Back




POCKET MONSTER The Another Story




『正義 〜鋼の翼を広げて〜』




また、お会いしましたね皆さん…Fantasic Company、管理者のYukiです。

今回でついに5人目のお話となります…そろそろ、全ての話の繋がりが見えてくるかもしれませんね。

…今回お話するのは、飛行タイプのポケモンが多く棲む、『風の村』が舞台です。
そして、そこで用心棒をやっている『エアームド』が、今回の主人公となります。





………………………。





ヒュゥゥ…



1年の中、その半分以上は雪に包まれている山村が北にあると言われる。
その村は『エアリアル』と呼ばれ、そこに棲んでいる者の9割以上は鳥ポケモン、及び飛行タイプのポケモンが棲んでいる。
村としては大きな方なのだが、棲んでいる人口はわずか100人にも満たない。
その厳しい気候と、少ない食料が原因と思われ、好んで棲む者が少ないことも理由として挙げられる。
だが、その多くの者が好まぬ村に、自分から望んで棲む者がここに居る…。
その者の名は……



? 「白羽(しらは)! ここに居たんだ…」

白羽 「…翼、か」

俺は今日も村で最も高い丘で風を感じていた。
俺の後ろからやや息を切らして呼吸を整えている、綺麗な翼を持つ女性がいる。
この少女の名は『翼』と言う。
この村の長老の娘で、次代の長となる女性だ。
歳は最近ようやく20となり、大人として認められるようになった。
腰まで靡く、その綺麗なロングヘアーの茶髪は立派な物で、ピジョット種としてはかなり美しいものだと聞く。
背中から生える翼も美しく、この村では『姫さま』とも呼ばれているほどだ。
別にこの村は王族制ではないのだが、子供たちがまるで童話に出てくる『プリンセス』のような綺麗な容姿からそう呼ぶようになった。
それが、他の村人たちにも広まり、今ではほとんどの人が『姫さま』と呼んでいるほどだ。
身長は160cm程度でそれほど高いわけではないし、低いわけでもない。
俺は170cmあるため、翼にとってはやや高いと言うことになる。

翼は、服についた雪をぱっぱと軽く払い、俺を真っ直ぐ見る。

翼 「白羽、またそんな格好で…」

白羽 「…いつものことだ、気にするな」

翼は、やっぱり…といった顔で俺を見て呆れる。
格好のことなのだが、俺は全く問題がない。
俺は鋼タイプのため、こう言った冷下には強い。
まぁ、飛行タイプでもあるため、氷タイプの技を喰らえば当然効くんだがな。

翼 「…せめて、マフラーくらいは」

白羽 「気持ちは嬉しいが、俺の翼に引っかかってズタボロになるのがオチだ…特に、お前の手編みとあればなおさら使えん」

俺はそっけなくそう言う。
別に悪気があって言っているわけではない。
翼の作ってくれた物を傷つけたくないだけだ。
翼もそれがわかっているからか、それ以上薦めようとはしなかった。

翼 「でも、今日は風が強いからもう戻った方がいいわ」
翼 「いくら春が近いと言っても、まだ雪が止むことはないんだから」

白羽 「…そうだな、なら戻るか」

俺はそう言ってその場から翼をはためかせ、一気に下へと降りる。
俺が住ませてもらっている家は丁度この下だからこうすればすぐに着く。

翼 「あっ、もう待ってよ白羽ー!」

後ろから翼の声が聞こえるが、俺はそのまま100メートルほど下まで降りてしまう。
そして、地上にゆっくりと足を着け、翼を折りたたむ。
既に俺の目の前には家が建っている。
もっとも、世間では小屋というらしいが…。
俺の家は木造だが、風にも雨にも強い優れ物だ。
中の保温性もよく、ここに食料を置いておけば、いちいち解凍しなくて済むのはありがたい。
俺はしばしその場で待つと、数秒して翼が俺の後ろに降り立った。



………。



翼 「もう…どうしていつも置いて行っちゃうの?」

白羽 「…なら、こちらからも聞くが。何故いつも着いて来る? 翼の家は上の方じゃなかったか?」

翼 「…もう、どうしてそう言うことを言うのかな。わかってるくせに…」

そう言って翼は膨れて横を向く。
気持ち位は嫌と言うほどわかっている。
翼は俺に好意を持ってくれている。
俺も同じ気持ちだが、あまり表立って出してはいない。
翼も俺の気持ちはわかっているはずだが、最近は大人の仲間入りをしたせいか、やけに俺にべったりくっつくようになってきた。
体裁も気にした方がいいと思うんだがな…。

白羽 「…まぁ、いい。中に入るなら早くしろ。体が冷える」

翼 「…うん」

俺がそう言って翼の背中を優しく押してやると、翼は嬉しそうに微笑んで家の中に入っていく。



………。



白羽 「…今、帰りました」

翼 「どうも、お邪魔します…」

男 「おお、今日は早かったな…まぁこの寒さじゃその方がいいわな」

俺たちが中に入ると、家の内装が全て目に写る。
と言うか、それくらい狭いのだ。
3人も入れば、その時点で満員だ。
入って左側にすぐ布団が二枚分包めて置いてある。
右側にはテーブルと椅子があり、その椅子のひとつにこの家の主人であり、俺の『雇い主』でもある、オオスバメ種の風原(かざはら)さんがいた。
右手には恐らくスープの入っているコップを持っていた。
テーブルには串に刺さった干し肉が数個並んでいる、食事中だったのか。

風原 「どうだ、今日は? 何かあったか?」

白羽 「いえ、最近は少し大人しいようですね…」

翼 「やっぱり、まだ狙っているのかしら…」

何の話かと言うと、ここ最近数ヶ月に渡ってこの村を狙っている『空賊』のことだ。
基本的にはオニスズメやオニドリル、ヤミカラスなどの種族で固められている、空のならず者集団だ。
こう言った空賊は取り締まる組織がほとんどないと言っていいため、こう言った偏狭の地ではまさに暴れ放題と言うわけだ。
そして、俺はここでそれらを追い払うために『用心棒』としてこの風原さんに雇われている。
給料は貰っていないが、その分宿泊、食事をを自由にさせてもらっている恩人だ。
この人のお陰で俺はこの村に滞在できていると言っていい。

俺がこの村に来たのは1年前だが、もう10年以上の仲間のように村の人たちは俺を慕ってくれている。
元々人口が100人にさえ満たない村だけに、すぐにでも村人の名前をほぼ全て覚えることが出来たからな。
ただ、少ない人口とは裏腹に村の土地はこの広大な山脈全てといっていいほど広かった。
だが、村人が住んでいる土地はこの場を含めた半径1km範囲程度。
1年の半分以上は雪に包まれ、食料すらまともに入りはしない。
短い雪の溶ける季節に出来る限り食料を保存しなければならないのだ。
幸か不幸か、冬場は外の気温で食料を保存できるので大量にあっても腐りはしない。
もっとも、毎日同じ物を食う羽目になるのだが、それは仕方ないことだった。

俺は、自ら望んでこの村にいるのだから。
1年前、翼に問いかけられたことがあった。

『どうして、あなたはここにいるの?』

それは、この厳しい環境の村に、どうしてまだいようとするの? と言う問いだった。
俺は、その時はっきりとこう答えた。

『…まだ、お前に恩返しをしていない』

それは、今でも鮮明に思い出せる……





………………………。





ヒュゥゥゥ…



白羽 「………」

俺は、食料もなく、水もない状態で旅を続け、ついに限界となった。
北へ北へと『逃げて』いる内、とうとう吹雪に包まれて体力を奪われて落ちたのだ。
風の流れが速い…匂いも掻き消えてしまっている。
幸い、水気は困らなくなったが、体温が低下し始めている。
いくら鋼タイプでも、ほとんど裸同然の格好でこの雪に埋もれるのは無茶だろう。
次第に俺の意識はなくなっていく……



