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OPERATION 14 『統治者(メンバー)の戦争』




? 『一体どういうつもりなんだ!?』

モニター越しに男が怒鳴っている。
俺にとっては見慣れた顔だ。
が、進んで見たいとは思わない。
というより、別に野郎の顔を進んで見る気はない。
ましてや、髭を生やした40半ばの中年の顔などな…。
しかし、今は見ざるをえないので仕方がない。
俺はあくまで顔を崩さずポーカーフェイスで構える。
このモニターの向こうの男はヴェイル・イシュタール。
俺と同じエグザイルの統治者(メンバー)、オーストラリア方面軍指令ヴェイル・イシュタール中将だ。

セシル 「で? 一体なんのことかな?」

俺はすました顔でそう言う。
が、それではすましてくれないらしい。

ヴェイル 「とぼけるな! 貴様がサナリィのスポンサーになっているのはわかっているのだぞ?」

セシル 「で?」

ヴェイル 「やめろと言っているんだ!!」

ヴェイルは頭に血を昇らせて怒っている。
俺は顔色を変えない。

セシル 「君にどれほどの決定権があるという?」
セシル 「俺とお前は同格だ、それにこれはビジネスだ」
セシル 「俺は武器商人だぞ? 買ってくれるところがあるなら売るのは当然だろう」
セシル 「そしてサナリィは商売相手、それだけだ」

ヴェイル 「貴様…!」

セシル 「君は少し勘違いをしているようだ…私は平気は売っているが、個人的援助など当然ない」
セシル 「それに、もしそうだとしてもそれが君に咎められる理由にはならない」
セシル 「さっきも言ったとおり私は商人だ」

ヴェイル 「貴様! その行為が裏切りとわかって言っているのか!?」

セシル 「裏切り? どうして裏切りになろうか?」

ヴェイル 「貴様は危険すぎる! この私自ら排除してくれる!」

プツン…!

通信は向こうから切られる。
目の前にはノイズの入ったザァァといった音とぶれる画面がある。
俺はすぐに電源を落とす。

セシル 「やれやれ…短絡的な奴だ」

俺は思わず頭をかいていた。
まさか、あれが知将と呼ばれる男とはな。

セシル 「だが、知将と呼ばれるのはお前だけじゃないぜ…ヴェイル」
セシル 「メシアはいるか?」

メシア 「ここにいます、セシル様」

セシル 「至急、サナリィの主要メンバーを集めてくれ、場所は…」

メシア 「南館3階の会議室でよろしいですね?」

セシル 「さすがだね、メシア、たのむよ」

メシア 「かしこまりました」



…………。
………。
……。



『セシルの屋敷:南館3階会議室』


ザワザワ、ザワザワ!

場は少々ざわついていた。
現在この会議室にいるのは俺ことクレス。
そしてマリア、グレッグ、カルタ、マリーナ、デルタ、ガルムさんだった。
先ほどセシルの秘書(側近?)のメシアさんからここに集合するよう通達があった。
これだけ作戦に必要な主要メンバーが揃うとなればなにか軍事的問題が発生したと思ってもいいだろう。
それにしてもセシルの奴…一体何をしでかした?
わざわざサナリィのメンバーを集めるとは。

セシル 「おはよう諸君、…といっても既に時刻は昼に回ろうとしているが」

クレス 「前置きはいい、一体どういった用件だ…?」

マリア 「ちょ、ちょっとクレス…」

グレッグ 「クレス…何があったかは知らんが一応相手は…」

クレス (…しまった)

俺としたことが忘れていた。
セシルはエグザイルの統治者である依然に軍需企業クレイドル社の社長にして、サナリィのスポンサーだった…。
つい、統治者のセシルとして接してしまった。
サナリィのメンバーの動揺も避けなければならないわけだし、あくまでスポンサーとして扱わないといけないんだったな。
セシル…狸め…。

セシル 「まぁ、堅苦しいのは抜きにしてもらいたい」
セシル 「さて、君たちをここに呼んだのは他でもない」
セシル 「先ほど、エグザイルからの宣戦布告を受けることになった」

カルタ 「ええっ!?」

マリア 「ちょ、ちょっとまって! いきなり!? ここって単なる軍需企業でしょ!?」

クレス (その前にエグザイルの統治者の企業だがな…)

マリーナ (成る程、サナリィへの加担は裏切り行為同然…)
マリーナ (しかし、この事実を知るのは同じ統治者でしかありえない…とすると相手は?)

