Menu
BackNext
サファイアにBack サファイアにNext




POCKET MONSTER RUBY



第93話 『決勝戦、伝承者ハルカ!!』




『4月17日 時刻7:00 サイユウシティ・どこかの海岸』


ザァァァァ…ザザンッ!!


ハルカ 「………」

私は海岸の岩の上に座って座禅を組んでいた。
今日…私は新たな一歩を踏み出すこととなる。
目標としたキヨミさんとのバトル…そして勝利。
この結果は皮肉にも、私に迷いを生み出すこととなってしまった。

ハルカ (これまでの戦い、本当に色々あった)

私はアチャモを初めてもらった時から順に、今までのことを思い返す。
キヨミさんとの初バトル、初めてのジム戦、父さんとの初バトル…仲間との出逢い。
たった1年足らずのトレーナー人生は、私に多くの物を与えてくれた。
それまで格闘家として生きた時代…私はその時はその時で輝いていたのだろう。

ハルカ (…だけど、その格闘家としての歩みは、私の求める物を返してはくれなかった)

ノリカ 「…ハルカ様危ない!!」

ヒュッ!!

ハルカ 「!?」

パシィッ!!

ノリカが叫んだと同時、突然、気配も無しに私の背後から拳を突き出された。
私はそれを首だけ反射的に動かし、背後からの拳を右手でキャッチした。

ノリカ 「おおっ! さすがはハルカ様!!」

私は相手の拳を握り凄まじい懐かしさを思い出す。
そして私は恐る恐る後ろを見た。
すると、そこにはあまりにも懐かしい顔が私の前に立っていたのである…

? 「ほぅ…まだ勘は衰えてねぇみてぇだな、ハルカ」

ハルカ 「し、師匠!? ど、どうしてここに!?」

そう、私の今目の前にいる50代位の男性は、まさしく私の『師匠』。
私にとある格闘術を教えてくれた先代継承者だ…
師匠の容姿は、身長165cm位、つるっぱげで細目の厳つい顔。
服は半袖短パンと薄着、だがその身体はあまりに凄まじい。
バランスのとれた筋肉はまさに肉体美。
しかし、その身体から繰り出される技はどれもが人外の領域。
人を超えた拳を扱う人類最強の拳闘士『コウリュウ』…
それが、この人だ…

ノリカ 「し、師匠って…ハルカ様の?」

コウリュウ 「…何だ? お前に妹なんていたか?」

ハルカ 「もう好きに思っててください…どうでもいいんで」

この反応もいい加減飽きた。
この際どうでもいいわ本当に…

コウリュウ 「…ふむ、まぁ今回わざわざ来たのには一応、理由があってな」

ハルカ 「理由って…何ですか?」

コウリュウ 「折角の愛弟子が晴れの舞台に出るってんだ…生で見に来なきゃなぁ〜」

そう言って師匠は、ガハハッと大笑いする。
いつもながら豪快な人だ…この人にかかったら熊でも酒飲み仲間だもんなぁ〜

ハルカ 「まさか、それだけの理由でわざわざジョウトの山奥から?」

師匠は『シロガネやま』に住み着いている。
何でも人込みが極端に嫌いなんだとか…基本的に山で自給自足の生活を営み、己を鍛え続けているとてもワイルドな人なのだ。

コウリュウ 「いちいち山を降りてまで、TV見る位だったらここまで走る…それが俺流だ」

ハルカ 「はぁ…相変わらずですね、師匠」

私はどっと疲れてしまう。
まさか、決勝がある今日にこんなゲストが現れるとは…

ノリカ 「そう言えば、大会の時セコンドでいた人ですよね? この人が師匠だったんですね〜」

コウリュウ 「…コウリュウだ、よろしくな嬢ちゃん」

ノリカ 「あ、私はノリカって言います!! 戦うハルカ様に憧れて自分も格闘技を始めました!!」

コウリュウ 「ほう…それでか、いい目をしていると思った」
コウリュウ 「体格的にも子供とは思えんしな…間接系の格闘技か?」

ノリカ 「!? さ、さすであります!! まさしくその通り…」

そう言えば、私もノリカのことはあまり知らなかったな…
今まで聞かなかったのもあるけど、この子格闘技習ってたんだ。
まぁ、この年でこの身体は…確かに思えば普通じゃない。
どうも私は自分と比べるからかなぁ…(汗)

コウリュウ 「まぁ、間接系を扱う奴らはそれなりに手足の肉着きが特徴だからな」
コウリュウ 「お前さんのは明らかに年不相応な着き方だが、まぁ大体想像は着く」
コウリュウ 「随分鍛えたようだな…同じ年じゃ敵はいないだろう?」

ノリカ 「あ…えと、はい」
ノリカ 「敵どころか…もう恐れられてたぐらいで」

ノリカは苦笑いして応える。
一体この子の経歴って…? 間接系の格闘技習うにしても、ただ漠然と続けているだけじゃああはならないと思うんだけど。

ノリカ 「私、4歳の頃にハルカ様の世界大会優勝をTVで見ました」
ノリカ 「その時、私はハルカ様の戦う姿に惚れたんです! ああ、女は小さくてもこんなに強くなれるって!!」

ハルカ 「……」

コウリュウ 「……ふむ」

ノリカ 「ハルカ様の優勝をきっかけに、私『コマンドサンボ』を学び始めました」
ノリカ 「とてもきつかったですけど、ハルカ様の姿を常に思い浮かべて私は頑張りました!!」
ノリカ 「7歳位までは日本で身体を鍛えながら漠然とやってたんですけど、少しでもハルカ様に近づけるよう、本場のロシアに飛んじゃいました♪」

