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POCKET MONSTER The Another Story




『仁侠 〜己の信じる道標〜』




再び、お会いすることができたようですね皆さん…Fantasic Company、管理者のYukiです。

とうとう7人目の主人公となりました、今回は南方の政府に所属するひとりの男性のお話です。

過去に、とある事件がありました…そして、その意思を受け継ぐ子。
己の信じた道を進み、仁侠を重んじる…そんな男性のお話です。






………………………。





それは…18年前の出来事だった。
南方に海賊や山賊といった、悪タイプの無法者たちがたむろしていた時代。
そんな中、俺の父親『アレス』は政府の人間としてその無法地帯鎮圧に向かった。
それが…始まりだった。



アレス 「…よし、残るはこの場のみだ!」

部下A 「隊長! 敵の勢力があまりにも弱い気がするのですが?」

ひとりの部下がそう進言する。
確かに、ここまでの兵力はほとんどない。
現に、本営の前まで来ているというのに、守りを固めている者がひとりもいないのだ。
本営はそれほど大きくはなく、規模としては小さい物。
海を根城にするためか、3メートルはある高い外壁の下は海に繋がっている。
陸地もかなり低く、本営の入り口付近はほとんど海岸と言ってもいいようだった。
ちなみに、ここまで来た時点で倒した敵兵は30。
ヘイガニ種が10、キバニア種が20といった所だ。
しかも、明らかに雑兵でありとてもこの本営を守るためにいたとは考え難い。
となると…考えられることは。

アレス 「…陽動か、それとも主力を逃がしたか」

部下A 「ですが、まだ中に何人かがいるかもしれませんね」

アレス 「…兵たちを今のうちに休ませておけ、突入は状況を確認してからだ!」

私はそう言って、100人あまりの兵に休憩を指示する。
ここまで失った兵は4〜5人程度。
幾らなんでも抵抗がなさすぎた。
撤退ルートも固めておいたはずだが、むしろそちらの方が危険だったのかもしれない。

アレス 「……」

私は『未来予知』を行い、状況を読む。
あくまでわかるのは数秒程度の予知だが、無いよりはマシだ。

アレス 「……」



メズラ 『…入ってこい…』



アレス 「む…?」

妙な言葉を感じる。
入って…こい?
誘っているのか?

アレス 「……」

私は兵たちを見る。
ほとんど疲労も無く、突入には支障が無いだろう。
だが、突入がはばかられる。
聞こえたのは、若い男の声だ。
恐らく、総大将の『メズラ』だろう。
しかし、やけに弱々しい声だった…病に冒されているとは聞いていたが、もしや。

アレス 「よし、これより突入を開始する! …が、行くのは私ひとりだ!!」

部下A 「ええ!? ちょっと待ってください!」
部下B 「どういうことなんですか!?」

部下たちが私に対して捲し上げる、私の考えがわからないためだろう。
だが、私はすぐに次の指示を出す。

アレス 「すでに中には戦力は残されておらず、これ以上全員での侵攻は意味を持たないと判断する!!」
アレス 「恐らく、主力部隊はすでにこの場を離れているのだろう、もう我々南方政府が追う仕事ではない!!」
アレス 「わかったら、全員直ちに本部へ引き返せ! ただし、私が戻るための船は残しておけよ!」

部下A 「た、隊長…しかしいいのですか?」

アレス 「私の命令が聞こえなかったのか? 二度言うつもりは無いぞ」

部下A 「し、失礼しました! ただちに行動いたします!!」

そう言って部下は敬礼をし、すぐに行動を開始する。
こうして、数分後には私以外の兵は全て出払った。
これならば、誰にも聞かれることはあるまい…。
私は、ゆっくりとした足取りで中に入っていった。

アレス 「…気配はひとり、他には何も感じない。罠の様子も感じない」
アレス 「やはり、私を誘っていたのか?」

それとも、別の理由か…?
ただ、これだけはわかった。
メズラはもう長くないのだ…病が体を蝕んでいるのだろう。
私は、少々早足で向かう。
手遅れになってはまずいだろう。



………。



突入して約3分。
何の入り組みも罠も無く、簡単に目的の場所に着いた。
水タイプの本営でありながら、陸上用の造りとは恐れ入るものだ…。
しかし、私は扉の奥にひとつ、小さな呼吸を感じた。
間違いなく、ここだろう。
私は、少々控えめに扉をノックした。

コンコン…

本来、突入している状況でノックとは意味の無いことだが、何故だか意味があるように思えた。

メズラ 「入れ…」

声が返ってくる。
私は、扉を静かに開け、中に入った。
すると、まずベッドが目に入る。
内装は特に凝ったものではなく、生活感のほとんどない部屋だった。
さすがに、期待するものではないのだろう。
私は目的の人物を見据え、その場で立ち尽くす。
何を言ったらいいものか…まずはあちらからの出方を見せてもらうとするか。

メズラ 「南方政府総司令アレスが直々に来るとはな…」
メズラ 「だが逆に助かった、少なくともアンタは信用できそうだ…」

メズラは、弱々しき声でそう言った。
なるほど、すでにこちらの情報も得ていたというわけか…道理で迅速な撤退を見せたわけだ。
現に、こちらは相手の策にはまった形となったわけだが…。

アレス 「なるほど、すでに自分で立てぬほど衰弱していたか…」
アレス 「だが、失礼を承知であえて聞かせてもらう、何故残った?」
アレス 「君ほどの力があれば、生きて逃げることも出来たのではないのか?」

メズラ 「ふ…賭けさ」
メズラ 「あんたのような話が聞ける奴がくるかどうか、そして、そいつに力があるか…」
メズラ 「賭けたのさ、代償は俺の命で」

アレス 「馬鹿な、それが一体何の意味に? 少なくともそのような意思があるのであれば、初めから話し合いで解決することも出来たろうに」

メズラ 「あんたは余程のお人好しか? ヤクザに本当に信用する人物なんていないんだぜ?」

アレス 「ふむ、では…逆に聞こう。何故君は私を『信用』できそうと言ったのだ? ヤクザは人を信用しない」
アレス 「ならば、私を信じて賭けに出ることは、ノーメリットだと思うのだが?」

メズラ 「メリットは…この全世界にある…」
メズラ 「お前は…世界の終わりについて考えたことはあるか?」

突然、メズラはそんな話をする。
世界の終わりだと? あのことを言っているのか?

