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POCKET MONSTER RUBY



第92話 『ハルカVSキヨミ! ふたりの答え!! 後編』




『4月16日 時刻11:20 サイユウシティ・第0スタジアム』


コトウ 「さぁ、第1セットが終了しまずはハルカ選手が先制!」
コトウ 「まさかのダーテングによる3連続撃破で、あのキヨミ選手からポイントをもぎ取ったのです!」
コトウ 「しかし! まだまだこの戦いは前半が終了したばかり!! まだ後2セットが残されており、いずれも目が離せません!!」



………。



ハルカ (さて、次はキヨミさんがルール決める…単純に考えたらシングルでまず流れを掴もうとする所だろうけど…)

キヨミ 「ダブルバトルを選択するわ!!」

と、私の予想通り、ダブルを選択される。
まぁ、当然と言えば当然だ…勝つにしろ、負けるにしろ、シングル1対1は最後にする…これは私たちの暗黙の了解とも言えた。
逆に言えば、これで私が勝てば試合は終了…キヨミさんは何が何でも負けられない。
キヨミさんがダブルバトルを苦手としているのはわかってる…とはいえ、あのラファさんに勝っている以上、その考えは捨てた方がいいだろう。
間違い無く、キヨミさんは自身を持っている、私に勝てる…いや、勝つ気でいる。
どんな戦法で来るかはわからないけど…注意はしておかないと。


コトウ 「ダブルバトルを選択したキヨミ選手! 今回のフィールドは前とは一転して何と森林!」
コトウ 「深い木々の中移動はかなり制限されてしまいます…果たしてどうなる!?」


審判 「それでは、両者ポケモンを!!」

ハルカ 「頼むわよ! 『アーマルド』に『ジュペッタ』!!」
キヨミ 「行くのよ『エーフィ』! 『デンリュウ』!!」

ボボンッ!! ボボンッ!!

互いにボールをほぼ同時にふたつ投げる。
木々に囲まれ、足元は草むらのフィールドに互いのポケモンが出揃った。
4体のポケモンがその場で睨み合い、すでに互いを威嚇している。



………。



ジェット 「相性だと、キヨミさんが不利か…だが、わかんねぇなこの勝負」

リベル 「そうですね〜、ダブルはシングルと違って一発で勝負が引っくり返ることも多いですし…」

サヤ 「ダブルバトルは、経験が全てと言っても過言ではないです」
サヤ 「その場の空気を的確に読み、相手の裏をかく…力技だけではどうにもならないのがダブルバトルの理論」
サヤ 「とはいえ、キヨミさんはその力技でラファさんに勝ってしまっているのですから、本当にどうとも言えませんね」
サヤ 「ハルカさんの気質もあるでしょうし…単純な潰し合いになりかねません」

キッヴァ 「…どちらにせよ、キヨミさんはすでに負けが許されない、一体どんな心境でいるのか」

アムカ 「うにゅ〜…」



………。



審判 「それでは、試合開始!!」

ワアアアアアアアアアアアァァァァァァァッ!!!

ハルカ 「先手を取るわよ!! アーマルド、エーフィに『シザークロス』!! ジュペッタは『デンリュウ』に『シャドークロー』!!」
キヨミ 「先制よ!! エーフィはジュペッタに『シャドーボール』! デンリュウはアーマルドに『10まんボルト』!!」

アーマルド 「アーマーッ!!」
ジュペッタ 「!!」

ドドドドドッ!!!

まずは接近戦を挑みに行った私のポケモンに対し、キヨミさんは遠距離技で先制を取ろうとする。
こちらのポケモンはかなり鈍足な部類のせいで、出足が予想以上に悪い。
逆にキヨミさんのポケモンはエーフィがかなり速く、完全に先手を取られていた。

エーフィ 「フィ〜!!」

ギュバァッ!!

ジュペッタ 「ちぃぃっ!!」
アーマルド 「アマーー!!」

ドォンッ!!


コトウ 「何とーー!? エーフィに向かって行ったアーマルドがジュペッタに向かった『シャドーボール』に体ごとぶつかります!!」
コトウ 「アーマルドにいきなりダメージが行くものの、ジュペッタは無傷!! しかし完全にハルカ選手のポケモンは出遅れたぁ!!」


アーマルドはジュペッタを庇うために、あえて自分からダメージを受けた。
『シャドーボール』の威力にアーマルドは後ろへ戻され、攻撃のチャンスを失う。
だが、その礼だと言わんばかりに、ジュペッタがエーフィへ向かって突っ込んで行った。
確実に命令無視…だが、この場合は仕方ない。
エーフィに『シャドークロー』が決まればかなりのダメージになる、ちょっと不安だけどジュペッタを信じるしかない!

デンリュウ 「リュ〜!!」

バチバチバチィ!!

ジュペッタ 「!? っぅ!!」

何と、今度はキヨミさんのデンリュウが命令無視を行ってくる。
これはさすがの私も全く読んでいなかった。
ジュペッタはエーフィに近づく前に止められ、格好の的になってしまった。

ハルカ (初回からいきなり不利な状況に…! 接近戦が裏目に出たか)

キヨミ (結果良ければ全て良し! 押し切れる時は一気に押し切る!!)
キヨミ 「エーフィ『かみつく』!! デンリュウは『ほうでん』よ!!」

ハルカ 「!? 攻めてきた…でも『ほうでん』って全体攻撃じゃ!?」

エーフィ 「フィー!!」

ガブゥ!!

ジュペッタ 「!?」

エーフィは近くにいたジュペッタの喉元に食らい付く。
ジュペッタは効果抜群の痛みに耐えながらも、エーフィを振りほどこうとする。

デンリュウ 「リュ〜〜〜〜!!」

バババババババチィッ!!

続いてデンリュウが『ほうでん』を放ってくる。
味方ごと巻き込むこの攻撃は当然のようにエーフィも対象となってしまう。
だが、キヨミさんのエーフィはそれをわかった上でとんでもない行動に出る。

エーフィ 「フィ〜!!」

ググゥッ!!

ジュペッタ 「!?」

バチチィ!!

エーフィは自分まで巻き込まれる電撃に対し、ジュペッタの体に噛み付いたまま、ジュペッタを盾代わりにする。
エーフィはこれによりノーダメージで『ほうでん』を切りぬけ、デンリュウの攻撃はこちらにダメージを与えるだけと言う結果を残す。
アーマルドも後方で電撃のダメージを受け、攻撃のチャンスすら与えられなかった。

ハルカ (これは完全にマズイ! このままじゃ攻撃することすら危うい!!)

