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水の街-Fate of aqua-



第6話 『大好きだよ』




『6月第4週 聖水祭最終日 時刻12:20 中央区 西区呑気屋裏口』


6月の第3週から始まり第四週……6月の終わりまで続くこのアクアレイクで一年を通してもっとも大きなお祭りは終わりを告げる日がやってきていた。

レイジ 「――はい! 資材搬入しましたーッ! 証明書お願いしまーす!」

ガジ 「おう! ごくろうさん! すでにクリアブルーには入金しておいたぞ! 証明書は表回ってくれ!」

レイジ 「あいよ!」

ガジ 「あんたもお祭りの最終日だってのに忙しいねぇ!?」

レイジ 「いやいや! 呑気屋さん程じゃない! 恐れいるよ!」

俺は呑気屋の裏口から資材を搬入すると、恐ろしい忙しさで調理を行う一人のヌオー種の男と出会った。
呑気屋がアクアレイクで一番忙しい店だというのはうわさ程度に聞いていたがそれは想像を絶していた。
俺は俺でまだ仕事が残っているので早いとこ呑気屋での仕事を終わらせることにする。

レイジ 「ちーす! ってぇ……順番待ちぃ?」

表に回ってみると、呑気屋の中はむせ返すような狭さだった。
席は全てが押さえられ、いつ空くかもわからないのに順番待ちをする客たち。
俺はさすがに客ではないのでなんとか、レジカウンターの方に隙間をすり抜けて向かうのだった。

レイジ 「あんた事務員さん?」

ヤ 「? いらっしゃいま〜せ〜〜〜」

レイジ 「?」

ヤ 「な〜ん〜め〜い〜さ〜ま〜〜??」

レイジ 「いや、客じゃないんだが……」

……見てくれからボロを着て、髪の毛を地面まで伸ばしぼさぼさで、とても従業員とは見えないヤドラン種の男。
どこか喋るテンポが違い、こちらの反応を戸惑わせてくれる。

若菜 「あーー! し、失礼しまーす! ちょっとランちゃん、メイちゃんしばらく任せたわよ!?」

突然大声を上げてこちらに気づいたマンタイン種の女性が走り寄ってくる。
どこかで見たことがある綺麗な女性と思ったら、よく見ると聖水祭の初日にリブルレイクで踊っていた巫女さんだった。
たしか若菜っていう名前だったっけ。
前自警団のユフィっていう隊長さんに見せてもらったがイェローアラートに分類されている危険人物だって聞いたが?

若菜 「えと、クリアブルーの方ですよね!?」

レイジ 「ああ、て、テンパるなテンパるな」

若菜 「……ッ! はいっ!」

若菜という女性はシャッシャカシャーとあっという間に証明書に呑気屋のサインを入れて渡してくる。
どうやら、よほどテンパっているようで渡すとすぐさまウェイターに戻った。

レイジ (ウェイターもシェフも増やせよ……)

ウェイターが3人位いるが、シェフ1人じゃとても追いつけない。
一体何が問題なのか、もっと人増やせばいいだろうに……。

レイジ 「……てと、昼休憩入れる前に最後の仕事するか」

残る仕事はすでにひとつしかないので、昼休憩後忙しくするよりさっさと終わらせてゆっくりしたかった。
聖水祭だけにいつもよりクリアブルーも忙しかったが、そもそも何でも屋という事業そのものがそれほど景気が良くはない。
どの道常連さん位しか仕事を依頼してこないので普段というほど仕事量は変わらないんだよなぁ、これがな。

レイジ 「さってと、次は? リアクターか、最近多いよなぁ」

南西区に本社を置く、貿易商社リアクター。
世界各国に支社を置き、この会社のおかげで世界中のあらゆる物資がこの街に流れ込んでくる結果となった。
そんな世界的企業がなぁぜ、クリアブルーなんてちっちゃい自営業の何でも屋に仕事を出してくれるのか?

レイジ 「ま、俺が考えることじゃないんだけどね」

そう呟きながら俺は西区から南下するのだった。



…………。



レイジ 「――?」

俺は南西区へと向かう急な坂を下っていると一人とある人物を見つける。
最初は無視しようかと思ったが、なんだか様子が異常だったので無視ができず俺は。

レイジ 「最悪昼飯が無くなるが」

俺は誰の家とも知れない真っ白な石の家の天井で三角座りしたまま黄昏た少女に。

ポイン!