………。
……。
…。



翼 「…ふぅ」

女性 「まだ、気がつかないのかい?」

翼 「うん、傷の方はもう大丈夫だけど…」

女性 「長い間、飛び続けていたんだろうね…鋭い鋼の翼がこんなにボロボロとなって」
女性 「大方、空賊にでも狙われたんだろうねぇ…」

俺の意識に声が響く。
次第に意識が覚醒していくのがわかった。
俺は、生きているのか?
もはや、その認識すらできなかった。
ただ、開いた瞼から差し込む微かなランプの光で俺は…目覚めた。

白羽 「…ここは?」

翼 「きゃっ!? め、目覚めた…?」

最初に見えたのは驚いた女の顔だった。
長い髪を整えながら、俺の顔をしげしげと見つめていた。

白羽 「……ここは、どこだ?」

女 「ここは、『風の村・エアリアル』…世界の中でも、北の北にある、山村さ」
女 「生きているなら、まずはあたしの娘にお礼を言いな! その娘がいなかったらあんたはとっくに凍死してるんだからね!!」

強い気迫の篭った女性の声に俺は少々圧倒される。
だが、悪意があるわけじゃない。
ただ単に、そう言った気性の人なんだろう…気迫の中に優しさが感じられた。
懐かしい…感じだ。

白羽 「…感謝する、本来なら死者となっている俺を助けてくれるとは思わなかった」

翼 「えっ? あ、はい…どうも……」

女 「はははっ! おかしな感謝の仕方だねぇ、普通にありがとうでいいじゃないか!!」

女性は笑っていた。
見ると、どうやらピジョット種のようで、やや大柄な女性だった。
ふくよかな体系で、エプロンを着ている姿はまさに母親と言った感じの女性だった。
娘さんと聞いたが、この女性もピジョット種なのだろう。
母親とは対照的に、物静かそうで、細身だった。
だが、その容姿は純粋に美しい。
綺麗な髪や翼はまるで天使のようだった。
特に目立ったのは長い髪。
真ん中は金髪でその左右が赤と、色がわかれていた。
ピジョット種特有の髪なのだろう、俺には珍しい物だった。

母 「そういや、あんたどこから来たんだい? そんなにボロボロにまでなって、どこに行くつもりだったんだい?」

白羽 「…『鋼の国 スティラス』からここまで来た。目的は…ない」
白羽 「ただ、逃げ続けただけだ…」

母 「スティラス…鋼の国ねぇ。なるほど、そこの出身かい」

翼 「お母さん、知ってるの?」

母 「聞いたことくらいはね…あんまりいい噂は聞かない国だよ」

そう言って母親は俺にコップを手渡す。
中からは香りのいいスープが入っていた。
飲め…ということらしい。

白羽 「…いただきます」

俺はそう言って、スープを口に運ぶ。
これまで冷え切っていた俺の体に体温が戻ってくる。
温度差が、かなり堪えたが我慢できないことはない。

翼 「ふふ…もしかして猫舌でした?」

白羽 「…そう言うわけじゃない」

俺はゆっくりとスープを飲み干す。
それを見て、女性はコップを受け取る。

翼 「お代わりはします? ええと…」

白羽 「白羽だ…お代わりはいい」

翼 「…白羽さん、えっと、私は翼と言います」
翼 「あっちのお母さんは…」

母 「あたしは佐々美! よろしくね白羽君!」

ふたりは笑ってそう自己紹介する。
俺は、この時…初めて家族と言うものの暖かさを知った。
そして、それから1週間、俺は傷の回復に努め、傷が完治したその日、俺は翼の前にいた。



………。
……。
…。



翼 「どうして、あなたはここにいるの?」

白羽 「……」

それは、会った最初の言葉だった。
悪意があるわけではない。
ただ、その一言と表情から、全てがわかった。
この村は、住むにはあまりにも苦しい環境だ。
食料を確保するだけでも苦難し、とても好んでこの苦行の生活に入る必要はない。
翼は、そう言っていた。
だが、俺ははっきりとこう答える。

白羽 「…まだ、お前に恩返しをしていない」

翼 「…え?」

白羽 「俺は、お前に命を救われた」
白羽 「一度は捨てた命だ…これから先、何があろうとも俺はお前のために生きよう」
白羽 「お前が望むなら、俺は命さえ捨ててやる」

翼 「な、何言ってるんですか! どうしてそんなこと言うんですか!?」
翼 「私のためだなんて…私はただあなたを看病しただけで」

白羽 「…迷惑ならそう言ってくれ」

翼 「…う」

俺はただちゃんとした答えを待った。
白羽が俺を拒絶するのなら、俺はこの場に留まる必要はなかった。
だが、翼はそんな答えを出せるほど、心の冷たい女ではない。

翼 「その…迷惑じゃ、ない…です」

白羽 「…そうか、なら俺はこの村に留まることにする」
白羽 「何かあれば、いつでも俺を頼ればいい…役立つかどうかはわからんがな」

翼 「…は、はい」





………………………。





翼 「白羽? どうかしたの?」

白羽 「…ん?」

風原 「おいおい…いきなりどっか行っちまうんじゃねぇぞ?」
風原 「奴らのことが気になるのはわかるが、体壊したら元も子もないぞ?」

白羽 「…あ、ああ」

とりあえず頷いておいた。
全く違うことを考えていた。
俺は頭を切り替えて、椅子に座る。
俺の隣には翼が座った。

風原 「奴らは多分、そろそろ総攻撃をしてくるだろうな」

白羽 「…何匹かかって来ても同じことです、俺がいる限りこの村には近づけません」

風原 「それが100の単位でもか?」

白羽 「……?」

言葉の意味がわからなかった。
100の単位…まさか。

風原 「奴らの数は尋常じゃない…特に、今回は本気で攻めてくる可能性があると、偵察の話だ」
風原 「いくらお前が強くても、1で100を『止める』のは無理だ」

白羽 「…それでも、止めます」

風原 「まぁ待て! どうせお前だからそう言うとは思ったけどな」
風原 「実は…」

男 「奴らだ! 風原さん、白羽さん!! オニスズメの大群が!!」

白羽 「! 風原さん、翼を頼みます!! 翼、絶対にここを出るなよ!?」

翼 「あ、白羽!!」

俺はすぐに外へと出る。
そして、その場から急上昇し、村全体を見晴らせる丘に登る。

白羽 「…あれか!?」

見ると、凄まじい数のオニスズメが視界に入った。
距離は1kmほど、すぐに村まで到達してしまうだろう。
俺は翼をはためかせ、雪を切って敵の大軍の中に突っ込んでいく。



………。



オニスズメ 「親分! 奴が来ましたぜ!?」

オニドリル 「へっ、性懲りもなく来やがったな…野郎ども! 奴には目もくれずに村を目指せ!! 目的は女一匹だ!!」



………。



白羽 「はぁっ!!」

オニスズメA 「げぴっ!」
オニスズメB 「がはっ!」

俺は鋼の翼でオニスズメを次々に落としていく。
だが、今回ばかりは数が多すぎる。
しかも…。

白羽 「くっ! こいつら、俺を無視して…!」

数体のオニスズメが俺を止める。
そして、その隙を拭ってヤミカラスが村の中へと入っていった。

白羽 「うおおおっ!!」

オニスズメX 「ごぼっ!」
オニスズメY 「ぴぎゃ!」
オニスズメZ 「ぶほっ!!」

俺はオニスズメを振り払い、村に戻ろうとする。
だが、その一瞬がまずかった。
俺の背後に大きな影が近づいていたのだ。

白羽 「!? 貴様は…!」

? 「残念だったな、アバヨ!!」

ゴバァッッ!!

