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水の街-Fate of aqua-



第4話 『吾妻の新たな3人、そして…』




『5月某日…リフからの仕事、ラスト1日 時刻10:30 アクアレイク北区』


ワイワイガヤガヤ!

レイジ 「……」

俺は北区のメインストリートにやってきた。
グランアチア通りと呼ばれる北の幹線道路は道の両脇が露店で埋め尽くされ、その上で道を多くのポケモンが往来している。
さすが陸の玄関口、北区。
種族も問わず、色々な種族を確認できた。
ガルーラ、ドードリオ、エレブー、ガバイト、リングマ、マグマラシ、ダーテング…etc。

レイジ 「誰か役に立ちそうなのはおらんか…」

リフ姉からの依頼、期限三日以内にポケ員現地調達で3人連れてくること。
既に期日はラストであり、連れて行けたポケモンはセーラ一人だけだ。

レイジ (ポケモンだけは集まるが…観光に来たポケモンがメインで、移住目的で来たポケモンは少ないんだよなぁ…)

やはり、中央区や西区東区で地元の住民から探した方がいいか…?
とはいえ、内陸側っても仕事を持っている奴だって多いからな…。
区別つかないんだよなぁ…そこら辺は。

レイジ 「誰かいいのはおらんかのぅ…?」

そう言えば、さっきからずっと同じポケモンが2匹ほど見て取れるのだが…。

ジュカイン種の男 「くぅ…腹減った…」

バクフーン種の男 「我慢しろ…金が無いんだ」

レイジ 「金無しの旅ポケか」

露店を羨ましそうに眺めている。
よっぽど腹を空かしているのだろう。
かく言う俺も少しだが腹を減らしている。
弁当持参だった今日はそれを持っているわけだが。

レイジ (少しだが、早弁するか)

全部は食べない。
食べたらお昼時に腹が減るから。
だから少し腹に食べた実感を与える程度に。

レイジ (腹減らしているあいつらには悪いがな…)

俺は弁当箱を取り出して、中からおにぎりを一つ取り出す。

レイジ 「いっただきまー…あ」

つい、ツルンと俺の手をおにぎりが抜け出し、宙を舞う。
このままではおにぎりコロコロどんぐりこと転がっていくだろう…ということは現実的にはありえない。
そもそもここは坂道ではないし、人だかりが多くて間違いなく踏み潰される。

レイジ (だからワンバウンド前に空中キャッチあるのみ!)

俺は全意識をおにぎりに集中する。
元格闘家の動体視力を甘く見るなよ!?
0,2秒でおにぎりゲットだぜ!?

ジュカイン種の男 「!?」

ビュオンッ!

レイジ 「!? あれっ!?」

バクフーン種の男 「あれ? どこ行ったジェラード!?」

突然、目の前でおにぎりが消滅する。
一瞬にして消えた…まさか○ソンジャンプ?

ジュカインの男 「ガツガツガツガツガツ…!」

レイジ 「て…ヲイ…」

さっきまで少なくとも目測10メートルは離れていたところにいたジュカインじゃねぇか…。
しかもなにかをむさぼるように喰っているし。

バクフーンの男 「あ! ジェラード、いつの間に!?」

いつの間にワープアウトしているジュカインに気付いてバクフーンの男も近づいてくる。

ジュカイン種の男 「ふぅ…ご馳走さん…生き返ったぜ」

ガニ股で座ったまま何かを貪っていた男は食い終わると立ち上がった。
よく見ると、どっちもガキじゃねぇか…。
ジュカインの方もバクフーンの方も2進化形だけに遠めで見ると大人びて見えたが、近くでみるとまだそこらの学生と変わらない歳だとすぐにわかった。

バクフーン種の男 「お前…何食ってたんだよ?」

ジュカイン種の男 「落し物のおにぎりだ、もう喰ったがな」

レイジ 「いや…落としてねぇぞ…お前俺がキャッチしようとしたところ掠めただけだろ…」

あのタイミングはまだ所有権は俺にあったぞ?
ワンバウンドしたと同時に誰の物でもなくなる…これが鉄則のはずだ。

バクフーン種の男 「馬鹿やろう! お前人のモン食ったのか!?」

ジュカイン種の男 「いや、だからこいつが落としたんだって…それを俺が拾って食っただけだ」

ガキの癖にこいつ呼ばわりかよ…。
随分口が悪いな、しかも拾い喰い(正確には落ちてないから拾い喰いじゃないが)のくせに…。

レイジ (こいつリフ姉のところに連れて行ったら俺の首が確実に跳ぶだろうな…)

