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POCKET MONSTER RUBY



第28話 『ハルカの想い』




ハルカ 「……」
ハルカ 「…とうとう、来たわね」

私は、再びトウカシティへとやって来ていた。
途中、妙なトラブルもあったけど、何とか無事だ。
あの時、父と約束してはや一ヵ月半。
思えば、辛く悲しい時もあったわね。

ハルカ (キヨミさんと初めて出会って、敗北も味わった…)

あの時の私は、何も知らない駆け出しでポケモンのポの字も知らない愚か者だったわ。
でも、今では少しづつわかるようになってきたのを実感している。
私はトウカの町並みを見渡しながら歩く。
小さい町ながらも、活気のあるこのトウカシティは、やはりトウカジムの父がいてこそなのだろう。
自分にとって、あまりにも大きい父。
私が…ポケモンをやりたくなかった理由のひとつ。





………………………。





『それは…今より12年前のことだった』



審判 「ケンタロス戦闘不能! よって、勝者はタンバシティのシジマ!!」

シジマ 「よしっ!」

センリ 「…よくやった、ケンタロス」

ハルカ 「……」

私は、その時初めて父のジム戦を観戦した。
そして、初めて父の敗北した姿を知った。
この時の私は、まだ幼すぎたし、難しいことなんて何もわからなかった。
ポケモンとは、父や母、ジムの皆たちと仲良くしている友達のようなものだとずっと思っていた。
でも、違うとこの時は思ってしまった。

センリ 「お見事シジマ君…これがレギュラーバッジだ」

シジマ 「確かに…どうも、ありがとうございました!」

そう言って、挑戦者はその場を去る。
次第にバトルフィールドからは人が去っていき、私とお母さんと、お父さんが残された。



………。



センリ 「ハルカ、見ていたのか?」

ハルカ 「!」

タタタタッ!

センリ 「あ、ハルカ!」

チトセ 「そっとしておいてあげて…今日のバトルは、あの子にはちょっと厳しすぎるバトルだったわ」

相手は、ゴーリキーやニョロボンのような格闘タイプを主にするトレーナー。
ノーマルタイプ主体のセンリのポケモンでは、元々不利。
ましてや、センリ本来のポケモンではなく、育て始めてさほど時間の経っていないポケモンでは勝てないのも道理。

センリ 「…む、そうか」

チトセ 「あなたは、立派だった…でも、あの子には辛かったわね」

センリ 「……」

センリは何も言わなかった。
わかっているのかどうかはわからない。
でも、自分の娘が走り去ったのには、さすがに効いたようね。
これから、あの子はどうなっていくのかしら?



………。



ハルカ 「ひっく…ひっく……」

? 「どうして泣いているの?」

ジムを飛び出て、私は路地裏の方に逃げ込んでいた。
もう時間は真っ暗で周りは全て闇に包まれている。
そんな中、優しい声が頭に響くように聞こえる。
それでも、私は泣き続けた。

? 「どうして、泣いているの?」

ハルカ 「ひっく…ひっく…!」

なおも声は近づいてくる。
私はただ泣く事しかできなかった。
幼いながらに、私は父が負ける姿を見るのが我慢できなかった。
父のポケモンが倒れ、動かなくなった姿を見て怖くなった。

? 「…泣いていたら、わからないわ」

ハルカ 「ひぐ…っ、ううう…ぁぁぁ!」

女性の声を無視して、私はただ泣きじゃくる。
それを見ても、まだ優しく声をかけてくる。
とても優しい、女性の声。

女性 「…泣きたいなら、せめてこっちに来なさい」
女性 「ひとりで泣いていたら、心が壊れてしまうから…」

ハルカ 「えぐ…?」

幼き私は声をかけてくれる女性を見る。
優しい微笑だった。
長くすらっとした髪が、ネオンの光に晒される。
お母さんよりも若い女性だ。
ただ、次の瞬間…私は開かれた両腕の中に思いっきり飛び込む。
すると女性は、私の背中に両腕を回し、優しく背中を撫でてくれる。
私は、そのまま泣き続けた。

