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水の街-Fate of aqua-



第7話 『境界に立つ者』




『7月第2週 時刻07:15 中央区:クリアブルー』


それは……夏の朝のことだった。

レイジ 「……ん、ううぅ……なんだぁ? 滅茶苦茶寒いぞ……?」

夏真っ盛りのアクアレイクは連日真夏の日差しにさえなまれ、夏バテするものも増えつつある中、突然の寒さだった。
俺はベットを出ると肌を擦りながら窓を見た。
そこに……見えたものは。

雪……そして、見渡す限りの銀世界だった。


レイジ 「……なんじゃこりゃぁぁぁぁぁっ!?」




…………。




テレビ 『――本来ならば真夏の陽気で観光客の多いアクアレイクで珍事件です』
テレビ 『気象庁によると、寒冷前線がエアリアルより北上しアクアレイクまでやってきたとのことで、アクアレイクは一面銀世界に覆われています』

レイジ 「……珍ってレベルじゃねぇぞ」

カイ 「雪……ずっと降ってる」

……あの後、びっくり仰天したが、やがて落ち着きを取り戻し朝飯をいつものメンツで食っていると、テレビでも案の定報道されていた。
一年を通して比較的温暖なアクアレイクが今日に限ってはまるで北方の極寒大地だ。

エルフィス 「はぁ……今回も来ちゃったか」

レイジ 「?」
カイ 「?」

俺とカイは一斉にエルさんに顔を向ける。
今回も? ということは以前にも来たのか?

レイジ 「エルさん、今回の異常気象は過去にもあったんですか?」

エルフィス 「うーん……ていうか、4〜5年毎にきているわね、もっとも前回の5年前までは謎の異常気象でしか無かったのだけれど」

レイジ 「?」

前回までは謎の異常気象でしかなかった?
ということは、今では謎ではないということか?

レイジ 「一体どういうことなんですか?」

エルフィス 「街の人に聞いてみるといいわ、今日は多分街全体が仕事にならないから興味あるなら聞いて回るといいわ」

レイジ 「……はぁ?」

いまいちよく分からない……どうして言葉を濁すのだろうか?
まぁいいか……だったら聞いて回ってみるか。

レイジ 「……つっても冬服なんて持ってねぇぞ?」

エルフィス 「押入れに毛皮のコートがあるわ、それを着ていきなさい」

レイジ 「あら、そりゃどうも」



……ということで、俺は毛皮のコートを着こむと、街へと出かけるのだった。



レイジ 「そこら中で雪かきしとるな、出歩く奴は少ないか……まぁ仕方ないわな」

若菜 「うう……寒い寒い、あら? レイジさん……だっけ、仕事?」

ふと街を散策していると、以前祭りの時見た巫女さんを見つける。
たしか呑気家でも働いていたな。

レイジ 「若菜さんだっけ? 今日は非番だよ」

若菜 「ふーん、まぁ今日はある意味仕方ないか」

レイジ 「呑気家は?」

若菜 「平日通りの営業」

そういうと若菜さんはその場で苦笑した。
見ると相当の厚着をしているがそれでも寒そう体をゆすり、はぁ……と白い息を吐いていた。

レイジ 「あ……そういえば、この異常気象について若菜さんはなにか知ってる?」

若菜 「若菜でいいよ、さんづけって慣れないし。それと異常気象……ね、まぁ知っているっちゃ知っているけどねぇ……」

若菜さんはフランクにそういうと、異常気象を口ずさむ。
心なしか語るのも嫌そうなかおだった。
一体5年前に何があったんだろうか?

若菜 「これは……そうね…… まぁ、歩く寒冷前線の影響よ」

レイジ 「寒冷前線が歩く……のか?」

若菜 「詳しいことは他の人に聞いて! 私は思い出したくないのッ!」

若菜さんはそう言うと直ぐ様走り去ってしまった。
……どうやら、この街の住民にはある種トラウマのようだな。



……俺は気になってその後色んな人に聞いて回った結果聞いたのは以下の通りだ。

ゴルダックÅ 「ありゃ、無軌道な異常気象だよ」
キングラーC 「もう歩く自然災害だよ、奴は」
バスラオF 「奴は何度でも来る……こっちはもうたくさんなんだよ!!」





レイジ 「――聞けば聞くほど謎が深まるな」

とりあえずわかったことは、この街の住民ほとんどがトラウマレベルで恐れているということだ。
とりあえず、寒冷前線の最前線たる海側へ向かうべく港のある南西区に向かうとそこではまた、異様な光景が見られるのだった。


ワイワイガヤガヤ!

