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POCKET MONSTER RUBY 外伝U



2006年度・クリスマス特別企画! 『ハルカと、蒼海の王子』




『2月14日 時刻6:00 どこかの海岸』


ハルカ 「………」

ザザァ…ザザンッ!!

静かに流れる川。
海岸に打ち付けられる波が、ひとりの少女を飲み込む。
少女は完全に気を失っており、無抵抗のまま波に飲まれ、海岸を流れる。
そんな少女を見つけた、ひとりの女性が走り寄る。

女性 「!? この娘は…!」

165cm程の身長に、鍛えられた身体。
後頭部の上から縛っているポニーテールがゆらゆらと風に揺れ、少女の側で屈みこむ。
そして、状況を確認した後、同じような制服を来た男性を呼ぶ。

女性 「カヅキ、ちょっと来て!!」

カヅキと呼ばれた男性は、額に赤いヘアバンドをしており、女性と似たような制服に身を包んでいる。
身長は170cm位で、肉付きのいい身体が印象的である。

カヅキ 「どうしたんだ、ヒナタ!?」

ヒナタ 「遭難者かもしれない、すぐに本部へ連絡して!!」

ヒナタと呼ばれた女性は、カヅキにそう指示を出す。
ふたりは、別に上司部下の関係ではなく、同じ仕事をこなすパートナーなのだ。

カヅキ 「よし! …もしもし、リーダー! 遭難者です! ミッション中にひとりの少女を発見!」
カヅキ 「ミッション目的の『卵』はすでに確保済み! これより、遭難者と共に一旦ベースキャンプに帰還します!!」

カヅキは、腰に下げられていた機械を使って通信をする。
そして、通信に応じたカヅキたちの上司が応答する。

リーダー 『了解だ! すぐにそっちへカイリューを送る!! ベースキャンプで待っていてくれ!」

カヅキ 「了解!」

ブツッ

ハルカ 「……」

カヅキは通信を終えると、再び腰に機械を戻す。
そして、ヒナタが抱え上げている少女に目をやった。

ヒナタ 「…どうかしたの?」

カヅキ 「あ、いや…どこかで見たような気がして」

そう言って、少女の顔を眺めるカヅキ。
だが、思い出せないのか、唸るだけだった。

ヒナタ 「…例の『卵』はどう?」

カヅキ 「…特に何もないな、少し動いているような気はするけど」

ヒナタ 「…まさか、こんな地方まで流れ着いてしまうなんて」
ヒナタ 「ここって、ホウエン地方よね?」

ヒナタはそう言って、少女を背負って歩き出す。
特に重そうな表情もせず、軽々と少女を背負って歩いていた。
その横をカヅキが歩き、『卵』を観察する。
その卵は、普通の卵ではない…赤い核を中心に水のような膜に包まれている、神秘的な卵だった。

カヅキ 「確か、あっちの方にトクサネシティって言う街があるはずだよ」
カヅキ 「にしても、この卵…何の卵なんだろ?」

ヒナタ 「…その町から流れ着いたのね、この娘は」
ヒナタ 「追っ手は来ないわよね?」

カヅキ 「心配ないと思うよ? さすがにここまで来るとは思えない」
カヅキ 「それよりも、他の事を注意したほうがいいよ。こっちでは『ポケモントレーナー』がいるんだから」

その言葉を聞き、ヒナタは少し驚く。

ヒナタ 「そうか…下手に目を合わせない方がいいってことね」

カヅキ 「そう言うこと…僕たちはモンスターボールを持ってないからね」

そんな話をしながら、ヒナタたちは海岸から1kmほど離れたベースキャンプへと到着する。



………。
……。
…。



『同日 時刻7:00 ポケモンレンジャー・ベースキャンプ』


ヒナタ 「ただいま〜」

カヅキ 「今戻ったよ!」

ふたりがベースキャンプの扉を潜ると、ひとりの研究員が出迎えてくれる。
白衣に身を包み、七三分けの髪型にメガネとお決まりの装備をしていた。

研究員 「お疲れ様ですおふたりとも! スタイラーの充電は必要かい?」

ヒナタ 「そうね、お願いするわ」

カヅキ 「僕のも頼むよ」

そう言って、ふたりは腰に下げた機械を研究員に渡す。
そう、カヅキが通信に使っていたこの機械こそ、ポケモンレンジャーが使用する『キャプチャ・スタイラー』である。
このキャプチャ・スタイラーは充電することでパワーを回復する、逆に言えば電力がなければ何もできないのだ。
研究員はふたつのスタイラーを充電器に設置した。

研究員 「結構ダメージが大きいね…回復にはちょっとかかりそうだ」

ヒナタ 「そう…結構辛い戦いだったからね」

カヅキ 「でも、無事に卵を保護できたよ!」

研究員 「ほぉ! これが噂の卵か! シンバラ教授なら詳しいこともわかるだろうけど、僕じゃちょっとわからないな」

カヅキ 「でも、ポケモンの卵には間違いないんだよね?」

研究員 「もちろん! この卵はかなりすごいポケモンが産まれる卵なんだよ」
研究員 「でも、この卵はフィオレ地方の環境では産まれない…フィオレ地方で孵すことはできないんだ」
研究員 「だから、本来ならレンジャーベースに持ち帰って、他の地方に存在する、信頼できるポケモントレーナーに託すのが一番なんだけど」

ヒナタ 「トレーナー…か」

カヅキ 「あの娘、確かトレーナーだろ? お願いしてみたら…」

ヒナタ 「そんなに簡単じゃないわよ…信頼できるとは限らないし」

カヅキ 「う〜ん…そうだなぁ、まだ名前も知らないし、早合点か」

研究員 「もうそろそろ、治療も終わってると思いますし、見に行ってみたらどうです?」

研究員がそう言うと、ふたりは表情を和らげ。

ヒナタ 「そうね! 行ってみようか」

カヅキ 「うんっ! 行ってみよう!」

ふたりは息の合った動きでその場を後にした。



………。



『時刻7:10 ベースキャンプ・医務室』


プラスル 「プラ〜プラ〜♪」

マイナン 「マイマイッ!」

ハルカ 「あははっ、こらっ! 私の背中で暴れないでっ」

ガチャ!