女性 「可哀相に、よっぽど怖い思いをしたのね」

ハルカ 「うわあぁぁぁぁぁんっ!! あああっ! うああっ!!」

女性 「大丈夫、大丈夫だから…」

ハルカ 「ううう…!!」

女性は、ゆっくり、優しく声をかけて撫でてくれる。
何故だか、とても心が落ち着く。
まるで、神様のようだった。
次第に、私は落ち着きを取り戻していく。

女性 「…落ち着いた?」

ハルカ 「……」こくり

女性の手から離れて、私はその場を後にする。
女性にお礼を言うのも忘れて、私は帰路へとついたのだ。





………………………。





それから、2年が経った…そしてある日。



チトセ 「ハルカ!? どうしたのその傷!!」

ハルカ 「…喧嘩しただけ」

チトセ 「喧嘩って…そんなにボロボロになるまで」

母が言うように、私はボロボロだった。
服も泥だらけで、破れている所がいくつもあった。

ハルカ 「…ポケモンがいじめられとってん」

チトセ 「!?」

ハルカ 「ウチ、ポケモンは怖いけど…嫌いやないから、助けてあげたかってん」
ハルカ 「せやけど、あいつら4人もおったから、勝てへんかった」



………。



それは、公園での出来事だった。

少年A 「おいそっちいったぞ!!」

少年B 「へへ、任せろって!!」

ブルー 「ブ、ブル、ブル!!」

ハルカ 「!?」

友達と遊んで帰ろうとしていた所で、犬のようなポケモンが4人の少年にいじめられていたのだ。
年は皆私よりも上のようで、とてもひとりで勝てる相手ではない。

ブルー 「ブルッ!」

ポケモンが石につまずいてこける。
それを見て少年たちが周りを囲む。
逃げ場はもうない。

ブルー 「ブ、ブル〜!!」

ポケモンはうずくまって泣き出す。
それを見て、私は何を思ったか駆け出す。

ドガッ!!

少年C 「でっ!?」

少年D 「な、何だ!?」

ハルカ 「ええ加減にせい! 可哀相やんか!!」

少年A 「何だこいつ!? やる気かよ!!」

少年B 「おい、やっちまえ!!」



………。



チトセ 「ハ、ハルカあなた…」

ハルカ 「勝てへんかったけど、ポケモンは逃げてった…」

チトセ 「そう、じゃあ…助けられたのね?」

ハルカ 「……」ふるふる
ハルカ 「助けられへんかった…逃げられたもん」
ハルカ 「ウチはポケモンが怖いから、勝って抱きしめてあげられへんかった」
ハルカ 「きっと、あのポケモン…もうウチの前には現れてくれへん、怖いから」

チトセ 「!! ハルカ…あなたそこまで考えて」

私は、その後唐突にこう告げる。

ハルカ 「ウチ、格闘技習う」

チトセ 「えっ…?」

あの日以来、私はポケモンを徹底的に避けた。
今の私じゃ、怖くてポケモンとは向き合えないと思ったから。
中途半端な心じゃ、ポケモンは傷ついてしまうから。

ハルカ 「…あかんの?」

チトセ 「う、ううん…ダメじゃないけど、どうして?」

ハルカ 「…ウチ、強くなりたいから。ポケモンやなくて、自分が」

そう…理由は『強くなりたかった』から。
今のままじゃ、私はポケモン1体助けてあげられへん。
だから、強くなりたかった。
本当にポケモンと心から向かい合えるようになるため。

チトセ 「…あなたが自分で決めた道なら私は何も言わないわ」
チトセ 「あなたのやりたいようにやりなさい…誰も強制はしないわ」
チトセ 「誰もが、父や母の用意したレールを走ることはないから…」

ハルカ 「……うん」

私は、小さく、強く頷く。
その時母は、優しく私を抱きしめてくれた。
あの時の、名も知らぬ女性のように。

ハルカ 「…お母さん?」

チトセ 「いいの…しばらく、こうさせて」

ハルカ 「…うん」

私は小さく頷く。
そして、この日より私は格闘家としての道を歩んでいく。
何故、格闘家だったのかはよく覚えていない。
ただ単に強くなりたいと思うなら、腕っ節が強くなればいいと、あの時の私は思っていたのだろう。
そして、僅か14歳にして私は世界最強となる…。





