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POCKET MONSTER RUBY



第42話 『Ghost Panic』




ハルカ 「…わからないことを考えていても進まない、任せるわよ『コノハナ』!」

ボンッ!

コノハナ 「コノ〜♪」

コノハナは出てきてすぐに背伸びをする。
海岸の日差しが気持ちいいのだろう。
でも、今はそんな暇はない。
私はすぐに指示を出す。

ハルカ 「先制攻撃よコノハナ! 『タネマシンガン』!!」

ユウキ 「…よし、行くぞラグラージ! 『ふぶき』!!」

ハルカ 「そ、その技は…!?」

出会い頭、一気に追い詰めようと『タネマシンガン』を指示した私に対し、ユウキは対抗してくる。
それも『ふぶき』…どう考えても『こおりタイプ』の技。
草タイプは氷タイプに弱い。

コノハナ 「コノ〜!」

ダダダダダ!!

ラグラージ 「ラーグ!!」

ビュオオオオオォォォッ!!

コノハナ 「!? コノー!」

コノハナは珍しくすんなり技を出した。
いつもならモーションたっぷり使って後出しするのに。
しかし、ラグラージの『ふぶき』はそれをあっさり吹き飛ばし、コノハナを巻き込んだ。

ハルカ 「まさか…○ブルブリザード!?」

ユウキ 「違うっての! 正拳突きもない!」

見事ツッコミを入れるほどの余裕。
体重の低いコノハナは、空高く飛ばされて落ちる。
その体に力はなかった。
効果は抜群ね。

ズシャアッ!!

ハルカ 「ば、馬鹿な…」

と、○闘士聖矢ばりの飛ばされ方に思わずそんな台詞が出る。
コノハナは何の良い所も無しにダウンする。
しかし、まさかこんな結果になるとは思わなかった。
いきなり絶対絶命…これで残りは1体。
ライボルトは無力、と言うことは…。

ハルカ (アノプスか、ペリッパーか…)

どちらにしてもアレに勝つは辛そうだ。
ただでさえ、後ろにまだ2体控えているのに、どうすればいいのか。

ユウキ (見事にこっちの策にハマったな)
ユウキ (この日差しだと、コノハナは『ようりょくそ』の特性でスピードがアップする可能性がある)
ユウキ (以前のハルカのコノハナを見て、思ったことがあった)
ユウキ (多分草タイプの攻撃技は、『タネマシンガン』だけだとな)
ユウキ (元々コノハナは草タイプの攻撃技を自力で覚えない、となれば当然『わざマシン』に頼るしかない)
ユウキ (さすがに『ソーラービーム』が怖かったが、まぁ賭けは俺の勝ちって所か)
ユウキ (向こうにとっては、こっちの技を把握できなかったミスだ)

ハルカ (してやったり…って顔ね)

こうなったのは明らかに私のミスだ。
だけど、後悔してもしょうがない。
もう、こうなったら出来ることをやるだけだ。

ハルカ 「頼むわよ…『ペリッパー』!!」

ボンッ!

ペリッパー 「ペリ〜」

呑気な鳴き声をあげてペリッパーは登場する。
後は信じて突き進む!

ハルカ 「行くわよペリッパー! 『そらをとぶ』!」

ペリッパー 「ペリッ!」

バサバサッ!

ペリッパーは羽ばたいて上昇する。
そして、ペリッパーはラグラージの頭上から見下ろす。

ユウキ 「…来るぞラグラージ、『ふぶき』を合わせろ!」

ラグラージ 「ラグッ!」

ラグラージは空を見上げて構える。
こちらの攻撃に合わせ、相討ち覚悟で行くつもりだ。

ペリッパー 「ペリーーー!!」

ペリッパーは狙いを定めて急降下する。
そしてラグラージも口から『ふぶき』を放つ。

ラグラージ 「ラグーーッ!!」

ビュオオオオオォォォッ!!

ハルカ 「ペリッパー! 旋回して!!」
ペリッパー 「ペリーーーッ!!」

ドガァ!!

