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POCKET MONSTER RUBY



第24話 『チャンピオン』




ドードリオ 「ドードーリオーーーー!!!」



ハルカ 「…ん、ふぅん…あはぁ…っ!?」

某日、某時刻、某鳥ポケモンに起こされる。
寝ぼけて、甘い吐息を出してしまったようだけど、気にしないでお願いだから…。(恥)
寝ぼけ眼で時刻を確認すると、6:00。
部屋は例によって…ワンボックス・ルームではなかったが、今日は何だかより清々しかった。

ハルカ 「…ん〜、まさに最高の朝! って言うか早起きは三文の得?」

思わず段位認定にチャレンジしたくなる…今回の(当時アーケード版12th)10段は強敵だわ、正直無理かもね。
しかしながら諦めていては仕方がない! 何とか攻略の糸口を見つけないと!
まずは基礎からやり直すしかないわ! これからはもうちょっと一から見直さないと!!
等と、言ってはいるが、実際にかなり現実を思い知らされているので内心かなりショックだったり…。
(その後、ちゃんと10段取得いたしました♪)

ハルカ 「…さて、そろそろ準備しますか」

私は荷物を確認し、コキコキと首を鳴らす。
最近運動不足かな…? 異様に体がコキコキ鳴るわ。
そうやって動かしていると、結局全身ストレッチをやってしまった…ここまでで10分ほど。
部屋の中で準備体操してどうするのよ! いきなり汗かいちゃったじゃない!!
そんなことを思いながら、私はアスナさんの部屋を出る。
そう言えば、アスナさんすでに姿が見えないけどもう起きてるのかな?



………。



ハルカ 「…朝食、の用意は出来ている」

さすがアスナさんだ、朝食とはいえ全く手抜きなし。
手作りのピザなんてどうやって作ったのか…ボリュームは満点ね、具材も何気に一般家庭で作れるような野菜と安肉を駆使したミックスだわ。
私はそれを軽く平らげて外に出ることにした。



………。



ハルカ 「あれ? アスナさんやっぱりいない…」

食後、ジムの方を覗いてみるがやはりいない。
時間は6:30。まだ早いくらいだが…。

ハルカ (どこ行ったのかな? ポケモンセンターかな?)

私は改めてこのジムのバトルフィールドに立つ。
誰もいなく、今は蒸気もなかった。
昨日は暑すぎる位だったけど、今日は逆に冷え込む気がする。
温度の昇降が激しいんだろう。
私はそんな中、ポケモンたちを全員繰り出した。

ボボボボボボンッ!!!!

ワカシャモ 「…シャモ」
マッスグマ 「グマ…」
ライボルト 「ライ」
コノハナ 「コノ〜…」
ペリッパー 「ペリ」
クチート 「クチクチッ」

全員特に問題は見当たらない。
昨日の激戦での疲れもすっかり抜けていたようだ。
が、楽観視は出来ない。
常に全員の体調は完備しておかないと…。

ハルカ 「さて、突然だけど今日は早朝トレーニングをするわよ?」

全員が元気よく(一部?)答える。
とりあえずやる気は大丈夫のようだ。
さて、肝心のメニューを私は申し上げる。

ハルカ 「今日は、多対一のバトルをやるわ! まず、ワカシャモがマッスグマとペリッパーのペアと組んで!」

ワカシャモ 「シャモ」

マッスグマ 「グマ…」
ペリッパー 「ペリッ」

ハルカ 「そして、ライボルトが残りのふたりとよ!」

ライボルト 「ライッ」

クチート 「クチッ」
コノハナ 「コノ〜」

ハルカ 「一応、今回の趣旨を述べておくわ…前に思ったことだけど、相手がマグマ団のようなのだと正々堂々戦ってくれるとは限らないわ」
ハルカ 「それにダブルバトルの場合、こちらが不利になったら一体で二体を相手にしなければならないこともある」
ハルカ 「そう言ったケースを想定して今回は戦うのよ? ワカシャモ、ライボルトは背水の陣を心がけなさい!」

