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POCKET MONSTER RUBY



第54話 『選ばれし者』




『1月8日 某時刻 海底洞窟・最深部』


ハルカ 「……」

グツグツ…と、煮えたぎる様な溶岩の溜まり場がそこにはあった。
最後のフロアは予想以上に広い場所で、気温はかなりの物だった。
溶岩の溜まり場では霧のような蒸気が立ちこめ、視界も悪い。
だけど、『そこ』に存在する圧倒的な『何か』を私は感じ取っていた。
それは紛れも無く、最悪の展開を予想させる代物だ。
私は目を凝らして、その先を見据える。
やがて、私はその姿を徐々に認識していく…。

ハルカ 「……」

? 「………」

巨大な赤き体に、独特の紋様が体中に走っている。
まるで恐竜のような大きさ、そして巨大な爪、強そうな顎。
紛れも無く、そこにいるのは、あの伝説と言われるポケモン、『グラードン』だった。
今はまだ眠っているのか、ピクリとも動かない。
しかし、胎動のような動きは感知できた。
間違いなく、生きている…。
このポケモンが目覚めたら…一体どうなってしまうのだろうか?

マツブサ 「やはり来たか…ハルカ」

ハルカ 「…お出ましね、ここまでにさせてもらうわよ」

私は背後からかけられる声に対し、振り向かずに答える。
そして、ゆっくりと私は振り向いて相手を見据える。

マツブサ 「ふふふ…感想はどうだね? これが『グラードン』だ!」

マツブサさんは狂気に取り付かれたような目で笑う。
そう、『狂気』だ…もはやこの人には何を言っても無駄なのかもしれない。
私は、モンスターボールを片手に構える。

ハルカ 「あなたの野望もここまでよ! 終わりにさせるわ!!」

マツブサ 「ふははっ! 出来るかね君ね!?
マツブサ 「やれるものならばやってみるがいい!! 出ろ、『グラエナ』!!」

ボンッ!

グラエナ 「グラー!!」

ハルカ 「行けっ、『バシャーモ』!!」

ボンッ!

バシャーモ 「シャモッ」

互いのポケモンが出揃ったところで、バトルの態勢に入る。
グラードンがいつ目覚めるかもわからない、ここは一気に決める!!

ハルカ 「バシャーモ『にどげり』!!」

マツブサ 「グラエナ『かみくだく』!!」

バシャーモ 「シャモー!」

グラエナ 「ガーー!!」

指示を聞いて、飛びかかる2体。
バシャーモは低空ジャンプで前方に跳び、グラエナの眼前に向かって、右脚の前蹴りを放つ。
だけどグラエナは頭を屈め、その蹴りを寸前でかわして、下から技を放った。

ガブゥ!!

バシャーモ 「シャモ!!」

グラエナ 「グーーー!!」

腹に噛みつかれ、二度目の蹴りを放つことなく地面に背中から落ちるバシャーモ。
それでもグラエナは離れず、尚もバシャーモの腹を噛み砕こうとする。

ハルカ 「く…バシャーモ『ひのこ』よ!!」

バシャーモ 「シャシャシャ!!」

バババババッ!!

グラエナ 「グ、ググゥ!!」

噛みつかれながらバシャーモは口から『ひのこ』を吐いてグラエナの頭を攻撃する。
何発かくらった所で、ようやくグラエナは口を離した。
そしてその瞬間。

ドガァッ!!

グラエナ 「グラーーー!!」

ドッシャアアッ!!

バシャーモは地面に背をつけたまま、グラエナの顎を左脚で蹴り上げたため、グラエナは宙を一回転して腹から地面に落ちた。

ハルカ (バシャーモったら、指示もなしに即座に反撃に出るなんて…)

バシャーモ 「シャモッ」

バシャーモはすぐに立ち上がり、ファイティングポーズを取る。
グラエナもすぐに起き上がり、こちらをにらみつけてきた。
そして私は思う。
いつの間にか、バシャーモは私の想像を超え始めているのかもしれない…と。
私は、自然とバシャーモを信頼し、バシャーモもまたそれに応える。
それが、トレーナーとポケモンの信頼関係。
私は次第にバシャーモと心をシンクロさせていくことに気付く。
そう、本当は誰にでもあるはずの力。
ただ、それに気付かないだけのことなんだ…って誰かが行っていたような気がする。

ハルカ 「バシャーモ『ブレイズキック』!!」

マツブサ 「グラエナ『とっしん』だ!!」

またしても同じように突っ込む2体。
しかし、今度はバシャーモも不用意に飛び込むような真似はしない。
バシャーモはまず、地上を一直線に走ってグラエナとの距離を縮める。
グラエナも同じように真っ直ぐ突っ込んできた…そして。

グラエナ 「グラーー!!」

バシャーモ 「! シャモッ!!」

ヒュッ! ドゴアァッ!!

グラエナ 「グ…グラ〜」

ドズゥンッ!!

バシャーモはグラエナの突進を寸前でジャンプし、上にかわす。
そして、グラエナが勢いでバシャーモの足元を通り過ぎようとした所を狙い、バシャーモは炎を纏った右足で、グラエナの頭を踏み潰した。
さすがに立ち上がることは無く、グラエナはダウンする。

ハルカ 「よしっ! よくやったわバシャーモ」

マツブサ 「…ちぃ、戻れグラエナ。出ろ『クロバット』!!」

ボンッ!

クロバット 「クロッ!」

バサバサバサッ!!

次に出てきたのはクロバット。
あのキヨミさんも使ったポケモンだ。
前に見たゴルバットが進化したのね…あのスピードは厄介ね、ここは交換を…。

ハルカ 「戻って、バシャーモ!」

マツブサ 「『おいうち』だクロバット!!」

ハルカ 「!?」

私はバシャーモをボールに戻そうとした瞬間、クロバットが眼にも留まらぬスピードでバシャーモに突っ込んできた。

ドゴッ!!

バシャーモ 「!!」

クロバットの体当たりがバシャーモの背中にヒットし、バシャーモはよろめきながらボールに戻った。
まさか…ボールに戻る寸前に攻撃がヒットするなんて。
あれでは防ぎようがない…あんな技もあったなんて。

マツブサ 「効果は今ひとつだが、無いよりはマシだろう」

ハルカ 「く…まだやられたわけじゃないわ! 出て『ライボルト』!!」

ボンッ!