ここまで、こちらの攻撃は0。
対してキヨミさんは押せ押せの戦術で前に前に出てくる。
ダブルバトルが苦手と思われるキヨミさんだけど、苦手は苦手なりに開き直った行動を取ってくるのが一番きつい。
例え行動を読めたとしても、こう力技ばかりの攻め方をされては流すのも一苦労…しかもひとつでも行動を間違えたら一気に押されるのがダブルバトルだ。
私はひとつ所かふたつもみっつも間違えてしまっている。
このセットはかなり敗色濃厚…とはいえ諦めるなんて言葉は私の辞書に無い!!

ハルカ 「こうなったらダメ元よ!! ジュペッタ『トリックルーム』!!」

ジュペッタ 「く…おおっ!!」

ブンッ!! ズダァッ!!

エーフィ 「!!」

ジュペッタはようやくエーフィを振りほどき、すぐさま『トリックルーム』の発生準備に入る。
この技は発生がとにかく遅い…発動まで1分近く動きを止めることになる。
こうなったら、後はアーマルドに任せるしかないわけだ。

キヨミ 「エーフィ、アーマルドに『サイコキネシス』よ!!」
ハルカ 「アーマルド『まもる』!!」

エーフィ 「フィッ!」

ドギュゥンッ!!

アーマルド 「アマッ!!」

ピキィィンッ!!

アーマルドは『サイコキネシス』を何とか止める、しかしこれによりデンリュウの行動を私は見ていることしかできなかった。

キヨミ 「今よ! デンリュウ『かみなり』!!」

デンリュウ 「リュ〜〜〜!!」

カッ! ワピシャァァァンッ!!

ジュペッタ 「!! おおっ!?」

身動きの取れないジュペッタは『かみなり』の直撃を受け、成す術無くダウンしてしまった。
やはり、そんなに上手くは行かなかったか〜〜〜!!

ハルカ 「くっそ! アーマルド『シザークロス』!! せめて一体でも…」
キヨミ 「エーフィ『サイコキネシス』!!」

エーフィ 「フィィッ!!」

ドギュゥゥゥンッ!!

アーマルド 「アーマッ!?」

ドズザァァァッ!!

アーマルドは『サイコキネシス』の直撃を食らい、あっさりダウン。
何てことだ…結局一度も攻撃できなかった。


ウオオオオオオオオォォォォッ!!



コトウ 「決まりましたーーー!! キヨミ選手、完全勝利で第2セットを勝利!!」
コトウ 「まさに伝説のトレーナー!! 第1セットとは打って変わり、ハルカ選手に一度の攻撃すら許しませんでした!!」



………。



ユウキ 「おいおい…せめて一度くらい攻撃しろよ」

カイーナ (下らんな、こんなデタラメな戦い方があるか…)



………。



ゴウスケ 「何やあれ、偉い適当なバトルやったなぁ〜」

キヨハ 「キヨミらしいペースね、下手に型にハメようとすると、大抵はああなるわ」

ランマ 「良くも悪くもハルカちゃんは攻めのトレーナーやさかいな…ダブルで攻めとなれば、単純に力も経験も上のキヨミが勝って当たり前いうことやろな」

イータ (馬鹿ね…攻めに対して、攻めで挑むならもっと上手くポケモンを動かさないと)
イータ (接近戦と遠距離戦の差が出た時点で相当手遅れ…むしろあんなフィールドで接近戦をただ挑むのは馬鹿の極みね)



………。



コトウ 「さぁ、いよいよ試合は第3セットに!! 互いが最後まで温存した最後のポケモンが戦うこととなります!!」
コトウ 「果たして決勝に進むのはどちらのトレーナーか!? いよいよ大詰めです!!」



ハルカ (…結局、こうなってしまった、予感はあったけど)

キヨミ (ここまでは予定通り…と言う所かしら。どちらにせよ互いにもう最後のポケモンしかいない)
キヨミ (私たちの決着としては、これが一番なんじゃないかしら…?)

私たちは始めから思っていた…最後は互いの最大のパートナーで決めようと。
だから、ここまで互いにそのポケモンは出さなかったし、最後は必ず出すつもりだった。
ここまでの戦いは、いわば前哨戦だったのかもしれない…結果はどうでも良かった。
最後に決めるのはこの最終セット…私たちは、この戦いだけにこの勝負の全てを込めるつもりだったのかも…


コトウ 「さぁ! 最後のバトルは草原!! 障害物は何もない、ただ風が心地よく吹く、いわば決闘の場!!」
コトウ 「互いが自信を持って送り出す最後のポケモンは一体何なのか!? まもなく最終セットが始まります!!」



………。



ハルカ (わかってる…互いが互いのポケモンを理解している)
ハルカ (もう、あなたしかいないし、私はあなたを信じる)
ハルカ (だから、勝つのよ…勝たなきゃダメ…勝って新たな一歩を踏み出す!!)
ハルカ (これは…始まりの戦いなのよ!!)

キヨミ (ここまで一緒に戦った最大のパートナー…ホウエンではあまり一緒にいられなかったけど、一番信頼しあっているポケモン)
キヨミ (あなたがいたから、私は今の私がある…そして、ハルカちゃんとの戦いでは必ず使うと決めていた)
キヨミ (私は知りたい…自分が何をしたいのか、そして自分が何をするべきなのか)
キヨミ (辛かったことも、苦しかったことも、今日で全部終わらせる! 私の止まっていた時を全部動かす!!)

審判 「それでは両者最後のポケモンを!!」

ハルカ 「『バシャーモ』! 行けーーー!!」
キヨミ 「『バクフーン』! 燃えろーーー!!」

ボボンッ!!

バシャーモ 「…シャモッ!」
バクフーン 「フ〜ン!!」

ゴォッ!! ブオオッ!!

互いの炎が草原フィールドを一気に加熱させる。
互いの熱気で蜃気楼が生まれ、フィールドはさながら熱地獄となった。


コトウ 「互いに出したのは炎タイプ!! パワーのバシャーモとスピードのバクフーン!!」
コトウ 「ここまで見ても、互いの実力は判断しがたく、どうなるかは私には予想も着きません!!」
コトウ 「泣いても笑ってもこれが最後の戦い!! どうせなら勝って泣け!!」
コトウ 「最終セット! いよいよ開始です!!」


審判 「試合開始!!」

ハルカ 「『にどげり』!!」
キヨミ 「『かえんぐるま』!!」

バクフーン 「フーーン!!」

ゴォッ!! ギュルルルルルルッ!!

