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POCKET MONSTER RUBY



第65話 『予選トーナメント決勝! 生き残る猛者たち!!』




『4月2日 時刻12:00 ポケモンリーグ・食堂』


ハルカ 「はぁ…疲れた」

私は、食堂に入ってすぐのテーブルに座り、机に突っ伏して休んでいた。
そんな私を見つけたのか、3人の少女が私に向かって来る。

ノリカ 「ハルカさん、見事でした! このノリカ、感無量でございます!!」

サヤ 「とりあえず、決勝進出…おめでとうございます」
アムカ 「おめでとっ」

そう言って、私を称えてくれる3人。
3人は一緒に応援してくれていたようだ。
私は、あれから2回戦も無事に突破し、何とか決勝の切符を手に入れた。
予選トーナメントの決勝は、本戦で使われる第0スタジアムで行われるらしい。
ここで、それぞれのスタジアムで決勝進出を決めたトレーナーたちのバトルが、順番に展開されるそうだ。
つまり、決勝に限っては観戦が可能…というわけね。
その辺の準備なども含め、私は13:00の決勝開始まで、しばしの休息に浸っていた。



………。



キヨミ 「ハルカちゃん、何とか決勝進出のようね」

しばらくノリカたちと話していると、キヨミさんがやって来る。
私は少しダレた声で答える。

ハルカ 「あ、キヨミさん…そっちは余裕みたいで」

キヨミ 「まぁ、予選位はね…」

キヨミさんは軽くそう言う…が、それほど満足はしていないようだった。
表情が笑っていない、まるで苦戦したかった…と言わんばかりだ。

キヨハ 「調子は良さそうだけど、足元をすくわれないようにね?」

キヨミ 「…姉さん、言われるまでもないわ」

少し遅れて、今度はキヨハさんがやって来た。
こちらは微笑んでいる、まぁまぁ…と言った所かしら?
ちなみに、この調子だと他の皆も来るかもしれないわね…。

ヒビキ 「ん…? お前たちも食堂か」

フィーナ 「あ〜やっぱりいた!」

メフィー 「どうもです〜♪」

やはり…続々と知り合いが集まってくる。
まぁ、別にいいのだけれど…ね。
私は割り切って机に突っ伏す。
正直、これから決勝と言うのが辛い。
予選程度でこんなに疲れている私は、正直ダメダメでしょうね。
とはいえ、私にとっては初めてのポケモンリーグ。
疲労はいつもの数倍にも膨れ上がる、ポケモンも同じかもしれないわね。

キヨミ 「どうやら、この面子は全員決勝まで来たようね」

ヒビキ 「…の、ようだ」

フィーナ 「とりあえず…決勝には、ですね」

メフィー 「はい…」

ハルカ 「うわ…明らかに暗いのがふたり」

フィーナちゃんとメフィーちゃんは、思いつめているようだった。
張り詰めているのが如実に伝わってくる。
強敵が相手だけに、さすがのメフィーちゃんも笑みが消えていた。

キヨハ 「まぁ、相手が相手だものね…気持ちはわからなくもないわ」
キヨハ 「フィーナちゃんと戦う予定のミカゲは、一回戦からとんでもないバトルを展開したようだし」
キヨハ 「メフィーちゃんと戦う予定のマリア選手は、一、二回戦合わせて30秒の最短記録保持者」
キヨハ 「まず、普通の戦い方じゃ勝てないでしょうね」

聞いているだけで、げんなりする。
本当に私がその立場じゃなくて良かったと、今は切に思う。

ハルカ (でも…後一回勝てば、強制的に戦うことになる)

ルールによれば、決勝はリーグ戦。
つまりは総当たり戦。
残った8人全員が全てのトレーナーと戦うことになる。
正直、とんでもないことになるであろう、と言うのはわかっている。

フィーナ 「まぁ、結局はやるしかないんで…後は、全力を出すだけです」

メフィー 「はい…とりあえず、勝たないと先へは進めませんし」
メフィー 「それに…勝てなくもない、かなぁ…と」

ハルカ 「おっ、メフィーちゃんは自信あり?」

フィーナちゃんに比べると、メフィーちゃんの方が、やや余裕のある表情をしていた。
どうやら、弱点のひとつでも見つけたって顔ね。
とはいえ、通じるとは限らないけど。

メフィー 「ええと…まぁ、その…あんまり当てにはならないと思いますけど」
メフィー 「まぁ、どうなるかは…その時次第で」

フィーナ 「その時…ね、私にはどんな相手かよくわからないけど…マリアって選手、そんなに凄いの?」

メフィー 「強いですよ…ミカゲさんと同じ位かもしれません」

キヨミ 「それは…厄介極まりないわね」

キヨハ 「………」

マリアちゃんは、確か第3位…ミカゲとは僅差と言ってもいいのでしょうね。
とはいえ、実際にバトルを見てないだけにどうとも言えない。
ミカゲのバトルは何度か見たけど…あれはバトルとかそう言うレベルじゃない。
ほとんど、野生のポケモンを薙ぎ払っているようなものだ。
トレーナー相手でも、一手二手でほとんど倒してしまっているため、格の違いがよくわかった。
チャンピオンロードで、ネロ選手とやった時はさすがに危ないバトルだったけど…でも、ネロ選手は8位なのよね。
しかも、ミカゲと一回戦で当たって、見事に敗退してるし。
どんなバトルだったんだろう? 気になるなぁ…。

キヨハ 「ちなみに、そろそろ予選のハイライトが流れるそうよ」
キヨハ 「ここのテレビでも映るから、今の内に見ておいた方がいいわね」
キヨハ 「百聞は一見にしかず…とも言うし」

キヨミ 「あれね…あ、始まるみたい」

そう言って、キヨミさんは食堂の右奥に設置されている、19インチの液晶テレビを見た。
丁度、今から始まりそうな感じだ。
食堂にいるほぼ全員が、静かに注目し始めた。

ハルカ 「……」

サヤ 「…まずはキヨミさんですね」



………。



ノリカ 「すご〜い…強〜い」

キヨハ 「格下の相手と考えれば、当然とも言えるわね」

ヒビキ 「だが、さすがだな…隙はほとんどない」

ハルカ (…これが、キヨミさんのバトルか)

キヨミさんの一、二回戦のバトルが流れるが、まさに圧倒的。
ほとんど相手に攻撃を許さないまま、倒してしまっていた。
この調子なら、決勝も安泰なんだろうなぁ。

キヨミ 「次はラファか…」

フィーナ 「あれ? キヨミさん知り合いなんですか?」

キヨミ 「ええ…一度やったことがあるわ」

メフィー 「ふえっ!? どっちが勝ったんですか?」

キヨハ 「勝ってるわよ…一応、キヨミは記録上無敗なのよ?」

ハルカ 「記録上…ね」

実際にはガキンチョのミカゲにボコられたと言っているのだから、洒落にならない。



………。



キヨミ (強くなったわね、ラファ…以前とは比べ物にならないわ)

キヨハ (やるわね、この娘…想像以上だわ)

ラファ選手のバトルはキヨミさん同様、危なげなくほとんど余裕で相手を撃破していた。
内容的には、キヨミさんと酷似している…ほとんど差はないかもしれない。

ヒビキ 「む」

キヨミ 「次はヒビキね」



………。



ハルカ 「……」

相変わらず、攻撃的な戦い方のヒビキさん。
しかしながら、さすがに強い。
多少の苦戦はあったようだけど、問題なくバトルをこなしているようだ。

キヨミ 「…あまり誇れる結果じゃないわね」

ヒビキ 「ああ、相性の差で勝ったような結果だ」
ヒビキ 「これが、お前たちであれば、全く違う結果だったろうな」

ヒビキさんはまるで満足していない表情だった。
それ所か、あの結果でさえ不満だと言うのだ。
やっぱり上に住んでいる人たちは、見方が違う。
先のことを考えると、か。

キヨハ 「あら…私なのね」

続いてキヨハさんのバトル。
キヨミさんと同じ位の強さなんだから、想像はできるけど…。



………。



キヨミ 「うわ…相変わらず、ね」

フィーナ 「ひえっ! 直撃でしょ今の!?」

メフィー 「はわ〜…全然怯みませんね〜」

ヒビキ 「回避位したらどうなんだ?」

キヨハ 「あら、もしかしたら外してくれるかもしれないでしょ?」

ハルカ 「もしかしたらって…でも、これで勝ってるんだから…」

キヨハさんのバトルは、まさに圧巻。
相手の攻撃を全て受けきった上での反撃で勝利する。
実力の違いを簡単に見せ付けているだけに、見るものにインパクトを与える勝ち方だ。
多分キヨハさんのことだから、わざと受けて見せたんだろうなぁ…。

TV 「さぁ、続いては今回の目玉とも言える接戦をお送りします!」

キヨミ 「!!」

キヨハ 「………」

フィーナ 「…ミカゲ」

メフィー 「ひえ〜…相手、何だか凄いですよ〜?」

ヒビキ 「見たことのないポケモンだな…見たところ炎タイプのようだが」

キヨハ 「ヒードランよ…シンオウに伝わる伝説のポケモンよ」

ハルカ 「で、伝説って…グラードンみたいな?」

キヨハ 「さすがにそこまで大物ではないけれど、強さは申し分ないわね」
キヨハ 「並の相手なら、間違いなくあっさり終わっているわ」

確かに、見ている限り、ネロ選手のポケモンはかなりの実力だった。
ミカゲだからこそ、勝てた…と思える。

ハルカ 「ちなみに…キヨミさんなら、アレに勝てます?」

私は画面を見ながら、ヒードランと言うポケモンを指差す。
ミカゲはミカルゲで無理やり倒した、と言う感じだけど…。

キヨミ 「難しい質問ね…正直に言おうか? 多分、負けるわ」

ヒビキ 「!!」

フィーナ 「キヨミさんでも…勝てない?」

キヨハ 「…もちろん、100%と言うわけじゃないでしょうけど、ね」

キヨミさんは顔をしかめて、言った。
勝てなくはない…けど、勝ち目が薄い。
そんな感じのようだった。

キヨミ 「確率になんかしたくもないわね…悪いけれど、私には荷が重いわ」
キヨミ 「ポケモンの相性で言ったら、姉さんの方がまだ勝てる可能性があるわね」

キヨハ 「そう…ね、自信はないけれど」

ハルカ 「…それを倒したミカゲ、か」

皆の反応を見ても、やはりミカゲの強さは次元を超えている。
こんな相手と、フィーナちゃんは戦わなければならない。
そして、本戦へ出れたら、私も戦うことになる。

メフィー 「あ、次はマリアさんですね〜」

フィーナ 「この人が、マリアさんか…」

ハルカ 「な、何か強そうなのが出たわね…」

私はそう言って、何だか濃い青色のやたら牙が鋭いポケモンを見る。
タイプは何だろ? 見た感じでは判別し難い。
すると、キヨハさんが説明を入れてくれる。

キヨハ 「あれは、ガブリアスね…シンオウ地方に生息しているドラゴンタイプのポケモンよ」

ハルカ 「ドラゴン…ああ」

言われれば、そんな気がしなくも無い。
ドラゴンか…さぞかし強いんだろうな。

キヨハ 「ガブリアスは、歴史上のポケモンにおいて、現在最も人気があり、そして強いと言われているポケモンよ」

フィーナ 「そ、そうなんですか?」

メフィー 「……」

ヒビキ 「確かに、噂では相当強いらしいな」

キヨミ 「……」

私たちはバトルに注目する…が、一瞬で終わった。
次に二回戦のバトルが流れるがこれも即終了…どちらもガブリアスの一撃で終わっていた。
強いって言うか…無茶苦茶。
相性もクソも無く、ただ攻撃して終わり…それだけだった。

ハルカ 「何よあれ…あんなのあり?」

フィーナ 「レベル差があるって言っても…あんなに簡単に」

メフィー 「だから、対策も立てようが無いんですよね…参考にならなさ過ぎて」

キヨハ 「ガブリアスの特徴は、力、体力、素早さね」
キヨハ 「特に攻撃力は凄まじいわ、あのスピードから繰り出される技は例え相性が悪くても簡単に耐えられるものじゃないわ」
キヨハ 「特に注意する技は、『じしん』と『げきりん』ね…」

メフィー 「…『げきりん』はまだ見せてませんね」

少なくともさっきのVTRだと、使ったのは『じしん』と『ドラゴンダイブ』のみ。
『げきりん』と言う技がどんな技なのかは知らないけど、キヨハさんが言うなら相当な技なんだろう。

キヨハ 「まぁ、覚えているとは限らないわ…タマゴから産まれるフカマルにしか今の所覚えることは出来ないそうだから」

キヨミ 「タマゴ技なのね…でも、姉さんが言う位だから」

キヨハ 「ええ、覚えている確率の方が高いでしょうね」

ハルカ 「そんなに強い技なんですか?」

私はあまりにも気になったので、聞いてみることに。
すると、意外にもヒビキさんから答えは返ってきた。

ヒビキ 「『げきりん』は物理タイプのドラゴン技の中で、現状最も攻撃力の高い技だ」
ヒビキ 「一度指示すると、2〜3分程は指示を受けられず、交換も出来なくなるがガブリアス程の攻撃力があれば、そこまでのデメリットはない」
ヒビキ 「ただ、ダブルバトルでは相手を指定できないため、使用を控えていると言う見方が妥当だろう」

ハルカ 「…なるほど、穴はありそうね」

キヨミ 「何だかんだで一長一短な技よ…使い所を間違えれば、すぐに反撃されるわ」
キヨミ 「逆も然りだけど、ね…使うべき所を理解した上で使われれば、対処法は無いかもしれないわ」

ハルカ 「……」

私には想像もできなかった。
果たして、どんな技なのか…話の中だけでは相当な威力のようだけど。

アムカ 「あっ、次はあのムキムキマッチョのおじさんだよ!」

サヤ 「…ザラキさん、よ」

続いて出てきたのは、実力1位のザラキさん。
ドン、とした姿勢で相手を見据える姿がとにかく男らしい。



………。



ノリカ 「ひえ〜…やっぱこの人凄いー!」

ハルカ 「…キヨハさん以上に回避が見られないんですけど?」

キヨミ 「それが、あの人の戦い方なのよ」
キヨミ 「姉さんは、わざと相手の攻撃を受けるけど、ザラキさんには回避の文字はほぼない」
キヨミ 「基本的に、やられる前にやる…が心情の人だからね」

聞いているだけで身震いする。
ようするに、一撃必殺の理念。
怖いわね…やっぱこの人。

ヒビキ 「…だが、戦いを見る限りではミカゲより上とは思えん」

フィーナ 「確かに、何だか…原始的って言うのかな? ミカゲの戦い方は、何か全てに置いて強いって言うのが伝わるけど」

メフィー 「ザラキさんの戦い方って、攻撃の一本槍ですもんね…」

キヨミ 「…だからこそ怖いのよ、あんな戦い方をされたら、ミカゲのポケモンだって回避は難しいわ」

キヨハ 「つまり、どちらの攻撃力、防御力が高いか…と言う、本当に原始的な結論で試合が決まってしまう」

ヒビキ 「………」

確かに、そんな気がする。
ザラキさんは、あくまで相手の攻撃を見てから行動に移る。
明らかにわざと遅れて指示を出している。
当然ながら相手の攻撃をモロに受ける。
でも、それをものともせず、ザラキさんのポケモンは反撃を行う。
フェイントやサポートの類は一切無い。
倒すには、真っ向勝負しかない…か。

サヤ 「…次は」

ハルカ 「げっ! 私じゃん!! 何でハイライトに出てるの!?」

バンッ!と私は机を両手で叩き、立ち上がってそう叫ぶ。
少なくとも、ハイライトに映されるようないいバトルをした覚えはない。
かなりお粗末なバトルを展開したと言うのに、きっちり一、二回戦とも映されているようだった。
フィーナちゃんやメフィーちゃんを差し置いて、私が映るなんて…。

ハルカ (って、ミカゲやマリアちゃんに比べれば…か)

あのふたりと同じブロックにいたら、影になってしまう…ということね。
現実って、怖い。

キヨハ 「でも…ハルカちゃんは最下位で20位の相手を倒したって、かなり噂になってるわね」

ハルカ 「で…」

そう言えば、ヤエコはそんな格上のトレーナーだったわね…我ながら恐るべし。
今更ながら、よく勝てたものよね〜。

キヨミ 「確かに、話題性はあるわね…二回戦も苦戦しながらとはいえ、ちゃんと勝ってるし」

フィーナ 「に、しても…ホント危なっかしいなぁ」

メフィー 「よく勝てたものですよね…」

ハルカ 「ひえ〜穴があったら入りたい!」

私たちは本当にお粗末な二回戦を見ながらそうコメントする。
正直、これほど恥ずかしいことは無い。
父さんや母さんもこれ見てると思うと…。

ノリカ 「何を言われます! ハルカ様は立派に戦われた! ここは誇るべきです!!」
ノリカ 「不肖、このノリカがハルカ様を称えて差し上げます!!」

ハルカ 「お願いだから止めて…」

とりあえず、私は諦めながらもノリカの暴走を止める。
ノリカは残念そうに思い止まった。

ノリカ 「むぅ…致し方ありませぬ〜」

サヤ (…やりたかったのね)

ハルカ 「はぁ…」

…何だか最悪の気分。
頭を抱えて再び座ると、最後のトレーナーがハイライトに出ていた。

ハルカ (って…ミツル君も映ってる)

見ると、ミツル君も私と同様に、格上の相手を倒しているようだった。
ただ、私とは違って、ミツル君は堂々の勝利。
何だか、貫禄さえ感じるほどのバトルだった。

キヨハ 「…いいバトルをするわね、彼」

キヨミ 「ええ…何だかハルカちゃんに似ている気がするわね」

フィーナ 「そうですか? 何だか、ハルカさんとは正反対な気も」

メフィー 「う〜ん」

そんな意見が飛び交う中、ヒビキさんが冷静に分析してくれる。

ヒビキ 「バトルの展開はそっくりだな」
ヒビキ 「攻め方、守りかた、微妙な違いはあるが、ほとんど同じだ」
ヒビキ 「特に、指示のタイミングがかなり近い…経験が近いのかもしれないな」

ハルカ (…なるほど)

人に言われると、何となくわかる。
多分、私がミツル君の立場なら、同じことをしたかもしれない。
使うポケモンと、相手が違うだけで、全く同じ立場だったなら、本当に同じ展開なのかも…。



………。



キヨミ 「さて…食事も終わったし、そろそろ調整に行こうかしら」

キヨハ 「そうね、まだ決勝が残っているものね」

ヒビキ 「うむ…」

フィーナ 「じゃあ、ハルカさん!」

メフィー 「今度は本戦出場を決めてから、ですね♪」

ハルカ 「ああ…うん、そうね」

皆、それぞれのバトルを見据えてどこかへ行ってしまった。
もうすぐ決勝が始まる。
今度は、勝てる自信ははっきり言ってない。
でも、負けるつもりはない、全力で勝ちに行く!

