お主の心は非常に尊くそして誇らしい……」
阿修羅姫 「じゃが修羅の業も……扱うもの次第では菩薩の経となる」

ゆっくり耳元で姫が優しくささやきかける。

阿修羅姫 「修羅に落ちるか、菩薩になるかはお主次第じゃ」

ダイナマイツ 「私次第……」

そう言うとゆっくりと阿修羅姫が私から離れた。
まだ心臓音が聞こえるようだった。

阿修羅姫 「どうする? えーと……」

ダイナマイツ 「私の名はミスター・ダイナマイツ……いえ、我が真名あなたに授けましょう我が真名はジャス。ジャスとお呼びください姫様」

私は決心した。
この人についていこう。
それはフェニメール姫に似ているからではない。
ただ、私も一人の戦士として強くなりたかった、私の意思を守るために。

阿修羅姫 「ふ、あっはっは! よーし! それじゃ早速修行に入ろうか!?」

ダイナマイツ 「!?」
ボラス 「!?」

また、コロッと表情を変える姫様。
突然の変化に私はおろかボラスまでうろたえていた。

阿修羅姫 「おっと、そうそう! まさか真名を持つものが今の時代居るとはおもわなんだ……ならば、妾も真名を授けねばなるまい」

ダイナマイツ 「真名を?」

阿修羅姫 「妾の真名は舎脂(しゃちー)、お主らには特別に呼ぶことを許してやろう……」

真名を授ける時……姫は……とても悲しそうな顔していた。
出来ることならまるで二度と使いたくは無いかのような顔……一体何が?

舎脂 「あ、さ、さて! それじゃ特訓開始じゃぞ!?」

妙に人間味溢れる阿修羅姫舎脂、なんだか奇妙にも感じたが、私たちは彼女の教えを請うことになるのだった。



…………。



舎脂 「いいか? 健全なる肉体は健全なる魂に宿ると言う、そこでお主にはまず特訓じゃ! 一に特訓二に特訓三四も特訓特訓じゃ! 技を教えるのはまだ早い!!」

ボラス 「うっす!! 師匠!!!」
ダイナマイツ 「はいっ!!」

舎脂 「まずはスクワット10万回!」

ボラス 「サーイエッサー!」
ダイナマイツ 「はっ!!」



…………。



舎脂 「走れ走れ走れーーっ! 馬車馬のごとくはしれーー! 足腰は格闘家の命! 一日で千里を超えるほどの脚力を得て見せよっ!!」

ダイナマイツ 「うおおおおおおっ!!」
ボラス 「だぁぁぁぁぁぁっ!!」

舎脂 「声を出せ!! 肺活量をつけるのじゃ!! 錘を苦にするな! 柔らかい筋肉を持て!!」



…………。



1ヶ月……短いようで長い、非常に濃密な修行が舎脂様の命令で行われた。
姫さまの特訓は非常に単純であり、まるで子供のようなことだったが、実を取れば非常に素直な効果が得られた。

舎脂 「我々阿修羅一族は戦いの神じゃ、こと戦闘に関してアースやデーヴァの神族にだって引けをとらん。じゃが妾ら三面六臂の修羅共は武具を用いん」
舎脂 「ゆえに極限まで鍛えた肉体でのみ戦う。人間ども扱うが、汝らならたやすくこれも出来るだろう」

そう言うと姫さまは目の前で瞬間移動を行ってみせる。
見ると真後ろに姫の姿があった。
皮肉なことに姫の鬼特訓のおかげで今の動きが目で追えた。

ボラス 「地面がえぐれてねぇな……今の爆発力どうやって?」

ダイナマイツ 「瞬歩ですか」

舎脂 「ふむ? 縮地のことじゃが、外界では瞬歩と言うのか? しかし言い得て妙じゃな」

そうか、シンの圏内の神様だから縮地って言った方がいいのか。

舎脂 「さて、これだけじゃと単なる便利な移動技じゃが、これを攻撃に用いると……ッ!!」

ダイナマイツ 「!?? グウウッ!?」

ズンッ!!!!