ラグラージ 「ラグゥ…!」

ペリッパーは横に旋回し素早く軌道変えて『ふぶき』を回避し、クチバシをラグラージの脳天に突き付ける。
とはいえ、ペリッパーのクチバシはあの形なので、ほとんど体当たりと言える。

ハルカ 「まだ、耐えるか…さすがね」

ユウキ 「く、ラグラージ『たいあたり』だ!」

ラグラージ 「…ラグゥ!」

ハルカ 「遅いわ! ペリッパー上昇!」

ペリッパー 「ペリーー!」

ペリッパーはすぐに上昇して技をかわす。
ラグラージは勢い余って海に突っ込んだ。

バシャァァンッ!!

ハルカ 「! 計算づくか…」

ラグラージは水タイプ。
水中での戦いもお手の物、かわされてもすぐに逃げ込めるという算段ね。

ハルカ 「だけど、ペリッパーも条件は同じよ! ペリッパー『なみのり』!!」

ペリッパー 「ペリーーー!」

バババッ!!

ペリッパーは空中で上に180度回転し、逆さまの態勢で海面スレスレを飛ぶ。

ユウキ 「くっ、ラグラージ『ふぶき』!!」

ハルカ 「遅いわよ! 行けっペリッパー!!」

ラグラージ 「ラーーグ!」
ペリッパー 「パァーーー!!」

ズバッシャャャァァァァンッ!!!

ペリッパーは逆さまの状態から、180度旋回して一気に上昇する。
その際に勢いのある波を海面から作り上げて、ラグラージに叩きつける。
見た目は低空での爆雷投下だ、○カイキッドでは主に良くやる手口。
ラグラージは技を放つことが出来ないまま、海に沈む。

ユウキ 「ラグラージ戻れ!」
ユウキ 「…やっぱり『ふぶき』は命中率が難だったか」

ハルカ 「……」

なるほど、そうなのね。
私はそんな呟きを覚えて、次のポケモンを見る。

ボンッ!

バクーダ 「バクーーゥッ!!」

大きな雄叫びをあげて、現われる。
やっぱり進化してたわね…でも弱点は把握済み。
しかもここは海岸、ペリッパーは思う存分動くことが出来る。

ユウキ 「行くぜ! バクーダ『いわなだれ』!!」

ハルカ 「やっぱり来たわね! ペリッパー『まもる』!」

バクーダ 「バクーーー!!」

ペリッパー 「ペリッ!」

ドドドドドッ!!

バクーダは口をペリッパーの頭上に合わせ、そこから細かい岩を大量に吐き出した。
見た目はシューターのストーンヘッジだ。

ペリッパー 「ペリ〜ッ♪」

ペリッパーは岩を全て守り切って羽ばたく。
無論ノーダメージよ。

ユウキ (ち…読まれていたとはな)

ハルカ 「お返しよ! ペリッパー『なみのり』!!」

ペリッパー 「ペリーーー!」

ザザザザザッ!!

ペリッパーは波を作りながら、陸のバクーダに向かっていく。
そして段々と大きくなった波をバクーダに叩きつける。

ユウキ 「バクーダ『まもる』!!」

バクーダ 「!! バクー!」

バッシャアァンッ!!

バクーダ 「バク〜」

バクーダはギリギリで反応して『まもる』を行う。
当たる寸前で何とか守り切り、バクーダは無傷だった。

ハルカ (バクーダも使えるのか…このままだと長期戦になりかねない)

ペリッパー 「ペリッ…」

ペリッパーの体力はまだ大丈夫のようだ。
しかし、それでも疲れは確実に溜まる。
予断は必要ね。

ユウキ (く…守ったはいいが、肝心の攻撃が生かせない)
ユウキ (フィールドとの相性が悪すぎる)

ハルカ (…焦ってるの? まだ向こうが優勢なのに)

ユウキの表情は明らかに曇っていた。
ここに来て、策が尽きたのだろうか?
しかし、ユウキの性格からすると、まだ何か隠していそうなんだけど…。

ハルカ 「まぁいいわ…私はペリッパーを信じる! 『みずでっぽう』!」

ペリッパー 「ペリー!」

ブシュウッ!