ノリカ (おお…さすがはハルカ様! 顔がマジです)

サヤ (迷いはないようですね…さすがはハルカさん)

アムカ 「ふあ〜…」← あくび





………………………。





『同時刻 サイユウシティ・海の家』


ミカゲ 「…はぁ」

カミヤ 「おや、溜息なんてついてどうかしたのかな?」

ミカゲ 「……最低ね」

私はゴーヤチャンプルを食べながら呟く。
どうして、ここにこいつがいるのかわからない。
本人は、楽しそうにやたら臭いのきつい豆腐を食べているし…。

カミヤ 「う〜ん、この臭い、確かに臭い!」
カミヤ 「でも、これがまた食べると美味い!」
カミヤ 「人間の舌って不思議だよねぇ…」

ミカゲ 「御託はいいわ…何の用なの?」

私が少し強めの口調で言うと、カミヤは食べながら渋々答える。
表情は、これまでに無いほど真剣なものだったので、私自身も少し驚く。

カミヤ 「…50%を超えたぞ」

ミカゲ 「!?」

呟くようにそう言う。
幸い、周りは賑やかで他の誰かに聞こえるような音量ではなかった。
だけど、私はそれを聞いて、寒気がした。

バキッ!

ミカゲ 「…あ」

思わず、右手に持つ箸を折ってしまった。
割り箸なので、私は備え付けの箸をもう一膳取った。

カミヤ 「…力を、使ったね?」

ミカゲ 「…だったら?」

私は睨みつけるようにカミヤを見て答える。
すると、カミヤは呆れた顔をして。

カミヤ 「……はぁ」
カミヤ 「君の無鉄砲さは、知ってるけど…それ以上やったら、命の保障はないよ?」

ミカゲ 「…コントロールして見せるわよ」

私は、自信ありげにそう言う。
ただ、口ではそう言っても、実際そうとは言えない。
それ位、私の力はコントロールなんてできる物じゃない。
『生みの親』である、カミヤが言うのだから、実際そうなのだろう。
私は無視して、麺を啜った。

カミヤ 「…とにかく、決勝が終わったら君の部屋に行くよ」
カミヤ 「鍵は開けておいてくれ…じゃないと、無理やりこじ開けることになる」

そう言って、カミヤは食事を済ませて立ち上がり、その場を去っていく。
どうやら、思っているほど軽い症状じゃないようね。
そりゃそうよね…自分の体だもの、いつ壊れるかなんて…大体わかってるわ。

ミカゲ (だけど…私は誰にも負けない。負ける位なら、死ぬわ)
ミカゲ (私が死んだところで、誰が悲しむわけでもなし…それなら、いっそやりたいことをやって死ぬわ)

私が求めるのは『勝利』だけ…誰にも負けない。
私は、死ぬのがわかってる…だから、それまで誰にも負けない。
私は戦って、勝って、生きた証を立てる。
だから…絶対に勝つのよ。
そのためには、周りからどう思われようが、どれだけ蔑まれ様が構いはしないわ。

マリア 「…あら、怖い顔をしてるわね?」

ミカゲ 「…失せなさぁい、死にたくないならね」

私は振り向かずに言う。
すると、マリアはこりずにゴーヤチャンプルを持って私の正面の席に堂々と座った。
こいつも、何を考えているのかがイマイチわからないわ。

マリア 「あら、不思議そうね? 何で私がここにいるのかって…」

ミカゲ 「私はそれよりも、何であなた『それ』を食べているか、ということの方が疑問よ」

少なくとも前の反応を見る限り、二度と食べないと思っていた。
にもかかわらず、マリアは堂々と下手くそな箸使いで食べようとしているのだ。
これを疑問と言わずにどう言えばいいのよ…。

マリア 「う、うるさいわね! あなたが平気そうに食べているからでしょ!?」
マリア 「あなたに出来て私に出来ないのは、屈辱なのよ!!」
マリア 「全てに置いてあなたを上回らないと私は許せないの!」

ミカゲ 「だったら、まずは牛乳飲んで出直しなさぁい…身長も胸も私の方が上よぉ?」

私は、笑ってそう言う。
すると、予想通りマリアは顔を真っ赤にしてうろたえる。

マリア 「そ、そんな所は、別に勝ち負けじゃないでしょ!!」

ミカゲ 「あらぁ? 顔を真っ赤にして…本当は、気にしてるんでしょ?」

私はとにかくおちょくる。
この際、ストレス解消に使わせてもらおう。
マリアはとにかく、この手の話題に弱い。
マリアはこれでもかと言うほどの怒った表情で反論してきた。

マリア 「ふ、ふんっ! 今の時代はね、私のようなささやかな胸の方が好まれるのよ!」
マリア 「あなたの様に、無駄に発達した胸は返って邪魔になる物よ!」

ミカゲ 「貧乳がステータスなのは、別に否定もしないけれど…そんな一部のマニアにだけ受けるような考えじゃ、話にならないわねぇ」
ミカゲ 「どう考えたって、人気なら私の方があるわよ、きっと」

とはいえ、実際に集計したらどうなるかわからない。
世の中のマニア人気は侮れないものねぇ。

マリア 「う…だからどうしたのよ! 世の中人気よりも実力よ!!」

段々適当になってきたわね…そろそろ泣きかねないからこの辺にしときましょうか。
って言うか、すでに泣いてるわね…ゴーヤの苦さに。

マリア 「うう…苦い」

ミカゲ 「そうまでして食べたいの?」

マリア 「うるさいわね…女のプライドよ!」

女の…じゃなくて、あなたの、でしょうが…。
私はいい加減、冷め始めてきたゴーヤを素早く食べ始めた。

マリア 「うう…何で平気なのよ?」

ミカゲ 「あなたとは、出来が違うのよ…」

私はそう言ってメインの麺をつるつると啜る。
さすがサイユウシティね…こんな麺は他では味わえないわぁ。
これだけでも、ここに来た甲斐はあったわね。

ミカゲ 「さて、次のメニューも頼もうかしら…店長! 黒酢スーラータンメンを頼むわぁ!!」

マリア 「ま、まだ食べる気!? しかも、何かカロリーの高そうなのを…」

ミカゲ 「あら、もうすぐ決勝だもの…食べなきゃ持たないわぁ」

そう言って、私は残りのゴーヤチャンプルを汁さえ残さず平らげる。
何故か、この海の家は麺類をたくさん扱っている。
しかも、変なメニューも多数あるため、麺マニアの私にはたまらないわね。

店長 「へい、お譲ちゃんスーラータンメンお待ち! これでコンプリートだな!!」

ミカゲ 「ええ、おかげでホウエン地方の麺類は完全制覇よぉ…協力に感謝するわぁ♪」

私は笑顔でそう言って、最後の麺を食べ始める。
それを見るマリアは気持ち悪そうに口を抑えていた。
対照的に店長は笑っていた。

店長 「はっはっは! お譲ちゃん、よっぽど麺類が好きなんだな!」
店長 「お譲ちゃん、決勝出るんだろ? 応援するから頑張ってくれよ!!」

ミカゲ 「ええ、優勝はまず間違いないわぁ」

店長 「おお、強気だねぇ! 今日の分もまけとくよ! しっかり食って蓄えてくんな!!」

そう言って、店長は笑って仕事場に戻る。
ちなみに、通常は820円のこれも、700円まで下げてもらっている。
安く美味い物を食べられるのは、いいことねぇ。

マリア 「うぷ…見てるだけで、満腹になるわ」

ミカゲ 「だったら、見なければいいでしょ…」

結局、マリアは泣きながらゴーヤを食べ切り、私は軽く最後の麺を食べつくした。





………………………。





『時刻12:59 ポケモンリーグ・第0スタジアム』


コトウ 「さぁ、ついに本日の予選の決勝が始まろうとしています!」
コトウ 「各スタジアムで戦い抜いた精鋭16名が、次々とスタジアムに入場してきます!!」


ワアアアアアアアアァァァァァッ!!

キヨミ 「……」

コトウ 「さぁ、まず入って来たのは、第1スタジアムで見事決勝へ駒を進めた、ランク4位のキヨミ選手!!」
コトウ 「予想通りの展開で、危なげないバトルでここまで来ました!!」
コトウ 「対する相手は、同じく圧倒的なバトルで決勝まで駒を進めた、ランク9位のジェット選手!!」
コトウ 「何と、使用ポケモンは『ピジョット』だけと言う、こだわりを持ったトレーナーだ!!」
コトウ 「同じポケモンしか使わないと言うポリシーは、かなりの強敵を予想させるが、果たしてキヨミ選手はどう戦うのか!?」

キヨミ (さぁて、どうなるかしら、ね)

相手のジェットという選手は、赤髪でかなり短い毛。
ほとんど丸坊主で、要するに赤坊主。
服装は赤いジャージでとにかく赤尽くし。
とはいえ、トレーナーの格好とポケモンは関係ない。
はっきり言って、簡単に勝てるほど甘い相手じゃないでしょうね…。

ジェット (まさか、伝説のトレーナーと戦えるとはな…トレーナーとして、こんなに嬉しいことは無い!)
ジェット (俺の手持ちはピジョットのみ、やることはいつも通りだ!)
ジェット (俺のバトルが、どう通用するのか、楽しみだぜ!!)


コトウ 「次の選手が入場します! 先に出てきたのは、ランク7位のヒビキ選手!」
コトウ 「多少の苦戦をしながらも、貫禄のバトルでここまで来ました!」
コトウ 「対する相手は、ランク29位のキッヴァ選手!」
コトウ 「安定したバトルで決勝も勝利できるのか!? 互いにやたら黒ずくめの対決!! 無駄に暑苦しい!!」

ヒビキ (29位か…フィーナやメフィーより上の成績となれば、油断はできん)
ヒビキ (こんな所でコケるつもりはないからな)
ヒビキ (しかし…俺と似たような服装の女がいるとはな…シンオウ出身のトレーナーらしいが)
ヒビキ (確か、シンオウチャンピオンのシロナさんも、同じ様に黒ずくめと聞いた事があるが…あの人は金髪で、歳も大分上のようだからな)
ヒビキ (まさか…な)

キッヴァ (さて…何だかんだでここまで来てしまったけど、勝てるかな?)
キッヴァ (相手は格上のトレーナー…胸を借りるつもりでやろう)


コトウ 「さぁ、続いて第3スタジアムのふたりが入場!!」
コトウ 「まずはランク5位のラファ選手、ゆっくりとした足取りで入場してきました!」
コトウ 「その表情には余裕が見られます! ここまでのバトルで苦戦は無し!」
コトウ 「果たして決勝で苦戦はあるのか!? 対するトレーナーはランク15位のコゴロウ選手!」
コトウ 「10位分の差を埋めることは出来るのか!? 期待が高まる一戦になりそうです!!」

ラファ (トーナメントは負けたら終わり、キヨミと戦うためにも、ここは負けられないわ!)

コゴロウ (やっぱり、そう上手くはいかないよなぁ…今年は、強豪がばらけ過ぎだぜ)


コトウ 「次は第4スタジアムから、ランク6位のキヨハ選手!!」
コトウ 「何と、1、2回戦共に、相手の攻撃を全て受けきった上での勝利という、貫禄のバトル!!」
コトウ 「果たして、決勝でも同じ様な展開になるのか!?」
コトウ 「対するのは、ランク50位のリベル選手!!」
コトウ 「使用ポケモンは何とキノガッサのみと言う、拘り派!!」
コトウ 「しかしながら、格上の相手を次々と撃破しここまで来ているため、実力は伺えます!!」
コトウ 「果たして、伝説と言われたトレーナーをも食ってしまうのかぁ!?」

キヨハ (キノガッサのみ…それだけに、対策は取りやすい)」
キヨハ (ただ、それは相手も承知の上。問題は…)
キヨハ (どのキノガッサがどんな戦い方をするのか…と言う点)

リベル (う…何で勝っちゃったんだろう? まさか、こんな人と戦うなんて)
リベル (こうなったら、もうやるしかないよ! どうせ私は下位ランクなんだし!!)


コトウ 「さぁ、次は第5スタジアムと言う鬼門を潜り抜けようとするふたりの入場!!」
コトウ 「強敵、8位のネロ選手を撃破して決勝に挑むのは、2位のミカゲ選手!!」
コトウ 「まるでレベルの違うバトルに、会場でもすでにファンが増え始めています!!」
コトウ 「対するのは、ランク30位のフィーナ選手!」
コトウ 「ここまで、特に苦戦も無く、ランク以上の実力を見せ付ける戦いに期待が高まります!!」
コトウ 「果たして、ミカゲ選手を脅かすことが出来るのか!?」

ミカゲ (ふふ…どこまで持つかしらね)

フィーナ (ポケモンはバトルの道具じゃない…それを俺が証明してみせる!!)


コトウ 「続きますのは! 第6スタジアムから31位のメフィー選手!!」
コトウ 「こちらも、オーレ地方ならではのレベルの高いダブルバトルで、明らかにランク以上の実力を叩き出している実力者!!」
コトウ 「対するのは、ランク3位のマリア選手!!」
コトウ 「何と、1、2回戦合わせて30秒以内に勝利と言う、歴史上、最短勝利タイムを叩き出した、驚愕の少女!!」
コトウ 「観客の目は、バトル内容よりも、次は何秒で勝負がつくのか!?と言う方に期待が高まっております!!」

メフィー (結局、2回戦を見ても同じポケモンで、同じ様な結果でした)
メフィー (あれだけだと、結局決め手が浮かばなかった)
メフィー (もう、やるしかないよね…ここまで来たら)

マリア (ふぅ…全く、試合前にとんでもない物を見せられたわ)
マリア (うぷ…まだ胃が持たれるわ…何であんなに入るのよ)


コトウ 「さぁ、次は第7スタジアムから、ランク1位のザラキ選手!!」
コトウ 「まさに一意専心の真っ向バトルで、完全勝利を手にしてここまで来ております!!」
コトウ 「対するトレーナーは…ランク10位のオトメ選手!!」
コトウ 「何故か、トレーナーの詳細はやや不明で、どうにも情報が少ないですね〜」
コトウ 「ランクは10位となっておりますが、何故かテストの時と手持ちがまるで変わっているため、実際の実力は未知数!!」
コトウ 「果たして、ザラキ選手相手に彼女はどう戦うのか!?」

ザラキ (この者…只者ではないのは最初からわかっていた)
ザラキ (だが、解せぬ…何故女装をしているのだ?)

オトメ (さ〜て、遊び半分で出ちまったけど、まさか1位が相手とはなぁ…)
オトメ (ぶっちゃけ、運良くキヨハ辺りにぶつかったら儲け物と思ってたんだが…どうにも今年のリーグはレベルがぶっ壊れてやがる)
オトメ (トレーナーカード偽造してまで出てるってのに、こりゃ意味無かったかもなぁ…)


コトウ 「さぁ、ついに最後のふたりが同時に入場です!!」
コトウ 「現れたふたりのトレーナーは、ランク最下位と55位!!」
コトウ 「下位ランカーだが、共に20位前後の相手をふたり倒しての下克上進出!!」
コトウ 「戦うたびに成長する、その類まれなる才能とセンスは、天井知らず!!」
コトウ 「個人的には、予選の中で最も注目の一戦になると予想しております!!」
コトウ 「ハルカ選手と、ミツル選手の入場です!!」

ワアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァッ!!

ノリカ 「ハルカ様ーーーー!! ファイッ!!」

ハルカファン 「ファイット!! ハルカ!! レッツゴー! ハルカ!! オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

ハルカ 「はぁ…」

ミツル 「あはは…人気ありますよね♪」

痛い人気だけどね。
とりあえず、始まりは最初で、終わりはトリか…私って、何で無駄に目立つ入場させられるのかな?
まぁ、悪い気分じゃないけどね♪
とりあえず、考えられることはない。
相手がミツル君なら、負けても悔いは残らないでしょうし、ね。

ハルカ (負けないわよ…ミツル君!)

ミツル (絶対に勝ちます、ハルカさん!!)

そして、ついに本戦出場を決める8人を選ぶための、決勝バトルが開始された。



………。
……。
…。



ヒュンッ! ガキィッ! ビュオゥッ!!

風を切るような、音と共に、フィールド空中では空中戦が繰り広げられていた。

キヨミ 「くっ…エアームド『エアカッター』!!」

ジェット 「かわせピズ! そしてハピナスに『つばめがえし』!!」

エアームド 「エアッ!」

ピズ 「ピジョッ!」

ヒュヒュンッ!!

エアームドの『エアカッター』は空を切る。
スピードでは相当な差がある、まともな戦い方じゃ当てられないか。
ピズと呼ばれるピジョットが技を回避して、地上のハピナスに向かって一気に突っ込んでくる。

キヨミ「ハピナス! 『カウンター』よ!!」

ハピナス 「ハピッ!」

ジェット 「ジェス! ハピナスに『エアスラッシュ』だ!!」

ジェス 「ピジョ!!」

ピズ 「ピジョーーット!!」

ドガァッ!!

ハピナス 「ハピッ!!」

コトウ 「ピジョットの『つばめがえし』がクリーンヒットォ!! 続いてもう一体が『エアスラッシュ』だーー!!」

ジェス 「ピジョーッ!!」

ザシュウゥッ!!