ハルカ 「飛んだって…ひとりで?」

ノリカ 「いえ…一応保護者同伴ですよ? 当然です…」
ノリカ 「私、家族と呼べる人って実はほとんどいなくて…孤児だったんです」
ノリカ 「たまたま、サンボを習ってる道場でロシア人の師範がいて、その人がロシアに帰国するってことで私も同伴させてもらったんです」

コウリュウ 「なるほどな…そんな小さな頃から本場物か、そりゃ強ぇはずだ」

ノリカはさも当たり前のように語るが、全然当たり前ではない。
私が彼女に与えた影響はあまりに大きすぎる。
彼女の話を聞けば聞くほど、私は自分に凄まじい重石が圧し掛かってくるのを感じ始めていた。

ノリカ 「それから、10歳位まではその調子でずっと習い続けて、気が付いたらロシアで軍曹の資格をもらっちゃたりしてます」(汗)

ハルカ 「ぐ、軍曹…? あれって、ネタじゃなくて本当にそうだったの!?」

ノリカ 「はい! その後はフランス外人部隊で9ヶ月ほど在籍し、東洋の『エンジェルバトラー』なんて異名までもらっちゃいました…」(滝汗)
ノリカ 「戦場で戦い続け…約300戦、私はひとりも殺さずに勝ち続けました」
ノリカ 「『心は力なり、力は活とせよ』…この言葉を胸に、私はポケモンがもらえる年齢になるまで戦場を駆け回りました」

コウリュウ 「…『心は力なり、力は活とせよ』か、誰が言ったか知らねぇが、いい師に巡り合えたようだな」

ノリカ 「はいっ! 私の師匠もとてもいい人でそして凄い人でした!!」

ハルカ 「…でした?」

私が過去形であることをツッコムと、ノリカは渋い顔をする。
聞いてはいけないことだったのだろうか? あのノリカが珍しくそんな顔をするのだ。
だけど、ノリカはそれでも無理に笑いながら口を開く。

ノリカ 「…はい、もう亡くなってしまったので」
ノリカ 「戦場で、私を庇って…師匠は戦死してしまいました…」
ノリカ 「私が悪かったんです、戦場に出て人を殺さずに済ませるなんて…そんな奇麗事を持ち込んだから」

ノリカは涙を拭きながらそう答える。
あまりに痛々しかった…それでも彼女は語り続けた。

ノリカ 「師匠は、こんな私をとても愛してくれました…まるで我が子の様に」
ノリカ 「私も孤児だったから、師匠を父親の様に慕っていました」

コウリュウ 「…親と子の間なんてものは、実の所有って無い様なもんだ」
コウリュウ 「本当の親子でも仲の悪いのは多いし、そうでなくてもお前さんのように深く繋がれた絆も生まれる」
コウリュウ 「…大切なのは、己がどう思うかだ」
コウリュウ 「親を親と思うのか、親でないものを親と思うのか…自分にとって何なのか?」
コウリュウ 「人の強さは千差万別だ…己に正しき思いを残した物が必ず強くなる」
コウリュウ 「…なぁ、ハルカ?」

ハルカ 「……そう、ですね」

私は俯きながら、曖昧に答える。
今の私に、それを答えることができるだろうか?
私はノリカの話を聞いて、凄まじいプレッシャーを感じてしまっている。
ノリカは正直強い…私よりも強い…かも……

コウリュウ 「ハルカ、お前…弱くなったな?」

ハルカ 「!! …それは、格闘家としてですか? それとも…継承者として?」

ノリカ 「…? 継承者?」

コウリュウ 「両方だ、今のお前からは俺が伝えた『竜凰拳(りゅうおうけん)』の継承者たる『気』が全く伝わってこない」
コウリュウ 「少なくとも、お前が『皇帝』を倒して世界最強になった時は、こんな生温い気は放ってなかった」

ハルカ 「…それは、今の私がポケモントレーナーであって、格闘家ではないから…」

私は目を逸らしながら、そう言い訳する。
だが、そんな言葉が通用しない人だというのもわかっていた…

コウリュウ 「同じことだ!! ポケモントレーナーもまた『戦う者』だろう!? 格闘家とやるべきことは同じだ!!」
コウリュウ 「敵と戦い、そして勝つ! それが真理でもあり、現実だ!!」
コウリュウ 「お前、そんなことも忘れる位弱くなったのか?」
コウリュウ 「それとも…まだ、引きずっているのか?」

ノリカ 「? ???」

ハルカ 「!? …それは」

師匠は一言、引きずっていると言う。
私は、そう思ったことはない…が、無意識にそう思っているのかもしれないと理解する。

コウリュウ 「…あれは『死合い』だ、結果はあれしかなかった」
コウリュウ 「逆にお前が殺されていても、何ら不思議ではなかったんだぞ?」

ハルカ 「…わかってます、それは割り切りました!! でも…私にとってあの戦いは…」

私はあの時の辛さを思い出す。
それは、私が初めて『恋』をした時のこと…
戦いの場で出会ったからこそ、私は彼を好きになった。
でも、戦いの場であったからこそ、その先には悲しみしか残らなかった…

コウリュウ 「…惚れた男を殺したことは、確かに苦しい」
コウリュウ 「ましてや当時お前はまだ12歳…そうなってしまうのも仕方ないのかもしれん」
コウリュウ 「だが! お前が『竜凰拳』の伝承者である以上、お前は常にそう言った戦いも想定せねばならん」

師匠は強い口調でそう言う。
『竜凰拳』は46代続く、門外不出の拳。
一子相伝の格闘術であり、その強さは人間の枠では収まらない。
私はそれを師匠から継承し、第47代継承者と言うことだ…

コウリュウ 「あの時、お前は後悔してはいないと言ったな?」
コウリュウ 「だが、それは本心か?」

ハルカ 「本心です…それは、今も変わりません」
ハルカ 「ですが、私はそれを忘れることは出来ないし、流し去ることも出来ない!!」
ハルカ 「あの人は…私の心の中にすらもう存在しない…あの事実は、私にとってはどう見ても『殺人』でしかなかった…」

ノリカ (殺人…って、ハルカ様の準決勝の相手…確かその人が試合後に死亡って…)
ノリカ (その対戦相手が、ハルカ様の想い人!?)