リフ姉の鬼の形相が思い浮かぶ…。
この生意気なジュカイン種のガキは無理だ。

バクフーン 「あの! どなたか知りませんけどすいません! ウチのジェラードが意地汚い物で!」

バクフーンの方の男は絵に描いたような真面目君のようだ。
うむ、こっちは好感の持てる好青年だな。
うむ、この好青年に免じて許してやるか。
まぁ、おにぎり一個、些細なことだ。

レイジ 「ああ、いいよ…気にするな」

ジュカイン種の男 「そうそう、気にするな…俺は腹へって死に掛けてた…これはポケ助けだ」

バクフーン種の男 「てめぇが言うな!! あ! 本当にすみません! 俺達、この先の北東区に住んでいるんですけど、金が全くなくて…」

レイジ 「まぁ、お前たちくらいの年齢だと財布は寒いわな…て、ん?」

北東区…?
俺の記憶が正しければ、北東区は高級住宅街。
いわゆる中流家庭以上の住むエリアですよ?
それを…こんなガキたちが…?

レイジ 「なんの冗談だ…? 北東区は金持ちたちのエリアだぜ? それがなんで貧乏なんだよ…?」

それを聞くと真面目な好青年の彼は。

バクフーン種の男 「あ、いえ…俺達この街に住んでいる友人の家に泊まりこんでいるんですよ…だけど、この単細胞馬鹿の性で今までどこのアルバイトも断られ続け…」

ジュカイン種の男 「ふん! 俺だってあんな店で働けるかっつーの!」

…成る程、居候タイプか。
しかし、成る程…アクアレイクに住んでいたのか。
しかも仕事を探している!

レイジ (…この好青年君なら、文句なしだ…天運はここにアリ!?)
レイジ 「あのさ…君、これも何かの縁、今ちょうどある店がバイトを求めているんだよ」

バクフーン種の男 「え!? それって!?」

レイジ 「吾妻っていう酒場のバイトなんだけどな…本当は未成年の君を誘いたくは無いが、誠実さを買ってだな…推薦したいんだが?」

バクフーン種の男 「や、やりますやります! な、なんだってやります! これで三食塩粥生活から抜けられるのならなんだって!」

好青年は随分とまぁ、苦しい生活を言ってくれる。
三食塩粥って…どんだけぇ〜…。

レイジ 「ああ…だけど、ちょっとそこの少年はやめた方がいい…ていうかやめて欲しいかな…」

俺は問題児のガキの方をチラリと見る。
あのガキを送ったら間違いなく俺は殺される。
リフ姉は修羅の道を通ってきたことのある女だ…戦場を潜り抜けてきた俺が考えただけで、身の毛のよだつあのプレッシャー…絶対過去に何かやってた!

レイジ (もし…こんな男連れて行こうものなら…?)



↓注! ここから下はレイジの妄想です!



リフ 「レイジィ〜アンタは吾妻を潰す気かい?」

レイジ 「ヒ…ヒイィ!? そんなつもりは!?」

リフ姉は表情は満面の笑みを浮かべているが、手にはなにか禍々しい物を持っており、じりじりと近づいてくる。
俺はどんどん後退し、逃げ場を失う。

リフ 「あたしゃ、あんたを信用して採用したんだよ?」
リフ 「それがなんだい? あんたはあたしの信用を裏切ったわけさ…」

レイジ 「す…すいませんすいません!」

リフ 「謝ってすむ問題なら、警察は要らないねぇ?」

レイジ 「あの…ところでリフ姉…その手に持っておられるものは何で…?」

リフ 「え? ああ…こいつは昔のあたしの昔の商売道具でねぇ…一発でアンタを楽にしてくれる道具さ」

レイジ 「あの…リフ姉…? 何をする気で?」

リフ 「さぁ? 責任は取らないとねぇ…?」

そう言ってリフ姉は禍々しい『何か』を振り上げた。
何かの部分は想像に任せます、ポン刀でも鈍器でも好きに想像してください。

レイジ 「助けてーっ!!?」





ジュカイン種の男 「オイ…オイ!」

レイジ 「はっ!? ドリームか!?」

どうやら俺は恐怖のあまり、いつの間にかトリップしていたらしい。
いかんなぁ…イカンイカン、被害妄想を昼間から見るようでは重症だな…。

バクフーン種の男 「大丈夫ですか?」

レイジ 「ああ…大丈夫大丈夫、ちょっとトリップしていただけだ」
レイジ 「それより、やっぱりそっちのは止めた方がいい」

バクフーン種の男 「そうですよね…こいつにマトモにバイトが出来るとしたら黒服でグラサンなクスリ売る仕事くらいだ…」

レイジ (あの人ならそっち系のパイプも持っているかもしれないが…)