ワカシャモ 「シャモ!」
ライボルト 「ライッ」

両者は気合を入れて相手を見据える。
この二体は最近特に調子が良くなってきている。

ワカシャモはまだ進化する気配はないが、それでも十分な働きだ。
ただ、最近炎技にどうにも威力がなくなってきた感じがする。
未だに『ひのこ』しかないのだ…格闘技で戦えるとはいえ、性格が災いしてしっかりと相手にダメージを与えることが出来ない。
アスナさんの『オーバーヒート』は凄かった…今でも鮮明に思い出せる。
『かえんほうしゃ』だって相当な威力だったし、さすが炎使いと言ったところよね。
ワカシャモも、もうちょっと強力な炎技があれば…。

ライボルトは今の所、獅子奮迅の働きを見せてくれている。
パーティの中でも一番の働きを見せていると言っていい。
スピード、特殊攻撃力、どれを取っても今の所パーティでは一番だろう。
やや打たれ弱い部分もあるけど、そこまで気にはならない。
ある意味、影のリーダー的存在なのかもしれない。

こうして、多対一のバトルが始まった。



………。



ワカシャモ 『せいっ!』

私は向かって来るグマちゃんに向かって前蹴りを放つ。
しかし、グマちゃんは直角に曲がってそれを簡単にかわす。
そして、直後グマちゃんがさっきまでいた場所にペリ君が現れる。

ペリッパー 『!!』

ペリ君は口から『みずでっぽう』を放つ。
私は蹴りの体勢が残っているのでかわせない。

バシャァンッ!

ワカシャモ 『…く』

思っていたよりもずっときつい。
今までこんなシチュエーションはなかったから、余計に辛く感じる。
本当は私が一番頑張らないといけないのに…最近、皆の足手まといになっている気がする。
攻撃するのが苦手なのは良くわかっている…でも強力な炎技を持っているわけでもない。
どうしたら…いいんだろう?


ハルカ (ワカシャモの動きが鈍いわね…どうしたのかしら?)

何やら思い詰めているようにも感じる。
自分で何かを感じ取っているのだろうか?
思いの外、マッスグマとペリッパーのコンビは動きがいい。
マッスグマのスピードで撹乱し、ペリッパーが攻撃する。
またその逆も然りで、ペリッパーが前に出てマッスグマが援護する型も見せた。
正直、一体でこれを相手にするのは不可能かもしれない…私の予想を越えてマッスグマとペリッパーは頑張ってくれている。
ワカシャモは…まだこれをクリアできる段階じゃないのかもしれない。
せめて、進化していれば…。


ライボルト 『エイッ!』

クチート 『キャァッ!』

コノハナ 『大丈夫ですか〜?』

クチート 『って、コノちゃんも攻撃してよ!』

コノハナ 『そうですね〜』

のんびりとした口調でコノちゃんはこちらを向く。
来るわね…私は身構える。

ライボルト 『……』

コノハナ 『あっ!』

ドサッと音をたててコノちゃんが倒れる。
い、一体何事?
私はコノちゃんに近づく。
が、それがいけなかった。

クチート 『あまーい!!』

ゴオオオオオオォォォッ!!

ライボルト 『熱っ! 熱いって!!』

私は見事に『かえんほうしゃ』を喰らってしまう。
騙された…これも『だましうち』になるのかなぁ?
って言うか、このふたり揃って『だましうち』を使うから相手にするのが大変だよぉ…。


ハルカ (こっちは割といい勝負ね)

ライボルトは思いの外善戦している。
クチートとコノハナは二匹揃ってペースをかき乱しにかかっている。
普通に戦うだけじゃ苦戦するのは目に見えているものね…。
ただ、ライボルトは思いの外攻撃が辛そうね。
電気技はコノハナに効き難いからその分『でんこうせっか』で戦っているけど…。
思ったようにダメージが通ってない…やっぱり今回のチョイスはちょっとまずかったかしら?
私はちょっと頭を抱えた…多少の無理は予想してたけど。

ハルカ (思っていたよりもコンビネーションがいいのよねぇ、うちのパーティは)

何と言っても仲がいい。
互いの呼吸をよくわかっているから、相手にする時も裏をかいたりすることが出来る。
特にマッスグマとクチートはそう言った心理戦が凄く上手い。
自分の特徴をよく理解して、相手の特徴もわかっている。
技の性質もよく理解しているみたいだし、相手にする分にはかなり辛そうね。



