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POCKET MONSTER RUBY



第91話 『ハルカVSキヨミ! ふたりの答え!! 前編』




『4月16日 時刻9:00 サイユウシティ・総合病院』


マリア 「…何よ、また来たの?」

ハルカ 「まぁまぁ、そう言わない…これでも心配してるんだからっ」

私は昨日に続いて今日も朝からマリアちゃんのお見舞いに来ていた。
いくら、心が帰って来たとはいえ、受けた身体の傷は深い。
正直、本当は死んでいてもおかしくなかったのだ。
今はこうやってベッドの上で何とか言葉を交わすことはできる。
だけど、まだひとりで立ち上がれるほどの回復はするはずもない…しばらくは誰かに看てもらいながら過ごす事になるだろう。

マリア 「ふ、ふんっ、別に心配なんてしてほしくはないわ」
マリア 「それより、お茶の一杯でも出そうとは思わないの? 喉が乾いて仕方ないわ」

そう言ってマリアちゃんはそっぽを向く。
照れてるのね、ういやつういやつ♪
とはいえ、今は残念ながらお茶など持って来ていない。
マリアちゃんには悪いが、今回は自販機物で我慢していただこう。

ハルカ 「ってなわけで! ホイッ、缶コーヒー!」

私はノリカばりの笑顔で缶コーヒーを渡す。
もちろん、銘柄は○OSSだ♪ WARNING!!の警告が出てきそうだが、関係ないのであしからず。
マリアちゃんはそれを受け取ると苦い顔をする。

マリア 「…何でよりによって缶コーヒーなのよ」

プシュッ!

そう言いながらも、プルタブを開けてちゃんと飲もうとする所がマリアちゃんらしい♪
とりあえず、香りを少し嗅ぎながらマリアちゃんは一口飲んだ。

マリア 「う…やっぱり苦い」

ハルカ 「苦いって…それ標準レベルの糖分よ? もしかして苦手だった?」

マリア 「べ、別に苦手ってわけじゃないわよ! ただ…予想以上に苦かっただけよ!!」

そう言ってマリアちゃんは顔を真っ赤にして強がる。
う〜ん、こうやって見るとマリアちゃんって可愛いわよね〜
ミカゲのオリジナルってことだし、どっちもいいレベルなのよね…
もっとも、出る所は出なかったようだけど…

マリア 「………」

ハルカ 「…な、何?」

マリアちゃんは缶コーヒーを両手に握り締め、私を凝視する。
やけに不愉快そうな顔で、何となく考えていることは読めてしまっていた。

マリア 「一体、何を食べたらあんな風になるのよ…

マリアちゃんはぼそっと呟く。
まぁ、私にはちゃんと聞こえているわけだけど…そんなに気にしているのか。
ミカゲに対抗しようとしているのかもしれないけど…ミカゲは実際にはそれほど巨乳というわけではない。
普通の中では限りなく巨乳に近いんだけどね…数値化すると(笑)

ハルカ 「まぁ、こう言うのも個性だから…」

マリア 「うるさいわねっ! どうせ私はこれが個性よ!」

グビグビグビッ!

マリアちゃんはそう言って缶コーヒーの残りを一気に飲み干し、ふてくされてベッドに包まってしまう。
う〜ん、やっぱり可愛いわねぇ〜☆
こんな可愛いのに…どうして、誰にも愛してもらえなかったんだろう。

ハルカ 「……」

私は昨日の話を思い出してしまう。
ミカゲと同じように育てられ、全く違う道を歩み、対照の結果を出した、マリアちゃん。
ただ、父親に誉めてもらいたかっただけなのに、マリアちゃんは誰にも認められなかった。
力はあるのに、魅力もあるのに…それでも、誰もマリアちゃんを評価しなかった。
ひとえに、それはミカゲという上位互換がいたから。
ミカゲは確かに凄い…ポケモンの育成もレベルも、バトルセンス、対応力、判断力、知識、経験…どれを取ってもパーフェクトなトレーナーだ。
性格に難ありとは言え、一度でも彼女のバトルを見ればその凄さは伝わってくる。
でも、マリアちゃんにとってはそれはただの邪魔者でしかなかった…。
ミカゲがいるから、誰にも認められない…ミカゲが凄いから、マリアちゃんは爪弾きにされる。
マリアちゃんにはマリアちゃんの魅力があるのに…誰もそれを見ようとしなかった。
だから、マリアちゃんはミカゲとは違う方法で認められようとした…それが間違いだとも気づかずに。

ハルカ 「…マリアちゃん、今日の私のバトル、必ず見に来て」

マリア 「…ふざけないで、私には興味ないわ」

マリアちゃんは布団に包まったまま、そう答える。
私は構わずに言葉を続けた。

ハルカ 「…私にとって、今日のバトルは目標なの」
ハルカ 「私がポケモンと触れ合うことを決め、最初に目標にした対戦相手」
ハルカ 「私にポケモンバトルの厳しさと、優しさを教えてくれた伝説のトレーナー、キヨミ」
ハルカ 「どんな結果になるかはわからないけど、私はきっと今までで最高のバトルができると思ってる」
ハルカ 「だから、そのバトルをマリアちゃんに見てほしいの」
ハルカ 「そうすれば、きっとマリアちゃんも、ポケモンのことが好きになるはずだから…」

ガタッ…

私は椅子から立ち上がり、そのまま背を向けて歩き出した。
答えは聞かない、強制するつもりもない。
ただ、これは希望だ…マリアちゃんにはどうしても見てほしいと思ったから。
ミカゲとマリアちゃんは違う…だからこそ、その答えを私たちのバトルで示して見せたい。
私もキヨミさんも…きっとポケモンが本当に大好きで、その気持ちだけでバトルをすると思うから。





………………………。





『同日 同時刻 キヨミの部屋』


キヨミ 「…ZZZ〜」

キヨハ 「…はぁ、結局今日も変わらないわね」
キヨハ 「いつまで経っても、この寝坊だけは変わらないんだから」

こんな大事な日まで安らかに寝息を立てる妹の顔を見ながら、私は不思議と笑みが零れてしまう。
そうよね…キヨミはいつもこう。
大事な時でもマイペース…自分のペースを決して崩さない。
相手に合わせることなんてひとつもしない、ただ自分のペースを貫いて、相手を突き崩す。
そんな妹のバトルに、私は結局一度も勝てなかった…心残りがあると言えばあるけれど。