突然瞬歩を用いて姫が私に蹴りを放ってくる。
私はその動きを見切り、クロスアームブロックで防ぐが、ケリが下に向けて放たれているから地面に押し付けられて自分の足元が陥没する。

舎脂 「とまぁ、これほど強烈な一撃を呼ぶ」

ダイナマイツ 「人を実験に使わないでください姫様」

舎脂 「じゃ、頭の悪いボラスー、なんでこんな威力が出ると思う?」

ボラス 「アンタ俺より頭悪いだろ! そんなもん……えと……姫の馬鹿力のせい……なわけないから……えーと……」

舎脂 「ブー! 時間切れー! 答えは速度とそれを足腰のおかげじゃ」

ダイナマイツ 「足腰は発射台、それをスピードで打ち抜くから、衝撃が体を突き抜けて芯に効く……」

一見蹴りの方に着目してしまいがちだが、この技の本当の恐ろしさはその強靭な足腰だ。
もし姫様の特訓前だったら私はガードも出来ず死んでいただろう。

舎脂 「これからおぬし等に技を教えるわけじゃが……正直、すでに主等を常世の存在で超えるものは色んな世界を見回しても居ないと思うんじゃよなぁ……」

ボラス 「俺等そんなに強くなってるのか? ジャス?」

ダイナマイツ 「強くなっているだろうな、姫様の蹴りを止められた……と言うだけで我ながら浮世離れした気分だ」

ボラス「うーん……ジャス、ガード頼む」

ダイナマイツ 「? ぐうううううっ!?」

ズゴォォォン!!!

舎脂 「あ! 阿呆! 説明前に試すな!!」

ボラスが言わなかったら間違いなく死んでいた。
私はクロスアームブロックでボラスの蹴り(本気)を受け止めると、姫の三倍近くの衝撃を受けた。
地面の抉り方がおかしい……もはやクレーターである。
隕石でも落ちたかのようだ。

ボラス 「うおっ!? すっげ……俺こんな蹴り放てたのか」

ダイナマイツ 「腕の感覚がしないな……姫様もしかして私は思うのですが……」

舎脂 「わかっとる……全く勝手に実戦するなというに」
舎脂 「いいか? 我等はすでに技なくしてこれだけの力を発揮しておる。正直この力に対して防御法は無い。どんな防御も生身では全て破壊されるからだ」

ボラス 「? でもジャスは耐えたぞ?」

ダイナマイツ 「いや、連続で出されたら死んでる」

舎脂 「その通り、一発二発は確かに止められるかもしれんが、これだけぶっ飛んだおぬし等の力、防御力を遥かに超えとる」
舎脂 「じゃが……哀しいかなこの力も神々の実戦では意味をなくす」

ボラス 「? どうして?」

舎脂 「それをこれらかおぬし等に教える! 技とは戦い方じゃ! それを極めれば、やがてこれら力や技が意味の無いものだとわかるだろう!」

ボラス 「……」

ダイナマイツ 「……」

なんとなく予想はついた。
いかにこれだけの力が身についても、それを上回る技術の技があれば、互いを無効化してしまうのではないだろうか?
つまり……極められた拳は実戦の中では防御法も極められ無意味となる。

ダイナマイツ (ふ……だが、案外その方がいいのかもしれんな)

戦いは突き詰めると原初に戻るのかもしれない。
これだけの力を手に入れたら技なんていらない。
だから技とは護る物なのかもしれないな。



…………。



それからまた一ヶ月、私たちの特訓が始まった。


舎脂 「ほれい! 足元がお留守じゃ!」

ダイナマイツ 「ぐううっ!? は、はい……!」


姫様との組み手は想像を絶していた。
姫様の超スパルタには全身を苛められ、3日でボロボロだったが、私は必死にその技を盗んだ。


ボラス 「うっどらぁぁぁ!!」

舎脂 「馬鹿モン、迂闊に飛び上がるな! 隙が増えるだけじゃ!」

ドカァッ!!

ボラス 「うがぁっ!? い、いてぇ……」

ボラスはとび蹴りを放つが、瞬歩を用いる姫様に振れられるはずも無く、逆にハイキックでボラスの背中を蹴られた。
ボラスは痛がっているが、姫様なりに手加減されているようだ。
本気ならボラスは肉塊だったからな。

舎脂 「ほれ! 返事は?」

ボラス 「は……はい……」



…………。



舎脂 「いいか? 戦いとは何も力と技だけが全てではない、時の運だって絡むし、知識が勝敗を極める時もある」

ボラス 「俺等クラスの戦いだと考えている暇ねぇぞ?」

ダイナマイツ 「黙ってきけ、それにお前はバトルセンスはいいが、野生の勘に頼りすぎだ」

私は真剣に姫様の講義を聞く。
姫様も頭は悪いが、随分偏った知識を持っているようで、特に人の壊し方とかはやたら詳しかった。
経絡秘孔とか破孔とかよくわからないものもあったが、概ねその知識を理解していく。
ボラスも何となくと言う感じだろうが理解しているようだった。



…………。



舎脂 「ふん!」

ダイナマイツ 「はぁっ!」

舎脂様得意のハイキック、地面に打ち下ろすため、衝撃を逃がしにくいが私はそれを極限までいなして衝撃を受け流す。

舎脂 「ッ!!」

直後、更にスピードが上がり、姫様の体が独楽のように廻って後ろ回し蹴りがもう片方の足から飛んでくる。
私はそれをブロックすると同時に、自ら飛んで衝撃を流した。

ズササァァァ!

