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POCKET MONSTER RUBY



第85話 『砂上の楼閣』




『4月13日 時刻14:00 第0スタジアム・控え室』


ハルカ 「……」

私は、控え室で集中力を高める。
床の上で座を組み、目を瞑って瞑想する。
そんな中、私は全身で空気を感じ、場を読み取る。
感覚を研ぎ澄ませ、壁を隔たった向こうから『音』を拾う。

? 『そろそろ時間だ! 選手の方を頼む!!』

? 『わかった!』

ミカゲ 「…時間よ」

ハルカ 「ん…わかってる」

今回は、珍しくミカゲが控え室にて私と一緒にいた。
いつもは、来いって言っても来ないし、何も言わなくてもバトル場には現れたのに、ね…

ハルカ 「…決勝、か」

私はゆっくりと立ち上がり、スパッツについた埃と砂利を払う。
そして、全身を上下左右に伸ばし、ストレッチ。
最期に、私は大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐いた…

ミカゲ 「…先に行くわよ?」

ハルカ 「ああ、待ってよ!」

ミカゲが何を思ってこの場にいたのかわからないけど、この娘はこの娘なりに考えがあるのだろう。
それが、私に関係あるのか無いのかはわからない。
ただ…

ハルカ (…何だかんだで、ここまで一緒に来た)
ハルカ (次の相手は強敵だけど…頑張ろう)

私はミカゲの背中を追いかけるように、歩く。
決して、追い抜こうとは思わなかった。
追い抜いてしまうと、ミカゲが離れてしまうような気がしたから…
理由は分からない…ただ、そう思った。
そして、そうなるのが…何故か嫌だと思った。



………。
……。
…。



『時刻14:05 サイユウシティ・第0スタジアム』


ワアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッ!!!


コトウ 「お聞きください、この大歓声!!」
コトウ 「今回のタッグバトルトーナメント! その決勝戦が、いよいよ行われようとしております!」
コトウ 「まず、最初に現れたのは、何とあの『オダマキ博士』のご子息! 『ユウキ』選手です!!」


ワアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッ!!


ユウキ (やれやれ…あんまり目立つ気は無かったんだがな)

俺は、フィールドを歩き、周りをチラチラを観察する。
放送席の近くに、父さんの姿を見つけた。
や〜っぱり、見に来たか…
まっ、俺とハルカが戦うのを知れば、見に来たくもなる…か。


オダマキ (ユウキ…いい顔をするようになったな)
オダマキ (お前が、いなくなったあの日から…お前は別の姿になって帰ってきた)
オダマキ (信じられなかったが、ミズゴロウの反応を見てお前だと確信できた)
オダマキ (それは…どれだけ時間が経とうが、自分に染み付いた本当の匂いは消えないと言う証拠だ)
オダマキ (頑張れユウキ…! ハルカちゃんには悪いが、今回ばかりは実の息子を応援させてもらうよ!!)



コトウ 「さぁ、ユウキ選手のやや後方から歩いてくるのは、今回のポケモンリーグ、決勝トーナメント本戦出場のひとり!」

ウオオオオオオオオオォォォォォッ!!

コトウ 「過去のジョウトリーグにおいて、妹のキヨミ選手と共に伝説のトレーナーして語られる一角!」
コトウ 「記録上は、キヨミ選手には一度も勝っていないとはいえ、その実力は実戦でも証明済み!」
コトウ 「奇しくも、今からぶつかる『ハルカ選手』と、本戦で戦うことにもなっております!」
コトウ 「今回は、その実力をどこまで見せるのか!? それとも隠し通してしまうのか!?」



キヨハ (…半ば、お遊び半分で出場したけれど、思ったより収穫は大きかった)
キヨハ (『コキュトス』の幹部や、元ポケモンレンジャー、はたまた元ロケット団幹部までいたのには…驚いたけれど、ね)
キヨハ (ハルカちゃんとは、リーグ本戦で戦うけれど…彼女のことだから、全力でぶつかってくるでしょうね…)
キヨハ (だけど、それも面白い…今のままのハルカちゃんを潰しても、私にメリットは無いものね…ふふ)



………。



キヨミ 「……」

ラファ 「キヨミ、姉が心配?」

キヨミ 「…ラファ? わざわざ見に来たの?」

ラファ 「もちろん…後々、戦うことになる相手だもの」
ラファ 「知っておいて損は無いわ」

そう言って、ラファは軽く俯いて笑う。
白い帽子で表情が隠れるが、自信を持って言っている…それはわかった。
私は、特に感情も込めずにこう返す。

キヨミ 「残念ね…姉さんとは戦えないわよ」

ラファ 「それは、彼女がハルカちゃんに負けるから? それと…」
キヨミ 「私が勝つからよ…あなたに負けるとは思えないわ」

ラファ 「!?」

ラファの言葉を横から切るように、私は軽く言い放つ。
口ではああ言ったが、実際にそう上手く行く相手ではない。
以前のままのラファなら、問題はない…けれど、今のラファは正直強い。
勝てる保障はないだろう…でも、私は必ず勝つと約束した…
その約束がある限り、私は絶対に敗北はしない…

ラファ 「…強気ね、それは私の今の実力からの判断?」

キヨミ 「さて、ね…どっちでも大して変わらないわ」
キヨミ 「内容はどうあれ…最終的には私が勝つ」
キヨミ 「この事実は、変わらないわ…」

私がフィールドを凝視しながらそう言うと、ラファはそれ以上何も言わずにフィールドを見る。
お互い、それ以上の言葉は必要なかった…最期はポケモンが決めてくれる。
それが、トレーナーにとって一番の決着方法だ。



ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッ!!!!!


