勇者と魔王〜嗚呼、魔王も辛いよ…〜




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第3部 神魔大戦編

ルシファー&ルーヴィス編 『闇を纏う光』






『勇魔暦3202年2月28日 魔界 異端審問会本部』


異端審問会本部、魔界の中心にある最大の勢力。

それはかつて起きた新魔大戦の終りを告げ、同時に勇魔歴の開始を発端として放たれた世界の管理者。

人界と魔界のバランスを常に整え、人心の不満を放出させ、調和を図らせる勇魔大戦を実質主導的に行わせた存在。
それは悪……それとも正義?
その答えはどちらでもない。
正義も悪もそれは人が授ける定義であり、それそのものにはなんの価値もない。

ましてそこに仕える職員たちには、そのような主観など求められるはずも無かった。



ルシファー 「やぁ、ルーヴィス君、調子はどうだい?」

私は異端審問会本部にある一室にいるルーヴィスの部屋に訪れた。
部屋の中には上半身を肌蹴させて気怠そうにベット腰掛けるルーヴィスがいるのみ、その顔は非常につまらなさそうで心なしかやせ細ったようにも見える。

ルーヴィス 「毎日毎日検査検査で調子がでる訳ないだろう……おまけになんだこの世界? 太陽が昇らなくて鬱なんだよ」

ルシファー 「ははは、魔界に太陽はないからね? でも人界に月はなかったろ?」

人界と魔界、それ単体ではとても不思議な存在。
ごく一部の者だけが知っている、でもそれ以外のほとんどの人は知らない。

魔界の人間も人界の人間も、太陽と月が同居する世界、地平線の先に一周する世界なんて夢物語。
魔界には月と夜を、人界には太陽と昼を古の神は授けた。
太陽のない魔界の昼は暗く、魔界においては月の昇る夜こそがまさに昼時。

生まれてからずっと人界で育ったルーヴィスにとっては魔界の生活は欝だろう。
だけど、彼の体はこの世界が育んだあらゆる生態系と異なる。

生きた死体……リビングデッドではない。
彼、ルーヴィスはその見た目こそ普通だが、あるひとつが欠けている。
脈拍だ、彼の体は血が循環していないのだ。
死したまま成長し、死したまま老いる。

その特徴はたったひとつ、アビスの化物たちに該当する特徴。

ルーヴィス 「見舞いにきた……というふうには見えないな」

ルーヴィスは私の格好を見てかうっすらと笑う。
それはそうだろうね。
私の格好は戦闘服の普段着の区別はつきにくいが、いま来ている服こそ戦闘用の装備。
漆黒のスーツを纏い、マントを被っただけの格好だけど、スーツもマントも異端審問官用の特別製だ。
打撃斬撃射撃など、物理的緩衝力特化したスーツに、あらゆるエレメントを中和するマントはまさに異端審問官の決戦装備。

ルーヴィス 「ふ……アンタらが出陣するとまるで戦争に行くみたいだな」

ルーヴィスは皮肉を込めてかそうつぶやく。
それを聞くと私はなんだか、少し滑稽に思えて頬を緩めて言った。

ルシファー 「違うね、僕たち異端審問官は戦争を終わらせる存在だ、同時にはじめる存在でもあるけどねぇ」

皮肉……なんだろうな。
私は自分の仕事を連想していく。
私たち異端審問官は神の残した負を処理するために勇魔大戦を起こして調和を図る。
同時に、外界から攻めてくる異端の何かに大してそれらを確保……あるいは抹殺する義務がある。
今のところそんな大事変が起きたことは……一度だけあったけど、問題にはなっていない。

ルシファー (11月テロは異端審問会にとっても予想外だった、可能性はあったけど並行世界から渡ってくるとは考えていなかった)

世界を跳躍するとき、僅かな時差と特殊な波動が感知される。
異端審問会はその波動を感知して、事前に跳躍場所を特定して異界の何かに対処することができる。
だが、並行世界は……近すぎた。
並行世界から渡ってきたとき、その波動は感知出来ても時差が間に合わない……感知したその時には現れている。
また、過去に出られてもそれはそれで困るしね……時間系の能力者なんて、魔界人界通しても一人しかいないしね。