ライボルト 「ライライ!」

クロバット 「クロクロ!」

私は相性の良いライボルトを繰り出した。
互いに出揃い、対峙する2体。
クロバットは空中を自在に飛び回り、こちらを撹乱する。
確かに速い…でも、不安は全く無い、何故なら。

ハルカ (キヨミさんのに比べたら、止まって見えるわ…)
ハルカ 「ライボルト、落ち着いて相手を見るのよ! あれ位、大したことは無いわ!」

ライボルト 「ライッ!」

ライボルトは私の声を聞いて、返事をする。
いいわ、落ち着いてる。
と言うよりも、この娘の場合は能天気すぎるんだけど…。

マツブサ 「随分と舐められたものだな…クロバット『エアカッター』だ!!」

ハルカ 「来るわ! ライボルト前方に『でんこうせっか』!!」

クロバット 「クロッ!!」

ヒュッヒュッ!!

空気の刃がクロバットの羽からふたつ同時に飛んでくる。
ここでも実力の差が見て取れた。
キヨミさんのは4枚同時だったのに対し、マツブサさんのは2枚だ。
これなら、スピードに任せて優々に回避できる。

ライボルト 「ラ〜イッ!」

ガン! ガァンッ!!

エアカッターはライボルトが通過した後の地面にぶつかり、消滅する。
まさに瞬速のライボルト。
ライボルトは文字通り、眼にも留まらぬ速度でクロバットの真下に到達した。

ハルカ 「さぁ、新技で一気に決めるわよ! 『かみなり』!!」

バチバチバチィ…!

クロバット 「?」

マツブサ 「!? しまった、対空攻撃…!!」

ライボルト 「ラ〜イーーーーー!!!」

ピシャアアアァァァンッ!!

ライボルトが吼えたと同時に、『かみなり』が真上のクロバットを襲う。
この技は、まず空中に電気を溜めてから放つ大技。
発生が空中からなので、空を飛んでいる相手にはほぼ確実に当たる。
が…その反面、地上の相手に当てるのは難しい。
当たればかなりの威力だけど、命中率が悪い…一長一短な技だ。
でも、空中の相手を狙えばごらんの通り、クロバットは黒焦げになって地面に落ちた。
カウントはいらないわね…。

ハルカ 「2体目、次!!」

マツブサ 「おのれ…出ろ『バクーダ』!!」

ボンッ!

バクーダ 「バクーー!!」

最後に出てきたのはバクーダだった。
以前にも見たけど、あの時よりも数段上の力を感じる。
さすがに地面タイプにライボルトは勝ち目が薄い…ここは交代するべきね。

ハルカ (とはいえ、さっきのようなこともあるし…交代際は注意ね)
ハルカ 「ライボルト、戻って!」

ライボルト 「ラ〜イ♪」

シュボンッ!

私はライボルトをボールに戻し、考える。
そして周りを確認する。
広さはある…いけるかな?

ハルカ 「ようし、任せたわよ! 『ホエルオー』!!」
マツブサ 「バクーダ『じしん』だ!!」

ボンッ!

ホエルオー 「ホエ〜〜」

バクーダ 「バクーー!!」

ゴゴゴゴゴゴゴオオオオォォォッ!!! ドゴアァァァッ!!!!

バクーダが前足で地面を強く叩き、地響きを起こす。
そしてホエルオーが出現した瞬間、ホエルオーの真下で大きな『じしん』が起こった。
かなりの威力だ…カガリさんのには劣るとはいえ、相当な威力…でも。

ホエルオー 「…ッ! ホエ〜」

ハルカ 「無事ね…よしっ」

思いの他、効いてはいない様子。
これなら、すぐに反撃できる。

ハルカ 「ホエルオー『みずのはどう』!!」
マツブサ 「バクーダ『だいもんじ』だ!!」

私たちは同時に指示を出す。
だが、先に動いたのはバクーダだった。
スピードで負けてる? いや、『みずのはどう』のモーションが遅い!

バクーダ 「バ〜クーーー!!!」

とはいえ、『だいもんじ』もかなりモーションが遅い。
バクーダは口に炎を溜め、圧縮して巨大な火の玉を放つ。
弾速は速い。回避は…ホエルオーに出来るわけがない!!
ホエルオーが口に水を溜めている間に、それはホエルオーの顔面に直撃する。

ドッゴオオオオンッ!!!

着弾と同時に、着弾点から『大』の文字に炎が広がる。
かなりの火力だ…でもホエルオーはそれ位じゃ怯まない!!

ホエルオー 「ホ〜エーーーーー!!!」

ドギュッバァッ!!

『だいもんじ』に耐え、ホエルオーの大きな口から、巨大な『みずのはどう』が飛び出す。
バクーダは大技を使った後で動きが止まっていた。
当然、自分よりも大きな水の塊を避けられるわけも無く。

ズバッシャアアアアアンッ!!!

バクーダ 「バ、バク〜〜〜」

ズシイイイィィンッ!!

一撃でバクーダは沈黙する。
これで3連勝! 文句なしね。

マツブサ 「ふ…ふふふ、さすがだな」

シュボンッ!

マツブサさんはバクーダをボールに戻し、そう言葉を放つ。
だが、余裕の表情は消えたわけではなかった。
ポケモンはもうない…追い詰めた。

ハルカ 「ここまでよ、観念しなさい」

マツブサ 「馬鹿め!! この私にはまだこれがある!!」

そう言って、マツブサは懐から『あいいろのたま』を取り出し、天高く掲げる。
それと同時に、『あいいろのたま』は強烈な輝きを放ち始める。
最悪の予感…まさか、これって…!!

フィーナ 「ハルカさん!!」

ハルカ 「!? フィーナちゃん…」

突然の声に私は振り向く。
すると、フィーナちゃん(戦闘モードのまま)が走ってこちらに向かって来ていた。
そして、同時にあの人もいる。

カガリ 「……」

マツブサ 「ふはははははっ!! さぁ、目覚めろグラードン!! そして世界の海を陸に変えるのだ!!」

フィーナ 「くっ、こいつ…狂ってやがる!!」

カガリ 「…やっぱり、ここまでね」

ハルカ 「?」

カガリさんはそう言うと、突然マグマ団の制服を脱ぎ捨てる。
そして、袖の無い黒のTシャツと赤の短パン姿になった。
被り物も捨てて頭が露出する。
どうしたと言うのだろう? 急にカガリさんは何故…?

カガリ 「ハルカちゃん、フィーナちゃん…覚悟を決めて頂戴」

フィーナ 「え?」

ハルカ 「は?」

唐突にカガリさんは言う。
何が何だか私にはわからなくなってきた。

カガリ 「…もう、グラードンは動き出すわ」
カガリ 「そして、それを止められるのは『べにいろのたま』しかない」
カガリ 「間に合わなかったのよ…ハルカちゃん、残念ながら」

カガリさんは特に表情に出さなかったが、明らかに緊迫した雰囲気を感じ取れた。
『べにいろのたま』…あれが最後の切り札。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

グラードン 「!!! グオオオオオォォォォッ!!!!」

グラードンは動き出したかと思うと、凄まじい地響きと共に咆哮をあげた。
凄まじい重圧…今まで見てきたポケモンとは次元が違う。
これを、止めなければならないの!?