私は強く握り拳を右手で握る。
だが、痛みで私はすぐにその拳を開いてしまう。
この右拳は、私の怒りを象徴した痕。
好きな人を殺した罪に苛まれ、私は怒りに任せてこの拳を振るった…その代償。
結果として、地上最強の称号を私は手に入れた…でも、それだけだった。
私はあの大会を優勝し、すぐに日本へ戻って帰省した。
そして、私は今に至った…あれから、私は一度も『竜凰拳』は振るっていない。
そもそも…右拳が砕けた位では『竜凰拳』はそれほど弱くはならない。
むしろ、手足の1〜2本を失おうとも、負けないのが『竜凰拳』。
私はそんな人を超えた拳の継承者なのだ…

コウリュウ 「…最後に、一言だけ言っておく」
コウリュウ 「次の戦い、『竜凰拳』伝承者としての心構えを忘れるな…」
コウリュウ 「でなけりゃ、お前はまた…大切な物を失うかもな」

ザッ…ザッ…ザッ…

そう言い残し、師匠は去っていく。
私の心に、不安と悲しみが押し寄せる。
だけど、そんな中私は『竜凰拳』伝承者としての心構えを思い出す。

ノリカ 「あの…ハルカ様?」

ハルカ 「…『殺すのは己の拳、されど生かすのは己の心』」

ノリカ 「? その、言葉は?」

ハルカ 「…竜凰拳伝承者としての心構えよ、要するに生かすも殺すも己次第…」
ハルカ 「私が望めば、人を生かすことも殺すこともできるってこと…」
ハルカ 「そう言う、物なのよ…竜凰拳って言うのは」

ノリカ 「……」

ノリカは不安そうだった。
私も不安だった…だけど、私はこの意味を間違ってはならない。
竜凰拳伝承者としてのポケモンバトル…そんなことは今まで考えてもいなかった。
だけど、ミカゲとの戦いは…キヨミさんのそれとは明らかに違う物になる。
そんな予感はしていた…師匠はそれをすでに見抜いている?

ハルカ 「ねぇ、ノリカ…あなた、ミカゲと私…客観的に見てどっちが強いと思う?」
ハルカ 「もちろん、ポケモンバトルで…」

ノリカ 「そ、そりゃ…! 勝ってほしいのはハルカ様…ですけど」
ノリカ 「でも…ミカゲの強さは、正直…普通じゃないって言うか」

ハルカ 「いいの…私が弱くても、それは仕方ないから」
ハルカ 「私が格闘技で持て囃されている間、ミカゲはずっとポケモンで戦い続けていた」
ハルカ 「誰に認められるわけでもなく、ただ自分のために…強くなり続けた」
ハルカ 「まだトレーナーとして1年足らずの私が、ミカゲに勝つなんて出来るわけが無い」
ハルカ 「ミカゲはポケモンに命を賭けてる…私はまだ、そうじゃない」

ミカゲは恐らく、死んでも勝とうとするだろう…そんな気がする。
マリアちゃんのクローンとして生まれたミカゲ。
同じ様に生みだされたクローンは皆死に、ミカゲだけが生き残った。
だけど、ミカゲも気づいているのかもしれない…

ハルカ 「ミカゲは…多分、もう長くはないのかもしれないわね」

ノリカ 「!? 死んでしまうって事ですか?」

私は頷きはしなかった。
だけど、私と一緒にカミヤさんの話を聞いていたノリカは察しているようだった。
これまでの戦いでも、いくつか気になる点はあった。
私が最初に気づいたのは、ネロさんとのバトル。
ヒードランとミカルゲの戦いで、ミカゲは何か妙な力を使っていた。
その後、ミカゲは凄まじく消耗しているようにも感じた…その後のフィーナちゃんとのバトルでそれは確信に変わった。
バトル中、確実に気を失っていたミカゲ…ドクロッグの気付けがなければそのまま病院送りだったろう。
そして、最後…マリアちゃんとのバトル、ガブリアスを抑える時にミカゲはまた力を使った。
力を使った後、確実にミカゲは消耗している…それも目に見えて。
はたから見た観客は気づかないだろうけど、私の目は誤魔化せない…

ハルカ 「……『殺すのは己の拳、されど生かすのは己の心』」
ハルカ 「…師匠、私は伝承者として、次のバトルを戦います!」

ノリカ 「おおっ! ハルカ様がやる気になられた!!」

私は気を入れなおした。
戦う相手を心に据え、勝利を目指す。
だけど、今回の戦いは、ただ勝利を得るための戦いではない。
私にとってではなく、ミカゲを…





………………………。





『同日 時刻13:00 サイユウシティ・第0スタジアム』


ワアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッ!!!


コトウ 「さぁ、皆様長らくお待たせいたしました!!」
コトウ 「長きに渡って開催された今年のポケモンリーグ!!」
コトウ 「その決勝戦がついに始まろうとしております!!」
コトウ 「各地のジムを巡り、8つ集めたものだけが潜ることの許される、ここサイユウシティ・ポケモンリーグの門!!」
コトウ 「それらを潜り抜け、数々の予選を抜けた物にのみ与えられる本戦出場権利!!」
コトウ 「歴代最高と称される今大会のレベルの高さは正直、私自身も震えが来るほどでした!!」
コトウ 「それほどの激戦を潜り抜け、果たして頂点に立つ物はどちらなのか!? いよいよ、決勝戦で戦うふたりが入場します!!」

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッ!!!