コトウ 「さぁっ! 一際大きな声援と共に現れたのは、ミカゲ選手とハルカ選手!!」
コトウ 「共に、ポケモンリーグ決勝トーナメント出場を決めており、順当に勝ち進めば両者が決勝で出会うと言うことになります!」
コトウ 「果たして、そんなドラマがあるのでしょうか!? それは今の私にはわかりません…」
コトウ 「ですが、今はこのバトルに目を向けましょう!!」
コトウ 「まずはミカゲ選手! ポケモンリーグと言う大舞台で、その高すぎるレベルを見せてきました!」
コトウ 「バトル良し、コンテスト良し! 何をやらせても、彼女のポケモンは超一流!!」
コトウ 「今回の大会でも、秀ですぎている能力をいかんなく発揮! 今回のトーナメントでも、ユウキ選手同様、ダウン経験は無しと言う凄まじさ!!」
コトウ 「決勝ではどう戦うのか!? 注目が集まります!!」



ミカゲ (鬱陶しいわ…でも、それなりに楽しめた)
ミカゲ (こんな出来の悪いトレーナーと組むことになったのは驚いたけど、不思議と…それほど鬱陶しくは無かった)
ミカゲ (ハルカに会ってから…何故か、私は妙な安心感を覚え始めている)
ミカゲ (いえ…むしろ私は怯えている? ハルカに、心を触られることを…?)
ミカゲ (…馬鹿馬鹿しいわね、誰も私の心はわからない)
ミカゲ (普通の『人間』として産まれることのできなかった、私の心なんて……)



………。



カミヤ 「や、マリアちゃんも観戦?」

マリア 「あら、カミヤ…来ていたのね」

僕は北側の観客席で、ひとり座って紅茶を飲んでいるマリアちゃんに、後ろから声をかけた。
って言うか、観客席でマイカップ…?

マリア 「…ここの紅茶はマズイわ」

カミヤ 「ここのって…紅茶なんて売ってたっけ?」

マリア 「ここにあるわよ? 『午前の紅茶』…って書いてあるわ」
マリア 「ストレートを買ったのだけど、まともな紅茶の味じゃないわ…」
マリア 「やっぱり、ミルクティーにすべきだったかしら?」

そう言って、マリアちゃんは缶からマイカップに紅茶を注いでいた。
って、それは普通に自販機で売っている奴だよね…?

カミヤ 「…そ、それは気の毒に」

マリア 「全く…こっちに来てからと言うもの、まともな紅茶が飲めなくて困るわ」

そう言いながらも、マリアちゃんは紅茶をすする。
彼女、好き嫌いは多いけど、絶対に残したりはしないんだよね〜…不思議と。
どれだけ悪態ついても、ちゃんと嫌いな物は全部食べちゃうんだから、ある意味凄い。

カミヤ 「そう言えば、マリアちゃんはどうして参加しなかったの?」
カミヤ 「ミカゲが出るのは予想ついてたでしょ?」

マリア 「馬鹿を言わないで…本番前に手の内を見せるのは愚行よ」
マリア 「どの道、ミカゲとはいきなり戦えるのだから、余計な戦いは必要ないわ」
マリア 「まぁ…このバトルでミカゲのポケモンが怪我でもしてくれれば、楽でいいのだけれど、ね♪」

そう言って、マリアちゃんは笑う。
やれやれ…相変わらず、か。
マリアちゃんもそうだけど、ミカゲも手持ちのポケモン以外に交代要員はいない。
つまり、常に6体のみのポケモンで戦っている。
1体でも怪我をしたりしたら、そのポケモンは怪我を押して戦うことになる。
だけど、ミカゲは、自分のポケモンを怪我させたことは一度もない。
ミカゲのポケモンは…ある意味『運命』とも言える出会いで、集まったポケモンたちだ。
その絆の本当の深さは、多分誰も知らない。

カミヤ (ミカゲは…強いだけのポケモンは欲しくないと言った)
カミヤ (ミカゲは、ただ…ポケモンが弱くて怪我をするのを見たくないから…)
カミヤ (だから、ミカゲは自分の使うポケモンだけは、必ず『選別』をする)
カミヤ (厳しい『選別』の結果、ミカゲのポケモンは、恐ろしいまでの実力を得る)
カミヤ (他人から見れば、それは非常な選別とも言えるだろう…)
カミヤ (だけど、ミカゲは…ポケモンを勝たせるために、選別を行う)
カミヤ (結果として、トレーナーには富と名声が手に入る)
カミヤ (だけど…彼女が本当に欲しい物は……)

マリア 「カミヤ! 聞こえているなら返事なさい!」

カミヤ 「えっ!? あ、何!?」

いきなり、隣からマリアちゃんが僕を呼んでいた。
考え事をしていたら、無視してたらしい…いかんいかん。

マリア 「…全く、ミカゲのことになると、いつもこれだわ」

カミヤ 「あ、ごめんごめん…で、何?」

僕が謝ると、彼女は少しふてくされたような表情をした。
だけど、すぐにいつもの顔に戻って、一言言う。

マリア 「お茶菓子をお願い…マシュマロでいいわ」
マリア 「チョコレートはホワイトよ!? それ以外は許さないわ」

カミヤ 「って、もうすぐ始まるんだけど!?」

マリア 「2分以内に買ってきなさい!」

カミヤ 「も〜! そう言うことは早めに言ってよー!!」

僕はすぐに席を立ち、売店へ向かった。
って、売店にマシュマロのホワイトチョコなんて、ピンポイントな商品あるのか〜!?



………。



コトウ 「さぁ、ミカゲ選手の後ろをゆっくり歩いてくるのがハルカ選手!!」
コトウ 「リーグ始まって以来、稀に見るダークホースです!!」
コトウ 「リーグでの実力テストでは、何と『最下位』!!」
コトウ 「しかしながら、これまた稀に見る『成長力』で、一気に勝ち進みました!!」
コトウ 「今回も、同じ様に勝てるのか!? それとも、強敵がそれを止めるのか!?」
コトウ 「今大会、最期のカードです!!」



ノリカ 「ハルカ様ーーー!! 最期まで気を抜かずにーーー!!」

アムカ 「頑張れーーー!! 勝ったらクレープ〜!!」

サヤ (…それは、ハルカさんへのプレゼント? それとも、自分が食べたいの…?)