ヒナタ 「あ、こらプラスル! 駄目でしょ、怪我人なんだから!」

カヅキ 「マイナンも降りるんだ! 迷惑だろ!!」

ハルカ 「あ、別にいいんですよ! 大したことないですし…」
ハルカ 「このプラスルとマイナン、あなたたちのポケモンですか?」

プラスル 「プラ〜」

マイナン 「マ〜イ」

ヒナタ 「う〜ん、多分あなたの思っている意味とは違うわね、この子たちは私たちのパートナーだから」

カヅキ 「そうそう! モンスターボールにも入ってないしね」

そう言って、ふたりはプラスルとマイナンをそれぞれ肩に乗せる。
2匹とも凄く懐いている様で、幸せそうな顔をしていた。

ハルカ 「…ちなみに、ここってどこですか?」

ヒナタ 「ここ? 一応ホウエン地方になるわね…名前のない無人島って所かしら」

カヅキ 「そこに、僕たちはミッションの途中でベースキャンプを張っているんだ」

ふたりは笑顔でそう言う。
なるほど、これで納得がいった…このふたりは。

ハルカ 「ポケモンレンジャーなんですね、おふたりとも」

ヒナタ 「あら、知っているの?」

カヅキ 「そりゃ、全国各地に派遣したりしているんだから…」

ハルカ 「以前、会ったことがあるんです…その時、一度お世話になってますから」

私がそう言うと、女性は少し驚いたような表情で。

ヒナタ 「そうだったの…それで、ね」

カヅキ 「でも、何でこんな所に流れ着いたんだい?」
カヅキ 「この辺りは地方の境界線だから、あまり人が普通に踏み入れるとは思えないんだけど」

ハルカ 「…ちょっと」

今思っても、馬鹿馬鹿しい内容である。
とても人に言える原因ではない。
何を隠そう、それは丁度昨日に遡る。





………………………。





『2月13日 時刻10:00 トクサネシティ・宇宙センター』


ハルカ 「へぇ、本当にロケットを打ち上げるんだ〜」

フィーナ 「これ一発にどれだけの金が詰まっているのか…」

私はフィーナと一緒に宇宙センターへ来ていた。
ちなみに、今頃はトクサネジムでサヤちゃんが戦っているところだろう。
サヤちゃんのグランドフェスティバルに向けて、調整も兼ねたジム戦だ。
ランとフウには悪いけど、今のサヤちゃんは今の私と同等位に強い。
あれからどれだけ成長しているかにもよるけど、恐らくはサヤちゃんの勝ちだろう。
他の皆も、今日はそれぞれ別の場所にいる。

キヨミさんとキヨハさんはジム戦の観戦。
ヒビキさんはどこかで特訓。
メフィーちゃんは釣りにでも没頭するらしい。
で、私たちはここに来た…と。

ハルカ 「…これに乗ったら、どこでも一瞬で着くだろうなぁ」

フィーナ 「確かに、でも着陸は?」

ハルカ 「案外、気合で何とかなったりして…」

研究員 「やぁ君たち! 見学かい!?」

私たちがロケットの準備を見ていると、研究員のひとりが気さくに話しかけてきた。
白衣に眼鏡…ありきたりな装備ね。

研究員 「良かったら、乗ってみるかい? ロケットに」

ハルカ 「え、いいんですか?」

研究員 「もちろん! 今回は人を乗せて飛ばせる予定だったからね」
研究員 「とはいえ、着陸までは考えてないから、空中でダイビングしてもらうことになるけど」
研究員 「意外と、志願者も多いんだよね…スカイダイビングの」

なるほど、ロケットで飛ばして、その途中で飛ぶわけね。
う〜ん、面白そうかも…やってみようかしら?

ハルカ 「ちなみに、危険はないんですか?」

研究員 「ちゃんと、プロのダイバーが付き添ってくれてるから大丈夫だよ」
研究員 「人を乗せて飛ばすロケットは、低出力で海に落ちるよう計算されてるから」
研究員 「まぁ、それでも上空1000m近くまでは上がるからね」
研究員 「度胸のない人は止めた方がいいかな」

フィーナ 「う〜ん…私はパス」

ハルカ 「じゃあ、私やりま〜す」

私は右手を上げて挑戦することにした。
フィーナちゃんは目を丸くしていた。

フィーナ 「うえっ!? 本気ですかハルカさん!?」

ハルカ 「もちろんっ、面白そうじゃない。ロケットでスカイダイビングなんて」

私は軽く言う。
そう…この発言こそが、悲劇の始まりだったのだ。



………。
……。
…。



『同日 時刻11:00 宇宙センター・ロケット内』


アナウンス 『では、これよりロケット打ち上げに入ります』
アナウンス 『10! 9! 8! 7! 6! 5! 4! 3! 2! 1! 0!』
アナウンス 『打ち上げ開始!!』

ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

ハルカ 「おおっ! 飛ぶ飛ぶ!!」

ロケットは斜め45度位の角度で打ち出されているようで、どんどん上昇していく。
数秒後にはすでに1000m近くの高度まで上昇し、機体は徐々に水平に傾いていく。

アナウンス 『高度1000mに到達、それでは皆さん、お気をつけて』
アナウンス 『なお、このロケットは5分後に下降を始めます』
アナウンス 『それでは、皆さん…お気をつけて』

ウィィィンッ

アナウンスが終わり、座席真横の扉が開く。
私たちは、順番にそこから飛び降りることとなる。
ちなみに、私の順番は最後。
人数は8人程度なので、そう時間はかからないだろう。
わずか3分程度で、私の番まで回ってきた。

ハルカ 「さぁて、行きますか!」

ダイバー 「ちょ、ちょっと君! ひとりじゃ危険だよ!!」

そう言われるが、私は無視する。
別にこれ位はひとりでも問題ない。
過去に2000mからのダイブを成功させたことあるんだから。
ちゃんと講習も受けたんだから、全部手順はわかる。

ハルカ 「ハルカ、行きまーす!!」

バッ!

ハルカ 「ひょおおおおおっ!! 気んもちいーーー!!」

ビュゴゴゴゴゴゴゴォォォッ!!

私は落下の風を存分に感じる。
下の海が近づく。
私は、パラシュートを開こうとする。

ハルカ 「あ、あれ? お、おかしいわね…」

ゴゴゴゴッ!!

何と、パラシュートが開かない。
当然ながら、落下速度は増すばかり…かなりやばい。

ハルカ 「もしかして、このままの速度でダイビング?」

それは洒落にならない。
いくら、衝撃吸収能力の高いスーツを着ているからといって、上空1000mから海に叩きつけられたら、本気で死ぬ!
私はパラシュートを開こうとするが、全く反応しない。
完全に壊れているようだ。

ハルカ 「もう、開いている時間はない! こうなったら…」

私は落下しながらボールを探る。
しかし、取れない…ボールはスーツの下に潜り込んでいる。
ぐはっ、絶体絶命!?