確証があるわけじゃないが、あのプレッシャーは…なぁ?

レイジ 「まぁ、だけど君なら俺も喜んで推薦できる、真面目そうだしね」

ジュカイン種の男 「たしかにおめえは絵に描いた真面目君だからな…」

バクフーン種の男 「だけど…こいつ放っておいたら何するかわからないんです! それが心配で心配で…!」

ジュカイン種の男 「お前は俺の保護者か!?」

バクフーン種の男 「てめぇがいつも問題ばかり起こすからだろうがっ!!」

レイジ 「ああ…いや、こんな往来の激しいところで喧嘩するなよ?」

バクフーン種の男 「すいません…ともかく! コイツが心配ですからバイトは必ずコイツと一緒です!」

レイジ 「だがな…その…接客なんだよな…その、そっちの坊主はそっち系の仕事は…」

ジュカイン種の男 「他人に愛想振るうなんて御免だね!」

バクフーン種の男 「…いえ、もう今の生活にも限界です…!」
バクフーン種の男 「もしこの男が少しでも問題を起こそうものなら…この俺が責任もって…!」

そういうと好青年は突然体温が上がり始める。
炎タイプが体温上がる時って…技を使う時だよな…?

ジュカイン種の男 「オ…オイ、グレン? 何で放熱しているんだ?」

バクフーン種の男 「違う…熱を溜め込んでるんだよ…お前にいつでもアレをぶちかませるように…」

ジュカイン種の男 「!? まさか…『ブラストバーン』を使う気!?」

レイジ (目がマジだ…こんな街中でも本当にそんな大技を使うだろう…この目は…マジだ!)

好青年は既に死への旅支度を完了したような顔をしていた。
正直、俺でさえ恐ろしく思える…。
溜め込むタイプだろうから、噴火させると止まらないだろうな…。

レイジ 「ああ…じゃあこっちに来なよ…俺はレイジ、君たちは?」

バクフーン種の男 「俺はグレンって言います! レイジさん!」

ジュカイン種の男 「ジェラードだ、まぁ覚えてくれなくてもいいけどよ」

グレンとジェラードね。
まぁ、俺の知っているツーセット(羽鵺鵜と氷翠)とはえらい違いのツーセットだな。

レイジ 「…ここだ、酒場吾妻」

俺は二人を連れて吾妻に到着した。
店はまだ営業再開とはいっておらず、ただ酒の受注販売のみといった感じだ。

カランカラン!