グラードン 「!!」

ヒュオンッ!!

全員 「!?」

一瞬でグラードンはその場から消えた。
その場にいた全員が息を呑む。
しかし、何かが起こるような気配は無かった。

マツブサ 「…な、何だ? どうしたんだ…何故グラードンは急に」

アオギリ 「間に合わなかったか!! とうとうグラードンを目覚めさせてしまったなマツブサ!!」

ハルカ 「!? アオギリさん」

数秒の沈黙が終わると、アオギリさんが駆けつけた。
どうやら、今回の騒ぎを聞きつけてマグマ団を追いかけてきたようだ。

フィーナ 「な、何が起こったんだ?」

カガリ 「…最悪の展開ね」

カガリさんが苦いを顔をする。
これは間違いなくマズイ気がした。
何せ、あれだけ沈着冷静な『カガリ』さんが、あんな『表情』を取るのだ…相当ヤバイのだろう。
そして、アオギリさんはマツブサさんに近づき…。

ドガァッ!! ズシャアアッ!!

ハルカ 「うわ…強烈」

アオギリさんは渾身の右ブローをマツブサさんの左頬にお見舞いする。
1メートルほど吹っ飛んでマツブサさんは背中から地面に倒れた。

アオギリ 「さぁ、立てマツブサ!! そして自分のしたことを思い返して外へ出ろ!!」

マツブサ 「ど、どういうことだ!?」

アオギリ 「いいから、外へ出ろ!! そして見ろ!! 今、外で広がっている光景が、お前の望んだ世界かどうかを!!」

アオギリさんは言葉を理解していないマツブサさんの襟を掴み上げ、無理やり引っ張って歩き始める。
私たちも自然とそれに続いた。
そして、少し先には外へ出る出口があったのだ。
だけど…そこから溢れる光は、まさに絶望の光だった。



………。
……。
…。



『同日 某時刻 128番水道・海底洞窟出口付近』


カァァァァァァァァッ!!

マツブサ 「…な、何だこれは……こ、こんな! こんな世界を私は……!!」

明らかにうろたえるマツブサさん。
これが今の光景だった。
それは、まさに地獄と呼べる状態。
空から降り注ぐ日光は、明らかに常軌を逸し、その場で立っているだけで肌が焼けるのを感じる。

フィーナ 「し、信じられない!! これじゃあ…オーレの砂漠よりも熱いよ!!」

カガリ 「………」

アオギリ 「どうだ、理解したかマツブサ!!」
アオギリ 「これだけの日光が、常に降り注ぎ続けたら世界はどうなると思う!?」
アオギリ 「海が干上がるだけじゃない! 人類は地上で生きられなくなるぞ!!」

マツブサ 「う…うう!!」

アオギリさんは両手でマツブサさんの襟首を掴み上げて、そう言う。
その言葉には、怒りと共に哀れみも込められているようだった。
もう、マツブサさんには生気が感じられない…まるで人形のように虚空を見つめていた。

アオギリ 「しっかりしろマツブサ!!」

バキィッ!!

アオギリさんはマツブサさんの態度に対して右拳を振るう。
まるで叱りつける様な拳だった。
う〜ん、体育会系ね。

アオギリ 「さぁ! 今、お前が何をするべきか、わかっているな!?」

マツブサ 「…あ、ああ!! …す、すまない」

アオギリ 「よし! ならば行くぞ!! この問題は我々の手で片をつけるんだ!!」

アオギリさんの言葉で、自分を取り戻したマツブサさん。
その目には生気が戻り、本来のマツブサさんが目覚めたようにも見えた。
そして、アオギリさんとマツブサさんはあらかじめ待機していたアクア団のクルーザーに乗り、そのままどこかへ行ってしまった。
置いてけぼりにされて、呆然と立ち尽くす私たち。
そして、突然空が暗く…。

エアームド 「エアーーー!!」

ハルカ 「エアームド!? それも巨大な…」

巨大なエアームドが私たちの上空を旋回していた。
そして徐々に私たちへと近づいてくる。

カガリ 「…背中に誰かが乗ってるわ」

フィーナ 「あの人…確かダイゴさん!!」

ダイゴ 「君たち! こんな所で何をしているんだ!?」

そう、それはまさしくダイゴさんだった。
前に見たスーツ姿のままで、ダイゴさんは、エアームドから地上に降りる。
どうやら、この状況を見て飛び回っていたようだ。

カガリ 「見ての通りよ…立ち往生している、と言った所ね」
カガリ 「とはいえ、どこへ行けばいいかなんて予想は着くけど」

ダイゴ 「君は…もしかしてこの状況の原因を知っているのかい!?」

ハルカ 「グラードンです…グラードンが目覚めて、どこかへ消えてしまった…」

ダイゴ 「グラードンが…!? そうか…それで」

ダイゴさんはしばらく考える。
そして、考えがまとまったのか、すぐに行動を開始する。

ダイゴ 「よし、僕はこれから『ルネシティ』へ向かう! 君たちも早くどこかへ非難するんだ!!」
ダイゴ 「せめて日陰のある場所にいるんだ、いいね!?」

エアームド 「エアーーー!!」

そう言い残し、ダイゴさんはエアームドに乗って飛び去ってしまう。
その方角は、アオギリさんたちが向かった方角と一緒だった。
またしても置き去りな私たちは…再び立ち尽くす。
だが、いい加減ただ立っているのも限界だった。

ハルカ 「く…さすがに暑いわ。このままじゃ皮膚ガンになってもおかしくないわよ!?」

さすがは『グラードン』…おとぎ話に出てくるようなポケモンね。
陸を作ったって言うのも、あながち嘘じゃないのかもしれない。

フィーナ 「『ルネシティ』って言ってましたよね? 行くんでしょ?」

いつの間にか通常モードに戻っているフィーナちゃんがそう言う。
そして、私は当然のように頷く。

ハルカ 「もちろん! どうせジム戦もやりに行くんだし!」

カガリ 「じゃあ、早く行きましょう! 急いだ方がいいわ」

私たちは互いの意志を確認し、『ルネシティ』を目指すことになった。
ここでカガリさんと言う味方が増えた(?)のは嬉しい。
正直、私は全く知識がないから!(威張って考えるな!!)

ハルカ 「でも、『ルネシティ』って何処?」

ガクッ、っとフィーナちゃんだけがずっこける。
カガリさんは素のままだった。
う〜む、我ながらベタなギャグだったわ。

カガリ 「…案内はしてあげるわ、とりあえず水を渡れるポケモンを出しなさい」

ハルカ 「さっすがカガリさん! さぁ、出なさい『ホエルオー』!!」

ボンッ!