キヨハ 「それも、ハルカちゃんが全部洗ってくれわね、きっと」

確信めいた物があった。
今日のキヨミとハルカちゃんのバトル。
それはきっと歴史にも残るようなバトルになるのかもしれない。
だけど、逆に言えばそれは誰にもわからない次元での戦いとも言える。
間違いなく、荒れるでしょうけど…ある意味、ポケモンバトルの原点とも言えるバトルが見れるかもしれないわね。

キヨミ 「zzz〜よ〜し、『ブラストバーン」だ〜〜〜」

キヨミは夢の中ですでに戦っているようだった。
ふふ、よっぽど楽しみなのね♪
とりあえず、無理やりにでも起こすとしましょうか…





………………………。





『同時刻 サイユウシティ・森林』


女性 「報告します、カイーナ様! パンデュラの巫女の件ですが…」

カイーナ 「いい…どの道見つからんだろう」

女性 「は? で、ですが、それでは…」

カイーナ 「構わん…この件に関しては見つからないことを前提に依頼されている」
カイーナ 「そもそも…本当にこの世に存在するかもわからない代物だ」

我々は、ポケモンリーグが始まってからずっとパンデュラの巫女と言う者を探しつづけている。
依頼主である『マシュウ』からの話では、このサイユウシティにいる『かも』しれない…とのことだ。
マシュウ自身も確信は一切無いだろう、だがあえてこの街にいるかもしれない…と言う。私は、それがやけに気になっていた。

カイーナ (一体、何だと言うのだ? パンデュラとはそもそも…)
カイーナ (まさか…3年前の事件と何か関係があるのか?)

女性 「カイーナ様?」

部下が私の顔色を覗う。
ふ…らしくない、か。
過去のことは、もう忘れると決めたのだからな…

カイーナ 「…とにかく、この件に関しては深く入り込む必要は無い」
カイーナ 「全員に通達しておけ、巫女の捜索はポケモンリーグが終わるまで…」
カイーナ 「リーグが終わり次第、我々は撤収する、と!」

女性 「は、はいっ! 畏まりました!!」

部下は私に敬礼し、すぐにそれを伝達しに向かった。
私はひとり、船の船長席に座って天を仰ぐ。
そして、大きく息を吐き、私は俯いた。

カイーナ 「…何故、忘れられない」
カイーナ 「エミ…あなたは、本当に幸せだったの?」





………………………。





『同時刻 鳥獣保護区』


ユウキ 「……」

オダマキ 「ふぅ…相変わらずここは何度来ても発見だらけだな!」

ユウキ 「…そうだね」

俺は父さんと一緒にポケモンの調査をしていた。
サイユウシティでも、この地区は一般人立ち入り禁止区域。
そのためか、通常では滅多に見られないポケモンも多数存在し、その生態を俺たちは観察している。

オダマキ 「…次、ハルカちゃんの試合だろ? 会いに行かなくていいのかい?」

ユウキ 「いいさ、言うべきことはもう全部言った」
ユウキ 「俺ができることは、もう何も無いよ」

俺は木にぶら下がっているエイパムやクヌギダマを見て笑う。
あいつは、馬鹿だから…返って放っておく方がよく働くからな。

オダマキ 「…ユウキ、君はハルカちゃんのことどう思う?」

ユウキ 「? トレーナーとしての意見かい? それとも…」

オダマキ 「もちろん、ひとりの女の子として、さ!」

父さんは嫌な笑みを浮かべてそう言い放つ。
俺は舌打ちしながら、答えに渋りつつも、簡単に答えた。

ユウキ 「冗談極まりないね…俺の趣味じゃない」

オダマキ 「あらら…意外に素っ気無いんだな」
オダマキ 「と言うことは、前に見たダイナマイトな年上の方が好みかい?」

ユウキ 「ぶっ! 何でそこまで飛躍するんだよ!!」

前、と言うのは間違い無くミクさんのことだろう。
そりゃ、ハルカに比べればよっぽどマシに思えるが…俺にはどうしても恋愛感情は浮かびそうにはなかった。
そもそも…俺はこう言う話は大っ嫌いだ。

オダマキ 「…ユウキ、君が家に帰ってきてから、やけに女の子に厳しくなったような気がするよ」

ユウキ 「……え?」

オダマキ 「そりゃ、時間が経ちすぎているんだろうけど…それでも、以前のユウキはもっと優しかった」
オダマキ 「女の子に対しては特にかな…大人になった、と言えば聞こえはいいけど、まるで嫌悪しているようにも感じる時がある」
オダマキ 「…旅をしている時、何かあったんだろ?」

俺は、答えに悩んでいた。
あのことに関しては、父さんにすら俺は話していない。
と言うより、話す気が無い…話さなくてもいいと思ってたからだ。
だが、俺の態度で父さんは不信感を抱いている。

ユウキ 「ん…まぁ、あったことはあったけど…ごめん、今は言えない」

オダマキ 「…そっか、仕方ない、か…ユウキにはユウキの考えもあるだろうからね」
オダマキ 「でも、もう少し女の子の気持ちも考えてみたらどうだい?」

ユウキ 「…肝に銘じておくよ」

俺はそう言って、足元を通ったイトマルを眺める。
ここは、本当に落ち着く…俺はやっぱり人間よりポケモンの方が今はいい。





………………………。





『時刻11:00 サイユウシティ・第0スタジアム』


ワアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァッ!!!

コトウ 「さぁ、ついにポケモンリーグ本戦も準決勝!!」
コトウ 「とはいえ、すでに第2試合ではミカゲ選手が無条件で決勝進出決定しているため、今回のバトルで準決勝は終了となります!!」
コトウ 「本日は、この一戦のみで終了ですが、そのバトルひとつに観客はすでにオーバーヒート!!」
コトウ 「それもそのはず! 今回のバトルは、あのハルカ選手とキヨミ選手のバトルなのです!!」

ウオオオオオオオオオオオォォォォォォッ!!