アレス 「第3の黙示録か…だが、まだ発動には時間があるはずだ…それに対策が無いわけでもない」
アレス 「はっきり言っておこう、私は世界が終わるなどとは、考えたことも無い」
アレス 「何故ならば、世界は我々の意思で続けていくことが出来るはずだからだ!」

メズラ 「ふ…その心を持つならそれでいいさ」
メズラ 「だが、あんた子供はいるかい?」
メズラ 「あと、20年くらいすれば起こる…確実に避けようもなく…そうなれば、被害を受けるのは大きくなった子供達だ…」

アレス 「…!」

メズラは半ば虚空を目にし、そう呟いた。
そうか…彼には子がいるのだな。
ただ、それだけのために…ここに残ったか。

アレス 「…言うがいい、そのために私をここまで引き寄せたのだろう?」

メズラ 「本音言うと、黙示録は起きない方がいい…」
メズラ 「そのため俺は様々なことを調べてきた、この3年で…」
メズラ 「ジラーチ…ルカリオ…ミュウ…セレビィ…そして、ダークルギア…」
メズラ 「こいつらならば、もしかすれば黙示録を阻止できるのかもしれない…残念ながら全員の所在はわかっていないがな」
メズラ 「だが、代わりと言ったら何だが、こんな物を手に入れた…あんたにやる」

そう言って、メズラは何やら石のような物を差し出す。
見たことも無い石だった。

アレス 「…? これは」

メズラ 「歌声の石…嘘か真かジラーチに関係しているらしい…」

アレス 「…そんな物を、一体どこで?」

メズラ 「以前、地震で発見された遺跡があった、そこの最下層で発見した」
メズラ 「さしずめあそこは…地底遺跡ってか?」

地底遺跡…まさか中央地区にあると言われる、あの地底遺跡のことか?
噂程度でしか聞いたことは無いが、ミュウの所在が関わっていると聞いたことがある。
が、恐らくは別の場所だろう…私が聞いた話によれば、ジラーチに関係する地は『願いの洞窟』と言われている。
『歌声の石』が、何故地底遺跡にあったのかは謎だが、今は考えていても仕方がないか。

アレス 「確かに受け取った…だが、お前はこれからどうするのだ?」
アレス 「私の知り合いに、腕利きの医者がいる、良ければ紹介しよう」

メズラ 「もう…遅い…それに、これ以上はこの世に生きることもなくなった、あんたが来てくれたからな…」
メズラ 「う…ぐふ!? はぁ…はぁ…」

アレス 「!? メズラ…! 君は、すでに…そこまで」

確実に命の灯火が消えていくのがわかった。
もう時間は残っていなかったのだ…それがわかっていたから。

メズラ 「ふ、ふふ…ようやく死ねるようだ…な…ふふ」
メズラ 「あんたには…しっかり…託したぜ…」
メズラ 「運命は…この世界にある全ての事象を…支配している」
メズラ 「そこから…逃れることは…できない…それでも抗うのならば…それは…」
メズラ 「それは…気高き者だろう…あんたに幸あ…れ…」

アレス 「……」

それが、最後の言葉だった…。
もはや、この部屋に生きているものは私以外にいない。
だが、私は覚えている…そして伝えるだろう…この英雄の死に様を。

アレス 「さらばだ…誇り高き戦士よ」

私はその場で敬礼をし、黙祷を捧げる。
そして、私はその場を後にし、炎で本営を焼き払った。



ゴゴゴゴゴゴゴォ…! パチバチィ!!

アレス 「…日が沈む、せめて…この舞い上がる炎と共に、天まで昇っていってくれ」

私は、それを見送った後、船にて本部に戻った。
そして、残存勢力のことは何一つ話すことなく、敵勢力は『全滅』と報告した。



…その後、親父はとある仕事と共に消えた。
あれから、18年。
親父は…帰ってこない。



? 「こらーカルマ! もう、こんな所にいた!!」

カルマ 「あん? いきなりなんだお前は…飯がまずくなるからさっさと黙れ」

俺はそう言って、朝食の食パンをかじる。
ちなみに、話しかけてきたのは、『一応』俺のパートナーのブラッキー種『アンジェラ』だ。
黒髪で特徴的な耳や模様が、記憶に残る奴だ。
しかし…性格に難がありすぎる。
仕事はサボるわ、ズボラだわ、はっきり言っていい加減にして欲しい。
今回に関しても、どうせ俺にたかりに来たのだろう。
無論、金は貸さんがな。

アンジェラ 「もう、あんたは何でいきなりそんなこと言うのよ! こ〜んなに可愛いパートナーが話しかけてきているのに!!」

カルマ 「…その手の台詞はもう132回目だ、いい加減聞き飽きた」

これでも俺は記憶力にかなり自信がある、神経衰弱では負け知らずだ。
逆にアンジェラは全く苦手で、物覚えが悪い。

アンジェラ 「うるさいなぁ、そんなのもう忘れたわよ!」

カルマ 「……」

とまぁ、こんな奴だ…いい加減コンビを解消した方がいいかもしれんな。
今度、署長に直談判するか。

アンジェラ 「それより、指令が来たよ!!」

カルマ 「あんだと? 何でそれを先に言わねぇ! ったく、余計な時間を食っちまった!!」

俺はそう言って、食いかけのパンを置いたまま食堂を走り去る。

アンジェラ 「もう! あんたがいきなり変なこと言うからでしょうが!!」



………。



とまぁ、これが日常という…わけのわからない生活だ。
我ながら、よくこんな馬鹿と一緒に10年も友人が出来るものだ。
さて、本来の話に戻して俺達は署長の部屋にたどり着いた。



………。



カルマ 「カルマ、入ります!!」
アンジェラ 「アンジェラ、入りま〜す♪」

署長 「よし、よく来た二人とも! 58秒の遅刻だぞ!」

アンジェラ 「いや〜ん、叱るならカルマを〜」

カルマ 「…署長まで下らん洒落は止めてください」

署長はそれを聞いてはっはっはと笑う。
署長はグラエナ種で、気さくな45歳。
署長専用の制服に身を包み、専用の椅子に座って、専用の机を前にしている。
髪は短髪で、さっぱりした風貌が男らしい。
署長は俺の親父の先輩で、かなりの実力者だ。
年齢的には衰えるはずの今でも、その腕は衰えず、署内では右に出るものなしと言われている。
性格も極めて大らかで人望も厚い。
その癖、一癖も二癖も切れ者であり、まさに署長としての威厳は抜群。
しかしながら、剣の腕なら俺の方が上だと自負するがね。

署長 「はっはは! 相変わらず仲のいいことだ、そろそろお前達も結婚を考えてもいい時期だろう?」
署長 「なんなら、いい牧師を紹介してやるぞ!」

アンジェラ 「いや〜ん、署長ったら、私たちまだそこまでは〜♪」

カルマ 「嬉しそうにするな! 大体話が変わってるだろうが!!」

俺は調子に乗るアンジェラを怒鳴り、署長を見据える。

署長 「ははは、まぁお前の気持ちもわからんでもないがな…さて、それじゃあ本題だ」
署長 「例の山賊と海賊の騒ぎは知っているな? それを鎮圧してもらいたい」

急に真面目な顔をして署長はそう言う。
さすがのアンジェラも少し真面目に話を聞いていた。

カルマ 「…俺が出向くほど、ということはそれなりの任務ということですかね?」

署長 「話が早くて助かる、そういうことだ」
署長 「詳しいことはアンジェラに聞け、それじゃあ任せたからな」

カルマ 「…は? はい」

アンジェラ 「は〜い、おっまかせ〜♪」

そう言って、俺達は署長室を出る。
そして、俺はすぐにアンジェラに『詳しく』聞く。

カルマ 「アンジェ…」
アンジェラ 「山賊の首領はダーテング種のガタン、海賊はサメハダー種のダンね」

カルマ 「…む」

先手を打たれる。
意外にもアンジェラは諜報部員としてはかなりの腕を持っている。
記憶力が悪いくせに、何でこなせるのかは非常に疑問だが、現にこうやって助かってはいるのでまぁ、不問にしておいてやろう。