ハピナス 「ハ、ハピッ!」

キヨミ (く、『カウンター』を封じられた! 思ったよりもダブル慣れしているようね)

とはいえ、私のハピナスはこの程度じゃ倒れない。
私のポケモンの中では特に打たれ強いポケモンだからね。



キヨハ (苦戦しているわね…思っている以上に相手は戦い慣れているわ)

ヒビキ 「………」

ハルカ 「…ああやって『カウンター』を無効化するんだ」

フィーナ 「ダブルならではの対策ですね…『カウンター』は必ず後手になりますから、ダブルではああやって特殊攻撃を混ぜれば」

メフィー 「ふえ〜…凄いです」

ミカゲ (くだらないわね…あの程度の相手に苦戦しているようじゃ、話にならないわ)

マリア 「さっさと終わって欲しいわね…」

ラファ (…ミカゲ選手とマリア選手はほとんど試合を見ていない、相手にもならない…って顔ね)

ザラキ 「………」



キヨミ (予想以上にあのスピードは厄介ね、ここはまず相手の戦力を少しづつ削いで行きましょうか!)
キヨミ 「エアームド! 『こうそくいどう』よ!!」

エアームド 「エアッ!!」

エアームドは空を飛びながら、一気に加速する。
緩やかなスピードから一気に高速旋回を開始したエアームドに相手は少々戸惑う。

コトウ 「エアームドの『こうそくいどう』!! 一気に加速して相手のスピードに追いついたぁ!!」

ジェット 「くっ!? ピズ『フェザーダンス』だ!!」

ピズ 「ピッジョ!」

エアームド 「! エアッ!」

相手のピジョットは空中で羽を器用に動かし、踊るように舞う。
それを見て、エアームドは攻撃の手が緩んだ。
だけど、これは撹乱。
私は本命のハピナスに指示を出す。

キヨミ 「今よハピナス! 『でんじは』!!」

ハピナス 「ハッピ〜♪」

バチバチバチィ!!

ピズ 「ピ、ピジョー!

エアームドに気を取られていたピジョットにハピナスの『でんじは』がヒットする。
これで、相手のスピードは殺した。
『まひ』したピジョットは苦しそうに飛行を続ける。

コトウ 「エアームドを囮にしてハピナスの『でんじは』が炸裂! ジェット選手のピジョットが一体、『まひ』になってしまったーー!!」

ジェット 「しまった! ジェス、ハピナスに…」

キヨミ 「エアームド、『はがねのつばさ』!!」

エアームド 「エアッ!!」

ザシュウッ!!

ジェス 「ピジョーー!!」

私は先手を打つ。
エアームドからハピナスへ意識が向いた隙をすかさず突く。
相手は、このコンビネーションに隙を見せる。
私はそれを見逃さなかった。

コトウ 「続いて『はがねのつばさ』がヒット!! だが、『フェザーダンス』の効果でダメージは薄い!」

キヨミ (いいのよ別に、今回のアタッカーはエアームドじゃないんだから!)
キヨミ 「ハピナス! 『れいとうビーム』よ!!」

ハピナス 「ハッピー!!」

コオオォォキィィンッ!!

ジェス 「ジョットーーー!?」

私はまだ元気な方のピジョットを先に落とす。
これで、残ったのは麻痺したピジョットのみ、相手にとっては絶望的な展開となった。

コトウ 「『れいとうビーム』がクリーンヒットォ!! ピジョット、たまらずダウンです!!」
コトウ 「さすがは、キヨミ選手! 一気に戦況を有利に変えました!!」

ジェット 「く、戻れジェス!」

シュボンッ!

相手は倒れたポケモンをボールに戻す。
辛そうな表情だったが、闘志は消えてなかった。
悪いけれど、容赦はしないわよ。

ジェット 「くそ…まだだ!! ピズ『つばめがえし』!!」

ピズ 「ピジョ〜…!」

コトウ 「あ〜っと! ピジョット痺れて動けない!!」
コトウ 「このピンチの場面にこれは痛い!!」

キヨミ 「ハピナス『れいとうビーム』! エアームド『スピードスター』よ!!」

ハピナス 「ハッピー!」
エアームド 「エアッ!!」

ヒュヒュヒュヒュッ!!
コオオォォォキィィンッ!!

コトウ 「これは美しい! エアームドの『スピードスター』がハピナスの『れいとうビーム』を受け、氷の星屑に早変わりだ!!」
コトウ 「さながら、コンテストバトルのようなこの攻撃! 見る物を魅了させます!!」

ドガガガガガッ!! ガシャシャシャシャァンッ!!

ピズ 「ピジョーーー!!」

氷の星は対象に当たると、弾けて星屑になった。
氷の神秘的な輝きと共に、ピジョットは無力に地上へと落下していく。

ヒュゥゥゥ…

ジェット 「ピズ!? …うおおおおぉっ!!」

ドズゥゥンッ!!

フィールド中央付近に落下するピジョットに向かい、全力で走りこんだジェット選手。
自分の腕が擦り傷だらけになろうと構わないと言ったダッシュで、ピジョットを受け止めた。

コトウ 「これは凄い! ジェット選手、猛ダッシュでピジョットの落下を受け止める!!」
コトウ 「美しきトレーナー愛! ジェット選手は情にも熱かった!!」

審判 「ピジョット戦闘不能! よってAブロック優勝者、キヨミ選手!!」

ワアアアアアアアアァァァァァァッ!!

審判の勝ち名乗りを受け、私は右手を軽く上に上げて勝利をアピールする。
とは言っても、あくまでこれは予選。
本戦はこんな程度のバトルではすまないのは明白…気を引き締めないと。

コトウ 「これで、ついにひとり目の本戦出場者が決定!!」
コトウ 「まずは、伝説と言われたトレーナー、キヨミ選手がいち早く先に本戦出場を決めましたーー!!」

キヨミ 「…ふぅ」

ジェット 「お見事です、さすがは伝説のトレーナー、俺では力及びませんでした」

ジェット選手はピジョットをボールに戻し、私のところに歩み寄る。
軽く私に頭を下げ、ジェット選手は苦笑した。
私は一息呼吸を入れ、こう答える。

キヨミ 「伝説なんて物は、人が作った空想よ…私はあくまでただのトレーナー」
キヨミ 「もし、あなたがそんな空想を抱いていなければ、私は負けていたかもしれないわ」
キヨミ 「勝負に勝ちたいのなら、いつでも全力を出せるように戦いなさい」
キヨミ 「今回のあなたの力は、100%出ていなかったでしょうから…」

そう言って、私は背中を向けて去る。
運が良かったとは言わないけど、私にも隙はあったはず。
それを突けなかったのは、彼の経験不足。
もっとも、例えそうじゃなくても私は負けるつもりは無かった。
今回の戦いは、そういった意地の戦い…勝利への執着が強い方が勝ったと言えるわね。

キヨミ (もっとも、私にはミカゲほどまで執着する気にはなれないわ)
キヨミ (ポケモンの心を無視してまで勝利を求めるあのやり方だけは絶対に認めない)

ジェット (噂通り、凄い人だ…何から何まで俺とは違う)
ジェット (今まで通ってきた道が違いすぎたんだろうな)



………。



コトウ 「さぁ、次はBブロック決勝! ヒビキ選手VSキッヴァ選手です!!」
コトウ 「互いに、苦戦を混じらせながらもここまで上ってきた選手ですが、果たして勝利を手にするのは!?」

ヒビキ 「……」

さて、相手のデータは特に無い、どんなポケモンが出てくるかはわからんが、前のバトルを参考にするのであれば。

ヒビキ 「任せるぞ、お前たち!!」

ボボンッ!!

フライゴン 「フラッ!」
ミロカロス 「ミロ〜!!」

キッヴァ 「頼むぞ!」

ボボンッ!!

メタグロス 「メターーッ!!」
ミロカロス 「ミローーー!!」

相手が出してきたのは、メタグロスとミロカロス。
前回のバトルではジュカインとソルロックを使っていたが、切り替えてきたか。
だが、相性は悪くないな。



ハルカ 「わっ、キッヴァさんの方、何か凄そうなのがいる!!」

キヨハ 「メタグロスね、鋼タイプとエスパータイプの併せ持ちで、弱点は炎と地面のみ」

フィーナ 「フライゴンが相性いいですね、ミロカロスも鋼タイプを半減させますし」

メフィー 「ただ、互いにミロカロスって言うのが…」

キヨミ 「どちらのレベルが高いかで勝負は決まるでしょうね」

私たちは、緊張感を高めてバトル開始を待つ。
ヒビキさんもキッヴァさんも互いに戦闘準備は出来ている様子だ。



審判 「それでは、バトルスタート!!」

ヒビキ 「先手は貰う! フライゴン、メタグロスに『だいちのちから』!!」

キッヴァ 「メタグロス『バレットパンチ』!」

メタグロス 「メターー!!」

ギュオゥッ!!

フライゴン 「フラッ!?」

ドゴォッ!!

フライゴン 「フラーー!!」

俺の出した指示よりも遅く指示したにも関わらず、メタグロスは先制攻撃を仕掛けてきた。
『バレットパンチ』は『でんこうせっか』の様に一瞬で相手に攻撃を加える先制タイプの技。
威力は低いが、出鼻を挫かれたな。

コトウ 「まずはメタグロスの『バレットパンチ』が炸裂! オープニングヒットはキッヴァ選手だぁ!!」

ヒビキ (いかん! このままでは…!)
ヒビキ 「ミロカロス『ゆうわく』だ!!」

キッヴァ 「!?」

ミロカロスH 「ミロロ〜〜」

ミロカロスK 「ミロ〜…」

コトウ 「ヒビキ選手、危険を察知してすかさず『ゆうわく』を発動!」
コトウ 「キッヴァ選手のミロカロスは特殊攻撃力がガクッと下がったぁ!!」

俺は、半ばヤマ勘で『ゆうわく』を使用する。
すると、俺のヤマは見事に当たり、相手のミロカロスに効果があった。
これで、相手のミロカロスが『♀』だと言うことがはっきりした。
とはいえ、それはこちらも同じこと…注意はせねばなるまい。

キッヴァ (素早い反応ね…こちらの手を読まれたか)
キッヴァ 「だが攻撃が出来ないわけではない! ミロカロス、フライゴンに『れいとうビーム』!!」

フライゴン 「フラーーッ!!」

ドッガアアアアアアアアアァァァァァンッ!!

メタグロス 「グローーーッ!!」

相手よりも先に、フライゴンが技を繰り出す。
出鼻を挫かれていたが、最初の指示をそのまま遂行したと言う所か。
悪くは無い、メタグロスには十分なダメージだろう。
だが、逆にこちらも相応のリスクは負うことになった。

ミロカロスK 「ミローーーーー!!」

コオオオオオオオォォキィィンッ!!

フライゴン 「!!」

ヒュゥゥ…ズドォンッ!!

ミロカロスの『れいとうビーム』を受け、空中から地上へと落下するフライゴン。
本来ならば、致命傷だが『ゆうわく』の効果で何とか持ちこたえた。
厳しい一撃だが、倒れなければいい!

コトウ 「互いの攻撃が効果抜群! 強烈なダメージだが、両者何とか持ちこたえたーーー!!」
コトウ 「のっけから、強烈なダメージの応酬に、会場は息を呑みます!」

フライゴン 「フラー!」
メタグロス 「メッタッ!!」

ヒビキ (ちぃ…『ゆうわく』の効果があるとはいえ、フライゴンのダメージはやはり大きいか)

メタグロスも相応のダメージを負っているようだが、こちらの方が防御力の分ダメージは大きく感じる。
打たれ強いメタグロスとは違うからな…。

ヒビキ 「フライゴン『そらをとぶ』!! ミロカロスはメタグロスに『ハイドロポンプ』!!」

キッヴァ 「! ミロカロス『ハイドロポンプ』! メタグロスは『しねんのずつき』よ」!」

フライゴン 「フラッ!」

ギュウンッ!

まずはフライゴンが空中へ逃げる。
これで、フライゴンへの攻撃はしばらくあるまい。

ミロカロスH 「ミローー!!」

ドギュババババァッ!!

ミロカロスK 「ミロローー!!」

ギュバアアアァァァァ!! バッシャアアアアアアアァァァンッ!!

今度は俺のミロカロスから『ハイドロポンプ』が放たれた。
少し遅れて相手のミロカロスも同じ技を使うが、威力に圧倒的な差がある。

コトウ 「互いのミロカロスの技が激突!! だが、キッヴァ選手押し切られる!!」

バババババァツ!!

メタグロス 「グググー!!」

ミロカロスの『ハイドロポンプ』合戦は打ち勝つも、威力は確実に低下した。
『ハイドロポンプ』は、そのままメタグロスへ直撃するが…

ヒビキ (ちぃ…メタグロスを仕留め切れなかったな)

キッヴァ (…押し切るのは無理だと言うのは、初めからわかっていた)
キッヴァ (だが、この駆け引きは私の勝ちだ!)
キッヴァ 「行けっ、メタグロス!!」

メタグロス 「メッターーー!!」

ゴォォォッ!!

ミロカロスH 「ミロッ!?」

ドッガァンッ!!

メタグロスは『ハイドロポンプ』に耐え切り、攻撃の終わったミロカロスへ向かって全力で突っ込んでくる。
思念を纏った額で突っ込み、ミロカロスは強烈に吹き飛ばされてしまった。

コトウ 「メタグロスの『しねんのずつき』がヒットォ!! ミロカロス、派手に吹き飛んだーーー!!」

ドザザザァァァァッ!!

ミロカロスH 「ミ、ミロッ!」

何とか、耐えてくれる。
俺のミロカロスは、辛うじて起き上がり、再び戦闘態勢に入る。

キッヴァ (フライゴンは降りてくる時に隙が出来る…落ち着いて対処すればいいわ)
キッヴァ 「ミロカロス、向かってくるフライゴンに『れいとうビーム』!!」

ヒビキ 「かかったな! フライゴン、ブレーキだ!!」

キッヴァ 「!?」

フライゴン 「フラッ!」

ゴォォオオッ!!

俺はフライゴンにそう命じると、フライゴンは地上近くまで降りた所で翼を大きく広げ、ブレーキをかける。
その位置は、俺のミロカロスと相手のミロカロスを対角で結ぶ場所だ。

ヒビキ (…残念だが、フライゴンのダメージは俺の予想を上回る物だった)

ゆえに、これ以上フライゴンに展開を変えるほどの活躍はもはや出来ん。
だから、悪いが犠牲になってもらう…無論、タダで倒させるつもりは無い!

ミロカロスK 「ミローーーー!!」

コォォォォォォッ!!

ヒビキ 「今だミロカロス! 『なみのり』!!」

ミロカロスH 「ミッローーーーーーー!!!」

ズオオオオォォォ…ズアアアアアァァァァッパアアアアアアアアアアアアアァァァンッ!!

キッヴァ 「!?」

相手の『れいとうビーム』が放たれた後、俺は『なみのり』を指示する。
フライゴンは正面から『れいとうビーム』を受けてしまう。
間違いなく、ダウンだろう。
だが、俺の攻撃は終わっていない。
ミロカロスの放った『なみのり』は、動けないフライゴンを押し、相手のミロカロスへ突っ込む。

コトウ 「何と、ここでヒビキ選手『なみのり』を宣告!!」
コトウ 「ミロカロスの口から水が放たれ、フィールド全体を飲みこんだぁ!!」
コトウ 「だが、これは同時に味方もダメージを受けてしまうぞぉ!?」

ヒビキ (無論、承知の上だ!)
ヒビキ 「フライゴン、最後の力で突っ込めーーー!!」

フライゴン 「フッラーーーーーー!!」

フライゴンは波に飲まれながらも相手を見据える。
フライゴンは最後の力を振り絞ってミロカロスへ攻撃を行う。

ドッガァァッ!!

ミロカロスK 「ミ、ミローー!!」

メタグロス 「メ、メタッ!?」

フライゴン 「フラーー!!」

ドズズアアアアァァァァァァァァァ!!! ザッパアアアアアアァァァァンッ!!

フライゴンは波の威力と共にミロカロスへ体当たりする。
大したダメージではないだろうが、相手を怯ませる位はできただろう。
俺の目的は、あくまでメタグロスのダウンだったからな。

コトウ 「決まったーーー!! 『なみのり』が味方もろとも相手を飲み込む!!」
コトウ 「果たして、耐え切れたか!?」

ミロカロスK 「ミ、ミロッ!!」

メタグロス 「メ、メタ…」

フライゴン 「………」

審判 「…メタグロス、フライゴン、両者戦闘不能!!」

ヒビキ 「…よくやったぞ、フライゴン。お前のダウンは無駄にはせん」

キッヴァ 「く…メタグロス、戻りなさい。よくやったわ…」

シュボボンッ!!

俺たちは互いのポケモンをボールに戻す。
これで残ったのは、互いのミロカロス。
当然ながら、互いに無傷ではない。
ここまでのダメージで如何様にでも変わるだろう。
だが、どう見ても俺の方に分がある。



キヨハ 「…普通のバトルなら、もう決まっているわね」

ハルカ 「…普通なら、ですか」

フィーナ 「ミロカロスは『じこさいせい』がありますからね…下手をしたら、このままずるずると…」

メフィー 「でも、『ゆうわく』でキッヴァさんのミロカロスは『とくこう』を下げられています」
メフィー 「特殊攻撃が主なミロカロスの能力ですと…」

キヨミ 「だから、それが普通のバトルでの考えなのよ」
キヨミ 「ここまでのバトルを見る限り、あのふたりの実力は拮抗しているわ」
キヨミ 「ミロカロスの使い方も、よく心得ている…まず普通のバトルにはならないわ」

キヨハ 「同感ね…後は、月並みだけど」

ハルカ 「…愛情のある方が勝つ、ですか?」

私が特に根拠も無しにそう言うと、キヨハさんは笑う。

キヨハ 「ええ、そうよ…」



コトウ 「さぁ、互いに奇しくも同じポケモンが残ってしまった…果たして勝負の行方はどうなるのか!?」

キッヴァ (ダメージはこちらの方が薄いはず…回復される前に!)
キッヴァ 「ミロカロス『りゅうのいぶき』!!」

ミロカロスK 「ミロッ!! ミロローー!!」

ギュオオオオオォォッ!!

ミロカロスH 「ミロ〜!」

ヒビキ 「よし! ミロカロス『ミラーコート』だ!!」

キッヴァ 「なっ!?」

ミロカロスH 「!! ミローーーーーーー!!」

パキィィンッ!! ドギュアアアァァァァァッ!!

ミロカロスK 「ミローーーーーーー!!」

コトウ 「ヒビキ選手の『ミラーコート』が炸裂!! キッヴァ選手、これは痛い!!」

俺のミロカロスは『ミラーコート』で反撃する。
受けるダメージも大したことが無かっただけに、相手にもさして大きなダメージではないな。
だが、これは布石だ。

キッヴァ (しまった…まさか、『ミラーコート』を覚えているなんて!)
キッヴァ (これで、迂闊には攻められなくなった…とはいえ)
キッヴァ (特攻の下がっている相手に対して『ミラーコート』を使うなんて…)

ヒビキ (考えているようだな…だが、もう遅い)
ヒビキ (同じポケモン同士の戦いに置いて、重要なのは『トレーナー』を知ることだ)
ヒビキ (同じポケモンを使う以上、互いの手の内はほとんどわかっている)
ヒビキ (ましてや、ほぼ同等のレベルでのバトルでなら、差のつく要因は決まっている!)