ハルカ 「……!」

私は一気に会場を駆け抜ける。
私の姿が見えた瞬間、観客の半分は一気に声援を送って来た。
私はフィールドの中央にたどり着くと同時に右腕を思いっきり上に振り上げる。


ノリカ 「うおおおおおおおーーー!! ハルカ様ーーー!!!」

ハルカファン 「ヤッチマエーーーーー!! ハルカ様天下無敵ーーー!!」


コトウ 「ハルカ選手入場と同時に観客が全力の声援を送ります!」
コトウ 「ハルカ選手の表情も一際凛々しく、今回のバトルに対しての意気込みが感じられます!!」
コトウ 「そしてぇ!! 反対方向からキヨミ選手の入場だーーー!!!」


ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァッ!!!!

キヨミ 「…!!」

キヨミさんは突然の声援に一瞬戸惑いながらも、私の姿を見て一気に表情を変え、こちらに向かって歩き始めてくる。
私のキヨミさんの鋭い目を見て、一瞬恐怖する。
キヨミさんの目は真っ直ぐで、何の曇りも無い。
負けることを少しも思っておらず、己のポケモンを信じて勝利すると確信している目だ…
ここまでで、私も色々なタイプのトレーナーを見てきたと思う。
でも、私はこんな純粋なタイプは戦った経験が無い…
今まで戦っていたキヨミさんは、もうどこにもいないのだから…

キヨミ 「……」
ハルカ 「……」

私とキヨミさんはフィールド中央で睨み合う。
キヨミさんの方が幾分か身長は高いため、私は少し見上げていた。
キヨミさんは、無言で私に語りかけている気がした。

キヨミ (勝つのは私! 全力でやらせてもらうわ!!)
ハルカ (私は負けない! 絶対に勝つ!!)

数秒、睨み合った後、私たちは無言のままそれぞれのフィールドに向かう。
言葉で語ることは何も無い…語るのは互いのポケモンだけだ!


コトウ 「緊張感が一気に高まります! まるでフィールド全体の熱気があのふたりに集約されているかのごとく!!」
コトウ 「まもなく、バトル開始となりますが、すでに両者とも準備は万端の様子、気迫の表情で互いを睨み合っております!!」



………。



サヤ (ハルカさん、いい表情ですね…迷いは、無いようです)

アムカ 「ふみ…どっちが勝つのかな?」

ジェット 「一概には言えないな…どっちが勝ってもおかしくないと、俺は思うぜ?」

リベル 「同感です! ハルカさんはキヨハさんを倒して勝ちあがっているんですから、勝機は必ずあるはずです!」

キッヴァ (ふたりのバトルを見た私の考えでは、両者の実力は『現時点』で五分)
キッヴァ (だけど、ハルカさんは戦いながら自分のレベルを高めていくことができる…と、なればどっちが勝つかは、すでに明白)

ノリカ 「ふんぬーー!! しかし勝つのはハルカ様だーーー!!!」



………。



ゴウスケ 「さて、何や面白そうな雰囲気やな」

キヨハ 「そうね、互いにとっても最高のバトルになるでしょうしね」

ランマ 「伝説のトレーナーと伝説予備軍のトレーナー…そんな所でっしゃろな」

イータ (下らない…トレーナーなんて私はどうでもいい)
イータ (私が興味あるのは…)

ゴウスケ 「…ところで、この小っちゃい娘、誰や?」

キヨハ 「そう言えば…あなた子持ちだった?」

ランマ 「誰のですねん!? ちょっとした親戚や…」

ゴウスケ 「親戚って…明らかに外人やろこの娘? お前に外人の親戚なんておったんか?」

ランマ 「何でもええやんか…今は試合に集中し」

ワテはそう言って、イータのことはうやむやにしておく。
ゴウスケはんは渋々、引き下がった様子やが、納得はしてへんやろな。
しかし、イータもイータや…何でここまで出てくるねん。
試合見るなら、いつものVIP席でもええやろに…

キヨハ (この娘、一体? 何か、とても不思議な感覚を感じる)



………。



カイーナ (ポケモンリーグか…あるいはここに巫女が紛れているのだろうか?)

私は以前タッグトーナメントで使っていた変装をし、この試合会場に潜入していた。
だが、この人だかりではとても特定できはしない。
逆に言えば、ここで特定できるような存在なら、間違えようもないだろう。

ユウキ 「あんた、以前に見たことあるな…ミヅチさん、だったか?」

カイーナ 「!? お前は…確か、ユウキ…だったか?」

突然、私の背後から声をかけてくる少年。
私は一瞬戸惑いながらも、すぐに平静を装って言葉を返した。
そんな私の反応にチェックを入れるかのように、彼は私に明らかな不信の目を向けていた。

ユウキ 「…まぁ、いい」
ユウキ 「あんたが、何を考えているかなんて知らない…が、俺に用があるってんだったら、直接来い」
ユウキ 「俺は、もう逃げも隠れもしない…向き合えと言うなら、戦ってでも向き合ってやるさ」

ユウキは明らかに私の正体を知っているかのような口ぶりでそう言い放った。
その言葉の裏にはあの時の恨みでも込められているのだろうか…
だが、私は今はこの少年に構うつもりはない。

カイーナ 「…残念だが、何のことか何もわからないな」
カイーナ 「誰かと間違えているのではないか?」

私がわざとそう言うと、ユウキは頭を右手で軽く掻いて苦そうな顔をする。

ユウキ 「そうかい、そいつは悪かった…あまりに知り合いに似てたんでね」

カイーナ 「………」

私たちはそれ以上何も言わなかった。
ただ、ふとバトル会場に目が向く…そこでは今から始まるであろう激戦を予感させられる緊張に満ちていた。



………。



コトウ 「さぁ、試合開始も目前! 今回の試合形式は…決まったーー! シングル3体! ダブル2体! そしてシングル1体だーー!!」
コトウ 「まずはシングル3体でのバトル! フィールドは砂漠! 砂嵐が自動的に発生するぞーーー!?」

ビュゴゥゥゥゥゥゥゥッ!!

ハルカ 「!? 自動で…」

フィールドが変化すると同時、強烈な砂嵐が発生する。
ポケモンの使う『すなあらし』とほぼ同質なようで、フィールドの効果として永続するとなると…

ハルカ (自ずと、最初に出すべきポケモンが絞られてくる…)

私は最初に出すポケモンを確定し、ボールを手に握った。
キヨミさんもすでに決めているようだ、後は審判の合図を待つだけ…

審判 「それでは、両者ポケ……」

ハルカ 「出るのよ『マッスグマ』!!」
キヨミ 「任せたわよ『エアームド』!!」

ボボンッ!!