アンジェラ 「両者共に、縄張りから出ることはあまり無くて、基本的には旅行者等を狙って金品を狙うようね」
アンジェラ 「数は山賊が100、海賊が80って所」
アンジェラ 「で、どっちが行く?」

カルマ 「お前は山に行け、俺が海に行く」

俺はそう言って、さっさと歩き出す。
すると、アンジェラが俺を呼び止める。

アンジェラ 「あん、もう! そんなに急がなくてもいいじゃん! どうせ、相手は逃げないんだし」

カルマ 「逃げない保障は無いだろうが!」

アンジェラ 「大丈夫大丈夫、私たち二人だけしか行かないんだから♪」

カルマ 「待て…何て言った?」

俺が聞き返す。
しかし、アンジェラは笑顔で。

アンジェラ 「だから、ふたりだけだってば〜♪ 耳でも遠くなったの?」

カルマ 「…敵勢力は?」

アンジェラ 「合わせて180☆」

カルマ 「こっちの兵力は?」

アンジェラ 「ふたりだってば(はぁと)」

カルマ 「……」

マジらしい…兵力2:180かよ。
どんだけ、適当な編成なんだ…信頼されすぎだろ。

アンジェラ 「あははっ、そっちは80だからいいじゃん! まぁ頑張って潜ってね♪」

カルマ 「…いや、おい待て! アンジェラ!!!」

アンジェラはさっさとその場からいなくなってしまう。
いつもはトロイくせにこういう時は迅速に行動しやがって。
ち…しゃあねぇな。

カルマ 「行くか、海賊退治に!」



………。
……。
…。



カルマ 「さて、船で出たはいいが…どうするかな?」

プランは無いわけじゃないが、どうにもいい加減だ。

1:船の上で、敵を待って全滅させる
2:潜って全滅させる
3:陸におびき寄せる

カルマ 「1は船を沈められる可能性が高い、2は現実的に無理」
カルマ 「3は…永久に終わりそうになさそうだな」

どうにもなりそうにない。
一応潜水できないわけじゃないが、さすがに水ポケモンとは比較にならない。
どうにかして陸におびき寄せたい所だが…。

ドンッ!!

カルマ 「うおっ!? 何だ!?」

突然、船が揺れる。
何かがぶつかったような衝撃だ。
まさか、もう…!

カルマ 「ち…来やがったか!! 来るなら来い!! 全員綺麗にさばいてやるぜ!」

俺は愛刀の『風林火山』を握り締め、戦闘態勢をとる。
しかし…意味が無いかもしれない。

ドンッ! バキィッ! メキャアッ!!

カルマ 「…ち、畜生! 船が沈んでいくじゃねーか!!」

どうやら、相手は初めから船の上で戦う気は無いらしい。
こりゃ、潜らされるな。

カルマ 「って、そういや、あの馬鹿(アンジェラ)が俺に残したこれは何だ?」

俺は懐にしまってあった珠を見る。
特に何か特徴があるわけではないが、妙な輝きを放っていた。

カルマ 「く…! 畜生、考えてる暇はねぇな!! 南無三!!」

俺は船を捨てて海に潜り込んだ。

ザッパーンッ!!



カルマ 「…!?」

海賊A 「へへっ、馬鹿が…」
海賊B 「こんな所をうろついているからだ」
海賊C 「これだけの人数が相手では、肉も骨も残らんだろうな!」

どうやら、すでにキバニア79+サメハダーがスタンバっていたらしい、恐ろしい数だ。
俺はもがくわけでもなく、ただ息を止めて海底に落ちていく。
それなりに深く、2〜30メートルはありそうだ。
俺は周りを見据える、どうやら全員いるようだ。

ダン 「よ〜し、野郎ども! この馬鹿をぶっ殺して取れるもんは剥ぎ取っちまえ!!」

海賊達 「へい、親分!!」

水中でそう言って一斉に向かってくる。
水タイプはどうやって会話しているのか知らねぇが、声は聞こえるな。
さて、どうするか?

1:このまま水中戦で片をつける
2:一か八かアンジェラから貰った不思議な珠に賭ける
3:どうにもならない、現実は非情である

当然ながら、3は却下だ。
個人的には1でどうにかしたいが、この数は絶対的に不利だ。
したがって、残っているのは2だが、あのアンジェラがまともな物を渡すとは思いがたい。
しかしながら、ほかに手が無いのも事実、第一…水中では刀がまともに振れん。
というわけで、迷いながらも俺は1を選択した。

カルマ (喰らいやがれ!!)

ビチィッ!! バチバチバチィ!!!

海賊A 「グピッ!!」
海賊B 「ゲババッ!!」

俺の近くまで来たキバニアどもは一発で気絶する。
さすがに海中で『十万ボルト』は効果があるようだな、ほとんど全員に効いたようだぜ。

ダン 「ち、この野郎! 味な真似を!! 俺のハイドロポンプで片をつけてやる!!」

カルマ 「!!」

それはさすがにまずい!
高圧縮された水圧を止める方法はない。
まさか、ハイドロポンプを使えるとは…サメハダー種はほとんど持ってないって聞いたんだがな。

ダン 「死にやがれ!!」

ギュアアアアアアッ!!!

高圧縮された水圧が俺に向かって飛んでくる。
かなりのスピードで避けるのは不可能か!

カルマ (くそったれ!! ガードくらいはしてやる!!)

ドグシャァッ!!

カルマ (ぐはあっ!!)

俺はかろうじて意識を保っていた。
だが、思いの外距離が離れていたのがよかった、あの技は溜めに一瞬時間がかかるから命中率は安定しない。
しかしながら、あの威力は尋常じゃない…近距離でもらったらお陀仏だった。

ダン 「ちぃ、運のいい奴だ…だが、そろそろ息が苦しくなってきたろうな」

カルマ 「…がぼっ!」

呼吸が、限界になってきた。
さっきの衝撃で余計に酸素を逃してしまった…もしかして…?

3:どうにもならない、現実は非情である
どうにもならない、現実は非情である
現実は非情である
非情である



カルマ 「ぐ…!」

ダン 「はっはっは! 苦しいようだな、だが安心しろ! 今すぐ俺の手であの世に送ってやる!!」

奴は近づいてきた。
だが、電撃を浴びせる前に奴の攻撃が決まるだろう。
そんなことを考えている余裕さえ俺には無かった。
結局、これしかなかった。

ピカァァァァァァッ!!!!

ダン 「な、何だぁ!?」

カルマ 「!?」

珠を外に出した途端、急に光りだす。
そして、その後はまるで奇跡のようだった。

ザアアアアアアァァァァァァァァァァァッ!!!!!!

ドシャアアッ!! ズシャァッ!! ドササササァッ!!!!!

海賊A 「な、何で海が!?」
海賊B 「嘘だろ…!?」

ダン 「干上がっちまった!!」

カルマ 「ガホッ!! ゴホッ!!」

俺は飲み込んだ水を吐き出す。
塩辛い…畜生。
こんな役に立つ道具なら、初めから言えってんだ!!
海はどうやら、俺を中心に半径100メートルほどまで水が干上がった状態になっているようだった。
どうやらアレは『不思議球』らしい。
しかし、海を干上がらせる効果があるとは…便利なもんだ。

ダン 「や、やべぇ…!」

カルマ 「おっと、逃がすかよ!」

バチィッ!!