ホエルオー 「ホエ〜」

さっきのダメージが残っているかもしれないけど、ホエルオーは元気に鳴き声をあげた。
辛いかもしれないけど…頑張って。
私は心の中でそう思い、ホエルオーの顔にそっと手を置いた。

ホエルオー 「ホエ〜♪」

すると、ホエルオーはまるで『わかっている』と言うかのように笑顔で答える。
そっか…ホエルオーも私のこと信じてくれてるんだね。
まだ付き合いの短いホエルオーでさえ、ここまで私を思ってくれている。
トレーナーとして、こんなに嬉しいことはないかもしれない。
改めて、私はポケモントレーナーになって良かったと思った。

ハルカ 「よし、『ルネシティ』まで急ぐわよ! さぁ、ふたりとも乗って!!」

私は一番にホエルオーの背中へと登る。
そして、そこからふたりを促した。

フィーナ 「はいっ! カガリさんも…」

カガリ 「ええ…」
カガリ 「ちなみに…言い忘れてたけど、私の本当の名は『キヨハ』」
カガリ 「『カガリ』は偽名だから、これからは使わないで頂戴…もうマグマ団じゃないから」

突然カガリさん…じゃなくてキヨハさんはそう言い出す。
偽名って…まぁ、ああ言った組織の幹部にはありがちな設定か。
しかし、どこかで私の心に引っかかる物があった。

ハルカ (キヨハ…ん〜? どこかで聞いた様な)

キヨハ 「…とにかく、進むわよ。ホエルオー、わかる? あの方向よ」

ホエルオー 「ホエ〜〜」

カガ…じゃなかった、キヨハさんがホエルオーの頭を撫でるようにして方角を知らせ、ホエルオーは移動を始める。
凄い…自分のポケモンじゃないのに、ちゃんと操るなんて。
やっぱりレベルの違うトレーナーだと痛感する。
ホエルオーもそれがわかっているから、答えたのだろう。
そして、私たちはキヨハさん(今度は間違えない)の案内によってルネシティへと向かった。



………。



数分後、私はふと気になったことをフィーナちゃんに尋ねる。

ハルカ 「そう言えば、フィーナちゃん、キヨハさんとのバトルはどうなったの? どっちが勝った?」

フィーナ 「ぎく…それは〜」

フィーナちゃんは苦い表情をする。
もしかしなくても負けたのだろうか?
しかし、それを否定する答えが、キヨハさんの口から放たれる。

キヨハ 「私の負けよ…久し振りにいいバトルだったわ」

キヨハさんはそう言って笑う。
そうか…勝つには勝ったのか。

ハルカ 「さっすがフィーナちゃん、私なんかじゃ手も足も出なかったのに…」

フィーナ 「あ、あはは…」

私はフィーナちゃんを褒め称える。
実際、この娘の実力は凄いものだ。
今の私じゃ、まだまだ勝てそうにない。
でも、勝った本人はあまり納得していないかのような表情をしていた。

フィーナ (実戦レベルでは引き分けだと思うんだけど…結果的には負けてると言ってもいい)
フィーナ (あれがもしフルバトルだったらどうなっていたか…今回は状況的にも限定されていたから、あの結果になったけど)
フィーナ (…ちゃんとした立会いの下で勝負したなら、負ける気がする)

フィーナちゃんは煮え切らない様子だった。
やっぱり、それだけキヨハさんは大きな力を持っているんだろう。
何だか、近くにいるようでいない…そんな気分だった。
このふたりは私よりも遥かに優秀なトレーナーだ。
それもそのはず、私のように一朝一夕でここまで来たわけじゃない…それまでに培ってきた知識や経験があるのだ。
格闘技をやっていた時もそう言った事はあった。
実力が拮抗すればするほど、最後に物を言うのは経験なのだから。

キヨハ 「…ハルカちゃんも、あれから随分強くなったみたいね」
キヨハ 「今なら、もっといい勝負が出来るかもしれないわね」

そう言って、キヨハさんは笑う。
何だか、最初の頃とは印象が違う。
今のは優しい微笑みだった。
初対面の時みたいな、妖しい雰囲気は残ってるけど…。
元々、これがキヨハさんと言う人柄なのだろう。
でも、考えが読めないって言うのは私苦手。

ハルカ (まぁ、それはともかく…ルネまでは何とかなりそうね!)

一旦会話は途切れ、私たちを乗せたホエルオーは一路『ルネシティ』を目指した。





………………………。





『同日 9:00 127番水道』


ハルカ 「…暑い〜」

フィーナ 「このままじゃ、脱水症状になりそうですよ…」

キヨハ 「……」

さすがのキヨハさんも汗が次々と流れ落ちていた。
ホエルオーの背中も焼けるように熱い。
このままじゃ、ホエルオーといえどもバテる。

ハルカ 「…ホエルオー『しおふき』よ」

ホエルオー 「ホエ〜!」

バババババババッ!! バッシャアアアアアンッ!!!

フィーナ 「キャアッ! 冷たいっ」

キヨハ 「…っ! 少しは、マシになるわね」

ホエルオーは『しおふき』で海水を私たちに浴びせる。
この日差しで多少ぬるくなってはいるけど、十分体の熱を下げることは出来たようだ。
ホエルオー自身も少しマシになったみたいだった。

ハルカ 「うん…ありがとうホエルオー」

ホエルオー 「ホエ〜♪」

元気そうに答えるホエルオー。
ダメージが残っているでしょうに、それでも健気に答えてくれた。

ハルカ (ごめんね、ルネに着いたらすぐに休ませてあげるから)

ホエルオーは尚も進む。
まだ、ルネシティは見えなかった。



……そして更に数分後。



ハルカ 「うん? 今、何か…」

フィーナ 「どうかしました?」

キヨハ 「?」

今、何かが聞こえた気がした。
と、言うよりも…まるで頭に響くような『声』だった。
まるで、誰かの意識が突然流れてきたかのような…そう。

ハルカ (ランやフウと初めて出会った時のような)

あれからと言うもの、何故か私には不思議な感覚に陥る時があった。
相手の考えが読めるのだ。
はっきりとはしないけど、何となくそんな気がする…といった程度。
勘が鋭くなったとか、洞察力が上がったとかそんな感じかもしれないけど…何となく、エスパーな自分に目覚めたような気分だった。
そして、その感覚でまた私は何かを読み取ったのだ。