ハルカ 「………」

私は右拳を握り込み、上に向けて突き上げる。
無言だったが、私の目は鋭く会場のスポットライトを睨みつける。
観客はそれに呼応し、私の歩みを称えてくれた。


ノリカ 「ハルカ様ーーーー!! 絶対優勝ですぞーーー!!」
アムカ 「頑張れハルカーー!!」
ジェット 「負けんじゃねぇぞーー!!」
リベル 「絶対優勝ーーー!!」

サヤ (客観的に見れば、ハルカさんの勝利は考えられない…でもハルカさんには期待感がある)

キッヴァ 「…今回ばかりは、予想するだけ無駄な気がしてきますね」

サヤ 「…同感ですね、それだけに注目度も高いでしょう」

このバトルは間違いなく荒れる…
観客も何人かはそう思っているはず。



コトウ 「ハルカ選手は、予選の実力テストで最下位と言う屈辱のランキング入りを果たした新人トレーナー!!」
コトウ 「当初は誰もが彼女の勝利をフロックだと思っていたことでしょう!」
コトウ 「しかしながら、見事に予選を勝ち進み、目まぐるしい成長を見せ付けてくれました!!」
コトウ 「そして誰もが認める本戦トーナメント!! 伝説のトレーナーと言われるキヨミ、キヨハの両選手を下し、ここに上り詰めました!!」
コトウ 「伝説のトレーナーを倒した時点でもうフロックはありえない!! ハルカ選手の実力はまさに伝説級!!」
コトウ 「新たな神話が今ここに刻まれようとしているのです!!」


ワアアアアアアアアアアアアアァァァァッッッ!!!



ミカゲ (…鬱陶しいわね、やっぱり)

ついにミカゲが私の対放射線状から現れる。
暗い廊下の先から徐々にミカゲは歩み寄り、そしてスポットライトの下に姿を見せた。


オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッ!!


コトウ 「次はミカゲ選手の入場!! 実力テストでも2位と堂々の成績!!」
コトウ 「その実力は他の追随を許さず、ここまでほぼ苦戦無しと言う凄まじい強さを見せ付けてくれました!!」
コトウ 「ポケモンのレベルも去ることながら、トレーナーとしても超一流!!」
コトウ 「今まで何故無名だったのかさえ謎に包まれる選手でもありますが、とにかく強い!!」
コトウ 「大方の予想では今回も圧倒的勝利が予想されていますが、果たしてどうなるのか!?」



カッカッカッ…!

ミカゲは向かい側のフィールドに立ち、私を見た。
若干、妙な視線を投げかけるが、私はそれを平然と受け流す。
この戦いは、今までのバトルとは違う。

ハルカ (私は、ポケモントレーナーであり、竜凰拳の伝承者、ハルカ!!)

ミカゲ 「………」

審判 「それでは、これより本年度ポケモンリーグ・サイユウ大会、決勝戦を行います!!」


ウオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッ!!


審判の宣言に会場は一気にヒートアップ。
まるで地鳴りのような声援の中、私たちは逆に頭をクールダウンさせていた。
いつもなら、私はこれに乗ってヒートアップするけど、今回は今までとは違う。
勝ち負けは二の次だ…どうやって、ミカゲを救うか…それだけ!!


コトウ 「さぁ! まずはルールの決定だ!!」

ピピピピピピピピピピピッ!!

コトウ 「決まったーーー!! 最後はスタンダードにシングル6体フルバトル!!」
コトウ 「最も古くから続けられるルールでもあり、ある意味決勝に相応しい!!」
コトウ 「フィールドもあえて平坦なスタンダードタイプ!! まさに原点とも言えるこのバトル!!」
コトウ 「まもなくバトル開始だー!!」


審判 「…それでは、両者準備は良いか!?」

ハルカ 「…いつでも!」
ミカゲ 「愚問よ…」

私たちがそう言うと、審判は旗を上に上げ宣言する。

審判 「それでは! 両者ポケモンを!!」

ハルカ 「行くのよ『アーマルド』!!」
ミカゲ 「出なさい『ムクホーク』…」

ボボンッ!!

アーマルド 「アーッマッ!!」
ムクホーク 「ムクホーーーック!!」

私たちは同時にポケモンを繰り出す。
こちらはまずアーマルド、ミカゲはムクホークだ。
相性ならこちらの方が若干有利だけど、ムクホークには『いかく』と言う特性がある。
アーマルドはこれで攻撃力が削がれてしまう…いきなり有利、とは言えないわね。

ハルカ (とはいえ、相性が悪いのは明白…ミカゲなら即交代も十分考えられるはず)

審判 「それでは! バトルスタート!!」

ミカゲ 「『とんぼがえり』!!」

ムクホーク 「ムクホー!!」

ビュンッ!!

ハルカ 「先制!? アーマルド受け止めるのよ!!」

アーマルド 「アマッ!!」

ガキィッ!! ヒュンッ! シュボンッ!!

金属音のような甲高い音が鳴り響く。
アーマルドはほとんどダメージを受けていない、だがムクホークはそのまま一瞬でミカゲのモンスターボールへと戻ってしまった。

ハルカ (攻撃と同時に退いた!? そんな技もあったのね…!)
ハルカ 「アーマルド『ステルスロック』!!」

ミカゲ 「出なさい『チェリム』」

ボンッ!!

チェリム 「………」

アーマルド 「アーッマ!!」

ヒュヒュヒュンッ!!