バクーダの真上からペリッパーは『みずでっぽう』を放つ。
まだ『まもる』を確実に成功させるには時間がかかるはず。

ユウキ 「バクーダ『いわなだれ』だ!!」

ハルカ 「! 相討ち狙い…!」

バクーダ 「バクーーー!!」

ドドドドドッ!! バシャァンッ!!

バクーダ 「バクーーー!!」

ズシィィィンッ…!!

ペリッパー 「!? ペリー!」

ドガガガガッ!!

バクーダの巨体は『みずでっぽう』を顔面に受け、一撃で沈む。
しかし、その代償にペリッパーも大ダメージを負ってしまった。
カガリさんの時のように、一撃で倒されないだけマシだけど、明らかに次の戦いに支障が出るだろう。
ペリッパーは、ふらふらと羽ばたきながら地上に降りてきた。

ペリッパー 「ペ、ペリッ!」

ハルカ 「……」

翼を広げてガッツポーズを取るも、明らかに効いているのがわかる。
果たして後一戦…持つのだろうか?
いや…まだこの子には戦う術がある!

ユウキ 「…やるだけやった。後は、お前だけだ!」

ボンッ!

オオスバメ 「スッバー!」

ついにユウキが最後のポケモンを繰り出す。
それは、以前見たことのあるポケモンだ。
って言うか、間違いなくオオスバメ。
ナギさんも使っていたし、慌てることはなさそうね。

ハルカ (とはいえ、こっちは体力が明らかに低下している)

ペリッパー 「ペリ〜」

ペリッパーは無理に余裕を見せようとしているが、明らかにダメージはある。
それはユウキにも筒抜けだろう。
なので、ここはできる限り安全策を優先する。

ハルカ 「余計なことを考える暇はないわ、ペリッパー『たくわえる』!!」
ペリッパー 「! ペリッ!」

指示を受けたペリッパーは口を膨らませるような仕草を見せる。
これでひとつ蓄えたわね。
この技は最大3回まで溜めることが出来る。
蓄えた回数によって回復する値が変わる…のだけど。

ハルカ (この技単体じゃ意味を持たない)

ユウキ 「回復する気か…だけど、やらせるかよ! オオスバメ『でんこうせっか』だ!!」

オオスバメ 「スバー!」

ハルカ 「やっぱり焦っているわね、ペリッパー『まもる』!」

ペリッパー 「!!」

ピキィィィンッ!!

オオスバメ 「ス、スバッ!?」

本来ならば、ダメージの残っているこちらを一気に倒してしまおうと言う考えだったのだろう。
しかしながら、こちらには『まもる』がある。
『たくわえる』は、後に別の技を指示しても効果が残り続ける所がミソだ。
つまり、『まもる』を持っていれば、相手の攻撃をいなすことも出来、このように相手の隙を誘うこともできるというわけだ。
そして、それを忘れていきなり接近してきたオオスバメは、こちらにとっては格好の餌と言える。
だけど、私はペリッパーにこう指示を出す。

ハルカ 「ペリッパー『のみこむ』!!」

ペリッパー 「!! ペリ〜」

ペリッパーはゴクリと飲み込む仕草を見せる。
そして、ペリッパーの体力は少し回復する。
今は少しでも安全に行こう、ユウキが焦っているとはいえ、後に何かあるのは正直怖い。

ユウキ 「!! しまった…」

それにしても、冷静なユウキにしては珍しいミスだった。
すでに『まもる』を見せているのだから、フェイントのひとつでもかけるのが普通だ。
わざわざ真っ向から突っ込んでくるとは…。

ユウキ 「く…オオスバメ『つばめがえし』だ!!」
ハルカ 「ペリッパー『しろいきり』よ!」

私たちは同時に叫ぶ。
『つばめがえし』はすでにナギさんとの戦いで経験済み。
命中率の高い技とはいえ、相手が見えなければ当てようはない。

ペリッパー 「ペリー!」

ブシュゥゥゥゥー!!