アクシス 「――ッ!?」

俺はアクシスの頭めがけて昼飯のリンゴを投げつける。
アクシスはリンゴを頭にぶつけられて何事かと周囲をキョロキョロとしていた。

レイジ 「おーい、俺のリンゴお前の近くにないかー?」

アクシス 「……あ、マナフィ」

俺が声をかけるとアクシスが俺に気づく。

レイジ 「おい、リンゴ!」

アクシス 「あ……」

アクシスは慌てて自分の足元を探す。
すると見つかったのか少しかがんで何かを掴み取った。

アクシス 「……はい」

アクシスはリンゴを俺の元に落としてくる。
普段なら自分の体の方が落ちてくる女だったが、今回はそんなことがない。

レイジ 「……」

俺はリンゴをお手玉のようにしながら屋根の上で黄昏るアクシスを見る。
どうにもいつもの能天気な奴の顔が印象に残るだけに悲しいような顔は似合わない。

レイジ 「丸々と煙は昇りたがる……だな」

アクシス 「まる? 丸々……ッ! アクシスは馬鹿じゃないもん!」

レイジ 「だったら降りてこいよ、そこお前の家か? 違ったら不法侵入だぞ?」

アクシス 「……」

アクシスはしぶしぶ降りてくる。
どの程度教養があるのかさっぱりわからんが、少なくとも丸々の部分が馬鹿というのはわかったようだしな。

レイジ 「ずいぶん久しぶりだな、よっぽど凹んだか?」

アクシスは聖水祭の初日以来姿を見せることは無かった。
あの時のアクシスの悪態を俺は許すことはできずカッとなったからな。

アクシス 「マナフィ……」

レイジ 「レイジだ、何度も言わせるなレ・イ・ジ!」

アクシス 「うぅ……」

レイジ 「レ!! イ!! ジ!!」

アクシス 「うぅ〜っ! 怒らないでぇ!!」

レイジ 「怒ってないぞ」

アクシス 「うぅ〜ぅ〜」

レイジ 「子供か」

アクシス 「子供じゃないもん」

レイジ 「俺からすれば子供そのものだがな」

俺がそう言って笑うと、アクシスはまさに子供のように頬を紅く染めて大きく膨らませていた。
その様はまるでハリーセンにも負けず劣らずの顔で、俺は少し安心して更に微笑む。
だが、アクシスはそれが癪に障ったのか、もういい! といった感じで背中を向けた。

アクシス 「レイジはアクシスのこと嫌いなんでしょ?」

レイジ 「やっと俺の名前覚えたか、ああ、嫌いだね……どんな理由があろうと仲間を侮辱する奴を好きにはなれん」

正直、俺はまだアクシスを許したわけじゃない。
アクシスが俺を侮辱したのなら、俺はそこまで怒らないだろう。
だけど、アクシスは俺ではなくカイを侮辱した。
カイは今でも気にしている……意識的か無意識かはわからないが、俺を遠ざけている。

アクシス 「……レイジ、その……」

レイジ 「謝るんなら、カイに謝ってくれ。俺に謝られても何の意味も無い」

俺はそう言うとそそくさと歩き出した。
アクシスはあっとちょっと声を上げたが、直にそれを押し殺し俯いたまま黙る。
俺はそんなアクシスを軽蔑する目で見、一瞥することなく立ち去った。

レイジ (前に進めない奴と仲良くする気なんてない……前に進めない奴は臆病だ、俺はそんな奴とつるむ気はない)

俺は昔の自分を思い出す。
真っ直ぐだったが物の見分けもつかない、ただのガキだ。
捨て子だった俺は、拳法家のじじいに拾われた。
じじいは俺に拳法の全てを伝えて、戦場で死んだ。

じじいは拳法家であると同時に、傭兵でもあった。
俺は戦場で色んな人間を見てきた。
戦場では弱い奴が生き残る。
強い奴は一時は活躍するが、絶対に死んでいった。
俺は強くなんてなりたいとは思わなかった、臆病なくらいが丁度良いんだと知った……。

だが、戦場を捨てたそのときから、俺の生活は何もかもが変わった。
俺は臆病な自分を憎んだ、戦場を生き残るためとはいえ、殺すための技を鍛えてもそれを使わないためとはいえ臆病でいた。
そのせいで、物の道理もわからない俺は……。