ルシファー 「それじゃ、出発してまいりますよ」

ルーヴィス 「どこまで行くんだ? また人界か?」

……私がルーヴィスの部屋を出ようとすると最後にルーヴィスがどこへいくのか聞いてきた。
守秘義務はないけど、言う必要もあるかな……まぁいいか。

ルシファー 「光の祭壇にね」

私はそう言って最後、ルーヴィスの部屋を出て行った。



――光の祭壇、それは異端審問会本部から南東に200キロ、闇を嫌い光を放つ異様な祭壇がある。
今回用事があるのはその祭壇だ。

直進距離で結んで200キロ……途方もない距離だよね。
でも異端審問官にとってはそれほど問題でも無い。

異端審問会には人界の魔王城のように転送装置が備えられてある。
これがあれば魔界限定だけどどこへだって一瞬で行ける。
まぁ……私の場合使う必要はないんだけどね。

ルシファー 「……ラグナロク」

私は異端審問会の中庭に出ると、空間からラグナロクを引っこ抜いた。
空には月が浮かび、星々が煌めいて今が夜だと言うことを教えてくれる。
魔界で一番明るい時間、魔界に住む者たちが一番活発になる時間。
異端審問会も来るべき問題に備え、毎日が大慌てだ。

だからこそ私も備えなければならない……来るべき日のために。

ルシファー (できることなら封印したままにしときたかったなぁ)

私はラグナロクを右手に持つと、若干宙に浮いて地面に紋様を刻んでいく。
私が転送装置を使う必要のない理由、それは転送陣を描けるからだ。

やがて地面に転送陣を書き終えると、私はラグナロクを再び空間の中に押し込んで収納して、転送陣の上に乗った。
転送陣からは光が溢れる。
体がエーテルにエーテルはマナに分解され、私という情報が別の場所へと顕現されるのだ。
ふわっと体が軽くなる感覚……私は一瞬で、そこから二百キロ離れた光の祭壇へと跳ぶのだった。




光の祭壇――この世界を構成する元素10属、その中で1属2エレメント、光にして陽と影を司る祭壇。
私は……『再び』この祭壇へと足を運ぶのだった。



? 「久しぶりでだね、ルシファー……光に愛された闇の者よ」

祭壇の中は光り輝いている。
基本的に陰の属性を司る魔界でこの光は強烈すぎる。
それゆえにこの地には何者も近寄らない。
まぁ、近寄っても何もないのもあるけどね。

ルシファー 「お久しぶりです、ウィル・オー・ウィスプ」

祭壇には光を放つ小さな少年があぐらをかいて座っていた。
祭壇は小さく、一見すればそれが何を祀っているのかもわからない不思議な祭壇。
だが、そこに何千年と居座り続ける少年がいる。

光を司る精霊……その中でも最上級の者、光の神精霊ウィル・オー・ウィスプだ。

ウィスプ 「神魔法がついに必要になったか?」

ルシファー 「ええ、総裁から許可は得てきました。契約を果たす時です」

ウィスプ 「おっけ、じゃあようやく俺もここから動けるわけだ」

少年、ウィスプはそう言うとたち上がり、にやりと笑う。
私ルシファーはかつて、この光の祭壇に光の賢者としての試練を受けに来た。
その時は無事合格出来たが、私は神魔法の授与を辞退したのだ。

その当時では神魔法の強力さは私には必要なかったのもある。
本音を言えば、今でも必要はない。
私ほどの術者が使えばどれほどの被害を出してしまうかは分からないだけに恐ろしい。

ウィスプ 「さて……んじゃ、クラスアップを行う前にひとつ手合わせ願おうか?」

少年とは思えない嫌らしい笑い方をするとウィスプは突然、構え始めた。
足腰をどっしり構え、前かがみで態勢を低くする。
いつでも飛びかかれる態勢だ。

ルシファー 「やれやれ……穏便に行くとは思っていませんでしたけど」

私は溜息をつくと空間からラグナロクを引き始めた。
だが、その刹那に。

ウィスプ 「しゃあっ!」

突然、ウィスプは不意打ちを仕掛けてくる。
剣を空間から抜いている途中に飛びかかり蹴りを放ってきたのだ。
私は慌てて回避すると、ラグナロクを右手にもって距離を離した。