バクフーンは先手を取って体を縦回転。
高速の火炎車となって、バシャーモへ一直線。
バシャーモはその動きを正確に見極め、右足で初撃の前蹴りを放つ。

バシャーモ 「シャモーッ!!」

ギュルルッ! ドガァッ!!

バクフーン 「フンッ!!」

ドゴォッ!! ギュルルルルッ!

バクフーンは回転中に蹴りを入れられるも、回転を止めずにバシャーモのすぐ左を掠めて行った。
かなりのスピードのためか、バシャーモは二撃目を放てずに、少々バランスを崩した。
だが、すぐに態勢は立て直し、回転したままのバクフーンを見定める。

ハルカ (パワーもスピードもバクフーンは十分にある、バシャーモは性格のせいでパワーで勝つのは難しいか?)

キヨミ (半端な一撃の蹴りじゃなかった…ただの小技とは思わない方がいいわね)
キヨミ (中途半端な攻撃じゃすぐに切り返されそう…手加減はまるでできないわね)
キヨミ (当然か、もう目の前にいるのは以前のハルカちゃんじゃない…私の宿敵とも言えるトレーナーのハルカちゃんだ!!)
キヨミ 「バクフーン! 遠慮はいらないわ!! まずは一発叩き込め!! 『ブラストバーン』!!」

バクフーン 「フ〜ン!! バーーーーーーー!!!!」

ドギュゥゥゥッ!! ゴッバアアアアアァァァァァァァッ!!!

バクフーンは首を上げ、口に凄まじい熱量の火炎を溜め、それを一気に放ってくる。
レーザー状の『ブラストバーン』はとても見てかわせる代物ではなかった…バシャーモは棒立ちでそれを受けそうになる、が奇跡的に対応する。

バシャーモ 「〜〜〜!!!」

ゴワァァァァッ!! チュドオオオオオオオオォォォンッ!!!

バシャーモはクロスアームブロックで『ブラストバーン』を正面から受け止める。
とはいえ、その熱量と爆発力を防ぐことなど簡単にはできない、バシャーモはブロックごと吹き飛ばされた。
フィールド中央付近から一気にフィールド端辺りまで大きく吹き飛び、バシャーモは地面を転がる。

ゴロゴロゴロゴロッ!!

バシャーモ 「シャ、シャモ〜〜〜!!」

バシャーモのダメージは事の他大きい、効果は今一つでも半分以上の体力を持って行かれた。
だけど、あの技は強力ゆえにすぐには動けなくなる、今の内にこちらも思い切った技を仕掛けるのがいいだろう。

ハルカ 「気合入れるのよバシャーモ!! 『きあいだま』!!」

バシャーモ 「シャ、シャモ〜〜! シャーーー!!」

キュィィ…! ドギュゥゥンッ!!

バシャーモは『きあいだめ』で集中力を高め、すぐに『きあいだま』を放つ。
飛び道具ゆえに、その場から一直線でバクフーンに向かう『きあいだま』…バクフーンはかわすどころか受け止めることすらできないはず。

キヨミ 「バクフーン!!」

バクフーン 「!!」

ドォォォォンッ!!

バクフーンは顔を強張らせ、歯を食いしばって耐えた。
相当な一撃のはずなのに、バクフーンは無気味に笑っている…むしろここからが怖い。
バシャーモにも言えることだけど、特性の『もうか』は発動してからが本番だ。
バクフーンの体力はまだ『もうか』を発動させるほどじゃない、まだ余力が残っている。
それはバシャーモも同じ…確実に勝つなら、この特性を出させないのが本来正解だ。
だけど、キヨミさんはそれがわかっているからこその選択を取ってきたのだった…

キヨミ 「! 『みがわり』よ!!」

バクフーン 「フンッ!!」

ボンッ!!

バクフーンは何とただでさえ残り少ない体力を削って『みがわり』を作り出す。
これにより、バクフーンは一気に体力を消耗…結果として『もうか』が発動した。
とてつもなくヤバイ…こちらは身代わりを壊すのができてもやっと。
だけど向こうは身代わりに任せて思い切った攻撃を撃ち込める…しかも当たれば間違いなくこちらは倒れる。
どうする!? こんな時に限ってロクな案は出ない…元々私のバシャーモはほとんど防御技を持っていない。
せめて『まもる』のひとつもあれば『ブラストバーン』は防げるのだけど、そんな都合のいい技をバシャーモには覚えさせていなかった。

ハルカ (と、とにかく攻撃するしかない!? 『みがわり』をそのままにはしておけない!!)
キヨミ (『みがわり』は壊されてもこちらが先に攻撃を当てれば勝てる! 正念場よバクフーン!!)



コトウ 「ここで一気にバクフーンが加熱!! 特性発動で一気にバシャーモを沈める気かぁ!?」
コトウ 「どうするハルカ選手!! この状況を打破する方法があるのか!?」



………。



ジェット 「畜生! ここで『みがわり』とは…さすがだぜ!!」

リベル 「だけど、『にどげり』を使えば一気に…」

サヤ 「いえ、距離があまりに離れすぎています…あの距離では詰め寄る前にバクフーンが動いてしまう」
サヤ 「だからこそ、ハルカさんもかなり厳しい表情をしています」

キッヴァ (遠距離からの攻撃で『みがわり』ごとバクフーンを仕留める技が恐らくあのバシャーモにはない)
キッヴァ (先に攻撃を当てれば勝ちだけど、その攻撃を当てるのが一番のネック…『みがわり』の利点があるだけに手詰まりになってしまった)

ノリカ 「うおおおーーー!! ハルカ様は負けぬーーーーーー!!!」

ハルカファン 「やったれハルカ様ーーー!! 一点突破ーーーー!!」



………。



キヨミ (もらうわ! もうバクフーンを止める術はハルカちゃんには無い!!)
キヨミ (勝つ! 勝って先に進む!! 私は答えを出せる!!)

ハルカ (負ける? ここで負けるの!? 違う! 負けるのは諦めた時だ!)
ハルカ (バクフーンを倒す術が無いなら、こちらも倒れなければいい!! こうなったら賭けるしかない!!)

互いに覚悟決めた表情をする。
もう、私にできることはひとつしかなかった…後はバシャーモを信じるだけ。
キヨミさんはそんな私たちに全力で指示を出す。

キヨミ 「行くのよバクフーン!! 最高の『ブラストバーン』で勝てーーーーーー!!」

バクフーン 「フ〜ンッ!! バーーーーーーーーー!!!!」

キュィィィッ!! ゴバアアアアアァァァァァァァァァッ!!!