レイジ 「……おお〜、海がカチンコチンに固まっとる」

港にくると見事に野次馬が集まっている。
みると、商船が岸で凍った海のせいで身動きが取れなくなったようで、直接はしごを降ろして凍った海を歩いて荷を運ぶ姿が見受けられる。

トール 「おお、レイジ! 暇ならアレ手伝ってくれないか!」

遠目に作業を眺めていると、突然見知った顔に見つけられてしまう。
ニョロボン種のトールだな、どうやら商船からの積荷の運びを手伝っているようだ。
見事に見つけられてしまった。

レイジ 「……しゃあねぇな」

俺はそうつぶやくと、手伝いに向かうのだった。


トール 「……たく、海で生きるものとしては毎回のこととはいえ勘弁してほしいぜ」

レイジ 「聞いた話によると4〜5年に一度、やってくるらしいじゃないか。一体どういうことなんだ? この寒さの正体はなんだ?」

俺は積荷を運びながら同じく積荷を運ぶトールにそれとなく聞いてみた。

トール 「ああ……詳しいこと知りたきゃ凍った海をまっすぐ南下しな! もっとも……アレと遭遇するのは俺なら勘弁だけどな!」

レイジ 「???」

やっぱりよくわからんな。
だが、海を南下すれば正体はわかるのか?
一体なんなんだろうか? ポケモンの仕業なのか?
普段の俺ならそれほど気にもしなかったろうが、今日は暇な上にあまりの珍事ということに、俺は気になって仕方がなかった。

ネルフ 「皆さんお疲れ様です、ささやかですがここに暖かい物を用意しました、遠慮無くどうぞ!」

大体の仕事を終えると恐らく商船の持ち主であろう貿易会社リアクターの社長さんがわざわざ出張って、体の暖まる物を用意していた。
皆はありがてぇとばかりに群がっていく。
どうやら、漁師鍋が用意されたようだ、遠くからでもいい匂いにそそられる。

トール 「レイジ、行こうぜ」

レイジ 「……いや、俺はいいよ。それよりアンタの言ったことの方が気になる」

トール 「……て、まさか!? や、やめといたほうがいいぜ!?」

トールはそう言うと顔を青くして俺を止めようとした。
こいつがそんな顔をするということはそれほどやばいのか?
だが、俺も少しは腕に自信がある、よほどのことならすぐに逃げるさ。

レイジ 「悪いな! じゃあ行ってくるわ!」

トール 「ああもう! どうなっても知らんぞ!」

俺はそう言うと凍った氷の上を歩いて意気揚々とアクアレイクを南下していく。
後ろからはトールの声が聞こえていたが、俺は背中を向けたまま腕を振って、ノープログレムと示唆する。




……………。




レイジ 「……すげぇなぁ、海の底まで凍ってんじゃねぇか?」

氷の海を歩いて30分ほどは歩いたろうか?
振り返るとすでにアクアレイクの姿も見えない。
それほど遠くまで歩いてきたのだ、地面をトントンと叩くと頑丈で厚い氷床が出来ているのがよくわかる。
とても7月の海とは思えねぇなぁ。

天気は曇っているものの、風はそこまでつよくなく、深々と雪が降り続けるのみだった。
このまま歩けばこの珍現象の実態に到達するのだろうか?
いつまで歩いてもその答えに辿りつかないまま、そろそろ戻ろうか? そんなことも頭に過ぎ始めた頃だった。

レイジ 「? 人影……? こんな大海原のど真ん中で?」

それはかなり遠くに朧気ながらゆっくり北上する小さな人影が見えた時だった。
俺は立ち止まりそれを凝視すると、次第にその正体が見え始める。

レイジ 「……女の子……なのか?」

遠すぎて種族が分からない。
ただ、細身でなんとなく少女のように見えた。
その人影はまだ、俺に気づいていないのだろうか? かまわずゆっくりと北上し、進路上の俺に近づいてくる。
やがて、距離は100メートルを切ろうかという辺り、ようやくその姿が本格的に分かり始める。

見た目はアクシスと同じか、ちょっと上くらいの年齢の女の子。
白いTシャツに紺の長ズボン、すらっとした銀の髪を重力に逆らうことなくまっすぐと腰まで降ろし、背中に翼のようにも見える何かを生やしている。
比較的小柄で150センチくらいだろうか?
信じられない服装だが、氷タイプなら問題ないのだろうか?
いや……それよりもきになるのは2点。

