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POCKET MONSTER RUBY



第100話 『最終決戦・前夜』




『4月20日 時刻14:00 サイユウシティ・休憩室』


ロボ 「…了解致しました、それではその旨、お伝えしておきます」

ピッ、と音をたて、何やら通信を終了したロボ。
私はゲンジさんとの戦いの後、休憩室にて待っていたが、ロボは突然通信を受信し、今まで誰かと会話していたのだ。

ロボ 「…ハルカさん、次のチャンピオンとの戦いについてですが、明日に変更となりました」

ハルカ 「は? 何で急に…」

それはそうだろうと思う。
ここまで連戦で、本来なら回復もままならない状態で戦うのがルールのはず。
それなのに、あえて翌日まで待つ必要があるのだろうか?

ロボ 「チャンピオンのダイゴ選手もすでに同意しています」
ロボ 「最後のバトルについては、チャンピオンの意向もあり、ハルカさんのポケモンは全回復後に試合は行うということになります」

ハルカ 「はぁっ!? じゃあ、ゲンジさんがわざわざあんなことしたのは…」

ロボ 「無意味…とは言えないとも思えます」
ロボ 「少なくとも、あなたはそう思っているのでは?」

無感情な声でそう言うロボ。
だが、私自身反論はできない。
ゲンジさんは、私に未来を託した。
私が全力で戦うことを見届けたいがために…
私はその心意気を受けることで、新たなモチベーションを得た。
今やれば、チャンピオンにも負ける気はしない。

ハルカ (と、思ってたんだけど…)

実際は肩透かし…
私のモチベーションはもろくも崩れ去った。
明日、全快したポケモンたちで全力のバトルを挑む。
何だか、舐められてないだろうか?
ここまで、私は連戦で四天王を全て撃破してきた。
自惚れているわけじゃない…だけど、プロとしてはどうかと思う。

ロボ 「…納得できないという顔ですね?」

ハルカ 「…ロボットなのに、そういうことわかるんだ?」

ロボ 「…自分でも驚いています、何故でしょうね?」
ロボ 「……私には、感情などありません。機械ですから」
ロボ 「ですが、何故かあなたのバトル、感情、行動を見ていると、不思議に私はあなたが気にかかります」
ロボ 「……それが、何を意味するのかは、私にはわかりません」

ロボは不思議なことを言う。
いや、『人間』としてなら不思議でもない…
このロボットは、何故かその『人間』らしさを垣間見せるようになった。
私と関わったことで、本来生まれないはずの感情が生まれようとでも?
どんだけなのよ…私はそんなフラグ建築士の称号は持ってないわよ……多分。

ハルカ 「はぁ…もういいわ、決まったことなら従う」
ハルカ 「全力全快でいいなら、それで戦うわ……手加減はしない」
ハルカ 「どんな相手でも、私は負ける気はしないし、その気はない」

ロボ 「………」

ロボは何も言わなかった。
私に気を使っているのだろうか?
明らかに機嫌の悪いであろう私の感情を読み取ったと思える。

………結局、私はそのままポケモンセンターへ帰還。
そのまま、部屋のベッドで休むことにした…





………………………。





『同日 時刻16:00 ポケモンセンター・ポケモン広場』


アーマルド 「はぁ〜…何だか気が抜けたなぁ〜」

マッスグマ 「………」

アーマルドはその場で座って愚痴を零した。
マッスグマはゆったりと休んでいる、余裕があるな。

ジュペッタ 「…今の内にゆっくり休んでおけ。明日は激戦になるぞ」
ジュペッタ 「もっとも、誰が選ばれるかはわからんがな…」

ダーテング 「そうですね〜…最後の6体。ハルカさんにとってある意味一番のパーティ、とも取れますからね〜」

テンは確信を突く。
その通りだ。
チャンピオン相手に、小細工はすまい。
ならば、ハルカが考えうる最高のメンバーで挑むのは明白。

ジュペッタ (確定なのは、シャモ、グマ、ライの3体か)
ジュペッタ (残りはどうなるかは俺にもわからん…単純な実力で言うなら、テン、俺、アマ辺りが妥当だが…)

実際にはタイプ相性というものはしっかりある。
チャンピオンが何を使うかは最後までわからないが、果たして?

ジュペッタ 「………」

アーマルド 「お? どこ行くんだ?」

ジュペッタ 「少しな…歩いてくる。気を紛らわせたい」

俺は背中越しにそう言って歩いた。
着いて来る者はいない、か…まぁ、フィオ以外は全員疲労が大きいだろうからな。

フィオネ 「ジュペ君、私も着いて行っていい?」

ジュペッタ 「……好きにしろ」

そのフィオが着いて来ることになった…まぁ、別に構わんか。
こいつにとっては動き足りない…と言う所か。
結局、出番は無かったからな…明日も恐らく出番はないだろう。
フィオの実力が無いわけじゃないが、同じ水タイプでペリやホエがいてはな…

ジュペッタ 「………」

フィオネ 「〜♪ 〜♪」

フィオは鼻歌を歌いながら俺の後ろに着いて来る。
やれやれ…緊張が無いな。
だが、それもこいつの良い所か。



………。
……。
…。



ジュペッタ 「……む?」

フィオネ 「どうしたの?」

俺は、妙な気配を感じ取り、足を止めた。
時刻は、まだまだ夕方…日が落ちるには早い。

ジュペッタ 「にも関わらず、これだけの殺気を放つとはな…バレバレだぞ3流」

ロズレイド 「ふん…貴様を前にして、気を抑えていられるか! ここでバラバラにしてやる!!」

やれやれ…血気盛んなことだ。
まぁ、暇潰しにはなるか…

フィオネ 「こらっ、喧嘩はいけないよ!」

突然、空気の読めない横槍が入る。
やれやれ……と、俺はため息を吐く。

ロズレイド 「何だ貴様? どけっ!」

フィオネ 「むぅ〜! 言う事聞けない人は夜中迎えに来られるんだよ〜」

それは、昭和の子供たちのトラウマだ…
と、思っている間に俺はすかさずフィオの前に出る。

ジュペッタ 「!!」

ギュアァァァッ!! バァンッ!!