クレス 「で、状況は?」

セシル 「さすがに、1時間前らしき物として言われてからだ、特に動きはない」
セシル 「本基地周辺はあまり防備に向いている地形ではない」
セシル 「また、いくらか戦力を持っているといっても真っ向からエグザイルと戦える戦力はない」
セシル 「そこで、非常に心苦しいが君たちサナリィの力を借りたい」

グレッグ 「わかりました、全力で防衛に当たらせてもらいます」

マリア 「なにかとセシルさんには良くしてもらっていますし、頼みを断ることなんて出来ませんよ」

クレス 「だが、ひとつ聞かせてくれ、相手は誰だ?」

当然ながら相手も統治者と思われる。
現状アストラが死に統治者は9人。
内俺とマリーナ、セシル(含みたくはないが)の3人がこちら側で向こうには残り6人いる。
俺の知っている限りこんなことをする奴は一人…。

セシル 「『ヴェイル・イシュタール』だ」

クレス (! やはりか…!)

元々やつとセシルの仲はまさに犬猿だった。
まさか、このタイミングで奴に挑まれるとは。
奴もこのセイルと同じく知将と呼ばれる男。
厄介な戦いに巻き込まれることになるとは…な。

デルタ 「ヴェイル・イシュタール…たしか、エグザイルオーストラリア方面軍総司令、階級は中将」

ガルム 「知っているのか、デルタ殿?」

デルタ 「一応…」

マリア 「…な〜んでよりにもよってここに攻めてくるのかしらね?」

マリーナ 「それは、サナリィがいるからじゃないでしょうか?」

グレッグ 「…当然だな」

マリア 「てか、いつの間に今回の会議に捕虜の筈のあなたがここにいるわけ?」

クレス (たしかに…)

全く気にしなかったが言われてみればそうだ。
たしか、マリーナは捕虜だったはず…。
いつの間に作戦会議に出られるように?

セシル 「私が参加を要望した」

マリーナ 「はい、されました」

グレッグ 「実はセシルさんからマリーナ氏をサナリィに編入するように言われてな…」

セシル 「彼女は元統治者だ、実力は君たちの部隊でも指折りの戦力になるはず」
セシル 「それに彼女が希望しているからね」

カルタ 「本当なんですか?」

マリーナ 「はい、クレスさんも戦っていますし、協力させていただきます」

クレス 「…だからハンガーにサクリファイスがあったのか…」

セシル 「私が部下に命令させて整備させた」

マリア 「そりゃまぁ、手際のいいことで…」

セシルめ…手際がいいにも程がある。
やはり全てアイツの掌の上か…。
だが、今はそれも仕方がないのだな…。

クレス (今は、奴の駒になるしかないか…)

残念ながらセシルの援助無しでエグザイルと戦うのは無理だ。
イニシアチブは完全にセシルが取っているんだ、こちらにはどうしようもない。
悔しいが金には勝てないということか…。

マリア 「さぁってと、んじゃさぁ私たちは具体的にどうすればいいですか?」

セシル 「向こうがどういう風に行動を起こしてくるかわからない、サナリィには哨戒任務も兼ねて基地の外周を警備してもらいたい」

グレッグ 「…しかし、さすがにこの基地を覆うだけの戦力はありません」

確かに…この基地はかなり大きく、さすがにフリーダムだけでは守りきれない。
しかし、あまりこの基地には戦力の用意はされていないようだ。
基地といってもガレージや工場などが基地の6割を占めているからな…。

クレス 「だな、部分的に防御箇所を選択した方がいい」

セシル 「ふむ、では具体的な防衛作戦案を聞かせてもらう」

クレス 「…まず、基地の周りだが…」

俺は予めセシルが持ち込んできた地図に目を通す。
地図を見る限り確かにあまり防御力の高い基地とは思えない。
守るには基地が広すぎる。

クレス 「東は海岸線があり、そこから敵は大部隊を送ってくると思われる」

カルタ 「とすると当然相手は航空部隊ないしは水中部隊が主流になると思われますね」

クレス 「そして、北に巨大な森林、南西に小さいと言えど山がある」
クレス 「恐らく、伏兵や増援も予想できる」
クレス 「と、するならば上記2つは危険箇所となる」
クレス 「よって、こちらはトライアングルを描くように戦力を配置し、迎え撃つべきだろう」