………。
……。
…。



ハルカ 「よしっ、じゃあここまで! 皆休んでいいわよ!!」

私はそう言って皆をその場で休ませた。
私も一旦気を休めると、後ろに人の気配を感じる。

アスナ 「やっほ〜ハルカちゃん、調子はどう?」

ハルカ 「あ、アスナさんいつのまに…?」

アスナさんは笑顔で手を振っていた。
至近距離なんだけど…。
私は振り向いてアスナさんを見た。

アスナ 「ふぅん…早朝トレーニングかぁ、いつもやってるの?」

ハルカ 「え? いえ…そう言うわけじゃないですけど、たまに位かなぁ?」

実際そうなので何とも言えなかった。
それを聞いてアスナさんは。

アスナ 「…悩んでるの?」

ハルカ 「え? 何がです…?」

つい聞き返してしまう。
アスナさんが唐突にそう言うので驚いてしまった。

アスナ 「いやいや、ハルカちゃんじゃなくて…あのワカシャモだよ」

そう言ってアスナさんはヘタレ込んでいるワカシャモを指差した。
ああ、なるほどね…。
あれなら誰が見ても悩んでいるように見えるのかもしれない。

アスナ 「随分きついトレーニングしてたみたいだけど、どうしたの?」

ハルカ 「…ワカシャモって、いい炎技がないんですよね」

アスナ 「うん? ワカシャモは格闘タイプでもあるから、そんなに不利にはならないと思うけど」

ハルカ 「…そうなんですけど、この前のコータスとの戦いでも感じたことなんですよ」
ハルカ 「私のワカシャモは、臆病なせいか攻撃が下手で…その上炎技も強くないし」

アスナ 「ああ、なるほどねぇ…確かにコータスみたいに防御が高いポケモン相手だと辛いよねぇ」
アスナ 「う〜ん、なるほど…臆病だったのか、あのワカシャモ」

アスナさんはワカシャモを見てう〜んと唸る。
何を考えているのか?

アスナ 「だったらさ、ハルカちゃんこれ使ってみる?」

ハルカ 「はい…?」

アスナさんは突然、『わざマシン』を私に差し出した。
これは…?

アスナ 「さっき作ってきたんだけど、ハルカちゃんにあげるよ」
アスナ 「中身は50番:『オーバーヒート』だから」

ハルカ 「オ、『オーバーヒート』!? あの超強力な奴ですよね!?」

私がそう言うと、アスナさんはアハハッと思い切り笑う。
一体何がおかしいんだろうか?

アスナ 「やっぱり、何も気付いてなかったんだハルカちゃん…!」

ハルカ 「は?」

アスナ 「『オーバーヒート』ってね…使った後、特殊攻撃力がガクッと下がっちゃうんだよ?」

ハルカ 「……え?」

それは、つまり…。

アスナ 「試合中、ハルカちゃん警戒しまくってたもんねぇ…お陰で途中笑いそうになったよ」
アスナ 「ハルカちゃん、まだポケモンのことあまり知らないんだもんねぇ…大抵ジム戦に来るようなトレーナーはジムリーダーのこと研究してくる物だけど」
アスナ 「まぁそれでも結局負けちゃったから、アレだけどね…」

ハルカ 「あ、あはは…そうですか」

なるほど…『オーバーヒート』ってそう言う技だったんだ。
でもあの威力はかなり凄い。
1回っきりと考えても魅力だろう。

アスナ 「ワカシャモは格闘技でも戦えるから、覚えさせてもいいと思うよ。特性の『もうか』が発動したら本気で一撃必殺になるし」
アスナ 「まぁ、他に覚えられるポケモンがいないみたいだしね」

ハルカ 「あ、そうなんですか?」

アスナ 「うん、炎タイプなら大抵覚えられるけど…他のタイプだと結構少ないかな」
アスナ 「まぁ、別のポケモンのために取っておくのもいいけど、ハルカちゃんの自由にしていいよ」
アスナ 「一応試作品みたいな物だけど、多分もう作らないかもしれないから」

ハルカ 「え? これってもしかしてレアな物なんでしょうか?」

アスナ 「…ひょっとしたらね。基本的には量産してないし、まぁカントーの方でも使っている人はいるみたいだけど」
アスナ 「私が持っているのはそれだけだよ…まぁ作れないことはないんだけど」

ハルカ 「時間がかかるんですか?」

アスナ 「ううん、全然…焼き込みに3分位かな?」

インスタントラーメンじゃないんだから…って焼き込み?
CD−Rと同じなのかしら…?