ルシファー 「不意打ちとは卑怯ですよ」

ウィスプ 「うるせぇ! 戦闘に卑怯もくそもあるか!」

ラグナロク 『正論だな』

ルシファー 「同意しないでください、ラグナロク」

ラグナロクの中に眠る人格はウィスプの行為を肯定してしまう。
それは困りますねぇ……私はため息を付いて構えた。

ラグナロク 『心配するな契約者、不意打ちした程度で汝は倒せんよ』

ルシファー 「褒めてるととりますよ……っ!」

私はウィスプを睨みつけるとラグナロクを振るった。
たった一陣の風が祭壇に吹く、すると衝撃波が祭壇の地面を切り裂きウィスプを襲った。
ウィスプは『よっと』と声をあげて、空中で一回転、なんなくこちらの攻撃を回避してみせる。

ウィスプ 「あんまり祭壇壊さないでよ? 先代に呪われちゃうよ」

ルシファー 「これは失礼」

その内容は殺し合いに近い戦闘、だが私たちとってはこれもじゃれ合いのひとつ。
普通の人から見たらこれはどれほどクレイジーに思えるでしょうか?
まぁ……こういった付き合い方をするしか無いですしねぇ。

ウィスプ 「シアッ!」

ウィスプは光の光弾を無数に投げつけるとそのまま弾と一緒に突撃してくる。
私はラグナロクを振るって次々と襲い来る光弾を撃ち落として行く。
その一つ一つが打ち落とす度に激しい光を放つものだから、厄介なことこの上ないですが、この際なので私は目を瞑って対処していた。
第六感で相手を探り、光の玉を撃ち落として行く、そして最後ウィスプを捉えると私はラグナロクを横に薙いだ。

ブォン!

空を切る音、目には映っていないがウィスプが寸前でジャンプをしたのが分かった。
空中で一回転すると、そのまま遠心力を利用してかかと落としをしようとしているのがわかる。
直撃は頭蓋が砕けるかもしれませんねぇ。

私はある種呑気にそう考えながらも冷静に半歩動いてウィスプの攻撃をよけた。

ウィスプ 「おいおいルシファー! ここは俺の距離だぜぇ!?」

ルシファー 「そんなこと……わかってますよ!」

クロスレンジ、ただし大剣の距離ではなく拳闘の距離。
相手が近すぎて刀剣では腹で切ってしまい致命傷を与えられない距離だ。
強引にラグナロクの力で吹き飛ばすことは可能だが、そうするとまた祭壇を傷つけるのでウィスプに怒られてしまうのでやれない。

ウィスプ 「とりあえず顔面一発なぐ……!」

ドカァァッ!!

私は瞬時にウィスプの腹部に蹴りを浴びせた。
一応手加減はしたが、射貫くように蹴りを放ったので吹き飛んだ先で、ウィスプは腹を抑えて悶絶していた。

ルシファー 「えと……遅いですよ?」

とりあえず私はウィスプの敗因を伝えておく。
大した動きをしてないから、ウィスプも忘れていたようですけど、私は仮にも翼人の一種、そのスピードを舐めてもらっては困る。

ウィスプ 「うぅ……50年前より更に強くなってやがる……」

ルシファー 「これでも異端審問官としては最上級の特級監査官ですからね」

監査官には五種類の階級がある、それぞれ下級、中級、準級、上級、特級の五つ。
私はその中で最高官に属する特級監査官。

特級の階位は勇魔大戦において魔王になる実力があると認められる地位。
これでも体術でも負けるつもりはありませんからね。

ルシファー 「さぁ、遊びはここまで契約を」

ウィスプ 「うぅ……仕方ないなぁ」

ウィスプは立ち上がると、ゆっくり祭壇の中央に歩み寄って私と向き合った。

ウィスプ 「我は光の神精霊、これより汝との契約を行い、クラスアップを行うと同時に汝に光の神魔法『シャインニング』を授ける」

物心ついた頃……私はこのウィスプと知り合った。
ウィスプとはその見た目もあり、私とウィスプはすぐさま仲良くなった。
私は頻繁にこの光の祭壇に通った。
まだ物心がついたばかりの小さな頃、私は事もあろうか……選ばれた最上級の精霊の一人ウィル・オー・ウィスプと契約を結んだのだ。 ウィスプはこの地を離れることができない、それはこの地で光の賢者が現れるのを待たないといけないからだ。

だけど、私が光の賢者となったことで、その必要はなくなった。
しかし私は光の賢者になるも、その地位を辞退し異端審問官になった。
私は……怖かった。
神魔法の恐ろしさが怖かった。
だからこそ、私は神魔法に頼らなくてもいいほどに強くなることを望んだ。
異端審問官になり、この神器ラグナロクと出会い、強くなった。
誰にも負けない自信がある。
戦えと言うのなら闘神にも勝ってみせよう。