………………………。





ハルカ 「……」

思い出すだけで、私は未だに恐怖に近いものがこみ上げる。
そう、まだ私は『強く』なれてはいないのだから。
今度の戦いは、それを克服するための本当の戦い。
本当の意味で、私があの時より『強く』なったと確信するための戦い。
次の戦いには、そう言う意味がある。
だから…。

ハルカ (全力で潰させてもらうわ、父さん!)



………。
……。
…。



チトセ 「相変わらずのようね、センリ」

センリ 「チトセ! どうしたんだ今日は?」

チトセ 「あら、あなたの所には連絡がなかったの?」

センリ 「?」

本当にわからないと言った風にセンリは?を浮かべる。
なるほど、あの娘らしいわね。

チトセ 「今朝、ハルカから連絡があったわ…明日、父さんと戦うから見に来てくれって」

センリ 「!? ハルカが…」

さすがに驚きを隠せないようだ。
あの、ポケモンのポの字も知らない小娘が、4人のジムリーダーを打ち倒して自分の前に立つのだから。
考えられないスピードであの娘は成長したようね。

センリ 「そうか、もうここまで来たのか」

チトセ 「今日は、どっちが勝つかしらね?」

センリ 「君はどっちの応援できたんだい?」

チトセ 「もちろん、娘に決まってるじゃない! あの娘は私似だもの♪」

私は笑ってそう言う。
すると、センリは困ったように。

センリ 「やれやれ…自分で言うのもなんだが親バカだな私たちは」

チトセ 「あら、あなたはちゃんと全力を尽くして迎えてあげなさい! じゃないと、ハルカに蹴り倒されるわよ?」

センリ 「そ、それは怖いな…だが、私も負けるつもりで戦うつもりはないよ!」

そう言ってセンリの目が変わる。
相変わらずね、ポケモンのことになると本当にいい目をするわこの人。
どこまでも強さを追い求める…そんなこの人に、私は惚れたんだものね。



………。
……。
…。



ハルカ 「ポケモンの回復をお願いします」

店員 「はい、確かに御預かりいたします!」

私はポケモンセンターで休んでいた。
ジムの方に行ってもいいのだけれど、気が引けた。
これから戦おうと言うのに、そんな話などしていられない。
今度の戦い、私は負けられないのだから。
正直、引退を賭けていると言ってもいい。
これをクリアできないようなら、私はポケモンと触れ合う資格なんてないわ。

ハルカ (私はポケモンが好き)

昔からきっと好きだったんだと思う。
でも、あの日を境に私はポケモンを恐れて近づかなくなった。
このホウエン地方に来るまで、本当に徹底的に近づかなかった。
ホウエン地方に来ることが決まって、私はある意味転機だと思った。
格闘技の世界チャンピオンになって、自分は強くなったとは思った。
実際、腕っ節は相当なものになっただろう、喧嘩なら誰にも負ける気はしない。
それでも、ポケモンと触れ合うことは恐れている。
私はそれを振り切ってポケモントレーナーになった。
でも、本当の意味でポケモンを私は理解できていない。
きっとあの子たちも、私のことを理解できていない。
本当の意味で、心を開いたことはないのだから。
せめて、言葉でも通じるなら…それもできたのかもしれないけど。

ハルカ (時間は、まだまだ余裕…か)

まだ昼をちょっとすぎた程度、両親に顔を出すのもいいけど、どうしようかしら?

ハルカ 「……」

結局、行くことにした。
やっぱり、折角の肉親なんだから、顔ぐらいは出すべきだろうと思ってしまった。
まぁ、いいか…。



………。



そして、トウカジムの前に立つ。
以前と全く変わらぬ外装、見間違えるはずはない。
思えば、あれから結構経った。
アチャモはバシャーモまで進化し、ジグザグマもタネボーも進化した。
ん? とこの時点で思う。

ハルカ 「そ、そう言えば…ジム戦の説明聞くの忘れてた」

そう言えば、何体戦になるのかしら?
道具の使用は有りなのか無しなのか?
色々わからないことだらけね。

ハルカ 「よし、とりあえず入りますか!」

ガララ!