レイジ 「あいつ……目を瞑りながら歩いてないか?」

まだ遠いのでいまいちわからないが、心なしか目をとじているように見えた。
そしてもう一点は。

レイジ 「体中が……凍っている?」

まるで霜焼けのようもみえるが、腕や背中の翼上の何か、さらに顔や足、腰などが白い氷の塊に覆われているように見える。
しかもそれは成長するようにうごめいているようにも見えた。
そして……近づくにつれだんだん気づいたのは……異常な寒さだった。

レイジ 「寒さがどんどん近づいて来やがる……? もしかしてあの娘が冷気を放っているとでも?」

馬鹿げた話だが、世の中は広い……そういう奴だっているかも知れない。
が……これは異常だ。

やがて、距離はついに10メートルを切った。
その少女は完全に目を瞑っているため、こちらに気づいていない。
俺は……意を決して声を掛けた。

レイジ 「ちょっと、君――!」

少女 「……」

俺の声は聞こえただろうか?
少女は歩みを止めなかった。
俺はあきらめず、もっと大きな声で。

レイジ 「君ッ!!」

少女 「……!」

少女の足が止まる。
俺の声に反応したのか、一瞬身震いし、ゆっくりと目を開けた。

少女 「……ふわぁぁぁ……んにゅ」

レイジ 「……はぁ?」

なんとその少女、突然のんきにあくびをすると眠そうに細いまぶたをごしごしと擦っていた。
俺はこの少女から心なしか感じていたプレッシャーとは裏腹な行動にキョトンとしてしまう。

少女 「あれぇ? ここどこ?」

レイジ 「……」

少女 「うにゅ〜? 君誰ぇぇ?」

……一体、一体全体これはなんなのだ?
少し前まで俺はこの少女に得体のしれない恐怖感を感じていたが、それが一瞬のうちに砕けて消えた。
ちょっと間延びした口調の普通の女の子……にしか見た目は見えない。

レイジ 「俺はレイジ、そしてここは海のど真ん中、具体的な場所は俺にも分からん」

少女 「なんでぇ?」

なんでとはなんのことだろうか?
なぜ、こんな場所にいるのかとでも言いたいのか?
それならば俺にもわからん。

レイジ 「それより君こそ何者だ? なんで海を歩いてきている?」

少女 「うーん、歩いてきたんだぁ〜知らなかったぁ〜」

レイジ 「知らなかったって……」

少女 「あたし……眠ってたから、よく覚えてないぃ」

レイジ (夢遊病?)

夢遊病にしてはちと度が過ぎている気がするが……。

レイジ 「まぁいい……どうする? アンタさえよければアクアレイクまでは案内するぜ?」

俺はそういうと手を差し伸べる。
すると少女はじっと俺の腕を見つめた。

レイジ 「?」

少し疑問に思う間、それが一瞬過ぎると少女は俺の手を握った。
すると……おそるべき冷気が俺を襲う。

レイジ 「ッ!?」

少女 「えへへ〜、暖かい〜♪ る〜♪」

少女は俺の手を握ると嬉しそうに顔を綻ばせていきなり腕に抱きついてきた。
その瞬間俺の体温が急激に奪われるのを感じる。
ていうか……この子冷気を放出しているのか!?

レイジ 「さ……ささささ、寒い寒いっての!」

少女 「えへへ〜♪」

しかし、少女はこちらの気も知れずのんきに抱きついているのだ。
さすがに命の危険を感じる。
やらなければ……やられる!

ドカァァ!

少女 「あうぅ〜……ごめんなさいぃ〜、お願いだからアームハンマーはやめて」

少女は泣きながら離れる。
俺のとっさの一撃は見事に効果バツグンだったようでひっぺがすことに成功した。
毛皮のコート越しだったから大丈夫だったものの、直接だったら間違いなく凍傷を起こしていただろう。