だけど、今……ウィスプの力が必要になっている。

ウィスプの体が目の前で光り輝く、その光はやがて私の体の中に吸い込まれるように入っていった。
気がつくと、首にチョーカーが巻かれている。
これが光の賢者の印か……そう納得していると、頭の中にウィスプの声が響いた。

ウィスプ 『契約完了、これで俺とお前は一心同体だ』

今まで私とウィスプの契約は仮契約だった。
遠方にいるウィスプの力を借りることで僅かな光の精霊魔法を扱っていた。
だがこれからは……ウィスプから直接力を借りることになる。
ましてクラスアップした結果……どこまでの力が引き出されるのかは正直分からない。

ルシファー 「ウィスプ、ラグナ……地獄の果てまでお付き合い願いますよ」

ラグナロク 『承知』
ウィスプ 『おう』

私はラグナロクを空間に押し込み、収納するとそのまま祭壇を去るのだった。
もうすぐ嵐がやってくる……それが静かにわかった。




…………。




ルーヴィス 「……」

異端審問会の本拠地は、人界魔界通してもこれほど大きな建物はないだろう。
上空から見るとヘキサグラム……六芒星の形をした独特の建造物。
一辺ごとの建物の大きさはゆうに城ほどのサイズがあり、それそのものが巨大な要塞となっている。
ぐるりと建物を一周するだけでも半日以上はかかるだろうという大きな建物。

異端審問会本部はひとつの巨大な中央本部と、隣接した6つの支部で構成されている。
これら6つの支部はそれぞれ建物ごとにその活動内容が違う。

そして俺……ルーヴィスがいる建物は異端審問会の第五支部、異端研究部。

異端研究部は規格外生命体……すなわち人界、魔界に属さない独特の生物の研究を主観において設立された支部で、第五支部で働く人数はのべ七千人。
俗に言えば、生物研究所……と言ったところだろう。
内装も研究所というイメージであり、魔族が皮肉にも白衣に身を包んでいる姿がなんとも滑稽に思えた。

そして自分自身、今の状態を滑稽だと思う。

日々、検査と称しての研究の日々。
俺はここではモルモットとして扱われている。

最も本来の異端審問会の原則で言えば、俺は在らざる存在だ、即刻抹殺対象だっただけに今の待遇はむしろ高待遇だと言えるだろう。
だが、いい加減に飽きてきた……それは否めないな。

俺は臨床台に眠らされると、周囲では四人ほどの白衣の魔族が何やら機材をいじっていた。
人界では見られない電気を用いた高度な発明品の数々。
それそのものには興味はあるが、四角く無機質なイメージがそれを悪い印象に位置付ける。
俺の体には様々な聴診器のような物が取り付けられ、何かを観測しているのがわかる。

何やら魔力やらなにやらを計測しているらしく、こうやって毎日1時間ほど検査が行わている。
血液の流れがない性か、動脈注射の類が通用しないのでこういった時は麻酔で眠れないのが辛いな。
痛くはないが……意識はあるのに動けないのがむずがゆい。

やがて、なにかを計測し終えた研究員たちは俺の体からコードを取り外していくと、俺はゆっくりと起き上がった。

研究員 「お疲れ様です、ルーヴィスさん」

ルーヴィス 「部屋に戻っていいんだな」

研究員 「けっこうです」

俺は上半身裸のまま、無菌室を出るとそのまま部屋の外にかけてあったコートを取るとそれを羽織って自分の部屋へと向かう。




俺は部屋に戻るとベットで横になりながら一枚のカードを見た。
死神が描かれた一枚のカード、13番目のタロット……死神。
俺はアビスの死者の一人、死神デス。

ルーヴィス (何故俺は死んだんだ? どうして俺はアビスに選ばれたんだ?)