ハルカ 「た〜すけて〜〜〜〜〜!!!」

ドズァッパァァァァァァァァァァンッ!!!!





………………………。





ハルカ (…で、ほとんど丸一日海に揉まれて、今に至ると)

ヒナタ 「ハルカちゃん?」

カヅキ 「何か、顔が蒼いけど…」

ハルカ 「いえ! 何でもありませんから、お構いなく!!」

心配してくれるふたりに私は強く主張する。
あれは私にとって汚点だ…もう忘れよう。



………。



『時刻7:30 ホウエン地方の名も無き島・南海岸』


ハルカ 「ふい〜〜! シャバの空気はおいしいわぁ」

私は意味不明の言葉を放ちつつ、海岸で潮風に当たる。
時期が時期だけにかなり冷たい風なのだけど、今は気持ちよかった。

ヒナタ 「……」

ハルカ 「…ヒナタさん、そんな心配しなくても私は大丈夫ですよ」
ハルカ 「そんなに、ぴったりと監視しなくても…」

ヒナタ 「気を悪くしたなら、ごめんなさい。これも仕事だから」
ヒナタ 「一応、あなたは遭難者って扱いだから、独りにさせておくわけにはいかないのよ」

ヒナタさんはそれだけ言って後は何も言わなかった。
う〜ん、調子狂うなぁ…。

プラスル 「プラプラ♪」

ハルカ 「ん、何?」

プラスル 「プラ〜♪」

プラスルは私に近づいて楽しそうに跳ね回る。
遊びたいらしい…。

ヒナタ 「プラスルッ! 駄目よ…ハルカさんに無理させちゃ」

ハルカ 「別に大丈夫ですってば…これ位何とも無いですし」

ヒナタさんはどうにも厳しいようだ。
まぁ、レンジャーと言う職業は、そう言うものなのでしょうね。

ハルカ 「はぁ…暇ねぇ」

プラスル 「プラ〜」

ヒナタ (まだ、出会ってほんの少しなのに…もうプラスルがあんなに懐いている)
ヒナタ (カヅキの眼力も捨てたものじゃないのかも)
ヒナタ (ハルカちゃんになら、託せるのかもしれない)

ハルカ 「…ん? 何ですその蒼いの」

私は、ヒナタさんが両手で抱えている物体を見る。
蒼い海のような卵にも見える。
中心部分は赤い核のようなものがあり、何だか鼓動しているようにも見えた。

ハルカ 「……これ、生きてる?」

ヒナタ 「…そうよ、これはあるポケモンの卵なの」

ハルカ 「ポ、ポケモンの卵!? これが…」

私はマジマジと見つめる。
その卵は、静かに鼓動している…ように感じる。

ハルカ 「で、産まれるんですか? これ」

ヒナタ 「わからないわ…少なくともフィオレ地方では産まれないの」
ヒナタ 「フィオレ地方の気候や環境では、ポケモンの卵を孵すことができないのよ」

ハルカ 「そうなんですか? じゃあフィオレ地方のポケモンたちはどうやって繁殖するんだろ?」

ヒナタ 「基本的には繁殖はないわ…フィオレ地方で見つかった卵は、全て他の地方に存在するポケモントレーナーに預けられるの」
ヒナタ 「もちろん、レンジャーユニオンからの斡旋で選ばれた信頼あるトレーナーにね」

ハルカ 「じゃ、この卵も?」

私が訪ねると、ヒナタさんは頷く。
そして、その卵を私に差し出す。

ハルカ 「え、ええ? ちょっと、これって…」

ヒナタ 「あなたを信頼できるトレーナーと『私』が判断した上で、あなたにこの卵を預けます!」
ヒナタ 「どうか、大事にしてあげて…」

ハルカ 「そ、そんなっ! 急に言われても私!!」

カァァァァァ…!

ハルカ 「!?」

ヒナタ 「ま、まさか!?」

私が卵を受け取った瞬間、卵は輝きだす。
卵は白い光を放ち、形を次第に変えていく。
そして、私の手の中で、小さなポケモンが産声をあげる。

? 「…マナ〜〜〜!!」

ハルカ 「わ、わわっ!! いきなり泣かないで!!」

ヒナタ 「これが…『マナフィ』!!」

ハルカ 「マナフィ?」

マナフィ 「マナ〜…マナ…」

私の腕の中で、人間の赤ん坊のように泣くマナフィ。
その姿は、青い体に、二本の長い触角が頭から生えていた。
目の上に黄色の斑点?がふたつ。
体の胸の部分に赤いコア?がひとつで、その下に黄色い斑点がある。
体長は30cm〜40cmと言った所。
私が、ゆらゆらとゆりかごのように揺すってあげると、気持ちよさそうな顔をした。

マナフィ 「マナ〜♪」

ヒナタ (…ゴーゴー団が、何故このポケモンを狙ったのか、結局理由はわからなかった)
ヒナタ (詳しいことはわからないけど、このポケモンには、確実に秘密がある)
ヒナタ (それが、一体何を意味するのか…これから、どうなるのか? 確かめる必要はあるのかもしれない)

ハルカ 「…お〜よしよし」

マナフィ 「マナッマナッ♪」

ハルカ 「何か、完全にすりこみが入っている気がするんですけど?」

ヒナタ 「しょうがないわ…きっとそう言うポケモンなのよ」
ヒナタ 「もう、あなた以外の人には懐かないでしょうね…」

ハルカ 「…でも、このポケモンって、珍しいポケモンなんじゃ?」

私はマナフィを見て、そう思う。
今まで見たことの無いタイプだ。
その姿もそうだけど、何故か凄く神秘的な感覚に包まれる。
グラードンの時とは、また違った感覚だった。
って言うか、そうだ! 初めから聞けばよかったんじゃない!!
私はそう思うと、『べにいろのたま』を取り出す。
そして、私はグラードンを呼び出す。

ドギュウウゥゥンッ!!