アスナ 「まぁ、バックアップはお爺ちゃんの頃から取ってあるから、後はメディアさえあれば出来ないこともないけど」
アスナ 「一応決まりみたいな物があるのよ…お一人様一枚限りってやつ」

スーパーの特売品みたいね…まぁタダなんだからしょうがないか。
私はそれを見て、ワカシャモを見る。

ハルカ 「ありがたくいただきます…これでワカシャモもかなり楽になると思います」

アスナ 「気にしないで! 友達が悩んでいるのにほっとけないし」
アスナ 「まぁ、使い所は考えてね? 癖のある技だから…失敗したらエライことになるわよ?」

ハルカ 「は、はい…」

確かに…万が一でも、かわされたりしたらヤバイもんね。 (注!:ゲーム中ではかわされても特攻は下がらないのでご安心ください)
でも、この技って放射系じゃないみたいだけど…?

アスナ 「ああ、そうそう言い忘れてたけど…『オーバーヒート』は特殊攻撃だけど、接触系の技だから」
アスナ 「近づかないと当たらないってこと忘れないでね?」
アスナ 「パンチでもキックでも、体当たりでもいいから、とにかく当たれば炎が爆発するわ」
アスナ 「その後、こっちの特殊攻撃力が下がるから、使うなら一撃必殺のつもりでね」

ハルカ 「わ、わかりました」

まぁ、それならワカシャモには余計相性がいいだろう。
要は殴るか蹴るかすればいいわけね…。

アスナ 「あ、もうひとつ言っておくけど…」

ハルカ 「はい…まだ何か?」

アスナ 「もうすぐジム開けなきゃならないから、バトルフィールド掃除手伝ってね?」

ハルカ 「……」(汗)



………。



結局、私は自分のトレーニングで荒らしてしまったバトルフィールドをアスナさんと一緒に掃除するのだった。



………。



ハルカ 「それじゃあ、そろそろ行きます」

アスナ 「そう…名残惜しいけど、また会いましょうね!」

ハルカ 「はい、アスナさんもお元気で」

私はそう言ってジムを後にする。
そろそろ次の目的に移らないと…。

ハルカ 「…とりあえず、トウカまで戻らないと」

私はどのルートで戻ろうか考えて歩く。
漢方薬屋の通りまで来た所で、誰かが近寄ってくるのがわかった。

ユウキ 「あれ? ハルカ…」

ハルカ 「…え?」

そう、それはご存知オダマキ博士の息子だった。
漢方薬屋から出てくるなんて、またどう言った了見で?

ユウキ 「もしかして、ジム戦の申し込み?」

ハルカ 「お生憎様、もうバッジは取得済みよ」

私はそう言って歩き出す。
正直別に彼に興味はない。
が、彼はそうでもないらしく。

ユウキ 「ああ、待て待て! 折角会ったんだし、これ持って行けよ!!」

ハルカ 「はぁ…っておっと!」

私は突然投げ渡されたモノを見る。
ゴーグル?
いかにも目を防護してくれる造りだけど。

ユウキ 「それは『ゴーゴーゴーグル』、それがあれば砂漠でも視界が保てるんだ」
ユウキ 「砂漠にも色々ポケモンがいるから、寄ってみれば? 何でも最近は化石が発見されたそうだよ」
ユウキ 「早い者勝ちらしいから、探してみるのもいいかもね…じゃ俺は行くから」

そう言って、ユウキはさっさと行ってしまった。
相変わらず忙しい男ね…まぁ心の中で礼位は言っておくわ。
私はそれを持って、次の目的を見据えた。





………………………。





ハルカ 「さて、キリキリ探しましょうか!」

私はそう言って早速砂漠を走り回る。
思いの外砂嵐がきつい、このままだとポケモンもダメージ受けるわね。
しかしながら、結構多くのトレーナーが見える。
避けてもいいけど、戦うのも訓練になるからいいわよね。
私はこうして、数人のトレーナーを蹴散らしながらついにある場所にたどり着いた。



………。



ハルカ 「お、もしかしてこれって!?」

私の眼前にはふたつの化石らしき物が…。
左に爪のような化石、その右側に根っこ…とでも言えばいいのかな?
そんな化石があった。

ハルカ 「…これって、ふたつとも貰っていいのかな?」

ふとそんなことを思ってみる。
早い者勝ちって言うんだから、それも有りよね…と手を伸ばそうとするとあることに気付く。
足元のバランスが非常に悪い…と言うか、軽い蟻地獄が発生していた。