相変わらずの引き戸の音。
今時こんな仕組みのジムも珍しいのでは? などと思ってしまう。
とりあえず気にせずに私は中に入っていく。

ハルカ 「あれ? 誰もいない?」

前は入ってすぐの部屋にいたものだけど、今回はいなかった。
あるのは植木とそして前方にふたつの部屋があるだけだ。

ハルカ 「とりあえず、左から入ってみようかな?」

ただ、扉に手をかける所で手が止まる。

『この先、素早さの部屋』

ハルカ 「素早さの部屋? 何のこと?」

どうやら、この扉の先は特別な部屋らしい。
と、とりあえず入ってみないと。

ガララ!

トレーナー男 「ドゴーム、『ふみつけ』!!」
トレーナー女 「エネコロロ、『おうふくビンタ』!!」

ハルカ 「あ、あの〜?」

トレーナー男 「ん? ちょ、ちょっとタンマ!!」

トレーナー女 「え、何よもう!」

トレーナー男 「客だ客! えっと、どちら様ですか?」

ハルカ 「あ、えっと…そのセンリさんは?」

さすがに、いきなり父に会わせてくれと言うのもなんだろう。
とりあえず、何も知らない客を演じておこう。

トレーナー男 「ん、ジム戦かい?」

ハルカ 「あ、えっと…まぁそうです」

トレーナー女 「センリさんなら、ここからもうふたつ進んだ部屋にいるわよ」

ハルカ 「あ、どうも」

トレーナー女 「さぁ、特訓特訓!!」

トレーナー男 「はりきってんなぁ…」

ふたりはまたすぐにバトルを始めてしまう。
何か、わかりやすいジムでちょっと安心かも…。
とりあえず、邪魔をしないように端っこを移動して扉に向かう。

『この先、守りの部屋』

ま、守りねぇ…。
何か、全部屋にこんなコンセプトがあるのかしら?

とりあえず扉を潜る。
すると、同じように特訓しているトレーナーがいる。
私はまたもや邪魔しないように先に進む。

『この先、力の部屋』

う〜ん、今度は力かぁ。
部屋ごとにコンセプトがあって、それに合わせた特訓をするってことかしら?
そして、そのまま真っ直ぐ進んで扉を見る。

『この先、ジムリーダー』
『どんなポケモンが待っているかは、自分の目で確かめよ!』

と書いてある、さて…。

ハルカ 「まぁ、迷うこともないのでさっさと進みますか」

ガララ!

ハルカ 「たのもー!!」

センリ 「!? ハルカ!」

チトセ 「あら、遅かったのね…」

見ると、そこはバトルフィールドのようで、かなり広い部屋だった。
いつでもジム戦はできる…といったような感じで父さんは待っていたようだ。
母さんもすぐ側にいて笑っている。
久し振りに合わせた顔は何だか少しだけ違って見えた。

ハルカ 「……」

私は無言で両親の前に立つ。
バトルのためにしっかりとした地面を踏みしめ、私は父を見る。

センリ 「よく来たなハルカ…話は母さんから聞いてる。明日、ジム戦を行おう」
センリ 「基本的な説明は不要だな? 使用ポケモンは3体! 道具の使用はあえて無しにする」
センリ 「ハルカとは、正面から真っ向勝負をしたいからな」

ハルカ 「望む所…勝つのは私だけどね」

私はそう言って軽く流す。
それを聞くと父さんも笑ってみせる。
互いに絶対の自信を持っているのがわかる。
負けることなんて一切考えてない、ただ全力で勝つ…その意思がある。

チトセ (いい表情してるわ、ふたりとも…面白い勝負になりそうね)