セシル 「異存はない…が、どこからそれだけの作戦を展開する戦力を用意する?」

クレス 「残念ながら量では用意できない…が、質でなら用意できる」

セシル 「ほう…」

クレス 「マリーナがサクリファイスで出るのならそれだけで一騎当千の戦力なる、1個艦隊なら逃げながらでも倒せるだろう」

マリーナ 「…」

クレス 「もうひとつ…あるここの部隊を使えば何とかなる」

セシル 「ここの部隊とは?」

クレス 「『セイントガード』だ」

セシル 「! 成る程…」

セイントガードの名を聞いてセシルは少々顔色を変える。

マリア 「世界最強の機動小隊…セイントガードね…」

マリアはぼそっとそう言う。
そう、セイントガードは万とある大小さまざまな部隊の中で世界最強と呼ばれている部隊だった。
セシルが集めた私設部隊にしてたった4人にてひとつの国を崩壊させられると言われる部隊。
だが、まずセイントガードは動かないと聞く。
だが、ここで使わない手はない。

セシル 「…わかった、セイントガードを使おう」
セシル 「ただ、あの部隊は高くつくよ? あの部隊はじゃじゃ馬ぞろいでな…」

…内情など知ったことではない。
第一自分の身を守るためだろうが!
本音なら守る義理もない。
だが、可能性のひとつとしてヴェイルが出陣してくる可能性もある。
あの男に限ってまず自らはないとは思うが、もし出てくるというのならばまさに千歳一隅のチャンス。
統治者を倒すと言うのは並大抵のことではない。
それは逆に向こうにとっても同じ。
俺やマリーナ、セシルを倒すと言うことは4個大隊全滅の覚悟をもってやらなければならない。
個人だけでも俺やマリーナはそれを可能に出来る力がある。
セイル自信も俺達に比べれば実力は落ちるもののやはり超一流のパイロットだ。
ただ、奴の場合は人を扱うことに長けているだけ。
どちらにしろ統治者とはあまりに危険な存在。

クレス (なにせ、10人の統治者は1兆人に一人というような逸材たちで構成されているからな…)

それぞれ得意の部門は違うが、各々誰にも負けない絶対の力を持っている。
それがエグザイルの強さの裏でもある。

グレッグ 「では、部隊はどういう風にわけますか?」

セシル 「北部はロイヤルガードに任せる」
セシル 「南西は確率は低いし、マリーナひとりに任せる…」

カルタ 「ひとりって、さすがにそれは…」

マリーナ 「いえ、任せてください、私ひとりで大丈夫です」
マリーナ 「それに、これをこなせなければ皆さんに仲間と認めてもらえないでしょう?」

ガルム 「……」

マリア 「私は別にそうは思わないけどね…」

デルタ 「では、残りのサナリィ部隊は…?」

セシル 「当然、大激戦が予想される東になる」

クレス 「……」

セシル 「では、以上だ! 諸君健闘を祈る!」

俺たちはそれで会議を終えてそれぞれ持ち場へと動く。



…………。



マリア 「あ〜あ、まさかエグザイルが喧嘩吹っかけてくるなんてね〜…」

クレス (ふっ、喧嘩か…たしかにな)

俺は微笑する。
既に俺たちは基地の東の海岸で待機している。
とりあえず敵が現れる様子はない。
まぁ、普通は挟撃、夜襲、電撃などの策略が予想されるからな。
真っ向勝負ではさすがにこまい。

クレス (しかし、確かに喧嘩だな…ただし、セシルとヴェイルのだが…)

マリアにしてみれば冗談にも似た感じで言ったのだろうが、それが俺には逆に可笑しかった。
さて、ヴェイルはどんな策を用意しているだろうか?
まぁ、戦う分にはセシルよりは怖くない。
むしろ安心できる、なんだかんだでセシルはたいした奴だ。
恐らくそう苦戦することもないだろう。
だが、ヴェイルも何を考えているかはわからない。
なにより、ヴェイルは誰よりも情報を第一に考える、当然統治者が3人敵ということも、そして、それらが同時に相手に回るということも知っているはず。
その上での宣戦布告だ。
何かあると考える方が自然だ。