少なくとも、カタナだけに適当に言っているようにも感じてしまった…

ジェット 「…とうとう、決勝か〜。結局、勝てなかったな〜」

リベル 「そうですね…でも、仕方ないのかも…」

キッヴァ 「そうですね、少なくともこの大会で集まったトレーナーのレベルは、高すぎましたから」

ゴウスケ 「せやな…結局残ったトレーナーの内3人はポケモンリーグで本戦出場選手」
ゴウスケ 「順当過ぎるわ…大番狂わせもあらへんかったし」

ミツル 「とはいえ、接戦がなかったわけじゃないですよね…勝てる隙もあると思いました」

サヤ 「……」

それぞれが、それぞれの思いを抱いていた。
私だってそう。
勝ちたかった…勝てるなら。
だけど、敵わなかった。
トレーナーとしては、まだまだ未熟と言うことね…私も、ノリカも。



………。



ハルカ (いよいよ…キヨハさんやユウキとのバトル)
ハルカ (特に、キヨハさんとは、本戦でも戦う予定)
ハルカ (このバトルで本気が見れるとは思わないけど、私のレベルアップに繋がるならそれでいい!!)



………。



ランマ (ついに決勝か…意外に長く感じたな)
ランマ (正直、もっとあっさり終わる思たけど…)

イータ 「何、考えてるの?」

ワテが、特別席で試合を観戦していると、突然『イータ』が現れる。
ワテは『またか…』とばかりに頭を抱え、イータを見た。

ランマ 「お前なぁ…部屋におれ言うたやろ?」

イータ 「だったら、鍵でもかければいいじゃない…」

イータは無表情にそう言う。
こいつはワザとや…ワザとこう言うてる。

ランマ 「…どの道かけても、すぐに開錠してまうやんけ!」

イータ 「だったら、もっと複雑な鍵をかけたら?」

イータはクスス…と嫌な笑みを浮かべて言う。
あかん…おちょくられとる。
ちなみに、イータに対して鍵はさほど意味を持たん。
電子ロックはあっさり解析されるし、南京錠でもワール(イータのヨノワール)に破られる。
最新式でも原始式でも全く効果なし! 破られるのわかってて鍵かけるか!

ランマ 「来てもうたのは、しゃあないわ…どうすんねん?」

イータ 「…見て行く」

ランマ 「は!? お前が…ポケモンバトルを、か?」

イータ 「何よその顔…そんなに不思議?」

そらそやろ…何を隠そう、イータはトレーナー嫌いや。
奴隷のように、人間の娯楽として使われるポケモンをイータは何より憂いとる。(実際にはそんな酷くないんやが…)
ゆえに、イータはポケモントレーナーを嫌い、ポケモンバトルを嫌っていた。
そのイータが…何で急に?

ランマ 「何、企んどるねん? ここにイータの望むモンでもあるんか?」

イータ 「別に…暇潰し」
イータ 「単に、このバトルに興味が沸いただけ…」

そう言って、イータは試合が見える窓に手を当てて見る。
興味…か。
このバトルを、ねぇ…

ランマ (あのイータが興味を持つなんて…ハルカちゃんの魅力は、それほどかいな…)
ランマ (それとも…何か裏あるんか?)



………。



審判 「…それでは両ペア、ポケモンを!!」


ユウキ 「これが最後だ、行け『ジュカイン』!」
キヨハ 「『ドサイドン』!」

ハルカ 「手は抜かないわ! 任せるわよ『バシャーモ』!!」
ミカゲ 「行きなさい『ドクロッグ』…」

ボボンッ!! ボボンッ!!

ジュカイン 「…ジュッカ!」
ドサイドン 「ドッサ!!」

バシャーモ 「シャーッモ!」
ドクロッグ 「…ググッ」

互いのポケモンが一気に出揃う。
ユウキは、この試合で初めて見せる『ジュカイン』を。
キヨハさんは、知らないポケモンを繰り出してきた。

ハルカ (ジュカインはともかく、ドサイドンは…)

ジュカインはフィーナちゃんのポケモンで何回か見ているし、戦ったこともある。
スピードが速く、厄介な草タイプのポケモンだ。
対する、ドサイドン…見た目のごつさから察するに、地面タイプか何かだろうか?
少なくとも、キヨハさんがここで出す以上、強力なポケモンと踏むべきだろう。

ミカゲ 「……」

ミカゲは、静かに相手を見据えて試合開始を待つ。
決勝だって言うのに、この娘はまるで変わらない。
焦りも緊張もないのだろうか?
どちらにせよ、心強い味方であるのは確かだ。



ユウキ (さて…ジュカイン、久しぶりのバトルだが焦るなよ?)
ユウキ (少しずつでいい…ギアはひとつひとつ上げていくぞ)

ジュカイン 「……」

俺はジュカインの背中を見て、そう考える。
こいつは、俺と一番長い時間を戦い抜いたポケモンだ。
何も言わなくても、俺の考えは察しているだろう。

ユウキ (ハルカには…もうひとつ位、化けてもらわないと困るからな)

俺がジュカインを選んだ理由はひとつ。
ハルカの成長促進。
ハルカは、相手が強ければ強いほど、そのレベルに引き寄せられるかのようにレベルアップする。
理由はよくわからないが、トレーナーの才能であるのは確かだ。
『ハルカ』と言う、特殊な人間が持っている『力』とも言えるだろう。
ポケモンがバトルの最中にレベルアップする…それも考えられないほど急激に。

ユウキ (計算通りなら…このバトルであのバシャーモはほぼ完成するだろう)

それは、ハルカが本戦でキヨハさんに勝つ最大の要因になれるとも言える。
逆に言えば、それがなければ…99%負けるな。



シーーーン…



コトウ 「不気味な程、静かになりました…」
コトウ 「試合開始まで間もなくですが、まるで会場が凍りついたかのように、音が失せました」
コトウ 「これから始まるバトルの激しさを予兆するかのような…そんな静けさです。



審判 「…それでは、バトル・スターーーット!!」



ハルカ 「!!」
ミカゲ 「……」

ユウキ 「!!」
キヨハ 「…!」



ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァッ!!!!