ハルカ 「バシャーモ『オーバーヒート』!! 正面から打ち落とせーーーーーーーー!!」

バシャーモ 「シャモォッ!! シャーーーーーー!!」

ドゴゥッ!! ゴワアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァッ!!

バクフーンは『みがわり』を張った状態で攻撃してくる。
恐らく最高の『ブラストバーン』が向かって来ている。
バシャーモはそれに対し、勇気を振り絞って『オーバーヒート』を放った。
そう、バクフーンは倒せなくても、『ブラストバーン』の威力を落とす位はできる。
特性の差や技の威力差で打ち消すことはできなくても、その威力を薄めることができれば…!!

ドゴゥッ!! ドバアアアアアアアアァァァァァァンッ!! ゴゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!

バシャーモの口から放たれた『オーバーヒート』は『ブラストバーン』とぶつかるも、威力負けして貫通される。
しかしながら、目に見えて『ブラストバーン』の威力を削いでいた、これならバシャーモは耐えきれる。

ゴバァァァァンッ!!!

バシャーモ 「シャ…シャモーーーー!!」

バシャーモは『ブラストバーン』の残り火を受けきり、こちらも特性の『もうか』を発動する。
当然バクフーンは反動で動くことはできない、後は突っ込むのみ!!

ハルカ 「バシャーモ『でんこうせっか』!!」

バシャーモ 「シャモーーー!!」

ギュンッ!! ドッカァァッ!!

バシャーモは一気に距離を詰めるも、『みがわり』は残ったままだった。
速度を重視しすぎたため、威力が出なかったのは仕方なかった。
だけど、距離さえ詰めれば十分! バクフーンは残り少ない体力でもう動けないはずだ!!

キヨミ 「!! バクフーン!! 動くのよ!!」

ハルカ 「行けぇぇぇぇぇぇっ!! 『にどげり』!!」

バシャーモ 「シャモーーー!!」

ドガァッ!! ボフンッ!!

バシャーモは右回し蹴りを放って『みがわり』をまず潰す。
そして、すぐさま返しの左回し蹴りでバクフーンの本体を狙った。
だが、私は知る…キヨミさんとバクフーンの気迫と根性を…

バシャーモ 「シャモワァッ!!」

バキャァッ!!

バクフーン 「フ〜!! フーーン!!」

ハルカ (う、受けきられた…ギリギリの所で踏みとどまっている! 確実にオーバーダメージのはずなのに!!)

バクフーンは耐えたのだ…自らの力で。
ラファさんの時もそうだった…バクフーンは『こらえる』と言う技を覚えており、それを使うことで一撃を確実に耐えることができた。
バシャーモは蹴りを放った態勢から次の動作にまだ時間がかかる…ただでさえ、こちらもダメージは大きすぎる。
『オーバーヒート』の反動で精神的にも相当きつい…だけどこれは体力をギリギリまで削ったバクフーンも似たような物。
バシャーモの精神力とバクフーンの体力、どちらが先に尽きるのか…? それとも、どちらもこのまま戦いつづけることができるのだろうか?

ハルカ 「………」
キヨミ 「……!」

妙な気分だった…バシャーモに心をリンクさせているせいだろうか?
まるで、バシャーモとバクフーンが妙な絆で結ばれているような感覚を感じる。
ふたりは互いに互いを認め合っていた、バシャーモとバクフーンはただ戦っているだけではないようだった。
互いの成長も含めた、この戦い…勝利すること以上に深い何かが生まれようとしていた。
それは、トレーナーとして求めるひとつの答えなのだろうか?
ただ、強くなりたい…トレーナーとポケモンはそう思うことで際限無く強くなれる。
ただ、ひたすらに強くなろうとする姿がここにあった。
限界ギリギリの体力と精神力の狭間で、私たちは何かを見つけた。
これが答えなのだろうか? それともこれはひとつの道に過ぎないのだろうか?
わかることは…ここで答えを出してしまったら、私はそこで終わりなのだろう…と言うことだった。
だから、私は叫んだ…ただ、ひとつのことを信じて。

ハルカ 「バシャーモ!!」
キヨミ 「バクフーン!!」

ふたり同時に己のパートナーを呼ぶ。
それだけで、ポケモンには十分のようだった…何をすべきかは今までの旅が語ってくれる。
そして、本当に最後の一撃が交錯しようとしていた。

バクフーン 「フーーーン!!」
バシャーモ 「…シャ、モーーー!!」

ブオゥンッ!! バッキャアアアアアアアァァァァァァァッ!!

一瞬、時が止まったかのような錯覚を受ける。
先に動いたのはバクフーン…私の思考はここで一瞬停止した。
バシャーモは態勢を崩し、膝を曲げて腰を落としていた…限界だと思ったのだ。
だけど、バシャーモは自ら判断していた…そして、バクフーンに対し、バシャーモは闘志を叩きつけていた。
腰を落としたバシャーモに対し、バクフーンは上から『ほのおのパンチ』を右手で振り落としてくる。
そのままだと、かわすことなんてできはしない、ブロックなどしても無意味だろう。
だから、バシャーモは己の意思で最大の攻撃を放った。
腰を落とした態勢から、バシャーモは全身のバネを使い、最後の力を振り絞って右アッパーをクロスカウンターでバクフーンの顎に叩きつける。
自身の右頬を炎の拳が掠め、バシャーモは全力で右拳を振り抜き、バクフーンの顎ごと自身の体をも空中に飛ばした。
まさに体ごとぶつかった『スカイアッパー』で、バクフーンと共に宙を舞ったのだ。

ドッシャアアアアアアァァァァァァァァァッ!! ドズゥゥゥゥゥンッ!!

ふたつの体がほぼ同時に地面に叩きつけられた。
攻撃を当てたバシャーモ本人も着地できずに高度から落下してしまったのだ。
ダメージだけを見れば両者共に残っていない…これでは、まさか?



コトウ 「な、何と言う一撃!? バクフーンがトドメを刺しに行った直後、『スカイアッパー』がクロスカウンターに!!」
コトウ 「凄まじい一撃にバクフーンは無造作に宙を舞い、技で飛び上がったバシャーモもまた受身すら取らずに地面へとダイブ!!」
コトウ 「審判も困惑しておりますが、この結果を見るとどちらもダウンと見ても…!」



ノリカ 「ふざけんなーーー!! ハルカ様の攻撃で決まったんじゃーーー!!」

ハルカファン 「ハルカ様の勝ちじゃろうがーーーー!! 審判!! さっさと勝利宣言せい!!」

ワアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァッ!!