ハルカ 「…このサイズから考えて、両方を同時にリフトアップしたら私も飲み込まれちゃうわね」

周りは砂嵐、下手な考えは止めた方がいいだろう。
ある程度知識のある人間なら、これに手を出すのは勇気のいることだ。
死んだら何も残らないしね…。
私は決断して『ツメのかせきを手に取った。

ハルカ 「く…結構重いわね!」

片手だと結構辛かった。
しかしながらどうにかそれをゲットする。
その瞬間、『ねっこのかせきは沈んでいった。
私はほっと胸を撫で下ろす。
底なし…とも考えられるわね、下手な考えはやめた方がいいわ。
さて、ここで私は考える。

ハルカ 「化石…っつってもどうしよう? 売ったらお金になるのかな?」
ハルカ 「あ、そうだ! 確かデボンに化石再生の何かがあった気が…」

そこなら何かわかるかもしれない。
少なくとも私じゃ何もわからない。
ってことは…。
私は一旦砂漠を抜け、キンセツ方面に出る。



………。



ハルカ 「シダケタウンを抜けてカナズミに行けばトウカにも近いわね」

ポケナビを見ながら私はそう呟く。
このルートならトウカにも最短だろうし。
海が越えられればもっと近いルートもあるけど。
今の所海を越えられない以上、キンセツからヒワマキ方面には行くことが出来ない…もちろんキヨミさんのように空が飛べれば別だけど。

ハルカ (ペリッパーじゃ私を乗せられないかなぁ…?)

乗った所で距離が保つとは思えない。
キヨミさんのクロバットはあの体格でよく飛べるわね…さすが最終進化形、とも言えないか。
単純に体力が違うんだろう…あれは。
さて、とりあえずルートは決まったし、キンセツに向かうとしますか…。





………………………。





キヨミ 「……」

ザアアアアァァァァァァッ!!

私は雨に濡れながら、草むらを歩く。
この辺りは多いわね…。
私は適当な木を見つけて雨宿りすることにした。
さすがにびしょ濡れだ。
替えの服もバッグの中だけど悲惨な状態になってしまっている。
しまったわね…ここら辺りの気候を予想してなかったわ。
私はそう思って少し休む。
そしてポケモンを一匹出した。

マンタイン 「マン〜」

私はマンタインを出して周りを見る。
近くに水の流れる場所がある、私はそれを確認し。

キヨミ 「マンタイン、そこに降りて!」

マンタイン 「マン〜」

マンタインは水の上に着水する。
私はマンタインの上に飛び乗る。
数メートル程高さがあったが、マンタインが上手く衝撃を緩めてくれた。

キヨミ 「ありがとうマンタイン…そのままあの橋の下まで向かって」

マンタイン 「マン〜」

マンタインは川を上って橋の下に到着した。
確かこの近くに『てんきけんきゅうじょ』があった気がするけど…。 ← (この真上のすぐ近くだと知らない人)
今は雨を凌ぐしかないかな?
だけど止む気配は全く感じない。
『にほんばれ』で無理矢理天候を変えるのもひとつの手だけど…。

キヨミ 「あれ? あんな所に洞窟が…」

私はふと北側に洞窟を発見する。
遠目にはよくわからないけど、結構大きな穴だ。

キヨミ 「マンタイン、あそこまで向かって」

マンタイン 「マン〜」

私は洞窟の近くまで向かう。
すると、中は結構広いようだ。
私はここでちょっと雨宿りすることにした。
マンタインをボールに戻して私は洞窟の中に入る。



………。



キヨミ 「…中は特に何もないわね」
キヨミ 「うん? パソコン…何でこんな所に?」

ふとパソコンを見つけてしまう。
よく見たら何かリストのような物がモニターに表示されていた。
これはプライベートの侵害ね、見ない方がいいわ。
私はそれから目を離し、手頃な椅子に腰掛けた。
って言うか、椅子?
木の椅子だけど、しっかりした物だ。
もしかしてここ…誰かが住んでるの!?