コトウ 「まずはミカゲ選手が先制!! 『とんぼがえり』で攻撃と同時にチェリムと交代」
コトウ 「続いてハルカ選手が『ステルスロック』で場を固める!! 共にセオリー通りとも言える展開です!」



………。



ゴウスケ 「最初の一手だけで言うたら、ハルカちゃんの勝ちやな…」

ミツル 「そうでしょうか? 結果的に交代が出来たのならミカゲさんが有利なんじゃ…」

キヨハ 「その場の状況でならね…相性が悪いのならハルカちゃんは交代させればいいだけ」
キヨハ 「逆にミカゲは相性の悪い相手に対してはダメージを受けながら交代しなければならない…」

キヨミ 「…フルバトルにおいては、確実に有利になる技だからね、あれは」

ランマ 「…ミカゲはんのメンバーをこれまで見る限り、『ステルスロック』を解除できるポケモンは一体もおらん」
ランマ 「加えて、ダメージを明らかに大きくもらうのが2体…相当なデメリットやで」

イータ 「交代すれば、の話でしょ? 交代せずに全員倒せるなら、それはデメリットでも何でもないわ」

イータのあまりの正論に私たちは全員口を塞ぐ。
そう…無茶と思えるその理論もミカゲなら通用してしまうことを私は知ってる…

キヨミ (忘れてはいないわ…ミカルゲ一体に完全敗北させられたあのバトル)
キヨミ (何がチャンピオンだ…何がポケモンバトルだと、絶望感を教えられた)
キヨミ (ミカゲは強すぎる…ハルカちゃんと言えども、一体どこまで喰らいつけるのか)



………。



ハルカ (確実に有利になる手は張った…後は、ミカゲの出方次第)
ハルカ (ここまでのミカゲならチェリムを出したら大抵『にほんばれ』を行ってきた…)
ハルカ (今回もそうだろうか? だけどこちらに『すなあらし』があることはわかっているはず)
ハルカ (そもそも相性が悪いはずのチェリムを前面に出して来たのが気になる…)

ミカゲ 「…どうしたのぉ? 手を出さないならこちらから行くわよ?」
ミカゲ 「チェリム『にほんばれ』」

チェリム 「……!」

ハルカ 「来た!! アーマルド『すなあらし』!!」

アーマルド 「アーーッマ〜!!」

ミカゲ 「馬鹿ね、あっさり釣られないでよ…チェリム『タネマシンガン』」

チェリム 「………」

ババババババッ!! ゴォォォォォォッ!!

ハルカ 「な、何!?」

ビュゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォッ!!

アーマルドが『すなあらし』でフィールドの天候を変化させたと同時、チェリムは何と『タネマシンガン』で『にほんばれ』の炎球体を前方に飛ばしてきたのだ。
アーマルドに向って飛んできたそれは技後の無防備な状態のアーマルドにぶつかることになる。

ゴォワァァァァッ!!

アーマルド 「ア、アマ〜!!」

ハルカ (『にほんばれ』を攻撃に使ってきた!? 今まで防御に使うやり方とかは知ってたけど、こんな強引なやり方は初めて見る!!)

だけど、考えても見れば『にほんばれ』のエネルギーは炎タイプの威力をグンとあげるほどの物。
単純に火力と言う点で見るなら『かえんほうしゃ』の威力を凌ぐのかもしれない…

ハルカ 「くっ! アーマルド『シザークロス』!!」

アーマルド 「ア、アマッ…!!」

ズシンズシンッ!!

ハルカ (アーマルド…まさか『やけど』して!?)

私はアーマルドの表情と出足の悪さから最悪の事態を予測する。
ミカゲの狙いは初めから攻撃ではなく、これが狙いだった?
物理攻撃重視のアーマルドが『やけど』になれば当然攻撃力は半減してしまう。
そうなったら、相性が良くてもほとんど効果は得られない!!

ミカゲ 「…チェリム、今度こそ『にほんばれ』よ、あんなトロイ攻撃はかわしなさいよ?」

チェリム 「………」

ゴォォォォッ!!

チェリムは再び炎球体を作り出す。
アーマルドは『やけど』の痛みに耐えながら『シザークロス』を放つ。

アーマルド 「アマーー!!」

チェリム 「…!」

ヒュヒュンッ!!

アーマルド 「!?」

ハルカ 「かわされた!? アーマルド上よ!!」

ギュンッ!! カアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッ!!

天候は砂嵐から日照りに変化する。
そして、アーマルドの頭上でチェリムはフォルムチェンジを終えた。

ミカゲ 「…『ソーラービーム』」

チェリム 「チェリ〜♪」

カァァァァッ!! ギュアアアアアアアアアアアアァァァァァァッ!!

ハルカ 「アーマルド!?」

アーマルド 「……」

ズシンィィィンッ!!

アーマルドの巨体はあっさりと沈黙する。
立ち上がるのは、無理だ。

審判 「…アーマルド戦闘不能!! チェリムの勝ち!!」


ワアアアアアアアアアァァァァァァァァァッ!!

コトウ 「早くもミカゲ選手が先制!! 相性の悪いチェリムで見事アーマルドを撃墜!!」
コトウ 「一見無茶な戦術もミカゲ選手がやれば神の業にも感じます!!」



………。



ユウキ 「…洒落になんねぇな、ありゃ」

ミク 「普通のトレーナーでは思いつかないことを平然とやり、それを勝利に結びつける」
ミク 「確かに、味方を変えれば神の業とも言えるわね」

ヒビキ 「…だが、『ステルスロック』で状況が不利なのは変わらない」
ヒビキ 「上手く相性でカバーしていけば、自ずと流れは変わるはず」

ユウキ 「…その相性で有利なアーマルドがいきなりやられたんだ、これ以上の相性がいるかは疑問だがな」

エマ 「だ、大丈夫ですよ!! ハルカさんだし、きっと土壇場で何とか…」

ユウキ 「土壇場…ねぇ」

正直、俺でもミカゲに勝てる気はしない。
いや、と言うより…勝てなかったとも言えるか。
俺が知っている頃のミカゲより更に強くなってやがる…俺は、あの頃から強くなってはいないからな。

ユウキ (正直、きついぜ…? ハルカ、お前は勝てるか? あいつに…)



………。



ハルカ 「…戻ってアーマルド」

シュボンッ!