マッスグマ 「グマッ!」
エアームド 「ムドー!」

審判の声と同時に私たちはポケモンを繰り出す。
相対したのは、マッスグマとエアームド。
私の予想通り、キヨミさんはエアームドを出してきた。
砂嵐の中なら有効なポケモンであることはわかっている。
しかも、私のポケモンでは砂嵐で有利なのはアーマルドかジバコイル。
私の今までの使用率から言えば、アーマルドの方が確率は確実に高い。
だから、キヨミさんはエアームドで来る、と私は読んだのだ。

ハルカ (ライボルトでも相性は良かったけど、読みが外れたことも考えてマッスグマにしたけど…)

読みが当たったとはいえ、あれはただのエアームドではない。
キヨミさんのポケモンである以上、相性で有利な攻めを行っても、返される確率は高い。
いや、むしろ押し切らなければならないのだ…あのキヨミさんを正面から倒すには!


コトウ 「まず互いが出したのはマッスグマとエアームド!!」
コトウ 「ノーマルタイプのマッスグマと鋼タイプのエアームドではややエアームドが有利とも思えますが…マッスグマには多彩な技があります!」
コトウ 「果たして、序盤戦を制するのはどちらか! いよいよ試合開始です!!」


審判 「それでは! 試合、始め!!」

ハルカ 「先手はもらうわよ!! マッスグマ『10まんボルト』!!」

キヨミ 「『まきびし』よ!!」

マッスグマ 「グ〜マーーー!!!」

バチバチバチィ!!

まずはマッスグマが先手でエアームドを攻撃する。
エアームドはそれを正面から受け、ダメージを撥ね退けて『まきびし』を放った。

エアームド 「!! ムドーーー!!」

ヒュヒュヒュンッ!! バラララララッ!!


コトウ 「エアームド! 効果抜群の技を受けながらも、あっさりと技を使用!」
コトウ 「『まきびし』がハルカ選手のフィールドにばら撒かれます!!」


ハルカ (くっ! 大して効いてないの!?)

キヨミさんのエアームドは効果抜群の技を受けたにも関わらず、体力はまだ半分以上も残っていた。
エアームドの体力が高いのか、それともマッスグマが貧弱なのか…どちらにせよ、私の予想は最初から外れてしまっていた。

キヨミ (案外大したダメージじゃないわね…タイプ不一致の特殊技とはいえ、私のエアームドはまだ余裕があるわ)
キヨミ 「エアームド! 『はがねのつばさ』よ!!」

エアームド 「ムドーー!!」

ギュンッ!!

エアームドはすぐに空中を飛び回り、マッスグマを撹乱しながら向かってくる。
直撃を受けるわけにはいかない、ここはスピードで翻弄する!!

ハルカ 「マッスグマ、下を潜るのよ!!」

マッスグマ 「!!」

ダッ!!

マッスグマは私の声と同時に直進へ走り、エアームドの真下を潜りぬけるように駆け抜ける。
だが、エアームドはそれを読んだかのように、上から翼を振り下ろしてきた。

エアームド 「エアッ!!」

マッスグマ 「!?」

ドバァッ!!

エアームドの『はがねのつばさ』が地面を叩き、砂を巻き上げる。
その風圧だけでも凄まじい威力が予想できる、だがマッスグマにダメージは無い様だった。


コトウ 「エアームドの一撃が砂の地面を抉る!! マッスグマは大丈夫かーー!?」


マッスグマ 「…グマッ!」

エアームド 「!?」

ズザザァッ!!

マッスグマは見事なスピードでエアームドの攻撃を潜り抜けていた。
『はがねのつばさ』を回避し、すぐさま身体を反転させて今度はエアームドの背後を睨み付ける。
渾身の一撃をかわされたエアームドは当然そのままの状態ですぐには動けない。
私はここで一気に攻めに転じる。一撃が軽いなら、何度も浴びせるしかない!

ハルカ 「マッスグマ! 『10まんボルト』!!」

マッスグマ 「グマーーーー!!!」

バチバチバチィ!!

エアームド 「ム、ムド〜〜〜!!」

『10まんボルト』が再びエアームドを襲う。
だが、エアームドはまだ倒れない。体力が残り少ないはずだが、それでも地上に落ちることすらなく空中に留まり続けていた。

キヨミ (スピードで勝負にならないのはわかりきっている…だけど、耐久力なら圧倒的にこちらが上よ!)


コトウ 「マッスグマの電撃が再び炸裂!! だがエアームドはまだ健在!!」
コトウ 「さすがは伝説のトレーナーが扱うポケモン! 弱点を突いたとて、楽に倒せる相手ではありません!」
コトウ 「砂嵐も巻き起こる中。果たして、ハルカ選手は押し切れるのかぁ!?」



………。



ガラガラガラ…

マリア 「…何よ、見に来いと言ってた割には、まだ一体も倒してないじゃない」

カミヤ 「あはは…そりゃそんなすぐには、ねぇ」

私はカミヤに車椅子を押され、ハルカのバトルを見に来ていた。
別に、約束なんかどうでも良かったけど…暇だから、見に来ただけだ。
病室のTVでも見るだけならできたけど…どうせ見るなら、直に見た方がいいと思った。

マリア 「……」

ミカゲ 「珍しいわね…あなたが他人のバトルを気にするなんて」

マリア 「…別に、誰かさんのおかげで暇になったからよ」

私は皮肉を込めてそう言い返す。
そんな私を滑稽に思ったのか、ミカゲは私の隣まで歩いて近寄って来る。
そして、私の顔を覗き込むようにして嫌な笑みを浮かべた。

ミカゲ 「無様ねぇ…自業自得とはいえ、自分ご自慢のポケモンにやられた傷じゃ、救われないわね…」

マリア 「…言いたいことはそれだけ? だったら、黙ってくれる」
マリア 「私は、今あなたに興味はないの…無駄口を利く気もないわ」

カミヤ (へぇ…マリアちゃん、少しは成長したってことか♪ これも、ハルカちゃんのおかげかな…)

ミカゲ 「ふん、随分いい娘ちゃんになった物ね…まぁ、うるさくなくて私は大歓迎だけど」

ミカゲはそれだけ言うと、後は口を閉じた。
結局、ミカゲは私を試しただけだ…私がいつものように返せば、それを面白がって私を詰っただろう。
もう…私は疲れた。
誰かを意識しつづけて、裏切られて…全部失って。
今は…何かに縋ろうとしているのかもしれない。
ただ純粋に、私に手を差し伸べてくれた…あの少女に。



………。



ハルカ 「今度こそトドメよ! 連続の『10まんボルト』!!」

キヨミ 「『はねやすめ』!!」

マッスグマ 「グ〜マーー!!」

エアームド 「エアーッ!!」

ザシャァッ! バチバチバチィ!!