コトウ 「ついに、バトルがスタート!!」
コトウ 「堰を切ったかのように、会場が揺れ動きます!」
コトウ 「果たして、優勝を勝ち取るのはどちらのグループか!?」



ハルカ 「バシャーモ! ジュカインに『だいもんじ』!」

キヨハ 「ドサイドン、『じしん』!!」

バシャーモ 「シャモ〜〜! シャーー!!」

ゴバァッ!!

まずはバシャーモが先手を取る。
バシャーモは体を後ろに仰け反らせ、炎を口に溜めて一気に吐き出す。
高圧縮された炎の弾が、ジュカインめがけて飛んでいった。

ドサイドン 「ドッサーーー!!」

ズシンッ! ズシンッ!!」

ミカゲ 「『どろばくだん』」

ドクロッグ 「グッ!」

ギュバッ! ビチャァッ!!

ドサイドン 「サッ!? サーーーーーー!!!」

ユウキ 「…『みきり』!!」

ジュカイン 「! ジュカッ!」

バッ!! ドォォォンッ!!! ドッギャアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァンッ!!!

バシャーモ 「シャモーー!?」

ドクロッグ 「……」

一瞬の出来事。
ジュカインの目の前に向かっていった『だいもんじ』はギリギリでジャンプしてかわされる。
その直後、『じしん』がフィールド全体を揺らす。
ドクロッグが直前に『どろばくだん』を当て、ドサイドンの目を塞いだため、『じしん』の位置がズレてドクロッグは無傷。
ジュカインは『だいもんじ』の回避動作でそのまま空中にて回避。
バシャーモだけが、『じしん』の餌食となってしまった。

コトウ 「ドサイドンの『じしん』がフィールドに炸裂!! 味方とのコンビネーションも完璧だ!!」
コトウ 「しかし、ドクロッグの攻撃により効果は半減! 期待通りの威力は得られなかったようです!!」



………。



ジェット 「…マズイな」

リベル 「あからさまになりましたね…」

ノリカ 「ハルカ様ーーー!! 踏ん張ってーーーー!!」

サヤ (たった一度の攻防…ですが、目に見えてハルカさんだけが浮いてしまった…)
サヤ (実力は、それほど大きいとは思えなかった…でも)

アムカ 「む〜…何か、嫌な感じ〜」

キッヴァ (あのユウキと言うトレーナー…やはり、実力を隠していたか)
キッヴァ (あのジュカインは今までのポケモンとは明らかに動きが違う)
キッヴァ (あんなギリギリのタイミングまで攻撃を引き付け、味方の攻撃に合わせて捌く…そうそうできることじゃない)

ゴウスケ 「なるほどねぇ…そう言うことかいな」

ミツル 「ユウキさん、あんなポケモンを育てていたなんて…」

この場にいるほぼ全員が、『ユウキ』さんに注目していた。
そう、もし…ユウキさんが今までと同じ様なポケモンで戦うのだったら、ハルカさんはこれほど浮きはしなかった。
だけど、ユウキさんはそのベールを脱いだ…一気に、レベルの差が現れた。
このままだったら…ハルカさんは負ける。



………。



ハルカ (何よそれ…私は油断したつもりは無いのに)
ハルカ (何なのよ、今の動き……明らかに、レベルの違うポケモンじゃない!)

私は驚愕していた。
同時に、私が今まで抱いていたユウキのトレーナーとしてのイメージが音を立てて崩れていく…
それは、裏切りに近い衝撃だった。

バシャーモ 「シャ…シャモッ!」

バシャーモは当たりが浅かったのか、すぐに立ち上がれた。
ミカゲがフォローしてくれなかったら、あれで終わってたわね…ゾッとするわ。

ユウキ (重畳だ…ちゃんと立ち上がったな)
ユウキ (とはいえ、『どろばくだん』がなければ終わってたぜ…危ねぇな)
ユウキ (予想以上に、まだまだのようだな…ハルカは)
ユウキ (まだしばらくは1ギアだな…ジュカインは想像以上に反応がいい)
ユウキ (ヒビキさんとのバトルで、一度テンションが大きく上がってたからな…)

ジュカイン 「…ジュカ」

ハルカ (あのジュカイン…フィーナちゃんのより、数段強い…)

フィーナちゃんのジュカインと直接手合わせしたから、よくわかる。
スピードだけなら、フィーナちゃんの方が上だったかもしれない。
だけど、あのジュカインが持つオーラのような物は、明らかにフィーナちゃんのそれを大きく上回っていた。

ミカゲ 「…ドクロッグ『どくづき』よ」

ドクロッグ 「グッ!!」

バッ!

ユウキ (こっちを狙うか…受けて立つ!!)
ユウキ 「ジュカイン『リーフブレード』!!」

ジュカイン 「ジュッカーー!!」

ガシィィィンッ!!

ドクロッグ 「グッ!?」

ジュカイン 「ジュカ〜!!」


コトウ 「これは凄まじい! ドクロッグとジュカインの力比べだぁ!!」
コトウ 「相性の悪い毒に対し、真っ向から草タイプの技で激突!!」
コトウ 「腕の『リーフブレード』で、ドクロッグの『どくづき』を正面から受け止めました!!」


ドクロッグ 「グッ!」
ジュカイン 「カッ!」

バッ! ダダッ!!