アクシス 「……レイジ!」

レイジ 「……!?」

突然、坂の上からアクシスの声が響く。
近所の民家にまで響き渡るその声に俺は驚いて振り返った。
西区から南西区へと下る急斜面の坂、その上にアクシスはいる。

アクシス 「……レイジ! 私レイジが好きなんだもん!! 大好きなんだもん! だから……だから! 嫌われても好きなんだもん!!」

アクシスはそう言うとその場から走り去ってしまう。
俺は呆然と赤面しながら坂の上を眺めることしか出来なかった。

レイジ 「あの馬鹿……こんなムードも何も無い状態で告白する奴がいるかっての……」

とはいえ、恥ずかしさは隠し切れない。
俺はそそくさその場から逃げるように坂を下ってリアクターを目指した。



…………。



レイジ 「はぁ……たく、晩飯どうするかねぇ?」

アレから数時間が経ち、仕事を終えた俺は夕暮れ時中央区辺りをぶらついていた。
祭りは夜型、月が出る頃に終わるらしい。
そのためか、まだまだ祭りは盛況の賑わい。
中央区にはジャグラーのような旅芸人が、北区では中央の道の座敷が占拠し、露天が大盛況だった。
南東区のリブルレイクでは休憩中の奴等も多く、見たことも無いような種族のポケモンも多い。
南区と南西区はさすがにこの時期と言うこともありポケモンだらけだ、船の往来もいつもより多く感じた。
今、アクアレイクはとてつもない活気なんだとわかる。
だが、これが祭りが終わったら過ぎるかというとそうでもない。
この街はいつでも元気だ、そう……この街より元気な街は世界中渡ってもないだろう。

レイジ 「何か食って帰りたいよな。エルフィスさんも帰るの遅くなるって言ってたし」

今回の祭りに運営委員のエルフィスさんは今回は片付けもあり、忙しそうだった。
だから、カイとなるべく一緒に食べた方がいいだろう。
だがそんなことを考えていると前方に。

カイ 「……」

レイジ 「カイ……と、あれ?」

前方、人ごみから少し離れた壁際でカイが見知らぬ三人組に囲まれていた。
それぞれ、フローゼル、モジャンポ、ブースターのようで、なにやらカイに因縁ふっかけているような、ナンパしているようなと言った雰囲気だった。
俺は少し近づいて、様子を見てみる。

フローゼル 「おお、姉ちゃん良い体してるねぇ……今夜俺達とどうだい?」

カイ 「……?」

明らかにナンパされている。
カイって美人と言えば美人だからな。
だが、あいつら種族を理解せずナンパしているんじゃないか?
まぁ俺もカイの種族は知らないんだが。
最近では男を食う野郎がいるとか聞くし、案外そっち系か?
とはいえ、カイはなんのことかわからないという風に首をかしげて頭に?を浮かべていた。

モジャンポ 「おお〜い、無視してんじゃねぇぞ?」

カイ 「……」

カイは困った顔をする。
多分どう対応すれば良いかわからないんだろうな。
さすがにこれはと思い俺は手助けに入る……んだが。

アクシス 「ガーヴ……」

レイジ 「アクシス?」

突然俺が割ってはいる前にアクシスが割ってはいる。
カイの前に立ちふさがって男たちを一睨み。

ブースター 「おおっ? へへ……また可愛い子ちゃんがあらわれたねぇ、どう君も今夜?」

アクシス 「お前等、邪魔」

アクシスは小さな声でそう呟く。
それはあまりに小さくて注意しないと聞き取れないほどの声。

フローゼル 「あん? あんだって?」

そう言ってアクシスの肩を掴もうとした刹那。

アクシス 「邪魔って言った!!」

フローゼル 「!? ぐえええええっ!?」

突然アクシスはフローゼルの男の腕を取ると、くるりとありえない方向に捻り、男を地面にはりつけた。
うげ……逆間接に決め手やがる……あれは痛い。

モジャンポ 「な、何しやがる!?」

アクシス 「消えて」

仲間の危機に声を荒げる二人。
しかしアクシスはまるで暗殺者のような冷たい声で消えろと勧告する。

フローゼル 「ふ、ふざけんなぁっ!!」

フローゼルの男を体を回し、『アクアテール』をアクシスに放つ。
しかしアクシスは。

アクシス 「ッ!!」

ズダァンッ!!