ダン 「ひいいっ!!」

俺は電撃でダンの逃げる方向を撃つ。
そして、ダンが動きを止めた所で。

ヒュンッ!!

ダンッ 「げばぁっ!!」

ズシャアァッ!!

俺の『居合い切り』でダンはあっさり倒れる。
一応『みね打ち』だ、殺しちゃいない。
まぁ、一応の慈悲って奴だ。

カルマ 「さて、んじゃ残りも片付けっか!」

海賊 「に、逃げろー!!」

カルマ 「陸上で逃げられると思ってんのかよ!!」

ヒュゥゥゥ…バビュゥゥゥンッ!!!

海賊達 「ぎゃらぱーーー!!!」

俺の『鎌鼬』で半数近くが倒れる。

海賊 「ひ、ひえ〜! 命だけはお助けを!!」

カルマ 「…やれやれ、だな」

俺はすぐにこいつら全員をしょっぴく。
しかしひとりじゃ限界あるっつーの!!
とにかく、すぐに陸の方に上げることには成功した。
あの干上がりはどうも1時間ほどしか持たなかったらしい、間に合ってよかった。



………。



カルマ 「ち、このまま本部まで連れて行くのか? 80人は面倒だぜ」

隊員A 「あ、カルマ隊長!! よかった、無事だったんですね!?」

すると、タイミングよく、別部隊の隊員が何人か駆けつけてくれていた。
どうやら、心配で来てくれたらしい。

カルマ 「おお、別部隊の奴か…助かったぜ、こいつらを頼まぁ」

隊員B 「は、はい! お疲れ様ですカルマ隊長!!」

カルマ 「おう、俺はこのまま山賊退治に行くから、手の空いてる奴らは何人か待機しておくように伝えてくれ」

隊員C 「はい! どうかお気をつけて!!」

そう言って、俺は馬鹿(アンジェラ)の所に向かう。
まさか、もう終わらせてねぇだろうな? あいつは口だけじゃないからな一応…。
何せ、あいつの卑怯な戦いぶりは非常に参考になる。



………。



アンジェラ 「へきしっ!」

うう…何か誰かに馬鹿にされてる気がする。
カルマはもう終わったかな? 『干上がり球』を持たせたんだから、負けるわけ無いと思うけど。
こっちは、こっちで半分は片付いたかな?

アンジェラ 「ほとんどコノハナばっかり…しかも大したこと無いわね」

私はカルマみたく剣を使うわけじゃないけど、一応護身術は心得ている。
武器もいくつか持っているので問題は無い。
しかしながら、持ち物を一応確認しておく。

アンジェラ (鉄の棘があと50本、癒しの種がひとつ、目潰しの種がふたつ、惑わしの種がひとつね)

一応、問題はなさそうだけど…未だに首領のガタンは出てこないし、まだ登るの〜?
馬鹿と煙は高い所に昇りたがるって言うけど、本当かしらね? ← 自分もそうだと気付いていない

アンジェラ 「! そこっ!!」

ズドドドドドッ!!!!!

山賊×5 「ぐへぇ!!」

木の上に5か…これで残り45…だったよね。
記憶力は良くないけど、計算は得意なんだから!
もっとも、カルマは絶対気付いてないけど。
まぁ、しょうがないよね〜あの性格じゃ。
私の超遠回りなアプローチも気付いてないみたいだし、何時になったら友達卒業できるんだろう?
私としてはすでにハッピーな新婚生活まで計画しているのに〜!

アンジェラ 「はぁ…やっぱり新婚旅行はアクアレイクがいいわねぇ、真夏の日差しに私のビキニ♪」

ズドドドドド!!!!!

山賊×5 「ボゲッ!!」 残り40

アンジェラ 「そして、私の綺麗な肢体を見てカルマは『綺麗だ』って言うのよ、きゃーーー☆」

ズドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!!

山賊×10 「ギャースッ!!」 残り30

アンジェラ 「や〜ん、早く抱きしめてカルマ〜〜〜!!」

ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

山賊×29 「ウベラッ! ボゲベッ! はなな! ぶびぃ!! べっ! バッ! ぶっ! ちにゃ!? ひょろ〜! あぼぉ!」

ズシャァッ!!×29 残り1

アンジェラ 「あれ? 気がついたらもう残りひとりに…」

ついでに鉄の棘が残り一本だということにも気付く。
何時の間に…やっぱり記憶にないわ。私って記憶するの苦手だから♪

ガタン 「こ、この女、俺の部下×99をこうも簡単に…何者だお前!?」

アンジェラ 「やん♪ お前じゃなくてアンジェラって呼んで☆」

私は笑顔でセクシーポーズをとる。
しかし、呆れられている。
う〜む、こいつ私の魅力に無反応ね。

ガタン 「その服装…さては政府のもんか!?」

アンジェラ 「あん、いい勘してるじゃない♪ わかってるなら、話は早いわね」

ガタン 「ちっ、俺が簡単にやられると思うなよ!?」

アンジェラ 「あら、空に逃げるの? って、空飛べたんだ…」

どう考えても羽なんてついてないのに…ただジャンプしただけでしょうね。
両手の団扇を必死に羽ばたかせているようにも見えるけど、ってもしかして逃げる気!?
気がついたら、どんどん遠くに行ってしまっている。
しまった…まさか逃げるためだったとは。
私は残り一本の棘を団扇に向かって投げつける。

アンジェラ 「えいっ!!」

スカッ!

アンジェラ 「…うう」

やっぱり当たらなかった…私にも○ルゴ13のような目があれば当たるのに。
このまま逃げられてしまうのかしら…ってしょうがないわね。

アンジェラ 「こうなったら奥の手♪ 行っけーーーーシャドーボール!!!」

ドギュンッ!!

ガタン 「げっ!」

ズバァンッ!!

あ、やった命中☆
ダメージはイマイチだけど、ちゃんと落ちていくわね。
私は落ちていく方向に向かって走る。
うん? よく見たらあの方向って…。



………。
……。
…。



カルマ 「ったく、あの馬鹿(アンジェラ)、どんだけ適当にやってるんだ!」

山を登っていくたびにコノハナの死体(?)が転がっている。
どいつも的確にコメカミの所に鉄の棘が刺さっている…相変わらず適当でも急所が的確だな。
全く恐ろしい奴だ…心底敵でなかったのが良かったとは思う、味方でも微妙だが。

カルマ 「しかし、もしかしてもう全滅しているのか?」

ヒュゥゥゥゥ…

カルマ 「あん?」

俺は上空に妙な気配を感じる。

ガタン 「ギャースッ!!」

カルマ 「何ーーーーー―!?」

突然ダーテングが上から降ってくる。
しかも俺の真上に。
当然、反射的に俺は剣を抜く。

カルマ 「侵掠すること、火の如し!!」

ゴバァアッ!!!

ガタン 「ひでぶ!!」

俺は反射的に刀に炎を纏わせ、ダーテングを斬る。
当然ながら奴は燃える。

ガタン 「熱い! 誰か消してー!!」

カルマ 「…はぁ、はぁ」

俺は刀を鞘に収め、足音に気付く。

タッタッタ!!

アンジェラ 「ああ、やっぱりカルマ! 私のことを心配で来てくれたのね!! いいわ、私が今からその胸に飛び込むからーーー!!」

ズシャアアアアアアアッ!!!