白羽 「ぐっ!? あああっ!!」

振り向いた瞬間、俺は炎に包まれて地面へと落ちる。
意識は、そこで途切れた。



………。



オニスズメ 「親分! 女は確保しやした!!」

オニドリル 「今回の騒動で、随分兵隊がやられちまったな…まぁ目的のもんが手に入ったなら問題ねぇ! よし撤収だ!!」
オニドリル 「いやぁ、先生お見事! 今回は本当に助かりやした!!」

先生 「ふん、まぁ楽勝だな…金はちゃんと用意しとけよ?」

オニドリル 「へへっ、まぁ任せてください!」



………。
……。
…。



風原 「おい、いたかーーー!?」

男 「駄目です、ここにもいません!!」

風原 「く、まさか翼が狙いだったとは…すまん白羽、俺が着いていながら!」
風原 「白羽も戻ってこない…まさか、やられちまったのか!?」

男 「か、風原さん!! あ、あそ、あそこ!!」

部下のひとりがとにかく焦って俺に何かを伝えようとする。
そして、俺はその方向を見てみると、確かに驚くべき光景があった。

風原 「凍華(とうか)様…! 今お着きに!?」

そう、そこで翼を羽ばたかせていたのは、まさに伝説のポケモン『フリーザー』種の凍華様だった。
そして、その腕に白羽の姿があった。
火傷の痕が見られたが、応急処置が既になされているようだった。

凍華 「…ちょっ〜と遅くなっちゃった、ゴメンネ♪」

凍華様はお茶目顔でウインクする。
本当に自覚があるのだろうかこの人は?
凍華様は、この村に度々顔を出されるお方だ。
自分の立場を本当に理解してやっているのか全くもって不明だが、紛れもなくこの人は『伝説』のポケモン『フリーザー』種の『凍華』様だ。
蒼く輝く美しき翼にセミロングの整った蒼き髪。
まるで天女を思わせるような薄着に抜群のスタイル。
何もしなかったら、誰もがうっとりと魅入るほどの威厳を持った女性だろう。
し・か・し! この性格を除けばの話だ!!
この人は、伝説のポケモンとしての自覚が全くないのか、人前にぽんぽんと顔を出す。
翼なんかは結構喜んでたりするが、俺や白羽は呆れ返っている。
今回に関しても、自分から進んで厄介ごとに首を突っ込む始末だ。
まぁ、それに関しては何も言うまい…今回の騒動を静めるためなのだから。
あの人が村のために言い出したかどうかは甚だ不明だが。
とりあえず、俺たちはボロボロの白羽を家に担ぎ込んだ。



………。
……。
…。



白羽 「…く」

凍華 「や〜ん! 白羽君気がついた〜!? もう、お姉さん心配したんだからねぇ〜〜!!」

気がついたかと思うと、いきなり肌が冷気に包まれる。
また別の世界に飛び立ちそうだが、飛び立っていられない。
こんな言動をする女性は俺の中ではひとりしか知らない。

白羽 「頼みますから、体冷やすの止めてください…意識が途切れそうになります」

凍華 「いや〜ん♪ 白羽君ったら、そんなに恥ずかしがらなくても〜☆」
凍華 「ほらほら、ナイスバディのお姉さんがす・は・だ・で♪ 暖めてあげちゃうんだからぁ!!」

そう言って、服を脱ごうとする…が、さすがに冗談だろう。
俺はその隙に体を起こして立ち上がろうとする。

凍華 「さ〜て、それじゃあ看病開始ー!!」

白羽 「…ん? もがっ!!」

風原 「お〜い、白羽目覚めたか? って、おい!?」

凍華 「んふ〜! 白羽君ってゴツゴツしてるのかと思ったら、結構素肌は柔らかいのね♪」

白羽 「いいから、服を着てください!! 若い男に対して何やってるんですか!! 後、返って体冷えます!!」

凍華 「あは〜ん♪ 白羽君だったら私処女を捧げてもいいのよ〜?」

この人は冗談なのか本気なのかわからない。
9割後者の可能性があるが…。
正直、本気で気がおかしくなりかねない。
裸で俺に抱きついているのだから…。
しかも俺の方も服が燃え尽きたせいか、ほとんど裸同然だった。
これは…どう言い訳したものか?

風原 「…ああ、ったくそう言うことはラブホテルでやってくれ!」

白羽 「あんたは、これが本気だと思ってるのか!?」

風原 「冗談だ、どうせ凍華様のお遊びだろう? いいから早く服を着ろ」
風原 「…凍華様もですよ?」

凍華 「ぶ〜っ、どうしていい所であなたが来るのかなぁ…? もう少しで甘〜い、ラブラブな展開が待っていたのに〜!」

白羽 「そう言うことは官能小説の中でやってください、この小説の内容では無理です」

凍華 「いいじゃない♪ ここで一気に大人の仲間入りを〜☆」

白羽 「俺は既に大人です、それに凍華様はそんなことするためにここに来たわけじゃないでしょうが」

凍華 「え? 白羽君を本気で落とすために来たんだけど?」

白羽 「………」
風原 「……」

駄目だ…本気の目だ。
正直、この人誰か捕まえてください。

風原 「…はぁ、いい加減まともに話しましょうよ? それといくら500歳過ぎでもそのスタイルは抜群なんですから、少々白羽には刺激が強すぎます」

凍華 「あら〜? 風原君だってまだまだ若いんだから、刺激的じゃないの?」

風原 「俺には奥さんがいましたからね、そこまで動揺はしませんよ」
風原 「…とにかく、早く服を着てください」
風原 「いつまで裸で抱きついているんですか! 他の人間が来たらどう誤解解けばいいのか…」

凍華 「え〜? いいじゃない既成事実ってことで♪」

白羽 「とにかく服を着る! そして正座!!」

凍華 「…はい」

俺が強く叱ると、しゅん…となって凍華様は服を着てその場に正座する。
子供かこの人は…。

白羽 「で、今日は何でまた?」

俺も正座して真正面から凍華様を問いただす。
傍から見たら凄い光景だろうな。

凍華 「え〜っと…忘れちゃった♪」

ぺろっと舌を出して可愛くそう言う。
正直、俺が人の親なら間違いなく拳骨の一発はかましているだろう…。
どうしたもんだろうこの人?

風原 「俺から説明するよ…凍華様は、空賊をどうにかするためにここに来てくださったんだ」

白羽 「……」

凍華 「…そうなの?」

風原 「……」

駄目だ…本当にこの人どうしたらいいんだろう?
俺は、何か重要なことを忘れている気がしてならない。
いや、忘れるわけないだろうが! 翼はどうしたんだ!?

白羽 「そう言えば、翼は!?」

風原 「翼は…その、すまん。奴らに連れ去られてしまった…」

白羽 「!? 翼、が…!」

俺は途端にがっくりと力を失う。
何のために今までこの村に留まった!
俺がいながら、こんなことになるとは…!