エアームドはマッスグマの電撃を受ける前に地に足を着ける。
そして、ダメージに耐えながら体力を一気に回復させてしまった。
ダメージを与える所か…一気に戦況を戻された。
そう言えば、『はねやすめ』の効果は飛行タイプの弱点、耐性を一時的に消滅させる効果があった。
つまり、地上に足を着けて休んでいる間のエアームドは弱点が鋼のみ…電気は弱点ではなくなってしまう。
ただでさえ大きなダメージを与えられない相手にこの攻撃力では、もはやエアームドを倒す術が無い…
砂嵐のダメージが蓄積する中、私は一気に手詰まりになってしまった。


コトウ 「エアームドここで一気に体力を回復!! マッスグマ、ノーダメージとはいえ、敗色濃厚!!」
コトウ 「エアームドの耐久力にジリジリと不安が募ります…果たして打開策はあるのかぁ!?」



ジェット 「くっそ…あんだけやっても無駄骨かよっ」

リベル 「マッスグマは元々特殊攻撃が強い種族ではないですからね…エアームドも特殊防御は高くないですけど」

サヤ 「レベル差がそれほどあるわけではないでしょう…ですがこういう場面では単純な『種族』の力差が出ると言うことです」

キッヴァ 「確かに…マッスグマとエアームドでは総合能力の差が激しいですからね」
キッヴァ 「鍛え方でその差が埋まるとはいえ、現時点での状態ではその差が顕著に出てしまっている…」

ノリカ 「うぅ〜! それでもハルカ様は負けないーーー!!」

ハルカファン 「おおよっ!! エアームドがナンボのもんじゃぁ!!」

アムカ 「ふみゅーーーん!! マッスグマ!! ふぁいとーーーー!!!」



………。



ハルカ (ダメだ…現時点のマッスグマが持っている技じゃあのエアームドを押すことができない!)
ハルカ (ここは、交換をするしか方法がないけど…キヨミさんだって、それは確実に読んで来るはず)

私は慣れないシュミレートを頭の中で行う。
キヨミさんの手持ちがどうなっているかはわからないが、単純に相性で攻めてもそれを返すポケモンが必ずいるはず…
相手は伝説のトレーナーなのだ、あのキヨハさんが一度も勝てなかった程の…
つまり、どれだけ切れる頭を持って戦っても、勝てなかったと言う証明。
それだけの、差がどこかにあったということだ…

キヨミ 「『まきびし』よ!」

エアームド 「ムドッ!」

バララララッ!!

私がシュミレートしている間に、キヨミさんは更に『まきびし』を撒く。
こっちのフィールドには、更に大量の『まきびし』が散らばってしまっていた。
私なんかの頭じゃ回転が追いつかない! こう言う時は直感で体当たり勝負よ!!

ハルカ 「戻って『マッスグマ』!! そして出るのよ『ライボルト』!!」

シュボンッ! ボンッ!!

ライボルト 「ライッ! ラ、ラライッ!!」

ブシュシュ!!

ライボルトはマッスグマと交代するが、出てきていきなり足を怪我する。
『まきびし』の効果だろう、地上を移動するポケモンは恐らくこのダメージを受けなければならない。
ここは一気に攻めるべきだ、キヨミさんの予想を上回るスピードとパワーで攻めるしかない!!

ハルカ 「ライボルト『かみなり』よ!!」

キヨミ 「戻って『エアームド』! 出なさい『ハピナス』!!」

シュボンッ! ボンッ!!

ハピナス 「ハッピ〜♪」

ライボルト 「ラ〜イーーーー!!!」

カッ! ピッシャァァァァァァンッ!!

ハピナス 「!! ハピ〜♪」

ハルカ 「き、効かね〜〜〜!!!」

今の一撃は少なくともライボルトの技では最高の威力を持った技なのに…ハピナスの体力はちょこっと減っただけだった。
洒落にならない…こんなんどないすんねん!!

キヨミ 「反撃よ! ハピナス『どくどく』!!」

ハピナス 「ハピ〜…!」

ビチャァッ!! ジュワァ〜…

ライボルト 「ラ、ライ〜〜!!」

ハピナスの妙な動きから瞬間、ライボルトの足元に猛毒が襲い掛かった。
これは、キヨハさんの時と似たような状況だ。
この技はじわじわとダメージが入る嫌な技、5分もすればライボルトは昨日と同じ運命を辿るだろう…
しかし、対処法が無いわけでもない!

ハルカ 「戻れ『ライボルト』!」

シュボンッ!!

こうやってボールに戻せば、猛毒の効果は弱まる。
完全に消えることは無いが、それでも若干の延命処置になるのだ…



………。



ゴウスケ 「…相変わらずえげつないコンビやな」

キヨハ 「そうね、ジョウトを戦い続けた時代でも結局あのコンビを崩した相手はいなかったものね」
キヨハ (もちろん、私を含めて…ね)

ランマ 「当時のポケモンバトルやったら、仕方ありまへんやろな…」
ランマ 「今の近代化したポケモンバトルでなら、穴はいくらでもありますわ」

イータ (ポケモンの力差が明らかね…ハルカのポケモンはどう考えても種族として弱い)
イータ (相手のポケモンは全く逆…レベルが同じでも差は明らか。この勝負はもう見えたわね…)



………。



コトウ 「キヨミ選手が誇る巨大な壁が2枚も立ちはだかります!!」
コトウ 「エアームド、ハピナス共に、物理防御、特殊防御を特化させたスペシャリスト!!」
コトウ 「生半可な攻撃力ではジリ貧必至!! ハルカ選手は直接攻撃を受けていないにも関わらず、明らかに敗戦ムードです!!」



ハルカ (くっそ〜…物理か特殊を完璧にシャットアウトする2体! 私のポケモンじゃどうやっても押せないっての!?)
ハルカ (いや…押す方法はあるけど、それをここで使うべきかどうか…)