当然のように俺はアンジェラの捨て身タックルをかわす。
そして当然のようにアンジェラは地面に転がる。

アンジェラ 「ひ、酷い…」

カルマ 「このアホーーーーー!!」(アホー:アンジェラ、いい加減にしろこの阿呆!!の略)

俺は間髪いれずにそう言う。
全く、後先考えずに行動するからこうなるんだ!!

アンジェラ 「何よぉ…助けに来てくれたんじゃないのぉ?」

カルマ 「んなわけあるか! 逆で心配してるんだ!! どうせお前のことだから全滅させているとは思ったが…ここまで徹底するとは」

アンジェラ 「いいじゃない、半殺しなんだから…どうせ草タイプはすぐに再生するんだし」

カルマ 「このアホーーーーー!!」(アホー:アンジェラ、適当なこと言ってんじゃねぇこの阿呆!!の略)

俺は思いっきりアンジェラの頭をどつく。
アンジェラは頭を抱えて痛がる。
俺はとりあえず天狗の首領を見る。

ガタン 「プスプス……」

カルマ 「……」

アンジェラ 「うう…カルマだって手加減してないじゃん」

カルマ 「…やかましい、誰だって間違いはある!」

アンジェラ 「うう…言い訳ぇ」

とりあえず、待機させておいた隊員に後は任せ、俺達は本部に帰還することにした。
ここまでを1日で済ませたことは、それなりに異例とのことだ。
無茶ばっかりだけどな…。





………………………。





『翌日 南方政府:署長室』


署長 「はははっ、相変わらずだったようだな!」

アンジェラ 「そうなんですよ〜カルマったら、かなり適当で」

バゴォッ!!

カルマ 「適当なのはお前だ…いい加減こいつをどうにかしてください署長!」

署長 「まぁそう言うな、お前らはそれでバランスがいいんだからな」
署長 「それとも、別にいい女でも見つけたのか?」

アンジェラ 「嘘! 私というものがありながら!!」

カルマ 「んなわけあるか!!」

署長 「やれやれ…まぁ、どうしてもというならコンビを解消してやらんでもないが?」

アンジェラ 「絶対却下!!」

カルマ 「俺の意見は無視か!!」

署長 「…ふむ、まぁどっち道解消になるんだがな」

カルマ 「え…?」

アンジェラ 「はぁ…?」

全員が一瞬止まる。
今、何て…?

署長 「カルマ…お前、アレスのことを覚えているか?」

カルマ 「え? 親父のこと…?」

署長 「そうだ。18年前、ある任務に着いたきり、その消息を絶ってしまったお前の父親だ」

カルマ 「……それとコンビ解消にどう関係が?」

アンジェラ 「ちょ、ちょっと待ってよ! コンビ解消なんて、私納得できない!!」

カルマ 「いいから黙ってろ、今は俺が話してる!」

俺は冷たい目でアンジェラを黙らせる。
さすがのアンジェラも黙らざるをえなかった。
俺の親父…南方政府の勇者とまで呼ばれた、総司令官。
とある事件に関わって消息を絶ってからもう18年。
俺は、親父を越えるために剣の腕を磨き続けた。
だが、俺は未だに俺の瞼に焼き付いている親父を越えることが出来ない。
手本がどこにもいないんじゃ、越えたかどうかもわからない。

署長 「…まぁ落ち着け。お前の親父が実は残したものがあってな」

カルマ 「…な、何ですかこの石は?」

見た所、不思議な石だった。
装飾があるわけではない、ただ、妙な力を感じる。
だが、その力はとても弱かった。
すぐにでも消えてしまいそうな力。
間違いなく、普通の石ではない。
署長は、それを俺の手に渡した。

署長 「それは『歌声の石』…と言うそうだ、とは言っても俺には詳しいことはわからん」
署長 「ただ言えることは、アレスはそのことを調べるために消息を絶ったと言っていいだろう」

カルマ 「教えてください! 親父は、どこに向かったんですか!?」

署長 「…わからん、あいつは誰にも話すことなく出て行った」
署長 「ただ、俺にお前のことを頼むと残してな」

カルマ 「……」

それが本当かどうかはわからなかった。
ただ、署長は俺に言うべきではないとも思っているようだった。
ならば、もう俺には聞くべき事は出来ない。
少なくとも、俺にとって署長は尊敬できる師であり、育ての親でもある。
俺には母がいない、産まれてすぐ死んだと聞かされている。
本当の父親が側にいない以上、俺にとってはこの人が本当の父親なのだ。

アンジェラ 「…結局、何でコンビ解消なの〜?」

アンジェラが不満そうにそう言う。
すると、署長は簡単に言う。

署長 「カルマには特別任務を与える」

アンジェラ 「はぁ? 特別任務?」

署長は頷いて話し始める。

署長 「そうだ、カルマには単独で海を渡り…アクアレイクに向かってもらう!」
署長 「当然、行くのはカルマのみ! アンジェラはここで待機だ」

アンジェラ 「えーーーー!?」

署長の言葉にアンジェラは机をバンッ!と叩いて驚く。
今までにない驚きようだ。

カルマ 「…アクアレイクですか、そこに何があるんですか?」

署長 「…少々危険な任務だ」

そう言って、署長は煙草に火を点ける。
その表情からは確かな危険が感じ取れる。

署長 「…お前はダークポケモンのことは知っているな?」

カルマ 「ええ、ここ最近…頻繁に目撃されていますからね」

署長 「中でも、特にやばいダークポケモンが、4年前に発見されている」

カルマ 「やばい…って、どんなポケモンです? せいぜいボーマンダやバンギラス位でしょう? 確かにやばい相手ではありますけど…」

署長 「いや、ルギアだ…」

カルマ 「!?」

署長の口からはとんでもないことが飛び出す。
ルギアだと…? 5賢者のひとり、風を司るあのルギアがダークポケモンになったと言うのか!?

署長 「…正確な所在は不明だ。今はどうしているのかもわからん」
署長 「まぁ、それは別にいいんだ…お前に直接関係はないだろう」

カルマ 「…? じゃあ、俺の任務に関係あるのは?」

署長 「ダークポケモンは世界各国で見られるほどに発生し始めている…この意味は、わかるな?」

カルマ 「…第3の黙示録」

署長は軽く頷く。
そして煙草を灰皿に押し付けて火を消し、こう言う。

署長 「…とりあえず、お前にはダークポケモンの調査を命じる」
署長 「とはいえ、宛てもなくては話にならんだろう…だから、まずアクアレイクに行け」
署長 「あそこは様々な情報が飛び交っているからな、ここから一番近い大きな街だから、丁度いい」

カルマ 「了解です、明日にでも出発します」

俺はそう言って、敬礼する。
そして、ここで話は終わるかと思ったが…。

アンジェラ 「異議あり! どうしてカルマだけなの!?」

アンジェラがツッコミを入れる。
まぁ、確かに不自然ではある。
いつもなら、ふたりで行けと言いそうなものなのだが…それ以前に、コンビ解消とか言ってたな。

署長 「お前が行っても役に立たん…今回の任務は、かなり長期に渡る物だ」
署長 「その間、お前たちは離れ離れになるのだから、コンビは解消と言うことにした方がいい」
署長 「更に言うなら、その任務が終わって帰還してきた暁には、カルマには署長のポストが用意されている」