ロズレイド 「ちっ!」

俺は有無を言わさず放ったロズレイドの『エナジーボール』を近接型『シャドーボール』で軌道を逸らした。
やれやれ…『せっかち』なことだ。

フィオネ 「こらっ、喧嘩は駄目なんだぞ〜!」

ジュペッタ 「もういい、下がっていろフィオ…お前は邪魔だ」
ジュペッタ 「こいつが言うことを聞くタマか…心配はいらん、すぐに終わらせる」

俺がそう言うと、それが気に触ったのかロズレイドは明らかに怒りの表情で俺に昇順を合わせる。
前の戦いの例があるだけに、一瞬でも隙は見せないつもりの様だ。
ふっ…だから、青二才なんだ。

ロズレイド 「死ね!」

ロズレイドは隙の少ない『シャドーボール』を俺に放ってくる。
少しは学習したようだな…だが、まだ甘い。

ドギュゥゥンッ!

ロズレイド 「!?」

ジュペッタ 「…ふむ。確かに速いし、威力も申し分ない」
ジュペッタ 「が、殺気が強すぎて撃つ前からバレバレだ…お前は遠距離向きの性格じゃないな」

俺が軽く分析して言ってやると、ロズレイドは更に怒りを露にする。
全く…精神のコントロールもまともに出来ないか。

ロズレイド 「黙れ! 貴様のその余裕をすぐに消してやる!!」

今度は『ソーラービーム』のエネルギーを溜め始める。
馬鹿かあいつは…結局、前と同じじゃないか。
…と、俺は思っていたのが甘かった。

ドギュアアアアアアアァァァァァァァァァッ!!

ジュペッタ (速い!?)

俺は反応がやや遅れるも、直撃は避ける。
右に体を逸らし、胸を掠めて『ソーラービーム』が俺の背後に着弾した。

ドジュアアァァァァァァッ!!

着弾した草むらが一瞬で干上がる。
威力はさすがだな…あんな物を直撃されるわけには行かない。

ジュペッタ (しかし…この日差し、夕方にしては明るすぎると思ったが)

ロズレイド 「ふははっ! どうだ!! 次は避けきれんぞ!!」

してやったり、と言う感じでロズレイドは高笑いをする。
全く…疲れる相手だ、俺は少々精神的に披露するも、しっかりと相手を見た。
もう同じ手は喰わん…だが、あいつは馬鹿正直にまた『ソーラービーム』を貯め始めた。
日差しが強い分、タメ時間は無い…が、撃つのが分かっていて、わざわざ当たるほど俺は馬鹿でもない。

ロズレイド 「死ねっ!!」

ドギュアァァァァァァァァッ!!

ロズレイドの光線型『ソーラービーム』は両手から真っ直ぐに俺の方へ向かってくる。
その時間は僅かで、50メートル程しかないこの距離では、1秒もかからない速度だ。
だが、いかにタメを無くしたと言っても、大技は大技。
溜める瞬間、撃つ瞬間のモーションは小技とは比較にならない位隙だらけだ。
俺はその僅かな隙を狙って、ちょっとだけ力を加える。
別に、大きな力はいらない…ちょっと奴の『腕』に力場を加えるだけだ。

ロズレイド 「!?」

ドジュアアァァァァァァッ!!

今度は俺が体を動かさなくても左方向へ軌道がずれた。
当然、ロズレイドは混乱する。
命中率の高い『ソーラービーム』が外れたのだ…ましてや自信たっぷりに放った自分の技が、だ。

ジュペッタ 「つまらん技だ…技としての完成度は高いが、使い手がコレではな」
ジュペッタ 「…もう一度やってみろ」

ロズレイド 「!! 次こそは貴様の体を蒸発させてやる!!」

キュィィ…!

再び、ロズレイドは溜め始める。
だが、次の瞬間……

ポツポツポツ……ザアアアアアアァァァァァァァァァァァッ!!

ロズレイド 「な、何っ!?」

ジュペッタ 「……運が悪かったな」

俺はこの自体を奴よりも遥かに早く察知し、すでに両腕を高く上げて溜めを続けているロズレイドの懐に飛び込んでいた。
奴は当然、狼狽える…そして。

ジュペッタ 「次は、もう少し周りの状況を確認できるようになっておけ…」

ズバァァァンッ!!

俺は近接型『シャドーボール』でロズレイドを吹き飛ばす。
強い雨が降り注ぐ中、俺は奴の倒れた体を見据えていた。
一撃でダウン…とまではいかなかったかもな。
俺は一応、確認のために奴の側まで歩いていく。

ロズレイド 「が…あ……」

ジュペッタ 「やれやれ…HPの低い奴だ、あれ一発でダウンか?」

ロズレイド 「く…そ……! またしても……!!」

ロズレイドは恨みがましい目で俺を睨むが、俺は軽く流す。
そして、今回の敗因を軽く説明してやる。

ジュペッタ 「…お前はもう少し感情のコントロールを覚えることだ」
ジュペッタ 「すぐにカッとなって頭を熱くするから、状況を見失う」
ジュペッタ 「2発目の『ソーラービーム』、何故外れたかお前は理解できてないだろう?」

ロズレイド 「…?」

俺はあえて確認し、そして説明する。

ジュペッタ 「お前が連発するのは初めから気づいていた…だから、俺はモーションを極限まで減らした『サイコキネシス』で、お前の腕をちょっとだけずらしたにすぎない」
ジュペッタ 「熱くなりすぎていたお前はそんな簡単なことにも気づかず、狼狽えるだけ…」
ジュペッタ 「更には、空に雨雲が掛かり始めているにも関わらず、連発しようとしたのは馬鹿だ」
ジュペッタ 「ここ、サイユウシティでは強い日差しが大抵降り注いでいるが、時折こう言った集中豪雨に見舞われる時がある」
ジュペッタ 「お前の様な技を多用するのであれば、現地の天候事情には気を配っておけ…」