オオスバメ 「スバッ!?」

オオスバメは『しろいきり』によって視界を封じられる。
こうなっては技を狙って繰り出すのは難しい。
それはこちらも条件は同じだけど…。
ペリッパーは『するどいめ』と言う特性がある、これ位の目くらましじゃハンデにもならないわ!

ハルカ 「ペリッパー『みずでっぽう』よ!」

ペリッパー 「ペリー−!」

バシャアッ!!

オオスバメ 「スバーー!」

ユウキ 「食らった!? 大丈夫かオオスバメ!?」

オオスバメ 「ス、スバッ!」

オオスバメは地面に落ちそうになるが、すぐに体勢を立て直す。
霧はまだ残っているが、もう目くらましにはならない。
私は次の指示を出す。

ハルカ 「ペリッパーもう一発『みずでっぽう』!」

ユウキ 「オオスバメ『かげぶんしん』!」

ペリッパー 「ペリー!」
オオスバメ 「スバー!」

バシュウッ!

ペリッパーの『みずでっぽう』は分身を掻き消しただけだった。
しかもオオスバメは分身を増やしている。
見分ける方法は残念ながらないけど…。

ハルカ 「要は外さなければいいのよ! ペリッパー『でんげきは』!!」

ユウキ 「!?」

ペリッパー 「ぺ〜リーーー!!」

ビシィィィッ!!!

電撃特有の音と一瞬の煌めき。
そして電光の筋が本物のオオスバメを捉える。

ズシャアッ!!

ユウキ 「……」

オオスバメは成す術無く、前のめりに地面へと落ちる。
ユウキは茫然としながら、そんなオオスバメを見ていた。
そして、はっと現実に戻ったように、ゆっくりとした動きでオオスバメをボールに戻す。

シュボンッ!

ハルカ 「…ご苦労さま、ペリッパー」

ペリッパー 「ペリ〜♪」

シュボンッ!

私もペリッパーをボールに戻し、ユウキに近づいていく。

ハルカ 「…慰めの言葉でもかけてほしい?」

ユウキ 「冗談言うなよ…俺はお前ほど経験が薄いわけじゃない」

私の冗談に対して、ユウキはそう強がる。
が、顔は明らかに悔しそうだった。
今回のバトルは、何かいつもと違う気がした。
私はいつも通りだった…でもユウキは違う。

ハルカ (…何か、決意というか覚悟みたいなものを感じた)

考えてもみれば、ユウキのバトルは、何となくらしくないことが多かった気がした。
当たり前のことを忘れていたり、土壇場で慌てたり。

ユウキ 「ちぇっ…まさかこのメンバーで負けるとはな」
ユウキ 「…ちょっと悔しいな、トレーナーになったのは俺の方が先なのに」

ユウキは軽い口調でそう言うが、どう考えても『かなり』悔しそうだった。

ハルカ (ああ…そうか)

私はふとキヨミさんの言葉を思い出す。
そうよね…まだトレーナーになって数か月の新人が、ベテラン並みの経験を持つユウキを倒してるんだから。
悔しくないはずが、ない。

ハルカ 「何も言わないでおくわ…その方が気が楽でしょ?」

ユウキ 「ああ…そうだな」

ハルカ 「これからどうするの?」

私は唐突にそう聞く。
それを聞いて、ユウキは。

ユウキ 「…俺、父さんの所に戻るよ」
ユウキ 「実はもうポケモンの調査は随分終わったし」

ハルカ 「え、それじゃ何で嘘を…?」

ユウキ 「ハルカに勝ちたかったからだよ」
ユウキ 「でも負けた、やっぱりハルカは俺とは違う」
ユウキ 「ハルカに勝てるなら、このまま俺もポケモンリーグを目指そうかと思ったけど、負けたから諦める」