シュウイチ 「はぁぁ…不安だな…」

マリア 「そんなに気負いしなくても大丈夫よ」

クレス 「うむ、そんなに気にしなくてもいいだろう」

少なくとも俺とマリアでなんとかできるだろう。

シュウイチ 「でも、自分が無事済むか…それに守るのって大変だし…」

マリア 「大丈夫よ、シュウイチは、まぁ防衛戦が面倒なのは確かだけどね」

クレス 「シュウイチは実力に見込みある、磨けばデルタやマリア、俺も抜けるかもしれない」

これは嘘ではない。
事実シュウイチはガラクタのような逆足のサナリィの量産機でこれまでの戦い被弾僅か1。
あのまるででくの坊で奇跡の戦いを繰り広げている。
実際に撃墜スコアも上げているから疑いようがない…。

マリア 「そろそろ、あなたも新しいユニットに乗らないとね」

シュウイチ 「え? 新しいユニットって」

マリア 「だって、あなたのユニット、ほとんど動けないじゃない…」

クレス 「……」

そう、さっき言ったユニットを未だにシュウイチは使っている。
10年は昔のスペックのユニットなのに…なぜ?
もしかしたらユニットを最新機に乗り換えたら化けるかもしれないな…。
あのユニットで戦えるのだからな…。

マリア 「ああ、そういえば今日基地の工場見てたらウチの部隊に配備される最新ユニットの整備していたわね…」
マリア 「私からグレッグに推薦しておくから乗ってみる?」

シュウイチ 「ええっ!? でも、僕なんかが…」

クレス 「ちなみにどんなユニットだったんだ?」

マリア 「ん〜、なんか随分かわったユニットだったわね、あれ可変型じゃないかしら?」

クレス 「可変型か…」

シュウイチ 「ええっ? で、でも可変型って扱いが難しいから普通は熟練のパイロットに回されるんじゃ…」

たしかに可変型は基本的に扱いが難しいことになることが多い。
それぞれ二つの機体を扱える技術が必要だからだ。
一体どんなユニットかは知らないがおそらくエースパイロット用だろうな…。

クレス (シュウイチの反応に今のユニットの限界反応はすでに限界だ)
クレス (思い切ってそういった反応速度に関する機体に乗せるべきなのかもしれないな)

マリア 「別に変形型だからって大丈夫よ、なれない内は普通に人型のまま戦っていればいいんだから」

たしかに、むしろ中途半端に変形しようとする方が問題だ。
変形はそれぞれの用途がある。
大抵は可変中は無防備になるためむやみやたらに変形はしない方がいい。

クレス 「シュウイチが乗るのなら俺も賛成だ」
クレス 「シュウイチの実力を測るには最適な機体にもなるだろう」

シュウイチ 「でも…」

しかし、シュウイチはなおもどもる。

マリア 「まぁ、最終的にはシュウイチ次第だけど、今のままは限界よ?」

クレス (…しかし、マリアもああは言うがマリアのユニットもかなり限界無きがするが?)

少なくともマリアはサナリィでも…いや、この地球でも5指に入るパイロットだと思う。
度胸もあるし、判断力、操縦技術も一流だ。
だが、そんなエースパイロットのマリアも未だにレフトハンドを使っている。
あの機体は7年前に製作されたユニットだ。
もちろん昔は最高のスペックのユニットで今でも量産型と比べれば性能は遥かに高い。
しかし、俺のナイトメアやデルタのホワイトウインド、ガルム少佐のハードクラッシュなど特機に比べれば明らかに性能の低い機体だ。
一応改造もしているようで何とか性能も上げているようだが、専用機を作ってもらえば飛躍的にサナリィの戦力は上がるだろう。
だが、マリアは何故かレフトハンドに拘っている。
マリアが何故拘るのかは知らないが大局を見るなら乗り換えた方がいい。

クレス (しかし、考えてみれば量産型に乗っているのはシュウイチだけになってしまったな…)

俺、ナイトメア。
マリア…レフトハンド。
マリーナ …サクリファイス。
ガルム少佐…ハードクラッシュ。
デルタ…ホワイトウインド。
カルタ…オペレータ。

クレス (よく考えればフリーダムの中は特機だらけだな…)