ドクロッグとジュカインは同時に一歩下がる。
パワーは互角だったのか、互いに押し切れないと踏んだようだ。

ユウキ (やれやれ…おっかねぇ〜、まともに食らったら即ダウンだろうな)
ユウキ (しかし…退いたってことは、気づかれたか?)

ミカゲ 「…ドクロッグ、手を抜く必要は無いわよ?」

ドクロッグ 「…グ」

ハルカ 「?」

ミカゲは、いきなりドクロッグを叱る。
今の攻防に不満があったのか、ミカゲはやや厳しい顔でそう言った。
それを聞いて、ドクロッグはやや顔を俯かせる。
気を入れなおした…そんな感じにも見えた。

キヨハ 「ドサイドン『ロックブラスト』、ばら撒きなさい…」

ドサイドン 「ドッサーーー!!」

バババババババババッ!!

ドサイドンは両手を前に突き出し、掌の穴からバルカンの様に岩をばら撒く。
ドサイドンから見て、左から右へと、なぎ払う様にそれをばら撒いた。

ハルカ 「マズイ! バシャーモよけるのよ!!」

バシャーモ 「シャモッ!」

バッ!!

バシャーモはその場から飛び上がり、飛んできた岩を横に避ける。
岩は空を切り、残りの弾がドクロッグに向かっていく。

ミカゲ 「『いわくだき』」

ドクロッグ 「グッ! グッ!」

ガンッ! ドガンッ!!

ドクロッグはその場で向かってくる岩を的確に両手で砕いていく。
まるで動じることなく、ドクロッグは無傷で切り抜けた。
そして…次の瞬間、またしても私はユウキの恐ろしさを知る…

ユウキ 「『つばめがえし』!」

ジュカイン 「ジュッカー!」

ババッ! ヒュンッ!! ドシュゥッ!!

バシャーモ 「シャモーー!!」

ドッシャアァッ!!

ジュカインは待ち構えていたかのように、空中のバシャーモを地上に叩き落す。
苦手な飛行タイプの技で、バシャーモは大ダメージと共に地面との接触ダメージも受けてしまった。


コトウ 「再び、見事なコンビネーション!! ユウキ選手、キヨハ選手共に、実に無駄の無い動き!!」
コトウ 「対する、ハルカ選手! ことごとく行動の上を行かれます!」
コトウ 「ミカゲ選手のポケモンは無傷なのに対し、大きな差をつけられた様子です…」



ジェット 「おいおい…ハルカちゃん、追い詰められてるぜ!」

リベル 「大変ですよ! 効果抜群の技をくらったのに…」

サヤ 「大丈夫です、そんなに効いてません…」

私がそう言うと、全員が私に注目する。

サヤ 「…そ、そんなに注目されると、照れます」(照)

ジェット 「…あ、いやすまん…って謝るところか?」

リベル 「サヤちゃん、どういうことなの?」

私は気を取り直し、咳払いをひとつして説明する。
…が、それよりも早く言葉を発する人がいた。

ゴウスケ 「…手加減しとるだけや」
ゴウスケ 「本気なら、終わっとる…」

まるで、嫌悪するかのような顔でゴウスケさんは言い放った。
私は、その言葉に疑問を覚え、言葉を返す。

サヤ 「まるで、昔から知っている…そんな言い方にも聞こえますね」

ゴウスケ 「…そら、勘違いや。ワイは彼とはあったことないで」

ゴウスケさんは、あっけらかんとそう言う。
なるほど…明かしたくない、ということですか。
それならば、それでいいということにしておきましょう。
お互い、知らなくてもいいことを抱えていることですし、ね。

ジェット 「に、しても…手加減か」

キッヴァ 「確かに、それなら頷けますね…バシャーモは決して打たれ強い種族ではないですし」

ノリカ 「だけど、打たれ続けてたらいつかは…」

サヤ 「倒れるわ…でも、ハルカさんがこのまま終わるとは思えない」

それは、確かな予想だ。
ハルカさんは、相手が強ければ強いほど、追い詰められれば追い詰められるほど強くなっていく。
むしろ、この状況はハルカさんにとって好都合かもしれない。



………。



バシャーモ 「…ッ!」

ハルカ 「バシャーモ? ダメージが低い?」

派手に地面と激突した割には、バシャーモはすぐに起き上がる。
だけど、辛そうな顔をしていた。
その理由は、すぐにわかった。

ハルカ (手加減してたってこと…? どういうつもりなのよ…)

私は、ハラワタが煮えくり返りそうになる。
ユウキは、明らかに手加減して打たせた。
どういうつもりかは知らない…だけど、これほど屈辱的なことはない!

ハルカ 「バシャーモ! ジュカインに『オーバーヒート』!!」

ミカゲ 「!?」

バシャーモ 「シャモーーー!!」

ドゴォッ!!

バシャーモは全身から炎を噴出し、身に纏う。
そして、間髪入れずにジュカインとの距離を真っ直ぐ詰める。
右拳に全ての力を込め、全力でジュカインの顔面に振るった。

ユウキ 「…『つるぎのまい』」

ジュカイン 「……!」

ヒュンッ! バッババッ!!

バシャーモ 「シャ、シャモッ!?」

ジュカインは軽く左に動き、バシャーモの拳を避ける。
そのまま、『つるぎのまい』に移行し、ジュカインは攻撃力を増加させた。
バシャーモはそのままの勢いで地面に突っ込み、地面との激突で爆発する。

ドバァンッ!!