すでに俺は手を打った。
後は相手がどう出るかだ。

コトウ 「互いのポケモンが、相手の出方を伺っています! しばしの沈黙状態…動くはどちらだ!?」

キッヴァ 「…ミロカロス『じこさいせい』だ!!」

ミロカロスK 「ミロ〜…」

パァァァァァ…!

コトウ 「キッヴァ選手! ここで体力を回復します!!」
コトウ 「果たして、戦局は変わるのかぁ!?」

ヒビキ 「ミロカロス『どくどく』」

ミロカロスH 「ミロ〜」

ジュバァッ!! ビチャァッ!!

ミロカロスK 「ミ、ミロ〜!」

俺は待っていたと言わんばかりに指示を出す。
相手が回復に入るのは読めていたと言った所か。
これで相手のミロカロスは『もうどく』…次に起こす行動も自ずと読めてくる。

コトウ 「ここでキッヴァ選手『もうどく』にかかってしまったぁ!!」
コトウ 「このままではいずれミロカロスは倒れてしまいます!」
コトウ 「果たしてどうするのか!?」

キッヴァ 「……」

相手は、互いのポケモンを見渡し、状況を判断する。
こうなってしまえば、通常のトレーナーが思う技はふたつ…。
そして、俺はすでに相手の心理状態をも読んだ。

キッヴァ 「ミロカロス『リフレッシュ』!」
ヒビキ 「ミロカロス『メロメロ』だ」

俺は相手とほぼ同時に技を宣告する。
こちらのミロカロスもすでに行動体勢に入っている、相手の焦りが生んだ隙だ。

ミロカロスH 「ミロ〜♪」

キュッ! キュッキュ!

俺のミロカロスは体をくねらせ、相手を流し目する。
同時に指示を出したにも関わらず、俺のミロカロスが先に動いた。
これは俺のミロカロスの方が素早さが高かったと言う証明。
そして、『メロメロ』と『リフレッシュ』の技発動タイミングの速度。
全て計算通りだな…これでもうこっちの物だ。

ミロカロスK 「ミ、ミロロ〜♪」

コトウ 「お〜っとぉ! ここでキッヴァ選手のミロカロスがメロメロ状態になったーー!!」
コトウ 「メロメロ状態で技が出せない! 『もうどく』状態でこれはきつい!!」

キッヴァ 「し、しっかりしなさいミロカロス!!」

ヒビキ 「ミロカロス『あやしいひかり』」

ミロカロスH 「ミロ〜」

ボ〜〜…

ミロカロスK 「ミ、ミロロロロロ〜…」

俺は更に畳み掛ける。
ミロカロス同士の戦いで重要なのは、相手の動きを制限することだ。
俺のミロカロスは『さいみんじゅつ』を使えないため、こうやって相手を少しづつ制限しなければならない。

コトウ 「更にここで混乱!! ヒビキ選手、非情とも言える状態異常の連発でキッヴァ選手をじわじわと追い詰める!!」
コトウ 「すでに『もうどく』が回り始める中、キッヴァ選手はどうするのか!?」

キッヴァ 「動きなさい! 動くのよミロカロス!!」

ヒビキ 「『まきつく』」

ミロカロスH 「ミロッ!!」

ギュゥゥゥゥ…!!

ミロカロスK 「ミ、ミロ〜!?!?」

俺はトドメとばかりに最後の手を打つ…これで王手だ。
もう逃れようは無い、耐久力の高いミロカロスでも『もうどく』のダメージまでは変えられん。

コトウ 「ヒビキ選手! 更にキッヴァ選手を追い詰める!! すでにキッヴァ選手のミロカロスはグロッキーだ!!」

キッヴァ 「ミロカロス!!」

審判 「…! キッヴァ選手のミロカロス、戦闘続行不可能と判断!!」
審判 「よって、勝者ヒビキ選手!!」

ワアアアアアアアアアアアァァァァァァッ!!!

ヒビキ 「…戻れ、ミロカロス」

シュボンッ!!

審判はすぐさま試合を止めた。
賢明だろう、あのまま続けていれば病院送りだったろうからな。
俺は、歓声を受け、無感情にミロカロスをボールに戻す。
そして、相手に興味も示さないまま、俺は背を向けて歩いた。



………。



キヨミ 「……」
キヨハ 「……」
ハルカ 「………」
フィーナ 「……」
メフィー 「はえ…」

私たちは、全員が声を出せずにいた。
結果は、最終的にヒビキさんの圧勝。
キッヴァ選手のミロカロスは無残とも言える結果で敗北した。
だけど、これがポケモンバトル。
ましてや、これはポケモンリーグ…。

ハルカ (…やらなければ、自分がやられる)
ハルカ (ヒビキさんは、最後まで隙を見せなかった…勝つことだけを考えた)

非情…と言えばそうかもしれない。
でも、負ければ全ては終わる。
前へ進むためには、勝つことを考えなければならない。

ハルカ (くっそ…何で、こんなに気分悪いのよ)

自分の中で、何か凄まじい感情が渦巻いていた。
だけど、同時にヒビキさんの覚悟も知る。

ハルカ (ミカゲに勝つためには、それ位の非情さがいる…?)

ヒビキさんのさっきの戦いは、まさに鬼の戦い。
ミカゲはわずか幼少時代ですでにチャンピオンのキヨミさんを圧倒した。
ミカゲは勝つために常に最良の行動を取り、勝利のためにはどんな行動も厭わない。
そんなミカゲを倒すためには、ヒビキさんの様に鬼になるしかないのだろうか…?



………。



ミカゲ 「ふぅん…」

マリア 「あら、さっきの男が気になるの?」
マリア 「別に、大した実力には感じないけれど…」

私がちょっとした反応を見せると、マリアがいちいちツッコンで来る。
私は鬱陶しいので、簡単に流すことにした。

ミカゲ 「…別に、興味は無いわ」
ミカゲ 「ただ、馬鹿馬鹿しいと思っただけよ…」

マリア 「………」

マリアは私の言葉に特に興味が無いのか、それ以上言葉を放たなかった。
私も気にせずに、しばらくの間、目を閉じることにした。



ラファ (…今の戦い、明らかに勝つための戦い)
ラファ (確かに勝つためにはあれほど、執念のこもった戦いが必要になるのかもしれない)
ラファ (でも…私には、そこまで非情にはなれない)

ザラキ (ふふ…あの青年、中々いい目をしていた)
ザラキ (小生の若い頃を思い出す…当時は小生も鬼や修羅と呼ばれていた時期があったわ)
ザラキ (…だが、小生は勝てなかった)
ザラキ (鬼、修羅と呼ばれた小生を打ち倒したのは、愛と友情を重んじるセンリであった)
ザラキ (どちらが正しいかは、今は問うまい)



………。



キッヴァ (…負けた、完敗だ)
キッヴァ (彼は、最後まで非情に徹した…彼は間違っていない)
キッヴァ (だが、彼はあれで満足なのか? それだけが気がかりだ…)
キッヴァ (去年のシンオウリーグ…私は、バトルの非情さに嫌気が差して途中で逃げ出した)
キッヴァ (同じようになるのが怖かった…ポケモンを厭わないトレーナーになるのが怖かった)
キッヴァ (…私は結局勝てなかった、私にはトレーナーを続ける心は持てないのかもしれない)

オトメ 「お嬢さん、気を落としませんよう…」

キッヴァ 「!? あなたは…確か、オトメ選手」

ワテは、あくまで『女』になりきって、そう慰める。
そう、何を隠そうワテは『男』や。
実は、とある理由で今は『女装』しとる。
ちなみに、ワテの容姿は細目でアイカラーは黒。
長髪で肩の辺りで結ってあるがそれでも腰まで髪が伸びている長さ。
髪の色は黒で、顔は童顔。
一応、厚めの化粧をしており、服も紫が基調の着物で身を固めているため、見た目はほとんど舞妓はん。
白塗りほどやあらへんけど、まぁ見た目から男と見られるような程度やあらへん。
元々、ワテは女顔やさかい、ちょっと化粧して服見繕ったら、完璧に騙せる自信がある。
まぁ、変装の理由はおいおい話すとして、ワテはキッヴァ選手に話しかける。
ちなみに、ワテは右手に扇子を持っており、口元を隠すように持っている。

オトメ 「確かに戦いは非情どす…せやけど、それが全て勝利に繋がるわけやおまへん」
オトメ 「あんた、このまま終わるには惜しいトレーナーやと思いますえ」
オトメ 「ほほほ…ちょっと余計なお節介やったかもしれまへん」
オトメ 「忘れてくれなはれ、ほなら」

ワテはそう言ってフィールドを見る。
やれやれ…どないすっかなぁ。
正直、このまま続けるかどうかは、かなり微妙や。
ワテの目的はこの時点で大体完了しとる、もっとも、ホンマの目的は達成不可能やろ…。
つまり、このままトンズラした方が、実は楽やったりする。
せやけど、折角やしギリギリまで見ていくかなぁ…。

キッヴァ (? この人…どこかで?)

オトメ 「…次の試合が始まります」

キッヴァ 「!?」



………。
……。
…。



ラファ 「ライチュウ『10まんボルト』! マリルリ『ハイドロポンプ』!!」

ライチュウ 「ラーイ!」
マリルリ 「マリルーーー!!」

バッシャァァァンッ! バチバチバチィ!!

ノズパス 「ノ、ノズ…!」
ボスゴドラ 「ゴッド〜…」

ドッズウゥゥゥゥンッ!!!

ライチュウの『10まんボルト』はノズパスを、マリルリの『ハイドロポンプ』はボスゴドラをそれぞれ倒す。
ここまでで、3分位か…こんな物かしらね。

コトウ 「決まったーーー!! ラファ選手、貫禄の勝利!!」
コトウ 「全く苦戦する素振りも見せず、決勝への参加を決定いたしました!!」



………。



ハルカ 「…今度はあっさり終わったわね」

キヨミ 「ええ、相手の選手は決して弱かったわけじゃないわ」

キヨハ 「とはいえ、他のトレーナーに比べれば圧倒的にレベルが低いのは明白…」

ハルカ 「いや、普通に私より強そうでしたけど…」

少なくとも、さっきのバトルを見る限り、相手のコゴロウ選手はランク15位。
仮に不相応な実力にしても、私よりかは上に思えた。
だけどラファ選手はそれを遥かに上回る。
正直、キヨミさんやキヨハさんといい勝負をするだろう。
まだ、私に勝てそうな相手じゃない気がした。

キヨミ (ハルカちゃん、まだ気づいてないのかしら?)
キヨミ (ハルカちゃんは、私たちから見ても、すでに相当なレベルになってるってこと)
キヨミ (そして、ハルカちゃんの成長力は、私たちが驚愕するほどの物)

キヨハ (今は、まだ実力不足かもしれない…だけど、容易に想像できる)
キヨハ (決勝に来る頃には、今を遥かに凌駕するレベルに到達して上がってくる、ハルカちゃんの姿が…)

フィーナ 「ハルカさんって、そんなに酷いとは思わないけど」

メフィー 「そうですね…少なくとも、私たちと変わらない気はしますけど」

ヒビキ 「…ハルカはまだ気づいていないだけだ」
ヒビキ 「自分の中に眠る、恐るべき潜在能力を」
ヒビキ (それが開花すれば、俺たちはおろか、チャンピオンや四天王を凌駕するのかもしれん…)
ヒビキ (興味は尽きないな…果たして、どうなるか)

ハルカ 「………」

私は心を落ち着ける。
まだ、私の出番は無い。
次は、いよいよキヨハさんの出番だ。



………。



ワアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッ!!
ウオオオオオオオオオオオオオォォォッ!!

コトウ 「お聞きくださいこの歓声! 次はいよいよ、伝説のトレーナーと呼ばれた側ら、キヨハ選手のバトルが始まります!!」



………。



キヨハ 「………」

私は、いつも以上に昂ぶる心を躍らせる。
まだ、私の望む戦いにはたどり着けない。
だけど、今は今の戦いを楽しみましょう…。
私は、正面に佇む、キノガッサのコスプレをした少女を見据える。
頭にキノコの傘を着け、尻尾のアクセサリーも着けている。
見た目はかなり小さな子で、愛らしい姿をしていた。

リベル 「……!」

キヨハ 「ふふ…可愛いわね」

リベル 「!?」

相手は、私に対して何か思うところがあるのか、少々あがりがちなようだった。
この大舞台に慣れていないのか、会場に少々飲まれつつあるようね。

審判 「それでは、両者ポケモンを!!」

キヨハ 「………」

ス…

私は使うポケモンは既に決めている。
相手のポケモンは既にわかっている、悪いけれど手加減をするつもりはない。

ボボンッ!!

ヘラクロス 「ヘラッ!!」
クロバット 「クロバッ!!」

リベル 「行って、『キノ』! 『カサ』!」

ボボンッ!!

キノ 「キノッ!!」
カサ 「ガッサ!!」

コトウ 「さぁ、互いのポケモンがフィールドに現われました…後は試合開始の合図を待つばかりです」
コトウ 「キノガッサしか使わないリベル選手に対して、対策とも思える有効なポケモンを繰り出したキヨハ選手!」
コトウ 「間もなく、バトルスタートです!」



………。



フィーナ 「…意外にも、セオリー通りですね」

メフィー 「前みたいに、受けて立つようなポケモンで行くのかと思いましたけど…」

キヨミ 「…それだけ本気と言うことね」
キヨミ 「強いわよ…あのリベルって娘」
キヨミ 「下手すれば、姉さん負けるかもね」

ハルカ 「!? それほど…」

少なくとも、見た目からはそんなに強そうには感じない。
いや、トレーナーが、ね。
ポケモンはいかにもな感じで、強者独特の何かを感じる。
確かにポケモンは強そうだ。



………。



審判 「それでは、バトル・スタート!!」

キヨハ 「………」

リベル 「…?」



………。



私たちは、しばしの間沈黙する。
相手はこちらが動くのを待っているのか、すぐに動いては来なかった。
警戒していると言うよりも、判断能力が低いと言うべきかしらね。

コトウ 「おっとぉ…予想外にも静かな立ち上がりだ」
コトウ 「キヨハ選手、リベル選手を真っ直ぐ見て、指示を出す様子はありません」

リベル 「…キ、キノッ! クロバットに『ストーンエッジ』!!」

キノ 「キノッ!!」

ドガガガガガガッ!!

キヨハ 「旋回」

クロバット 「クロバッ!!」

バサバサバサッ!!

クロバットは激しく羽ばたき、円を描くような動きで、地面から勢いよく噴出す鋭利な岩を全て回避する。
『ストーンエッジ』か…当たれば痛いわね。

コトウ 「これは素早い!! クロバット、目にも止まらぬ速度で『ストーンエッジ』を完全回避!」
コトウ 「いくら、効果抜群の技でも、当たらなければ意味はありません!!」

リベル 「あ、あうっ! カサ! ヘラクロスに『キノコほうし』!!」
キヨハ 「『じしん』」

ヘラクロス 「ヘラクロッ!!」

ドッガァァァァッ!! ズドドドドッドオオオオンッ!!!

キノ 「キノーー!!」
カサ 「ガッサーー!!」

ヘラクロスは相手よりも速く行動する。
クロバットはダメージを食らうわけも無く、相手の2体のみダメージを与えた。
効果は今ひとつだけど、キノガッサの防御力じゃ十分なダメージになったようね。

コトウ 「これは強烈! ヘラクロス『じしん』でキノガッサを2体とも吹き飛ばす!!」
コトウ 「効果は今ひとつとはいえ、この威力ではさすがに怯みます!!」

リベル 「うう…全然通用しない」

キヨハ 「……」

私は相手を黙視する。
ポケモンの調子はいい、予想以上に反応も速いわ。
だけど、トレーナーがそれを引き出せていない。
このまま戦えば、何の危険もなく叩けるけど。

キヨハ (ふふ…そんな戦い方は私にはないわよねぇ)



キヨミ 「!! あの顔」

フィーナ 「な、何です?」

メフィー 「キヨハさんの顔…笑ってますけど」

ハルカ 「………」

ヒビキ (嫌な性格と思えるかもしれん)
ヒビキ (今まで、キヨハのバトルを見た限り、わかったことがひとつだけある)
ヒビキ (それは…)



キヨハ 「クロバット、『エアカッター』」

クロバット 「!! クロッ!!」

ヒュヒュヒュヒュッ!! ドドドドッ!!

キノ 「!!」
カサ 「!?」

リベル 「え…!?」

私はクロバットに『エアカッター』を指示する。
だが、4枚放たれたクロバットの『エアカッター』は全て地面に直撃する。
私は笑みを浮かべる、何も言わなくてもクロバットは私の考えを見抜いてくれているわね。

コトウ 「おっと!? 『エアカッター』は惜しくも地面に激突!」
コトウ 「さすがに高低差がありすぎたか? キヨハ選手、ファンブルです!」

リベル 「い、今なら! キノ、クロバットに『タネばくだん』!!」

キノ 「キノー!!」

ヒュゥゥンッ!!

クロバット 「クロバッ!」

バササッ!!

クロバットは指示も無しに回避を行う。
距離はある、相手の攻撃は決して悪くないけれど、クロバットを捉えるにはまだまだね。

コトウ 「クロバット、『タネばくだん』を回避! トレーナーの指示無しで完璧な回避を行います!」

キヨハ 「ヘラクロス『メガホーン』」

ヘラクロス 「ヘラッ!!」

ズドドドドドッ!!

リベル 「カサ、『キノコほうし』!!」

カサ 「ガッサ!!」

ブワワッワッ!!!