レイジ 「リフ姉いるー!? 人連れてきたぜーっ!?」

俺は店の呼び鈴を鳴らしてリフ姉を呼んだ。
リフ姉はちょうど厨房にいたらしく、すぐに顔を出した。

リフ 「はいよ! おおっ!? 2人同時かい!? 仕事熱心だねぇ」

レイジ 「あ…いや、緑のガキは別で…」

グレン 「はい! ここでバイトを募集しているって聞いて! 俺達雇って欲しいと!」

リフ 「ああ、うれしいねぇ…だけどさ、君たち失礼だけど何歳だい?」

グレン 「あ…その15歳です」

ジェラード 「……」

リフ 「気持ちは本当にうれしいんだけどねぇ…ウチはお酒を扱う仕事なんだよ、だから18歳以下はねぇ…」

レイジ 「やっぱ、年齢制限がきついよなぁ…」

リフ 「…て、アンタが言うんじゃないんだよ! 連れてきたのはアンタだろ!?」

レイジ 「お、俺だって薄々18歳以下かな〜って思ったけど、稀に見る好青年だったもんだからよぉ!?」

グレン 「そうですよね…すいません…」

グレンは本当に申し訳なさそうに俯いていた。
あまりに落胆しており、なんと声をかければいいかわからない。

レイジ 「ああ…その…くそっ!」

リフ 「まぁ…そういうわけだからさ…」

ジェラード 「オイ…ちょっと待てよ、まさか帰れと言うつもりじゃねえだろうな?」

グレン 「ジェラード…?」

リフ 「あん? あんたねぇ…そもそもここは18歳以下お断りだよ?」

ジェラード 「んな、御託はいいんだよ! こいつが頭下げてまで頼んでんだぞ!?」

レイジ 「お…おい…」

リフ 「頭下げられたって子供を雇うわけにゃいかないよ、アンタだってわかるだろう?」

ジェラード 「だから御託はいいって言ってんだろうがっ!」

グレン 「…おい」

ジェラード 「あん…ぐあっ!?」

バキィ!

なんと、グレンはいきなりジェラードの肩を掴むと、思いっきり殴り飛ばした。

レイジ 「お…おい!?」

ジェラード 「て…てめぇ! 何しやがる!?」

グレン 「俺はいつも人様に迷惑かけるなって言ってるよな…学習能力無いのか、このうすらトンカチ!」

ジェラード 「てめぇ…折角俺が心配してやってるってのに!」

グレン 「うるせぇ! てめぇはいつも俺に迷惑かけてるくせに! 馬鹿みたいに突っかかっているんじゃねぇよ!」

ジェラード 「やんのか、グレン!?」

グレン 「上等だ!」

レイジ 「お、オイ! お前ら止めろ!」

リフ 「レイジ! 放っときな…」

レイジ 「な…マジかよ?」

リフ姉はなんと放っておけと言う。
いいのかねぇ…?
このままじゃ店を潰しかねないぜ?

ジェラード 「大体てめえはイチイチ心配しすぎなんだよ!」

バキィ!

ジェラードはお返しといわんばかりにグレンの顔を殴り返す。

グレン 「グッ!? お前なんか俺がいなけりゃ一日で野垂れ死にだろうがっ!!」

お返しといわんばかりにグレンのシャドークローがジェラードに入り、ジェラードは後ろに吹き飛び椅子を破壊してしまう。

ジェラード 「や…野郎! てめえがその気ならぶっ殺す!」

ドッカァァ!!

ジェラードはお返しといわんばかりにアイアンテールでグレンを逆に吹っ飛ばした。
威力は強烈で机を真っ二つに破壊してしまう。

レイジ 「お…おいおい…これ以上はヤバいぜ?」

リフ 「…そうさねぇ」

グレン 「や…っろう!!」

リフ 「そこまでにしときな!」

グレン 「!?」

ジェラード 「止めんな!!」

ジェラードは既にヒートしきっており、暴走状態だった。

リフ 「いいや、止めるね! これ以上あんたたちに暴れられたら営業再開できなくなるよ!」

グレン 「! す…すみません」

グレンもかなりヒートアップしていたようだが、事の事態に気付き、落ち着きを取り戻す。

リフ 「たく…派手にやってくれて、けど、さすがはレイジが選んできたやつらだねぇ…」

レイジ 「は…? それってどういう?」

リフ 「おい! そこのトカゲ!」

ジェラード 「あんだよ!?」

リフ 「あんた…名前と歳は?」

ジェラード 「! 俺は…俺はジェラード! ジュカインのジェラード!」
ジェラード 「歳は…18歳だよ! コンチキショウ!」

グレン 「!? はっ!?」
レイジ 「な!?」

リフ 「あっはっは! そうかいそうかい! 18歳なら問題ないね! よし雇った!」

ジェラード 「へ…そうか、アンタそう来たかい」

グレン 「オイ…お前?」

ジェラード 「ああ…あとこいつ、グレンっていう役立たずだけどよぉ、俺とおないだから本当は18なんだよ」

グレン 「はっ!?」

リフ 「へぇ、そうかいそうかい! だめだよぉ? 嘘ついちゃ!」

グレン 「いや、俺は」

ジェラード 「まぁ、何事も間違いはあるよな、うんうん、良くある話さ、気にするな」

リフ 「ジェラード、それにグレン! あんたたち! 雇ったよ!」

ジェラード 「おう! 任せやがれ!」

グレン 「……」

ジェラードは完全に状況を把握し、リフ姉は見事に危ない芝居打っているが、どうにもグレンが呆然としている。
まぁ…気持ちはわからなくも無いが…これがリフ姉だしな…。

ジェラード 「どうしたんだよ? お前、辞退するのか?」

グレン 「! 誰がっ! バクフーンのグレン! 年齢18歳! お願いします!」

リフ 「ああ、二人共、頼むよ!?」

ジェラード 「おう!」
グレン 「はい!」

レイジ 「やれやれ、なんだかとんでもないことやらかしてるが…まぁなんとかなるか?」

なんというか、リフ姉の度胸に驚くべきか、ジェラードの怖いもの知らずに驚くべきか…。

レイジ (ま…いいか)