結局、押し通されてしまった。
それほど間違った選択はしていないのに、ミカゲに流れが自然と向ってしまう。
これが経験の差と言うものなのかもしれない、一朝一夕で得た私の戦術ではどうやっても勝てないのは道理。
こちらは早くも一体ダウン…向うはノーダメージ。

ハルカ (だけど、勝てなくてもいい! 私はミカゲの全てを引き出すことが最大の目的だ!!)
ハルカ 「出るのよ『ライボルト』!!」

ボンッ!

ライボルト 「ラ〜イ♪」

審判 「それではバトルスタート!」

ハルカ 「行けライボルト! 『かえんほうしゃ』!!」

ミカゲ 「『やどりぎのタネ』」

ライボルト 「ラーーイ!!」

ゴオオオオオオォォォォォォッ!!

チェリム 「!! チェリ〜…! リッ!!」

ドバァッ! ヒュヒュンッ!! ググググッ!!

ライボルト 「!? ラ、ライ〜!!」

チェリムは『かえんほうしゃ』を振り切り、『やどりぎのタネ』をライボルトに植えつける。
動きを制限されるわけじゃないけど、これは徐々にライボルトの体力を奪い、チェリムの体力を回復させる。
交代すれば効果は消せるけど、その間にチェリムは更に場を固めることが出来る…ここは一気に!

ハルカ 「『オーバーヒート』!!」

ミカゲ 「!?」

ライボルト 「ラーーーイーーーッ!!」

ゴオワアァァァァァッ!! ボボボッ!!

ライボルトは全身から強大な熱量を放出し、『やどりぎのタネ』を燃やし尽くす。
これは前にミクさんが見せてくれた方法だ、あのウインディに比べれば火力は劣るけど、十分だったようね!
火力は若干落とすことになるけど、範囲重視のこの撃ち方は回避しずらいはず!

ミカゲ 「『まもる』」

チェリム 「チェリ〜♪」

ピキィィィィィンッ!!

訂正…回避する必要もなかったか、さすがね。
やはりミカゲは凄い、何をやってもその上を行かれてしまう。
相性で有利な技を放っているのにまるで介さないなんて…

ハルカ (これでライボルトは『とくこう』が下がった…このまま戦っても辛い?)
ハルカ (だけどミカゲはそれを待っているかもしれない…ここは私も使ったことのない技で攻める!!)
ハルカ 「一気に突っ込めライボルト!! 『ほのおのキバ』!!」

ミカゲ 「物理攻撃…!」

ライボルト 「ラ〜イ!!」

ボオオォォォッ!!

ライボルトは口元に炎を蓄え、チェリムに突っ込む。
そして『まもる』の効力が切れた隙にライボルトはチェリムの首元に噛み付いた。

ガブゥッ! ゴワァッ!!

チェリム 「チェ…チェリ〜〜!!」

ダメージはある! 日照りの影響で威力も上がってるから、効果は抜群ね!!

ミカゲ 「…『ソーラービーム』!!」

ハルカ 「このタイミングで!?」

チェリム 「チェ…リーーー!!」

カァァァァッ! ギュアアアアアアアアアアアアァァァァァァァッ!!!

ライボルト 「ラーーーーイ!!」

何と、チェリムは自分ごとライボルトを攻撃した。
いくら、効果が今ひとつだからって…こんな無茶を。

ライボルト 「ラ、ライ……」

審判 「ライボルト戦闘不能! チェリムの勝ち!!」

予想外の攻撃にライボルトは沈黙してしまう。
起き上がるかとも思えたが、それよりも早く審判はダウンを宣言してしまった。

チェリム 「…チェ…リ……」

チェリムも相当苦しそうだ。
後一押しで確実に倒せる…けどその一押しがこれほど遠く感じるなんて。

ハルカ (やるしかないんだ! とにかく…私の全てを賭けて!!)
ハルカ 「『ジュペッタ』! 頼むわよ!!」

ボンッ!

ジュペッタ 「……」

審判 「それでは、バトルスタート!!」

ハルカ 「『かげうち』!」

ミカゲ 「『まもる』!」

ジュペッタ 「フンッ!」
チェリム 「チェ…リッ!!」

ギュンッ! ピキィィィィンッ!!

私は先制技で仕留めに掛かるも、チェリムは防御する。
『まもる』だけじゃ現状は変えられない…一体何を考えているの?

パァァァ…

この瞬間、丁度『にほんばれ』の効果は消えた。
チェリムは姿を元に戻し、もう動く力すら残されていないようだった。

ハルカ 「連発よ! ここで仕留めて!!」

ジュペッタ 「よしっ!」

ギュンッ!!

ジュペッタは『かげうち』の連発でチェリムを仕留めに掛かる。
もう瀕死寸前のチェリムはかわすこともできないはず。

ミカゲ 「………」

ズバァッ!!

チェリム 「……〜」

バタンッ!

審判 「…チェリム戦闘不能!! ジュペッタの勝ち!!」

結局、チェリムは倒れた。
ミカゲは最後に何かしてくるのだろうか?と思ったが、結局はダウンを受け入れたようだ。

ハルカ (ミカゲは極端にポケモンのダウンを嫌うと言ってたけど、本当のようね)
ハルカ (戦術的に見ればどう考えても、もう望みのないチェリムを少しでも長く戦わせるなんて)
ハルカ (ミカゲはやっぱり不可解な点が多い、勝つための戦いなのに、それ以外の目的を感じる)



………。



ジェット 「やっと…一体かよ、辛ぇな〜」

リベル 「やっぱり強いですよね、ミカゲさん…」

サヤ 「むしろ、一体でも倒せたハルカさんを褒めるべきでしょうね」

キッヴァ 「確かに…ここまでのバトルでもミカゲさんのポケモンはほとんどダウンすらしてませんからね」

アムカ 「む〜…」



………。



ミカゲ 「…出なさい、『ドクロッグ』」

ボンッ! ザシュシュッ!!