カルマ 「署長!? ちょっと待ってください! 他の者を差し置いて俺が署長になんて!」

署長 「今でも、既にお前は一番上の隊長格だ…その上には署長のポストしかない」

アンジェラ 「そんなことはどうでもいいの!! 私もカルマに着いて行くーーー!!」

アンジェラはそう叫んで地団太を踏む。
子供か…。

署長 「駄・目・だ、お前には別の任務を用意している」

署長は冷たくあしらう。
そして、アンジェラはついに。

アンジェラ 「わかりました! そこまで言うんだったら、私も覚悟決めます!! 辞表を提出します!!」

カルマ 「……」

署長 「……」

俺と署長は口をぽか〜んと開けてその台詞を聞き流す。
その反応にアンジェラは意外そうな顔をする。

アンジェラ 「あ、あれ…? 何でそんな程度の反応なの?」

署長 「いや…お前、自分の言っている意味がわかっているのか?」

アンジェラ 「? あったりまえじゃない!! いくら私でもそこまでお馬鹿じゃないわ!!」

と力説するアンジェラ。
しかしながら、その台詞自体がお馬鹿と証明していることを、この阿呆は知らない。

署長 「…はぁ、じゃあ何か言い残すことはあるかアンジェラ?」

署長はまるで遺書でも書かせるかのようにアンジェラに向かってそう言う。
さすがにアンジェラもおかしいと思ったのか、妙な表情をする。

アンジェラ 「いや、私自殺する気はないんですけど…」

カルマ 「いいから、何か書いておけ…どうせ後から書くんだから」

アンジェラ 「? ???」

アンジェラは意味不明の表情をする。
まぁ、実際意味がわかってないんだろうが。
そろそろ切り上げるか…。

カルマ 「…お前な、辞表を出すってことはもう部外者だ」

アンジェラ 「…それで?」

署長 「自分からコンビ解消してどうするつもりだ?」

アンジェラ 「アンジェラ『個人』としてカルマに付き添います!!」

カルマ 「じゃあ、公務執行妨害で逮捕しておきますんで」

署長 「うむ。道中、気をつけてな」

アンジェラ 「ガッデム!! 何で!? 邪魔してないじゃん!!」

あまりにも自然な流れにアンジェラはオーバーリアクションで叫ぶ。
自分でよく考えろと言うのに…。

カルマ 「お前がいると任務に妨げが出る」

アンジェラ 「え…もしかして、私がいると、ときめくから?」

カルマ 「ド阿呆!! 単に邪魔になるだけだ!!」

俺が思いっきり反論すると、アンジェラは寂しそうに俯く。

アンジェラ 「うきゅう…何でそう言ういうこと言うかなぁ」

署長 「まぁ、どっちにしてもお前は残れ。カルマひとりで行くことに意味があるんだ」

アンジェラ 「拒否します拒否します拒否します」

アンジェラは壊れたロボットのように拒否を連発する。
さすがの署長も疲れたのか、そろそろ表情が曇ってきた。
こいつ…本気で着いて来る気か?

アンジェラ 「ね〜!! 署長ってばーーー!! いいじゃない別にーーー!! 私とカルマの仲を認めてくれてるんでしょ!?」

アンジェラが子供のようにそうすがりつくが、署長は駄目押しとばかりに反論する。
そして、その言葉は俺も驚かずにはいられなかった。

署長 「いやな、お前には悪いんだが…カルマには見合い相手を用意していてな〜」

アンジェラ 「サノバビッチーーー!? どういうことだい!?」
カルマ 「どういうことっすか!? 聞いてませんよそんなこと!!」

ほぼ同時に俺たちは叫ぶ。
すると、署長はタバコを吹かしながら答える。

署長 「まぁ落ち着け落ち着け…実はな、娘のことで悩んでいてな〜」

アンジェラ 「娘って…まさかあの馬鹿女!?」

馬鹿女…とは署長の娘のことだろうが、つまりは…。

カルマ 「…娘の見合い相手に俺を選んだ、と?」

署長 「そこまでわかってるなら話は早い!!」

署長は机をバンッ!と叩いて立ち上がる。
そして、嬉しそうにこう言う。

署長 「頼む! アンジェラとは別れて埋(まい)を貰ってくれ!!」

アンジェラ 「そんなもん! 例えカルマが許しても私が許さないわよ!!」

カルマ 「俺も納得しねぇ!! まだ結婚なんて考えてません!」

俺たちはふたりして署長に反論する。
むぅ…こういう時は息が合うから不思議だ。

署長 「まぁまぁ、よく考えろ…いいか、どうせこのままカルマはアクアレイクに行くんだ」
署長 「アクアレイクは美人が多いからな〜、きっと返ってくる頃には自然と彼女のひとりも連れて返ってくるだろう!」

アンジェラ 「私がいる限りそんな虫は取り付けぬわーー!!」

アンジェラはもはや意味不明な行動を取り始める。
署長は署長で本気なのだろうか?
少なくとも、あの埋が素直に見合いを応じるとは思えん。
ちなみに、埋はマッスグマ種の女性で、まぁ署長の娘。
しかし! 性格があまりに粗暴…とまで言ったら可哀相だが、とにかくおてんばの域を確実に超えているのだ。
俗に言うなら暴走族とでも言おうか…チームを結成しており、いわゆるレディースと言う奴のリーダーを務めているほどの女。
当然ながら、普通の男が寄り付くはずもなく、自ずと腕っ節の強い奴が近づいてくるわけだが…。

署長 「う〜ん、どうしても嫌か?」

アンジェラ 「嫌です」

カルマ 「って、お前が言うな! 俺も嫌ですけど」

アンジェラ 「や〜ん、カルマったらやっぱり私のために〜♪」

アンジェラは調子に乗って俺に抱き着こうとするが、俺は回避する。

ズッシャア!

派手な音をたてて、アンジェラは床に突っ込む。
俺は無視して署長に話しかける。

カルマ 「とにかく! 俺はひとりで行きます…俺は彼女とか必要ないんで!」

アンジェラ 「え〜ん…私も一緒に行く〜」

アンジェラは情けない泣き声をあげながら、そう言う。
こいつ、本気で着いて来る気だろうな…さて。

署長 「…はぁ、やっぱそうなるか」
署長 「仕方ないな…じゃあふたりで行って来い」

カルマ 「はぁ!? 何でそうなるんですか!!」

あまりにも予想外な台詞に俺は突っ込む。
何で、そうなるのか…。

署長 「その方が面倒も少ない…アンジェラはお前が責任持って何とかしろ」
署長 「その代わり、そっちはそっちで自由にしていい」
署長 「特に期間も設定していないから、向こうでしばらく活動を続けてくれ」

カルマ 「…了解しました、が」
カルマ 「どうしても気になることがあります…何故今になってダークポケモンの調査を?」
カルマ 「これまでにも調査部隊を送り込んでいるにも関らず、アクアレイクに向かえと言うのは…」