会場中がヒートアップし、審判を煽り立てる。
審判は冷や汗をかきながら、判断に戸惑っている。
私は、結果なんてもうどっちでもいい気がした…試合は試合だ。

ハルカ (バシャーモは勝った…最後の最後で執念を見せた)
ハルカ (キヨミさんのバクフーンに完璧なカウンター…スピードもパワーも最後の最後で一気にバクフーンを凌駕したんだ)
ハルカ (もう、バシャーモはどこまで強くなるのかわからない…私の想像を超えて強くなってしまった)
ハルカ (でも…これがひとつの答えなんだと言うことは理解した。ポケモンに限界なんて無いんだ)

だからこそ、トレーナーは強さを求めるのかもしれない。
私はある意味、ザラキさんが立っている場所に踏み入ったのかもしれない…トレーナーにとって極限の場所。
強さの極地…そしてそこから先の世界。
私はザラキさんに勇気をもらったからこそ、今の精神に至ったと言える。
強さを追い求めた人がいた…私はその人に託されたんだ。
どこまでも、強くなれ…と。
その答えがひとつ出た…私は強くなれた。
踏み出そう…最初の一歩を。
それが…私の真のトレーナーとしての一歩だ!!

ザッ…ザッ!!

ハルカ 「…ご苦労様バシャーモ。あなたを信じて、良かった」

シュボンッ!!

私はバシャーモを労い、最高の気分でバシャーモをボールに戻した。
もう結果はどっちでもいい、負けでも勝ちでも…引き分けは…ちょっと面倒だけど。

キヨミ 「……負けちゃった、か」

カツ…カツ…

キヨミさんは重たそうな足取りでバクフーンに近づく。
バクフーンは完全に気を失っている…バシャーモも同じだけど。
でも、技を食らって気絶したバクフーンは明らかに状況が違った…ひょっとしたら、負けたことにも気づいていないかもしれない。
バシャーモはきっと気絶していても夢で戦っているんだろう。
臆病な娘だから、きっと……

シュボンッ!

キヨミ (ありがとう、バクフーン……結局、こうなっちゃったね)

キヨミさんは辛そうな表情でバクフーンをボールに戻し、そのボールを両手で胸に抱き、心で何かを訴えているようだった。
悔しいのだろう…でも、きっと満足しているのだろう。
キヨミさんは私との戦いをずっと楽しみにしていた。
そこには勝ち負けのことはどうでも良かったのかもしれない。
キヨミさんの出した答えは何なのだろうか? それを語ってはくれるのだろうか?
それとも、答えなど…出なかったのだろうか?

キヨミ 「…審判、この勝負私の負けです」

審判 「えっ…?」

キヨミ 「攻撃を食らった時点でバクフーンはすでにダウンしていました、バシャーモは攻撃の瞬間には意識を残しています」
キヨミ 「文句無く、ハルカちゃんの勝ちです…だから、そう宣言してください」
キヨミ 「誰の目に見ても、その結果しか映らないと思いますけど、ね…」

審判はキヨミさんに言われ、両手を上げて宣言した。
その瞬間、会場は一気に加熱する。

審判 「勝者!! ハルカ選手!!」

ワアアアアアアアアアアアアアァァァァァッ!! オオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッ!!!!


コトウ 「決着が着いたーーー!! 引き分けかと思われた試合でしたが、キヨミ選手が自分で負けを宣言!!」
コトウ 「伝説のトレーナーを倒したのは何とまだトレーナー歴半年程度の新参者、ハルカ選手だーーー!!」


私は無言で目を瞑り、天を仰ぐ。
歓声が耳に鳴り響き、妙な心地よさを残す。
だけど、この結果が一番欲しいわけじゃない。
私はただ…キヨミさんと戦いたかっただけだ…そこに勝ち負けは無かった。
未熟者の私が、伝説のトレーナーに勝てるとは誰も思わない…だけど私は戦いたかった。
勝てたのは、それだけ私が強くなったのだろうか? それとも、キヨミさんが弱くなったのか…
今回の試合を皆はどう見るのだろう? ただの運と蔑むのか…それともこれが本当の実力だと思うのか。

キヨミ 「…強くなったわね、ハルカちゃん」

ハルカ 「…キヨミさん、私が勝っちゃいましたね…」

私は半ば苦笑いでそう呟く。
キヨミさんも苦笑いだった…複雑な気分なのだろう。
だけど、互いにわかっていた…このバトルが今まで最高の物だったということを。
互いに全力を尽くした…結果がただそうなっただけ。
今回は、ちょっとだけ私の方が上になっただけなんだろう…もう一度やったら、勝てる気がしない(汗)

キヨミ 「私…わかったわ、ようやくセンリさんの言った言葉の意味が」

ハルカ 「…父さんが言ったこと?」

キヨミ 「私がトレーナーを止めると決めた時、センリさんに相談したことがあった」
キヨミ 「そしたら、センリさんは一言こう言ったの…」



センリ 『止めるかどうかは、まず自分のポケモンに聞いてみることだ』



キヨミ 「私にはその意味がその当時わかってなかった…ううん、ついこの間まで全くわかってなかった」
キヨミ 「自分のポケモンに聞く…私にはポケモンの言葉が確かにわかる…でも皆はいつも同じことしか言わないから」
キヨミ 「…ただ、私に戦えって……私はそれに耐えられなくなって、皆を置いて逃げたのよ」
キヨミ 「戦い続けることに、私は恐怖したの…ポケモンたちにそれを強制されているような錯覚まで受けて」

ハルカ 「それは…違うんじゃ」

キヨミ 「そう…違ったのよ、センリさんが言っていたのはそう言うことじゃなかった」
キヨミ 「センリさんが本当に言いたかったのは、私に『戦え』と言ったこと」
キヨミ 「ポケモンバトルだけが、人の戦う道じゃない……強くなることも、また『戦い』なんだって…今日初めて知った」
キヨミ 「だから……」