ヘラクロス 「ヘ、ヘラ…ZZZ」

私のヘラクロスは正面から真っ直ぐ突っ込み、眠らされてしまった。
距離はあった、相手も反応してきた。
ここでは、最良の判断と言えるでしょうね。

コトウ 「何と、ここでヘラクロス眠りに落ちたぁ!! 形勢は一気に厳しくなったぞ〜!?」



キヨミ (やっぱり、そうするわよね…)

フィーナ 「な、何でわざわざ正面から?」

メフィー 「『キノコほうし』を使うことはわかっているはずなのに…」

ヒビキ 「………」

ハルカ 「……」

読めた。
キヨハさん、わざとあんな展開に持ち込んだ。
キヨミさんが言っていた意味が少しわかった。
負けるかもしれない…そりゃそうだ。
あそこまで、自分を追い詰めれば、一手間違えれば敗北に繋がる。
だけど、逆に取れば、絶対に『詰めれる』と言う自信の表れ。
相手は、まだ踊らされていることに気づいていない。
気づかなかったら、確実に負ける。
いや、例え気づいていても…勝てない。



リベル 「よし、これで後はクロバットを! キノ『ストーンエッジ』! カサは『タネばくだん』!!」

キノ 「キノー!!」
カサ 「ガッサッ!!」

ドガガガガガガガッ!! ヒュゥゥンッ!! ズッドォォンッ!!!

2体のキノガッサは同時に攻撃を仕掛けてくる。
クロバットは動きを一瞬止めた隙の攻撃だった。
さすがのクロバットもあのタイミングの同時攻撃は『回避』は出来なかった。
よく見てるわね…いいトレーナーだわ。

コトウ 「キノガッサの同時攻撃がクリーンヒットォ!! クロバットは…い、いない!?」
コトウ 「確かにヒットしたはずなのに、クロバットの姿は見えない!!」
コトウ 「これは一体どういうことだぁ!?」

リベル 「ど、どこに!?」

キヨハ 「『あやしいひかり』」

クロバット 「クロバッ!!」

ボォォ…

私のクロバットは2体のキノガッサの背後から突然現れ、両目から『あやしいひかり』を放つ。
それを食らった1体のキノガッサは混乱する。
何故、クロバットが背後にいたのか…。
理由は簡単、クロバットはダメージを受ける前に『みがわり』を使っていたから。
消えたクロバットは、あくまで『みがわり』が消えただけ。
本物は、それに紛れて移動したと言うわけね。

コトウ 「何と、クロバット一瞬にして背後を取っている!」
コトウ 「どうやら、先ほどのヒットは『みがわり』に、だったようです!」

キノ 「キ、キノ〜???」

リベル 「あっ、キノ! カ、カサ、クロバットに『キノコほうし』!!」

キヨハ 「『くろいきり』」

クロバット 「クロッ!!」

ボボボボボボボォォォッ!!!

クロバットは口から『くろいきり』を吐き出し、同時に強く羽ばたく。
クロバットの羽ばたきで強い風が起こり、霧と共に胞子も吹き飛ばす。

コトウ 「ここで、『くろいきり』が発生!! 視界が遮られ、その後すぐに『キノコほうし』と一緒に吹き飛ばされる!」
コトウ 「クロバットの強い羽ばたきが風を巻き起こしています!!」

リベル 「キノ、『スカイアッパー』よ!!」

キノ 「!? キ〜ノーーー!!」

ドッガァァッ!!

クロバット 「クロバッ!!」

混乱しているキノガッサが攻撃を仕掛けてくる。
効果は今ひとつとはいえ、予想外の方向から食らったわね。
クロバットは、一瞬の焦りと共に動きを止めた。

コトウ 「おっとぉ!? 霧で視界がぼやけますが、キノガッサの『スカイアッパー』がヒットした模様!」
コトウ 「クロバット、無事なのかぁ!?」

キヨハ 「…そろそろね」

私は霧が晴れるのを見計らって、次の展開を頭で組み立てる。
すると、予想通り相手は行動を起こしてくる。

リベル 「霧が晴れた! キノ『ストーンエッジ』!!」

キノ 「キーノーー!!」

ドガガガガガガガッ!!

クロバット 「ク、クロバーーーー!!」

クロバットは『ストーンエッジ』の直撃を受け、空中から落ちる。
私はそれを見ながら、次の指示を出すタイミングを待つ。

コトウ 「クロバットに『ストーンエッジ』がクリーンヒットォ!! 効果は抜群だ!!」
コトウ 「クロバット、力なく地上に落ちていくーー!!」

リベル 「トドメよ! カサ『マッハパンチ』!!」

キヨハ 「『メガホーン』」

リベル 「えっ!?」

ヘラクロス 「ヘラーー!!」

ドッガァァァァンッ!! ドッシャアアアアアアアアアアァァァァッ!!

カサ 「ガ、ガサ…」

私は、相手の指示を見てすぐにヘラクロスを動かす。
霧が晴れる前にヘラクロスはすでに目覚めていた。
それに気づいた私は、あえて霧が晴れても倒れさせていた。
予想通り、相手はヘラクロスを無視し、クロバットに集中してくれた。
後は、相手の行動を待って、ヘラクロスを動かすだけ…簡単なカラクリね。

審判 「え? あ、キ、キノガッサ戦闘不能!!」

オオオオオオオオオオオオオォォォッ!!

リベル 「し、しまった…ヘラクロスが起きているのに気づかなかった」
リベル 「…戻ってカサ!」

シュボンッ!

相手はポケモンをボールに戻し、強い表情で私見る。
最初とは随分変わったわね、でも…少し遅かったかもしれないわ。

リベル 「クロバットは弱っている! だったら、キノ! ヘラクロスに『キノコほうし』よ!!」

キノ 「キノ〜!!」

ボフゥゥゥンッ!!

ヘラクロス 「ヘラ…ZZZ」

ヘラクロスは再び眠りに落ち、前のめりに倒れる。
しかしながら、これも私のシナリオ通り。
残念だけど、次は『眠ったまま』にはしないわ。

コトウ 「またしても眠りに落ちる!! キヨハ選手、これは大ピンチ!! まさか番狂わせがあるのか!?」

リベル 「よしっ! これなら一気に押せるはず!! キノ『ストーンエッジ』!!」

キヨハ 「『ねごと』」

ヘラクロス 「ZZZ…ヘ〜ラーーー!!」

キュィィン! ドッギャアアアアアアアアアアァァァァッ!!

キノ 「!?」

ギュアアアアアアアァァァァァァッ!! ドッグォォォォォンッ!!

コトウ 「ここでヘラクロスの『はかいこうせん』が出たーーー!! キノガッサ、意表を突かれたぞーー!?」

ヘラクロスは眠りながら、顔を前に向けて口から『はかいこうせん』を放った。
それをまともに食らったキノガッサは爆風と共に吹き飛ぶ。
威力はあまりなくとも、意表は突けたわね。

リベル (そんな、『ねごと』が使えるなら、何故今までやらなかったの!?)
リベル 「か、考えてる余裕は無い! ヘラクロスは反動で動けない! キノ、しっかりして!」

キノ 「キ、キノッ!!」

リベル 「よしっ! キノガッサ、ヘラクロスに『ドレインパンチ』!!」

キノ 「キノーー!!」

キヨハ 「『エアスラッシュ』」

クロバット 「クロバッ!!」

ビュゥオオオオオオオオォォッ!!! バッシュウウウウウゥゥゥゥッ!!!

キノ 「!!」

ズッシャアァァァァッ!!

クロバットは4枚の羽を1対づつ動かし、強力な風の刃を発生させた。
風に切り裂かれたキノガッサは地面に擦られながら後ろへ吹き飛ぶ。
ここまで、ね。

リベル 「…あ」

審判 「…あ」

キヨハ 「………」

クロバット 「クロッ!」
ヘラクロス 「ZZZ」

シュボボンッ!!

私は、勝ち名乗りを待たずにポケモンをボールに戻す。
これでが、限界ね。
これ以上、引き出すのは無理、か。
私は、未だ何が起こったかわかっていない彼女を見る。
呆然としていた、状況を理解していないのか、倒れているキノガッサと私とを交互に見ていた。

審判 「キ、キノガッサ戦闘不能!! よって勝者、キヨハ選手!!」

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァッ!!!

しばらくの沈黙、そして審判の声と共に会場は声援が巻き起こった。

コトウ 「な、何と言う幕切れでしょうか…! 一体何が起こったのか、正直頭が混乱しております!」
コトウ 「一見、リベル選手が有利に進めていると思っていたバトルですが、終わってみればキヨハ選手の圧勝!」
コトウ 「まるで、釈迦の掌で踊る猿のように、リベル選手、敗北となりました…」

リベル (凄いなんて物じゃない…あの人は、初めから『こうするつもり』だった…)
リベル (私は、気がつかない間にコントロールされてた…ううん、読まれてた)
リベル (私の行動を読んだ上で、ここまでのシナリオを遂行した…何てバトルなの)
リベル (あれが、伝説のトレーナー…キヨハ)

キヨハ (…悪いトレーナーじゃなかったわ、ただ…利用はさせてもらった)
キヨハ (でも、ダメね…予想以上に私のポケモンは強くはならなかった)
キヨハ (やっぱり、私にはこれ以上の成長は…無理、か)



………。



キヨミ 「…相変わらず、嫌なバトルをするわね」

キヨハ 「あら、性分よ…相手の実力は出来るだけ引き出したいの」
キヨハ 「その方が、自分も成長できるでしょ?」

キヨミ 「…姉さんのやり方は陰険なのよ」
キヨミ 「やるなら、もっとスマートにやればいいのに」

キヨミは嫌そうにそう言う。
実際、嫌なんでしょうね、十分味わっているはずだから。
それでも、私はキヨミに勝ったことは、一度も無いけれど。

キヨハ 「十分よ…私はこのやり方が気に入ってるから」

ハルカ 「……」

キヨハさんの笑みが、逆に恐ろしく感じる。
結局、相手の引き出しを全部引き出した上での完全勝利。
確かに、互いの成長を高めるには最良の方法…だけど、負けた方は、全部出し尽くした上での敗北。
それも、計算されつくされたバトルでの結果。
こうなることは、初めからわかっていたかのような、キヨハさんの笑み。
思えば、あの笑みに私は最初恐怖した。
初めて会った時から、この人は普通じゃないと直感できた。
そして、いずれ戦うことになるとも、何となくだけど思えた。

ハルカ (実際に戦って、私が勝てる要素はまるでなかった…)

当時の私じゃ、天地がひっくり返っても勝てない相手だった。
今でも…勝てる自信は無い。
だけど、希望が無いわけじゃなかった。
もし…もし、私にまだ成長できる引き出しがあるなら。

ハルカ (それを、キヨハさんが引き出してくれるなら…?)

どうなるんだろう?
ふとそう思った。
私は自分自身の限界を感じたことは一度としてない。
だけど、ポケモンには限界があると思う。
その限界を超えるために、父さんは戦っている…今なら、それがわかるかもしれない。

ハルカ (限界があるからこそ、越えた時のインパクトは壮絶になる)

それこそ、ミカゲの様に…なるのだろうか?
むしろ、ミカゲは…どうやって今のレベルにたどり着いたのか?
疑問は多い…でも、今はそれを知る術はなかった。



………。
……。
…。



観客 「………」

シ〜ン…

コトウ 「な、何と言う状況でしょうか?」
コトウ 「今、会場は静寂に包まれています」
コトウ 「次の対戦カードは、ミカゲ選手対フィーナ選手」
コトウ 「今までの熱気が嘘の様に、会場は静まり返っております」
コトウ 「まるで、この先に惨劇が待っているかのような…」



………。



ミカゲ 「………」

フィーナ 「……」



ハルカ 「…フィーナちゃん」

会場は、不気味なほど静かだった。
さっきまで、熱気に包まれていたこの会場が、数度気温が下がったように感じる。

メフィー 「ど、どうしたんでしょう…こんなに静かになるなんて」

ヒビキ 「…フィーナには悪いが、会場の全員がわかっていることがひとつある」
ヒビキ 「それは、ミカゲが負けるはずが無いという事実だ」

メフィー 「!? で、でも…フィーナちゃんだって、勝てないとは…」

キヨミ 「そうね、必ずしも勝てないとは限らないわ」

キヨハ 「…何があるのかわからないのがポケモンバトル」
キヨハ 「でも、その『偶然』さえ、期待できないかもしれない」

ハルカ 「……?」

私はふと、違和感を感じる。
ミカゲから、何故か妙な違和感を感じる。
いつもの、ミカゲじゃ…ない?

ハルカ 「!? つっ!?」

突然、私の頭に痛みが走る。
一瞬、頭が引き裂かれるような痛み。
何だったんだろう?

キヨミ 「…ハルカちゃん?」

ハルカ 「……」

私は無言で、『大丈夫』とジェスチャーを送る。
キヨミさんは、特に気にしなかったのか、何も言わなかった。

ハルカ (…ミカゲ?)

何故か、ミカゲの心に一瞬、触れた気がした。
かなり曖昧だけど、それで痛みが…?

ハルカ (ランとフウが言っていた…私には素質があるって)

ESP能力なんて、それほど信じてなかった。
でも、実際にエスパーを見ているんだから、今は信じられる。
私にもその力が目覚め始めているのかもしれない…。

ハルカ (でも、ミカゲの心か…)

今は、考えないことにした。
バトルが始まる。
今は、心の中でフィーナちゃんの応援をしよう。



………。



審判 「それでは、両者ポケモンを!」

ミカゲ 「……」

フィーナ 「よしっ! 行くぜ!!」

ボボボボンッ!!!!

ドクロッグ 「ググ…」
マニューラ 「マニュ」

アブソル 「!!」
ボーマンダ 「ボーーマ!!」

コトウ 「さぁ、互いのポケモンが登場しました! いよいよバトル・スタートです!」

相手は、相当やる気を見せている。
以前、震えてた娘だけど、今回はどうなのかしらね?
相当、私のことを気にしてた様だけど。

審判 「バトル・スターーート!!」

ボーマンダ 「ボーーマッ!!」

ドクロッグ 「!!」
マニューラ 「…ニュ」

まず、いきなりボーマンダが『いかく』してくる。
いくら私のポケモンでも、効果はある。
物理攻撃が主体の2体じゃ、少々ハンデになりそうね。

コトウ 「フィーナ選手のボーマンダ! 相手を威嚇しております! これがバトルにどう影響するのか!?」

フィーナ 「先制は貰った! アブソル、マニューラに『つじぎり』!!」

ミカゲ 「任せるわ…面倒」

フィーナ 「!?」

私は指示を出すのが面倒なので、ポケモンに任せた。
とはいえ、別にただ手を抜いているわけではない。
この方が、相手は読み辛いって言うのもあるしねぇ…まぁ、面倒なのが一番の理由だけど。

マニューラ 「ニュッ!」

ヒュヒュヒュッ!!

アブソル 「くっ!?」

ドガガガガッ!!

いきなり攻撃を仕掛けてきたアブソルを見て、マニューラは独自の判断で迎撃にかかる。
マニューラは両手で無数のつぶてを繰り出して、アブソルを止める。

コトウ 「マニューラ、素早く『こおりのつぶて』! アブソルの動きをストップさせたぞ!!」

威力は低くても、あれだけ連射すれば動きは止まる。
ましてや、顔面を的確に狙える私のマニューラなら、当然のことね。

ドクロッグ 「ググッ!」

動きの止まったアブソルに向かい、ドクロッグが接近する。
見た目からはゆっ…くりとした動きだけど、攻撃に入る時は一気に動く。
この攻撃の速度差に相手は幻惑される。

フィーナ 「やべぇ! ボーマンダ、ドクロッグに『つばめがえし』!!」

ボーマンダ 「ボーーマッ!!」

ビュゴォッ!!


ドクロッグ 「!?」

ザザァッ!!

相手が警戒してボーマンダを動かす。
その気配を素早く察し、ドクロッグはアブソルに近づくことなく、急ブレーキをかけた。
そして、高速で飛行してくるボーマンダがドクロッグに攻撃を仕掛ける瞬間。

ボーマンダ 「ボー!!」

マニューラ 「マニュッ!」

ガキィィッ!!

ボーマンダ 「ボマッ!?」

フィーナ 「なっ!?」

ボーマンダの攻撃と同時に、マニューラが『れいとうパンチ』でボーマンダの攻撃を止める。
相手のボーマンダの動きが予想以上に速かったため、結果的には相殺と言う形になった。

コトウ 「これは見事! ドクロッグへの攻撃に入ったボーマンダをマニューラがカバー!」
コトウ 「トレーナーの指示無しで、これほどスムーズなバトルを展開できるとは、ミカゲ選手のポケモンには頭が下がります!!」



キヨハ 「…どう見る?」

キヨミ 「ただ、手を抜いている…とも取れるけど」

ヒビキ 「思ったより、フィーナの出来はいい。あのままならば、いずれフィーナに流れが変わるだろう」

ハルカ 「……」

キィィン…

また、何か違和感を感じる。
一瞬の耳鳴り…一体、これはどういうことなんだろう?
ミカゲのことを考えると、何だか痛みが走る。



フィーナ 「ちっ! ボーマンダ、マニューラに『かえんほうしゃ』! アブソルはドクロッグに『アイアンテール』!!」

ボーマンダ 「ボーマ!!」
アブソル 「おおっ!!」

マニューラ 「マニュッ!?」

ドクロッグ 「グッ!!」

ババッ!!

ゴオオオオオオオオオオォォォッ!! ピキィィィンッ!!

マニューラとドクロッグは瞬時に相手の攻撃を判断し、ドクロッグが前に出て『かえんほうしゃ』と『アイアンテール』を同時に受ける。
マニューラはドクロッグの背中にぴったりとくっつき、難を逃れた。

コトウ 「ミカゲ選手のポケモン、息はピッタリ! ドクロッグの『まもる』でフィーナ選手の攻撃を防御した!!」

ミカゲ (…っ、体が痛む)
ミカゲ (何でよ…こんな、バトル程度で……)

私は体を抑える。
立ってはいられるけど、激痛が全身を走った。
以前のバトルによる、副作用が効いている…?

マニューラ 「…ニュ?」

ドクロッグ 「ググ?」

コトウ 「ん? ミカゲ選手のポケモン、何やら戸惑いを見せたか?」
コトウ 「フィーナ選手、ここで一気に攻めるか!?」

フィーナ (? 何が何だかわからないけど、今がチャンスだ!!)
フィーナ 「アブソル、ボーマンダ、Wで『かえんほうしゃ』!」

アブソル 「!!」
ボーマンダ 「ボーー!!」

ゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォッ!!!!

マニューラ 「!?」
ドクロッグ 「!!」

ゴオアァァァァッ!! ドグオゥッ!!