ドクロッグ 「グッ! ググ…」

ドクロッグは出てきた途端にダメージを受ける。
格闘タイプゆえに微々たるダメージだけど…

ハルカ (また相性の悪いタイプを繰り出した?)
ハルカ (どうして…わざわざ……)

ジュペッタ 『余計なことは考えるなハルカ、奴は勝つ気でいるそれを忘れるな』

ジュペッタが私の頭に直接語りかけてくる。
ジュペッタはやはり冷静だ、相手が普通じゃないのは十分に理解している。
タイプ相性はこの際どうでもいい…何が来ても私にとって苦難なのは同じだ。
とにかく、できることをやるしかない…

ジュペッタ 『ハルカ、ここは正攻法よりも搦め手だ、まずは相手の戦力を削ぐことを考えろ』

ハルカ 『でも、ミカゲがそれを許すかしら?』

ジュペッタ 『仮に止められても、1ターンで沈められるよりかはいい…』

ハルカ (…? 何かあるってことか…)
ハルカ 「ジュペッタ! 『おにび』!」

ミカゲ 「『ちょうはつ』」

ドクロッグ 「ググッ! クッ!!」

ドクロッグは指でクイクイ…と、かかって来いと言うアピールをする。
それを見てジュペッタは動きを止めてしまう、やっぱり…止められたか。

ミカゲ 「単純ね、あなたの行動は読み易過ぎるわ、もっとも…そうでなくてもどうしようもないと思うけど」

ハルカ (く…この自信は確実に勝てるという意思表示だ、私は退くしかない!)
ハルカ 「ジュペッタ…戻って!!」

ミカゲ 「だから甘いのよ! 『おいうち』!!」

ジュペッタ 「!?」

ドクロッグ 「ググゥ!!」

ドガァッ!! シュボンッ!!

ハルカ 「ジュ、ジュペッタ!?」

私はジュペッタをボールに戻す瞬間、『おいうち』で効果抜群のダメージを負わされてしまった。
幸い、ジュペッタがダウンすることは無かったけど、一気に大ダメージ…なるほど、ここまで全部シナリオ通りってコトね!

ハルカ (やっぱり、ミカゲは強い…わかりきっているけど、どうにもならない)
ハルカ (ポケモンが成長する隙すら与えてもらえない…完璧なバトルだわ)
ハルカ 「…出るのよ『バシャーモ』!!」

ボンッ!

バシャーモ 「…シャモ!」

審判 「それではバトルスタート!!」

ミカゲ 「…戻りなさいドクロッグ」

シュボンッ!

ハルカ 「!? いきなり戻した…」

ダメージを覚悟でミカゲはポケモンを戻す。
ドクロッグでも相性はそれほど悪くは無いと思うのだけど…何かあったのだろうか?



………。



ミツル 「どうして戻したんでしょうか? 相性は悪くないと思いますけど」

キヨハ 「特性のせいでしょうね、ドクロッグの特性はふたつあるのだけどそのひとつは『かんそうはだ』」
キヨハ 「この特性は、水タイプを吸収できる優れた特性だけど、受ける炎タイプのダメージは大きくなってしまう」
キヨハ 「加えて、雨が降れば体力を回復し、日照りなら減る…つまり」

ランマ 「炎タイプのバシャーモには相性が悪くなってしまう、言うことですわ」

ミツル 「…なるほど、そんな特性もあるんですね」

キヨミ 「どっちにしても、ステルスロックのダメージは小さくないわ…ハルカちゃんに流れが傾けばいいけど」

ゴウスケ 「難しいやろな、そんな甘さはミカゲにはないやろ」

イータ 「………」



………。



ミカゲ 「出るのよ『ムクホーク』!!」
ハルカ 「『オーバーヒート』!!」

ボンッ! ザシュシュッ!!

ムクホーク 「ム、ムクホーーーー!!」

バシャーモ 「シャモーーーーーーーー!!」

ゴゥッ!! ゴバアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッ!!

ムクホーク 「ム、ムクホーーー!?」

ドバァァァァァンッ!!

いきなり、ムクホークはバシャーモの最大火力技を浴びることになる。
どんな相手が出てもとりあえず大ダメージを狙えると思って私はこれを宣言した。
『とくこう』は下がる物の、交代すること前提ならこのぶっ放しも十分意味がある。

ミカゲ 「ちっ! ムクホーク『ブレイブバード』!!」

ハルカ 「戻るのよバシャーモ!! 出て『ジュペッタ』!!」

シュボンッ!

ジュペッタ 「……っ!」

ムクホーク 「ホーーーーーック!!」

ドバアァァァァァンッ!!

爆発音にも似た音がジュペッタを襲う。
ムクホークは自分の身を犠牲にして『ブレイブバード』を放ったのだ。
ジュペッタはすでにダメージが大きいだけに耐えられるわけも無い。
そしてムクホークもまた反動のダメージで力尽きてしまった。

審判 「…両者戦闘不能!! 引き分け!!」


オオオオオオオオオォォォォッ!!