キヨミ 「よくよく考えたら、木のテーブルもある…あれ? これって…」

ふと部屋の隅の方に妙な物を見つける。
これって…金の楯!?
見てみると…『バトルタワー100連勝記念』と書いてあった。
バトルタワー…そう言えば聞いたことあるわね。
噂に寄ればかなりの凄腕トレーナーが集まっているそうだけど。
つまり、ここはポケモントレーナーの家ということかしら?
それを眺めていると、ふと誰かが入ってくる音が聞こえた。

キヨミ 「!?」

? 「誰? 誰かいるの!?」

私は入り口の方に向かい、その人の視界に入った。
見ると、どうやら服装はエリートトレーナーの類のようだ。
すらっとした長い髪に、綺麗で端正な顔つきは純粋に美人と言えるだろう。
私と同じ位の年だろうか? 私を見て、何やら驚いた表情をしている。

? 「…え、う、嘘!? 何で、ここにあなたが!?」

キヨミ 「?」

どうやら、この人は私を知っているらしい。
って、そう言えば今の私、顔を隠してない!

? 「ええ!? あなたって、数年前にジョウトリーグで優勝したチャンピオン、キヨミさんですよね!?」

見事に当てられる。
どうやら、手遅れのようだ。

キヨミ 「あの…一体何のことか〜」

私はとぼけて見せた。
しかし、相手は信じてくれない。

? 「あ、あの私大ファンなんですよ! サインお願いできます!?」

そう言って彼女は色紙とペンを差し出した。
だけど、私は正直サインなんて書いたことない…。

キヨミ 「あ、あの…私もうチャンピオンじゃないですし、サインはその…苦手ですから」

? 「そうなんですか? てっきりサインとか書きなれているのかと…」

キヨミ 「私はとりあえず、もう一般トレーナーだから!」

そう言ってサインは拒否した。
仕方なく相手はそれを引き下げる。

? 「でも、どうしてこんな所に? 噂じゃもうトレーナーを止めたって聞きましたけど…」

キヨミ 「…随分知っているのね、あなた一体?」

? 「あ、申し遅れました! 私『ハナセ』って言います! 一応、エリートトレーナーやってます」

元気よく笑顔でそう言った彼女はハナセと言った。
明るい性格のようで、ちょっとハルカちゃんを思い出す。
私は苦笑するしかなかった。

ハナセ 「キヨミさん、ひとつ聞いていいですか? どうしてキヨミさんはチャンピオンを辞退したんですか?」
ハナセ 「私、それが気になって気になって…今までずっとキヨミさんを追い続けてここまで頑張ってきたんです!」

彼女は本当に辛そうに話す。
実際、そうなのだろう…まるで自分のことのように聞いてくる。
理由…か。
それを話すのはどうかと思った。
話せば彼女は間違いなく幻滅するだろう。
それ位暗い理由だ。

キヨミ 「…聞かない方がいい、強いて言うなら私はそんな器じゃなかったってこと」

ハナセ 「…そんなことないと思います! そうだったらチャンピオンになれなかったと思います!!」
ハナセ 「器があったから…なれたんじゃなかったんですか?」

キヨミ 「そう言う意味じゃないのよ…器って」
キヨミ 「まぁ、考えない方がいいわ…とにかく私はチャンピオンになりたくてリーグを制覇したわけじゃないから」

私の言葉にハナセさんはしゅん…とする。
色々ショックなのだろう。
それも仕方ないことだ…私は人に認められるためトレーナーになったんじゃない。
私はトレーナーとしては優秀すぎた…そのために人から疎まれることがいくらもあった。
人の感情だけでポケモンを動かすわけにはいかない。
ポケモンはトレーナーの心を写す鏡…って誰かが言っていた気もする。

ハナセ 「キヨミさん…もし良かったら、私とバトルしてもらえませんか?」

キヨミ 「…いいわよ、それであなたの気が済むなら」

私は彼女の心情を理解してバトルを受ける。
そして私は外に出た。



………。



ハナセ 「使用ポケモンは1体、それでいいですか?」

キヨミ 「ええ、わかったわ…なら、こちらから行くわよ!」

ボンッ!

ヘラクロス 「ヘラッ!」

ハナセ 「ヘラクロス…? キヨミさん、使うポケモンを変えたんですね…なら私は!」

ボンッ!

バシャーモ 「シャモッ!!」

キヨミ (炎タイプか…さすがに鍛えられていそうね)

相手はバトルタワー100連勝の丈夫だ。簡単に勝てるとは思えない。
相性では完全に悪い…これは一筋縄ではいかなさそうね。

キヨミ 「まずは、動きを見せてもらうわよ…ヘラクロス『かわらわり』!」

ヘラクロス 「ヘラッ!」

ヘラクロスはバシャーモに向かって正面から突っ込む。
そして、右手を掲げて上から振り下ろす。

ドガァッ!!