コトウ 「ミカゲ選手のポケモン、戸惑っている隙に大ダメージ!!」
コトウ 「これで一気に展開が変わってしまうのか!? ミカゲ選手、まだ指示を出す気配を感じません」

ミカゲ 「………」



キヨミ 「…ミカゲ?」

キヨハ 「動かないわね…どうしたのかしら?」

ヒビキ 「……?」

ハルカ 「うっ…! また…!!」

キィィィンッ!!

私の頭にまた痛みが走る。
間違いない、ミカゲは今何か危険な状態にある。
私は、ミカゲと少なからずシンクロしているのかもしれない。
ミカゲの症状が、私にも…?



マニューラ 『…ちっ、今のはやばかった』

ドクロッグ 『グッ…まずいのはあっちもだ』

ドクロは後ろを指差す。
その先には、俺たちのトレーナーが体を抱えて立ち尽くしていた。
その瞬間、俺たちは状況を理解する。

マニューラ 『!? ちっ、おい、ドクロ!!』

ドクロッグ 『5秒持たせろ』

マニューラ 『任せろ!』

ババッ!!

俺たちはそれぞれの役割を決め、同時に前後へと飛び出す。
ドクロはミカゲの気つけ、俺はその間の足止めだ!

コトウ 「な、何だ!? 突然ドクロッグがミカゲ選手に接近! 一体何を…」

フィーナ 「わけのわからないことを…! アブソル『かえんほうしゃ』! ボーマンダは『りゅうのいぶき』!!」

アブソル 「こぉっ!!」
ボーマンダ 「ボーーー!!」

ゴオオオオオォォォッ!! ゴバアアアァァァァッ!!

2体が同時に俺を狙う。
好都合だ、相手が馬鹿で助かる!
俺は両手で氷を作り、Wの『れいとうパンチ』を地面に叩きつける。
そして、地面の温度が下がったところで、口から『れいとうビーム』を放ち、一発限りの盾を完成させた。

マニューラ 『3…4…5秒!』

ドガァッ!! コオキィィンッ!! ドバババババババアアアアアアアアアァァァァァァッ!!!

コトウ 「これは見事! マニューラ地面を叩いて氷柱を立てる! それにぶつかってフィーナ選手の技がかき消えたぁ!!」
コトウ 「勝利を焦ったか、集中攻撃が仇になったぁ!!」

フィーナ 「しまった! だが、まだ行くぜ!!」

マニューラ 『5秒守ったぞ! まだかドクロ!?』

俺は後ろを見ずに相手だけを見る。
どうやら、敵は俺一体に攻撃を絞ったようだ。
…どうにかしてやり過ごさねぇとな。



………。



ミカゲ 「………」

ドクロッグ 『やはり…気絶している!?』

危惧していた通りだった。
前の戦いで、相当な『力』を使った様だからな。
反動が今更になって来たか…こうなってしまったら、荒療治しかないな。

ドクロッグ 『仕方あるまい! 許せ!!』

ドッズゥッ!!

俺はミカゲの首筋に毒を打ち込む。
軽い神経毒なので、即死したりはしない、もっともそうでなくてもミカゲは死なない。
とりあえず、まずはミカゲに起きてもらわなければ。

コトウ 「なっ!? 何と、ドクロッグが突然ミカゲ選手の首元に『どくづき』を!?」
コトウ 「一体何が起こったのかぁ!? 会場からは悲鳴もあがりました!!」



ミカゲ 「…っは!? ド、ドクロッグ…?」

気がつくと、目の前にドクロッグがいた。
と、同時自分の状況に気づく。
気を失っていたらしい…いつの間に。
全身の感覚が非常に曖昧に感じる。
どうやら、ドクロッグが無理やり感覚を麻痺させたようね。

ドクロッグ 「ググッ! グッ!!」

ドクロッグはフィールドを指差す。
すると、マニューラがひとりで苦戦していた。
気を失っていた間に、こんなことになってるなんてね。
さすがに、これ以上は不味いわね。

フィーナ 「一気に決めるぞ! アブソル、マニューラに『アイアンテール』! ボーマンダは『ドラゴンクロー』!!」

ミカゲ 「ふざけるんじゃないわよ! マニューラ『かわらわり』! ドクロッグ『どくづき』!」

私は全身を震わせて声を絞り出す。
大声を上げることで、少しでも気を取り直すことができた。

マニューラ 「マニューーー!!」

アブソル 「おおおっ!!」

ドッガァァッ!!

マニューラはすかさず反応し、アブソルの尻尾を右手で止める。
互いの攻撃が弾き合い、互いが後ろに弾かれる。

ドクロッグ 「グッ!」

ボーマンダ 「ボマッ!!」

ドゴォッ!!

ボーマンダ 「!!〜!?」

ドクロッグはボーマンダとの距離を一気に詰め、『ドラゴンクロー』よりも先に攻撃を仕掛ける。
ドクロッグの右手が空中にいるボーマンダの腹に突き刺さり、ボーマンダは苦しんだ。

コトウ 「ミカゲ選手、いきなり復活! 一体何が起こったのか!?」
コトウ 「とにかく、マニューラは咄嗟にアブソルの攻撃を相殺! ドクロッグは『どくづき』でボーマンダの動きを止める!」

フィーナ 「くっ!? いきなり…! ボーマンダ!」

ミカゲ 「『こおりのつぶて』!!」

マニューラ 「ニュラッ!!」

ドガガガガガッ!!

ボーマンダ 「ボーーーー!!」

私はすかさず相手の動きを読んで先手を打つ。
『こおりのつぶて』を8発、ボーマンダの顔面に直撃させ、ボーマンダは地上に腹から落ちる。

ドッズゥゥンッ!!

コトウ 「ボーマンダに『こおりのつぶて』が直撃! ボーマンダ、空中から地上に落ちてしまったー!!」

フィーナ 「! アブソル、ドクロッグに『つばめがえし』!!」

アブソル 「うおおっ!」

ミカゲ 「ドクロッグ『まもる』!!」

ドクロッグ 「グッ!」

ヒュッ! ピキィィンッ!!

アブソル 「しまった!?」

ドクロッグは『まもる』で『つばめがえし』をブロックする。
そして、アブソルには攻撃を防がれた隙ができ、ドクロッグは自分の判断で次の行動に入る。

ドクロッグ 「グッ!」

ドッゴォッ!!

アブソル 「!? ぐはぁっ!!」

ドクロッグは屈んだ体制から、伸び上がる反動をつけ、『クロスチョップ』をアブソルの首元に下から突き上げる。
伸び上がる反動をつけたその威力は、アブソルを確実に仕留めた。

ズッシャアアアァァァッ!!

コトウ 「決まったーー!! ドクロッグ、指示無しで『クロスチョップ』をカエル跳びでアブソルに敢行!!」
コトウ 「効果抜群の技に、アブソル溜まらずダウンです!!」

審判 「アブソル戦闘不能!!」

フィーナ 「く、戻れアブソル!」

シュボンッ!

相手はすぐポケモンをボールに戻す。
そして、すぐに私を睨みつける。
正直、鬱陶しい。
今、少しでも気を抜くとまた気を失いそうだわ。
ドクロッグが私の痛覚神経を毒で麻痺させてくれているおかげで、今何とか意識を繋ぎ止めている。
だけど、五感が上手く機能していない。
目が霞み、耳鳴りもする。
平衡感覚も失われつつある、鼻も効かない。
声を出すことだけが、今は出来るようだった。
握りこむ拳も感覚を感じない。

フィーナ 「何か、様子が変だが…! ボーマンダ『じしん』!!」

ミカゲ 「ドクロッグ『なげつける』!!」

ドクロッグ 『マニュ!』

マニューラ 『おおっ!!』

バッ! ガシッ! ゴゴゴゴゴッ!!

ドクロッグは私の指示を受け、マニューラと連携を組む。
マニューラは相手の攻撃よりも速くドクロッグの右腕に乗り、ドクロッグはそのままマニューラを、腕力でボーマンダに『なげつける』体制に入る。

コトウ 「こ、これはーーー!?」

フィーナ 「!?」

ドクロッグ 『行けっ!』

マニューラ 『後は任せろ!!』

ドッギュゥゥンッ!!

ボーマンダ 「ボーーーマッ!!」

ドッガアアアアアアアアアアァァァンッ!!

ドクロッグ 「グーー!!」

マニューラ 「ニュラーーー!!」

ボーマンダ 「!?」

ドッガァッ!! コッキィィンッ!!

マニューラはドクロッグに投げつけられ、その反動を使って『れいとうパンチ』をボーマンダに放つ。
『じしん』は放射系や直接打撃系ではないので、高速で効果範囲を抜ければ当たることはない。

コトウ 「な、何とーーー!! ドクロッグ、マニューラをボーマンダに向かって投げつけた!!」
コトウ 「ドクロッグが犠牲となって、ボーマンダを撃破に成功したーー!!」

審判 「ボーマンダ戦闘不能! よって、勝者ミカゲ選手!!」

ワアアアアアアアアアアアアアァァァァァッ!!

コトウ 「勝ち名乗りと共に、会場は大歓声! 今までの沈黙が嘘のようです!!」
コトウ 「妙な場面もいくつかありましたが、ミカゲ選手やはり強い!!」
コトウ 「フィーナ選手も、予想以上の大健闘に、会場からは声援が巻き起こっています!!」



………。



シュボボンッ!

ミカゲ 「…ぐっ」

私はポケモンをボールに戻すと、体を抱えてその場で倒れそうになる。
意識も同時に失いそうになる。
私はそのまま…



ガシッ!



ハルカ 「…ふぅ」

私は、咄嗟に近づき、ミカゲの体を支えてやる。
何となく、こうなるとは思っていた。
ミカゲは、きっと私たちの知らない『何か』と戦っている。
それが何かは知らないけど、ミカゲは『命』を賭けている。
そんな気がした。

キヨミ 「ハルカちゃん!?」

キヨハ 「……」

メフィー 「ハルカさん?」

ヒビキ 「………」

皆が不思議そうに私たちを見た。
そりゃそうでしょう、大して面識があるわけでもない、私がミカゲを支えているんだから。
でも、私は気にしなかった。

ミカゲ 「………」

ハルカ 「……」

ミカゲは気を失っているようだった。
このままここにいる必要は無い、私の試合はまだだし、医務室にでも連れて行きましょうか。

カミヤ 「ご苦労様、後は僕が引き受けるよ」

ハルカ 「? 研究員?」

カミヤ 「僕はカミヤ…しがない物理学者さ」
カミヤ 「ミカゲの保護者だよ♪ ありがとう、ハルカちゃん」
カミヤ 「ミカゲ…こんな性格だけど、仲良くしてあげてくれ」
カミヤ 「それじゃ」

カツカツカツ…

カミヤと名乗った自称、物理学者はミカゲを連れて会場を去る。
私はその背中を見えなくなるまで見送った。
そして、今度は敗者に目を向ける。

フィーナ 「…負けました」

ハルカ 「見ればわかるわよ」
ハルカ 「慰めなんて、いらないでしょ?」

フィーナ 「…はい」

フィーナちゃんは、涙ぐんだ声でそう言う。
悔しいんだろう。
だけど、本当に悔しいのは負けたからじゃない。

ハルカ 「少しは、ミカゲの事わかった?」

フィーナ 「はい…ずるいですよ、あんなの」
フィーナ 「あれだけ、ポケモンを道具扱いして、勝つことしか考えなくて…」
フィーナ 「でも、あんなにポケモンに信頼されてる…何でなんですか!?」
フィーナ 「私、私! 愛情だけなら負けないと思ってた! ポケモンとの信頼なら負けないと思ってた!!」
フィーナ 「なのに…なのにっ! ミカゲもポケモンに信頼されてるなんて…」

ハルカ 「…よしよし、今は思いっきり泣いちゃえ」
ハルカ 「お姉さんが受け止めてあげるから♪」

フィーナ 「うぅ…うわああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

フィーナちゃんの泣き声が会場に響き渡る。
フィーナちゃんは私の胸に顔を埋め、周りも気にせずに泣き叫んだ。

ハルカ (フィーナちゃん…)



………。
……。
…。



コトウ 「さて、ついに残す所、後3試合となりました!」
コトウ 「残ったバトルも、見所満載! 会場中の注目はなおも集まります!」
コトウ 「次の試合は、メフィー選手対マリア選手!!」
コトウ 「同じオーレ出身のフィーナ選手に続いて、メフィー選手も敗北してしまうのか!?」
コトウ 「それとも、ランキング上位を食って、駆け上がるのか!?」
コトウ 「いよいよ、バトル・スタートです!!」



メフィー (フィーナちゃん、あれだけ頑張ったのに、報われなかった)
メフィー (次は、私の番…勝てる確率は低そうだけど)
メフィー (やるだけやろう…悔いだけは残さないように)

マリア (はぁ…さっさと終わらせて、休みたいわ)

審判 「それでは、両者ポケモンを!!」

メフィー 「行きます!」
マリア 「出なさい…」

ボボボボンッ!!!! きらり〜ん☆

ライボルト 「ライッ!」
オーダイル 「オーッダ!!」

ガブリアス 「ガブッ!」
ロズレイド 「ロズ〜」

マリアさんが出したのは、ガブリアスとロズレイド。
結局、最初から最後まで変えてくることはなかった。
だけど、それなら、それで戦い方は考えられる。
今まで見たバトルじゃ、大したことはわかりません、だから後は全力で戦います!

コトウ 「これは珍しい! メフィー選手、色違いのライボルトを繰り出した!!」
コトウ 「対するマリア選手は余裕なのか、ポリシーなのか!?」
コトウ 「1回戦から決勝まで、全く同じポケモンで戦います!」



ハルカ 「ライボルトの色違いって、あんなのなんだ」

メフィーちゃんの出したライボルトは黒かった。
通常は青緑のような色だけど…黄色の部分も、少し暗い色になってる。

キヨミ 「初めて見るわね…」

キヨハ 「だけど、今回の戦いでは不利だわ」

ヒビキ 「確かに…電気技はどちらにも通じ難い、むしろオーダイルのサポートと踏むべきか」

フィーナ 「メフィーは、きっとオーダイルをメインアタッカーに置いているんだと思います」

ハルカ 「…ダブル用のスタンスってことね」
ハルカ 「ダブルバトルなら、攻撃と防御に役割を分けて専門的にさせた方がいいってわけね」

ダブルでは、シングルのセオリーはほとんど通用しない。
むしろ、ダブルを重視するなら、戦い方は完全に切り替えなければならない。
ダブルバトルが主流のオーレ仕込み…こちらとは、まるで違うバトルを見せてくれるでしょうね。

キヨハ (だけど、相手の余裕は気になるわね)
キヨハ (メフィーちゃんの実力はそれほど低くない、むしろダブルバトルでならフィーナちゃんよりも上だわ)
キヨハ (言ってしまえば、メフィーちゃんはダブルバトルのエキスパート)
キヨハ (ここまでの戦いを見る限り、圧倒的な強さだけで、特に目立ったテクニックは見せなかったマリア)
キヨハ (気になるわね…何を隠しているの?)



審判 「それでは、バトル・スタート!!」

マリア 「ガブリアス『じしん』、ロズレイドは『まもる』よ」

メフィー 「ライボルト『まもる』! オーダイルは『れいとうビーム』!」

ガブリアス 「ガッブァ!!」
ロズレイド 「ロズ〜」

ガッ! ドギャアアアアァァァァンッ!!

ライボルト 「ライ〜!」

ピキィィンッ!!

ガブリアスは先制でいきなり『じしん』を放ってくる。
フィールドの中心で地響きが置き、凄まじい振動と共に、フィールドが割れた。

オーダイル 「オーダ!! オーーーーーー!!」

コオオォォッ!!

オーダイルは何とか耐え切り、反撃を開始する。
ガブリアスは氷に弱い、当たれば一気にダウンだって!!

マリア 「ガブリアス『あなをほる』」

ガブリアス 「ガブァッ!!」

ドゴゴァッ!! キィィンッ!!

メフィー 「そんな!?」

ガブリアスは信じられない速度で地中に潜る。
あのタイミングで先に動くなんて…ありえない。

コトウ 「ガブリアス、素晴らしい動きです! 攻めも守りも非常にハイスピード!」
コトウ 「強力なドラゴンタイプならではの、ハイスペックなバトルだ!!」

メフィー 「オーダイル、ロズレイドに『かみくだく』! ライボルトは『みがわり』!」

オーダイル 「オーダ!!」

ズシンズシンッ!!

ライボルト 「ライッ!」

ボンッ! ストンッ!!

私は、ガブリアスの攻撃がライボルトに向くと予想して『みがわり』を張る。
これなら、どれだけ威力が高くても一撃で倒れることは無い。

コトウ 「ここでライボルト、『みがわり』を作りました! 『あなをほる』に対しての対策か!?」

マリア 「ロズレイド、『マジカルリーフ』…」

ロズレイド 「ロッズレイ!!」

ヒュヒュヒュッ!! バババッ!!

オーダイル 「オ、オダー!!」

オーダイルは接近しきる前に攻撃を受ける。
効果抜群だけど、まだダウンはしてない! 接近できれば、こっちのもの!!

ドッガァッ!!

オーダイル 「オ、オダーーーー!!」

ガブリアス 「ガブァッ!!」

ヒュゥゥ…ズシシィンッ!!

攻撃に入る瞬間、ガブリアスは地底から飛び上がってオーダイルを攻撃してきた。
私の予想とは全く違う行動に、私は驚きを受ける。

審判 「オーダイル戦闘不能!!」

コトウ 「何と、ここでガブリアス、オーダイルを攻撃!! 指示を受けてなかったとはいえ、ポケモンが自分で最良の判断をしたのかぁ!?」

メフィー 「そ、そんな…オーダイルが狙いだったなんて」

シュボンッ!

私は、何もできなかったオーダイルを戻す。
呆気に取られていた私は、一瞬私は隙を見せてしまう。

マリア 「やっぱりつまらないわね、もう終わりにしましょうか」
マリア 「ロズレイド『タネマシンガン』、ガブリアス『げきりん』…これで終わりね」

メフィー 「ライボルト!!」

ロズレイド 「ロズーーー!!」

ドガガガガガガァッ!! ボンッ! ガガガガガガッ!!

ライボルト 「ラ、ライーーー!!」

ロズレイドの『タネマシンガン』が連続ヒットし、『みがわり』を壊して更にライボルトの動きも止めた。
そして、狙い済ましたガブリアスの『げきりん』がライボルトを無常にも襲う。

ガブリアス 「ガッブアアアアアァァァァァァァッ!!!!」

ドッグオォォンッ! ドッガァァァッ!!! ドッシャアアアアアァァァァッ!!