グラードン 「グオオオオオォォッ!!」

ヒナタ 「!? グ、グラードン!?」

いきなりの登場にヒナタさんは後ずさる。
さすがに、インパクトは凄いわね。

マナフィ 「マナ〜〜〜!!」

ハルカ 「あわわっ! 泣かないでマナフィ!! 怖くないから、多分!!」

グラードン 「……」

とはいえ、無理な話かもしれない…何せグラードンは顔が怖すぎる。
産まれたばかりのマナフィには刺激が強すぎたわね。

グラードン (ほう、マナフィか…久しいな)

ハルカ 「あ、やっぱり知ってるんだ」

ヒナタ 「? ハルカちゃん…ひとりで何を」

グラードン (蒼海(うみ)の王子と呼ばれている、水タイプのポケモンだ)
グラードン (遥か昔から存在し、その歴史は我やカイオーガ以上だろう)

ハルカ 「そ、そんなに凄いの!?」

グラードン (うむ、もしやお前が選ばれたのか?)

ハルカ 「え? 選ばれたって…」

私がそう聞くと、グラードンはしばし沈黙する。
そして、何か懐かしむように。

グラードン (古い話だ…)
グラードン (マナフィは、何百年かに一度、世界の蒼海を清めるために誕生する)

ハルカ 「世界の…蒼海を」

マナフィ 「マナ…」

それは壮大な話だ。
この小さなポケモンが、それだけのことを…って、そういえば。

ハルカ (セレビィも、凄い力を持っていたっけ)

思えば、どことなく通じる所がある気がする。
そう考えると、無茶な話とも思えなかった。

グラードン (…役目を終えれば、マナフィは再び卵へと還元される)
グラードン (そして、蒼海を清めるその日まで、深海の底で眠り続けるのだ)
グラードン (マナフィとは、そう言う宿命を負ったポケモンなのだ)

ハルカ 「それじゃあ…マナフィは、またすぐに?」

マナフィ 「マナ?」

今私の腕の中にいるマナフィは、役目を終えるとまた卵に還るという。
何だかピンとこない…今産まれたばかりのマナフィが、ただそれだけのために目覚め還っていくなんて。

グラードン (マナフィに代表される、幻のポケモンとは、そう言うものだ)
グラードン (セレビィは深緑(みどり)を茂らせるために、ジラーチは大地を豊かにするために)
グラードン (そして、マナフィは蒼海を清めるのだ)
グラードン (そうやって、この世界は成り立っているのだ)

ハルカ 「……」

マナフィ 「マナ〜?」

マナフィが心配そうに私を見る。
頭の触覚を私の顔に擦り付けて、撫でる様に動かしていた。

ハルカ 「…大丈夫よ、あなたは私が立派に育ててあげるから!」

ヒナタ 「…ハルカちゃん」

マナフィ 「マナッ」

グラードン (マナフィに与えられた時間は少ない…せいぜい5日と言った所だろう)
グラードン (その前に、海底神殿まで行かなければいかん…場合によっては、カイオーガとも遭遇するやもしれん)

ハルカ 「…たった、5日」

マナフィ 「マナ?」

ヒナタ 「一体、何のことなの?」

ハルカ 「…説明します、ですからお願いがあるんです」

ヒナタ 「?」

そして、私はヒナタさんに全てを話す。



………。
……。
…。



『時刻 9:00 どこかの海』


ヒナタ 「…一体、どこにその神殿があるのかしら?」

ハルカ 「グラードンが言うには、マナフィが自然と向かうって…」

カヅキ 「ともかく、マナフィをその神殿に送るのが、今回のミッションだね!」

私はヒナタさんに全てを話し、協力を仰いだ。
ヒナタさんは快く承知してくれ、マナフィを無事に海底神殿へ送ることとなった。
今は、レンジャーユニオンが提供してくれた船で、その場所を探している。

ハルカ 「…マナフィ、ほら行くのよ」

マナフィ 「マナッ! マナナッ!!」

マナフィは私にしがみついて離れようとしなかった。
かなり、強い力でしがみついている。
これはまいった…いきなり甘えてるじゃない!

ハルカ 「仕方ないわね!」

ヒナタ 「ハ、ハルカちゃん!?」

ザッパアアァァァンッ!!

私はマナフィに捕まれたまま、海へと飛び込む。
さすがにこれなら、マナフィも離れるでしょう。

マナフィ 「マナマナッ!」

ハルカ (作戦成功!)

マナフィは海をゆら〜りと泳ぐ。
さすがは水タイプ、水なら快適に動くわね。

ハルカ (さて、これでマナフィが探してくれるといいんだけど…)

バシャッ!

私は一旦海上に上がる。
すると、ヒナタさんが浮き輪を投げてくれる。

ヒナタ 「もう、無茶しないで! 何の装備も無しに飛び込んじゃ駄目よ!」

カヅキ 「無茶って…ヒナタも、レンジャーになりたての頃は似たようなものだったじゃない」

ヒナタ 「うぐ…そう言うこと言わないで!」

ハルカ 「あははっ、ヒナタさんにもそう言う時期があったんですね」

私はヒナタさんに船の上へと上げてもらう。
いきなり服がびしょ濡れになってしまった。
バッグは置いておいて良かった…。

ハルカ 「うう…寒いし」

ヒナタ 「当たり前よ! 今何月だと思ってるの!?」

ヒナタさんはやや強めにそう言う。
やれやれ…以後気をつけますか。

ヒナタ 「しょうがないわね…ハルカちゃん、これを着て」

ハルカ 「うん? これって…もしかして」

ヒナタさんが着替えを渡してくれるけど、このデザイン…まさか。

ハルカ 「…うわ」

ヒナタ 「ごめんなさい、それしかないのよ…」

カヅキ 「やれやれ…僕はここで見張っているから、ふたりとも船室に入りなよ」

そう言ってカヅキさんは船首の方に向かった。
私はしょうがないので、船室に行って着替えることにした。



………。



ハルカ 「…ちょっと、大きいし」

ヒナタ 「そりゃそうでしょ、私のだもの」

軽く言うヒナタさん。
うぐ…胸がスースーする、負けてるし。

ハルカ 「……わお」

ヒナタ 「あら、似合ってるじゃない」

私が着替えた服は、何とヒナタさんの制服だった。
要するに、ポケモンレンジャーの制服。
冬でもこの薄着なのは、さすがと言えようか…しかしながら、サイズが大きいのでちょっとダボダボする。
まぁ、何とかなるか…でも。

ハルカ 「…この制服にバンダナはちょっと違和感あるわね」

私はそう思い、バンダナを外して髪を下ろす。
そして、私は髪を後頭部の上らへんに固めてバンダナで縛る。
言わずと知れた、ポニーテールの完成である。

ヒナタ 「あれ、もしかしてさりげに意識されてる?」

ハルカ 「そう言うわけじゃないです…」

確かに鏡で見ると、ヒナタさんの髪型にほとんど酷似してしまった。
とはいえ、ヒナタさんの方が髪が長いけど。
まぁ、これで何とかバランスは取れた気がする。
私は再び外に出る。



………。



ハルカ 「さってと、マナフィは大丈夫かし…」

マナフィ 「マナーー!!」

ベチィ!