俺はそこまで言うと、ロズレイドに背を向けて立ち去る。
そんな俺の背中にロズレイドは、言葉を放つ。

ロズレイド 「…ま、て! 何故…そんなことを俺に話す?」

もっともだ…わざわざ敵にそんなことを喋るのは馬鹿だろうからな。
だが、俺は簡単に返す。

ジュペッタ 「ただの気紛れだ…あまりにお前が弱すぎて、な…」

俺がそう言うと、ロズレイドは何も考えられなくなったのか、言葉を失い、気絶したようだ。
そんな奴の姿を見てか、今まで会話にも入らなかったフィオがこう言う。

フィオネ 「…あの人、何だか可哀想」

ジュペッタ 「……確かにな。自分の強さを正しい方向に引き出せないのは、可哀想かもしれん」
ジュペッタ 「だが、力を持って生まれたのであれば、その使い方を正しく示してやるのがトレーナーなのだ」
ジュペッタ 「だから、あいつは悪くないのさ…悪いのはあいつを育てたトレーナーだ」

フィオネ 「…ハルカさんは、そんなことないよね?」

ジュペッタ 「心配するな。あいつは馬鹿だからそんな事自体、意味を持たない」
ジュペッタ 「ただ、がむしゃらに…強くなりたいだけなのさ」
ジュペッタ 「そして、それが正しい方向に進んでいる……」

フィオネ 「そっかぁ♪ じゃあ、安心だね!」

そう言って、嬉しくなったのか、フィオネはこの集中豪雨の中はしゃぎ回る。
特性もあって、雨が降れば降るほど、あいつは元気になるな。
ぬいぐるみの俺には少々鬱陶しいが。
だが、この天候も一時的な物…すぐに天候は元に戻る。
俺はすでに明るくなり始めた空を見上げ、これからのことを考えた。

ジュペッタ (戦いはもうすぐ終わる…その先にハルカは何を見る?)
ジュペッタ (俺たちにできることは、戦うことだけだ…だからこそ、ハルカの力になってやりたい)
ジュペッタ (あいつは、戦うことで生きてきた女だ。果たして、この先には何が待っているのか?)

俺は再び強い日差しに当てられ、体が乾いていくことを感じ取る。
すぐにその場から俺は離れ、フィオネも残念そうに着いてきた。
ロズレイドは…気がつけばもう、そこにはいなかった。
ふ…少しは弁えるようになれたか。



………。
……。
…。



『同日 同時刻 ポケモン広場・海岸』


ここにはとあるトレーナーのポケモンが集まっていた。
数は6体、全てひとりの有名なトレーナーの手持ちとされている。
今は全員休息を取っており、いつ始まるかもわからないバトルに向けて英気を養っていた。



………。



バクフーン 「……」

エーフィ 「…? どうかしたの?」

俺が砂浜に大の字で空を見上げていると、仲間のエーフィ♂が俺に話しかけてくる。
俺は、特に言葉は返さず、体を起こして少し考えた。

バクフーン 「……」

俺が言葉を返さないでいると、エーフィは特に気にした風もなく体を寝かせて休息に入った。
こいつは、少し心配性すぎる…なまじ相手の心を読めるから、苦労するんだ。

デンリュウ 「あら、もう動くの? もう少し休んでいればいいのに」

俺が立ち上がり、動こうかと思った瞬間、横からそう声をかけられる。
こいつも仲間で、♀のデンリュウ。
エーフィ同様、古くからの仲間で、気心は知れている。

バクフーン 「ふん…体を動かして無いとダレる」
バクフーン 「ただでさえ、ここの所運動不足なんだ…」

俺は以前の敗戦を思い出す…負けたのは本当に久しぶりだ。
悔しいと言えば本音だが、正直気持ちはスッキリしている。
相手があれなら負けたのも仕方ないだろう。

バクフーン 「ちっ、少し出てくる…この辺りはあんまし気が休まらん」

ハピナス 「海ですからね、仕方ないかと…」

ハピナスがそう言って笑う。
やれやれ…そう言う意味じゃないんだがな。
俺の仲間共は、どうにも大人しめの性格ばかりでしんどいんだよ…

エアームド 「…まぁ、気をつけてな」

トゲキッス 「頑張ってくださいね〜」

バクフーン 「………」

エアームド♂とトゲキッス♂がそう言って送り出してくれる。
こいつらはこいつらでわかってていってやがるのか?
俺は、はぁ…と、ため息を吐いて歩き始めた。
ん? そういや、何体か足りねぇな…ハナ(仲間のキレイハナ♀)たちはどこに行った?
俺はその場にいるのが俺を含めて6体ということに気づく。
後3体いるはずなんだが、この場にはいなかったのだ。

バクフーン 「おい! ハナたちはどこ行った!?」

エーフィ 「え? さぁ…そう言えば、見てなかったけど」

デンリュウ 「森の方ではありませんの? あの娘のことだから、そうだと思いますけど」

バクフーン 「森か…ソル(アブソル♂)とトド(トドゼルガ☆♂)もそっちか?」

ハピナス 「そうでしょうね、ふたりとも勝手に動くタイプではないと思うので」

エアームド 「…捜すか?」

バクフーン 「…いやいい、俺がついでに見てくる」
バクフーン 「あいつ等に限って危険はないと思うが、万が一もあるからな」

そう言って俺は少し小走りにその場を離れた。
森はこの先にすぐだ…本当にそこにいればいいが。
俺は内心、妙な不安を覚えていた。
どうにも最近、この広場は揉め事があるそうだからな!



………。
……。
…。



『同時刻 ポケモン広場・山岳』


アブソル 「ちっ! 貴様、何のつもりだ!?」

ブーバーン 「ぶっふっふ! あんたたちがここで木の実を取るから悪いのよん♪」

トドゼルガ 「何言ってるんだ! ここの木の実は誰のものでもないだろう!?」

俺たちは、現在揉め事に巻き込まれていた。
事の顛末はこうだ…
俺、アブソルと、トド(トドゼルガ)、ハナ(キレイハナ)さんの3体でここに木の実を取りに来ていた。
最初は森に取りに行こうとしてたんだが、どうにも他のポケモンが多く、わざわざこんな山岳の方まで散歩がてら来たわけだ。
だが、そこで木の実を取ったはいいが、この目の前のブーバーンに難癖つけられたってわけだ。
奴は事もあろうに、ここの木の実は全て自分の物だと主張しやがった。
しかも、有無を言わさず先制攻撃。
俺たちは何とかそれを回避するも、奴はその隙に木の実が生っている樹を占領しやがった。

ブチッ、ブチッ!