6メートルほど後ろに飛んで、両者一息。

舎脂 「ふう……ジャス、よくぞそこまで習得した」

ダイナマイツ 「はい」

舎脂 「ボラスも良く頑張っておる……妾の全てを教えるのはそう遠くは無いかもしれんな」

あれから一ヶ月。
舎脂様から教わったのは攻撃の防御法だ。
あらゆる攻撃を全て無効化する術、それは決して口に出して教えてもらったわけではないが、姫との組み手にて自然と体が覚えさせられた。

対するボラスは私とは正反対にどんな相手さえ打ち倒してみせる技を身につけようとしている。
姫様も段々ボラスの攻撃を受けるのは辛くなっているようだし、ボラスの拳の完成も近いのかもしれん。

舎脂 「さて……じゃあ今日は……」

? 「見つけましたよ、姫!」

ボラス 「?」

ダイナマイツ 「姫の知り合い……?」

あまりに突然だった。
突然どこからか光臨するように一人の男性がこの場に降り立つ。
見た目は姫同様人族と大差が無い(というか見分けがつかない)。
恐らく神の一族なのだろうが……一体。

まるで巫女服のような和服を着た男性、袴は赤くなく白だが不思議な感じの男性だった。

舎脂 「ぬぅ……ついに見つかったか、ようきたのスサノオ」

スサノオ 「ようきたのじゃありませんよ、姫。勝手に抜け出して……帰りますよ!?」

舎脂 「やだ」

スサノオ 「や、やだって……アンタねぇ……」

舎脂 「やん♪ 怒っちゃやだよスサノオ♪」

スサノオ 「怒ってませんよ、私は怒りません」
スサノオ 「ですが、帝釈天様までは知りませんよ?」

舎脂 「!? 驕尸迦(きょうしか)が……」

突然、余裕を持って対応していた姫がどよめき、不安に顔を彩られる。

ボラス 「一体何者なんだ、その驕尸迦ってのは?」

スサノオ 「!? 貴様……命が惜しくないようだな」

突然スサノオと呼ばれる男は剣を取り出してボラスに向ける。

ボラス 「!? なんだやろうってのか?」

舎脂 「よせボラス! まだお主ではスサノオには勝てん! 驕尸迦は……」

スサノオ 「帝釈天様の真名だ、貴様が口にしていい名ではない」

ボラス 「真名……紛らわしいな……だったらぽんぽん出さないで欲しいぜ……」

ダイナマイツ 「それで姫様、帝釈天とは?」

舎脂 「妾の……夫だ」

ボラス 「お、夫ぉっ!? あんた結婚してたのか!?」

ダイナマイツ 「!? なんと……」

正直二人揃って驚かされる。

スサノオ 「さぁ帰りましょう姫、帝釈天様は結構短気ですからねぇ、抜け出したって知ったら怒りますよ?」

ダイナマイツ (スサノオと姫様の様子を見る限りだと、どうやらその帝釈天というのは相当な力をもった神のようだな……)
ダイナマイツ (だがなぜ姫が……あのような顔を……ッ!?)

突然、20年前に死んだ姫の顔が、フェニメール姫の顔が頭にフラッシュバッグする。
舎脂姫とフェニメール姫が同じに写ってしまい、私は頭を抱えた。

舎脂 「!? 大丈夫かジャス!?」

ダイナマイツ 「だ、大丈夫です……」
ダイナマイツ (な、なぜ……今になってフェニメール姫と舎脂姫がダブる!?)

確かに容姿は瓜二つだ、だが……二人はあまりに違いすぎる……!