ハルカ 「わぷ!」

私が外に出ると同時に、マナフィが私の顔に張り付く。
さすがの私もこの不意打ちには少しよろめく。
私はマナフィの後ろ首を掴んで引き剥がす。

ハルカ 「こら、いきなり張り付かないの」

マナフィ 「マナ〜♪」

全く聞いていないようだし…はぁ、こんなんでたどり着けるのかしら?

ヒナタ 「カヅキ、何か見える?」

カヅキ 「…いや、特に何も無いな」
カヅキ 「…ん? あれは!?」

ヒナタ 「何っ!?」

カヅキさんが双眼鏡で周りを見渡していると、前方に何かを発見する。
ヒナタさんはすぐに駆け寄り、状況を確認する。

カヅキ 「何か来る! あれは…輸送船!?」

ヒナタ 「…本部からの救援じゃなさそうだけど」

ハルカ 「…?」

マナフィ 「マナ?」

次第に近づいてくる輸送船。
やがて船は私たちの船の真上を通り過ぎる。
そして…。

カヅキ 「!? 誰か落ちてくる!」

ヒナタ 「ハルカちゃん!」

ハルカ 「きゃっ!」

マナフィ 「マナッ!」

ズダァンッ!! ズダダンッ!!

何者かが3人船に乗り込んでくる。
とんでもないわね…あれでも上空5メートルはあったでしょうに。

ヒナタ 「あなたたち…何者なの!?」

謎の人間A 「…答える必要はない」

謎の人間B 「目標確認、これより任務を開始する」

謎の人間C 「抵抗するのならば、容赦はしない」

謎の人間は全員、妙な服装にマスクをしていた。
服は、単純に言うと軍人が着ていそうな、そんな服。
マスクは、一見するとガスマスクにも見える、分厚いマスクだった。

カヅキ 「お前たち! ゴーゴー団か!?」

謎の人間A 「答える必要はないと言ったはずだ」

ヒナタ 「誰でもいいわ! 目的はどうせマナフィでしょ!?」

ハルカ 「マナフィ…?」

マナフィ 「マ、マナ…」

マナフィは怯えて私の背中に隠れる。
さっそく、マナフィの力に目をつけた馬鹿が寄って来たって言うわけね。

謎の人間B 「抵抗の意志有りと判断する、これより強行策に移る」

謎の人間C 「任務了解」

ボボボンッ!!

グラエナ 「グラッ!」
コノハナ 「コノッ!」
シザリガー 「シザッ!!」

ハルカ 「!? ポケモントレーナー!!」

相手はポケモンを各1体ずつ繰り出す、すでに戦闘体勢に入っている。
ヒナタさんたちはポケモンレンジャー、ポケモンバトルなんて出来っこ…。

ヒナタ 「プラスル、『10まんボルト』よ!!」

カヅキ 「マイナン『てだすけ』だ!!」

プラスル 「プラッ!」

マイナン 「マイマイ♪」

って、すでに始めてるし!
これは意外…バトルもできたのね。

バチバチバチィ!!

グラエナ 「グラーーー!!」

ドサッ!

謎の人間A 「!? 戻れグラエナ…」

シュボンッ!

謎の人間B 「コノハナ『はっぱカッター』!!」

ハルカ (!? 『はっぱカッター』を使えるの?)

コノハナ 「コノ!」

ヒュヒュヒュンッ!!

カヅキ 「マイナンかわして『スパーク』!」

マイナン 「マイッ!」

カカカッ!!

マイナンは空中に跳び上がり、『はっぱカッター』を回避する。
目標を失った葉っぱは、甲板に突き刺さった。
そして、マイナンは空中からコノハナに向かって突っ込む。

マイナン 「マイー!!」

バチバチバチィ!!

コノハナ 「コ、コノーー!!」!!

ドサッ!

ハルカ (草タイプなのに一撃!? そこまで強いの?)

謎の人間B 「!! 戻れコノハナ」

シュボンッ!

これであっさり2体撃破。
わぉ、出番無いかも。

謎の人間C 「シザリガー『クラブハンマー』!!」

シザリガー 「シザーー!!」

ドガァッ!!

プラスル 「プラーー!!」

ヒナタ 「プラスル! 大丈夫!?」

プラスル 「プ、プラ…」

プラスルは一撃であっさり動けなくなる。
パワーが違いすぎるわ! このままじゃまずい!

ハルカ 「ようし、ここは私が…ってボールが無い!?」

おかしい、何故無いのか…。
私は記憶を頼りに思い返してみる。

…ポクポクポク・チ〜ン♪

ハルカ 「カレーライス」

マナフィ 「マナ?」

カヅキ 「って、こんな時にボケてる場合かーー!!」

ヒナタ 「来るわよ、カヅキ!!」

シザリガー 「シザーー!!」

ドゴォッ!!

マイナン 「マイーーー!!」

カヅキ 「しまった!? マイナン!」

おもくそ直撃を食らうマイナン。
う〜む、油断すればこうなるのね…さて、絶体絶命。

ハルカ 「何て考えてる場合じゃないか! こうなったら、私自ら!!」

私はマナフィにしがみつかれたまま、シザリガーの前に出る。
これは正式なポケモンバトルじゃない…だったら、直接戦うまで!!

謎の人間C 「シザリガー『バブルこうせん』!」

シザリガー 「シザー!!」

ババババッ!!

ハルカ 「!!」

ヒュヒュヒュッ!!

私は向かってくる泡を全てスウェーで回避する。
そして、そのまま前進し、シザリガーを射程に捕らえる。

ハルカ 「とりあえず1発!!」

ドゴォッ!!

シザリガー 「シザーー!?」

私はシザリガーの左横腹に左ボディーブローを浴びせる。
シザリガーは効いたのか、後ろに後退する。

謎の人間C 「!? シザリガー『クラブハンマー』!!」

シザリガー 「シ、シザッ!!」

ビュッ!

ハルカ 「もらい! よいさぁ!!」

ガシッ! ビュウウンッ!!