凍華 「え〜!? じゃあこれで白羽君は完全フリーよね!? ってことは私にもチャンス♪」

白羽 「俺、翼を探します!!」

風原 「待て白羽! お前がひとりで行ってもどうにもならん!!」

凍華 「あれ〜えっと〜?」

白羽 「だからと言って、このまま待っていろと言うんですか!?」
白羽 「俺は命など惜しくありません…翼のためならば全てを捨てて見せます!!」

風原 「いいから、落ち着け!! 追いかけたいのはこの村にいる全ての者の心だぞ!?」

白羽 「…! は、はい…」

凍華 「あの〜ちょっと〜?」

風原 「それから、自分の命がいつでも捨てられるなどと思うな! 悲しんでくれるものがいる内は、勝手に死んでいけると思うなよ?」

白羽 「! すみませんでした…」

凍華 「うう〜…ねぇってば〜」

風原 「今は休め、お前は本来傷が深いんだ」
風原 「万全にななるまでとは言わん、せめて今日は休め」

白羽 「…はい」

凍華 「うう…ごめんなさ〜い、真面目になるから無視しないで〜〜〜」



………。



白羽 「…数はどの位でしょうか?」

風原 「さてな、もはや数など何も意味は持たん…凍華様がおられるのだからな」

凍華 「もちっ、まっかせて! 空賊なんて一網打尽にしちゃう♪」
凍華 「そんで白羽君にもうすっごく褒めてもらうんだから☆」

白羽 「…翼は、何故攫われたのでしょうか?」

疑問のひとつだった。
わざわざこんな所まで来て、ただの『女』ひとりを攫う理由はないはずだ。
つまり、翼には何か秘密でもあるのだろうか?

風原 「大方、『シルビィ』様が目当てだろうな…」

白羽 「…シルビィ? 誰ですかそれは?」

風原 「俺も詳しいことは知らん、ただ言える事は…シルビィとは『ルギア』の名だ」

白羽 「ルギア…? 潜水ポケモンと言われる…あの?」

凍華 「翼ちゃんは確か最近、儀式受けたんだよね? だったら、翼ちゃんはもうこの村で一番強い血を持っていることになるね」

白羽 「血…? 何のことなんです?」

少なくとも、それは村の深い歴史に関わることだろう。
俺にはわかるはずもない。

風原 「翼はこの村の発祥からずっと繋がっている伝統ある血を引く『姫さま』なんだよ」

白羽 「は? 姫って…」

少なくとも、それはアダ名のようなものじゃないのか?
だが、風原さんが言っている言葉は冗談には聞こえない。
そして、それを裏付けるように凍華様が。

凍華 「ここ、エアリアルは、昔はひとつの国だったのよ」
凍華 「今からもう1000年近くは前になるわね…この国には1000人以上の人口がいたわ」

白羽 「1000人!? それほどの人口が何故…?」

凍華 「…第2の黙示録よ。って言ってもわからないでしょうけど」
凍華 「私は、第3期のフリーザーだから、その場に居合わせたわけじゃないわ」
凍華 「ただ、言えることは…その黙示録によって、全世界のポケモンの6割は滅びたと言われるわ」

白羽 「6割…!」

風原 「俺も初めて聞きますねそれは…この村にそこまでの伝統があったんですか?」

凍華 「ええ、翼ちゃんは少なくともその初代の姫君の血を引いているのよ」

それは驚きだ。
つまり、翼は本当に『姫さま』だったのか…?

白羽 「ですが、それとルギアとの関係は?」

凍華 「当時、第2の黙示録の時代、エアリアルはルギアが守護していた国なのよ」
凍華 「そして、第2期のルギアが産まれた土地でもあるのよ」

風原 「!? つまり、今のルギアは…」

凍華 「そう、ふたり目よ…あちらさんとしてはまだまだ1000歳にも満たない小娘だって言ってたけどね」

白羽 「小娘…女なのですか?」

凍華 「そうよ? 名前聞いて想像できない? シルビィちゃん」

なるほど、そう言われれば想像できなくもないな。
しかし、1000歳にも満たない小娘とは…。
伝説のポケモンの中でも、凍華様以上に年齢の幅が広いんだな。

凍華 「まぁ、『ホウオウ』種の『凰羅』様は第1期でもう10000歳は軽いって言われてるしねぇ…」
凍華 「しかも、数えてるわけじゃないから曖昧らしいし、実際には地球創世記からいるとか何とか…確か空牙様の先輩らしいんだけど」

白羽 「…と、とりあえずその話は置いておきましょう」

言い出したら切りがなさそうだ。
今は翼を救うことを考えなければ。

風原 「とりあえず、翼はシルビィ様の鍵を握っている…と向こうは思い込んでいるわけだ」

白羽 「思い込み?」

凍華 「そうね、別に歴史上関わりがあるだけで、別に翼ちゃんがシルビィちゃまを呼び寄せる鍵にはならないんだけどね」
凍華 「まぁ、奴隷として売りつけるだけでもかなりの額になるんでしょうね、翼ちゃん容姿はいいから」
凍華 「深い歴史の血筋となれば、種付けにも狙われる可能性あるし、助けるなら早くしたほうがいいわね」

白羽 「とりあえず、明日の早朝に出ます。凍華様、お願いします!」

凍華 「は〜い、お姉さんにまっかせちゃって♪」

風原 「俺も明日は一緒に行く、場所はそんなに離れてないだろうが、時刻はどうする?」

白羽 「朝の4時に出発します、できるなら奇襲を仕掛けたい」

それ位ならば、少なくとも大抵の鳥ポケモンは眠っている。
俺も例外ではないのだが、夜は目が全く利かない。
夜でも目が利く鳥ポケモンは、ホーホーやヨルノズク、後はヤミカラス位だろう。
無論、凍華様のような鳥ポケモンであれば何の問題もないのだが。

風原 「…ふむ、夜襲には最適だが、返って裏目に出ないだろうか?」

白羽 「大丈夫ですよ、こっちには凍華様がいるんですから」

凍華 「そういうこと! もうじゃんじゃん頼っちゃって!!」

凍華様は得意げに言う。
本当に大丈夫かどうかはわからないが、この人の性格上煽てた方がノルだろう。
下手なことを言って暴走されても問題だからな。
とりあえずは、翼の救出が最優先だ。

風原 「よし、それならもう寝よう! お前も体力を回復させておけ」

白羽 「ええ、そうします…」

凍華 「だったら、私が添い寝しちゃう♪ 布団ふたつしかないし☆」

風原 「凍華様は別に布団いらないでしょうが…とりあえずひとりで寝てください」

凍華 「や〜ん! 離して〜!! 床が固いから嫌〜!!」

凍華様は風原さんに引きずられて部屋の隅に安置される。(?)
俺は布団に包まって休む。
すぐに眠気は来なかった。
だが、何故か風原さんの言葉が思い出された。

『悲しんでくれるものがいる内は、勝手に死んでいけると思うなよ?』

あの言葉…それは風原さん自身の言葉だ。
風原さんは、2年前に奥さんを亡くしている。
その時、風原さんはこの村の警備担当で、部下を率いて当時の空賊から村を守っていた。
今の空賊とは少し違うらしいが、数としては以前よりも多かったらしい。
今現在、風原さんの部下はわずか5人しかいない。
俺がいることもあるのだが、空賊の出現頻度が圧倒的に下がったことだった。
2年前、空賊は300人を連れてこの村を襲ったそうだ。
風原さんは、当時10人の部下を連れて村の防衛に当たったそうだ。
だが、結果は無残なもの…さすがに30倍の数を抑えることなど出来るはずもなかった。
その時は、凍華様のお陰で空賊は全滅となった。
だが、風原さんの奥さんは、その時の戦いで命を失っていた。
家を焼かれ、そのまま焼死したらしい。
むごい話だ…その場に直接居合わせていた風原さんはそれ以来、炎に恐怖を抱くようにさえなってしまった。