ぶっちゃけ言うなら、あの2体を同時に捌くなら『バシャーモ』を繰り出せば事足りる。
エアームドには特殊の炎、ハピナスには物理の格闘で攻めればいいのだから。
だけど、キヨミさんだってそれはわかっているはず…向こうも最後の一体はバシャーモを意識したポケモンを繰り出してくるはずだ。
このバトルルールでは、先に新たなポケモンを出した方が明らかに不利になる。
先に出したポケモンはもう後のセットで使うことができないからだ…つまり自分の手持ちを先にバラすことはかなり不利になる。
第1セットを取るために、後の2セットを失うわけにはいかない。
バシャーモは私が最も信頼するポケモン…最後にシングル1体戦が残っている以上、私はそこに賭けたい。
キヨミさんも同じ考えのはずだ…バクフーンは必ず最後!
だから、私はバシャーモを温存する。
キヨミさんを倒すには、バシャーモ無しでエアームドとハピナスを倒すしかない!!

ハルカ 「もう一度頼むわよ『マッスグマ』!!」

キヨミ 「『れいとうビーム』!!」

ハピナス 「ハッピーーー!!」

ボンッ! ザシュシュゥッ! コォォォォォォォッ!!

マッスグマ 「グ、グマ〜〜!!」

マッスグマは出てきた途端、『まきびし』と『れいとうビーム』を同時に受けて苦しむ。
この時点で『マッスグマ』の体力はほとんど残っていなかった、もう砂嵐のダメージでもじきに倒れてしまう。
だから、動ける内は全力で動く!!

ハルカ 「マッスグマ『いわくだき』!!」

マッスグマ 「グマーーー!!」

キヨミ 「戻って『ハピナス』! 出なさい『エアームド』!!」

シュボンッ! ボンッ!!

エアームド 「エアッ!!」

ドガァッ!!

マッスグマはエアームドを思いっきり殴りつける。
だけど、エアームドの体力はほとんど減らなかった…元々威力の高い技じゃないけど。

キヨミ 「まるで無策のようね? そんな戦い方じゃ私には勝てないわよ!!」
キヨミ 「エアームド『つばめがえし』!!」

エアームド 「エアッ!」

ギュンッ!!

ハルカ 「くっ! 『10まんボルト』よ!!」

マッスグマ 「グ、グマーー!!」

バチチチチィッ!! ザシュゥッ!!

私は破れかぶれで攻撃させる。
だけど、マッスグマの『10まんボルト』はエアームドを倒すことなどできず、マッスグマはあえなくダウンしてしまった…

ドサッ!!

審判 「マッスグマ戦闘不能!! エアームドの勝ち!!」


ウオオオオオオオオォォォォォォォッ!!

コトウ 「何ということでしょう! 終始攻め続けたのはハルカ選手であるにも関わらず、先制したのはキヨミ選手!!」
コトウ 「攻撃するだけではどうにもならない壁がここに存在しています!! ハルカ選手すでに絶体絶命か!?」



………。



ジェット 「…ダメだっ! ちょっとやそっとの攻撃じゃどうにもならない…」

リベル 「せめて、物理と特殊、どちらに対しても大きな攻撃力を持つポケモンがいれば…」

サヤ 「ハルカさんの選んだポケモンが、奇しくもこの結果を導いてしまった…運が悪い、と言えばそうですが」

キッヴァ 「…エアームドとハピナスは上級トレーナーなら対策を想定して然るべきポケモン」
キッヴァ 「無策のままだったハルカさんの完全な落ち度でしょう…」

アムカ 「ふみゅ…マッスグマ〜」

ノリカ 「おのれ〜! まだまだ1体失っただけ! ハルカ様はまだまだこれからよーーー!!」

ハルカファン 「おおさ!! 野郎ども応援だーーー!!! ハルカ様ーーーー!! ファイッ!!」



………。



マリア 「…何よ、全然相手になってないじゃないの」
マリア 「あんなポケモンを選ぶからそうなるのよ…もっと強いポケモンなんていくらでもいるでしょうに」

カミヤ 「だけど、ハルカちゃんはそれでここまで勝ち進んできた…きっと、これからもそうなんだと思うよ?」

ミカゲ 「でしょうね…能力の差はレベルで埋めればいいこと」
ミカゲ 「結局の所、自分がどんなポケモンを育てたいか…それが強いか弱いかは、案外二の次なのかもね」

私には理解できない…勝つなら当然強いポケモンを育てるべきだ。
同じ労力を割くなら、当然強いポケモンが勝つのだから…それがあの結果でしょう?
なのに…何でわざわざ弱いポケモンで戦おうと無駄な努力をするのよ…



………。



ハルカ 「戻って、マッスグマ…ゴメンね、私のせいで」

シュボンッ!

私はマッスグマを戻し、自分の力無さを悔やむ。
悪いのはポケモンじゃない、私だ。
キヨミさんは、これまで勝ち続けてきた戦術で私と戦ってくれているに違いない。
それは、キヨミさんが絶対の自信を持っている戦術であるだろうし、同時に私を認めてくれているだろうからだ。
私はそれに全力で答えたい…! そしてキヨミさんに勝ちたい!!
私はまだまだポケモンを始めたばかりだけど、ここまで来れたのは他ならぬキヨミさんのおかげだ。
この人がいたから、私はここにいる! だから!! 私はその恩をこのバトルで返す!!

ハルカ 「こうなったら頼むわよ『ダーテング』!!」

ボンッ!! ザシュシュゥッ!!

ダーテング 「テ…テンッ♪ 」

私はここで3体目を確定させる。
キヨミさんは未だに2体だけど、こうなったからには強気に攻めよう。
要は誰が来ても返せばいいだけだ…無茶はこの際仕方ない!