リフ 「あ、レイジ!」

レイジ 「あん? なんだよリフ姉?」

リフ 「はい、600枚!」

レイジ 「は?」

俺はいきなり大量の求人ポスターを手渡されてしまう。
あの…これはどういうことですか?

リフ 「言わなかった? 一日300枚だよ? 昨日受け取りに来なかったからはい」

レイジ 「聞いてねえよリフ姉!?」

リフ 「うるさいね! 言ったって言ったら言ったんだよ! ほらまだ昼前だよ!? 気合で600枚配り終えな!」

レイジ 「嘘だーっ!?」

洒落なんねーっ!?
リフ姉冗談厳しいよ!

レイジ 「くっそー! 報酬は弾んでもらうからな!」

リフ 「ああ、そりゃ無理だね、備品の修理代で大変だから」

レイジ 「ちーきーしょーっ!!」

俺は走って外に出るのだった。
一刻も早く配り終えるために。



…………。



『同日 時刻18:21 アクアレイク北西区 吾妻』


レイジ 「チラシ…配り終えたぜぇ…」

俺はチラシを気合で配り終えると吾妻へと帰ってきた。

ワイワイガヤガヤ!

レイジ 「あん?」

氷翠 「あ、いらっしゃいませ…て、あ! レイジさん!」

レイジ 「氷翠ちゃん? あれ? どうしてここに?」

氷翠 「店のリフォームに時間がかかるので完成するまでこっちでバイトを再開したんです」

レイジ 「へぇ、まぁ暇を持て余す訳にもいかないもんな」
レイジ 「ん? でも羽鵺鵜君の姿が見えないな?」

氷翠 「羽鵺鵜は今回から厨房に入ったの、開店後はコックですから♪」

レイジ 「ああ…成る程」

氷翠 「あっちの席空いてますからどうぞ♪」

レイジ 「はいよ」

俺はとりあえず休憩も兼ねて席に座らせてもらうのだった。

レイジ 「……」

俺は席に座ると周りを眺める。



セーラ 「いっらしゃいませー! 何名様ですか?」



グラン 「はい、以上でよろしいですね?」



ジェラード 「おおーい! 酒お代わりだってよーっ!」



俺が集めた、新しく入った3人。
思いの他、よくやっているようだな。

氷翠 「はい、どうぞお水です」

レイジ 「ん、サンキュ」

俺が周りを眺めてしばらくしていると氷翠ちゃんはコップに水を汲んで持ってきてくれた。

レイジ 「そういや、新しく入った三人はどう?」

氷翠 「え? そうですね、三人ともよく頑張っていますよ♪」
氷翠 「ちょっと個性が強いんで、心配ですけどね」

レイジ 「ああ、その気持ちわかるわ」

氷翠 「それでは、注文があったら後で♪」

レイジ 「ああ」

そう言って、氷翠ちゃんは他の客の下へと向かうのだった。

レイジ 「ふぅ、とりあえず俺の首は飛ばなくて済んだようだな」

それだけで十分ってもんだ。
今回は死ぬ気で頑張ったからな。
さて、明日からはどうなるのやら…?



…………。



『そして月日は流れ…』


エルフィス 「この先にレストランがあるの?」

レイジ 「ええ、今日開店したばかりの店ですよ」

カイ 「以前話していた店?」

レイジ 「そうだよ、俺の知人が開いたんだ」

俺はリフォームも終わり、正式に店を開店した報告を受け、早速エルフィスさんとカイさんを連れて店に向かっていた。

レイジ 「あったあった! あの店だ!」

俺は目の前にある白い塀と、壁に赤い家の屋根のお店を見つける。
店の前には看板があり、そこには店名が書いてあった。

カイ 「Dears?」

レイジ 「…て、お店らしいな」

氷翠ちゃんと羽鵺鵜君のお店、『Dears』。
西区の端、ウエストアチア通りに面し、海のそばにある小さなお店。
開業したばかりでまだ、名前も知られていないそのお店に俺達はやってきた。