あの時、風原さんは死ぬつもりで戦いに出たらしい。
だが、死んだのは守るべきはずの自分の妻だった。
今回俺が飛び出したのは、それと全く同じような光景だったのかもしれない。
風原さんがあれほどまでに強く俺を止めたのは、自分と同じ思いをさせたくなかったからだろうか?
それとも、翼に…だろうか?
どちらにしても、風原さんはあの時の光景が頭に過ぎったのだろう。
だからこそ、それを振り切るためにも今回は同行をすることになったのかもしれない。
通常ならば凍華様がいる時点で他の戦力を割く必要はないはずなのに…。
考えれば考えるほど、俺は眠気がなくなっていくことに気がつく。
しばらく気絶していたからな…眠れという方が無茶なのだろうか?
だが、ここは無理にでも眠るべきだろう。
体力を回復させるには眠るのが一番だと、どこかの格闘家が言っていた気がする…あれも技なのか?
俺はそう思うと、眠りに意識を落としていく……





………………………。





『同時刻 空賊アジト』



オニドリル 「へへ、ありゃあいい女だ、相当な値打ちになるだろうな」

オニスズメ 「へへ、これで雨水や雪をすする必要もなくなりますね!」

オニドリル 「おうともよ! こんな偏狭の地で狙ってた甲斐があったってもんだ」

オニスズメ 「ちなみに、今いただかないんですかい? どうせなら売る前にいただいちまった方が…」

オニドリル 「甘ぇよお前は! あのピジョットがただのピジョットだとでも思うのか?」

オニスズメ 「へ? 別に色違いには見えませんが?」

ゴンッ!

オニドリル 「タコ! あれはかなり古い王家の血筋よぉ! つまり、処女の方が高く売れるのよ…」

オニスズメ 「そうなんすか!? でも、親分なんでも知ってるんすねぇ…!」

オニドリル 「おおよ! そうでなきゃ空賊なんて寂しい仕事してねぇぜ!!」

ヤミカラス (…頭がよかったら普通まともな職に就くと思うんだけどな〜)

そんな感じで俺は、扉の窓から親分のマダラ様と付きっ切りのオニスズメ、マツジを見ていた。
一応、部屋の前の警備なのだが、さすがに敵が来るわけもないよな…。
そんな感じで扉の窓から視線を廊下に戻す。
静か過ぎて、部屋からの声が聞こえまくる。
こりゃ、宴会もありうるな…本当に高値で売れるのか?
まぁ、綺麗なのは認めるけどね…。

マダラ 「おい、ジロウ! お前、ここはいいからちょっと牢屋の見張りと変わってやれ!」

ジロウ 「あ、はい! わかりました!」

夜になると、よくこうやって交代させられることがある。
ヤミカラス種は夜でも眠らなくていいため、睡眠をほとんど必要にしないのだ。
そのため、他の種族と交代で見張りをやることは多い。
はぁ…それでも疲れは溜まるってことわかってんのかなぁ?
最近めっきり眠った記憶がない。



………。



翼 「……」

見張り 「おお、ジロウ悪いな…どうせ親分また無茶言ったんだろう?」

ジロウ 「ああ、まぁ気にするなよ…いつものことだし」

見張り 「悪いな、いつか飯奢るからよ!」

ジロウ 「期待しないで待ってるよ!」

翼 (…見張り、変わるんだ)

と言うことは、もうすっかり夜なのだろう。
ここでは、日の光さえ入ることはなかった。
ランプの灯火だけが周りの状況を教えてくれる。
段々怖くなる。
もう助けは来ないんじゃないだろうか?
ここで、どんな辱めを受けるんだろう?
考えれば考えるほど、恐怖が頭を支配していく。

翼 (やだ、怖いよ…助けて、白羽)

ジロウ 「…あんた、今暇かい?」

翼 「…?」

突然、見張りの人がそう言い出す。
周りには他の気配はない。
と言うことは、私に向かっていっているの?

ジロウ 「聞いてるかい? ちょっとこっちは暇なんだ」

翼 「……」

どうしよう。
声からはあまり悪そうな感じはしない。
ヤミカラス種がどう言った種族かはあまり知らないけど、全身黒ずくめの服を着て、屋内だというのに大きな帽子を被っている。
右手には細身の槍を持ち、じっとこちらを見ていた。

ジロウ 「…はぁ、可愛そうに、すっかり怖がって…口も利けなくなっちまったのか」
ジロウ 「あ〜あ、まぁいいや…俺はジロウ。見た目通りヤミカラスだ」

その人は私に背中を見せて勝手に話し始める。
私の口が利けないと思い込んだようだ。

ジロウ 「まぁ、こんな空賊に今は身を置いてるけど、親分にはちょっと恩があってね」
ジロウ 「自分としちゃあ、あんまりこの仕事に向いてないと思ってるんだけど、その恩を返すために今こうやって仕事をしてるってわけだ」
ジロウ 「あんたは、運が悪かった…今回ばかりは親分も本気だったみたいだ」
ジロウ 「リザードンの用心棒まで雇って、あんたには相当な魅力があるんだな…」

翼 「……」

私は答えなかった。
この人は、多分悪い人じゃない。
だけど、空賊には違いない、こちらから信頼を置くわけにはいかない。

ジロウ 「はぁ…いいよなぁ、あんたみたいに美人な恋人がいる男」
ジロウ 「エアームドのあの用心棒、あんたの恋人なんだよな」
ジロウ 「ああ…羨ましい、俺には絶対できねぇだろうな」

何だか愚痴り始めてしまった。
今までよっぽどいい思いをしなかったのだろうか?

翼 「…あの」

ジロウ 「? 何だ、喋れるのか?」

翼 「今…何時ですか?」

ジロウ 「あ? ああ…時間か、えっと…夜中の10時だな」

ジロウさんは自分の懐から時計を取り出してそう言う。
もうそんなに時間が経っていたの?
今頃、白羽はどうしてるのかな?
私を探しているかもしれない…。
私は信じるしかなかった。
ただ、白羽が助けに来るのを。





………………………。





『翌日4時 風原宅』



白羽 「…む」

何だか、寒気を感じる。
分厚い毛布に身を包んでいるというのに、この寒さは異常だった。
俺だから、それほどでもないが、並みの鳥ポケモンであれば風邪を引く所ではないぞ。
とりあえず、弱音は吐いていられないので俺は体を起こそうとする。

白羽 「…ん、体が重いな…ダメージが残っているのか?」

俺はそう思って立ち上がろうとするが、首筋に冷たい感覚を感じてふと横を見た。

凍華 「ふみゅ〜…」

白羽 「……」

いつのまに俺の布団に潜伏していたんだ?
この人、本当に真面目にやっているのだから怖い。
俺はとりあえず、凍華様を引っぺがそうとする。

凍華 「あん♪ 白羽君って上手なのね…あはっ☆」

白羽 「どんな夢を見ているんだ…!」

どうせ、ロクでもない夢なんだろう。
これ以上は少年法に引っかかるというのに…。
俺はとりあえず、往復ビンタで凍華様の頬を張る。(ゲーム中では覚えません)

凍華 「うにゅ…? あれ?」

凍華様は現実世界に戻って辺りを見回す。
まだ向こう側に未練があるのか?