震脚……地面を踏み抜くかと思ったほどの踏み込みと同時に発剄がフローゼルの頭を打ち抜く。
血を吐き、フローゼルの男が地面に倒れた。

モジャンポ 「て、てめぇ! ぶっころ!」

アクシス 「ハァイィィッ!!!」

アクシスは有無言わさず、次の標的にモジャンポの男の頭を後ろ回し蹴りで打ち抜く。
蹴ると言うより射抜くと言う感じに、相手の喉元を貫いた。
男は血を吐き、泡吹いて後ろに倒れた。

ブースター 「!? ひ、ひぃいいっ!?」

アクシス 「次はお前」

レイジ 「はぁい、そこまでそこまで!」

俺はさすがにこれはまずいと思いそろそろ割ってはいる。
このままでは目の前で死体がみっつ出来上がっちまう。
アクシスの奴、どういうわけか格闘技というより暗殺技を平然と用いる上、それにためらいが無い。
俺は死んでいないかと心配になり、倒れた二匹を見る。
とりあえず、死んではいない気を失っているだけだ。

アクシス 「……レイジ」

レイジ 「おまえなぁ、たかがナンパ野郎に何やっているんだ? 殺す気かっての」

俺はそう言ってさすがに男二人を担ぎ上げた。
これは即刻病院送りだな……不運なことに声かける相手を間違えたわけだ。

レイジ 「あんたさぁ、ここは見逃すから二人を病院に送ってくれない?」

ブースター 「あ、は、はい! それはもう!」

俺は二人を最後の男に渡すと男は一目散に逃げ出した。
俺はそれを見届けて二人と向き直る。

カイ 「……レイジ」

レイジ 「よ、カイ。それと……」

アクシス 「……レイジ」

アクシスは俺を見ると、気まずそうに目線をそらした。
俺は少し疑問に思う、どうしてこいつはカイを助けたんだ?
それともカイを助けたのとは違うのか?

レイジ 「アクシス、お前前回あれだけカイを嫌っていた割になんで助けたんだ?」

アクシス 「別にガーヴの事は嫌いなわけじゃない、それに助けたわけでもない……邪魔だから追い払ったまで」

レイジ 「殺してでもか?」

アクシス 「……」

アクシスは俺の言葉に答えづらいのか押し黙ったまま俯く。
こいつがカイに会う理由?
一体なんのため?
なんとなくはわかるが、だが本当のところは本人から聞きたかった。