ハルカ 「じゃ、明日…」

センリ 「ん? こっちで泊まって行くんじゃないのか?」

ハルカ 「冗談…敵に情けをかけてもらうわけないじゃない!」

私はそう言って、ジムを後にした。



………。



センリ 「敵、ねぇ…参ったな」

チトセ 「うふふっ、あなたの方がまだまだみたいね」

センリ 「そう言うな、私は娘とあまり触れ合っていなかったから、少し思う所もあってな」

そう言って、センリは一瞬目を閉じる。
覚悟を決めているのね、実の娘と全力で戦えるように。
ハルカは、一切の躊躇もなく全力で戦えるだろう。
それだけの気迫を感じる、でもセンリはどうかしら?
ポケモンバトルに関しては百戦錬磨、だけど人としては少々優しすぎるわね。
まぁ、ここは信じて期待しましょうか…。



………。
……。
…。



ハルカ 「…父さんのポケモンはノーマルタイプ」
ハルカ 「ノーマルタイプに効果的な攻撃は格闘タイプだけ…」
ハルカ 「逆にノーマルタイプの攻撃を止めやすいのは、岩と鋼」
ハルカ 「アノプスは岩だけど、戦えるのかしら?」

正直、微妙な感じがする。
もっと鍛えておいたなら戦えるのかもしれないが、少なくともまともに地面では動くことすらもできない。
ただわかっていることは、かなりのパワーを秘めている。
攻撃力が恐ろしく高く、並の野生ポケモンは一撃で倒してしまうほど。
耐久力が少々低く感じるけど、成長していけばまだまだ力を見せてくれそうではある。

ハルカ 「だけど、ジム戦ではまだまだでしょうね」
ハルカ 「と言うことは、ここは一番戦いやすい3体で行くとしますか」
ハルカ 「バシャーモは当然、残りはマッスグマとライボルトで行くのが良さそうね」

この3体はあのキヨミさんとも戦っているし、何よりも信頼できる。
今の私のポケモンの中で、恐らく一番戦闘能力も高い。
特にバシャーモは、特筆する強さで、他とは抜きん出ている。
コノハナ、ペリッパー、アノプスは今回休憩ね。

ハルカ 「よし、皆出てきなさい!!」

ボボボボボボンッ!!!!

バシャーモ 「…シャモ」
マッスグマ 「グマ」
ライボルト 「ラ〜イ♪」
コノハナ 「コノ〜」
ペリッパー 「ペリ〜」
アノプス 「アノッ!」

全員出てきたのを確認すると、私は適当に指示を出す。

ハルカ 「じゃあ、自由時間! 明日戦うのは、バシャーモ、マッスグマ、ライボルトだからそのつもりで!!」

私はそう言って、その場を後にする。
ポケモンセンターの広場に残されたポケモンたちは、それぞれ自由に動き始める。



………。



バシャーモ 「…次は3体で戦うのね」

ライボルト 「さすがにもう慣れちゃったけどね〜♪」

そう言ってライちゃんはごろごろする。
相変わらず能天気だなぁ…私なんかいつも心臓バクバクなのに。

マッスグマ 「……」

グマちゃんも、落ち着いてるなぁ…もしかして未だにジム戦が怖いの私だけ?

ペリッパー 「……」

コノハナ 「はぁ〜落ち着きますね〜」

ペリ君もコノちゃんもすっかりお休みモードだし。
そして、一番気になるのは…。

アノプス 「コッチヲミローーー!!」

びっちびっち!!

突然そう言い放って、動き回る新ポケのアノプス君。
何だか、かなりやんちゃな性格で、ちょっと怖い。

アノプス 「もしかして、今回俺は出番なしか!?」

ライボルト 「出番も何も…言われた通りだってば」

そう言ってライちゃんはごろごろする。
ダレてるなぁ…あれでも本番にはしっかりするから凄いんだけど。

アノプス 「折角、登場した新鋭勢力に目も向けられていないのかーーーー!!」

こんな時、クゥちゃんがいたら『うるさい』とか言ってくれるんだろうなぁ…。
ああ、ツッコミ早く帰ってきて。

コノハナ 「あはは〜、私たちはお留守番ですね〜」

バシャーモ (コノちゃん、お留守番どころかボールの中でお休みだよ…)