舎脂 「……妾は」

スサノオ 「さぁ……姫」

ダイナマイツ 「待てスサノオとやら、貴様が姫を悲しませるのならこのダイナマイツ、神とさえも戦おう!」

スサノオ 「? 貴様、命が惜しければ口を慎め。これは貴様ら下賎な者が口を挟んでいい事柄ではない」

スサノオは突然固体化したかのような殺気を放ってくる。
阿修羅姫と同質のプレッシャー……本物の強者。

ダイナマイツ (怖い……本当に怖いな……だが、護るものがあるうちは退かんっ!!)

私はスサノオに対して構える。
するとスサノオもやれやれと言って刀を抜いた。
瞬間、更に殺気が倍増する。

ボラス 「……へっ! 面白ぇ! こっちも勝手に師匠を連れてかれたらかなわねえんだよ! 悪いが二体一だ!」

スサノオ 「ふん、修羅道に落ちたガキが……いいだろう、この場に二輪、血の花を咲かせてやろう」

舎脂 「よ、よせ二人とも!!」

ボラス 「いいややめねえ! 強い奴が目の前に居る! ならば俺が強いかこいつが強いか! 試すしかねぇ!!」

ダイナマイツ 「私はボラスほど、単純明快ではないが……二度も主を悲しませたくはありません」

舎脂 「二人とも……」

スサノオ 「……御託はいい。こぬのか? ならば……往くぞ!」

突然スサノオが切りかかってくる。
阿修羅姫ほどの速度ではないが、十分神速がかっている。
だが、対応できなくは無い!

スサノオ 「無手で俺に勝てると思うな!?」

ダイナマイツ 「得手があれば勝てる道理ではないぞ!!」

スサノオの一撃に対して私は右ハイキックを放つ。
スサノオの刀を横から蹴って、剣筋をずらすと同時に、空中で独楽のように体を回転させて左の後ろ回し蹴りをスサノオに浴びせる。

スサノオ 「!? ちぃ!? この技は!?」

しかしスサノオも左の足は体に隠れて見えにくいはずなのにしっかりと反応して回避してくる。

スサノオ 「これは姫の蹴技!?」

そう、私が姫から盗んだのは防御ばかりではない、戦い方も盗んでいる。

スサノオ 「面白い、神体を持たぬ人間がこれほどの力を発揮するとは侮っていたわ」

そう言ってスサノオは薄っすらと笑う。
気の質が変わった?

舎脂 「!? まずい! いよいよもってスサノオのやつ本気で相手をする気かっ!?」

ボラス 「本気!? へぇ……てことはそれ以上上はねえんだな?」

スサノオ 「ああ……本気だ。お前等殺してやるよ」
スサノオ 「ヒヒイロカネ……その姿見せ給わん!」

突然スサノオの刀が変色する白い刀身は突然赤みを帯びて発光しはじめる。
まるで太陽のような輝きを放ち、その刀身はまるで蜃気楼のようにぼやけている……一体これは?

スサノオ 「これでさっきのような小細工はできんぞ?」

スサノオの殺意がさっきまでは鋭利な刃物のような鋭さをもっていたが、今ではまるで暴風雨のような凶暴なうねりを持ち始める。

舎脂 「気をつけろ! ヒヒイロカネの性質が表に出た刀身は触れただけで致命傷になりかねんぞ!?」

スサノオ 「死ね、はぁぁっ!!」

再び私に襲い掛かるスサノオ、どうやらさっきと同じ切り替えしはできないようだ。
まぁ元より通用する相手でもなさそうだが。
触れることが出来ないのなら……!

ダイナマイツ 「はぁぁ!! はいはいはいっ!!」

私は手刀を四発放つ。
まるで鋭い刀のように手を尖らせ、スサノオの動体を狙う。
しかしスサノオはそれを緩やかに回避、そして緩急をつけて鋭い刃が私の顎を襲う。

ボラス 「うっどらぁぁぁぁっ!!」

スサノオ 「ちぃっ!!」

そこへすかさずボラスの蹴りが飛ぶ。
スサノオは刃を退いてすかさず飛びのいた。

ボラス 「くそお……木の葉みたいに舞やがって……当たりやしねぇ……」

ダイナマイツ 「姫様が言っていたろう、極められた力は極められた技により無効化されると……通用しないのは道理だ」

ボラス 「……だったら、どうすりゃいいんだ?」

ダイナマイツ 「相手の技量を超える……ようは技でも力でもなく、ただ単純に相手より強くなればいいだけのこと!」

ボラス 「はっ! なるほど! そりゃ単純でいい!!」

ダイナマイツ (だが……ボラスもわかっているだろうが、相手の技量はこちらより上……それがわかっているからボラスも援護の蹴りを放ったのだろう……)

私の手刀を回避したスサノオの一撃は私にはすでに回避不可だった。
触れるだけで致命傷になるというその一撃、ボラスの援護が無ければ死んでいたか?