レイジ 「ったく……女性に抱きつかれて嬉しくないと思ったのは初めてだ」

少女 「うぅ〜……貶されているうぅ〜」

俺は凍った毛皮のコートをパンパンと叩くと改めて歩き出す。

レイジ 「……こっちだ付いてきなよ。ただし抱きついてきたら今度はさっきよりきついのブチかますからな?」

少女 「うぅ〜ぶたないでぇぇ」

すごく涙目になっている。
これくらい釘を差していればさっきのような事態にはなるまい。



……そして会話もないままもう30分ほど歩いていくとアクアレイクは見えてくる。

レイジ 「ようやくみえてきたな、あれがアクアレイク、知っているか?」

少女 「う〜ん、知っているような〜……知ってないような〜」

曖昧だな、憶えてないのか?
まぁ、別に世間話みたいなものだしどうでもいいのだが。
しかし改めて海が凍っているというのは奇妙なものだな。
海を泳ぐというのは慣れているが、海を歩くというのは初めてだ。
触った感じからもわかったが、この少女はかなり体温が冷たい……というレベルじゃない。
なんとなくわかったが、恐らくこの子こそがこの寒冷前線の現況ではないだろうか?
正直近くを歩くだけでもどんどん冷気に体力を奪われていく。

レイジ 「――なんだか、街の様子がおかしいな?」

遠目に港に人が見え始めると、なんだか様子がおかしいことに気づく。
まるで町中から人が集まっているみたいで、こちらが注目されているみたいに見えた。
やがて、声が聞こえるほど接近したとき、その異常がようやく理解できた。

ドククラゲ 「来た! 奴がまた来たぞ!」

アリゲイツ 「冗談じゃない! 絶対に上陸させるな!」

フローゼル 「帰れ! 疫病神めーーっ!」


レイジ 「ッ!? なん……だと……?」

俺は信じられない野次を聞いてしまう。
これまで、アクアレイクに来て思ったことは、温かい人情のある街だと思ってきた。
間違っても種族的差別は行わないし、あんな侮蔑の言葉は発しない。
それなのに……。

少女 「あ……う……ぅ……っ」

サメハダー 「この街に入ってくるなーっ!」

やじはあっという間にエスカレートしていった。
やがて心ない者たちから『ソレ』が飛び出したのはある種必然だったのかも知れない。
だが、少なくともその時の俺にはそれは信じられなかった。

バキィ!

野次馬の中からこぶし大の石が投げつけられた。
それは動くことのできない少女の額に辺り砕ける。

少女 「あ……う……お願い……やめて……石投げないでぇぇ……ぶたないでぇぇ」

次々と投げつけられる何か、その中には当たると危険な物まで平気で混ざっている。
そんな殺気立った中に入れば少女の心が折れるのは仕方がないと言えるだろう。

少女 「……ッ!」

少女は背中を向けて街から逃げ出した。
正直俺はどうしたらいいか戸惑ったが慌てて少女の後を追った。





少女 「……えっぐ……ひぐっ……っ!」

レイジ 「……」

海の底まで凍った大海原のど真ん中で少女がひとりうずくまり泣いている。
俺はすぐ近くまでたどり着くが、いまいちなんと声をかければいいか分からない。

レイジ 「……その、大丈夫か?」

少女 「!? あ、あなたもあたしをイジメにきたの?」

レイジ 「違う! 俺はそんなことはしねぇ!」

まず、最初に俺に思った印象に俺は衝撃を受ける。
あなたも……か、よほどの事情がありそうだな。

少女 「あたしは体から際限なく漏れる冷気が抑えられないから……何もかも凍らせて気象すら変えてしまうから疎ま続けるんだ……誰も、あたしなんか必要ないんだ……」

レイジ 「ッ!?」

必要ない……だと?
そんなもの……そんなもの! 存在しない!
だれだって存在する意味があるんだ! 要らない存在なんてない!

少女 「……あなたもあたしが迷惑でしょ? あたしはそういう存在なんだ、何千年も……何万年だって疎まれ続けている」

レイジ 「……!」

頭の中で何かが切れた。
理性を可能な限り残そうとするが、考えるよりずっと俺は自分に正直に動いていた。

レイジ 「頭から血が流れているぞ……たく!」

俺は毛皮を脱いで少女にかぶせると、ズボンポケットからハンカチを取り出して、少女の額に巻いた。
冷気が肌を突き刺す……寒いなんてもんじゃない、極寒の中で肌着一枚なんて死活問題だ。
だが、そんな当たり前のことすら今の俺は二の次にしていた。

レイジ 「誰も必要にしてないだ? 迷惑だ? ああ……たしかにあんた迷惑だ! アンタといると寒くてかなわねぇ!」
レイジ 「だがな、これだけは言っとくが! 俺はアンタを必要としている! ……だからここにいる」