今更ながらそう思った。
この艦に戦力が集中しすぎているな。
だが、今はそれがもっとも勝ち続けるには最適なのかもしれないな。

クレス (これでシュウイチも専用機を得れば、ウチの部隊は全て特機の特機部隊ということになるな)

だが、統治者との戦いから勝利を勝ち取るのならまだ戦力が足りないと言えよう。
倒していない統治者はあと7人。
内指揮官クラスは6人、セシル、ヴェイルは全軍を率いる将だ。
この将は5人(4人と考えてもいいんだが…)。
ほぼ大激戦が予想される。

マリア 「さて、今日は敵さんこなさそうだしちょっと休憩室に行こうかしら」

クレス 「シュウイチも着いていけ」

シュウイチ 「え? クレスさんはどうするんですか?」

クレス 「マリアが帰ってきたら休む」

マリア 「あ〜ら、そんなこと言っちゃったら私ずっと休めないじゃない」
マリア 「クレスも一緒に休むわよ!」

クレス 「全員が休むのはまずいだろう…」

一応、作戦中だからな…。

マリア 「肉眼の確認も必要だけどどうせ敵さんはカルタが真っ先にレーダーで見つけるんだから意味ないって」
マリア 「というわけで3人で休むわよ」

クレス 「…たしかに、カルタの目には誰も勝てないな…」
クレス 「わかった、休もう…」

サナリィの強さのひとつにカルタがある。
彼自身のパイロットとしての腕もあまりいいとは言えないが電子戦は世界一だ。
ハッキングや情報解析はお手の物、普段はフリーダムでオペレーターやっているがフリーダムが出られない時はユニットにも乗って部隊をサポートする。
フリーダムのレーダーやコンピュータはカルタが製作したものらしく世界一の性能と豪語している。
実際、フリーダムのレーダーの射程、ECMレベル等フリーダムに勝てる戦艦はない。
普段は捉えすぎないために射程を抑えているそうだが、最大射程は約5000キロ。
この国を完全に覆えるレベルだ…。
地球一周が46000キロメートル、実に10分の一近くの面積が索敵範囲になる。
広すぎて…最大距離で使うことはなくて当然だな…。
しかもジャミングやハッキングはまず無理、ステルス対策もアストラ戦で改善されたし、まさに地上最強戦艦といえよう。
俺がまだエグザイルにいたころもフリーダムは活動していたが、あまり有名な戦艦でもなかったのだがな…。
どうやら、この戦艦はカルタがいるからこそ最強の戦艦であるようだな。



…………。
………。
……。



クレス 「さて、どうでるか…?」

ドシュウ! ドシュウドシュウ!!

クレス 「……」


チャキ、ダァン!!
ドカァン!!


突然、海面から中型の対空ミサイルが飛び出してきて海岸に飛来する。
俺は的確にミサイルを撃ち落とす。

カルタ 『敵、7キロ地点にて砲撃を開始!』 カルタ 『中距離ミサイル数増加中! 至急迎撃してください!』

クレス 「了解した…!」

デルタ 『…任務了解』

マリア 『まっかせなさい!』

ナイトメアのモニターから大量に飛来してくるミサイルが空を覆う。
しかも、まだ数が増えている。

カルタ 『敵20キロ地点にエグザイル空母艦隊を確認! 30分で接触します!』
カルタ 『敵勢力図送信…完了! 各々の対処で防衛してください!』

カルタはレーダーを見ながらも各機に戦場の状況を送信してくる。
俺はそれを受け取り見る。

クレス (ちぃ…嫌な戦法を取ってくれる!)

俺は敵の布陣を見ている。

沖合い7キロ地点に横一線に中型潜水艦が12隻。
それらが中距離ミサイルを大量発射してきていた。
更にユニット部隊も水中からこちらに侵攻してきている。
ただ、それが嫌にこちらの対処の限界をつく動き方であった。
3〜4機の小隊部隊が全体に広がるように全26小隊が攻めてきている。
予想以上の数だ、さらに20キロ地点から海上空母7隻、ユニット搭載可能型の中型巡洋艦20隻が侵攻してきている。
飛行系ならさらにスピードを上げて侵攻してきていただろう、それが唯一の救いか。

クレス (後押し艦隊が来る前にこの潜水艦艦隊をなんとかしなければアウトだ!)