ブーバーン 「ぶっふふ! やっぱりここの木の実は甘くて美味し〜い♪」

奴は樹から木の実をいくつも剥ぎ取り、それを次々に口に運んでいく。
コノヤロウ…完全に勝ち誇ってやがる。

アブソル 「貴様〜! もはや、許さん!!」

キレイハナ 「ダメよソル君! 争いは何も生まないわ!」

アブソル 「!! し、しかしな…いくらハナさんの言うことでも!」

俺はハナさんに制止され攻撃こそ躊躇うものの、反抗する。
ここにだってルールと言うものがある。
争いがダメでも、それはルールを守っている奴らに言う言葉だ。
こいつはどう考えてもそれを無視している。そんな奴に甘いことを言う事など…

ブーバーン 「ぶふふっ! 何? もしかしてアタイにビビってんの?」
ブーバーン 「まぁ、そりゃそうよね! 何たってアタイ、最強だもん☆」

奴はどこぞのHな台詞を吐いて挑発してくる。
野郎…炎タイプの分際で、調子に乗りやがって! その台詞は氷タイプになってから言いやがれ!!

トドゼルガ 「ハナさん! 時と場合、という物もあります! ここは戦って勝ちとるべきかと!」

アブソル 「俺は綺麗ごとなんざ言うつもりはねぇ、奴は完全にこっちをコケにしてるんだ! それが黙ってられるか!!」

キレイハナ 「それでもダメよ! 私たちは普通のポケモンたちとは違うのよ!?」

その言葉を聞いて、俺たちは『うっ…』と踏み留まる。
畜生…それを言われちゃ仕方ないんだが。
俺たちは、仮にも『伝説』と呼ばれるトレーナーの所持ポケモン。
その意味は想像以上に深い。
俺たちが事を起こせば、当然その火の粉はトレーナーに振りかかる。
相手のトレーナーは知らないが、こっちのトレーナーには体裁と言うものがある。
俺たちのせいで、その人の道を汚すわけにはいかない…

アブソル 「ち、畜生…」

トドゼルガ 「……っ」

キレイハナ 「私は気にしないわ…他の所に行きましょう」
キレイハナ 「木の実は、別の所にもあるのだから」

ハナさんはそう言って笑いかける。
くっそ…あの野郎命拾いしたな。
俺たちは、何も言わずにその場から去ろうとする。
だが、奴はそれで終わらなかった。

ボオオオオオォォォォッ!!

キレイハナ 「きゃぁっ!」

アブソル 「貴様ぁ!! 何のつもりだ!?」

ブーバーン 「ぶっふっふ! 逃がすと思う? 人の物に手を着けたんだから、タダで帰すわけ無いじゃん!」

奴はこっちが手を出せないと確信したのか、右手から『かえんほうしゃ』を放ってくる。
事もあろうに、ハナさんの背中に向けてだ!
間一髪、当たりこそしなかったものの、ここで俺たちの堪忍袋は完・全!にキレた!!

アブソル 「ざけんなぁ!! もう許さねぇ!!」
トドゼルガ 「同じく! 許せません!!」

ブーバーン 「ぶっふふっ! とうとうやる気になった? まっ、何体来てもアタシの勝ちだけど!」

奴は木の実を頬張りながら思い体を動かす。
相当な巨体だ、スピードは無いはず! ここは一気に沈めてやるぜ!!
俺はスピードを駆使し、奴の右側面に回り込んだ。

ブーバーン 「ぶふ? 何をする気〜?」

アブソル 「こうするんだよ!!」

俺は角を振りかざし、『つじぎり』の態勢に入る。
奴は首だけを横に向けているから反応が遅れる!
まずはとにかく一発ぶち込む!!

ブーバーン 「ぶふっ!」

ボオオオオオォォォォッ!!

アブソル 「何ッ!?」

奴は首だけをこっちに向けたまま、『かえんほうしゃ』を口から放ってきた。
俺はそれに驚き、攻撃を失敗してしまう。

ズシャァッ!!

キレイハナ 「!? ソル君!!」

俺は空中から地面に落ち、炎の熱にのた打ち回った。
数秒、地面を転がったが、全身に痛みが走る。
畜生…油断したぜ。

ブーバーン 「ぶふふっ! マヌケねぇ〜!」

奴は右手を口元に翳して笑う。
かなり癪に障る笑い方だが、反論はできねぇ…
口から炎は来ないと思い込んだのがマズかった。

トドゼルガ 「くっそ〜! これなら…」

ブーバーン 「遅すぎよん♪」

ドギュゥンッ!! ドバァァァァァァァンッ!!

トドは『みずのはどう』で攻撃態勢に入るが、ブーバーンはそれを素早く察知して左手から『きあいだま』を放った。
予想以上の速度にトドは完全に後の先を取られ、技を放つ前に吹き飛ばされた。

キレイハナ 「トド君!!」

ブーバーン 「ぶふふふふふっ! アンタら弱すぎ!! 笑えるわぁ〜♪」
ブーバーン 「いや、ここはアタイが強すぎる? ぶふっ! そうよねそうよね〜♪」

奴はこれでもかと言うほどに笑う。
くっそ…確かに奴は強ぇ! これほどのポケモンとは思わなかった。
トレーナーの育て方はともかく、強さは本物だ! 俺たちのLvじゃちときついか…?
相性のいいトドがこの結果だ…格闘技まで使われちゃ、俺もタダじゃすまない。

キレイハナ 「もういいでしょ!? これ以上は止めて!!」

ハナさんは涙声で俺たちを庇うように前に出て懇願する。
だが調子に乗った奴はそれで許すわけも無く。

ゴオオオオオォォォォォォッ!!