ハルカ 「な、何言ってるのよ! 諦めたら終わりじゃない!!」

私はそう言うけど、ユウキは首を横に振る。

ユウキ 「…俺じゃ無理だよ、ハルカのような才能はない」
ユウキ 「それに、俺の夢は父さんの後を継ぐことだから、これでいいと思ってる」

ハルカ 「本当に、それでいいの?」

私は確認する。
ユウキは強く頷く。

ユウキ 「じゃあな! 俺はミシロタウンでお前の活躍を応援しているよ!」

そう言ってユウキは走り去って行った。
私はその背中を見ていることしか出来なかった。

ハルカ 「…はぁ、期待に応えられるかしら?」

余計にプレッシャーになる気がする。
正直、自信はない。

ハルカ 「でも、勝たなきゃ申し訳ないわよね」

負けた人たちのことを考えると、そう思ってしまう。はぁ…プレッシャーだわ。



………。
……。
…。



『時刻14:00 ミナモデパート』


ハルカ 「へぇ…結構色々あるわね」

私はあの後、ポケモンセンターに回復を頼んで買い物に来ていた。
一応1階から順に回っているけど、さすがに他の街にないものが色々あった。
その中でも目を引かれたのは、4階の品揃えだった。

ハルカ 「『わざマシン』って売ってるんだ…」

そう、それも使えそうな『わざマシン』がずらり。
値段も馬鹿にならないけど、買えなくはない。

ハルカ 「…しょうがない、これ全種類ひとつづつください」

店員 「え…全部ですか!?」

ハルカ 「はい、全種類」

店員 「か、畏まりました…少々お待ちください」

やや、困惑気味に店員さんは清算してくれる。
な、何だか周りの視線が痛い。
私って、かなり場違いなことしたのかしら?

店員 「ええと、3000円が4点、5500円が3点、7500円が1点……お待たせしました、合計で『37000円』になります」

ハルカ 「…はい、これで」

店員 「は、はい丁度お預かりいたします…」

なるほど…視線が痛いわけだ。
ドカ買いし過ぎたわね。



………。
……。
…。



ハルカ 「さて…」

私はポケモンセンターに戻って、しばらく考えていた。
『わざマシン』を買ったはいいが、どう使用するか…だ。
様々な攻撃技も去ることながら、防御技もある。
今はポケモンの回復中なので覚えさせることは出来ないけど、悩んでいた。
そんな時、受付の店員さんが待合室にいる私の所に来る。

店員 「あの、ハルカさん」

ハルカ 「…あ、回復終わりました?」

唐突に現われた店員さんを見て、私はそう尋ねる。
だけど店員さんの表情からは嫌な予感が読み取れた。

店員 「あの…申し上げにくいのですが、ハルカさんのコノハナは怪我をしたようです」
店員 「大きな怪我ではないのですが、一応病院に見せた方がいいかもしれません」

ああそうか…やっぱりそうなるのか。
何となく、嫌な予感はしてたけど、やっぱりか。
まるで○ンスター○ァームみたいな結果ね。
まぁ、チョップ一撃で享年3ヶ月とか言われるよりマシだけど…。
はぁ…と私は頭を抱えて溜め息を吐く。

ハルカ 「…そうですか、わかりました」
ハルカ 「病院の方にはこっちで送りますんで、返してもらえますか?」

店員 「あ、はい…それでは少々お待ちを」



………。



数分後、店員さんは駆け足気味に戻ってくる。
そして私のポケモンを全て返却してくれた。
私はそれを受け取ってパソコンの方に向かう。

ピッ! ピポポッ!