ペリッパー 「いいじゃないですか、楽に越したことはありませんから」

バシャーモ (私たちは楽じゃないよペリ君…)

ああ…ツッコミがいれば。
頭では考えていてもツッコめない自分を呪いつつも、私はその場で座っていた。

アノプス 「よお、そこの色っぽい姉ちゃんたち! あんたらはどう思う!?」

バシャーモ 「ひぃっ!? 私!?」
マッスグマ 「…?」

アノプス君はびっちびっちしながらこっちに向かってきた。
色っぽい姉ちゃんって…センスが古いよ。

ライボルト 「私は色っぽくないのね…いいもんいいもん! いじけてやるもん!」

そう言ってライちゃんはますますゴロゴロする。
あれでいじけていたのね…。

アノプス 「なぁ、答えてくれよ! 俺は…」

マッスグマ 「…期待の新人さんは、最後の最後の切り札と言うことです」

バシャーモ 「…え?」

アノプス 「…! そ、そうか!! そう言うことだったのか!! そうだよな! 俺は秘密兵器だもんな!!」
アノプス 「うわははははっ!! これで安心したぜ、俺のためにせいぜい場を盛り上げてくれよーーー!!」

何だか凄いテンションでアノプス君がびっちびっちしている。
着いていけないなぁ…これから、どうなるんだろ?

マッスグマ 「……」

等のグマちゃんは何事もなかったかのように眠り始めている。
う〜ん、秘密兵器ねぇ…あのハルカさんがそんな風に思っているとは思えないんだけどなぁ。

ライボルト 「いじいじ…」

コノハナ 「はえ〜…いい天気です」

ペリッパー 「そうですね〜」

ダメだ…この空気耐えられなくなってきた。
私はせめて体を動かすことにする。
進化したことによって、視点がかなり変わっているので、早く慣れないと。
今の私は190cmもあるので、ハルカさんよりも大きくなってしまった。
おかげで相手が小さく見えるのはちょっと違和感がある。
今まで、自分よりも大きい相手の方がどっちかというと多かったからなぁ。

マッスグマ 「……」

ライボルト 「…?」

シュッ! シュシュッ!!

バシャーモ 「ふっ! はっ! やぁっ!!」

私はハルカさんに教わった格闘技の技を繰り出していく。
鋭く、重く、そして軽快に!
私は皆の邪魔にならないように、少し離れてシャドーを始めた。
突き、蹴り等、様々な技を混同させて繰り出していく。
今度の相手はどんな相手なんだろう?
素性の知れない相手と戦うのは怖いけど、少しでも安心するように練習して不安を塗り潰すしかない。
練習して練習して、後は開き直るだけだ!

シュシュシュッ! シャオッ!!

アノプス 「!!」

ライボルト 「はえ〜」

私の蹴りが近くの草木を揺るがす。
風圧だけでも、体重の軽い物なら吹っ飛んでしまうだろう。
それだけ自分の力は上がっている。
以前とは違うということだけど。

バシャーモ (一歩間違えたら、相手も大変なことになるんだよね…)

強くなったということは、もちろん相手を傷つける力も上がったということ。
私は5分ほど動いて、一旦止まる。
炎タイプだから、私は汗なんてかかないけど、それでも疲れはある。
もちろん、5分程度で疲れるほどやわな体でもない。
ただ、何となく止まってしまった。

バシャーモ (次のジム戦は、ハルカさんのお父さんとの戦い)
バシャーモ (きっと、今までの中で一番の激戦になる)
バシャーモ (ちょっとした気の緩みが敗北に繋がってしまうかもしれない)
バシャーモ (私はきっと相手の一番強いポケモンと戦うことになる、ううん…下手をしたら3体全てを相手にするかもしれない)

不安ばかりがよぎる。
いつものことだ。
ただ、いつもならハルカさんが激励してくれるけど、今日はそれがない。
だから…。

シシシッ! ビュオウッ! シュ! シュッ!!