凍華 「何だ、夢か…」

白羽 「…人をダシに変な夢を見ないでください」

風原 「何だ、遅かったな白羽…」

白羽 「? 風原さん、逆に聞きますが早いんですね…」

今まで風原さんは別に時間に疎いわけではなかった。
それにしても俺より早く起きることは余りないんだがな。

風原 「ふむ、まぁ翼のことだしな…早く助けてやりたいのは俺も同じだ」

白羽 「はい」

風原さんはそう言って俺にコートを渡す。
風原さんが俺に渡すのは初めてのことだった。

白羽 「…風原さん、俺は」

風原 「いいから着ておけ、そいつは凍華様が作ってくれた防火コートだ」

白羽 「!? 防火…」

風原 「お前を落とした奴は、間違いなく炎タイプのポケモンだ」
風原 「それも、リザードンだろう…偵察の話から聞いたんだがな」
風原 「凍華様が寝る間も惜しんでコートに水の理力を込めてくれたんだ、感謝しておくんだな」

白羽 「…凍華様」

凍華 「うにゅ…まだ眠いよ〜」

当の本人はそんな素振りを全く見せて…いない?
イマイチ微妙なところだが、どうせ眠気が過ぎたらいつも通りになるだろう。
あえて、ここで礼は言わずに心の中で感謝した。
少なくともこれがあれば、炎に対してもある程度強くなれるだろう。

風原 「さて、なら行くか! 外はまだ暗いが、空の上なら障害物は気にしなくてもいい!」

白羽 「はい、凍華様! 行きますよ!!」

凍華 「ふぁ〜い〜…」

イマイチ通じているのかわからないが、とりあえず着いてきてくれる。
俺たちは外に出ると、外は一層の雪が降っていた。
返って好都合かもしれない、体力は消耗するが、夜襲するには相手も警戒を弱めるかもしれない。



………。
……。
…。



白羽 「…ち、雪が」

風原 「白羽、あまりスピードを出すな! まだ距離は長い、体力を残しておけ!」

凍華 「そうそう、あまり無理したら後に響くよ〜? あ、それとも私の背中に乗る?」
凍華 「何だったら、胸に飛び込んできてもいいよ!!」

白羽 「後退します」

凍華 「あ〜ん、どうしてそう真面目なの〜」

風原 「いいから、凍華様は先行してください! こう雪が酷くては進行に支障が出ます!」

凍華 「もう、だらしないなぁ…これ位どうってこと無いのに」

そう言いながらも凍華様は周りの雪を操作する。
ただ、雪や冷気は操作できても風の強さだけは替えられない。
このまま突き進むしかないだろう。

風原 「よし、これで多少は楽になるな…そのまま先導お願いします!」

凍華 「うう…仕方ないなぁ」

白羽 「後、どの位なんですか?」

風原 「偵察によると、後数キロと言った所か」
風原 「正確な場所はわからん、アジトだからな…相手もカムフラージュはしているだろう」

凍華 「そんなので見つかるの〜?」

白羽 「見つかりますよ、こちから見つかればね」

風原 「なるほど…敵に身をさらして特定しようというわけか」
風原 「虫の集まる場所には巣がある…それと同じ原理だな」

白羽 「そう言うことです」

こちらから探すのは無理でも、さすがに相手のアジト付近には索敵部隊がいるはずだ。
恐らくは、夜目の利くヤミカラスやホーホー、ヨルノズクが回っているだろうな。

凍華 「さっすが白羽君! 頭いいね〜お姉さんもうメロメロになっちゃう♪」 (ゲーム中ではメロメロにはなりません)

白羽 「それはいいですから、しっかり先行してください」

風原 「……」

こんな調子でしばらくは山の下流側に向かって飛ぶ。
そして、雪がかなり緩やかになった頃、ひとつの節目を見る。



………。
……。
…。



白羽 「! いましたね、索敵部隊が」

風原 「よし、俺が先行しておびき寄せる…お前はアジトを特定しろ!」

白羽 「了解です!」

俺がそう言うと、風原さんは相手の近くまで一気に加速する。
さすがにスピードは全く衰えていない、あれならば敵に捉えられることも少ないだろう。

ヤミカラスA 「何だ! 敵!?」
ヤミカラスB 「まずい、アジトに連絡だ!!」

白羽 (どうやら、こっちの思うツボだな)

敵の一体がアジトに知らせるため逃げ帰る。
俺はそれを見て敵の後をつける。

凍華 「あれ? 風原君放っといていいの?」

白羽 「大丈夫ですよ、ヤミカラスの一匹くらい…あの人はそれほど弱くありません」

俺は一度風原さんを見る。
すると、余裕なのか、親指を立ててサインを送ってくれた。

凍華 「ふっふ〜ん、これでふたりっきりだね♪」

白羽 「あそこがアジトか…あんな所に堂々と構えてるとはな」

そこは、山の中腹だった。
その途中に堂々と穴が空けてある、間違いなくあそこだ。
問題はすぐに入るかどうか。
しばらくすればすぐに敵がわんさかと出てくるだろう。
風原さんが陽動となっているなら、ここで敵が出るのを待った方がいいか。



オニスズメA 「敵襲ーーー!! 外に敵がいるぞ!!」
オニスズメB 「中に入れるな! 出撃だーーー!!」
オニスズメC 「怪しい奴は全てぶち殺せーーーー!!」

次々と敵が中から出てくる。
その全てが風原さんを狙って飛び立つ。
数十の数が出て行くのを見届けると、俺と凍華様は中に入っていく。



………。



白羽 「敵は…いないか?」

凍華 「う〜ん、残念だけどいるみたいだね…数人の気配を感じるわ」

白羽 「その程度なら…!」

凍華 「あ、ちなみに私は一旦外に出ることにするよ♪」

白羽 「…は?」

いきなり凍華様はそう言い出す。
突然何を言い出すんだ?

凍華 「あのままじゃ風原君死んじゃうかもね〜、ってなわけで!」

そう言って凍華様は再び外に出てしまう。
何しにここまで来たんだか…。
だが、それもまぁいいか。

白羽 (凍華さんが行くなら、風原さんは安心だろう)

問題はどこに翼がいるか…。
恐らくは地下…と言うか下だな要は。
牢屋なんて物は脱獄されないためにそう言った場所に作るだろう。
しかしながら、そう言う場合上に作ることもあるのか。

白羽 「こういう場合、盗賊とかならば相手の服を奪って変装するものだが…」

俺の場合は翼でばれるためまず無理だな。
と言うことは無理やり内部の者から聞き出すしかないか?
だが、そう簡単に口を割るとも思えない…ということは、ボスをどうにかした方が早いか?

白羽 「む…!」

敵のひとりが視界に現れる。
俺は近くにあった物陰に潜んで様子を見る。
見ると、ヤミカラスのようだ。
時刻はすでに6時になろうとしている。
思ったよりも時間がかかってしまったな、これでは夜襲ではなく朝襲だ。
ヤミカラスは回りに気を配りながら辺りを確かめる。
俺の侵入に気付いたのか?
しかしながら、すぐに別の方向に走り去ってしまった。

白羽 「? まさか…」

俺はもしやと思い、あのヤミカラスの走った方に向かう。
どうやら、下に向かっているようで、緩やかなスロープになっていた。
他の敵はいないようだ…随分ずさんな物だな。
外からの襲撃を全く予想していなかったのか、それとも上が無能なのか…。
少なくとも他の敵がいなかった。



………。



ジロウ 「…よっと、おい起きてるか!?」

翼 「…ジロウさん?」

目を覚ますと、ジロウさんの顔があった。
だけど、私は牢屋の中のはずなのに。
よく見ると、ジロウさんが牢屋を開けて私を外に出そうしていた。

ジロウ 「早く外に出るんだ! 逃げるなら今しかない!」

翼 「え? でもジロウさん、どうして…?」

ジロウ 「…あ〜ほら、そう言う気分なんだよ!」

白羽 「…そう言うことなら、こっちに渡してもらおうか?」

ジロウ 「!?」
翼 「…! 白羽!!」

ジロウさんの後ろに私は待ち焦がれた男性の姿を見る。
紛れもなく鋼の翼を持つ、白羽本人だった。



翼 「白羽!!」

白羽 「…翼、すまない。遅れてしまったな」

翼 「いいの! 来てくれただけで、嬉しい…!」

翼は俺の胸の中で泣きじゃくる。
怖かったのだろう、今まで。
俺は翼を抱きしめ、ヤミカラスの男を見る。

ジロウ 「ちぇ…随分早い到着のナイト様だな。まぁいいや、俺に着いて来なよ…」

そう言って、男は先導して歩き出す。
こいつは一体何を考えている?