ミカゲ 「何をやっているのよ!!」

ハルカ 「う…うるさい!! 黙ってて!! 立つのよバシャーモ!!」

私は、ミカゲの言葉を跳ね除け、バシャーモに渇を入れる。
だけど、力を一気に解放した後のバシャーモはすぐには動けないようだった。

ユウキ 「終わりだな、これ以上は無意味だ」
ユウキ 「『じしん』だ…全力で行け!!」

キヨハ 「『まもる』…」

ミカゲ 「ちっ! 『フェイント』よ!!」

ドクロッグ 「ググッ!!」

バッ!!

ドサイドン 「ドッサ!!」

ピキィィィ…パァンッ!!

ドサイドン 「!? ドサッ!!」

ドクロッグ 「グッ!」

バッ!!

ドサイドンは『まもる』で防御しようとした。
だけど、咄嗟の判断でミカゲがそれを打ち消してしまう。
あんな技は初めて見る…だけど、今はまるでそれが頭に入らなかった。

ジュカイン 「ジュッ…カァァァッ!!!」

ドゴンッ!! ギャアアアアアアアアアアァァァァァンッ!!!

ドサイドン 「ド、ドサーーー!!!」

バシャーモ 「シャモーーーーーー!!!」

強烈な『じしん』がフィールドをシェイクする。
地面にいたドサイドンとバシャーモは成す術無く大ダメージ。
ドクロッグは『フェイント』の後にすぐ飛び上がったため、ダメージは免れた。
ドサイドンはまだ動ける……バシャーモは、ピクリともしなかった。

キヨハ (ユウキ君、それがあなたの…判断なの?)

ミカゲ 「ボーっとしてるんじゃないわよ! 『どろばくだん』!」

キヨハ 「しまった!?」

ドクロッグ 「グバァッ!!」

ドバババァンッ!!

ドクロッグは空中でそのまま『どろばくだん』を真下のドサイドンに放つ。
今度は連射で浴びせ、ドサイドンはそのまま倒れてしまった。
そして、ドクロッグはドサイドンの真後ろ辺りに着地する。

スタッ! ドッズゥゥゥンッ!!!

ドサイドンがドクロッグの側で倒れ、衝撃で砂煙が舞う。
それに隠れるように、ドクロッグは姿を消した。

ユウキ 「!? 『つばめがえし』だ!!」

ジュカイン 「ジュッカ!!」

ユウキが危険を察知し、すぐに攻撃に移る。
命中率が高く、効果抜群の技で、一気に勝負に出た。

ザシュゥッ!!

ユウキ (ヒットした! やったか!?)

ミカゲ 「『どくづき』!」

ドシュゥッ!!

ジュカイン 「カッ…!?」

ズ…ダァァンッ!!

ユウキ 「!?」

『つばめがえし』のヒットした音が確かに響いた。
だけど、ドクロッグはほとんどダメージを受けていない…いや、『つばめがえし』の直前に体力が減った。
ドクロッグは、技のダメージを受けなかった…だから、すぐに反撃が出来たのだ。
ジュカインは効果抜群の技に、グラリと地面に倒れた。

ユウキ (『みがわり』かっ!? 煙に紛れて出していたのか…!)

審判 「…あ、バシャーモ、ドサイドン、ジュカイン戦闘不能!!」
審判 「よって、優勝は! ハルカ、ミカゲ・ペア!!」



コトウ 「な、何と言う幕切れでしょうか!? 私、言葉がありません!」
コトウ 「まるで、怒り狂ったかのような、ハルカ選手の行動…次の瞬間から試合終了まで、まさにあっと言う間!」
コトウ 「終わってみれば、ミカゲ選手の一人舞台!! 会場も呆気に取られて静まり返っております」

キヨハ 「…戻ってドサイドン。お疲れ様…」

シュボンッ!

ユウキ 「ジュカイン、休んでくれ…」

シュボンッ!

ミカゲ 「…ドクロッグ? 余計なことはしないで…戻りなさい」

ドクロッグ 「グッ!? …ググ」

ドクロッグは、何やらこちらを気にしている様子だった。
だけど、ミカゲがそれを止める。
そしてミカゲがツカツカと私に近づいて。

バシィンッ!!

ユウキ 「うわっ…痛って〜」
キヨハ (…ミカゲ)

ハルカ 「……っ!!」

ミカゲ 「…少しは目が覚めたかしらぁ? おバカさぁん…」

乾いた音に会場が静まり返る。
こんな光景は、多分誰も予想だにしなかった。
他人に興味を抱かず、悪態ばかりついているあのミカゲが…私の左頬を叩いたのだ。
しかも…痛いし、口の中が切れて血の味がした。
私じゃなかったら、多分吹っ飛んでたろう威力があったはず…



ノリカ 「こらーーー! ミカゲ少佐ーーー!! 上司に手を上げるとは、軍法会議物だぞーーー!!」

サヤ 「ノリカ…黙ってて」

ノリカ 「!? は、はいであります…!」

叫ぶノリカを私が冷たく黙らせる。
私は目を瞑ったままなので、にらみを利かせることが出来ない…ですので言葉で黙らせます。
ノリカはサッと口を両手で塞ぎ、恐る恐る座り直した。

アムカ 「う…サヤちょっと怖い」

ジェット (見なかったことにしよう…)
リベル (触らぬ神に何とやら…)
キッヴァ (余計な口は挟まないようにしなければ…)

ゴウスケ (…やれやれ、ドッチラケやな)

ミツル 「ゴウスケさん?」

ゴウスケ 「試合は終わりや…これ以上は見る価値あらへん」
ゴウスケ 「ほなな」

そう言って、ゴウスケさんはさっさといなくなってしまった。
気持ちは…わからないでもないですね。
ここにいる全員が…同じ思いかもしれません。

ミツル (ハルカさん…こんな結果になるなんて)



………。



ミカゲ 「…正直、幻滅ね。その程度だったの?」

ハルカ 「…な、何よ。らしくないわね…」

ミカゲ 「そうね、自分でもそう思うわ」
ミカゲ 「だけど、ポケモンバトルでここまで虫唾が走ったのは久しぶりよ!」

そう言ったミカゲは、真剣な顔だった。
私を叱っている…私が不甲斐ないからじゃない。
私が…ポケモンのことを考えてなかったから、だからミカゲは怒ってる。
私は…何も言い返せなかった。
何も言えない…言うことは無い……

ハルカ 「…っ!!」

ダダダダッ!!