バシャーモ (不安がなくなるまで体を動かすしかない、やれるだけやったなら開き直れる!)


ライボルト 「はぁ…見事なものですなぁ〜」

マッスグマ 「…シャモちゃん、不安なのね」

コノハナ 「そうみたいですね〜…」

グマちゃんとコノちゃんがそう言う。
私にはちょっとわからない。
けど、この2体が言うとそれらしく聞こえてしまうから不思議だ。

ライボルト 「う〜ん、私にはよくわからないけど…あれだけ動けるならそうそう負けないと思うけどなぁ」

マッスグマ 「…シャモちゃんは臆病だから、いつだって自分の実力の方が上だなんて思ったことはないわ」
マッスグマ 「だから、油断することもないし、いつだって全力を出せるの」
マッスグマ 「ただ、今度の戦いは私たちだけの戦いじゃないから」

ライボルト 「? よくわからないよ…」

コノハナ 「あはは〜…難しく考えない方がいいですよ。ライちゃんは、いつも通りでいいんですから」

ライボルト 「うう…何か複雑だなぁ」

ペリッパー 「まぁまぁ、わからないことを考えていても仕方ないですから、ここはどっしりと構えましょう」

結局、私だけがわかっていないようだった。
頭が悪いからなぁ…私。

アノプス 「……」

そう言えば、アノプス君が放心状態で魅入ってしまっている。
どうしたのかな?

アノプス 「うおおーーー!!」

びっちびっち!!

ライボルト 「あ、アノプス君!? そっちは危な…!!」

ドゴォッ!!

アノプス 「ごでりばーーーー!!」

ズシャアッ!!

バシャーモ 「…あ」

何を思ったのか、アノプス君はシャモちゃんに近づいてしまった。
しかも、ビチビチしながら突っ込むもんだから、シャモちゃんも思いっきり反応してカウンターキックを入れるし。
数メートルは明らかに吹っ飛んで地面に落ちるアノプス君。
し、死んでないように…。


バシャーモ 「ア、アノプス君!? 大丈夫!?」

慌てて私は駆け寄る。
思いっきり蹴っちゃったけど、怪我とかしてないかしら!?

アノプス 「き…効いたぜ、姐さん!! 俺を舎弟にしてくだせぇ!!」

バシャーモ 「は、はぁ!?」

いきなりアノプス君はそんなことを言い出す。
も、もしかして頭を!?

アノプス 「姐さんの動きを見て、俺がまだまだ未熟者ということがよくわかりやした!!」
アノプス 「どうか! 姐さんの側に置かせてくだせぇ!!」

な、何だか口調まで変わっている気が…やっぱり頭を!?

バシャーモ 「あ、あの…何か冗談よね?」

アノプス 「とんでもねぇ!! 俺は本気です!! 本気で姐さんに惚れやした!!」

バシャーモ 「え、ええーーー!?」

何だか、とんでもないことを言われる。
ど、どうしよう! やっぱり頭が壊れちゃったんだよ!!

バシャーモ 「あ、あのねアノプス君、君はきっと頭をやっちゃったんだよ!」

マッスグマ (シャモちゃん、それは直球過ぎです)

アノプス 「いえ、俺はまともです!! 信じてくだせぇ!!」

バシャーモ 「いやいやいや! やっぱりおかしいよ!! その…友達なんだから」

アノプス 「え?」

バシャーモ 「その、舎弟とかそう言うのじゃなくて、一緒に戦う仲間じゃない!」

アノプス 「…そ、そんな! 俺のことをそこまで認めてくださって…! うおおーーーー!! このアノプス感動いたしました!!」
アノプス 「一生着いて行きやす! どうかこれからも夜露死苦!!」

マッスグマ (成る程…アノプス君の性格がわかったような気がします)
ライボルト (きっと、古い時代で暴走族やってたんだね…)

そんなこんなで、何だか知らないけどアノプス君と友情が深まった。
まぁ、色々と問題のありそうなポケモンだけど、きっと大丈夫だろう。
明日は、ジム戦…私たちは、ただ…覚悟を決めて体を休めた。



…To be continued




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