グレッグ 「ちぃ! 対空砲火なにしている!?」
グレッグ 「フリーダム後退! 前方に支援砲撃…てぃ!!」

マリア 『たくっ! ミサイルだけ送ってきちゃって嫌な奴らね!!』

ガルム 『チィィ!!』

クレス (恐らく30分打ち続けることが可能…いや1時間はいけるか!?)

敵そのものは砲撃に入る前にとっくに感知していた。
しかし、あまりの数に動くに動けずこんな事態になっている。
潜水艦艦隊は水深30メートルの深さでひたすら砲撃を繰りかえしてきている。
このままではらちがあかん!!

クレス 「デルタ! 敵潜水艦艦隊を蜂の巣にしに行くぞ!!」

デルタ 『しかし、ホワイトウインドでは水中の敵に攻撃を出来ません!』

クレス 「海面から出てくるミサイルの迎撃で十分だ!!」
クレス 「敵ユニット部隊の攻撃が始まるまで後24分だ! 急ぐぞ!!」

デルタ 『…了解!』

クレス 「マリア…頼むぞ」

マリア 『そっちこそね』

俺とデルタは潜水艦に向かう。
やつらの思うがままにいかすわけにはいかんよな!!





メシア 「セシル様、戦闘が始まったようです」

セシル 「ああ、ここからでも確認できるよ」

俺は基地内の屋敷からそれを確認していた。
やはり予想以上にヴェイルの奴戦力を送ってきたようだ。
今日中にここを制圧する気か?

セシル (ある程度の戦力差は想定していたがここまでとはな…)

激戦区の東区に旗艦フリーダムの部隊のみ、10対1くらいの戦力差は予想していたがそれ以上だった。
50対1の戦力差だ…!

セシル (悪いなクレス…こんな戦いにお前を巻き込んで)
セシル (本当なら俺の軍団だけで何とかしたかったがそれはできない…)
セシル (お前達にはやるべきこと…成すべきことがある…俺は影ながらそれを応援させてもらおう)

ヴェイル…お前の思い通りになると思うな…。
俺はお前に何故知将がエグザイルに『二人』もいるかこの戦場でよく教えてやる…。



…………。



ヴェイル 「さすがに硬いな…」
ヴェイル 「セシルの状態は?」

兵士A 「セシル・クレイドル直属の部隊はほとんど動きがありません、サナリィが担当しているようです」
兵士A 「第3、第7、第12連隊の損傷率43パーセント、やや押されてきています」
兵士A 「セシルクレイドル本人の動きは把握できません」

ヴェイル (…サナリィか、やはり危険な存在になりつつあるな…)
ヴェイル (この大艦隊を押しのけようとするか、しかし、それもセシルの後ろ盾あってのこと)
ヴェイル (セシルとサナリィを繋げるわけにはいかない、ここで終わらせてもらう!)
ヴェイル 「『アレ』の準備はどうだ?」

兵士B 「稼働率100パーセント! いつでも発射可能です!」

ヴェイル 「よし、では発射用意、ポイントは例の地点だ」

兵士B 「はっ!」

ヴェイル 「ふふふ…お前の驚き、恐怖する顔が目に浮かぶぞ…ふふ、ははは!」

兵士C 「発射準備完了、ご命令を!」

ヴェイル 「ポイントS8地点に用意…発射!」

兵士C 「了解! 発射!!」





『同日:某時刻クレイドル基地』


カッ!! チュドォォォォン!!!!