アンジェラ 「確かに…調査ならわざわざ私たちを派遣することもないんじゃ?」

すでに着いて行く気満々のアンジェラがそう言う。
すると、署長は椅子の背もたれに持たれかかり。

署長 「…行けばわかる」
署長 「多分な」

そう言って、署長は再び煙草に火を点ける。
それ以上は聞いても無理な気がした。

カルマ 「…了解です。それでは…失礼します!」

俺は敬礼をして部屋を出て行く。
行けばわかる…か。
なら、行くしかないのだろう…それが任務だ。

アンジェラ 「…失礼します」

アンジェラも俺の後ろに着いて来る。
結局、腐れ縁は切り離せなかったか…まぁ予想通りだからいいがな。
口ではああ言ってはいるが、別に俺はそこまでこいつが嫌いなわけじゃない。
とはいえ、度々の暴走っ振りには、いい加減疲れてきているのも事実だ。
そろそろ何か手を打たなければならないのかもしれんな。



………。



『時刻19:00 南方政府・カルマの部屋』


アンジェラ 「ねぇ、明日すぐに出発するんでしょ?」

カルマ 「…ああ、そのつもりだ。だから今日は早く寝ろよ? 寝坊したら置いていくからな」

俺は、出発の準備を整える。
アクアレイクまではそう遠くもない、食料はそこまでいらないだろう。
服も制服を使えば問題なし、下着をいくつか持っておくか。

アンジェラ 「…気にならないの? 署長のこと」

カルマ 「…あん?」

それは唐突な言葉だった。
だが、考えてみればすぐにわかる。
署長が何も考えずに俺たちを送ることはしない。
逆に裏を返せば、俺たちが行かなければならないほど、ヤバイ件が関ってると言える…か。

カルマ 「気を引き締めておけよ…今回の任務、タダじゃ終わらねぇ気がする」

アンジェラ 「うん…そうかも」

何だかアンジェラの元気がない気がした。
いつも元気しか取り得のないこいつがどうしたのだろうか?

アンジェラ 「ねぇ…カルマ」

カルマ 「何だ?」

俺は荷物を全てバッグに詰め込み、ファスナーを閉めた。
そして、アンジェラの顔を見る。

アンジェラ 「…カルマ、本当に彼女とかいらないって思ってるの?」

カルマ 「…急に何だ」

どうにも嫌な予感がする。
この状況はもしかしなくても、告白シーンだろうか?
幸か不幸か、部屋には誰もいないし、近くに誰も気配を感じない。
助けを呼んでも来なさそうだ。
最悪、切り捨てるしかないのだが…。

アンジェラ 「…私って、そんなにカルマの足手まとい?」

カルマ 「わかってるなら聞くな」

俺はそっけなくそう言う。
自分でも雰囲気ぶち壊しているのは実感できる。
しかしながら、こいつの真面目な話は大抵ロクなことではない。
こいつとは、これ位の距離がいいんだ…。

アンジェラ 「うぐ…やっぱりそうなんだ」
アンジェラ 「いいよ…私、ここに残るから」
アンジェラ 「カルマは…ひとりで頑張って」
アンジェラ 「今日限りで、私たち終わりにしましょう…」

カルマ 「…は?」

いきなり話がすっ飛んでいるような?
待て、この会話はおかしくないか?
終わりにしましょうって…まだ初めてもいないはずだが。
と言うよりも、残るって…ちょっと待て。

カルマ 「おい、勝手に決めるな…何で話を飛躍させてるんだ!」

アンジェラ 「いいの! カルマは私の事邪魔に思ってる…私、カルマの足枷にはもうなりたくないもん」
アンジェラ 「今までだって、我がまま一杯言ってきた…でもカルマはいつも私を横に置いてくれた」
アンジェラ 「嫌々言ってても、カルマは私のこと認めてくれるんだって…ずっと思ってた」
アンジェラ 「でも…違うんだよね、私の思い込み」
アンジェラ 「カルマは…私の事恋人としては見てくれなかった」
アンジェラ 「だから、終わりにするの…恋人ごっこは」

カルマ 「……」

言葉が出てこなかった。
何だこの展開は?
聞いてないぞ…俺にどうしろと?
いや待て、これは好機じゃないのか?
ついにアンジェラと縁を切るチャンスが来たのだ…これを逃したらもう二度とないかもしれん!

アンジェラ 「さようなら、カルマ」

ガチャン!

アンジェラは逃げるように部屋を出て行く。
そして、俺はひとりになった。

カルマ 「…おい」

俺はドアに向かって喋りかけるが、アンジェラが帰ってくる気配はない。
仕方ないので、ドアを開けにいく。

ガチャ…

カルマ 「……」

てっきり、ドアの前で待っているかとも思ったが、誰もいなかった。
アンジェラは影も形もない。
天井も見てみるが、へばりついてない。
ありとあらゆる方向を調べてみるが、アンジェラらしき姿は見当たらなかった。

カルマ 「…マジか?」

俺は再び部屋を見る…すると、部屋の床にシミがあることに気付く。
それが、アンジェラの涙だと言うことは、すぐに気付いた。
あいつ…泣いてた?

カルマ 「……」

今の今まで、あいつが俺に本当の涙を見せたことはなかった。
悲しくて涙を流したことは…一度もなかった。
それが、今…あいつ。

カルマ 「…ちっ」

俺は舌打ちして部屋を飛び出る。
あの馬鹿…どこへ行きやがった?



『時刻20:00 南方政府・エントランス』


カルマ 「ち…もう暗くなってきたな」

すでに夜も更けて回りは暗い。
もし、外に出ているなら見つけるのは…。

カルマ 「簡単だな…あいつのことだから」

俺はそう決め付け、門を潜る。
外に出て、俺は考え付く唯一の場所を目指す。
そこは…もう何年も行っていない場所だ。



………。
……。
…。



『時刻20:21 ???』


カルマ 「ち…こんなに遠かったか?」

俺は政府の外に出て、草むらを掻き分け先へと進んだ。
ほとんど道とは言えないその道を俺はためらいなく進む。
そして小高い山のようになっているこの地形を抜けた時、ここに辿り着いた者だけが見ることの出来る、広大な景色が目の前には広がっていた。

カルマ 「…よお、奇遇だな」

アンジェラ 「ふぐ…何よぉ〜何でここに来たのよ〜」

アンジェラは涙を流しすぎたのか、ぐちゃぐちゃの顔になっていた。
俺は呆れたも通り越して、頭を抱える。

カルマ 「…単に気紛れで来ただけだ」

我ながら、無茶な言い訳である。
ただ、どうしても正直に口に出すのが嫌だった。
自分で、この気持ちを持て余しているのはわかる。
さっさと言って楽になればいい…だが、言うことが出来ない。
俺は、臆病なのか意地っ張りなのか…わからねぇな。

アンジェラ 「嘘つき…追いかけてきたんでしょ?」

カルマ 「違う! たまたまだ!!」

この調子では、永遠に話が終わりそうにない。
俺はさっさと切り出すことにする。

カルマ 「おい、さっさと戻るぞ、明日は早いって言ってるだろうが」

アンジェラ 「むきー! 何よー! 私たち終わりって言ったじゃないのーーー!!」

アンジェラはムキになって暴れる。
まずい…逆効果だったか。

カルマ 「とにかく、来い! 一応俺とお前の任務なんだから!!」

アンジェラ 「一応って何よーーー!! やっぱりカルマは私の事何とも思ってないんじゃない!!」
アンジェラ 「あの時、ここでした約束もどうせ覚えてないんでしょ!?」

カルマ 「…約束?」

記憶にない。
確かな記憶だ。
覚えていない。
間違いない。

アンジェラ 「やっぱり忘れてるーー!! あの時、私をお嫁さんにしてくれるって約束したのに!!」
アンジェラ 「カルマは…私の気持ちなんて全然わかってなかった」

そう言って、アンジェラは泣く。
まるで子供のようだが…その時俺の脳裏に過去の光景がフラッシュバックする。

カルマ (何だ…こんな記憶が…?)