私は、逃げるようにその場から走り去る。
これ以上、あの空気に耐えられなかった。
大勢の人の見てる前で恥をさらしたくなかった。
自分でも、自分が最低な人間だと思い知った…。



………。



ミカゲ 「…興醒めね、鬱陶しいから帰るわぁ」

ザッザッザッザッ…

審判 「あ、ちょっと…表彰式は!?」

ミカゲ 「どうでもいいわ、勝手にやって」

私は背中越しにそう言って会場を去った。
つまらないわぁ…最悪。



ユウキ 「…やれやれ」

キヨハ 「…思った通りにはいかなかった。そんな顔ね?」

ユウキ 「…キヨハさんなら、言わなくてもわかるでしょう?」

キヨハ 「ええ…わかるわ、似たような経験…味わったから」

キヨハさんは、そう言って一瞬悲しそうな顔をする。
なるほど…やられる側だったか。
そいつは予想外。

ポツポツ……

ユウキ 「ん?」

ザアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァッ!!

ユウキ 「でっ!? スコールかよ!!」

キヨハ 「いきなりね…!」

こうして、大会は終わった。
唐突に始まったタッグバトル大会。
まるで、呪われたかのように…会場にはスコールが降り注ぎ、嫌な空気を残したまま表彰式は中止となった。
勝ったのは、ハルカ、ミカゲ・ペア…その結果だけを、残して……





………………………。





『同日 時刻15:00 サイユウシティ・海岸』


ザアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァッ!!!!

ハルカ 「うう…くぅっ!!」

ガシィッ!! ガシィッ!!

私は大雨に打たれ、海岸の砂を壊れた右拳で打ち続ける。
こんな右手、砕け散ってしまえ…と言わんばかりに、私は地面を打ち続けた。
何度も繰り返す内、右拳のグローブは破れ、拳からは血が飛び散っていった。

ハルカ 「くっそくっそ!! うわああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

私は天を仰いで叫ぶ。
何も出来なかった。
悔しさを通り越して怒った。
自分への怒りに私は狂いそうになった。
かつて、これほど自分を嫌になったことは無い。
怒りに我を忘れ、何も見えなくなった。
そんな戦いをした自分に、私は怒り狂った。

? 「何故あなたは戦うの?」

ハルカ 「!?」

バッ!!

私は、いきなり気配を感じ、我に返って飛び退く。
この雨の中、見知らぬ少女が、私の前にいた。

少女 「…何故?」

ハルカ 「あ、あなた…誰?」

少女は傘を手に、微かに笑う。
金髪に碧眼、日本人じゃない…でも、日本語はとても上手だ。

少女 「私のことはどうでもいいし…質問してるのはこっち」
少女 「あなたは、何故戦うの?」
少女 「何故あなたは…『狂って』しまったの?」

ハルカ (!? こ、この声……まさか!?)

私は、一瞬気が遠くなる。
あの時の声がフラッシュバックする。
意識が飛びそうになるのを、私は必死にこらえる。
あの時、あの後…人がひとり死んだ。
意識を失うわけにはいかない。
私は必死に、自分を強く持った。

少女 「…何を怯えているの? 怖いの? 私が…? フフフ…」

少女は、冷たく笑う。
わからない…何故笑うの?
少女の笑みは、私の理解を超えていた。
何故ここにいるのか? 何故笑うのか?
何故…私に近づくのか…?

ハルカ 「く、来るな!!」

ザッ!!

私はバックステップして距離を取る。
少女は、それを見て複雑そうな顔をする。

少女 「…別に、取って食おうってわけじゃないし」
少女 「美味しそうだけどね…クシシ」

嫌な笑みをされる。
あの目は普通じゃない。
今まで、色んな人間を見てきた…でも、この少女は本気で『怖い』
品定めをするかのような目。
冷たく、光る異国人の眼差しが、これほど怖いとは思わなかった。

ハルカ 「…はぁ…はぁっ!!」

私は距離を詰められたら開ける。
無意識に構えを取り、迎撃できる態勢を取る。
見た目、どう見ても5〜6歳の少女に対し、私は本気で迎撃態勢を取っていた。
ハタから見たら、異様な光景だろう…

少女 「…はぁ、面倒。ユキメ」

ユキメノコ 「メノー!!」

コオォォォッ!!

ハルカ 「うっ!?」

突然、私は下半身を凍らされる。
今のは『れいとうビーム』だ! ポケモンがいるの!?

少女 「ワール、ペタ」

ヨノワール 「ワール!」
ジュペッタ 「ペッタ!!」

ハルカ 「ぐっ!?」

ヨノワールが右腕、ジュペッタが左腕を押さえる。
これで、私は首以外動きが取れなくなった。
雨がどんどん激しくなる…大声を出しても、きっと誰も聞こえない。

ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァッ!!!

ジリジリと、少女が迫る。
恐怖感が一歩一歩増して行く…
少女は私を上目遣いににじり寄り、笑みを浮かべる。
怖い…私は恐怖を感じている。
今までにない、感覚だ。
怖いと思ったことはいくらでもある…でも、確実に『殺される』…そんな感覚は初めてだ。

少女 「……」

少女は私の側まで寄ると、下から上へと視線を流す。
品定めをしているのか? そして、少女は私の体のある部分をじっくり見て…

ワシワシッ!!