セシル 「!? 何っ!?」

一瞬窓の外が光ったかと思うと大爆発が起きた。
空からの攻撃…光の柱がたったかと思ったが…。

メシア 「? わかりました、セシル様、特別回線により通信が入っています」

セシル 「ここに回せ」

メシア 「わかりました」

爆発の後だがメシアは全く動じず冷静に自分の仕事をしていた。
冷静なのは俺もか…。

ヴェイル 『ハハハ! 喜んでもらえたかな?』

セシル 「ああ、すばらしいよ、是非あの技術我々が吸収したいね」

俺は皮肉も込めてそう言った。
予想通りヴェイルからの通信だ。
正直何が起こったかはイマイチ把握できないがここで把握させてもらおう。

ヴェイル 『フフフ…残念だが貴様にこれを得ることは出来ない』
ヴェイル 『何故なら貴様は衛星砲によって死ぬのだからな!』

セシル (そうか、衛星砲か…なるほど)
セシル (衛星軌道上からの砲撃なら通常の迎撃は無理か)

俺はまず情報をひとつ得る。
まぁ、これは知られても構わないといった感じの情報だろうな。

セシル 「ふ、しかし破壊力は凄まじいが命中精度がな…あれじゃここに当たるのに何発いるか?」

ヴェイル 『冗談ぬかせ、さっきのはわざとはずした』
ヴェイル 『我が軍の衛星砲はレーザー兵器、命中精度は完璧、そしてかわす事は不可能!』

成る程、レーザー兵器か。
余程、集約されたエネルギーだな。

ヴェイル 『降参するのなら、攻撃をやめてもいい、貴様でも命は惜しいだろう?』

セシル (惜しい? 一度とて命惜しいと思ったことなんてないさ…)

俺は心の中で苦笑する。
俺は一代でここまでクレイドル社を発展させてきた。
それは並大抵の覚悟では出来ない…幾度となく命も狙われた。
だが、その度に俺はそれらをかわし、叩き潰して大きくなったんだ。
おどしなぞ、今更通用しない。

セシル 「冗談じゃない、それより、試してみるか?」
セシル 「俺は今からユニットに乗って外に出てやる、それを命中させてみろ」
セシル 「俺が死んだらお前の勝ちだ。俺の軍団はお前にくれてやる」

ヴェイル 「ふ、よかろう、望みどおりにしてやるわ!!」

ブツン!

メシア 「通信切ります」

セシル 「俺のユニットを出せ、それと例の試作品の用意もな」

メシア 「すでに完了しています。後はセシル様が御搭乗することを残すのみです」

セシル 「と、さすがだなメシア、これからも頼むよ」

メシア 「はい…」

セシル 「じゃ、話どおり頼むよ」

メシア 「…セシル様」

メシアはサングラスをかけているから表情はわからない。
ただ、声は少し弱い。

セシル 「メシア、サングラスをはずしてみろ」

メシア 「……」

メシアは微動だにせずサングラスをはずさない。

セシル 「もう一度言う…サングラスをはずしてみろ」

俺は強めにそう言う。
するとメシアも観念してサングラスを静かにはずす。

セシル 「ふっ、心配するな。俺は死なないこれからもな」

メシアは今にも泣きそうな顔をしていた。
メシアが絶対に見せない影の顔。
上辺の下にあるメシアの本当の顔。
そう、それがあるから…俺は走れる。
お前がいるから俺は安心して走り続けられるんだ。

セシル 「メシアには悪いとは思うが俺は行く、死地に向かうわけでもないしな」

メシア 「そうは思っていません…あなた様は絶対に嘘をつかない…だから私は…」

セシル 「次の仕事の準備頼むよ」

メシア 「了解です。でもその前にお茶の用意でも…」

セシル 「いいね、頼むよ…じゃあ、行ってくる!」

俺は今日も安心して戦いの場に出る。
俺は自分専用の格納庫に向かった。



部下 「セシル様! 『セイント』の発信準備よしです!」

セシル 「ミラーシールドは?」

部下 「問題ありません、恐らく耐えられます」

セシル 「よし、出撃する!」

部下 「ご武運をお祈りしています!」

セシル 「セシル・クレイドル、セイントで出るぞ!」

俺は自分のユニットに乗り込むと格納庫の外に出る。
そして俺は基地の中央にユニットを立たせる。

セシル 「出てきてやったぞ、ヴェイル?」

ヴェイル 『よくまぁ出てこれたものだ』
ヴェイル 『貴様でも衛星砲の性能くらい予想できるだろう?』

セシル 「ああ、しっかり当てて見せてくれよ」

ヴェイル 『回避は出来ん、よもやその中華鍋で防御する気か?』

セシル 「御託はいい、さっさとこい!」

俺はこれ以上は面倒なのでさっさとせかす。
さて、あとは賭けだな。
『高度』はあっていると思うんだがな…。

ヴェイル 「フフ、最期まで誇り高く生きるか…衛星砲発射準備!」

兵士 『発射準備完了!』

ヴェイル 『終わりだ…次に私が発射と言えば君は死ぬ』

セシル 「フ…」

ヴェイル 『サヨウナラ…セシルクレイドル』
ヴェイル 「衛星砲! 発…!」

セシル 「!!」

俺は同時に奴の言う中華鍋を真上に向ける。

ヴェイル 『…射!』

カッ! ドォォン!!!!