スサノオ 「ち……雑魚も二匹集まると厄介だな……」

すっかりと好青年な印象を受けた青年は毒舌を吐くようになっていた。
姫様もそうだが、神というのはこうギャップが強いのが多いのか?

スサノオ 「発破!」

突然、スサノオが遠くから地面に刀身を降る。
地面に触れた瞬間、地面は……。

ドカァァァァン!!!

ボラス 「な、なにぃっ!?」

突然地面が大爆発。
まるで爆弾でも使ったかのように地面が炸裂し、地面の中に埋まっていたであろう石などが襲い掛かる。
だが、それより衝撃を受けたのは、その土や石が……。

ボラス 「あ、熱ぃぃぃっ!? なんじゃこりゃーーーっ!?」

ダイナマイツ 「ぬう……ただの土や石がこれほどの凶器に?」

なんと土や石がまるで焼けるような熱さを持っていた。
見ると地面が溶けている。
つまり、あの剣は瞬間的か継続的かは知らないが1千度以上の熱を持っていると言うことだろうな。
触れたら致命傷とはそう言うことか。

ボラス 「くそ、なんだあの剣? 魔法剣か?」

ダイナマイツ 「そのような物と考えていいだろうが、使う者があれほどの猛者だとなお厄介だな……」

私たちはスサノオの遠距離攻撃にも警戒して構えを取る。

舎脂 (個々の力量を見ればあの二人はスサノオにはまず勝てん……だが、二人合わせればあるいは……?)

ダイナマイツ 「私が合わせる! いくぞ! ボラス!!」

ボラス 「応っ!!」

俺の声にボラスが突っ込む。
同時に私も突っ込んだ。
闘気を防御膜代わりに使うが、どこまで持つか!?

スサノオ 「殺ァッ!!」

ダイナマイツ 「ハァァァァッ!!!!」

スサノオはボラスに対して一閃放つ。
私はそれを一瞬早く感じ取り、瞬歩にてボラスより前に出て相手の手に左蹴りを放つ。
全身、特に下半身にオーラを集中し、なるべく被弾を防ぐ。

ガキィン!!

スサノオ 「何度も同じ手を食うかッ!!」

だが、スサノオは左手の甲で私の蹴りを打点を外して弾いてくる。
私の態勢が崩れる。
だが、私は気にしない。

ボラス 「くらぇぇぇっ!!」

スサノオ 「ッ!? ぐううううっ!?」

蒼い炎の闘気を纏ったボラスの右腕はまるで龍のようにうなり、ボラス最大の技である右正拳突きがボラスに放たれる。
スサノオは咄嗟に剣の腹でそれを受け止めるが、ダメージを吸収することが出来ず、後ろに吹っ飛んだ。

ズササササァァァァァァ!!!