ハルカ 「あの、すいませんハルカですけど」

育て屋 「あらハルカちゃん! 今度はどうしたの?」

テンポよく出てきた育て屋さんに、私は用件を伝える。



………。



ハルカ 「……と言うわけで、コノハナを預かってほしいんですけど」

育て屋 「もちろんいいわよ。いつでも送ってちょうだい」

ハルカ 「あ、はい…それじゃ送りますね」

私はそう言ってコノハナのボールを『そだてやさん』に送った。

育て屋 「……はい、それじゃあ預かったよ。こっちのことは任せて、ハルカちゃんはポケモンリーグ頑張ってね!」

ハルカ 「はい…ありがとうございます」

ピッ

私はパソコンの電源を切って、その場を後にする。
さて、どうしたものかな?
予想外に出費が厳しそうだ。
一応、今まで節約してきたので余裕はあったのだけど、ドカ買いが効いてくる。
まぁ、この先のジム戦でまた賞金が入るだろうから、それを宛てにするしかない…か。

ハルカ 「コノハナ…大きな怪我じゃないとはいえ、すぐに復帰は難しいでしょうね」

果たして、次のジム戦には間に合うだろうか?
ペリッパーもナギさんの時は間に合わなかったし、辛いだろうな。
どちらにしても、今は5体で戦うことになりそうだ。

ハルカ 「アブソルを譲ったのは早まったかな…」

かと言って、今更どうしようもない。
今は今で出来ることをしよう。

ハルカ 「このままこの街にいても、何にも起こりそうにないし…折角だから別の場所に行ってみようかな?」

実の所、気になっている場所があるのだ。
それは、ミナモに来る途中、南側に大きな山を見かけたこと。

ハルカ 「山といえば修業! と言うわけで早速行ってみましょうか!!」

と言うわけで、私はペリッパーの背中に乗って行くのでした…。



………。
……。
…。



『時刻15:00 サファリゾーン上空』

ハルカ 「…ん? ペリッパー、降りて!」

ペリッパー 「ペリ〜」

私は見覚えのある赤服を地上に見かけて降りる。
見つからないように後ろの木陰で隠れておく。
すると、話し声が聞こえてきた。

団員A 「おい、急がないとやばいぜ!」

団員B 「わかってるって! 今回の仕事は相当重要みたいだからな!」

そう言って、ふたりはあの山の方に向けてMy・ボートを発進させる。
なるほど…あそこに何かあるってわけね。
私もふたりの後を追って行くことにする。
尾行なんて初めてだけど、何とかなるでしょ。
私はそんな気楽な考えでペリッパーの背中に乗る。
ここからは空ではなく海を進もう。



………。
……。
…。



『時刻15:15 おくりびやま・入り口』


ひゅぅぅぅ…

寒気のするような風が吹く。
まるで死の山なんじゃないかと思うほど、その山は静かだった。
山頂の方は濃い霧が立ちこめ、ほとんど状況がわからなかった。

ハルカ 「…不気味ね」

まさにその言葉が相応しい。
以前、『シロガネやま』に登ったことがあるけど、あの雰囲気とはまるで違った。
あそこは山自体が生きていると思えたけど、ここはまるで死んでいるかのような雰囲気だ。

ハルカ (マグマ団は何故こんな所に?)

ここに拠点でもあるのだろうか?
しかし、団員たちは仕事と言っていた。
それならば、ここを占拠…と言う方がしっくり来る気がする。
どちらにしても、ロクでもないことには違いないだろう。
隙を見て阻止した方が良さそうね。
私はそう思って、追跡を続ける。



………。
……。
…。



『時刻16:00 おくりびやま・1F』


ハルカ 「…? ここは…墓地?」

山の麓には、洞窟の入り口のような物があり、そこを潜ると今の場所に出たのだ。
見ると、いきなり墓がずらり…。

ハルカ (うわ…どうりで寒気がするはずだわ)

まさか、共同墓地だとは。
普通にお参りに来ている人もいるので、一般人も入っていいみたいだ。
しかしながら、そんな場所に何故マグマ団が?
と思っていたら、すでに見失っていることに気付く。