キヨミさんは何か深く考えているような表情をし、顔を俯かせる。
そして、覚悟を決めたように険しい表情をし、真剣な眼差しで私を見る…そして言った。

キヨミ 「次は私が勝つからね!! また戦いましょう♪」

最後は笑顔で締める。
私はそれに釣られ、思わず笑う。

ハルカ 「アッハハッ!! 何ですかいきなり〜? 何言うのかと思ったら……もう〜」

私は笑いで泣きながらそう言う。
どっちも笑顔だ、自分でそう思った。
そう…やっぱりポケモンバトルは楽しい。
互いに強くなって、笑い合える…私はだからポケモンが大好きなんだ。
勝ち負け以外に重要なことがある…私たちはそれを今日深く知った。
私たちは互いに新たな一歩を踏み出す。
私は更なる先を目指して…そして、キヨミさんはようやく止まっていた歩みを再び歩み始める。

キヨミ 「ありがとう、ハルカちゃん…きっと、またバトルしましょうね♪ トレーナーだったら、目が合ったらバトルよ!?」

ハルカ 「そうですね…そんな突発イベントも面白いかも♪」

結局、終始私たちは笑い続けた。
他愛も無い会話で、こうやって笑い合う…それは酷く滑稽に映っただろう。



………。



ミカゲ 「……」

カツカツカツ…

カミヤ 「あ、もう行くのミカゲ!?」

ミカゲ 「これ以上用は無いわ…次の相手が決まっただけ、どの道勝つのは私」

そう言って、ミカゲはふてぶてしく去って行く。
思いの外、鬱陶しそうな顔だったわね…まぁ、理由はわからなくも無いわ。

マリア (結局…ハルカが勝った)
マリア (何よ…何があんなに楽しいのよ? 私には…全然わからない)
マリア (最後なんて、戦略も何も無い…ただの殴り合いと変わらない)
マリア (でも、どうしてあんなにふたりして笑ってるのよ…特に負けた方は悔しくないの?)

カミヤ 「…僕たちも行こうか、マリアちゃん」
カミヤ 「一応、怪我人だからね…君は」

カミヤはそう言って私の椅子を押す。
私には結局わからなかった…でも、ハルカがこれを伝えたかったのだと言うことはわかった。
それだけだ…結局。





………………………。





『同日 時刻13;00 サイユウシティ・ポケモンセンター』


ハルカ 「それじゃあ、よろしくお願いします」

店員 「はい、あなたのポケモンは大切に預からせていただきます…回復が終わったら、広場で開放しておきますね♪」

ハルカ 「はい、明日に引き取りますんで、それまではお願いします」

私はそう言って、その場を離れる。
ポケモンたちはとにかく頑張ってくれた…今はゆっくり休んでもらおう。



………。
……。
…。



『時刻15:00 ポケモンセンター・広場』


ライボルト 「あ〜あ…何だか今日は物足りなかったな〜」

アーマルド 「こっちは散々だったぜ…全くいいとこなかったし」

ライはまだ動き足りないと言った感じで草むらに寝そべっていた。
アマは頭を自分の爪で掻きながら、愚痴を零す。

マッスグマ 「…でも、勝てたのは良かった」

ダーテング 「私も〜…久しぶりに、お役に立てたようで…良かったです〜♪」

ライボルト 「あはは〜♪ テンちゃん一騎当千だったもんね〜…おかげで私はちょっと暇だったよ〜」

マッスグマ (ライちゃん、猛毒にかかってたのに…暇って)

安堵するグマにマイペースなテン。
今回はテンの活躍とシャモの頑張りが導いた勝利と言ってもいいだろうな。
俺もまだまだということだ…アマの力を上手く使うことができなかったか。

アーマルド 「で、肝心の姐さんは? もしかして怪我が重いのか?」

ジュペッタ 「シャモは用心のため、まだ治療中らしい…今日一日は安静だろうな」

シャモの容態は想像以上に重い。
直接的なダメージと言うより、精神的なダメージが大きい。
シャモはあれでいてデリケートな面があるからな…こう言った大きな試合の後は心配になる。

アーマルド 「明日はすぐに決勝か…今度は俺出番あるのかねぇ〜?」

アマは今回のことが余程応えたのか、自分の存在意義に疑問を持ち始めているようだ。
今まであまり出番の無かったテンがあの活躍だったからな…それも仕方ないが。

ジュペッタ 「お前は十分、必要戦力だ…強力な物理アタッカーはハルカのポケモンではお前だけ」
ジュペッタ 「縁の下の力持ちと言う言葉もある、自分の力に自信を持て」

アーマルド 「ガハハッ! そうだな!! 今回はオメェも同類だし、似たようなもんか!!」

そう言って笑うアマ…ふ、単純な奴だ。
とはいえ、俺も反論はできんな…ダブルバトルはまだまだ難しいと言うことだろう。
単純な力押しともなれば、やはりパワーの差が出るからな…ハルカも熱くなりすぎていた、今回のバトルは俺もハルカも痛み分けと言ったところだろうな。

アーマルド 「…なぁ、気になったんだが。あいつら、何だ? やけに物々しい連中に感じるが」

ジュペッタ 「うむ…?」

アマが突然にやや遠くの大きな樹に群がるポケモンたちに目をやってそう言う。
俺も同じように見てみると、確かに一般のトレーナーが使うポケモンとしては明らかに異質な雰囲気を持ったポケモンたちが屯していた。



………。



ガブリアス 「…で、結局何が言いたいのさ?」

ロズレイド 「貴様…! 自分のしたことを理解していないのか!?」

ドサイドン 「止めんかロズ!! ガブとてワザとやったわけではない!!」
ドサイドン 「ガブももう少し言葉を選べ…いちいち挑発的な対応をするな!」

ブーバーン 「もういいじゃないのさ…終わったことだし、まっ…あのトレーナーじゃ何言われるかわかったもんじゃないけどね」

エレキブル 「…下らん、負けたのは力が無いからだ」

ガブリアス 「はぁ? アタシに言ってんのかい? だったら、試してみるかいデクの棒!!」

ダイノーズ 「フタリトモヤメル…ドウセヤッテモガブノカチ」



………。



ジュペッタ 「…関わらん方が身のためだな」

会話を遠くから聞く限り、ロクな連中ではなさそうだ。
下手に近づいて喧嘩を吹っかけられても困る。
こっちは明日に試合を控えている身だからな…下らんことでハルカを困らせるわけにはいかん。

アーマルド 「だけどよ〜、このままじゃあいつら何かしでかしそうだぜ? ここはせめて止めてやるべきだろうが!!」

ドスンドスンッ!!

そう言ってアマは明らかに野次馬根性であいつらに近づいて行った。
俺は頭を抱えながら、首を横に振る。

ジュペッタ (やれやれ…! どうして厄介事にわざわざ首を突っ込む!!)