キレイハナ 「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」

アブソル 「ハナさん!?」

奴は言葉も放たず、『かえんほうしゃ』でハナさんを焼く。
草タイプのハナさんがそれに耐えられるわけも無く、ハナさんは炎に包まれ叫びをあげた。

トドゼルガ 「かぁっ!!」

ドバァッ! バジュウウウウウウウゥゥゥゥゥゥッ!!

トドはすかさずハナさんに『みずのはどう』を放ち、消火した。
俺は怒りに身を震わせて、奴に突撃する。

アブソル 「うおおおおぉぉっ!!」

ブーバーン 「ぶふっ、懲りないねぇ〜」

ギュゥゥゥゥゥゥンッ!!

奴は右手から『きあいだま』を放ってくる。
だが、俺はそれを待っていた。
一発は貰ってもらうぜぇ!?

ヒュンッ!! ドガシィッ!!

ブーバーン 「ぶへぇっ!?」

俺は『ふいうち』で奴の頭上まで飛び、左前足で奴の顔面を殴打した。
そしてそのまま俺は奴の体を地面に叩き伏せる!

ズドォォォォンッ!!

凄まじい重量が倒れる音。
勢い良く背中から地面に倒されたブーバーンはさすがのダメージに、声も出せず悶絶していた。
ざまぁ見やがれ…と俺はほくそ笑むも、その代償は大きかった。

ジュゥゥゥゥ〜ッ!!

アブソル 「…っ、ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

俺は奴から離れて叫ぶ。
ブーバーンの特性『ほのおのからだ』により、俺は『やけど』してしまったのだ。
迂闊な近接攻撃は死を招く…俺はそれを身に染みて味わった。
物理攻撃主体の俺はもう何も出来ない…ロクな体力も残ってない上、もう時間の問題だ。

ブーバーン 「ぶふ〜! もう、痛かったじゃないのよぉ!!」

ドグゥッ!!

アブソル 「ぐはぁっ!?」

重い巨体を動かして、奴は俺の横腹を踏み抜く。
別に技でも何でもないが俺は悶絶し、気を失いそうになった。

ブーバーン 「よくも! よくもアタシの顔に!! 絶対許さないんだからね!!」

ドグッ! グシャッ!!

奴は何度も俺の体をスタンプする。
その度に俺は声にならない叫びをあげ、次第に意識を失っていった。
ダメだ…もう、ここまでか……

キレイハナ 「うぅ…ソル、君……」

トドゼルガ 「誰か……ソル君を…!」

ブーバーン 「アハハッ! 祈ったって誰も来ないわよ!! 来たってアタシに勝てるもんか!!」

アブソル 「………」

? 「そこまでだ!!」

ブーバーン 「!? だ、誰なのさ!?」

ザッザッザッ!!

? 「やれやれ…森まで探しに行ってみれば見つからねぇし」
? 「ぶっそうな炎が山から見えたからこっちに来てみれば、案の定…か」

俺はここまで全力疾走で駆けつけたが、遅かったことに気づき少々悔やむ。
だが、それは同時に俺の怒りのボルテージを上げ、沸々と体の熱を燃やしていった。

キレイハナ 「バ、バク、君…」

トドゼルガ 「バクさん…」

ふたりは俺を見て、安心したような声を出す。
俺はその惨状と傷を見て、更に熱を高めた。

バクフーン 「…すまなかったな、遅れて」

俺はそう言って森から摘んで来た『オボンのみ』をハナに与える。
ハナはそれを食べると、体力を回復させ、すっくと立ち上がった。
俺はその場からトドの方を向き、木の実を投げ渡す。
トドはそれを口でキャッチし、そのまま飲み込んだ。

キレイハナ 「バ、バク君…」

バクフーン 「…悪いが、何も聞かねぇ」

俺は体の熱量を更に上げ、未だにソルを足蹴にしているブタの元に歩いていく。
奴は俺の行動が可笑しいのか、笑い出す。

ブーバーン 「ぶふふっ! 何アンタ? アタイとやる気? アタイ、今気が立ってるんだけど?」

バクフーン 「そいつは奇遇だな、俺もだ…」

ゴォォォ…

俺は徐々に熱を上げ続け、気がつけば俺を中心に蜃気楼が出始めていた。
相手も炎タイプ、すでに俺たちの体熱で場はかなりの熱量になっている。
俺は怒りを維持しながらも、冷静に言葉を放つ。

バクフーン 「オイ、その汚ぇ足をどけろ…そいつは俺のツレだ」

ブーバーン 「ぶふふっ! そんなのアタイが聞くと思う?」

バクフーン 「ああ、思わねぇ…!」

俺はそう言うと、一瞬頭を後ろに傾け、大きく息を吸う。
その動作に奴は警戒し、踏ん張って耐える態勢を見せた。
俺はそんなのお構い無しで、まだ使ったことの無い新技を披露する。
トレーナーですらまだ覚えていると知らねぇ技だ。

バクフーン 「ガァッ!!」

ブーバーン 「ぶひっ!?」

ドッ!! ゴオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォンッ!!!

直後爆音。
俺の口から放たれた、全力全快の『ふんか』は目の前のブーバーンをガード越しで吹き飛ばした。
通常、この技は真上に向かって放ち、落ちて来るいくつもの炎球で敵全体を攻撃する大技だ。
だが、俺はそれを正面に向かって放つと言う方法で相手を吹き飛ばした。
普通なら落下速度も入れて威力を出すものだが、近距離ならあまり関係はねぇ。
元々高空に打ち出す推進力を持たせる威力だ、ベクトルを変えても威力はそれほど損なわない…はず。
まぁ、結果は目の前の相手の状態を見れば、明白…と。

ブーバーン 「ぶ…ぶふっ、や、やってくれるじゃないのよ〜」

さすがに効果は今ひとつ、一発では沈まなかったか。
だが、それで倒れていれば良かったものを…と俺は心の中で思う。

バクフーン 「…!!」

キレイハナ 「ま、まずいわ!」

ここに来て俺の熱量は更に増大…それに状況を読み取ったのか、ハナがすぐに駆けつけて倒れているソルを運び出した。
へっ、さすがにわかってやがるな…まぁ、いつものことだからな。

ブーバーン 「ぶふ〜! よくもやってくれたわね! この借りは大きいわよ!?」

バクフーン 「それはこっちの台詞だ! ブタ野郎!!」

ブーバーン 「ブ、ブタじゃない!?」

カッ! キュィィィッ!! ゴバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!