レイジ 「アクシス、カイに用があるんだろ?」

アクシス 「……うん、あのガーヴ……」

カイ 「私はガーヴじゃない」

アクシス 「……カイ、その……」

アクシスはなんだかしどろもどろであり、まるで呂律が回らないままなんとか言葉を捜す。
カイの冷静な突込みにはそのまま訂正を行い、なんとか言葉を繋いだ。

アクシス 「あの……ごめん、なさい……ひどいこと……言って」

カイ 「ひどいこと?」

カイはまるでわかっていない様で頭をかしげる。
て……おいおい、カイさんは忘れたんですか?
俺は思わず心の中でカイに突っ込みを入れた。

アクシス 「カイが……レイジを不幸にするって言った」

カイ 「あ……」

カイはそれを聞いて思い出したように声を上げた。
その瞬間カイも少し暗い顔をする。
なんだかその場の空気が悪い。

アクシス 「カイが……カイがレイジといると不幸になる! これ本当! で、でも……私カイは嫌いじゃない! レイジも嫌いじゃないの!」

カイ 「……アクシス、私は気にしてないわ」

アクシスの必死の弁解、何をもってカイが俺を不幸にするのかはわからないがアクシスは必死に訴えた。
それを聞いてカイはゆっくりとアクシスの頭を優しく撫でる。

アクシス 「……あ」

カイ 「私がレイジを不幸にするのかは、正直私にはわからない。もしかしたら不幸にするかもしれないし、今不幸にしているかもしれない」

レイジ 「そんなことねぇよ」

俺は一応カイにそう弁解する。
俺は少なくともカイと一緒にいて不幸だと思わない。
それを聞いてカイも嬉しそうに笑い。

カイ 「ありがとうレイジ、アクシス……アクシスがレイジの友達なら私も友達よ、ほら、これで仲直り」

カイはそう言ってアクシスの小指と自身の小指を重ねあわす。
それは子供なら誰もが一度はやった指きりげんまんだ。

カイ 「ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本飲ます」

レイジ 「カイ、それは微妙に使い方が違うぞ」

カイ 「え? そうなの?」

どうやら、カイの天然ボケだったらしい。
指きりげんまんは約束だ、仲直りじゃねぇ。
とはいえ、その様子を見たアクシスはポカーンと口をあけ。

アクシス 「カイは私のこと嫌いじゃないの?」

カイ 「どうして嫌いになるの?」

アクシス 「どうしてって……」

アクシスが質問したはずだが、カイの真っ直ぐな視線は逆にアクシスへと質問し、アクシスを沈黙させる。
俺はふぅっと軽くため息をつき二人の頭をくしゃくしゃに撫でた。

レイジ 「お前等、お前等が仲良くするんなら俺もお前等と仲良しだ」

アクシス 「レイジ?」

レイジ 「ほら、仲間だろ、手」

俺はそう言って手を差し出す。
アクシスはそれを見て、おずおずと手を差し出してきた。
俺はその手を握ると軽く握手を行う。

レイジ 「これでお前を嫌う理由がなくなったな、アクシス」

アクシス 「レイジ……」

やれやれ、にしてもカイの甘さも大概だな。
だがカイが良いというのなら、俺も良いだろう。
少なくとも、アクシスは本気でカイに謝っていた。
なら俺は許さないわけには行かない。

レイジ 「おう、二人とも晩飯食いに行くぞ、アクシスもこい」

アクシス 「いいの?」

レイジ 「当たり前だろ」

俺がそう言うと、少し考えてアクシスは嬉しそうに笑い。

アクシス 「うん! 行くっ!」

そう言って俺の腕に抱きついてきた。

レイジ 「おいおい……俺はそういった行為を許した覚えは無いぞ?」

アクシス 「いいのいいの! レイジと一緒! これでいいの!」

アクシスはそう言って暑苦しく抱きついたまま歩く。
俺はそれに引きずられる形で歩いた。

カイ 「ふふ、これで二人とも仲良し」

レイジ 「おいおい、カイはなんとも思わないのか?」

俺は無駄とは思いつつ聞いてみる。
しかしカイは案の定、ある意味期待は裏切らず。

カイ 「なにがなの?」

そう聞き返してきた。
俺ははぁとため息をつく、そりゃそうだよな……俺とカイは別に付き合っているわけじゃないし。
とはいえ、こうも何も感じないというのはある意味物悲しい。

アクシス 「レイジ! 何食べる!? 何食べる!? 肉? 魚? 野菜? それともアクシス?」

レイジ 「なんでその中にアクシスが含まれるんだ?」

アクシス 「ふふ〜ん♪ いいのよ、アクシスはレイジが相手なら……」

アクシスはそう言って頬を赤らめて胸を押し当ててくる。
う……そういえばコイツ言動とか子供っぽいけど、結構大人っぽい体格しているよな……胸もいっぱしに膨らんでるし。

レイジ (い、いかん……想像してもうた……)

俺は多分物凄く赤面していると思う。
思わずアクシスとのいけない想像をしてしまう。
いや、さすがにない……さすがに無いんだけどさ。
て、なんで心の中で焦るかな俺は?

アクシス 「ふふふ、本気にした?」

レイジ 「大人をからかうな……まったく」

アクシス 「関係ないよ、私はレイジの物だもの」

レイジ 「――ッ!?」

アクシスの熱い吐息が俺の首筋をなぞる。
あまりの刺激に俺は体に電撃が走った(地面タイプだから痛みがわからんが)かのように背筋が伸びてしまう。

カイ 「ふふ、二人とも楽しそう」

レイジ 「か、カイ……あまりアクシスを調子に乗らせることを言わないでくれ」

カイさん、あなたは天然でしょうか?
それともわざとでしょうか?
少なくとも今日のアクシスは凄まじく最高にハイッやつだな状態のようだ。
おかげでこのままで食われかねん、お持ち帰りぃは勘弁だからな。

アクシス 「レイジ、嬉しいでしょ?」

レイジ 「果てしなく迷惑だ……はぁ、なぁカイ、お前は何食いたい?」

正直、やっぱり俺にとってアクシスはガキだ。
ガキに誘惑されても、正直困る。
とはいえ、ガキは何を言っても聞きはしない。
だから半分アクシスは諦めてカイに何が食いたいかを聞いた。

カイ 「レイジに任せるわ」

レイジ 「結局それか……じゃあどうすっか」

アクシス 「なんだったら、アクシス作ろうか?」

俺はしばし、上手い飯屋のことを考えていると、突然アクシスがとんでもない案を出してくる。
こいつが作る? ていうかこいつ作れるのか?