兵士 『衛星砲砲身爆発! 損傷率12パーセントですが発射不可能!』

ヴェイル 『なんだと!? 一体何が!?』

セシル 「やはりポンコツだったな」

ヴェイル 「貴様何故…!? 一体何をしたんだ!?」

珍しくうろたえるヴェイルの声が聞こえる。
俺が開いているのは音声の回線のみ。
ゆえに向こうの詳しい状況はわからないが、驚いているのはわかった。
ちなみに俺のセイント、全くの無傷。

セシル 「レーザーはある性質を持っているがゆえ反射するのは知っているな?」

そう、例えば鏡や水は屈曲率や光の浸透率の影響で湾曲、屈曲、反射が起こる。

ヴェイル 「まさか! 鏡!?」

セシル 「おしいな少し違う、まぁ似たような物だがな」
セシル 「まぁ、レーザー専門の反射兵器ってところさ」

元々は宇宙空間でのソーラ・システムの開発の一環に生まれた平気だが。

ヴェイル 『馬鹿な!? 反射はともかくどうして砲身のみが破壊される!?』

セシル 「お前、中華鍋って自分で言ったろう」
セシル 「お前の言うとおり全くその通り、こいつは巨大な中華鍋さ」
セシル 「だが、中華鍋の性質くらい知っているだろう?」

ヴェイル 『!? パラポラか!?』

セシル 「まさに倍返し、でかい敵には有効じゃないがな」
セシル 「まぁこれが現実だ、どうやら切り札は俺のほうが強かったようだな」

単に運が良かっただけかもしれんが、それも実力のうちだろう。

ヴェイル 『くっ!? 切り札はまだある!』
ヴェイル 『H2地点とS1地点の伏兵の侵攻を!』

兵士A 『音信不通! さ、最悪の場合は…!?』

ヴェイル 『全滅と言うのか!?』

セシル 「おいヴェイル、身内の恥は隠したほうがいい、声が筒抜けだ」

俺は冷静にそう進言してやる。
正直こっちから切ってもいいのだが一応繋げっぱなしにしておく。
まぁ、これ以上ヴェイルの声を聞く必要も無いしな。

セシル 「ちなみにH2地点にはマリーナ、S1地点にはセイントガードを送っておいた、伏兵と呼べるレベルの戦力では全滅は当然の結果だな」

ヴェイル 『きさまぁ!! この借りは必ず返すぞ!!』

セシル 「いらんいらん、借りはチャラにしてやるよ」

ヴェイル 『くっ! 全軍撤退!!』

ヴェイルは向こうから通信を切る。
結局最後まで俺は挑発し続けたな。
まぁ、結果オーライっと。

セシル 「…ヴェイル、俺とお前の二人エグザイルには知将がいる理由はわかったか?」

ヴェイルは自分の知識と才能で類稀なる作戦を構築する。
そしてそれらを巧みに扱いより高い戦果を上げる。
奴は奴で素晴しい才能を持って統治者となった。

そして、俺は第2者第3者の力を借りている。
人を扱い、対等の立場で知恵を絞り戦う。

セシル 「俺はクレスやメシア、マリーナ、様々な人間の力を借りているんだ」
セシル 「お前の力も俺たちの力には及ばなかったってことさ」

…NEXT OPERATION A GO




Strategy of the following!


無事ヴェイルを退けたサナリィはセシルの下で休養を取っていた。
やがて、出発の時も近づいている。
そんな時最後の夏にサナリィは思いがけないことを行うのだった。
それは、絶叫をも含む夏ぴったりのこと。
ただいまサナリィ夏真っ盛りです!。

次回 UNIT

OPERATION 15 『サナリィただいま夏真っ盛り!!』


クレス 「まだ仕事が残っているんだが…」(困)




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