俺の怒りの挑発に一瞬反応してしまったブーバーンは、俺の『ブラストバーン』に反応できず大爆発する。
確実に仕留めたことを確信した俺は反動で重い体を動かし、奴に背を向けて歩き出した。

バクフーン 「…けっ」

キレイハナ 「…はぁ」

ハナはこれでもかと言う溜息を吐いた。
俺は反省等するはずもなく、鼻をふんっと鳴らして堂々とした。
まぁ、新技の威力は上場だな…フルパワーなら『ブラストバーン』とほぼ同等の威力が出せる。
隙が『ブラストバーン』より大きいのが少し問題か…まぁ、慣れていけばもうちょっと減らせそうだ。
『ブラストバーン』と違って広範囲に『ふんか』は広がるからな、回避はこちらの方がし難いだろう。

バクフーン 「うし、帰るぞテメェら」

俺は反動も消えたことを確認し、さっさと歩き始める。
もうこんな所に用はねぇ、さっさと消えるに限るぜ。

? 「やっぱり! 見つけたわよ!!」

突如、背後から声。
俺は、どこかで聞いたことのある声だと思い、後ろを振り向く…が、その瞬間、俺は本能的に身を捩っていた。

ドオオオオオォォォォォォォンッ!!

爆音と砂煙。
俺たちは何事かとその発生源を見る。
俺の斜め前方5メートル地点。
『何か』は俺のいた場所を通過し、勢い良く地面に突っ込んだのだ。
俺は奇跡的に回避したが、二度も出来る自信はない。
一体、何なんだ?

モクモクモク…

次第に煙が収まり、俺はギョ…っとする。
そこにいたのは、俺よりも大きなポケモン。
しかも、そんじょそこらにいるような奴じゃない。
目の前にいたのは紛れもなく……

ガブリアス 「会いたかったわよ! マイ・ダーリーーーーーン!!」

バクフーン 「ざぁけぇんなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

ドギュンッ! ドバァァァァァァァァァァァァンッ!!

奴は意味不明な言動を発し、再び俺のいる場所に向かって突撃してくる。
間違いなく『ドラゴンダイブ』だ。
食らったらタダじゃ済まない…って言うかぶっちゃけ死ぬ!
俺は再び奇跡的に回避に成功し、奴を見る。
砂煙に紛れ、姿は見えないが俺は直感的にヤバイと感じた。

バクフーン 「何なんだテメェはぁ!?」

ガブリアス 「ふふふ…意外と照れ屋なのね、でも嫌いじゃないわよ♪」

奴はゆっくりと立ち上がり、こちらに向き直る。
俺は戦闘態勢を取り、奴の行動に注意していた。
何のつもりかは知らねぇが、やるってんなら相手してやるぜ!
後、ちなみに俺は『まじめ』な性格なのであしからず。

アブソル 「まぁ、真面目でも照れ屋でも性格補正はないよな」

トドゼルガ 「メメタァ…」

キレイハナ 「そ、それどころじゃないわよ! どうするのバク君!?」

バクフーン 「どうもせん、ぶっ潰す」

俺は慌てる仲間共を尻目にそう言い放つ。
これはバトルだ。だったら俺が負ける要素は無い。
一対一なら、相手が誰だろうとやってやるぜ。

アブソル 「相手はドラゴン・地面タイプだぞ!? お前の攻撃は全部今ひとつじゃねぇか!」

トドゼルガ 「ここは相性のいい私が…!」

バクフーン 「じゃぁかぁしい、手ぇ出すな」
バクフーン 「俺に不可能はない!」

ガブリアス 「覚悟は決まったぁ? だったら遠慮無く行くわよ! 次は絶対抱きしめて!!」

やはり奴の言動は何かおかしい。
俺はそんな違和感を感じつつも、奴より早く攻撃態勢に入った。
こういう場合、先手必勝ってな!!

バクフーン 「食らえ!!」

俺は『ふんか』の態勢に入り、真上に火炎弾を連射する。
火炎弾と言っても、ひとつひとつの大きさはかなり大きい。
しかも高熱で炎タイプの技としては最高火力のひとつ。
いくつもの火炎弾が上空からガブリアスに降り注ぎ、奴はそんな中を駆け抜けてきた。

バクフーン (速ぇ!?)

ガブリアス 「アハハッ! アタシの愛情受け取ってねん♪」

奴は高速で近づいてくる。
あの弾幕をモノともしねぇか…さすがにやりやがる。
だが、こんな物は布石だ。
俺はこうなることも織り込み済みですでに次の攻撃の態勢に入る。
奴は直線的だ、スピードもパワーもあるが、馬鹿正直。
俺は最大火力の『ブラストバーン』を口に溜め、それを一気に放射した。

カッ! バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!

ガブリアス 「!!」

超高熱の熱線がガブリアスの体を焼く。
いかにドラゴンといえど、この熱量には根を上げる。
さすがの奴も突進を止め、焼かれる体の痛みに苦しい顔をした。
だが、これは俺も苦しい…何故なら、この後俺は反動で動けなくなるからだ。

ズバァァァァァァァァァンッ!!