レイジ 「お前、飯なんて作れるのか?」

アクシス 「ふっふ〜ん♪ アクシス、できるもん♪」

レイジ 「へぇ、何が作れるんだ?」

正直、アクシスが料理が出来るなんて以外だった。
俺は思わず何が作れるのか聞いてみた。
だが、アクシスからでたのはとんでもない答えだった。

アクシス 「女体盛り!」

レイジ 「……ないわ」

カイ 「女体盛りってなに?」

レイジ 「見えざる、聞かざる、喋らざるだ」

カイ 「???」

アクシスはなんと、女体盛りなんてふざけた物を示してくる。
さすがにそれは退いた……それはないわ。
さらにカイさん、天然ボケが全開です、恥ずかしいから聞かないでください。
答えられる訳が無い……。

レイジ 「ああもう! ラーメンいくぞラーメン! こういうときは早いの安いの、あ〜美味いの〜っだ!」

アクシス 「それ、牛丼……」

レイジ 「なんでもいい! いくぞ!」

カイ 「ふふ、うん」

俺はアクシスを引きずりながら、目当てのラーメン店を目指すのだった。
正直、やっぱりアクシスと絡むと疲れる……だけど、なんでかな。

アクシスと一緒にいると、なんだか落ち着くようにも感じる。
俺はアクシスに安心を感じているのだろうか?
それとも、俺はアクシスのことが好きなのか?

ないわ、再びそう心の中で呟いた俺は注文する品を考えながら街を突き進んだ。



…………。



『同日 時刻21:00 南東区 リブルレイク自然公園』


レイジ 「……」

開会式と同じくリブルレイクの湖の前には大勢のポケモンたちが集まっていた。
いよいよ、祭りは終わりを迎えようとしている。
空にはまん丸の月が浮かび、目の前には月の光を浴びて美しくきらめく一人の巫女の姿がある。
あの人気料理店呑気屋の踊り子にして、水の巫女の若菜。
開会式の時と同じ様に袖が異様に垂れた巫女服を着て湖の上に立っている。
それだけでも幻想的だが、これから行われる踊りは更に幻想的で美しいのだろう。

ふと、雲が月を隠した。
まるでこれから起こることに照れるかのように。

再び月が顔を出した時、巫女の祈祷の踊りが始まる。

若菜 「……ッ!」

まるで水の上とは思えないほど、力強く、そして美しい舞踏。
腕が風を切るたび、長く伸びた袖が湖面を弾き、水しぶきが宙を舞う。
そのたびに月の煌きを浴びた、巫女は水しぶきと共に艶やかに輝き、美しく宙を舞う。
しんと静まり返る大衆、そしてそれに呼応するかのように自然さえも固唾を呑んで巫女の舞に酔いしれる。

それは例えようも無く、幻想的で美しく……そして儚い踊りだった。

10分後……踊りは終了し、本日を持って聖水祭は終了となる。




エルフィス 「ふぅ……やっと終わったわ」

レイジ 「お疲れ様ですエルフィスさん!」

俺はお疲れのエルフィスさんの元に真っ先に向かう。
今回エルフィスさんは聖水祭執行委員長ということもあり、目が不自由でしかも女性の身というのに良く頑張ったと思う。
だからこそ、今日は最大限ねぎらいたい。
エルフィスさんは命の恩人だからな。

エルフィス 「あら、ふふふ……ありがとうレイジさん」

レイジ 「体大丈夫ですか? 疲れていませんか?」

エルフィス 「ふふ、大丈夫よ……カイさんは?」

レイジ 「カイは疲れたみたいで家で眠っていますよ」

エルフィス 「そう……ふふ、レイジさん、お疲れ様でした」

レイジ 「はい、お疲れ様。背負っていこうか?」

エルフィス 「ふふ、いいわよ恥ずかしいもの」

俺はエルフィスさんに背中を見せてそんなことを言うと、さすがにエルフィスさんも恥ずかしいといって断ってくる。
まぁ、普通ならそうだよな。
うん、やっぱりアクシスはガキだ。
俺は夕方のことを思い出しつつ、少し笑う。

その後俺はエルフィスさんのペースで歩きながら我が家へと帰るのだった。








To be continued
















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