審判 「ライボルト戦闘不能! よって勝者マリア選手!!」

ウオオオオオオオオオオオオオォォォォッ!!

メフィー 「…あ」

ガブリアスは右爪をライボルトに振るい、同時に爆発音に似た音を立ててライボルトを吹き飛ばした。
桁外れの威力に、ライボルトは壁まで叩きつけられそこから跳ね返って更に地面と擦れあった。
その後、ライボルトはピクリとも動かなかった…。

コトウ 「何と言う、幕切れ! マリア選手、堂々の完勝です!」
コトウ 「これが上位ランカーの実力なのか!? 下位ランカーとの実力を見せ付けたような展開!」
コトウ 「メフィー選手、一度も攻撃を当てることが出来ずに敗北です!!」



………。



ハルカ 「つ、強い…」

まさに圧倒的。
ミカゲとフィーナちゃんの戦いは、まだもう少しマシだったのに…。
あれが、ガブリアスの強さ。
確かに、一番人気と言われるだけのことはある…あんなポケモン、どうやって倒すのよ。

キヨミ 「想像以上ね…確かに、ミカゲと同等かもしれないわ」

キヨハ 「ええ、まるで勝って当たり前の様な立ち振る舞いね」

ヒビキ (なるほど、決勝リーグは予想以上に凄まじい展開になりそうだな)

フィーナ 「メフィー…」



………。



メフィー 「……」

シュボンッ!

私はポケモンをボールに戻して立ち尽くす。
会場はマリアさんの勝利を称え、ヒートアップする。
私は、何も出来なかった。
もしかしたら、勝てる…何て、甘いこと思ってた。
私には、どうしようもない…これが、現実。

マリア (…ふぅ、今日は部屋に戻りましょう)

スタスタスタ…

マリア選手は、私には一瞥もくれず、会場を去っていく。
私は、そんな彼女の背中さえ、見ることは出来そうになかった。



………。



フィーナ 「メフィー!」

メフィー 「ごめんなさい、負けました」

ハルカ 「…メフィーちゃん」

メフィーちゃんは、肩を落としてそう呟いた。
口で言うほど、穏やかじゃない、かなりキテるわね。

キヨミ 「恥じることはないわ、相手が悪すぎた…それだけよ」

キヨハ 「ええ、メフィーちゃんは十分に実力のあるトレーナーよ、気を落とさないで」

ヒビキ 「………」

ハルカ 「……」

メフィー 「あ、あはは…大丈夫です、私はそんなに気にはしてないですから」
メフィー 「…はは」

どう考えても空笑い。
気にしないはずがない。
今まで、彼女だって一緒に頑張ってきた。
特訓だって、一緒にやった。
それが、こんな結果で終わる…努力した結果がこれじゃ、これほど辛いことはない。
ましてや、私たち以外の相手に負けたとあっちゃ。

ハルカ (下手をすれば、次は我が身か…)

次の次が私の試合。
相手はミツル君、決して楽な相手じゃない。
負ければ、フィーナちゃんやメフィーちゃんと同様、苦渋を舐めることになるのね。

ハルカ (でも、不思議と怖くはない)

逆に安心感がある。
開き直っているのか、それとも自信の表れなのか。
ミツル君との戦いは、勝ち負け以上の結果が約束されている…そんな気がした。

ハルカ (そして、私には確かな『想い』がある。それは…)
ハルカ 「ポケモンバトルは…勝ち負けだけじゃない」

メフィー 「…え?」

フィーナ 「ハルカ、さん?」

キヨミ 「……」
キヨハ 「………」
ヒビキ 「……」
皆が、私に注目する。
何を言っているんだろう?とでも言いたいのかもしれない。
だけど、これが私想っている確かなことだ。

ハルカ 「…バトルに勝つために、トレーナーもポケモンも強くなる」
ハルカ 「だけど、それは決して勝ち負けにこだわって強くなるんじゃない」
ハルカ 「ポケモンは、トレーナーと心を通じ合わせて、『生きるため』に強くなる」
ハルカ 「…まだトレーナーになって1年も経たない新米だけど、私はそう思ってる」

キヨミ (ハルカちゃん、センリさんと同じようなことを…)
キヨハ (血は争えない…か)
ヒビキ (良く言えば、愛情…悪く言えば軟弱か)

メフィー 「そ、そうですよね! 勝ち負けにこだわるのは、良くないですもんね」
メフィー 「あは、あはははは…」

メフィーちゃんは笑って見せた。
悔しいのは当たり前、慰めには…ならないわね。

フィーナ (…勝ち負け、か)
フィーナ (私は、ミカゲとのバトルでは、こだわってたのかもしれない…)
フィーナ (あのバトルの中で、私もポケモンを少なからず軽視していたのかもしれない)
フィーナ (ミカゲは、ポケモンを軽視なんてしてなかった…あの必死な顔)
フィーナ (何が何でも勝つんだと言う、執念…。ミカゲはポケモンの状態を見て、すぐに最良の行動を取った)
フィーナ (第3者から見れば、勝利にこだわる悪魔のような存在に見える…私もそう思ってた)
フィーナ (でも、違う…ミカゲが勝利にこだわる理由はともかく、ミカゲはポケモンのことも考えて、ああいった戦いをする)
フィーナ (それが、悪魔的なバトルだろうと、狂気の勝利だろうと、結果的にポケモンはダメージで傷つかなくなる)
フィーナ (ミカゲが、産まれる前からポケモンの素質にこだわるのは、もしかしたら…)

何だか、フィーナちゃんが深く考え込んでしまう。
う〜ん、やっぱり変なこと言ったのかな?



………。
……。
…。



コトウ 「さぁ、次の試合が始まろうとしています!」
コトウ 「すでに両者、ポケモンもスタンバイ! 後は合図を待つばかりです!」



オトメ (…さ〜て、どないしよかなぁ)

ドンカラス 「………」
パチリス 「パッチパッチ♪」

ザラキ 「………」

マンムー 「マンッ」
ベトベトン 「ベ〜ト〜」

相手のザラキ選手は、両腕を組み微動だにせず合図を待っとる。
向こうのポケモンは、いつでも突っ込める体勢やな。
せやけど、あの選手はまず自分からは動かん。
今までのバトルを見て明らかや。
せやから余計嫌やねんな…。

審判 「それでは、バトル・スタート!!」

オトメ 「……」
ザラキ 「……」

コトウ 「お〜っとぉ? これまた静かな立ち上がり!」
コトウ 「互いに付け込む隙がないのか、互いの選手は動こうとしません」



………。



ハルカ 「…な、何か空気が重い」

キヨミ 「あの人が相手じゃ迂闊には攻め込めない、とはいえ…」

キヨハ 「ええ、ただ待つだけの人じゃないわね」

ふたりがそう言うとほぼ同時に、ザラキさんは顔をつきを変えて相手を睨むのが見えた。



ザラキ 「そちらに攻める気がないのならば、こちらから仕掛けさせてもらう!!」
ザラキ 「マンムー『こおりのキバ』! ベトベトン『のしかかり』!!」

オトメ (!? 対象指定無しかいな!)
オトメ 「パチリス、マンムーに『てんしのキッス』! ドンカラスは『そらをとぶ』!」

パチリス 「パッチ〜♪ チュッ☆」

パァンッ! ピロピロピロ〜♪

マンムー 「マ!? マン〜〜!!」

ドドドドッ!! ズッドォォンッ!!

ワテはすかさず指示を出し、攻撃を受け流す。
パチリスの技にマンムーは『こんらん』して、見事に壁まで突っ込んでくれた。
勢いが良すぎたのが災いやな。
まずは、一手…

ドンカラス 「ドン!」

バビュゥッ!!

ベトベトン 「ベト〜!?」

ドッズゥゥンッ!!

コトウ 「オトメ選手お見事!! 先制攻撃を仕掛けて来たザラキ選手の攻撃をいともたやすくいなした!!」
コトウ 「舞妓の姿で、おしとやかなイメージのある選手ですが、バトルになれば激しくも美しい!」
コトウ 「肩の辺りで結った黒髪が激しく靡くも、彼女の表情は全く揺らぎません!」

ザラキ (むぅ…こちらの攻撃を待っていたというわけか)
ザラキ (予想通り、出来るな…正攻法だけでは倒しきれぬか)

オトメ (さ〜て、まずは流れをもらう…次は少し暴れてもらうか)

ワテは相手のポケモンの状態をすぐに確認し、次の行動に入る。
あんなのが相手や、まともなバトルはしてられん。
せいぜい引っ掻き回したる。

ザラキ 「マンムー『こおりのつぶて』! ベトベトンは『ヘドロばくだん』!!」

オトメ (って、真っ向勝負かいな!?)

予想外にそのまま突っ込んでくる。
普通、ここは変化球なり外すなりするやろ…直球勝負やで。

マンムー 「マ〜ン〜!!」

ヒュヒュヒュッ!!

コトウ 「あ〜っと! マンムー混乱して狙いが定まらない! 適当な方角を撃ち抜いた!!」

オトメ 「ドンカラス今や! マンムーをアタック!!」

ドンカラス 「ド〜ン!!」

ドッガァッ!!

マンムー 「マンーー!!」

ドンカラスの急降下アタックがマンムーの顔面に当たる。
混乱している所への一撃、さすがに効いたやろ。

ザラキ 「渇!! 目を覚ませマンムー!! 『ストーンエッジ』だ!!」

マンムー 「!? マーーーーンーーー!!」

ズドドドドドドドドォッ!!!

ドンカラス 「カラーーーーー!!??」

コトウ 「何と、ザラキ選手の一喝にマンムー正気に戻ったぁ!! 反撃の『ストーンエッジ』がドンカラスを強襲!!」

オトメ (そんなんありか!? 単純すぎんで!!)

マンムーは地面を前脚で強く叩き、ドンカラスの真下から無数の鋭利な岩を噴出させる。
ショットガンのような岩の散弾にドンカラスはあえなく倒れた。
それと同時、ベトベトンの攻撃もパチリスに向かう。

オトメ 「回避やパチリス!」

パチリス 「パチッ!!」

ドビュゥッ! ビッチャアアアンッ!!

かろうじて、攻撃を回避するパチリス、当たっとったらやばかったな。
しかし、こうも簡単に流れを変ええられるとは…。

審判 「ドンカラス戦闘不能!!」

オトメ 「戻りなはれ…ドンカラス」

シュボンッ!

ワテはドンカラスをボールに戻し、次の手を考える。
あかん…無理や。
どうひっくり返っても、勝てへんやろ…潮時やな。

オトメ 「…審判はん、ここまでや…降参どす」

コトウ 「おーーっとぉ!! ここで決着が着いたー!! オトメ選手、降参を選びましたー!!」

ザラキ 「…む」

オトメ (ふ〜…やっぱあかんな、長いことバトルはやっとらんかったからなぁ)
オトメ (ま、正体バレん内にさっさと姿変えますかな)

シュボンッ!

ワテはそう行って、パチリスをボールに戻す。
そして、ザラキ選手に一礼してワテは会場を去った。



………。



ハルカ 「うわ…やっぱ圧倒的」

フィーナ 「混乱させてるのに、一声で直しちゃいましたよ…」

メフィー 「まるで死角がないですね…攻めても駄目、撹乱しても駄目」

キヨミ 「あれが、ザラキさんの強さよ…勝つには真っ向勝負しかないわ」

キヨハ 「そうね、かき回そうとしても、一気に押し流されるのがオチね」

ヒビキ (何と言うバトルだ…原始的すぎる、近代的なバトルをあっさり覆す、力とレベルと気迫)

ハルカ (勝ち続ければ…いずれアレと戦うのか)

前に戦ったアレだけで、ザラキさんの性質はよくわかった。
ザラキさんは常に攻めることしか考えない。
例え、致命傷を受けても、相手が倒れればそれでいい戦い…。
ポケモンを傷つけずに戦う、ミカゲの戦い方とは対照的な、ミカゲとは逆の意味で圧倒的なバトル。

ハルカ (駄目だ…勝てる気がしない)

当然のことだけど、今のレベルじゃ到底太刀打ちできない。
私は、まだ強くならないと。



………。



ザラキ 「………」

ラファ 「…お疲れ様です、ザラキさん」

ザラキ 「…ラファ殿か」

ザラキさんは何やら煮え切らない顔をしていた。
先ほどのバトルに満足のいかない点があったのかしら?
少なくとも、悪くないバトルだったと思うけど。

ザラキ (降参か…小生は考えたこともなかったな)
ザラキ (戦いに置いて、相手に背を向けたことはなかった)
ザラキ (ポケモンを気遣い、危険とあらばバトルを中断するのはトレーナーの勤め…ふ、センリが口癖のように言っていたな)



ミツル (凄い…あれがザラキさんのバトル)
ミツル (とても僕には真似できない…だけど、真似する必要ないんですよね)
ミツル (ついに、この時が来た…目指していたハルカさんとのバトル!)
ミツル (フルバトルじゃないのが悔やまれるけど、全力を尽くします!)



………。
……。
…。



コトウ 「さぁ、ついに最後の戦いが始まろうとしております!!」
コトウ 「長かった予選を潜り抜け、ついに最後の決勝リーグ出場を決めるバトルが、今! 幕を開けます」


ハルカ (…ここまで、皆のバトルを見てきた)
ハルカ (あくまで、自分の力を信じるキヨミさんとキヨハさん)
ハルカ (鬼のような執念を見せ、ミカゲ打倒に燃えるヒビキさん)
ハルカ (まだ本当の実力がまるで見えてこない、ラファさん)
ハルカ (フィーナちゃんを打ち負かした、何かを背負って戦うミカゲ)
ハルカ (メフィーちゃんを軽く退け、強さを見せ付けたマリアちゃん)
ハルカ (ポケモンを気遣い、降参を選んだオトメさんに、常に一意専心のザラキさん)

これらのバトルは、実に様々な経験を見せてもらえた。
経験の浅い私にとっては、そのどれもが真新しく感じる。
そして、多分…彼もそう。



ミツル (ずっと目指していたハルカさん…最初は年上の頼れるお姉さんみたいな感じだった)
ミツル (舞い上がってた僕を蹴落とし、這い上がる執念を教えてくれたハルカさん)
ミツル (そして、今また、僕の前に立ちふさがるハルカさん)
ミツル (僕は、バトルで伝えたい)
ミツル (僕は、強くなったことを…僕は、ずっとハルカさんを目標にしていることを!)

審判 「それでは、両者ポケモンを!!」

ハルカ 「!!」
ミツル 「!!」

私たちは同時にふたつのボールを構える。
互いの手持ちはまだわからない、相性が不利になる可能性は十分ある。
だけど、今の私は相性なんて考えない! 一番信頼できるポケモンをぶつける!!
勝つんだ…勝って、もっと強くなる!!

シュボボボボンッ!!!!

バシャーモ 「シャモッ!」
マッスグマ 「グマ…」

サーナイト 「サ〜!」
チルタリス 「チル!」

コトウ 「さぁ、互いのポケモンが同時に出てきました!!」
コトウ 「ハルカ選手はバシャーモとマッスグマ! ミツル選手はサーナイトとチルタリスです!!」
コトウ 「相性だけで見れば、ややミツル選手の方が有利か!?」
コトウ 「いよいよ、バトル・スタートです!!」

審判 「それでは、バトル・スタート!!」

ハルカ 「先手はもらうわよ! バシャーモ、チルタリスに『でんこうせっか』!!」
ミツル 「先手を取る!! サーナイト、マッスグマに『サイコキネシス』!!」

バシャーモ 「シャモー!」
サーナイト 「サー!」

私たちは同時に叫ぶ。
考えていることは同じ、まずは先手を取ることだった。
やはり、ミツル君は私と戦い方が似ている。
考え方も、タイミングも全く同じだ。

バシャーモ 「シャモッ!!」

ドッガッ!!

チルタリス 「チルッ!」

ドッギュウゥンッ!!

マッスグマ 「グマッ!!」

ドギャァッ!!

コトウ 「まずはオープニングヒットでハルカ選手が先制!!」
コトウ 「ミツル選手の攻撃は惜しくも失敗だ!!」

ハルカ 「よしっ!」

マッスグマの動きはいい、指示を与えなくても回避してくれてる。
私との付き合いも長いから、大体考えていることはわかってくれてる!
この調子なら、まだまだ行ける!!
スパートかけてくわよ…限界なんて、突破できなきゃ先は見えないんだから!!

ミツル (やっぱり、ハルカさんは凄い! いや、ハルカさんのポケモンが凄い!)
ミツル (ポケモンとの、絶対的な信頼感をひしひしと感じる)
ミツル (ハルカさんはポケモンの行動を信じきっている)
ミツル (必要最小限の行動を指示し、可能な限り素早く対応させようとしてる)
ミツル (僕とハルカさんの戦い方は似てる…でも、最初の攻防で差ができたということは…)



キヨハ 「見えたわね、差が」

キヨミ 「ええ、僅かな差だけど、ね」

ヒビキ 「だが、この場合は重要な意味を持つ」
ヒビキ 「互いのバトルが同じ性質なら、差が出来るのは実力に差がある証拠」
ヒビキ 「勝敗を分けるのは…」

キヨミ 「成長力…」

キヨハ 「どちらの潜在能力が高いのか、これでわかるわね」



ハルカ 「続けて行くわよ! マッスグマ、サーナイトに『ずつき』!!」
ハルカ 「バシャーモはチルタリスに『スカイアッパー』!!」

マッスグマ 「グマ!」
バシャーモ 「シャモッ」

ドドドドドドッ!!

私のポケモンが同時に走り始める。
地上のサーナイト、空中のチルタリスに狙いを定め、一気に接近した。

ミツル 「正攻法だけがバトルじゃないですよ! サーナイト『テレポート』から『かげぶんしん』! チルタリスは『つばめがえし』!!」

サーナイト 「サー」

ヒュンッ!

マッスグマ 「グマッ!?」

ズザザァァッ!!

マッスグマは標的を見失い、壁際まで飛んでいってしまう。
その後、すぐに周りを見て相手を探す。

ブン! ブン! ブン!

サーナイトA 「サー」
サーナイトB 「ナー」
サーナイトC 「サー」

マッスグマ 「!!」

分身したサーナイト見てマッスグマが驚く。
さすがに一筋縄じゃいけないか…!