スサノオ 「ぐぅ……がはぁっ!?」

スサノオが喀血する。
ボラスの拳はガード越しに効く。
特にオーラを身に纏うようになってからは体の内部に対して炸裂するようなダメージを感じる。

ボラス 「へへ……どうだ」

見るとボラスの右腕から湯気のようなものが上がっている。
例のヒヒイロカネのダメージを闘気で無理やり捻じ曲げたか。

ダイナマイツ 「神の一族と言えどダメージは小さくあるまい?」

スサノオ 「く……一撃でこれほどの傷を受けるとは……」

舎脂 「もうよせ、三人とも!」

ダイナマイツ 「! は……」

ボラス 「……まぁ師匠に言われたら止めざるをえねぇな」

スサノオ 「……姫」

スサノオは姫様に言われると、刀を仕舞い姫にひれ伏す。

舎脂 「スサノオ、1週間じゃ。1週間だけ時間をくれたもう? 刻日後は帰ろうぞ」

スサノオ 「……わかりましたよ。でも、本当に帝釈天様は何しでかすかわかりませんよ?」

舎脂 「わかっとるよ……驕尸迦のことくらい……」

姫は1週間の条件をつけて、スサノオを静める。
スサノオはそれを承諾し、そっぽを向いた。

スサノオ 「……」

ダイナマイツ 「?」

スサノオ 「フンッ!」

スサノオがこちらを一睨みするとそっぽを向いてしまう。
むう、なんだか嫌われているようだ。

舎脂 「すまんの、スサノオの奴が迷惑かけた」

ボラス 「へ、気にすんな。こんな強い奴と戦えて満足だ」

ダイナマイツ 「こちらこそすいません、下手に口出しして」

舎脂 「気にするな、スサノオはちょっと過保護なんじゃ」

スサノオ 「誰が過保護ですか、勝手に抜け出して心配する身にもなってください」

舎脂 「え〜? スサノオちゃんったらママ離れできないんでちゅか〜?」

スサノオ 「ば、馬鹿にしているんですか!? 私はもう子供じゃない!」

ボラス 「なるほど、マザコンか」

舎脂 「スサノオ、ヤ・マ・ト・ト・モ・ダ・チ。ヤ・マ・ト・ク・レ」

スサノオ 「ダメだっ! よそあたって!」

舎脂 「オノレ スサノオ ヤマト シンリャクノ ジャマ スルナ」

スサノオ 「だめだ!! する!!」

舎脂 「ナカマ ヨブヨブ ナスカ ノ チジョウエ カッソウロ」

スサノオ 「あーもう、どんどん秘密ばらして……私の不倫のことばらさないでよー」
スサノオ 「て! なんでやねん!!?」

舎脂 「かっかっか! やっと気が戻ってきた。 ほれ主もはよ正妻の下に帰ったらどうだ?」

スサノオ 「はぁ……そうしたいのは山々ですが、こちらも神世七代(かみのよななよ)の召集を受けていますので……しばらくこちらにいるかと」

舎脂 「神世七代……おぬし、追放を食らったはずじゃろう?」

スサノオ 「はぁ、私もだから無関係と思うんですが、アマテラス姉さんにどうして来て泣きすがられて……」

舎脂 「あの巨乳おっとり娘がぁ……!」
舎脂 「ところで、別天津神(ことあまつかみ)の姿はあったか?」

スサノオ 「はぁ? いや、見たこともないですけど、ていうか顔すらしらないっすよ!?」

舎脂 「そうか……」
舎脂 (天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)……御主は何をしたいんじゃ? なにやらまたもあの戦争の時のようなきな臭い臭いがしとるぞ……)

ボラス 「よお、師匠? さっきから訳がわからないんだが?」

舎脂 「なに、神の派閥の話じゃ、こやつは神世七代の流れでな。しかし追放されてしまい、帝釈天が拾って召使にしたんじゃよ」
舎脂 「ちなみにワシの世話がかりをしとるが、こやつ何気に既婚しとってなぁ、嫁はクシナダとかいう生娘じゃがこやつには似合わん大層可愛い娘じゃった!」
舎脂 「たしか娘もおったな……名は……」

スサノオ 「あんまり人の家庭事情暴露しないでぇぇっ!!」

ボラス (神の世界も結構いろいろあるみたいだな)

舎脂 「まぁ…それより特訓じゃ!」

ボラス 「! おう!」
ダイナマイツ 「はい!」

こうして私たちは多少のアクシデントはあったが特訓は続くのだった。
ラストの一週間、スサノオも交えての特訓は命がけであったがそれだけ大きな利益も得られた。



…………。



舎脂 「……おぬしら、おぬしらに教えられることは全部教えたつもりじゃ」
舎脂 「じゃが、強いという言葉には際限が無い。おぬしらも訓練を怠るなよ?」

ボラス 「おう!」
ダイナマイツ 「はい!」

一週間がたち、ついに姫が帰る時が来た。

舎脂 「スサノオ、それじゃ行こうか」

スサノオ 「はい」

姫がそう言うとスサノオはヒヒイロカネの剣を一振るいすると、姫とスサノオの体が金色の霧へと変わり始める。

ボラス 「おう! 師匠! 次会った時はアンタに勝つぜ!?」

舎脂 「! ふ……ぬかせボラス! 千年早いわ!」

ダイナマイツ 「姫様……お元気で、そして願わくば再会を」

舎脂 「……ああ、さようなら、ジャス」

音も無く、ただ自然に姿が消える二人。
姫様……涙を流していた。
でも、笑っていた。

よかったと、心の中から思う。
姫の笑顔は護れたと思うから。

ダイナマイツ 「……ここからは別行動だな」

ボラス 「へっ、機会があればまた会うさ」

ダイナマイツ 「ふ、さらば!」

なにやら空気が不穏になり始めたころ……。
この時代、私たちができることはなんだろうか?
私は、私の護るべきものを護れるか?

ダイナマイツ (護ってみせよう!)



To be continued






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