ハルカ 「! キヨハさん、あっちの陸へ向かって!! 多分、遭難者っぽい人がいます!!」

キヨハ 「え…? でも陸なんて見えないわよ?」

フィーナ 「ハルカさんの視力が凄いって言っても…この距離じゃ」

ふたりは目を凝らして見るが、陸などあろうはずもない。
実際、私にも見えない。
でも、感じるのだ…そこに誰かがいると言うことを。

ハルカ 「ホエルオー…あっちよ!」

ホエルオー 「ホエ〜!」

私はホエルオーの方角を右にずらす。
そして、私が指示した方向に数分向かうと、そこには離れ島があった。
島と呼ぶには小さく、ただ陸があるだけだった。
そして、そこにぽつんと佇む男性がひとり。
だけど、注目するのはそこじゃなかった。

ハルカ (うわ…暑苦しい)

それもそのはず、何と服装が黒一色。
黒い長袖のシャツに黒いズボンを履いているのだ。
髪はショートで普通の黒髪。
身長は170位、体格は悪くない、大人の雰囲気を感じさせる男性だ。
だが、この日差しの凄まじい中で、日光を我が物にする『漢』は間違いなく、『大馬鹿』だろう。
私は、一応声をかける。

ハルカ 「…何やってるんですかそんな所で? 早く何処か日陰に避難した方がいいですよ!」

男 「…俺はいい、ただ…こっちを何とかしてくれ」

キヨハ 「もうひとり…?」

男性はぶっきらぼうにそう言って半歩後ろに退がる。
そしてそこには苦しそうに横たわる、少女がいた。
そして、その少女を見たフィーナちゃんが驚く。

フィーナ 「あっ、ああ!! もしかしてメフィー!?」

ハルカ 「?」

キヨハ 「…知り合いなの?」

フィーナちゃんは叫ぶと、すぐにメフィーちゃんと言う少女の元に向かう。
だが、メフィーちゃんはフィーナの声に反応さえせず、ただ息を荒げていた。

メフィー 「…はぁ、はぁ…」

見た感じ、多分この日光で倒れた者だと思える。
ちなみに容姿を説明すると、髪は黒色で長さは腰の辺りまで綺麗に整えられている。
服装は白のTシャツに、緑のカーディガンを羽織い。ズボンは紺のジーパンだった。
結構厚着ね…この娘じゃなくても倒れる気がする。
側には黄土色のリュックと、緑色の生地に水玉模様の描かれたのショルダーバッグが置いてあった。
恐らく、メフィーちゃんの物だろう。

キヨハ 「…まずいわね。この娘、熱射病にかかってるわ」

予想通りの診断が返ってくる。
やっぱり、この日差しが悪影響を…早くも犠牲者が出たのね。

フィーナ 「や、やっぱり…この日差しで」
フィーナ 「でも、ポケモンを使えば、ルネも近いのに…」

男 「無理だな…さっきまで俺とフルバトルをしていたんだ、互いにポケモンがほぼ全滅だからどうにもならなかった」
男 「予想以上にバトルが拮抗したのが原因だな…」

男性は特に感情も込めず、さらっと言い放った。

ハルカ 「冷静に判断してる場合じゃないですよ!! 早くホエルオーに乗ってください! すぐルネシティに向かいますから!!」

フィーナ 「メフィー…しっかり!!」

メフィー 「うう…フィーナ……」

フィーナちゃんはメフィーちゃんを肩で担ぎ上げ、歩き出した。
すると、メフィーちゃんは微かに瞳を開き、フィーナちゃんを認識した。
ちなみに、瞳の色はは翠色…エメラルドに似ていた。

男性 「………」

フィーナちゃんとメフィーちゃん、そしてキヨハさんが乗った所で男性は微動だにしなかった。
何を考えているのか知らないが、私はさっさと促す。

ハルカ 「早く! あなたも乗るんですよ!!」

男 「…世話になる」

ようやく男性は動き出す。
天然なのか、単に優柔不断なのか…とにかくやりにくいタイプだった。
とはいえ、100人乗っても大丈夫!のホエルオーに船員が更にふたり増えた。
そして、私たちは進路を再びルネに戻し、数分後…ついに待望の『ルネシティ』へとたどり着いたのだった。





………………………。





『同日 9:30 ルネシティ・入り口付近』


ハルカ 「これが、ルネシティ…」

ぱっと見、断崖絶壁に囲まれた町、ルネ。
しかしながら、どうやって中に入るのかが全くわからない。
入り口のような物は見当たらず、グルっとルネの周りを一周したが、意味はないようだった。

ハルカ 「ちょ、ちょっと!! 何なのよこの町!?」

キヨハ 「やっぱり、空か海中からの進入に頼るしかないわね」
キヨハ 「とはいえ、できるだけ短時間で中に入らないと…この人数で『ダイビング』をするのは無理よ…病人もいるし」

ハルカ 「私のペリッパーは預けているし…フィーナちゃんやキヨハさんは持ってる?」

キヨハ 「私はないわ」

フィーナ 「私、ボーマンダなら…って戦闘不能です隊長!!」

ハルカ 「うむ、見事なボケよ!! フィーナ隊員!!」

フィーナちゃんはうろたえながらボケ、私もツッ込む。
って、いつから私は隊長になったのよ!
一応、心の中でもツッ込みを入れておいた。

男 「こっちも、ほぼ全滅だ…空を飛べるのは残っていない」
男 「と言うよりも、残っていたらあんな所で立ち尽くしていない」

そりゃ、ごもっともで。
しかしながら、こっちは待ってくれそうになかった。

メフィー 「…はぁ、はぁ」

どんどん病状は悪化するばかり。
時間との勝負なのに…ここに来て侵入する方法がないなんて。

キヨハ 「私の手持ちに、『げんきのかけら』がひとつあったわ…これでどうにかなる?」

フィーナ 「で、でも…いいんですか?」

キヨハ 「いいわよ…こういう時は皆仲間、助け合わないとね」

そう言って、フィーナちゃんに薬を渡すキヨハさん。
う〜ん、友情ね♪
でもひとつだけか…1体じゃ何往復も出来ない気が。
すると…男性が。

男 「その薬、こっちに回せ。そいつのボーマンダよりも、俺のカイリューの方が体力が高いだろう」

フィーナ 「! 何で、言い切れるんですか!?」

突然、変な方向に向かい始める。
故意かどうかわからないけど、男性のセリフが、フィーナちゃんを挑発したらしく、フィーナちゃんは裏モードとの境目で答えていた。

男 「ボーマンダはスピードとパワーを兼ね備えたドラゴンだ、対してカイリューはパワーとタフさを兼ね備えたドラゴン」
男 「こう言う状況なら、スピードよりも体力を優先するべきだ」
男 「『げんきのかたまり』ならともかく、欠片ではボーマンダに何往復もする体力は得られない…」
男 「だが、カイリューならそれがある…それだけのことだ」