コトウ 「ここでハルカ選手が繰り出したのはダーテング!!」
コトウ 「ちなみに、このバトルルールでは3体目が出現したと同時に、トレーナーのモンスターボールをロックします!」
コトウ 「これにより、ここまでに出した3体以外のポケモンは出せないようになり、『ほえる』や『ふきとばし』を受けても他のポケモンが出ることはありません!!」
コトウ 「ポケモンリーグに参加しているトレーナーは全て所持モンスターボールにそのシステムが組み込まれております」
コトウ 「逆に言えば、このルールの場合、3体目が確定する前に『ほえる』や『ふきとばし』を受けると、強制的に後続が決定してしまうと言うわけです!!」


ハルカ (な〜るほど…そう言う仕組みになってたのか、ってことは…まだ面白いことになるかもしれないわね)

私は色々思案を張り巡らしてみる…その意図がキヨミさんに読めるかはわからないけど、まだまだ私に勝機は残されていそうだった。

キヨミ (ハルカちゃん、まだまだ望みを捨ててないようね…それでこそ私が認めたトレーナーよ!)
キヨミ (ハルカちゃんとのバトルは、私が望んでいたバトルそのもの…ポケモンが大好きで、ポケモンのために戦うバトル!)
キヨミ (富や名声なんて入り込む余地はない! 私たちのバトルは、私たちのポケモンが全てなのだから!!)

審判 「それでは、始め!!」

ハルカ 「さぁ行くわよダーテング! 『わるだくみ』!!」

ダーテング 「テンッ! テン〜」

ダーテングはその場でステップを踏み、特殊攻撃を上昇させる。
あのコンビを倒すには、受けられないほどの攻撃力をとにかく出すしかない。
ダーテングなら、上手く行けば両方倒すことも不可能じゃない!

キヨミ (能力を上昇させてきた…さすがにエアームドの残り体力で受けるのは厳しい?)
キヨミ 「なら、エアームド『ほえる』よ!!」

エアームド 「!! エア〜…」

ハルカ 「間に合え! 『あくのはどう』!!」

キヨミ 「!?」

ダーテング 「! テンーーーッ!!」

ドギュゥゥゥゥンッ!!!

エアームド 「〜〜〜!! ムドーーー!!」

ダーテングはエアームドが『ほえる』を放つ前に、何とか『あくのはどう』を叩き込む。
能力が上がった所で決まったのが良かったのか、エアームドは怯んで行動を停止させてしまった。


コトウ 「ハルカ選手見事! エアームドの黄金コンボとも言える、『まきびし』&『ほえる』を見事止めました!」
コトウ 「これでエアームドは一気に苦境!! 体力もそれほどは残っていないか!?」


キヨミ 「くっ! 戻って『エアームド』!! 頼むわ『ハピナス』!!」

ハルカ 「『かわらわり』!!」

シュボンッ! ボンッ!

ハピナス 「ハッピ〜♪」

ダーテング 「テーーンッ!!」

ドッカァッ!!

ハピナスが代わりに出た途端、ダーテングがハピナスの脳天を団扇で縦に殴りつける。
ハピナスは格闘攻撃に弱い…私の読み通り、ハピナスの体力はこれで一気に減る。
後は押せる時に押し切る!!



コトウ 「ハルカ選手! 一気に攻めこみます!! ダーテングから放たれる的確な技がキヨミ選手のポケモンを苦しめる!!」



………。



ユウキ (そうだ、それでいい…エアームドとハピナスは確かに超強力な『受け』のポケモンだ)
ユウキ (だが、受けのポケモンは長期戦を想定するあまり、どうしても補助や回復の技を多く使用して戦うことを前提に育てられている)
ユウキ (また、受けのポケモンは物理か特殊どちらかに特化して育てられるのがほとんど)
ユウキ (そのどちらかの逆を突けば、案外受けのポケモンはもろく崩れてしまうものだ…)



………。



キヨミ (くっ! このままじゃダーテング一体に壊滅させられかねない…とはいえ、ここで3体目を出してもいきなりやられる可能性もある)
キヨミ (さすがね、ハルカちゃん…こうもあっさりとこの2体を攻略されるとは思わなかったわ)
キヨミ 「…行くわよ! ハピナス『れいとうビーム』!!」

ハピナス 「ハッピーーー!!」

コオォォォォォォッ!!

キヨミさんは一瞬目を瞑り、迷いを振り切るように『れいとうビーム』を指示する。
ハピナスはやや遅目のモーションから『れいとうビーム』を真っ直ぐ放って来た。
私は当然それを迎え撃つ!

ハルカ 「気合で耐えるのよ!! そして『かわらわり』!!」

ダーテング 「!! テ〜〜〜〜ン!!」

キィィィィンッ!!

ダーテングは自分の前方に両手を掲げ、『れいとうビーム』を遮ろうとする。
弱点の技なんだから、当然ダメージは大きい。
だけど、私が渇を入れた以上、ダーテングはそれに答えてくれた。

ダーテング 「…!! テーーンッ!!」

ドッカァァァッ!!

一際力強い一撃が、ハピナスの脳天を襲う。
ダーテングは『れいとうビーム』を見事耐えきり、強敵ハピナスを砂に沈めた…。

審判 「ハピナス戦闘不能!! ダーテングの勝ち!!」


ウオオオオオオオオォォォォォッ!!!


ハルカファン 「ブラボーーー!! ハルカ様ーーー!! ここから大反撃じゃーー!!」

ノリカ 「ぶっ潰せーーー!!! ハルカ様の力を知らしめるんじゃーーーー!!!」


段段、ノリカのセリフがプロレスじみてくる…どんだけなのよ。
まぁ、私のファンってこの手のがほとんどみたいだし、諦めるしかない、か…
暴動だけは勘弁してよね…

キヨミ 「戻ってハピナス…ありがとう」

シュボンッ!

キヨミさんはハピナスを戻して考える。
この状況下でどんな戦術を立ててくるのか…それとも考え無しに向かってくるのか?
相手がキヨミさんだけに、どんな戦い方をしてくるかちょっと予想ができない。

キヨミ 「…頼むわよ『エアームド』!!」

ボンッ!!

エアームド 「エアッ!!」

出てきたのは再びエアームド。
結局3体目はギリギリまで隠すつもりなのだろうか?
だけど、こっちにはもうやることが限られている…。

審判 「始め!!」

キヨミ 「思いっきり突っ込め!! 『つばめがえし』!!」

ハルカ 「『あくのはどう』!!」

ダーテング 「テンッ!!」

残念ながら、こっちはもうダーテングを戻すことはできなかった…
本当ならライボルトに交代が一番良かったんだけど…ダーテングの体力はもう砂嵐と『まきびし』のダメージに耐えきれない。
だから、ここで与えられるダメージを与えておく。

エアームド 「エアーー!!」

ギュンッ!!

ダーテング 「テ〜〜ンッ!!」

ギュアオウゥゥゥッ!!