ハルカ 「おーまいが」

さすがの私も、これでは追跡は出来ない。
まぁ、とりあえ目の前に階段があるからそれを上ることにしましょうか。



………。



『時刻16:10 おくりびやま・2F』


ハルカ 「…?」

妙な気配がする。
どこかで見られている?
しかしながら、カクレオンのような気配は感じない。
何か…物質的な気配を感じないのだ。

ハルカ 「…う〜ん」

とりあえず、気にはなっていたけど私は気にせずに上って行く事にした。
まだ上が結構あるみたいなので、行けばマグマ団もいるだろう。



………。



『時刻16:30 おくりびやま・6F』


ハルカ 「……?」

やはり感じる。
しかし、何も見えない。
周りを確かめてみるが、やはりわからない。
おかしいわね…確かに背中に悪寒を感じるのだけれど。
そんな、私の可笑しな行動を見てか、ひとりの黒ミサが話をかけてくる。

オカルトマニア 「あの…あなた、そんなに背中に『憑けて』何してるの?」

ハルカ 「…は?」

いきなり、何を言うのだろうかこの娘は?
見た所、私と同い年位の少女のようだけど、その格好はどう見ても黒ミサ。
怪しい儀式でもしていそうだが、さすがにこんな所ではやらないだろう。

オカルトマニア 「…見えてないのね、それは見ようとしないから」

ハルカ 「…は?」

またしても意味不明な言葉が出る。
何なんだろう? 見ようとしないからって…この娘サイキッカーの類かしら?
しかし、折角なので参考にしてみる。
見ようと、ね。

ハルカ 「見える…私には見える〜」

? 「ぽえ〜」

ハルカ 「……」

何か、変な声が聞こえたような。
私は黒ミサを見る。
ふるふると首を振られる。
そして、彼女はおもむろに私の背後を指差す。
無言で○村後ろ後ろをやられるとは…やるじゃない。

ハルカ 「……」

? 「ぽえ〜」
? 「ま〜」
? 「よ〜」

何かうじゃうじゃいた。
そりゃもう表現するのが怖い位。
どうやら、悪霊の類らしい。
こりゃたまらん…さすがの私も幽霊は殴れない。
鮫でも熊でも戦えるが、幽霊だけは駄目だ。
私はギリギリと音が出そうなほどの動きで後ろを振り返る。

? 「ボ〜」

ハルカ 「うきゃあ!! こっちにもいたーーー!!」

思わず叫んでしまう。
しかし、気は失わない。
何故なら、私はハルカだから。

オカルトマニア 「あら…珍しいですね、『カゲボウズ』が出てくるなんて…」

ハルカ 「え? 何それ?」

私は思わず目の前の黒い○コイを見る。

カゲボウズ 「ボ〜」

ハルカ 「……」

ピッ


ポケモン図鑑 『カゲボウズ:にんぎょうポケモン』
ポケモン図鑑 『高さ:0.6m 重さ:2.3Kg タイプ:ゴースト』
ポケモン図鑑 『妬み怨みの感情に引き寄せられる。誰かを怨む心が強くなると、カゲボウズが軒下にずらりと並ぶぞ』


ハルカ 「…ポケモンだったのね、そりゃそうか」
ハルカ 「ん? じゃあ後ろのこのズラリと蠢いている連中も?」

ピッ


ポケモン図鑑 『…ビ〜! ガガガーーー!!!』


なるほど。

ハルカ (そうか…本物だったんだ)

思わず素敵な笑顔がこぼれる。
これでもかと言う位、幸せな顔をしたことだろう。
次の瞬間、私は。

ハルカ 「上等じゃない! かかってきなさいよ!! 悪霊ごとき、私には怖くもなんとも無いんだから!!」

カゲボウズ 「ボ〜?」

オカルトマニア 「……」

私は強気にそう言うが、悪霊共は何の反応も見せない。

悪霊 「あ〜」
悪霊 「お〜」
悪霊 「う〜」

ハルカ 「黙れ悪霊共!! そして聞け!!」
ハルカ 「私はハルカ!! 悪霊を断つ剣なり!!」

カゲボウズ 「ボ〜」

オカルトマニア (エクソシストだったのでしょうか? この方…)