ジロウ 「とりあえず、敵じゃないってことだけは知っておけ」

白羽 「保障はどこにある?」

ジロウ 「疑り深い奴だな、まぁ嫌いじゃないぜ…簡単に相手を信用する奴なんてそれこそ信用できない」

白羽 「…ほう」

どうやら、嘘はないようだな。
しかし、だとしたら余計に疑問は浮かぶ。
何故、危険を冒してまでこんなことをする?

ジロウ 「あまり考えるなよ? 俺は疑われるのは嫌いじゃないが観察されるのは嫌いなんだ」

白羽 「なら、答えろ…何故こんなことをする?」

翼 「そうですよ、どうしてこんな危険なこと…もし捕まったら」

ジロウ 「いいんだよ、もう恩は返したからな」

白羽 「恩?」

ジロウ 「とりあえずそこにいろ、絶対出てくるなよ!?」

そう強く言いつけてジロウは先の広間に出る。
俺たちは壁際に身を寄せ、できる限り見つからないようにする。



ジロウ 「おい大変だ!! 捕虜が脱走したぞーーー!!」

ジロウはそう叫ぶ。
その瞬間、ドタバタと足音が聞こえ、10人ほどの男が走って来た。

マツジ 「どうした!? 何があったんだ!?」

マダラ 「捕虜が、どうした! 逃げたのか!?」

ジロウ 「はい! 外に出て行きました!!」

マダラ 「んだとぉ!? あれは重要な金づるだ! てめぇらすぐに連れ戻して来い!!」

マツジ 「へ、へい!!」

ジロウ 「わかりました!!」

ジロウがそう答えると、ボスを残して全ての兵隊が外に出てしまった。
どうやらここまで見越してくれていたようだな。
後は、俺の出番だな。

マダラ 「ったく、使ぇねぇ奴だ…何のための見張りなんだよ!!」

白羽 「出来損ないはお前の方だ…!」

ドガァッ!!

マダラ 「げばっ!! な、何だと…!?」

俺はボスが背中を向けた瞬間、背後から鋼の翼で頭部を殴る。
その衝撃でボスは壁際まで吹っ飛ぶ。
意識が飛んでないだけでもマシな方だな、気絶させるつもりだったんだが。
ちなみに、翼は廊下に残している。
下手に気付かれるとまずいからな。

マダラ 「て、てめぇは用心棒のエアームド! 一体いつの間に…!?」
マダラ 「いや待て! まさかてめぇが女を…!?」

白羽 「だったらどうする?」

俺は強気にそう言う。
無論このままにするつもりはない。
少なくとも二度とこんなことが出来ないようにほど打ちのめす。

マダラ 「へ、へへ…馬鹿な野郎だ! ひとりで何ができる!」

白羽 「少なくともお前を打ちのめす事くらいはできる」

マダラ 「へっ、馬鹿がまた同じようにやられるがいい! 先生ーーー出番です!!」

ズシン! ズシン!!

白羽 「…!?」

突然強烈な足音が響く。
まさか…例のリザードンか!
てっきり外に出ていたのかと思ったら…用意周到なことだな。

用心棒 「ほう、まさか生きてやがったとはな…よっぽど運がよかったんだな」

白羽 「なるほど、あの時背後から不意打ちをしてくれたのはお前だったか」

相手の用心棒は、2メートルはあろうかと言う体格で、全身筋肉の塊。
赤い肌に鋭い牙、大きな翼に尖った角。
手足の爪も鋭く、近づいただけで熱くなるほどの熱気。
こいつは…確かにやばいな。

白羽 (だが、こっちにも凍華様が作ってくれたコートがある、ただでは倒れん!)

用心棒 「早速で悪いが、燃え尽きろ!!」

ゴオオオオォォォォッ!!!

白羽 「ぐっ!?」

俺は両腕を交差させて顔面を守る。
コートのお陰で、多少は平気だが、それでもかなり辛い。
やはり直撃ではどうしようもないのか!?

白羽 「!!」

俺はどうにか火炎放射から逃れる。
ダメージはある。
次も同じならその時点でまずいかもしれない。

用心棒 「よく耐えたもんだ…だがこれで終わりだな!!」

翼 「このぉっ!!」

ドカッ!

白羽 「!?」

用心棒 「あ〜ん? 何だいまのは?」

翼 「今度は私が相手よ! 来なさい!!」

マダラ 「何だよ! まだここにいたのか!!」

白羽 「馬鹿な! 何故出てきた!!」

翼 「白羽だけが傷つくのは見てられない! 私も戦う!!」

マダラ 「勇ましいねぇ…だがここまでだな!!」

バチッ!!

翼 「あぐっ!!」

マダラは翼に近づき、ビンタを浴びせる。
翼は吹っ飛び、地面に転がる。
そしてマダラは翼の腕を掴んで引き寄せる。

翼 「く、は、離して!!」

マダラ 「うるせぇ! おい、そこのエアームド!! 動くな!!」

白羽 「……ち」

予想はしていたが、な。
俺が考えているほど翼は大人しくなかったってことか。

マダラ 「へっへっへ…いい子だ、さぁ先生! 今の内に!!」

用心棒 「けっ、戦いとしてはつまらんが、これも仕事だからな…悪く思うなや!!」

ゴオオオオオォォッ!!!

そう言って用心棒はまた口から火炎放射を放つ。
今度はさっきよりも火力が強い。
これ以上は…持たないか。

翼 「嫌ぁ、白羽ぁ!! 離して、白羽がぁ!!」

マダラ 「は〜っはっはは!! 情けないもんだな、女にうつつを抜かすからこうなるのさ!!」

カッ! コキィンッ!!!

マダラ 「はばっ!?」

翼 「!?」

用心棒 「?」

白羽 「…な、何?」

突然、背後の方から冷気を感じる。
それも、かなりの物だ…そして翼を捕まえていたボスの顔は完全に凍っていた。
そして、俺の背中を優しく抱きとめてくれるその腕からは体温が冷えていく…。
間違いない…この人は。

凍華 「もしかしたらと思って来てみたら…やっぱりね」

翼 「凍華様!!」

用心棒 「と、凍華だとぉ…!? まさかあの伝説のポケモン、凍華か!?」

凍華 「あら、知ってるのなら話は早いわね♪ 白羽君をここまで痛めつけてくれたのは高いわよ?」

用心棒 「へっ、幾ら伝説のポケモンでも氷が炎に勝てるかよ!! 燃え尽きな!!」

ゴオオオオオオオォォォォッ!!

凍華様に向かって火炎放射が放たれる。
凍華様はそれに対して右手を翳す。

ジュウウウウウッ!!!

用心棒 「な、何ぃ…!?」

凍華 「こんな程度の炎じゃ、私のハートはキュンとならないわ〜、出直しなさいな☆」

ヒュゴォォォッ! バキィィンッ!!