俺はそう言ってそっぽを向いたまま少女のとなりに座り込む。

少女 「……うぅ……ひっぐ、えぐ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

レイジ 「!? うおっ!?」

突然、大声で泣いて飛び掛ってくる。
俺はそのまま押し倒されるが、まず感じたのは死の予感だったのは言うまでもない。

レイジ 「冷たっ! ていうか痛い! 肌を刺す寒さが痛い!?」

背中は氷床、胸元には寒さを出し続ける不思議少女、まさに冷気と冷気の板挟み、あっというまに体温が奪われる。

レイジ 「ええい! だから抱きつくなと言うとろうにーーっ!」

俺はそう言って少女を弾き飛ばし、直ぐ様立ち上がる。
だめだ、もう体の感覚がない……体の動きも鈍い。

少女 「うぅ〜……ごめんなさい……見捨てないでぇぇぇ」

レイジ 「……誰が見捨ているといった、捨てる神あらば拾う神あり、だ」

少女 「ほえ?」

俺は少女を起き上がらせると直ぐ様歩き出す。
少女は不思議そうに首をかしげた。

レイジ 「……もう一度アクアレイクに行くぞ、こい」

少女 「え……でも」

レイジ 「物投げられた全部俺が撃ち落としてやる、野次言う奴は全部俺が黙らせてやる。俺がお前を信じる、そして必要とする。だからお前も俺を信じろ、必要としろ」

少女 「う……うんっ!」

少女は初めて見せる強い頷きとともに俺の後ろを付いてくる。
今は気が気じゃないのでなんとかなっているが、このままだとちょっとやばいな。
とはいえ、ああ言ってこうやった建前、寒い素振りをするわけにはいくまい。
俺は震える体に喝を入れながら一刻も早くとアクアレイクへと向かった。




……………。




ガマゲロゲ 「また来たぞ?」

ポッタイシ 「ふん、何度来たって!」

ヒュッ!

放物線を描いて何かが少女に向かって飛んでくる。
空き缶だ、俺はそれを見逃さない。
俺の横を通過する瞬間俺は裏拳で叩き落とした。

レイジ 「テメェら……それがテメェら正体なのかーーっ!?」

俺は怒りをこめてアクアレイクの住民達に訴えかけた。
一瞬戸惑うように住民達が口をふさぐ。
俺は思いのたけを込めて、彼らに俺の言葉をぶつけた。

レイジ 「アクアレイクは! あらゆるポケモンを差別しない! どんな職業、どんな境遇の者でも受け入れる人情と! 縁と絆の街じゃなかったのか!?」
レイジ 「この少女はおまえらに直接危害を加えたか!? 侮蔑の言葉をぶつけたか!! 理由はどうあれ街に来る者を拒むのが人情か!?」

「…………」

俺の怒号に彼らは言葉がでない。
やがてひとりの女性が代表するかのように前に出た。

若菜 「……クリアブルーのレイジさんだね? さっきも会ったね、それはクリアブルーの仕事なの?」

レイジ 「あの店は関係ない! 俺個人の憤懣だ!」

若菜 「……たしかにレイジさんの言うとおりね。理由はどうあれ来るものを拒むのはアクアレイクの流儀に反するわ」

ザワザワ、ザワザワ!

若菜の同意の言葉に一斉に周囲がざわめき始めた。
動揺しているんだ。
そして、トドメを刺したのはもう一人の女性だった。

ルミラ 「……あの方の言うとおりでしょう。よそ者を差別するというのは……やはり間違っているでしょう」

レイジ (? なんだあいつ……あんな気骨のある女が他にいたのか?)

初めて見る女性だったが、とても印象的な女性だった。
一見するヤミカラス種に似ているが、よく見ると全く違う……見たこともない種族で黒い翼が印象的。
腰に一振りの刀を挿しておりなにかしら威圧感のある女性に感じた。

トール 「……テメェらの負けだ! 野次馬ども道開けろ! あいつらが上陸できねぇだろうが!」

そして最後にトールの掛け声で、野次馬たちは静まり、道を開けた。
俺は振り返り少女の様子を見る。
少女は不安そうであり、俺の後ろに隠れている。
俺はニコリと笑うと、手を差し出す。
『いこう』と、促すために。

少女 「……」

少女はオドオドしながらも意を決して俺の手を握る。
手から冷気がこぼれ、俺の手が凍るかのように冷たいが、俺はそれを顔に出さずゆっくりと引っ張りアクアレイクへと上陸した。