バシャーモ 「シャモ…!」

ハナセ 「…バシャーモの体重じゃ止められない! バシャーモ『かえんほうしゃ』!!」

バシャーモ 「シャーー!!」

キヨミ 「ヘラクロス、『こらえる』!!」

ヘラクロス 「!!」

ゴオオオオォォォッ!!!

凄まじい『かえんほうしゃ』がヘラクロスを直撃する。
だが、ヘラクロスは両手を眼前でクロスさせてそれを『こらえる』。
この技を使うことで、どれだけ大きなダメージでも耐えることが出来る。
そして、このヘラクロスは『むしのしらせ』と言う特性をもっている。
が、別に今回はそれに意味があるわけじゃない。
炎タイプと格闘タイプ両方に虫タイプは効果が今ひとつだ。
つまり、折角威力がアップした虫技でも、決定的なダメージは与えられない。
今回、この技を使ったのは、当然あの技の威力を上げるため!

キヨミ 「反撃よヘラクロス! 『きしかいせい』!!」

ヘラクロス 「ヘラッ!!」

ヘラクロスは『かえんほうしゃ』を耐え切って攻勢に出る。
まともに決まれば一撃必殺同然の威力!

ハナセ 「バシャーモ『こらえる』!」

バシャーモ 「シャモ!!」

ドガァァッ!!

ヘラクロスの正拳突きがバシャーモのガードの上から炸裂する。
バシャーモは1メートル程吹っ飛ぶが、倒れずに残っていた。
まさか、そう来るとはね…。

キヨミ (こうなったら、互いにやることはひとつ、ね…)

わざわざ『こらえる』を使ってダメージを受けきったんだから、互いに出来ることは決まっている。
元々一対一の戦いで、相性差を覆すにはこう言った無茶が必要だったけど…相手も折込済みとはね。
伊達に100連勝もしていない…か。
後はどちらの攻撃が先に決まるか…。
バシャーモは間違いなく『もうか』が発動している、そして不幸にも距離が空いてしまった。
相手は『かえんほうしゃ』で攻撃できる、けどこちらは…『きしかいせい』を見せてしまった。
さて、これでどうなるか…後は互いの狙い次第ね。

ハナセ 「……」

キヨミ 「……」

互いに隙を探るように沈黙が続く。
だけど、その時間は大して意味がない。
こう言う戦いは先に動いた方が大抵負けたりするものだけど、ポケモンバトルはそう上手くはいかない。
自分が直接戦うのではないのだから。

ハナセ 「…いつだって、挑戦者は強気に攻めるもの…バシャーモ『かえんほうしゃ』!!」

キヨミ 「来たわね…残念だけど、こちらの勝ちよ、ヘラクロス『じしん』!!」

バシャーモ 「シャーーー!!」

ヘラクロス 「ヘラッ!!」

ズッ! ドッガアァッ!!!

ハナセ 「バシャーモ!?」

ズシャァッ!!

ヘラクロスはその場で地面に拳を突き立て、地面に力を注ぐ。
そして次の瞬間、地面が一瞬ヘコむほどの派手な音をたててバシャーモは地面に倒れる。
『かえんほうしゃ』は飛び道具だけど、着弾するのがやや遅い。
個体差はあるけれど、『じしん』の方が発生が速かった…まぁ運と言ってもいいわね。

キヨミ 「よくやったわヘラクロス…戻って」

シュボンッ!

私はヘラクロスをボールに戻して身を翻す。
よく見たら近くに天気研究所が見えた。
と言っても、いつの間にか天候は回復している…このままヒワマキに向かってもいいかもしれない。

ハナセ 「キヨミさん!」

キヨミ 「……」

私は立ち止まらなかった。
勝者が敗者に言葉をかけるのは、嫌味にしかならないから…。
それに、今回は久し振りに真剣勝負をした…それなりにいいバトルだったわ。
私はもう一度戦う…今度は登ってくる者を待つために。



ハナセ 「……キヨミさん、ありがとうございました!!」

私は大きな声でそう言う。
無言で去っていくキヨミさんの背中は、どこか期待に溢れているようだった。



…To be continued




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