バシャーモ 「シャモーー!!」

チルタリス 「チルーー!!」

ヒュッ! ドガァッ!!

バシャーモ 「シャモーー!!」

チルタリスは瞬時にバシャーモの背後に回り、攻撃を加える。
空中でモロに攻撃を受けたバシャーモは体勢を崩して地上に落ちた。

ドッシャァッ!

バシャーモ 「シャ、シャモ!」

コトウ 「今度はミツル選手が反撃!! チルタリス、『つばめがえし』でバシャーモを迎撃! 効果は抜群だーー!!」
コトウ 「更にサーナイトは『かげぶんしん』で相手を撹乱! ハルカ選手、嫌な流れになってきたぞーー!?」



ノリカ 「ハルカ様ーーー!! ファイッ!!」

ハルカファン一同 「ファイット! ハルカ様!! ハルカ様! ビクトリーーーー!!!」

サヤ 「ハルカさんのポケモンは、絶好調と言ってもいい、でも相手は更にそれを上回った」

アムカ 「はや〜…マッスグマ可愛い〜♪」

カタナは全く違う所に注目していた。
そう、バトルには興味がないのね…。



キヨミ 「才能、か」

キヨハ 「差があると思った途端、本人がレベルアップしてきたわね」

ヒビキ 「信じられん速度だ…さっきの攻防だけで」

フィーナ 「でも、ハルカさん、面食らっているようには見えないけど…」

メフィー 「むしろ、笑ってる?」



ハルカ (やっぱり、ミツル君は強い! こうなるのはわかってた…)
ハルカ (最初の攻防では、私は切り返されると思ってたけど、私の方が優勢だった)
ハルカ (だったら、押し切れるかと思えば、こうやって切り返される)
ハルカ (やっぱり、私たちは同類だわ…)

ミツル (一手一手が緊張の連続…でも、凄く心地いい)
ミツル (相手が強いとわかった途端、すぐにそれを超えたくなる)
ミツル (そして、ポケモンはそれに反応して強くなる、まるで出来ないはずの進化をするかのごとく!!)

私たちは、互いに笑いあっていた。
次の行動に冷や汗を流しながら、次の手を模索する。
下手な手は逆効果だ。

ミツル 「サーナイト、バシャーモに『サイコキネシス』!! チルタリスはマッスグマに『りゅうのいぶき』!!」
ハルカ 「マッスグマ! 『ふぶき』よ!!」

サーナイト 「サ〜!」
チルタリス 「チル〜!!」
マッスグマ 「グーマーーーーーーーーーーー!!!」

ビュゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォッ!!!

チルタリス 「チ、チルーー!!」

ビュゴオオオォォッ! ゴオオオワアアアアアアアアアアァァァァッ!!

サーナイト 「サーーー!!」

ビュゴゴゴゴゴゴゴォォォォッ!!

マッスグマは相手の行動よりも速く、技を繰り出す。
『ふぶき』は全体攻撃系の技で、2体相手でも同時に攻撃できる。
しかも威力は氷タイプの技の中でも、最高!
命中率が不安な技だけど、相手の意表をつければ十分当てられる!

コトウ 「決まったー!! 意表をついたマッスグマの『ふぶき』!! 分身もろとも、ミツル選手のポケモンを全体攻撃だーー!!」

チルタリス 「チ、チル…」

ミツル 「頑張れチルタリス!! バシャーモに『うたう』!!」

ハルカ 「そうは行かないわ! バシャーモ離れて『だいもんじ』!!」

バシャーモ 「シャモッ! シャ〜モーーーー!!」

バッ! ゴバァッ!!

チルタリス 「チル〜ル〜♪ チルル!?」

ドッグォォォンッ!!

バシャーモはバックステップし、後ろに飛び跳ねた状態から炎を吐き出す。
巨大な火球が歌い始めたチルタリスに命中し、見事に動きを止めた。
例え効果が今ひとつでも、十分よ!!

コトウ 「ハルカ選手、見事な技選択! ミツル選手、裏をかかれたーー!!」



キヨミ 「ハルカちゃん…」

キヨハ 「また、巻き返したわね…」

ヒビキ 「………」

フィーナ 「凄い…目が離せない」

メフィー 「どんどん、私たちの手の届かない所に登っていく…」



ハルカ 「次々行くわよ! マッスグマ、サーナイトに『シャドーボール』!!」

ミツル 「やっぱり来た! サーナイト『きあいだま』!!」

サーナイト 「サーーナーー!!」

マッスグマ 「グマー!」

ドギュゥンッ!! ギュウゥゥゥンッ!! ギュバアァァッ!!!

互いの遠距離技が交錯する、ぶつかることはなく互いに向かってやや逸れた方向に飛び込んだ。
相手の技は知らない技だ、効果もわからないけど…。

ハルカ (食らったら、ヤバイ!?)
ハルカ 「マッスグマ!!」

マッスグマ 「!! グ、グマッ!」

ドッギャアアアアアアアァァァァッ!! バァァァンッ!!

互いの技はお互いの肩を掠めて後ろの地面に着弾した。
爆発音と共に、互いは体勢を崩す。
今の威力…桁違いだわ、食らったら間違いなく倒れてた。

ミツル 「チルタリス『はねやすめ』!!」

ハルカ 「バシャーモ、もう一発『だいもんじ』!!」

チルタリス 「チルル〜…」

バシャーモ 「シャ〜モーーー!!」

ゴバァッ!!

ミツル 「来た! サーナイト『ねんりき」!!」

サーナイト 「サナッ!」

ギュウゥンッ!! ドバァァンッ!!

ハルカ 「しまった!?」

バシャーモの放った『だいもんじ』は『ねんりき』で起動を逸らされ、地面に着弾する。
距離が離れすぎた、みすみす回復させてしまうなんて!

コトウ 「ミツル選手、見事なコンビネーション! ポケモン同士でカバーするバトルではややミツル選手の方が上か!?」



キヨミ (考えていたわけじゃない、咄嗟の判断であんな行動を取った)
キヨミ (わざわざ、威力の低い『ねんりき』で咄嗟の対応をするなんて…出の速い技を選択する判断力、さっきまでの彼ならできなかった)

キヨハ (凄いことになっているわ…このバトル、もしかしたらハルカちゃんの力を、限界近くまでを引き出すかもしれない)
ヒビキ (これが…成長力。恐ろしい力だ…相手の能力に合わせて、際限なくレベルが上がっていく)

フィーナ 「すげぇ、すげぇ! どっちもすげぇ!!」

メフィー 「まだ強くなってる…どこまで行くのでしょう!?」

ラファ (まさか、ここに来てあんな強敵が現れるなんて)
ラファ (軽視していたわけじゃないけど、もしかしたらあの娘は…)

ザラキ (ふふ…まだ決まらぬか。さぁ、センリの娘よどうする?)



ハルカ 「ふふふ…面白くて仕方がないわ」

私は呟く。
このデッドヒートを私は楽しんでる。
ミツル君もそう、頬を滴り落ちる汗が緊張感をどんどん上げていく。
私たちは、今強くなっているんだと、実感する。
相手がミツル君でよかった…実力が近いから、私は一気に強くなれる。


ミツル 「やっぱり、ハルカさんは最高です…!」

僕は今日ほどバトルが楽しいと思ったことはない。
相手がハルカさんだから、僕は全力を出せる。
でも、僕の予想を超えてポケモンが強くなっていく。
僕は、それが嬉しかった。



ノリカ 「ハルカ様ーーー!! まだ負けてないですよーーー!! ガンバレーーーーー!!」

ハルカファン一同 「ハルカ様! ハルカ様! ハルカ様!!」

サヤ (ハルカさん、凄く楽しそう…)

アムカ 「うう…頑張れマッスグマ! 負けるな〜!」

ノリカは必至に応援する。
カタナも別の方向で応援している。
私は心の中で思う。
ハルカさんが、どこまで強くなれるのか、見てみたい…と。



チルタリス 「チルル〜♪」

ミツル 「よし、回復した! チルタリス地面に『れいとうビーム』!!」

チルタリス 「チルー!!」

コォォキィィンッ!!

ハルカ 「!?」

コトウ 「なんと、ここでミツル選手がフィールドを凍らせる!! フィールドの大半が氷の地面になったぞーー!?」
コトウ 「だが、バシャーモの存在ですぐに氷は解け始める! 一体この意味は!?」

ハルカ (やばい! 水蒸気で相手が見えなく…!!)

ジュジュ〜…!

足元の氷はすぐにバシャーモの熱で溶け始め、水蒸気を出す。
バシャーモのいる位置は私の前方辺り、その先、フィールド中央にチルタリス、その後ろにサーナイトとマッスグマが左右に待機している。
つまり、位置的に見ると、私はまるで先が見えない状態になった。

ミツル 「まだです! チルタリス『しろいきり』!!」

チルタリス 「チルル〜」

ゴオオオオオオオォォォッ!!

ハルカ 「!?」

コトウ 「ミツル選手、変則的なバトルを展開!! ハルカ選手、果たして相手が見えているのか!?」

見えていない。
はっきり言って、視界は完全に封じられた。
相手の距離は離れている、闇雲に飛び道具を撃っても当たりはしない。
肝心のマッスグマも距離が離れすぎてどうなっているのかわからない。
まずい、相手の術中にはまった!

ハルカ (落ち着け…落ち着くのよハルカ!)
ハルカ (相手を見るのは、顔に着いているふたつの眼だけじゃない! 私には、まだミツル君の知らないもうひとつの『眼』がある!)

私は心の中でそう叫び、実戦で初めて使う戦法を試みる。
まず、精神を沈め、眼を瞑る。
どの道、視界は封じられてる、それなら余計な物は一切見なくていい。

ハルカ 「………」

ミツル (ハルカさんが何を考えているのか、僕にはわからない)
ミツル (でも、僕のポケモンは僕の心を読むことが出来る!)
ミツル (声を出せば位置は探られる、それなら声を出さずに指示を出す!)
ミツル (サーナイト、マッスグマに『きあいだま』だ!)

サーナイト 「!! サーー!!」

ハルカ 「見つけた! マッスグマ、正面に『ずつき』!!」

ミツル 「!?」

マッスグマ 「グマーー!!」

ドッゴォォッ!!

サーナイト 「サ、サ〜!!」

ズシャァッ!!

鈍い音がして、その後に何かが床に落ちる音。
多分、サーナイトが倒れた音だ。
私はまだ目を瞑っている、そして私は『心』で状況を確認する。

ハルカ (サーナイトは健在、まだ起き上がる! チルタリスは指示待ち、バシャーモとの距離は離れてる)
ハルカ 「バシャーモ、正面に向かって『でんこうせっか』!!」

バシャーモ 「シャモーー!!」

ドギューンッ!!

バシャーモは一気に正面へ飛び込む。
対角線上にはチルタリスがいる、だけど。

ミツル 「チルタリス上昇!」

チルタリス 「チルー!」

バシャーモ 「シャモ!?」

サーナイト 「サー!?」

ドッゴォォッ!!

ミツル 「え!?」

そう、チルタリスには当てるつもりなんか初めから無い。
私の目標はサーナイト。
丁度、さっきの『ずつき』で位置が変わったのを私は見逃してない。
たまたまバシャーモとチルタリスの対角線上の『地上に』サーナイトがいただけ。
だけど、それは十分に効果があった。
バシャーモの攻撃はサーナイトにバッチリヒット。
サーナイトから、気が薄れる。
これで…1体!

ドサッ! ビュゥゥゥ…!

さっきの攻防で、霧が薄らぎ、状況を目視できるようになった。
審判は慌てて周りを見渡し、すぐに宣言を行う。

審判 「サ、サーナイト戦闘不能!」

コトウ 「な、何だかわからない内にサーナイトがダウン!!」
コトウ 「いくつかの声があがっていましたが、どうやらハルカ選手が攻撃を成功させた模様です!!」

ワアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァッ!!

ミツル 「そ、そんな馬鹿な…! どうやって位置を…!」

シュボンッ!

ハルカ 「……」

私はニヤリと笑ってみせる。
状況が飲み込めていないミツル君は慌てふためいていた。
そして、私はこの時点で確信する。

ハルカ 「どうやら、私の方がミツル君よりも成長が速かったみたい…」

ミツル 「!?」



キヨミ 「…姉さん、わかった?」

キヨハ 「…ここからじゃ、よくわからないわ」
キヨハ 「ただ、ハルカちゃんには全部『見えて』いたようね」

ヒビキ 「あの状況でか? 一体どうやって…」

フィーナ 「な、何かわかんないけど、凄いぜハルカさん!!」

メフィー 「まるで、エスパーです!!」

キヨハ 「!? エスパー…まさか」

キヨミ 「?」

姉さんは何に気づいたようだった。
だけど、それが何かは私にはわからない。
ただ言える事、わかったことは。

キヨミ (やったわね、ハルカちゃん…今、あなたは本当意味で流れを掴んだわ!)



ミツル 「く…まだ負けたわけじゃない! 諦めるもんか!!」
ミツル 「チルタリス、バシャーモに『りゅのいぶき』!!」

ハルカ 「マッスグマ『ふぶき』!!」

ミツル 「!?」

チルタリス 「チルーーー!!」

ゴオオオォォォッ!!

マッスグマ 「グマーーーーーーーー!!!」

ビュゴオオオオオオオオオオオオオオォォォッ!!

ハルカ 「バシャーモ、耐えて見せなさい!!」

バシャーモ 「シャモッ…!!」

ゴバアアアアァァァッ!!

バシャーモは正面から『りゅうのいぶき』を受け止める。
今までの中で一番強烈なソレをバシャーモは耐え切る。
そして、攻撃途中のチルタリスは無防備に弱点の『ふぶき』を食らうことになる。

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォッ!!

チルタリス 「チ、チル……!」

ドスンッ!!

チルタリスは耐えることができず、地上に落下する。
それを見て、ミツル君は無言で顔を背けたまま、チルタリスをボールに戻した。

審判 「…チ、チルタリス戦闘不能!! よって勝者、ハルカ選手!!」

ウオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッ!! ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァッ!!!

コトウ 「ついに、ついに決着!! 数々の攻防を繰り返し、激戦を行ったふたりの戦いに、今終止符が打たれました!!」
コトウ 「2体2で行われた、小規模なバトルに、フルバトルでも行ったかのような緊張感!!」
コトウ 「今、ハルカ選手に勝利が宣言! 最後の決勝進出者は、テスト最下位のダークホース! ハルカ選手ですーーー!!」

ノリカ 「やったやったーーーーーーーーーー!! ハルカ様サイコーーーーーーーーーーー!!」

ハルカファン一同 「L! O! V! E! ハルカ様ーーーーー!!」

サヤ (おめでとうございます、ハルカさん)

パチパチ!!

アムカ 「やった! マッスグマ勝利!」

パチパチパチパチパチ!!

コトウ 「お聞きください、この声援と満場の拍手!!」
コトウ 「まだ、予選だというのに、これほどの熱気!!」
コトウ 「ふたりのバトルには、会場全体を揺るがすほどの、ドラマがあったと言えるでしょう!!」
コトウ 「本日のメニューはこれにて終了! 明日は一日休養を挟み、明後日から決勝リーグが開催となります!!」
コトウ 「それでは、皆様! 明後日にまたお会いしましょう! 本日の実況は、私『コトウ』がお送りいたしました!!」



………。



ハルカ 「……」

ミツル 「……」

私たちは、無言だった。
真っ直ぐ、ミツル君を見る私と、対照的に顔を背けるミツル君。
まだ、敗北が信じられないのか、ミツル君は表情を和らげることなく、背中を見せて去っていった。

ハルカ (悔しいでしょうね…でも、それが敗北)
ハルカ (あなたは強かったわ…だから私は何も言わない)
ハルカ (本当は、ありがとうを言いたい…でも言わない)
ハルカ (私は、まだ戦わなきゃならないから)

私はそう思い、ミツル君とは逆の出口から帰ろうとする。
すると、皆が私を待っていた。

キヨミ 「おめでとうハルカちゃん、これで同じラインに立ったわね」

キヨハ 「次は決勝リーグでのバトル、楽しみにしているわ」

ヒビキ 「もう、お前は弱小のトレーナーではない、バトルになる以上、全力で倒させてもらう!」

フィーナ 「おめでとうございますハルカさん! 私は負けちゃったけど、ハルカさんは頑張ってください!!」

メフィー 「おめでとうございます! これからは応援で頑張りますね!」

ハルカ 「あ、あはは…皆ちょっと大げさ」

ザラキ 「そんなことは無い」

ハルカ 「うひゃあ! ザラキさん!?」

気がつくと、後ろにザラキさんが現れる。
私は驚いて、横っ飛びに跳ねた。

ザラキ 「ふふふ…さすがは、センリの娘よ」
ザラキ 「そなたとのバトルが楽しみで仕方ない!」
ザラキ 「では、明後日…相見えよう!」

そう言ってザラキさんは去っていく。
う〜ん、男らしい…いや漢らしい。

ラファ 「ハルカさん、決勝進出おめでとう」

ハルカ 「あ、どうも…」

ラファさんが今度は話しかけてくる。
う〜ん、こっちはこっちで、何だか見た目がバイリンガル。

ラファ 「キヨミ、互いに決勝進出…まぁ予定通りといったところかしら?」

キヨミ 「そうね、負けるつもりは無かったわ…もちろん誰が相手でも」

そう言って、キヨミさんとラファさんは睨みあう。
どうやら、浅からぬ因縁があるらしい。

ラファ 「…楽しみでしょうがないわ、あなたとのバトル」
ラファ 「私は、今度こそあなたを超えてみせるわ!」

キヨミ 「せいぜい、油断しないことね…私に固執するのは自由だけど、足元すくわれないようにね」

ラファ 「…! そうね、お互い様にね」

そう言って、最後にふたりは苦笑した。
ラファさんはそのまま、会場を出て行く。

フィーナ 「ラファさん…」

メフィー 「はえ〜…」

ハルカ 「…ふぅ、もう行きましょ」
ハルカ 「ポケモンたちを休ませないと」

私たちは頷きあい、一度ポケモンセンターに戻った。
そして、多くを語ることなく、私たちはそれぞれの部屋に戻って休む。
まだ、時間には大分余裕があるけれど、動く気にはあまりなれなかった。
明日は丸一日休み…ゆっくり静養しよう。
そう思い、私は眠りに着いた。
長い…長い一日が、ゆっくりと…ゆっくりと…更けていった



…To be continued




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