冷静に男は説明する。
私にはどっちも見たことも聞いたこともないポケモンだけど、あながち間違った説明でもない気がした。

フィーナ 「私のボーマンダは、そんなにヤワじゃありません!!」

男 「冷静になれ…精神論の話をしている場合じゃない」
男 「確実な方法を取る…それが今最優先でするべきことだ」

ハルカ 「はーいはいはい!! こんな所でもめてる方が馬鹿馬鹿しいわよ!!」
ハルカ 「はい! あなたにはこれをあげますから、さっさと働いてください!!」

私は早口にそう言って、男性に私の『げんきのかけら』を渡した。
男性はややキョトンとしながらも、すぐに薬を使おうとする。
だが、フィーナちゃんは動きが止まっていた。

ハルカ 「ほらっ、フィーナちゃんも早く!」

フィーナ 「え、えっ!?」

私は大きな声でフィーナちゃんを促す。
意味がわからないようにフィーナちゃんはうろたえていた。

ハルカ 「(ほら、これであなたのポケモンの強さを証明すればいいじゃない!)」

フィーナ 「(!? ハルカさん…はいっ!!)」

私はフィーナに小声で囁くと、フィーナはやる気を出す。
もう、世話が焼けるなぁ…。
だけど、こうしてふたり同時に動くことが出来る。
加えてフィーナちゃんの面目も保てる。
一石二鳥ね!

男性 「出ろ、『カイリュー』」

ボンッ!

カイリュー 「…リュ〜」

明らかに弱ったポケモンが出てくる。
ダメージがそのままで、明らかに動ける体じゃない。

ハルカ 「あれが…カイリュー」

キヨハ 「ちなみに、ホウエン地方には生息していないポケモンよ」
キヨハ 「だから、ハルカちゃんの図鑑を見ても無駄ね」

ハルカ 「……」

私は確認する前にそう言われ、動きを止めた。
なるほど、そうなのか…。
仕方ないので諦めると、キヨハさんが何かを差し出す。

キヨハ 「はい、こっちを見なさい」

ハルカ 「これって…もしかして」


ポケモン図鑑 『カイリュー:ドラゴンポケモン』
ポケモン図鑑 『高さ:2.2m 重さ:210.0Kg タイプ1:ドラゴン タイプ2:ひこう』
ポケモン図鑑 『海で溺れている人を助けるため、広い海をいつも飛び回っているという』

間違いない…ジョウトのポケモン図鑑だ。
やや古臭い感じだけど、ちゃんと機能している。

ハルカ 「もしかして、キヨハさんはジョウトのトレーナーだったんですか?」

キヨハ 「ええ、そうよ…って、知らなかったの?」

ハルカ 「知りませんよ〜…聞いてないですもん」

キヨハ 「そう…まぁいいわ」

何だか、少し疑問が残るけど、キヨハさんは図鑑をズボンのポケットにしまう。
う〜ん、相変わらず謎の多い人。

ハルカ 「…そう言えば、あなたはホウエン地方のトレーナーじゃないんですか?」

今度は男性の方に疑問を投げかける。
すると、男性は特に感情も込めず。

男 「…ああ、俺はジョウト地方出身のトレーナーだ」

そう言って薬をカイリューに使う。
やっぱりやりにくい…どうにも会話が続かない。
とりあえず、カイリューは元気を取り戻し、動けるようになったようだ。

カイリュー 「リュー!」

男 「……」

キヨハ 「…?」

カイリューが元気になったのを確認すると、男性はチラッとキヨハさんを一瞥した。
当のキヨハさんは、わかっていない様子だった。
何故、キヨハさんを…?
しかし考える間もなく、男性はカイリューの様子を見る。

カイリュー 「リュー!!」

男 「よし、行けるな…で、誰が乗る? こっちは3人位までなら同時に行けるぞ」

フィーナ 「メフィーは私が連れて行きます!」

ハルカ 「と言うことは…決まったわね」

キヨハ 「ええ…」

私とキヨハさんがカイリューに、メフィーちゃんがボーマンダに決まった。

フィーナ 「ボーマンダ…出てきて」

ボンッ!

ボーマンダ 「…ボーマッ」

フィーナちゃんはボーマンダを繰り出す。
こちらも弱りに弱っていた…キヨハさんとの壮絶なバトルが感じ取れた。

ハルカ 「…えっと」


ポケモン図鑑 『ボーマンダ:ドラゴンポケモン』
ポケモン図鑑 『高さ:1.5m 重さ:102.6Kg タイプ1:ドラゴン タイプ2:ひこう』
ポケモン図鑑 『翼が欲しいと強く思い続けてきた結果、体の細胞が突然変異を起こし、見事な翼が生えてきたという』


ハルカ (これがボーマンダ…ドラゴンタイプのポケモン)

ナギさんのチルタリスと同じタイプだが、見た目はまるで違う。
チルタリスは鳥をイメージできる風貌だが、こちらは完璧に爬虫類系。
能力もかなり高そうで、パワフルな感じだ。
カイリューに比べると、確かにスピードが速そうにも見える。

男性 「よし、行くぞ…カイリュー!」

カイリュー 「リュー!!」

フィーナ 「ボーマンダ、任せたわよ!!」

ボーマンダ 「ボーマッ!!」

ゴゴゥ!! ゴウゥ!

ふたりの指示と同時に、2体のドラゴンポケモンは飛び立つ。
さすがにドラゴンと言うだけあって、力強い羽ばたきだった。
2体とも実にスムーズな飛行で、ルネの上空へと羽ばたく。
そして、私たちは無事にルネの内部へと辿り着いた。



………。



−ここはルネシティ、歴史が眠る神秘の町−




『同日 9:35 ルネシティ・ポケモンセンター』


ドダダダダダッ!!

ハルカ 「すみません! ポケモンの回復と病人をお願いします!!」

店員 「え!? あ、はい…」

ポケモンセンターに着くや否や、私はすぐにそう言う。
さすがに早口すぎたか、少し困惑気味の店員だったが、何とか回復とメフィーちゃんの治療は出来るようだった。
そして治療の間、私たちは作戦会議を開くことにした。



………。



『同日 9:40 ポケモンセンター・待合室』


ハルカ 「さてと、じゃあこれからどうしよう?」

まず、私がこれからの行動を皆に尋ねる。
当然、グラードンを止めることが最優先。
だけど、どこにいるのかは見当もつかない。
すると、キヨハさんが。

キヨハ 「まずは、『めざめのほこら』へ向かいましょう…多分、そこにグラードンがいるわ」

男 「…グラードンだと? そんな伝説とされるポケモンが、ここにいると言うのか?」

なるほど、ジョウト地方のトレーナーでも、やっぱり驚くほど凄いポケモンなのか…。
ますます、危険な香りがしてきた…このまま生きて帰れるのだろうか?
等と、絶望的な考えも過ぎるが、いちいちマイナスに考えていられない。
ここは前向きに行こう!