シザリガー 「シザ〜〜〜…」

バッシャアアアアアンッ!!

私は、はさみを振るってきたシザリガーの腕を流し、そのままの勢いで海に投げ飛ばした。
これで、おしまいっと。

ハルカ 「まだやる?」

マナフィ 「マナ〜♪」

謎の人間A 「…予想以上の抵抗有り、ここは一旦退却する」

謎の人間B 「了解、撤退する」

謎の人間C 「任務、失敗…」

バッシャアアアアンッ!!

ハルカ 「!?」

謎の3人組は海に飛び込んだ。
そのまま上がってくる気配は無い…逃げられたってことね。

ハルカ 「…一体、何なのよあいつら?」

マナフィ 「マナ…」

ヒナタ 「…まさか、バトルになるなんて」

カヅキ 「トレーナーがマナフィを狙っているのか?」
カヅキ 「だとしたら、僕たちだけじゃ…」

ふたりは、傷ついたプラスルとマイナンを治療する。
やっぱり、バトルに慣れていないと、苦戦は必死ね。
モンスターボールに戻すこともできない以上、ふたりをバトルに駆り立てるのは危険だ。
やっぱり、私が頑張らないと。

ハルカ 「まさか、ボール忘れるなんてなぁ…はぁ」



………。
……。
…。



そして、初日は結局何の進展も無いまま、終わりを迎えた。



『2月15日 時刻8:00 とある海上 (マナフィの残り時間・後4日)』


マナフィ 「マナ〜♪」

バッシャァンッ!

ハルカ 「…はぁ」

ヒナタ 「結局、進展なしね」

カヅキ 「マナフィは、時間が無いことわかってるのかなぁ?」

マナフィ 「マナ〜♪」

バシャバシャ!

マナフィは海を自由に泳いでいた。
昨日に比べれば、私から離れていると言える。
マナフィはマナフィで、少しづつ成長しているのかもしれない。

ハルカ 「…でも、昨日の3人組、何者だったんでしょうか?」

ヒナタ 「…わからないわ、ただ言える事は、確実にマナフィを狙っていると言うこと」
ヒナタ 「マナフィの持つ力に目をつけたのかしら…」

カヅキ 「でも、マナフィは海を清める存在なんだろ? その力を悪用するにしても何に使うんだろう?」

ハルカ 「海を清めるって言うことは、逆に見れば海を汚すことにもなるわ」

ヒナタ 「……」

カヅキ 「…どういうこと?」

ふたりは不思議そうな顔で私を見る。
私は静かに自分の考えを話す。

ハルカ 「マナフィが海を清めているから、海はこうやって透き通っている。
ハルカ 「でも、逆にマナフィがいなければ…」

カヅキ 「…そうか! マナフィを捕らえてしまえば、海は清められない」
カヅキ 「でも…海を汚すことに意味があるのかな?」

ヒナタ 「…それらは2次的要素に過ぎないのかもしれないわ」
ヒナタ 「むしろ、マナフィを使うことで、何かが手に入る…と考えるべきでしょうね」

ヒナタさんは、そう推測を立てる。
もっともらしい考えだ。
確かに悪党にはありがちな考え…財宝とか、その辺でしょうね。
海底神殿にはそう言ったお宝がたくさんあるのかもしれない…マナフィがいなければ誰もたどり着けないなら、奪ってしまえば独り占め…か。

ハルカ 「…ロクでもない連中なんでしょうね、きっと」

マナフィ 「マナ〜♪」

ホエルオー 「ホエ〜」

プラスル 「プラ〜♪」

マイナン 「マイ〜♪」

海では、私のホエルオーの背中に乗って、マナフィやプラスル、マイナンが遊んでいた。
楽しそうね〜…狙われてることなんて、考えてもいないんだろうなぁ。
結局、この日も平穏に終わってしまった。



………。
……。
…。



『2月16日 時刻6:00 とある海上 (マナフィの残り時間・後3日)』


マナフィ 「…マナ?」

ハルカ 「…う〜ん、眠いかも。まだこんな時間だったのね」

私は、何故だか目が覚め、一度甲板に出てみた。
すると、マナフィが私に近づいてくる。
何やら心配そうにしているけど、私の方が心配だっての。

マナフィ 「マナ…」

ハルカ 「…? どうかしたの?」

何やら、マナフィの様子がおかしかった。
昨日のようにはしゃぐわけでもなければ、初日のように甘えるわけでもない。
ただ、海平線の彼方をじっと見つめていた。
そこからは、朝日が徐々に姿を現し始めている。

マナフィ 「…マナッ!」

バシャンッ!

ハルカ 「!? マナフィ!」

マナフィは突然潜ってしまう。
それは、何かを決意したかのような、そんな表情に見えた。
私は、海上にホエルオーを出し、マナフィを追う。

ボンッ!

ホエルオー 「ホエ〜」

ハルカ 「よっと! ホエルオー、マナフィを追って!!」

ホエルオー 「ホエ〜」

ババババッ!!

ヒナタさんたちはまだ寝ているのか、船が動く気配はなかった。
マナフィのスピードはかなり速い。
ホエルオーのスピードじゃどんどん差がついてしまう。
それでも、振り切られずに追うしかなかった。



………。
……。
…。



…1時間後…



マナフィ 「……」

バシャバシャ!

ホエルオー 「ホエ〜」

バババババッ!!

マナフィは未だにペースを落とさない。
体力ならホエルオーの方があるはず、だから時間をかければ追いつくかと思ったけど。

ハルカ 「予想以上に速いわね…そろそろ見えなくなりそうだわ」

ヒナタ 「ハルカちゃーーーん!!」

ブオオオオオオオォォォッ!!

後ろから徐々に近づいてくる船のエンジン音。
そしてヒナタさんの声が聞こえた。
どうやら、追いついたらしい。
これで、どうにかなりそうね。

ヒナタ 「ごめんなさい! まさかいきなり移動するなんて!」

カヅキ 「念のために、マナフィ探知機を着けといて良かったよ」

ハルカ 「よっし、これで追いつける! ホエルオー戻って!」

ホエルオー 「ホエ〜」

シュボンッ!