俺はそう思いつつも、アマの後を追った。
他の連中も気にはなっているのか、俺たちからはちょっと離れた距離で様子を見る様に近づいて行った。



………。



エレキブル 「ふん…いつもいつも貴様が勝つと思うと痛い目を見るぞ?」

ガブリアス 「上等じゃないか…! 言うからには覚悟はできてんだろうねぇ〜?」

エレキブルはガブリアスの言葉を受けて挑発的な態度を返す。
ガブリアスの方は♀か…エレキブルは♂、ついでに全員言うと、ドサイドン、ロズレイドは♂。
ブーバーンは♀でダイノーズは……俺でも判断できん、が…恐らく♀と踏む。
明らかにガブリアスが厄介そうだがアマの奴、間違い無く危険だろうな。

アーマルド 「オイコラお前ら! こんな天下のポケモン広場で喧嘩なんてすんじゃねーよ! 迷惑だろ〜」

ジュペッタ (それは明らかに喧嘩を吹っかけてるぞアマ……)

もはや、どうにでもなれと言いたくなる。
全く…頭が回らないのはわかりきっていたが、何のつもりなのか。

ガブリアス 「あん? 文句があるなら、力でどうにかしなよ…こっちはイラついてんだ!!」

アーマルド 「ひぇ〜おっかねぇ〜…こいつぁ、とんでもねぇじゃじゃ馬だぜ?」

ジュペッタ (何故俺の顔を見て言う…そして何故嬉しそうなんだ)

アーマルドは明らかに楽しんでいるようだった。
全く…やんちゃな性格が災いしているな、最も…あのガブリアスも似たような性格みたいだが。
………類は友を呼ぶ、等と洒落にもならないことを考え付いてしまった。

ドサイドン 「いい加減にせんか馬鹿者!! ここで問題を起こしたらそれこそタダでは済まんぞ!!」

ドサイドンが一喝する、こいつが一番話の通じそうなポケモンだな。
この一団は間違い無く、トレーナーのポケモンだ…この6体が揃っている所を見ても、相当なトレーナーのポケモンだろう。
万能のガブリアス、重量のドサイドン、センスのロズレイド、パワーのエレキブル、火力のブーバーン、そして耐久のダイノーズか。

ジュペッタ (ホウエン地方ではまず見られないポケモンばかり…ほとんどがシンオウからのポケモンだろうか?)
ジュペッタ (と、なると…シンオウからのトレーナーでそれほどの実力者と言えば…)

ガブリアス 「ちっ…あんたはいちいち煩いんだよ! 言っただろう!? 文句あるなら力で止めな!!」
ガブリアス 「それとも、自信が無いのかい!? 図体だけはデカイ癖にさ!!」

ドサイドン 「ふん、貴様に負ける要素など我には無い! だがそれとこれとは話が別!!」
ドサイドン 「問題を起こすなと言っている!! 我々はタダでさえ問題児ばかりなのだ…」

ジュペッタ 「なるほど…今は療養中のトレーナーが所持しているポケモンたちか」
ジュペッタ 「それも、シンオウからわざわざ…ご苦労なことだ」

俺はあえて、カマをかけて言ってみる。
外しているとは思わないが、相手の出方を見てみるのもいいだろう。
どの道…もう厄介事には巻き込まれてる、逃げる位なら前を見て道を探すさ…

ブーバーン 「ぶふっ! 全部バレてんじゃん…何、どこまで知ってんの?」

ブーバーンは足元に転がっている木の実をモシャモシャと食いながらそう言う。
当たりは当たりか…しかし、一癖も二癖もありそうな連中を相手にどうやって上手く切りぬけるか…

アーマルド 「あ〜、もう面倒くせぇ!! とにかく迷惑だから、騒ぐな!!」
アーマルド 「どうしてもやるってんなら、相手になってやらぁ!!」

と、アマは初めからやる気のように構えて見せる。
こいつ…消化不良で相手を探していただけか?
俺はため息を吐き、まずはうるさいのを黙らせる。

ボボボッ!!

アーマルド 「ギャヒィィィッ!? テ、テメェ〜〜〜!?」

俺の『おにび』でアマは地面を転がる。
これ以上付き合っていられるか…

ガブリアス 「馬鹿らしい…漫才コンビかよ。興醒めだね…」

ロズレイド 「ふっ、所詮は屑ポケモンだ…それ位しか能がないんだろう」

ガブリアスは下らなさそうにそっぽを向き、ロズレイドは蔑む。
やれやれ…これで丸く収まるならそれでいいだろう。

ブーバーン 「ぶひひっ! どう見ても弱そうなポケモンだもんね〜…笑い取りたいならジョウト行けば〜?」

エレキブル 「ふははっ! それは傑作だ!! そうなったら見に行ってやってもいいな!!」

ダイノーズ 「ドウデモイイドウデモイイ〜」

言われたい放題だな…まぁ、それこそどうでもいい。
言わせたい奴には言わせておく…俺たちにはまだ後が控えているからな。

ジュペッタ 「行くぞ、アマ…さっさと帰るぞ」

アーマルド 「アチチ…畜生、わぁったよ…」

アマは仕方ない…と言った表情で俺の後に続こうとする。
が、その背中を見て、更に言葉を放つ者がいた。

ロズレイド 「ふ…こんな屑ポケを育ているトレーナーもさぞかし屑なんだろうな」

ガブリアス 「どうでもいいね…アタシは強い奴が好きさ! 腰抜けに興味は無いね…」

アーマルド 「んだとぉ〜? 誰が腰抜けだ誰がぁ!!」

ジュペッタ 「……さすがに今のは聞き捨てならんな」

俺は歩みを止め、ギロリとロズレイドを睨み付けた。
俺たちの中傷は致し方ないとも思っていたが、ことトレーナーの話をされては黙ってられん。

ロズレイド 「ふん? 何だ屑! 屑トレーナーのポケモンなんだろう?」
ロズレイド 「それとも、屑は屑なりに服従の方法でも思いついたか?」

ジュペッタ 「…やれやれ、口だけは達者のようだな、自分のポケモンに倒される程未熟なトレーナーのポケモンさん」

ロズレイド 「!? 貴様…っ!! 知っていたのか!?」

俺は馬鹿馬鹿しいと思いつつも、説明してやる。

ジュペッタ 「お前らのようなガチガチのパーティを組んでこのリーグに参加しているのは数少ない」
ジュペッタ 「明らかに種族値の高さとタイプで決めたようなパーティだ、そんな固め方をしているトレーナーで更にシンオウ出身なら自ずとわかる」
ジュペッタ 「お前らは自分たちが如何に目立っているかもわかっていないようだ…出来の悪いトレーナーと言うのがバレバレだな」