自分の記憶に違和感を感じる。
どうして忘れているのかもわからない。
覚えていることが不思議だった。
そして何よりも…アンジェラは昔のままだった。

カルマ (そうだ、アンジェラはあの頃から全く変わってない)

見た目は変わっても、中身が変わらない。
子供のままなのだ、アンジェラは。
そして、その原因を作ったのは他でもない俺だ。
あの時…俺がアンジェラの時を止めたのか。





………………………。





『10年前 約束の樹』


アンジェラ 「うう…ひっくっ、ひっくっ」

カルマ 「泣くんじゃねぇよ」

スパンッ!

俺は掌でアンジェラの頭をはたく。
軽快な音がしてアンジェラの特徴的な耳が揺れる。
すると、アンジェラはより大きく泣く。

カルマ 「だーかーら! うるさいっての!!」

アンジェラ 「うええええええぇぇぇぇんっ!!」

これが…初めての出逢いだった。
俺はアンジェラと初めて出会ったその日、いきなり泣かしたのだ。
無論、今考えれば子供の遊びだが、アンジェラはそれが気に入らなかっただろう。
ただ、他愛もない言葉のやり取り、ふと俺の言葉がアンジェラを傷つけた。
今考えれば、俺はアンジェラの事を何も考えてなかったのかもしれない。
初対面で考えろと言う方が無茶だが、それでも俺はアンジェラをとにかく突き放した。
突き放せばアンジェラは着いて来る。
それが当たり前のようになってくると、何も感じなくなった。
次第に、俺たちの関係は、ただいるだけのような物になってくる。
でも、そうじゃなかった…アンジェラはずっとあの時のままの気持ちだった。
俺は、それに答えられなかったんだ。

カルマ 「…さっさと泣き止め、じゃないと無理やり止めるぞ!?」

アンジェラ 「ぶえええええええええぇぇぇぇっ!!」

カルマ 「こ、この…!!」

俺はさすがに堪忍袋の音が切れる。
一行に泣き止まない、アンジェラに向かって、俺は強攻策を取ったのだ。

アンジェラ 「!?」

すぐに泣くことを止めるアンジェラ。
そして、この時から…アンジェラは俺の事を。





………………………。





アンジェラ 「もう私の事は放っておいて!! カルマはどっかの水着美人とよろしくやればいいのよーーーー!!」

カルマ 「お前、言ってることが滅茶苦茶だぞ!!」

アンジェラ 「うるさいうるさいうるさいーーー!! カルマなんかどっか行っちゃえ!! もう私の前に出てくるなーーーー!!」
アンジェラ 「うわーーーーーーんっ!! うわあああああああぁぁぁぁんっ!!」

アンジェラは俺に鉄の棘を何十本も投げつけて泣き叫ぶ。
俺はかろうじてそれを全て弾き落とし(剣持ってきて正解だったな)、何とか無事に済む。

カルマ 「おい、いい加減にしろ!! さもないと…」

アンジェラ 「わーーん! 来るな来るな来るなーーー!!」
アンジェラ 「私も、自由になるんだからーーー!!」
アンジェラ 「きっと、カルマよりもいい男捜して見せるんだからーーーー!」

カルマ 「こ、この……アホーーーー!!」(アホー:アンジェラ、もう容赦せんぞこの阿呆!!の略)

俺はなおも投げつけてくるアンジェラの攻撃をかいくぐり、アンジェラを捕まえることに成功する。
そして、俺はすかさずアンジェラの口に蓋をした。
10年前と…同じ方法だ。

アンジェラ 「んむっ!?」

カルマ 「……」

アンジェラ 「〜〜!!」

カルマ 「……」

俺はがっしりとアンジェラの体を掴んで離さなかった。
やや抵抗する感じを見せたが、アンジェラはその内抵抗を止めた。
俺は蓋をした口を離してやる。

アンジェラ 「ぷは…」

カルマ 「……」

アンジェラは、恍惚の表情を向けて俺を見る。
俺は眼を合わせなかった。
あの時と同じだ。
俺は同じように、接吻でアンジェラを黙らせた。
理由は覚えてない…だが、今は理由がある…か。

アンジェラ 「カルマ〜…乱暴だよ」
アンジェラ 「でも、あの時と同じだね…」

そう言って、アンジェラは笑みを浮かべる。
そうか…アンジェラはずっと覚えていたんだな、やっぱり。
何で、俺は忘れてしまったのか…この気持ちも。

カルマ 「…帰るぞ、アンジェラ」

アンジェラ 「待って…もう一度、約束して」
アンジェラ 「この樹の下で…約束して」

そう言って、アンジェラは大きく、太い古びた老木に持たれかかる。
同じ…か。
俺は約束を守ったのか?
10年越しの約束…そして、また新たに約束を交わすのか。

カルマ 「……」

アンジェラ 「……」

数秒間の沈黙。
俺は、迷うのを止めた。
もう…待たせるのはごめんだ。

カルマ 「…さっさと来い、貰って欲しいなら…な」

そう言って俺は帰り道を歩き始める。
その背中を追うように、アンジェラの足音が聞こえてくる。

アンジェラ 「…うんっ」

最後は、元気な声で着いて来た。





………………………。





『翌日 時刻9:00 南方政府・エントランス』


カルマ 「忘れ物はないな?」

アンジェラ 「うん、大丈夫」

署長 「じゃあ、任せたぞ」
署長 「後のことは向こうの自警団に聞け」
署長 「無事に…帰って来いよ?」

署長は名残惜しそうにそう言う。
特に、最後の言葉は何か感慨深い物を感じた。

カルマ 「心配はいりません…必ず帰ってきます」

アンジェラ 「そうそう! この私も着いてるんだから!!」

カルマ 「それが一番不安なんだがな」
署長 「それが一番不安なんだがな」

俺と署長が同時に言う。
すると、アンジェラはしゅん…と耳を垂れ下げて落ち込む。
やれやれ…結局昨日から変わりなしか。
原因は解決したかと思ったんだが、もうアンジェラ自身は変わりがないのかもしれないな。
そう納得することにした。
これ以上こいつを変えようとするのはそれこそ無茶だ。

カルマ 「では、これより特別任務の命を受け、アクアレイクへと向かいます!!」

アンジェラ 「行ってきま〜す♪」

まるでピクニックに行くかのような台詞でアンジェラは言う。
だが、それもこいつらしいのかもしれない。
言葉に危機感は全くない分、気は紛れるか…楽になりすぎても問題だが。
俺たちはメインゲートを抜け、歩いていく。
この先、何が起こるのか俺には検討もつかない。
ただ、確実に良くないことが起こる気がした。
そして、その鍵を持っているのが…この『歌声の石』だと俺は確信していた。





………………………。





こうして、俺たちの長い旅が始まる…。











Begining of travel♪











作者あとがき




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