爆発。
『ブラストバーン』の放射が終わり、最後に爆発を起こした。
だが、奴は健在でこちらを見て笑っている。
対して俺は完全無防備。
正直、恐ろしい。
あの威力の攻撃を俺はまともに食らわなければならないのだ。

バクフーン (畜生! せめて後ろに吹っ飛ぶとかしやがれ! 一歩も下がらねぇとは誤算じゃねぇか)

奴との距離は約5メートル。
ちょっと踏み込めばすぐに射程圏内だ。
俺は最大1分は動けない、その間は当然防御もできない。
最悪、相手の攻撃が外れることを祈るしか無いが、そんな甘い相手とも思えなかった。
奴はすで身を屈め、突進する態勢に入っている。
ヤ・バ・イ…俺は内心恐怖した。
前の戦いで奴は学習している。
こちらがこう言った戦術で力押しするしか無いのがわかっているからだ。
そうなれば奴は多少の犠牲は払ってでも一気に強力な大技で俺を倒すしか無い。
失敗すれば前回と同じ絵だ。

バクフーン (俺の最大火力に耐えてすぐに踏み込めるか…こりゃ地獄が見えそうだな)

ガブリアス 「ふふふ…ようやくこの時が来たわね!」
ガブリアス 「あなたのそう言う強引な所…惚れ直しちゃうわ♪」

やはり何かがおかしい…?
奴は事あるごとに妙な台詞を連発している。
俺は全くその意図が読めなかった。
何故奴はすぐに攻撃しない?
これは『バトル』だ…相手を全力で倒すのが筋だ。
だが、奴は若干の呼吸を起き、再び突っ込む態勢に入る。
今度こそ来る…俺は歯を食いしばった。

バクフーン (何がなんでも耐えてやる! そうしたら俺の勝ちだ!!)

ガブリアス 「アタシの愛を受け取ってーーーーー!!」

……ドギュンッ!

音が遅れて聞こえてきた。
それは音速を超えた瞬間…マッハの速度に到達した瞬間だった。
ガブリアス…マッハポケモン。
俺はそんな言葉が脳裏に浮かび、次の瞬間には血反吐を吐いていた。

ドボォッ!! ドジャジャジャジャジャジャジャッ!!

腹部に激痛。
俺は口から熱い何かを吐き出し、そのまま地面に押し付けられる。
奴は俺と体を密着させたまま俺を地面に擦り付けた。
地面との摩擦で俺の背中は更に燃えそうになる。
意識は消えそうだ…確実に致命傷。
俺は三途の川を見つめながら、何故か誰かに手を降っていた。
完全に落ちそうだな…だが。

バクフーン 「こんな所で逝けるかぁ!!」

ガブリアス 「あぁんっ! どうせならイッちゃってーーー!!」

俺は血反吐を吐きながらも、地面と擦れ合いながら奴を引き剥がす。
当然、振り払うように体を左右に激しくよじるのだが…離れない。

バクフーン 「くそったれがぁ!!」

俺は確実に発動している『もうか』を利用して一気に熱量を集める。
『ブラストバーン』のエネルギーをチャージし、それを密着状態で奴の顔面に解き放った。

キュィィィ…カッ! ドッバァァァァァァァァァンッ!!!

バクフーン 「!!」
ガブリアス 「あぁーんっ!!」

俺たちはふたりして吹き飛ぶ。
さすがに互いの体は離れ、爆音と共に弾け飛んだ。
俺は反動で動くに動けず、人形の様に地面に激突しそのまま這いつくばった。
だが意識は途切らせない。
こんな所で気を失ってられるか! 奴はまだ立ってくるかもしれないんだぞ!
だが、肝心の体は言うことを聞かない…本日3発目の『ブラストバーン』は想像以上に体に響いていた。

バクフーン 「…っ、がぁぁ!」

全身が悲鳴をあげる。
体の炎が消えかかってやがる…『もうか』の効果も減ってる…
俺はまだ立ち上がれずにその場で悶絶する。
奴は…奴はどうなった!?

ガブリアス 「……う、うふふ」

最悪な姿を見た。
奴はゆらりと立ち上がり、フラフラながらもこちらを睨んだ。
その表情はあまりにも嬉々とし、至上の幸福とも取れる顔だった。

ガブリアス 「さ、さすがね、マイ…ダーリン……」
ガブリアス 「危うく、先に逝っちゃう所だったわ…いや、女としてはイカせて欲しい…」

またしても意味不明の言動。
もう何度聞いただろう? 俺には理解が及ばない。
俺は奴の姿を確認できつつも、体が動かないことを悔やむ。
畜生……ここまでか。

ガブリアス 「こんなに熱い…あなたの迸る(ほとばしる)愛を全身に受けて…アタシ幸せだわ!!」

バクフーン (ダメだ…完全に体が動かん…次に攻撃を食らったら間違いなく死ぬ!)

奴はジリジリと距離を詰め、俺の側まで近づくと足を止める。
俺は何とかその頃には立ち上がれるようになっていた。
4足歩行ながらも、俺は立ち上がってみせる。
奴はそれを見て更に喜んだ。

ガブリアス 「あぁ…まだ続くのね、早くオーガズムに!!」
ガブリアス 「ダメぇ! もうイッちゃいそう!! イカせて! あなたの熱い、パトスで!!」



アブソル 「(なぁ、そろそろ聞いていいか? これヤベェんじゃね?)」

トドゼルガ 「(バクさんは全く意に関してませんね、愚鈍どころの騒ぎではないです)」

キレイハナ 「(もう〜! やだよ、見てられない!!)」(赤面)

俺たちは、それぞれ顔を合わせ、小声で話しあう。

アブソル 「(まず整理しよう…これはバトルなのか?)」

トドゼルガ 「(そりゃ、ある意味○ックスバ…)」

キレイハナ 「(それ以上言っちゃダメ!!)」

間一髪ハナさんが制する…やれやれ、こいつはヘビィだぜ。
くれぐれもX指定にはかかりたくねぇもんだ。
てか、作者も相当ご乱心だな…最近流行りの産地直送か?