フィーナ 「でも、いる保障はないんですよね?」

キヨハ 「まぁ、そうだけど…ここには、そう言う伝説があるのよ」
キヨハ 「ここは、グラードンやカイオーガが目覚めるための祠が祭られているの」

男 「…ほう、それは初耳だな」

男性は興味があるのか、キヨハさんの話を興味深そうに聞いていた。
私も興味はあるけど、その前に聞いておくべきことがあった。

ハルカ 「そういえば、フィーナちゃん。メフィーちゃんと知り合いなのよね?」

フィーナ 「は、はい…オーレ地方での親友です」
フィーナ 「でも、まさかこんな所で会うなんて…」

フィーナちゃんは嬉しいのか悲しいのかわからない…そんな表情で答える。
正直、こんな事件に巻き込みたくはなかったのででしょうね。

男 「かなりの使い手だった…ジョウトでもあれほどの使い手はそうそういまい」
男 「そこの、キヨハに匹敵するほどの実力を持っているだろうな」

キヨハ 「……」

ハルカ 「…あの、えっと〜」

男 「…ヒビキだ」

私が、いい加減名前を聞こうかと思ったら、先に向こうから名乗られた。
しかし、この人もイマイチ謎が多い気がする。
一体、キヨハさんとどういう関係なんだろうか?

ハルカ 「…ヒビキさんは、キヨハさんのこと知っているんですか?」

私が単刀直入に尋ねると、ヒビキさんは細い目でにらむようにこちらを見た。

ヒビキ 「知らないのか? キヨハを…」

ハルカ 「知るも何も…知り合ってから間もないし」

ヒビキ 「…ポケモントレーナーでありながら、キヨハを知らないのか?」
ヒビキ 「キヨハは、過去にポケモンリーグ・ジョウト大会にて、あのキヨミと決勝の死闘を演じた伝説的トレーナーだぞ?」
ヒビキ 「ポケモンリーグを目指すポケモントレーナーであれば、子供でも知っているほど有名なトレーナーだ」

ハルカ 「は、はぁ!?」

フィーナ 「伝説的…トレーナー」

キヨハ 「…懐かしい話ね」
キヨハ 「でも、買被らないで欲しいわね…私はあくまでひとりのトレーナー…」
キヨハ 「誰かに崇拝されるなんて、いい気分じゃないわ」

そう言って、キヨハさんは少し不満そうな顔をする。
崇拝…か。
キヨミさんは更に上なんだから、もっと有名と言うことになる。
…私でも知っている位なんだから。

ヒビキ 「今でもジョウト地方では伝説として語り継がれている…あの決勝戦は」
ヒビキ 「歴代のリーグを見渡しても、あれほど実力の拮抗したレベルの高いバトルはないと言われている」
ヒビキ 「俺も、あのバトルは未だに眼に焼きついている」

そう語るヒビキさんの顔は、嬉しそうなものだった。
まるで、子供が大切な物を手に入れたかのような…そんな幸せそうな表情。
だけど、すぐにその表情は消える。

ヒビキ 「だが、あのバトルが終わってからすぐ、キヨハ、キヨミ姉妹の消息は絶たれた」
ヒビキ 「一説では、事故で死んだとさえ言われていたほどだ」
ヒビキ 「それから5年…ふたりの消息を知る者は誰もいなかった」
ヒビキ 「それが…まさかこんな所で出会えるとはな」

懐かしむように、ヒビキさんは言葉を紡ぐ。
余程、そのバトルに思い入れがあったのだろうか?それとも、それほどふたりを尊敬していたのか…?
さすがに、そこまで私にはわかるわけがなかった。
ちなみに、ここで私はある重大なことにようやく気づく。

ハルカ 「そう言えば、キヨミさんとキヨハさんが姉妹って…」

キヨハ 「あら…言わなかったかしら? キヨミは私の妹よ」

ハルカ 「えーーーーーーーー!?」

私だけが思いっきり驚く。
かの『シェーーー!!』のポーズを取りつつも私は驚いたのだ。
しかし…まさかこの人が、あのキヨミさんのお姉さんだとは…。
どう考えても似ていない…と思う。
キヨミさんは意外と抜けてるし、かなりおっちょこちょい。
それに比べ、キヨハさんはしっかりしているし、かなり落ち着いている。
やっぱり似てない気がする…。

フィーナ 「そう言えば、ヒビキさんは直接バトルをしたんですか? そのおふたりと…」

ヒビキ 「いや、当時俺はまだトレーナーではなかったからな」
ヒビキ 「今度はこちらから質問させてもらってもいいか? お前は…オーレ地方のトレーナーだそうだが、レオと言うトレーナーを知っているか?」

フィーナ 「!? どうしてその名前を…?」

ヒビキさんの質問に、フィーナちゃんはかなり驚く。
はて…レオと言う人物は一体?

ヒビキ 「たったひとりで、大きな組織を潰したとかで世界的に報道されていたからな」
ヒビキ 「とはいえ、名前や姿までは公表されてなかったが」
ヒビキ 「名前を知ったのは、たまたまスナッチ団の情報から知った程度の物だった」

フィーナ 「…でも、どうしてそんなこと聞くんですか?」

フィーナちゃんが不思議そうに尋ねると、ヒビキさんは静かに答える。

ヒビキ 「…強いトレーナーがいる、ならば戦いたい」
ヒビキ 「そう思うのが、ポケモントレーナーだ…俺はそう思っている」
ヒビキ 「もし、戦えるなら戦ってみたい…俺は世界中の色んな奴とバトルをしてみたいんだ」

ヒビキさんは、夢を語る子供のように楽しそうに答える。
何となくわかる気がした。
私も格闘技をやっていた頃は、そんな感じだった。
でも、実際に頂点に立ってしまうと、その気持ちは一瞬で色あせてしまうと言うことも知っている。
だから、あえて何も言わないことにした。
わざわざ他人の夢を汚すようなことを言う必要はない。

フィーナ 「とりあえず、私は何も知りません…メフィーも同じだと思います」
フィーナ 「あの人は、特別目撃情報が少ない人ですから…ポケモンの色違いを探す並に見つけるのは無理だと思います」

何だか微妙な例えだけど…つまり会うのは無理と言うことだろう。
それを聞いて、ヒビキさんは少なからず残念そうな顔をしていた。
そして、しばらく黙っていたキヨハさんが口を開く。

キヨハ 「そろそろ、本題に移ってもいいかしら?」

ハルカ 「…はっ!?」

フィーナ 「忘れてましたね…思いっきり」

ヒビキ 「………」

私たちの反応を見て、さすがのキヨハさんも呆れた様な顔をした。

キヨハ 「…とりあえず、これからすることはひとつ」
キヨハ 「ハルカちゃんが『めざめのほこら』へ行って、『グラードン』をどうにかする…以上」

ハルカ 「い、以上って…それだけですか!?」

いくらなんでも簡潔すぎた。
もういい加減行数が増えてきたからって、はしょり過ぎですよアネゴ!?