店の扉にはOPENと描いてあり、開いていることを示している。

カランカラン♪

俺はドアを開けて、中に入ると来客を知らせる鈴の音が、軽快に鳴り響いた。

氷翠 「いらっしゃいませ! あ、早速着てくれたんですねレイジさん!」

レイジ 「おう来たぞー! 楽しみにしているぞ?」

氷翠 「はい、まだ誰もいませんから好きな席にどうぞ♪」

氷翠ちゃんは笑顔でそう言う。
新しく制服を作ったようで、氷翠ちゃんは独特のウェイトレスの制服を着込んでいた。
フリフリのスカートが非常に似合っていた。

レイジ 「この席に座りましょう」

エルフィス 「そうね」

カイ 「……」(コクリ)

俺は近くにあった四角い椅子を囲むように座った。

氷翠 「注文が決まりましたら呼んでください♪」

レイジ 「あいよ♪」

俺はまず店の中を見回している。
店の中は壁が全て取り外されており、逆に厨房が個室に作られたようだ。
中は若干薄暗く、庭からやわらかい日差しが差し込んでいた。
そして中は所々デコレーションがあり、花々が飾られ、所々テディベアなどぬいぐるみも可愛らしく配置されていた。
席数は僅か10席ほどのようだがまだまだ最初なのだからしかたがないのだろう。

エルフィス 「あの方が、レイジさんのお知り合いですか?」

レイジ 「ええ、あの子は氷翠ちゃんで、コックの羽鵺鵜君と一緒に経営をしているんです」

エルフィス 「いい子そうね」

レイジ 「ええ、とてもいい子ですよ♪」

カイ 「注文はどうするの?」

カイは机に置いてあったメニュー表を見ていた。
ここのメニューは洋食系らしく、軽い朝食的なメニューも多数書いてあった。

レイジ 「そうっすね…これなんかどうですか?」

エルフィス 「あら? いいわね」

カイ 「…うん」

レイジ 「じゃあ…」

リンリン♪

俺は呼び鈴を鳴らして、氷翠ちゃんを呼ぶ。

氷翠 「はい♪ ご注文はお決まりですか?」

レイジ 「えっとこのピザをください」

氷翠 「ピザですね」

このレストランはピザも扱っているらしく、様々な種類のピザが存在した。
その中で俺はオリジナルピザと言う物を注文した。

氷翠 「オリジナルピザ一枚で、注文はよろしいですか?」

レイジ 「はい」

氷翠 「かしこまりました、少々お待ちください♪」

氷翠ちゃんはご丁寧に最後に頭をさげ、厨房へと向かう。

まだまだ、2人だし大変だろうけど、頑張っているな。
俺も応援しているぞ。

やがて、10数分すると、大きなピザがやってきたのだった。

氷翠 「お待たせいたしました、オリジナルピザです!」

それはLサイズはあるピザで色んな種類の肉や野菜などがふんだんに使われている物だった。

カランカラン♪

氷翠 「いらっしゃいませー♪ あ! リフさん!」

リフ 「おお、やってるやってる♪ 開店おめでとう♪」

なんと次にやってきたのはリフ姉だった。
やっぱりリフ姉も着たか。

レイジ (本当によくやったよ、氷翠ちゃん、羽鵺鵜君…)

カイ 「このピザ、美味しい…」

エルフィス 「あら、本当…」

カイさんたちは既に食べ始めていた。
俺も一切れ取るとそれを口に入れるのだった。

レイジ 「お! 本当に美味い!」

ピザというのは久々に食べたが、非常に美味しかった。
成る程、確かに羽鵺鵜君は料理が上手だな。

レイジ (この味なら…名物にもなるかもしれないな)

俺はそう思いながら、実に美味しくピザを平らげるのだった。

やがて、時間が経つにつれお店に次々と客が集まってくる。
初日という割には、俺が行った宣伝で客を集めた性か、それなりに盛況だった。
氷翠ちゃんは思ったより客が来てしまい、テンヤワンヤになっていたが、ひとまず開店初日の営業は成功と言えるだろう。

レイジ 「…頑張れよ、二人とも!」








To be continued
















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