一瞬の風、そして次の瞬間、空気がまさに切り裂かれたような音が鳴り響く。
そこにあったのは、絶対零度の棺だった。
まさに○リージング・コ○ィンだな…黄金○闘士が全員がかりでも破壊できないだろう。
さらば、用心棒…。

凍華 「さぁ、これで終わり♪ 帰りましょうか☆」

白羽 「は、はは…外は、どうなっているんですか?」

風原 「もう終わっているよ…凍華様が全滅させてしまった」

ジロウ 「…ったく、あんたら何者だ? 伝説のポケモンまで味方につけているなんて」

翼 「ジロウさん! 無事だったんですね…」

ジロウ 「そこの凍華様のおかげでね…その人、無茶しすぎだぜ」

風原 「はははっ、まぁ全員無事なら何よりだ! さぁここはもう撤収しよう!」

翼 「あ、でもあのまま凍らせてたら死んでしまうんじゃ…?」

凍華 「大丈夫よ、完全に冷凍してるから日持ちはするはずだけど?」

翼 「いえ、あそこの顔だけ凍っている人は…?」

翼が指差す先は、今にも脳機能が停止しそうなボスであった。

凍華 「…めんどいし、放っておいても〜♪」

ジロウ 「いいのかよ…」

風原 「よし、なら俺が残ろう! お前たちは先に村に戻れ!」
風原 「それから、ジロウ君…だったか? 協力を頼みたい」

ジロウ 「…しゃあねぇな、手伝いますか」

翼 「あ、ジロウさん…! その、ありがとうございました!!」

ジロウ 「気にすんなよ! それよりも、彼氏と仲良くしなよ?」

翼 「あ…はい!」

白羽 「…行くか」

凍華 「そうね、私もまだ役目が終わってないし…早く戻りましょ♪」

白羽 「…?」

俺は最後に凍華様の言った言葉が理解できなかったが、今はそれを考えるほどの体力は残っていなかった。
こうして、俺たちは無事に翼を救出し、今回の騒動は終わりを迎えることになったのだ。





………………………。





それから3日が経ち、俺はようやく体の火傷が治った。
凍華様と翼が付きっ切りで看病してくれたのはいいが、凍華様が色々暴走したりと、かなり大変だった。
風原さんから聞いた所、例の空賊たちは近くの空警団に逮捕されたらしい。
幸い、死傷者は0…だが、冷凍刑にされていた者が9割…。
解凍するのが面倒だったそうだ…。
本当に死人が出なかったのが不思議だな。
そして、ジロウはと言うと…。

ジロウ 「お〜い、元気か色男?」

白羽 「…いい加減名前を覚えろ」

ジロウ 「そんだけ突っ込めるなら大丈夫だな、ほれ差し入れだ」

そう言って、ジロウは干し肉を持ってくる。
いつも食っている物だがな。

白羽 「もっと変わった物はないのか? 既に村人全員見飽きているはずだぞ」

ジロウ 「知るか! 俺はまだ3日なんだよ!!」

そう、ジロウは何を考えたのか、わざわざここで暮らすことにしたそうだ。
風原さんに見込まれて村の警備隊に入るそうだ、これで俺を含めて8人か…。

白羽 「まぁ、いい…それで風原さんは?」

ジロウ 「しばらくは戻ってこれないんだと…向こうの政府関係と話して、空賊対策を取るらしい」

今、風原さんは山を降りて近くの北方政府にいるらしい。
今後のことも考えて、ちゃんとした空賊対策を取るため…ということらしいが。
しばらくは戻ってこれないのか…まぁさすがにすぐ別の空賊が来るとは思えんからな。

ジロウ 「そう言えば、お前はもういいのか?」

白羽 「ああ、もう十分だ…」

ジロウ 「だったら、凍華様が呼んでたぜ?」

白羽 「凍華様が?」

ジロウ 「ああ、いつもの丘に来いってさ」

珍しいな、呼び出すとは…いつもなら面倒でも向こうから来るのにな。
何かあるのだろうか?
呼び出して驚かそうとでも?
ありえるな。



………。



白羽 「凍華様…今参りました!」

凍華 「あっ、来たのね白羽君!」

翼 「白羽…」

白羽 「ん? 翼もいたのか…」

だが、やけに沈んでいるのは気のせいか?
まさか凍華様にあることないこと言われたとかじゃないだろうな?

凍華 「白羽君、早速で悪いんだけど…これを預けるわ」

白羽 「…? これは、銀色の羽!?」

俺の手に握らされたのは、まさしくこの世に数えるだけしかないと言われる『銀色の羽』だった。
この羽があることを示すものはただひとつ…ルギア。

凍華 「それを持って、アクアレイクと言う街に行ってほしいの」

白羽 「…俺が、ですか?」

凍華 「私は、残念だけどこれから別の用事があるのよ…それも絶対に外せない、ね」

凍華様がこれほど嫌そうな顔をするということは本当なのだろう。
しかし、アクアレイク…? 聞いたことがないのだが。

凍華 「南に下ればその内着くわよ…あっ、北から海を渡った方がいいかもね♪」
凍華 「…体力が持てば、だけど」

白羽 「…しかし、何故なんです? それならば俺でなくとも近くの者に行かせれば?」

凍華 「…一応、白羽君が一番信頼できるから、なんだけどな〜」

凍華さんは笑顔でそう言う。
嘘偽りはないようだ、元々余り嘘は言わない人だからな…困ったことに。

白羽 「しかし、アクアレイクという場所に着いたらどうすれば?」

凍華 「う〜ん、そこから多分ガーヴ様のことを聞けると思うから、何とかしてみて♪」
凍華 「ああそうだ! 確かあの街には、最近第3期に加わったスイクン種の男の子がいるそうだから、その子を宛てにしてみて!」

白羽 「…さすが、凍華さん。顔見知りも伝説のポケモンですか」

凍華 「えっへん!」

別に褒めてはいないのだが、まぁいい。

白羽 「とりあえず行ってみます、それですぐにでも行った方がいいですか?」

凍華 「そうね、早い方がいいわ」

白羽 「わかりました、今すぐにでも出発します!」

翼 「し、白羽!」

白羽 「…翼」

そうか、翼はこのことを知っていたから…。
俺は急に躊躇ってしまう。
だが、凍華様の頼みとあらば、断ることはできない。

白羽 「翼、しばらくの間ここを離れる…だが」

翼 「頑張って! そして、生きて帰ってきて!!」

白羽 「翼…?」

翼 「私…待ってるから、ずっと待ってるから!」

翼は泣いていた。
涙は見せまいと俯きながら。
それでも強く言葉を紡ぐ。
俺はあえて笑う。

白羽 「俺はお前を残して死にはしないさ…死ぬ時はお前が死ねと言った時だ」

翼 「うんっ…!」

俺は背中を向けて飛び立つ。
まずは山に降りて街を目指さなければならない。
さすがの俺でも全ての大陸を飛んで渡る訳にはいかない。
船を利用した方が確実ではある。
だが、凍華様は早い方がいいと言った。
その辺りも考慮に入れて進まないとな。
どちらにしても、今回の旅がどうなるか…。
妙に不安も多かった、期待がないわけではないが…。
凍華様の表情から読み取れたそれは、間違いなく…危機感だった。



翼 「……」

凍華 「ごめんなさいね、翼ちゃん…あの子は」

翼 「いいんです、いつかはこうなるって思ってました…1年前白羽に出会った時から、ずっと…」

凍華 「そう言ってくれると私も少しは気が楽になるわ」

翼 「…始まるのでしょうか?」

凍華 「ええ…遠くない日に恐らくは」

それは、間違いなく全世界を巻き込むであろう、恐るべき日となるのだろう。
私の過去から受け継がれる記憶から、その悲劇が蘇る。
果たして、どうなるのか?
1000年と言う時は、長い…また悲劇によって、悲劇は鎮められるのだろうか?
私に結果はわからない。
ただ、白羽に無事であって欲しい…それだけが、私は気がかりだった。











劇終











作者あとがき




Back




inserted by FC2 system