キヨミ 「それだけっ…て、何言ってるのよ? 『べにいろのたま』が選んだのはあなた」
キヨミ 「グラードンを止められるのは『べにいろのたま』なんだから、出来るのもあなただけ…他にはどうしようもないわ」
キヨミ 「むしろ、方法があるなら聞きたいぐらいね」

ハルカ 「……」

結局、私にお鉢が回ってくるわけだ。
完全に貧乏クジだが、それ以外に方法はないと言う。

ヒビキ 「…あの日差しが続けば、いずれ地上は誰も住めなくなるだろう」
ヒビキ 「人類の存亡を賭けていると言っても、過言ではないのかもな」

じ〜ざす…わざわざプレッシャーをかけてくれるとは。
益々、後には引けなくなった。

ハルカ 「はぁ…何でこんなことになっちゃったんだろ?」

私は頭を抱える。
誰だってそう思うはずだ。
何で一介のポケモントレーナーが、こんな事に巻き込まれなくちゃならないのか?
どうかんがえても、こんなのはお偉いさんがやる仕事のはずだ。

キヨハ 「諦めなさい。あなたは運が悪かったのよ…ある意味ね」

何か含みを込めてキヨハさんはそう言う。
運って、それだけ?
しかもある意味って?
何だか、気になる。
でも、追求しようとは思わなかった。

フィーナ 「…すみません。私、メフィーの所に行ってきます」

ハルカ 「…そうね、わかったわ。こっちは…私が何とかする」

私がそう言うと、フィーナちゃんは申し訳なさそうに医務室へと向かった。
何とかする…か。
そうは言ったものの、頭が重い。
どう考えても、荷が重い。
いきなり人類存亡の危機を背負わされるようだ。
アオギリさんとマツブサさんはどうしたのだろうか?
何ともならなかったのだろうか?
不安が過ぎるばかり…確実に危険だ。
いくら私でも、あんなバケモノとやりあって勝てる自信は無い。
でも、やらなければならない…もう、退けないところまで来てる。
そして、私がいつまでも悩んでいると…店員さんが近づいてくる。

店員 「あの、皆さん…ポケモンの回復が、終わりましたけど」

ハルカ 「あ、はい…受け取ります」

ヒビキ 「む…」

キヨハ 「フィーナちゃんはメフィーちゃんの病室にいるから、一緒に持っていってあげてくれない?」

店員 「はい、わかりました」

私たちは、店員さんがわざわざ持って来てくれたモンスターボールを、それぞれ受け取った。
そして、店員さんはキヨハさんに言われて、病室に向かう。
これで、全ての準備が揃った…後は、やるしかない、か。

ハルカ 「………」

ヒビキ 「………」

キヨハ 「……覚悟は、決まった?」

ハルカ 「…はい」

私は数秒の間で心を落ち着けた。
もう、後には退けない。
だったら、前進するのみ!
私は、チャレンジャーなんだから…キヨミさんが待ってるんだから、こんなところで立ち止まれない!

ハルカ 「行きます! 私が…やります!!」

キヨハ 「…頑張るのよ? 絶対に死んじゃ駄目」

そう言って、キヨハさんは優しく私の体を抱き寄せる。
昔、キヨミさんにも同じことをされた事がある…やっぱり、姉妹なんだなと実感する。
数秒の抱擁の後、キヨハさんはゆっくり離れる。
そして、それとほぼ同時に、ここへ来た人物がいた。

ダイゴ 「ハルカちゃん…やっぱり来たんだね」

ハルカ 「ダイゴさん…」

それは先にルネへと向かったダイゴさんだった。
ダイゴさんは珍しく苦い顔をしながら、私を見ていた。

ダイゴ 「…君がここへ来たということは、グラードンを止めに来た。そういう事なんだろうね」

ハルカ 「…はい、『べにいろのたま』が、私を選んでしまったから」

私がそう言うと、ダイゴさんは驚く。
余程、意外だったのか…初めて見る顔だった。

ダイゴ 「…!! そうだったのか…『べにいろのたま』が君を」
ダイゴ 「だったら、グラードンを止めるのは君の役目だ」
ダイゴ 「さぁ、行こう…『めざめのほこら』へ」

そう言って、ダイゴさんはポケモンセンターを出て行く。
私はそれに黙って着いていった。





………………………。





『同日 9:55 めざめのほこら・入り口』


ダイゴ 「…ここが、『めざめのほこら』だよ」

ハルカ 「…ここが」

そこは、祠と言うよりも、洞窟みたいだった。
ルネの町に、こんな所があるなんて。
元々、山のような地形にある町なのだから、それもおかしくはないかと思う。
そして、入り口の前にはひとりの男性が立っていた。
全身を白いコートで包み、白いキャップを被っている男性。
年齢はダイゴさんと同じ位だろうか? 見た目的には十分若い。
髪型は前髪が左側に半分だけ出ており、右側は帽子の中に隠れている。
そして、最も特徴的と思われるもみ上げは、何かギザギザ風に伸びていた。
ズボンは紫で、コートの足元に少しだけ出ているのが見えた。
靴も白い革靴で、いい物のようだ。
その人は、私を見ると、真剣な表情で語りかける。

男性 「成る程…あなたが『べにいろのたま』の選んだ人物ですか」

ハルカ 「!?」

その人は、すぐに当ててみせる。
まるで初めからわかっていたかのように。
すると、ダイゴさんは特に気にした風もなく。

ダイゴ 「その通りだよミクリ…この娘が、グラードンを」

ダイゴさんは私の右肩にポンと手を置きそう言う。
ミクリ…と呼ばれた男性は、少し悲しげな表情をした。

ミクリ 「そうか…ならば、君はこの先に行かなければならない」
ミクリ 「この先は『めざめのほこら』…グラードンが眠る場所」
ミクリ 「中に入れるのは、『べにいろのたま』に選ばれた者だけ」

ハルカ 「……」

そう言って、ミクリさんはそっと横にずれ、入り口を開放する。
行け…という事だろう。
私は無言で、歩き始めた。

ダイゴ 「ハルカちゃん、気をつけて…」

ミクリ 「『べにいろのたま』を、そして、グラードンを信じなさい」
ミクリ 「君なら、必ず何とかできる」

どんな裏づけがあるのかわからないけど、私はそう言われて悪い気はしなかった。
そして、何故か安心感が得られた。
この先にグラードンが眠っている。
私はそのことに、何故か恐怖を感じなかった。

ハルカ (…グラードン、か)



…To be continued




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