ダーテングは向かってくるエアームドを『あくのはどう』で迎え撃つ。
エアームドが技の態勢に入る前に『あくのはどう』がクリーンヒットし、エアームドは空中でバランスを崩した。

キヨミ 「!? エアームド!! 耐えるのよ!!!」

エアームド 「〜〜〜!!」

ハルカ 「! そのまま押しこめ!! もう一発!!」

ダーテング 「テ〜ンーーー!!」

ギュアオウゥゥゥッ!!

エアームドは『あくのはどう』の効果で、また動きを止めてしまった。
キヨミさんは悲痛な叫びでエアームドを呼ぶが、その声がエアームドには届ききらなかった…

ドシャァッ!!

エアームド 「……」

審判 「…エアームド戦闘不能! ダーテングの勝ち!!」


コトウ 「ここで撒き返したぁーーーー!! ハルカ選手起死回生!! 序盤戦の辛さをここで一気に返却!!」
コトウ 「『あくのはどう』で怯んだエアームド、反撃の手は打てませんでした!!」
コトウ 「キヨミ選手に残されたポケモンは1体! 果たして何が出てくるのか!?」


キヨミ 「…くっ」
キヨミ (奇しくも…私のポケモンでダーテングに有効なのはバクフーン位か)
キヨミ (ハルカちゃんは明らかにバシャーモを隠している…ラストのバトルに全てを注ぐつもりでしょうね)
キヨミ (考えは私と同じ…だったら、このセットは厳しくなりそうね)
キヨミ 「出なさい『キレイハナ』!!」

ボンッ!

キレイハナ 「ハナ〜♪」

キヨミさんがここで繰り出したのは、『キレイハナ』だった。
何が来ても、ダーテングは体力が残っていない…もうできることは少ないだろう。
だから、後は互いの読み合いにかかる…頼むわよ、ダーテング!

審判 「始め!!」

ハルカ 「ダーテング『いちゃもん』!!」
キヨミ 「『まもる』!!」

ダーテング 「テンッ!! テテンッ!!」

キレイハナ 「ハナッ!」

ピキィィィンッ!!

キレイハナはここで『まもる』を行ってきた。
私の読みが当たった瞬間だ。
やはり、ここでキヨミさんは守りに来た…砂嵐のダメージを覚悟の上で。
こっちの体力は確かに残り少ない…だけど、後1分位なら砂嵐に耐えることはできる!
最悪、攻撃されて倒されることもあっただろうけど…『いちゃもん』が決まれば行動に制限がかかる…
そうなればライボルトの技で一気に仕留めることも不可能じゃない。

キヨミ (…ここまでかっ)

ハルカ 「いっけーーー!! 『だいばくはつ』!!」

ダーテング 「…テ〜〜〜〜〜ンーーーーーーーーーーーー!!!」

カッ! チュッドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォンッ!!!!

キレイハナ 「!!!」

ダーテングは迷いもなく私の指示を遂行する。
キレイハナは『まもる』の後を狙われ、その爆発に巻き込まれるしかなかった…



………。



ヒュゥゥゥ…ビュゴゥゥゥゥッ!!

コトウ 「…『だいばくはつ』が決まってしまったーーーーー!! キレイハナ、無残!! ハルカ選手の見事な読みで第1セットを制しましたーーー!!!」


ワアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!

ハルカファン 「ハールーカッ! ハールーカッ!! ナンバ〜〜〜〜ワンッ!!」

ノリカ 「うわはははははははははっ!! ハルカ様のポケモンは世界一ィィィィィィィッ!! 倒せぬ敵などぉぉぉぉぉぉ無いっ!!」

ジェット 「マジかよ…あそこから切り替えしちまった!!」

リベル 「凄いです、ダーテング!! まさに一騎当千!!」

キッヴァ (確かに凄い…いくら、読みが当たったとはいえ、ああも綺麗に3連勝するなんて)

サヤ 「…運、と言えばそれまでですが、ハルカさんの力が引き寄せたと思いたいですね」

アムカ 「ふみゅ…マッスグマ可愛そう」

結局、アムカはマッスグマしか見ていなかったようだ…



………。



キヨハ 「…凄いわ、本当にハルカちゃんは強くなった…」

ゴウスケ 「やるもんやな…またバトルの中で強ぅなったんやな」

ランマ 「それがハルカはんの本当の怖さですわ…相手が強ければ強いほどそれに合わせてレベルアップする」
ランマ 「ある意味、トレーナーの究極系とも言えますな…ただし、相手に恵まれない場合はあっさり埋もれるタイプでもあるんやけど」

イータ (…やっぱり、ハルカだけは面白い。誰も持っていない物をハルカは持ってる…)
イータ (もっと見てみたい…ハルカの全てを…・)



………。



ユウキ (…まぁ、及第点か。キヨハさんに勝った以上、この位はやってくれないとな…)

カイーナ (何故だろう…どことなく、ハルカはエミに似ている)
カイーナ (ユウキが妙に気に入っているようだが…ハルカとエミを重ねているのか?)



………。



マリア 「……何よ、勝っちゃったじゃない」

カミヤ 「あはは…素直に誉めてあげたら?」

ミカゲ 「あの程度の相手に勝ってくれくちゃ、私の相手には役不足だわ」

カミヤ 「ミカゲもそう強がらない…本当は認めてるんじゃないの?」

ミカゲ 「冗談言わないで…私は自分より弱い相手は認めるつもり無いわ」

ミカゲはそう言って、ちょっと複雑そうな表情をする。
何よ…ミカゲの癖にハルカのことを気にしているの?
生意気じゃない…私だってまだ認めてないのに。

マリア (どうして、あんなポケモンでも勝てるのよ…)
マリア (どう考えても、ハルカの方が不利なはずじゃない…)

でも、ハルカもキヨミも顔は凄く楽しそうだった…
何故あんな顔ができるんだろう…? 勝って嬉しいのはわかるけど、負けた方が何であんなに清清しく笑えるのよ…
そりゃ…まだ第1セットだけど、私にはやっぱり理解できないわ。

カミヤ (考えてるね、マリアちゃん…それでいいんだ)
カミヤ (悩んで、考えて…そして自分で答えを出すんだ)
カミヤ (ハルカちゃんは全力でその答えを見せようとしてくれる…後は、マリアちゃんがそれに気づくかどうか)



…To be continued




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