私は船に乗り込んでホエルオーをボールに戻す。
そして、私を乗せた船は全速力でマナフィを追う。





………………………。





結局…この日、マナフィは止まることをしなかった。
船をオートにして、私たちは眠りに着く。



『2月17日 時刻8:00 とある海上 (マナフィの残り時間・後2日)』


ハルカ 「…マナフィ」

マナフィ 「……!」

マナフィは、未だに止まろうとしなかった。
一体、どこまで来てしまったのだろうか?
もう、確実に国境を越えている気がした。

ハルカ (マナフィの残り時間は後2日)

まるで、宿命がそうさせるかのように、マナフィは泳ぎ続ける。
海底神殿まで向かっているのだろう…それだけは確実にわかった。
でも…不安は拭えない。

ハルカ (結局、あいつらは襲ってきてない…何を考えているのかしら?)

ヒナタ 「…どう思う、カヅキ?」

カヅキ 「…海底神殿を確認したところで襲うのが常套だろうね」

ヒナタ 「確かに…だったら」

ヒナタさんとカヅキさんは何やら海図を広げて話し合っていた。
海底神殿の場所をおおよそ予測しているらしい。
そして、やつらが襲うタイミングを予測して、備えようということね。

ヒナタ 「…相手はポケモントレーナー、私たちには対応しきれないわね」

カヅキ 「プラスルとマイナンはバトルの訓練なんて受けてないしね」

ヒナタ 「となると、結局ハルカちゃんに頼るしかない、か」

カヅキ 「でも、この辺りは水ポケモンが多いし、いざとなったらキャプチャしてでも」

ヒナタ 「無理よ…キャプチャしてもバトルに対応できるほどの助力は得られないわ」

ハルカ 「大丈夫ですよ、私が何とかしてみます」
ハルカ 「これでもポケモンリーグ出場、決めてるんですから!」

私はそう主張するが、ヒナタさんは厳しい顔で首を横に振る。

ヒナタ 「駄目よ! ハルカちゃんはマナフィと一緒に神殿へ行かなければならない」
ヒナタ 「必要のない敵を相手にして、時間を無駄にすることは無いわ」

カヅキ 「そうだよ! マナフィには時間が無い…多分、海底神殿にたどり着くのは明日だ」

ハルカ 「あ、明日…って言うことは」

マナフィの時間が尽きる1日前。
多分、マナフィが海を清めるのに1日はかかるだろうから…。
実質、タイムリミット寸前!?

ヒナタ 「相手は確実にその時を狙って仕掛けてくるわ」
ヒナタ 「あなたはマナフィに選ばれた…だから、あなたが最後までマナフィを導かなければならない」
ヒナタ 「だから、敵は私たちに任せて、あなたは海底神殿に入って」

カヅキ 「神殿に入るまでのサポートは僕たちに任せてくれ!」

ハルカ 「…わかりました、任されます!」

私はふたりの意思を汲む。
ここまで期待されたら、答えなきゃ女じゃない!
マナフィは私を選んだ、だったら私が最後まで面倒見なきゃね。
こうして、私たちは決意を新たに結束する。
そして…ついにその時は来た。



………。
……。
…。



『2月18日 時刻9:00 とある海上 (マナフィの残り時間・後1日)』


ハルカ 「霧が…かなり深いわね」

カヅキ 「確かに…マナフィは?」

ヒナタ 「…レーダーでは、スピードを落としているわ」
ヒナタ 「近いのよきっと」

ハルカ 「でも、これじゃマナフィの姿も見えない…」

ヒナタ 「そう言う時は任せて! キャプチャー・オンッ!!」

いきなり、ヒナタさんは空に向かってキャプチャ・ディスクを打ち出す。
そして、ヒナタさんはスタイラーを高速回転させ、一気に何かをキャプチャする。

? 「ペリ〜〜!!」

ハルカ 「今の鳴き声って…」

ヒナタ 「ペリッパー『きりばらい』よ!」

ペリッパー 「ペリーー!!」

ビュバァァァァァァッ!!

野生のペリッパーは、ヒナタさんの指示を受け、私たちの近くを渦巻く霧を全て払ってしまった。
『きりばらい』…そんな技もあるんだ。

ヒナタ 「ありがとう、ペリッパー!」

ペリッパー 「ペリ〜」

ペリッパーは役目を終え、飛び去っていく。
さすがはレンジャー…どういう状況でも冷静に対処するわね。
こういう所は純粋に尊敬できる。

カヅキ 「さぁ、これで視界は問題な…」

ハルカ 「うええ!?」

ヒナタ 「し、しまった!!」

謎の人間A 「…目標、確認」

謎の人間B 「ターゲット、神殿発見、これより追跡に移る」

謎の人間C 「了解…Aチームはターゲットの追跡、Bチームはやつらの足止めをする!」

謎の人間集団 「了解!!」

霧を払うと、すでに私たちは籠の鳥だった。
完全に四方八方を敵艦隊(言い過ぎ、実際にはボート)囲まれている。
逃げ場はおろか、進む道さえない。
確実に、戦って通り抜けなければならないようだ。

ハルカ (マナフィは!?)

マナフィ 「……」

マナフィは私たちの正面側100メートル先にいる。
水中で何やら止まっているようだ。
異変に気づいたのか? それとも、海底神殿の影響?
どの道、今止まるのはまずい!

ヒナタ 「ハルカちゃん、突破口は開くわ! 前に進んで!!」

カヅキ 「迷わずに進んで!! 後はマナフィが導いてくれる!!」

ハルカ 「…はいっ!」

ブオオオオオォォッ!!

謎の人間D 「!? 敵接近!」

謎の人間E 「まずは足を止める! 砲撃開始!!」

ドオンッ! ドオンッ!!

ヒナタ 「プラスル、『10まんボルト』で迎撃よ!!」

プラスル 「プラ!!」

バチバチィ! ドガガァッ!!

敵が放った、砲弾はプラスルが全て誘爆させる。
正面で爆発が起こり、丁度良く爆煙に紛れることができる。
そして、そのまま一気に船は加速する。

謎の人間F 「敵機、接近!!」

謎の人間G 「迎撃を…うわぁ!?」

ドゴァァッ!!

ホエルオー 「ホエーーー!!」

ハルカ 「ホエルオー、そのまま突っ込め!!」

私はホエルオーを繰り出して、すぐに背中に乗っていた。
後は、そのまま相手のボートに突撃して吹き飛ばす。
伊達に、14mもあるわけではない、正面にいたボートは全て吹き飛んだ。

ババババッ!!

謎の集団I 「敵トレーナー! ターゲットに接近!! Aチーム、注意されたし!!」

ハルカ 「マナフィには近づけさせない! ホエルオー『みずのはどう』!!」

ホエルオー 「ホエーー!!」

ドギュッバァッ!!