ハルカ 「ひっ!?」

グニグニ…

少女 「……」

少女は、私の胸を揉み始める。
それも適当に…他意があるようには感じなかった。
そして、次の瞬間…少女は手を離し、不思議そうな顔して。

少女 「…何食べたら、そんなデカくなるの?」

ハルカ 「は、はぁっ!?」

私は赤面して、叫ぶ。
すると、次の瞬間。

ガシャンッ! ドスンッ!!

ハルカ 「きゃっ!」

私の両腕は放され、氷が割れて私は尻餅を着く。
雨で氷が解けていたのだろう、私の体重を支えられなくなり、そのまま割れてしまったのだ。
その姿を見てか、少女はまた笑う。

少女 「バカみたい…ひとりで怯えて」

カゲボウズ 「ゲッゲッゲ!!」

今度は少女の後頭部から、カゲボウズが現れ、嫌な笑い方をする。
あれは『いやなおと』だろうか? 私の防御がガクッと下がった…様に感じた。

ランマ 「おーーーい!! イータ!! どこおんねん!!」

少女 「ヤバ…ゲボー?」

カゲボウズ 「ゲ、ゲボ?」

ランマさんが傘も差さず、誰かを呼んでいた。
探しているようだ。
そして、少女はカゲボウズをにらみつける。
カゲボウズは、虚空を見ながら、トボける仕草を見せた。

少女 「…今日のご飯抜きよ」

カゲボウズ 「ゲ、ゲボ〜!?」

ガーン!と、言う効果音が出そうなほど、カゲボウズはショックを受ける。
何かを画策していたのか? この少女は、とにもかくにも謎が多い。

ハルカ 「…あなた、イータって言うの?」

少女 「!? どうしてわかったの…って、聞く方が馬鹿ね」
少女 「そうよ、私はイータ…とりあえずそう言う名前」

少女は、勝手に聞いて勝手に納得する。
何だか、おかしな少女だ…まさか、子供に見えて実は大人だとか!?

イータ 「最後に答えて…何故、あなたは戦うの?」

それは、最初に聞いた質問だった。
私は、頭で考えず、直感で答えることにした。

ハルカ 「…戦う理由、そうだ」
ハルカ 「私は…守りたいから、戦う」
ハルカ 「護るために…戦う」

イータ 「……そっ」

イータはそれを聞いて、特に何も言うことなく背を向けた。
そして、何かを言い忘れた…という風に首だけこちらに向け。

イータ 「…すぐにお風呂に入った方がいいわよ」
イータ 「後1分雨に打たれたら、100%流行性感冒…それだけ」

ザッザッザッザッザ!

ランマ 「イータ! お前、こんな所に!」

イータ 「うるさいし…心配いらない」
イータ 「もう、帰るし…」

ランマ 「全く…心配かけるなや」

イータ 「いらないし…そんなの」



………。



ハルカ 「…って! 1分なんてすぐだし!!」

私はハッと我に帰り、すぐに走る。
面倒になるといけないので、この際ふたりに見えないように私はホテルへと向かった。
そして、所要時間30秒! ギリギリで流行性感冒は免れたようだ…



………。



『時刻16:00 サイユウシティ・ハルカの部屋』


ガララッ!!

ハルカ 「はぁ…さっぱり!」

私は部屋に戻ると、すぐに言われた通り風呂に入った。
冷えた体は温まり、難は去ったと思う。
そして、私はバスタオル一枚でベッドに座り、考えた。

ハルカ 「…ミカゲに、礼言わなきゃ」

ミカゲがあんなことしてくれるとは思わなかった。
ミカゲが私を叱ってくれなかったら、私は今立ち直れなかった。
左頬がビリビリと痛む。
いくら本気だったとはいえ、まだ口の中が痛いとは…ミカゲの立ち前強P恐るべし。

ハルカ 「ユウキの奴…明日問い詰めてやる」

今日はあいつのせいで散々だった。
こともあろうに…手加減なんてされるとは思わなかった。
明日、絶対あいつの謎を暴く!!

ハルカ 「…結局、イータって何者?」

ランマさんが、探していたようだけど、一体?
あのランマさんが…傘も忘れる位、大事にしている少女…まさか隠し子!?
…は、ないとして…愛人!?って、いい加減にせぇ!!

ハルカ 「あかん…ひとりツッコミは寒いわ」

ポフッ!

私は両手を上に伸ばし、そのままベッドへ背中を預ける。
思わずジョウト弁が出てしまった…それ位、頭はテンパってる。
イータの声…あの時の声。
酷く似ている気がする…でも、思い出せない。
記憶が曖昧になってる?

ハルカ 「はぁ……考えるの止めよ」

今の時期、余計なことは考えないようにしよう。
私はそう結論付け、今日の夕食のメニューを考えることにした…





………………………。





『同日 某時刻 サイユウシティ・海岸』


女性A 「見つかったか!?」

女性B 「ダメです! 見つかりません!!」

カイーナ 「…全員、撤収だ!」
カイーナ 「ターゲットはここにはいない…当てが外れた」

私はそう言って、雨の中の作業を取り止めにする。
もうすぐ、雨も上がる…このまま作業を続けるのは危険だろう。
我々が、まだここに滞在していることは、バレるわけにはいかないからな。

女性A 「全員撤収! 速やかにキャンプへ戻る!!」

ダダダダッ!!

部下の全員が森の方へと向かう。
現在、我々が潜伏しているキャンプだ。
人の立ち入らない区域なので、潜むにはいい場所。
特に、今はポケモンリーグの真っ最中…誰もあんな場所は気にも留めない。

カイーナ (しかし…マシュウからの依頼のひとつ、か)
カイーナ (パンドラの巫女…だと? マシュウめ、何を考えているのか…)



…To be continued




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