いくら探っても俺の記憶の中に死んだ5年前の記憶が蘇らない。
異端審問官による逆行催眠も試みたが、判明することはなかった。
そう、5年前……俺が死んだその前後の少々の記憶だけがぽっかりと頭の中から抜け落ちている。

ルーヴィス 「そういえば、魔王軍の皆どうしているんだろうか?」

勇魔大戦……あの人界すべてを巻き込んで行われた、小さいけれど大きな大戦はすで終結して1年が過ぎようとしていた。
1年間ずっとこの異端審問会で検査の日々が続きうんざりしているが、暇があればルシファーはよくこの部屋を訪れにきてくれる。
おそらく罪悪感なんだろうな、あいつがあの勇魔大戦のさなか現れなければ俺は今でもアビスの死者とは気付かなかっただろう。
そうすれば、何もかもが終わるまで俺は気づかないままだったかもしれない。

ルーヴィス (まぁ……過ぎた事を気にしても仕方が無いか)

最近ではサタンも魔界に戻ってきていたが、どうにも忙しい様子であまり会ってはいない。
なんでも時と空間が世界とどうとか言っていたが、意味がわからないし何をやっているのかもよくわからない。

ルーヴィス 「……次の検査までまだ時間があるか」

俺は部屋の隅に掛けてあった丸い掛け時計を見ると時間は23時……次の検査は3時からだからまだ時間がある。
少しややこしいが、この世界では24時が、ほぼ人界の昼に相当する、だから最初は時計にも慣れなかったが最近では慣れていた。
つまり今は魔界で言えば昼前だな。

ルーヴィス 「少し、訓練場に行くか」

俺はそう呟くと、本部にある訓練場に向かった。



ルーヴィス 「……ふっ! はっ! たぁ!」

俺は訓練場に着くと、愛用の武器である銀の槍を持って素振りを行っていた。
訓練を怠ったつもりはないが、最近の体の動かし方を忘れている気がする。
やはり一人で訓練していては大した効果が上がらないか。

旅をしていたときは世界中の凶暴なモンスターや強豪たちとやりあってきた。
その頃に比べると勇魔大戦時や今の生活は平和すぎる。

ルーヴィス 「もう少し、ハングリーにやってみるか?」

ルシファー 「何をだい?」

気がつくと訓練場の隅でこちらの様子を伺っているルシファーがいた。
いつから見ていたのかは知らないがちょうどいい、俺は一息つけるとルシファーに槍を突きつけていった。

ルーヴィス 「ちょうどいい、訓練に付き合ってくれないか?」

ルシファー 「いいよ、ルールはどうするの?」

俺は槍を構えるとニヤリと笑った。
一番手っ取り早い上達法は闘争心を燃やすこと。
戦うことにハングリーになること。

ルーヴィス 「ルールは……なんでもありっ!!」

ルシファー 「ッ!?」

俺は瞬時に飛びかかり、ルシファーの居た位置に槍を振るった。
ところが、ルシファーはこちらの動きをいちはやく察知して反転俺の後ろ向こうへと跳んだ。
不意打ちだっただけに、受け止めさせる位できるかと思ったが、やはりそこまで甘くはないか。
俺は舌打ちをして振り返った。

ルシファー 「もうひどいなぁ……不意打ちじゃないか、当たったら痛いよ?」

ルーヴィス 「何でもありと言ったろう、大体戦いに卑怯もくそもあるか」

ウィスプ 『おー、誰でも同じ事いうんだなぁ』

ルシファー 「……はぁ」

ルシファーは何に呆れているのか分からないが俯いて頭を掻いている。
未だに抜刀していないのが気になるが……元々の実力差を考えるとそれでも不利と考えるべきだろう。

ルーヴィス 「はぁっ!!」

俺は瞬時に三回ルシファーの胴を射貫く。
だが、残像を見せるほどの高速性で動くルシファーは俺の動体視力ではとても追いつかない。
だから俺は野生の勘で槍を右に薙いだ。

チッ!