私は構えて威嚇するが、悪霊は全くビビらない。
むぅ、カマし足りなかったかしら?
どうやら口では通用しそうにない。
ううむ、しかしながらどうやって対抗しよう?
物理的攻撃はどう考えても通用しない。
十字架や聖水もない。
ナイフやトマホークも駄目ね、と言うことはタイムストップ!?
しかしながら、そんなにハートを集めていない…使用不可だ。

悪霊 「え〜」
悪霊 「い〜」

ハルカ 「むぅ…こうなったら、目には目を!! ゴーストにはゴーストよ!!」
ハルカ 「そこのカゲボウズ! 私に力を貸して!!」

カゲボウズ 「…?」

カゲボウズは、特に表情を変えずに首を傾げる。
と言うか、首と言うか何と言うかだけど…まぁ、首よ。

ハルカ 「あなたも幽霊なら、これどうにかできるでしょ?」
ハルカ 「とりあえず、私は先を急ぎたいから頼めない?」

カゲボウズ 「……」

カゲボウズは返事無しに私の前へと浮遊する。
そして、悪霊たちに近づいたかと思うと…。

ヒュゴゴゴゴゴゴゴッ!! ボフンッ!!

ハルカ 「!?」

オカルトマニア 「…食べた」

カゲボウズ 「ボ〜」

何と、まるで煙を吸い込むかのようにカゲボウズは悪霊を吸い込んでしまった。
そして、そこにはもう霊の気配は感じなくなっていた。
一件落着…なのかな?

カゲボウズ 「ボ〜」

ハルカ 「ええと…とりあえずありがとう」

カゲボウズ 「……」

私が礼を言うと、カゲボウズは不思議そうな表情をする。

ハルカ (駄目だ…何を考えているのか全然わからない)

折角表情があるのに、ほとんど表情を変えない。
ポーカーフェイスなのだろうけど、何だか含みがありそうでちょっと怖いかも。

オカルトマニア 「…その子、きっと『れいせい』な性格なんですよ」
オカルトマニア 「…後、多分あなたに興味があるんだと思います」
オカルトマニア 「折角ですし、連れて行ってあげては? ゴーストポケモンは、何かと愛情に飢えているのも多いから」

ハルカ 「愛情…」

カゲボウズ 「……」

言われて見ると、何となく理解した。
そっか…この子、ひとりなんだ。
よく、墓の隅っこを見てみれば、他のポケモンの姿も見えた。
だけど、この子と同じカゲボウズは全く見かけない。
単に数が少ないのかもしれないけど、それでもこの子は何だか他のポケモンとは違う気がした。

ハルカ 「…何か、話がそう言うことになったけど、どうする?」

カゲボウズ 「……」

私は腰を屈めてカゲボウズを見るが、反応は返って来ない。
でも、次の一言に全てが集約されていた。

カゲボウズ 「…よろしく」

ハルカ 「……」

それは、唐突な挨拶だった。
この子は、確かに自分で喋った。
黒ミサの娘も驚いた顔をしている。

オカルトマニア 「…あなた、喋れるの?」

カゲボウズ 「……」

カゲボウズはコクリと頷く。
どうやら、マジらしい。
これはさすがに驚きMAXだ。
まさか、会話できるポケモンがいるとは…。

カゲボウズ 「……」

ハルカ 「あ、あはは…私はハルカ、よろしくねカゲボウズ」

カゲボウズはコクリと頷く。
不思議な感覚だった。
でもまぁ…こんなポケモンも有りか。
私は、そう結論付けた。



………。
……。
…。



なお、今いる場所が最上階で、そこは行き止まりであり、マグマ団はひとりも通っていない。
と、黒ミサの少女(実際にはオカルトマニアでホノカさんと言うらしい)が説明してくれた。
何しにここまで来たのか…。



…To be continued




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