シードラ 「で……ででででではははは、こ、こここのののこの、しょ、書類に……名前としゅ、種族名を……」

……その後、入国手続きをするため、関所に向かい入国時の身分証明のためのパスポートを作成させてもらいにきていた。
きていたのだ……が……。

レイジ 「あぶぶぶぶぶぶ……な、なあ? だ、暖房効いてねぇんじゃねぇか?」

シードラ 「だめです、な、なにもかも灯油もガソリンも凍ってしまって、暖を取ることが……」

レイジ 「………」(唖然)

少女と一緒に関所に入ると、中が密閉空間ということも災いして、あっという間に関所は冷凍庫のようになってしまう。
関所の受付のシードラ種の人も全体が震えて、唇も青くなっている。
一方少女はのほほんとしており、とくに寒そうには見えない。

少女 「……」

レイジ 「? ど、どうした?」

少女は紙を見つめると困ったようにしていた。
ペンを持っているが、書き込む様子がないのだ。

少女 「レイジ、あたし名前ないの」

レイジ 「あ? 名前がない?」

少女 「あたし多分この世界に一個体な上に、特別誰かに信仰されたりする存在じゃなかったから名前が必要なかったの」

レイジ 「? どういうことだ? じゃ、じゃあ……友達とかはお前のことなんて呼んでた?」

少女 「うーん、友達の凍華ちゃんはキューちゃんって呼んでくれてた」

レイジ 「キューちゃん?」

少女 「うん、種族名はキュレムだからキューちゃんだって」

少女はそう言うと種族名のところにキュレムと書く。
案外字は綺麗だった。

レイジ 「キュレムねぇ……聞いたことのない種族だが名前がないのか……キューちゃんで行くのもいいけど、どうするんだ?」

少女 「うーん……レイジはあたしの名前どんなのがいい?」

レイジ 「あん?」

キュレム種という謎の種の少女はそう言うとおねだりをするような目を見てくる。
う……む、俺に名前を決めてくれということか、俺は姓名判断師ではないのだがな……。

レイジ 「だったらちょっとひねってレイムちゃんってのはどうだ? そうだな……こう書いてレイム」

俺はそう言うと紙の端っこに『冷霧』と書く。

少女 「うん♪ レイジがそう言うのならあたしは冷霧!」

少女はそういうとにこやかに名前に俺の書いた字を写す。
そんな簡単に一生の名前を決めてもいいのかとも思うが、彼女がそれでいいのなら構わないのだろう。
その後必要な書類もパッパと書き終えると、シードラ種の受付さんはすぐさま紙を持って行った。

シードラ 「こ、こちらは仮入国所になります、本物の入国所は後日発行させていただきます」

冷霧 「はーい♪」

冷霧はうれしそうに仮入国所を受け取ると、誤って(!?)シードラ種の受付の指に触れてしまう。

シードラ 「あ」

カチーン!

アメタマ 「うわぁ! アマト君が凍っている!」

レイジ 「冷霧、誰かに触るの禁止な」

冷霧 「ううぅ〜……ごめんなさいぃぃ、わざとじゃないのぉぉぉ……」

いきなり相手を凍らせてしまい涙ボロボロ、ついでにボロも出してしまう冷霧。
はぁ……キュレムだかマルキューだか知らないが、なんなんだコイツ。



冷霧 「……えへへ」

レイジ 「何にやけているの?」

関所を出て、街を散策すると冷霧が突然いきなり笑っていた。

冷霧 「レイジは本当にあたしを必要としてくれるの?」

レイジ 「男に二言はない、それがどうした?」

突然変なことを聞いてくる冷霧、一体何が言いたんだろうか?

冷霧 「じゃあ、レイジとあたしは両想いだね♪」

レイジ 「ぶーーーっ! あ、あのなぁ! なんでいきなりそうなる!」

あれか? 友情飛び越えて愛情を語るタイプか?
そういうのってアレだぞ? 結構嫌われるぞ?

レイジ 「つうか、道端でなんだ。空気読め!」

冷霧 「くうきよめ? 空気嫁? あ……うん、わかったぁ! あたし頑張ってその空気嫁っていうお嫁さんになって見せるよ! レイジのためにあたし頑張るよぉ〜♪」

レイジ 「H……」

何故かそう言う言葉が浮かんできた。
意味は分からないが、なぜが出てきてしまうということは意味があるのだろうか?
空気嫁ってどういうお嫁さんだ? ていうか俺は婿確定なのか?
いつの間に? これはえと……なんだ?

レイジ 「はぁ……これも不幸なのか?」

……こうしてまた俺は強烈なインパクトを持つ女に関わってしまうハメになるのだった。
え? 次回に続くよ? なんなんだこいつ……。








To be continued
















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