ルシファー 「わっ、私の前髪がっ」

ウィスプ 『ラグナロク無しで大丈夫なのかぁ? あいつ結構強いぞぉ?』

わずかだが切っ先が真空波を生んでルシファーの前髪を何本か切り、先端を焦げ付かせていた。

ルーヴィス 「ち……のんのんとしている癖にいざ戦うとこの強さ……どうなっているんだ」

ルシファー 「はは、一応特級監査官だからね」

特級監査官の何が凄いのかは知らないが、どうにもルシファーの澄ました顔で闘争心が湧きにくいな。

ルーヴィス 「ち……ふん!」

ルシファー 「? ッ!?」

仕方が無いので、少し上限を上げてみて、闘争心の上昇を試みる。
見た目は遠くからの素振りだったが、その実切っ先にはある力が乗せれられている。
それは『死』の力。

切っ先が通った空間は本来あるべきマナが消えてなくっている。
その空間を殺したのだ。

ルシファーの顔が強張る。
普段から笑い目でやんわりとした顔が……そう、かつて俺を捕まえに来たときの顔になった。

ルーヴィス 「ようやく、やる気になれそうだ」

ルシファー 「強引な人ですね」

ルシファーの気がやる気になった。
それはそうだろうなぁ……ここからは触れたら死だ。

ウィスプ 『おいおいおい? 何かヤバイ気がするぞ? ていうかいきなり空間のマナ質量が減ったぞ!? どうなってんの!?』

ルシファー 「少し静かにしなさいウィスプ!」

ルーヴィス 「? 誰と話しているんだ?」

突然のルシファーの独り言に何を言っているのか俺は頭をかしげる。
神器と会話しているのかとも思ったが神器を持っている様子はない。
それとも、遠隔地にいる神器と会話することができるのか?

ルシファー 「おしゃべりは……禁物ですねっ!!」

ルーヴィス 「くっ!?」

ルシファーはいきなり懐に飛び込んでくる。
そのスピードはいちいち頭で考えて反応できるほど遅くない。
俺は野生の勘で槍の腹で腹部を守るように構えると、そこに蹴りが放たれた。
両腕を踏ん張って衝撃に備えるが、体が吹っ飛び宙に浮く。
二の足が地面に接触したとき摩擦で靴が焼けるように熱くなった。

ルーヴィス (くぅ……一発で腕が痺れた、細身の癖にどういうパワーしているんだ?)

ウィスプ 『もしかしてお前馬鹿力?』

ルシファー (違いますよ、ただスピードで射抜いているだけです、パワーは並程度ですよ)

ウィスプ 『嘘くせ〜、俺の時も悶絶するくらい痛かったぞ?』

ルシファー (それはおかしいですね、ちゃんと衝撃が貫通するように射抜いたはずですが)

ルーヴィス 「くっ! 雷の槍よ、敵を貫け! サンダースピア!」

俺は瞬時に精霊魔法を詠唱し、雷の槍をルシファーに投げつけた。
だが、詠唱が終えた頃にはすでに目の前にルシファーがいない。
そして次の瞬間には天井を仰いだまま、地面に横たわる俺が居た。

ルシファー 「……魔法はもう少し慎重に使用した方がいいですよ」

気がつくと地面に倒れる俺の前にニッコリと笑ったルシファーが顔をのぞかせていた。
ああ……そうか、気がつかないほど高速で投げられたのか。
あんまりにあっさりとやられたので実感が湧くのに時間がかかった。

ルーヴィス 「何%の力で戦った?」

俺は地面に倒れながらルシファーにそう聞いた。
気がつくと物凄く汗をかいていることに気付く。
それほどルシファーと闘いながら消耗していたのか。
大してルシファーは大して汗をかいているように見えない……余裕、か。

ルシファー 「本気でしたよ、一応ね」

ルーヴィス 「嘘つけ、お前の力はそんな程度のはずがない」

ルシファー 「嘘ではありませんよ、さすがにデスの力を見せられて手加減なんて出来ませんよ」

ルーヴィス (剣も魔法も使わなかったくせに)

俺はようやく起き上がる。
一本背負い投げでも食らったのか背中がズキズキと痛み、猫背になりそうだったが我慢した。

ルーヴィス 「ふぅ、完敗だ……だが次はこうはいかん」

俺は服の埃を払うと、槍置き場に槍を立て掛けて俺は訓練場を出て行った。

ルシファー 「休むのですか?」

ルーヴィス 「いや、キッチンに……久しぶりに料理を作る」

最近なにもやることが無かったし、そろそろやれる時間にやれることをやっておきたく思えた。

ルシファー 「さて……今度はシーラの捜索でないといけませんねぇ、最近魔界で見たと言う話もあるし」

ルーヴィス 「……」

シーラが魔界に?
何故奴が……いや、そもそもシーラが魔界への転移方法を知っているのか?

ルーヴィス (ふ、まぁ関係ないか)

俺はタオルで汗を拭いて、さっさとキッチンへと向かうのだった。

ルシファー (近頃魔界の雰囲気が変わりつつある……何かが起きるのか?)



To be continued






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