俺はお返しとばかりに今度は相手を挑発する。
すると、明らかに相手側の顔色が変わった。

ロズレイド 「貴様…そこまで言うからには覚悟はできているんだろうな?」

ジュペッタ 「御託はいい…来るなら来い、ただし今の俺は機嫌が悪い」
ジュペッタ 「少なくとも病院送りは覚悟してもらうぞ…そのつもりでいろ」

俺は凄みを込めてそう言う。
そんな俺の気迫に一歩も引かず、ロズレイドは前に踏み出してきた。
やれやれ…好戦的な奴らだな。

ロズレイド 「貴様のその口、今から黙らせてやる!! この一撃でなぁ!!」

ギュゥゥゥンッ!!

ロズレイドは薔薇の花を象った両手を胸の前で合わし、『シャドーボール』を作り出す。
威力は相当な物だ…食らったら確かに吹き飛びそうだ。
が…当たればの話だ。

アーマルド 「ヤベェぞジュペ! 食らったら逝く!!」

ジュペッタ 「馬鹿にするな…誰がもらうか」
ジュペッタ 「今日戦ったエーフィならともかく、あんな尖った育て方をされたポケモンに遅れは取らん」

ロズレイド 「おのれ…! 吹き飛べぇ!!」

ドバァッ!!

ロズレイドは『シャドーボール』を更に大きくし、俺に向かって正面から放ってくる。
威力もスピードも文句は無い…が、馬鹿正直過ぎだ。
俺は右手で軽く『シャドーボール』を作り出し、それを手に持ったまま奴の技を受ける。

ギュゥゥンッ!!

ロズレイド 「な、何っ!?」

ジュペッタ 「やれやれ…貴様の『シャドーボール』はただ強いだけだ」
ジュペッタ 「この技は見た目以上に繊細な技でな…使い様によっては色々なことができる」

俺はそう言って、奴の『シャドーボール』と俺の『シャドーボール』を合わせ、両手で混ぜ合わせるように操った。

ジュペッタ 「例えば、この場合…お前のただ大きいだけのボールは俺が作った小さなボールに混ざった」
ジュペッタ 「同じ技ひとつを取っても、使い手次第でいかようにも変わる」
ジュペッタ 「特に俺はゴーストタイプの技ならエキスパートだ…お前とは違うよ」

ロズレイド 「ふ、ふざけるな!! それがどうした!! 技など威力が全てだ!!」
ロズレイド 「要は当たればいい!! そしてそれが強力なら相手は倒れる!!」
ロズレイド 「それ以上の要素など必要なものか!!」

ロズレイドは子供のようにそう言って反論する。
やれやれ…相当しつけが足りないようだな。
少しはウチのトレーナーを見習ってほしいものだ。

ジュペッタ 「…なら当ててみるがいい、何度やっても同じだろうがな」

ロズレイド 「いいだろう!! 今度こそ貴様を吹き飛ばしてやる!!」

ギュゥゥゥ…!

ロズレイドはすぐに先ほどよりも更に大きな『シャドーボール』を作り出そうとする。
だが、当然それを放つまでに時間がかかる。
俺はすでに仕込みを終え、『トリックルーム』の発動をした。

キュゥゥゥゥンッ!!

ロズレイド 「な…こ……れ………は…………」

明らかにロズレイドの動きが鈍くなる。
だから言ったんだ…こんな尖った奴には遅れは取らん、と。
自信過剰な奴ほど、状況を理解するのが遅い。
特に、あいつは『とくこう』と『すばやさ』だけに相当特化させられている。
この状況ではそれは足枷にしかならん…さて、さっさと面倒は終わらせるか。

ギュンッ!

ロズレイド 「!?」

ジュペッタ 「お前には俺が消えたとでも思えるんだろうな…だが、別に俺が速くなったわけじゃない」
ジュペッタ 「お前が速すぎるだけだ…」

ドォォォォォォォンッ!!!

俺は奴から吸収した『シャドーボール』を掌に集め、それを力で叩き付けた。
以前、サーナイトに食らった物理型『シャドーボール』と言う奴の試験運用だ。
成る程…これは確かにいい。
接近戦でも強力な一撃となる上に上手く使えば相手の攻撃も流せる。
俺は冷静に効果を分析しながら、ロズレイドがゆっくりと吹き飛ぶ姿を見てこう言った。

ジュペッタ 「今度からは、相手を見て喧嘩を売れ…」

最後に俺は再び『トリックルーム』を発動させ、空間を元に戻した。
その瞬間、元の時間を取り戻したロズレイドは当然のように勢い良く吹き飛んだ。

ギュオンッ!! ドズバァァァァァンッ!!!

土煙を上げ、ロズレイドはそのまま地面を転がったようだ。
まぁ、ご自慢の強力な技を自分で食らったんだ…さぞかし痛いだろうさ。
俺は特にそれ以上は何も告げず、さっさと踵を返して帰る。
アマもポカン…と口を開けたまま、しばらく俺を見ていた。

アーマルド 「…何でぇ〜、結局オメェも鬱憤溜まってたんじゃんか♪」

ジュペッタ 「………」

俺は再び頭を抱え、俯く。
もうこれ以上厄介事はゴメンだ……

ロズレイド 「待て、貴様!! こ、このままで済むと思うなよ!?」

アーマルド 「あ、あの野郎! 負け惜しみか!?」

ジュペッタ 「言わせておけ…負け犬の遠吠えだ」

俺は背中を向けたまま歩き続ける。
ロズレイドはそんな俺たちの背中に言葉を投げつけた。

ロズレイド 「貴様は絶対に許さん!! 貴様だけは俺が必ず倒す!!」
ロズレイド 「覚えていろ!! この屈辱は絶対に忘れんぞーーーー!!」

ジュペッタ (やれやれ…結局厄介事が増えただけか)
ジュペッタ (まぁ、恨まれるのは悪くない…むしろ、俺には心地いい、か…)

俺は背中越しに笑みを零す。
呪いや恨みは俺の貴重なエネルギーとなる…これだけの恨みの念は久しく食ってなかった。
明日はいい動きができそうだ…それだけはあいつに感謝しなければな、ふふ…



…To be continued




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