アブソル 「(…まぁ、いい。で、ありゃ何だ?)」

トドゼルガ 「(ただの乳繰り合いかと)」

キレイハナ 「(ち、乳…!!)」(赤面)

純情なハナさんは全身を真っ赤にして顔を隠す。
う〜む、まぁ刺激的な台詞は連発されているが、正直俺はどうかと思う。

アブソル 「(とりあえず、集計だ。止めた方がいいか?)」

俺は当然反対。
身が持たんわ…むしろバクさんは尊敬に値する。
あんな『攻め』に耐えるのなんざ無理だ。

トドゼルガ 「(放っておきましょう)」

キレイハナ 「(と、止めたほうがいいよ!)」

賛成1、反対2、否決だな。
俺たちはこの状況に流されることにした。
激流に身を任せ同化するのだ……
そして、俺たちは心の中でバクさんに念仏を唱えた。
ご愁傷さま…



バクフーン (くっそ〜…一対一と言った手前、他の連中の力は借りれん!)
バクフーン (後1〜2発も撃てる余裕は何一つ無い)
バクフーン (万事休すか…? 何か策はないのか!?)

俺と奴の距離は殆ど無い、直ぐ目の前には何故か妖美な表情で身悶えるガブリアス。
俺は、これが最後のチャンスと思い、今一度の『ブラストバーン』を溜め始める。
威力は期待できないが、奴の体力も少ないはず…次当てれば確実に倒せる!

キュィィィ…

予想以上に溜めに時間がかかる。
俺の体力が尽きかけている証拠だ、もう『もうか』の恩恵も無い。
奴が俺の攻撃態勢を読み取る前に勝負をかける!

バクフーン (よしっ! これで終わりにしてやる!!)

俺は一気に2足で立ち上がり奴の胸にめがけて放射を開始する。
当たれば終わる、奴は反応でき……

ビュンッ!! ドボォッ!!

バクフーン 「んな…アホな……っ」

ドギャァァァァァァァァァァァァァァッ!!!

俺の最後の『ブラストバーン』は力なく天空へ消え去った。
奴はマッハの速度で俺に抱きつき難を逃れたのだ。
当然、そんな速度でぶつかられた俺は血反吐を吐き、再び地面にマウントされる。
もう摩擦を気にできる気力もなかった。

ズザザザザザザザァァァァァァッ!!

ガブリアス 「あぁ…っ♪ もう、ダメ……」

奴は何故か力尽き、俺に抱きついたまま気を失った。
俺は辛うじて意識は保つも、身動きひとつできない。
……駄目だこりゃ!



………結局、バトルは引き分けということでいいのだろうか?
その答えは、誰も教えてはくれなかった…



………。
……。
…。



『某時刻 ポケモン広場・森林』


ロズレイド 「……」

ドサイドン 「ん? どうした、ボロボロだな…またやられたか?」

ロズレイド 「黙れ! 次は負けん…!」

エレキブル 「ガハハッ! お前が同じ相手に負けるとはな! 修行が足りんぞ!?」

エレキはそう言って腕をぶんぶん振り回す。
バチバチと電気が走るが、俺は鼻を鳴らして無視した。

ダイノーズ 「…? ガブハミナカッタ?」

ロズレイド 「ん? ガブ、か…見てないが?」
ロズレイド 「…いないのか」
ロズレイド 「そう言えば、あいつも誰かに負けたとか聞いたが、誰なんだ?」

ドサイドン 「確か、バクフーンだったか…? 直接は見てないが」

エレキブル 「ガハハハハッ! あいつも修行が足りんわ! 油断しておるから遅れをとるのよ!!」

バクフーン…か、相性有利であいつが負けたというのか?
この世界には…まだまだ強い奴がいる、ということか。
俺は、何となくジュペッタの言葉が耳に残っていた。

ロズレイド (俺も…まだ強くなれる、か)

俺たちは、所詮井の中の蛙なのかもしれない。
世の中には俺たちより強い連中はゴマンといる。
確かに俺たちは強い…だが、それだけでは強さにはならない。
ジュペッタはその意味を知っている…だから知らない俺は負けた。
ガブもそうだろう…自分より強い相手など、知らない。
いや、認めたくないだけだ。
あいつも…あの性格だからな。

ドサイドン 「しかし、ここの所ガブの様子がおかしかったが、前の戦いが余程ショックだったのか?」

エレキブル 「いや、あれはむしろ喜んでいるように見えたが?」
エレキブル 「何か、妙な奇声を発したりしてたしのぉ〜」

ダイノーズ 「ワタシモキイタ! マッテテマイダーリン♪トカ!」

ロズレイド 「……妙なことになっているようだな?」

ドサイドン 「…あいつは昔から自分より強い奴にしか好きになれないとのたまってはいたが」

エレキブル 「…青春じゃのぉ」

ダイノーズ 「イヤアレハタダバカナダケ! モチロンホメコトバデ!!」

何故か知らんが、話題の方向までおかしなことになっていた。
いつの間にガブの青春について語ってるんだ…?
俺ははぁ…と溜息を吐き、改めて次のことを考えた。
負けっぱなしは俺のプライドが許さない…必ず、次は勝ってやる!!

ロズレイド (そのためには…強くなるしか無い、か…単純だが結局そこに行き着く)

俺は腐らずに特訓の場に向かった。
今よりも、強くなるために…



………。



アブソル 「…で、どうする?」

トドゼルガ 「放っておきましょう」

キレイハナ 「もう、どうでもいいよ…木の実も取ったし帰ろ」

俺たちは、結局その場から離れた。
気を失っているふたりは放置…あ、いやもう一体いたが無視。
本来の目的を俺たちは達成し、その場を後にした。



バクフーン (あ〜…早く明日になんないかなぁ〜…これはきっと夢だ、そうに違いないと気づかせてくれ)

ガブリアス 「うふふ…愛するオトコの胸板……熱いわぁ、二重の意味で♪」
ガブリアス 「まだまだ夜は始まったばかりよ? た〜っぷりと楽しみましょ、ダーリン☆」

俺はもう現実逃避するしか無かった。
というか、何故こうなった!?

ブーバーン (な、何か気絶している間にとんでもないことになってるじゃないのよ!)
ブーバーン (気づかれたらガブに殺されそうだから、このまま死んだふりしてましょ…)



………こうして、ポケモンたちの夜は…更けていった



…To be continued




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