コトウ 「ハルカ選手、まだまだ負けていません! 3体失った物の、ミカゲ選手も2体ダウン!」
コトウ 「戦力的にはまだそれほどの差は出ていません!! まだまだ勝負はこれからだ!!」



………。



ミク 「だ、そうだけど、どう思ってるの?」

ユウキ 「…さてね、ミカゲと違い、ハルカは無茶を無茶で通しているだけだ」
ユウキ 「単純にポケモンもトレーナーもミカゲが数段上」
ユウキ 「あえて言うなら、もう運頼みだな…」

ヒビキ 「しかし、それなら今のハルカは運が向き始めているのではないか?」

エマ 「確かに! 相打ちとはいえ、もう1体持って行ったんですから!!」

ユウキ (確かに流れは徐々に変わりつつある…が、どこまでその流れを変えられるのか)
ユウキ (ミカゲの力はこんなもんじゃない…まだまだ序の口だぜ)



………。



ハルカ (…この時点で、私は残り3体。見せてないのは2体)
ハルカ (ミカゲはどうせ同じポケモンで固めてるだろうから、とりあえず残り4体でOK)
ハルカ (さて…どうましょうかね〜)

ミカゲ 「………」

私たちは互いの顔色を窺う。
ミカゲは特に変わってない、むしろ冷静だ。
ダウン覚悟でムクホークをぶつけてきたのは驚いたけど、『ステルスロック』のダメージを考えるとそれが最良の選択とも取れた。

ハルカ (とにかく、小さな流れを掴むしかない!)
ハルカ 「『ホエルオー』!!」

ミカゲ 「『レントラー』!!」

ボボンッ!!

ホエルオー 「ホエ〜…」

レントラー 「レンッ!!」

私はホエルオーを繰り出し、いきなりフィールドに圧迫感を与える。
さすがのミカゲも少々顔をしかめたが、それほど驚きはしていないようだ。

ハルカ (だけど、電気タイプか…いきなり、マズイじゃないのよ)
ハルカ (仕方ないとはいえ、後ろの2体じゃどっちにしても…か)

審判 「それではバトルスタート!!」

ハルカ 「行けーーーー!! 『しおふき』!!」

ミカゲ 「『かみなり』よ!!」

ホエルオー 「ホ〜エーーーーーーーーー!!!」

レントラー 「レーン!!」

ドギュッバァァァァァッ!! バシャシャシャシャシャッ!!  カッ! ピッシャアアアアアアアアアァァァァァァァァンッ!!!

同時に互いの技が炸裂する。
互いに最高火力の技を出し合い、互いの技をモロに受けるハメに。
とはいえ、こっちはあくまで相打ち覚悟の技…相性がそもそも悪いのだ。

レントラー 「レ…レンッ!!」

ホエルオー 「………」

審判 「ホエルオー戦闘不能!! レントラーの勝ち!!」

ハルカ 「戻ってホエルオー…ありがとう」

シュボンッ!!

私はホエルオーを戻して褒める。
結果的に一発屋になってしまったけど、レントラーの体力は十分減らせた。
そして、気づいたこともある…あのレントラーは私のホエルオーよりも遅かった。
多分相当スピードは無い、こっちは残り2体だけど、スピードにはどちらもそれなりに自信のある子たちだ。
押し切るなら十分、加えてミカゲは交換にもリスクが生まれる。
まだまだ、これからだ!!

ハルカ 「頼んだわよ『バシャーモ』!!」

ボンッ!

バシャーモ 「シャモッ!!」

私は再びバシャーモを繰り出す。
当然相手はレントラー継続、速度なら確実に上回ってる。
悪いけど、ミカゲの後ろのポケモンはわかってる、こっちは一気に行かせてもらうわ!

ミカゲ 「…ちっ」

ミカゲは舌打ちしながらも交換する気は無いようだ。
こういう場合、押し切り方を間違えたら終わりだ。
私はなるべく確実性の高い技を宣言する。

ハルカ 「バシャーモ! 『だいもんじ』!!」

バシャーモ 「シャモーー!!」

ゴバァッ!! ドバァァァァァァンッ!!

レントラー 「レ、レン〜〜〜!!」

ズゥゥゥゥンッ!!

審判 「レントラー戦闘不能!! バシャーモの勝ち!!」


ワアアアアアアアアァァァァッッ!!


レントラーは大技の直撃を受け、ダウン。
結構ギリギリだった気もしたけど、何とか…か。
ミカゲはほんの少しだけ、苦い顔をした。
ダウンを極端に嫌うミカゲが3体もダウンしたんだ…あんな顔もするのだろう。
だけど、それでいい…ミカゲが本気出すまで私は喰らいつく!!



………。



カミヤ 「…どうだい? マリアちゃん…あのミカゲがハルカちゃんに3体もダウンさせられたよ」

マリア 「ふんっ、あれ位私だって…」

カミヤ 「強がりはよしなって…マリアちゃんにあんなデタラメな戦いはできないよ」
カミヤ 「ハルカちゃんはきっとまだまだ追い詰める…ミカゲが全力を出すまで」

マリア 「…何よ? あなた、ミカゲが負けることを望んでいるの?」

カミヤ 「…そうかもしれない」

マリア 「え…?」

カミヤ 「僕はミカゲが負けることで、得られる物があるということを知ってほしいと思っている」
カミヤ 「でも、ミカゲはそれを知ることよりも死を選ぶこともわかっている」
カミヤ 「ある意味…これは賭けなんだ」
カミヤ 「ハルカちゃんが…ミカゲを救ってくれるように」

マリア 「……」



………。



コウリュウ 「…ハルカ、いい目だ」
コウリュウ 「今のお前は確かに竜凰拳伝承者だ…お前がその伝承者の姿で戦う限り、お前は必ず勝利を得る」
コウリュウ 「影ながら応援させてもらうぜ…愛弟子の戦いをよ!」



…To be continued




Menu
BackNext
サファイアにBack サファイアにNext




inserted by FC2 system