謎の人間A 「! 出ろ『ラプラス』!!」

ボンッ!

ラプラス 「ラプッ」

ドバッシャアァンッ!!

ラプラス 「ラプ〜♪」

ハルカ 「な、何ですってぇ!?」

相手は咄嗟にポケモンを繰り出し、『みずのはどう』を受け止める。
しかも、吹き飛ぶことさえなく完璧に受け止めた。
まるでノーダメージの様子で、相手は喜んでさえいた。


ヒナタ 「まずいわ! ラプラスに水タイプの技は通用しない!」

カヅキ 「くそっ、ここからじゃ援護が…!? しめた、キャプチャ・オン!!」

ギュルルルルッ!! キラーンッ!!

カヅキは、空中にポケモンを見つけ、すぐ様キャプチャを行う。
そして、そのままカヅキは指示を出す。

カヅキ 「チルタリス、『りゅうのいぶき』でラプラスを!!」

チルタリス 「! チルーー!!」

ゴオアアアアァァァッ!!

ラプラス 「ラ、ラプーー!?」

ハルカ 「!? 上から援護…まさかふたりが!?」

ヒナタ 「……」
カヅキ 「……」

ふたりは親指を立てて、大丈夫とアピール。
私は同じように親指を立てて返す。
そして、そのままホエルオーを突撃させる。

ハルカ 「ホエルオー『はねる』!!」

ホエルオー 「ホエーーー!!」

ザザザァッ!! ザパァンッ!!

ラプラス 「ラプ〜! ラプッ!?」

ドズァァッパアアアァァァンッ!!!

謎の人間A 「!?」

ホエルオーの『はねる』でラプラスは下敷きになる。
その勢いで2、3台のボートは吹き飛ぶ。
これで正面に敵はいない。
私は一気にマナフィの近くまで近づく。

ハルカ 「よしっ、このまま一気に…!?」

ホエルオー 「ホエッ!?」

いきなりホエルオーが止まる。
異変を感じ、後ろを振り向くと、1体のポケモンがホエルオーを止めているのがわかった。

ゲンガー 「ゲン〜」

ハルカ (見たこと無いポケモン…!? でも、あの技は…『くろいまなざし』!!)

言わずと知れた、逃亡防止の技だ。
これではホエルオーは逃げることができない。
とはいえ、今更戦っている暇は無い。
すでに、別のボートが接近してきている。
どうする!?

ハルカ 「こうなったら…一か八か!!」

バッ! ザッパァァンッ!!

謎の人間B 「!? 飛び込んだか!」



………。



ハルカ 「!!」

マナフィ 「……」

私はマナフィを海中で発見する。
すると、その前方にとんでもない物を私は見る。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

ハルカ (あれが…海底神殿!)

そこには、紛れも無い海底神殿があった。
マナフィはじっ…とそれを見つめている。
あそこに何があるのか…そして、マナフィはどうなるのか…私が見届けなければならない。

ハルカ (!? な、何あのポケモン!?)

? 「ガァァァァ!!」

とんでもなく大きいポケモンが神殿付近から現れた。
大きいと…言っても、ホエルオーに比べれば小さい。
とはいえ、確実に4メートル位はある。
間違いなく、やばいポケモンだというのは目に見えてわかった。



ザアアアアアアァァァァァァッ!!!

ヒナタ 「あ、雨!? 雨雲が急に…この現象はまさか!?」

カヅキ 「カ、カイオーガ…!?」

謎の人間J 「カイオーガの出現を確認! 危険! 危険!!」

謎の人間K 「撤退準備! 一旦退避する!!」

まるで蟻の子を散らすように、敵はこの海域を離れていく。
雨が降っているのは、この辺りを中心に100メートルほどの周囲のみの小さな規模だった。

ヒナタ 「ハルカちゃん…まさかカイオーガに遭遇したんじゃ!」

カヅキ 「大丈夫だよ! ハルカちゃんはマナフィに選ばれたんだ! カイオーガだって認めてくれる!!」

私たちはハルカちゃんを信じた。
ここまで来たら、後はそれしかできない…。



………。



ハルカ (ま、まずい…このままじゃ!)

カイオーガ 「ガアアアァァァッ!!」

蒼いポケモンはこちらに向かって大きな口を開ける。
間違いなく、攻撃する気だ!
水中じゃどうしようもない! かわすことなんて無理!

ハルカ (くっそ…息もそろそろヤバイ! どうすればいいの!?)

カイオーガ 「ガアアアァァッ!!」

マナフィ 「マナッ!!」

カイオーガ 「ガァッ!?」

ハルカ (!?)

マナフィは私の前に出て、蒼いポケモンを止める。
マナフィが何かを叫んだようで、蒼いポケモンは怒りを静めたようだ。

ハルカ (く…そろそろ限界!)

私は呼吸をするため、一度海面に上がろうとする。
だが、マナフィは私に向かって、不思議な泡を放つ。

ポワンッ

ハルカ 「キャッ!」

泡は私にぶつかると、そのまま私を中に取り込んでしまう。
泡の中は空気があり、呼吸ができた。
どうやら、マナフィの力らしい。
マナフィはそれを確認すると、蒼いポケモンを横切って神殿へと向かう。

ゴボボボッ!

ハルカ 「!?」

同時に泡が前進し始める。
そのまま蒼いポケモンを横切っていった。

カイオーガ 「……」

ハルカ 「う…見られてる」

蒼いポケモンは、視線だけでこちらを見ていた。
そして、通り過ぎた後は特に動くことも無く、その場で留まっていた。

ハルカ 「…そうだ、荷物は!?」

私は腰に巻いているポーチを見る。
飛び込んだため、中はびしょびしょになっているが、機械類は大丈夫だろうか?


ポケモン図鑑 『カイオーガ:かいていポケモン』
ポケモン図鑑 『高さ:4.5m 重さ:352.0Kg タイプ:みず』
ポケモン図鑑 『空一面を覆う雨雲を作り出し大雨を降らせる力を持つポケモン。干ばつに苦しむ人々を救った』


ハルカ 「…あれが、カイオーガ! あのグラードンを倒した相手…」

カイオーガ 「……」

グラードンと並ぶ、伝説のポケモン。
過去にグラードンと激闘を演じた相手。
そして、グラードンに敗北を味あわせた張本人。
まさか、こんな所で見れるなんて…。

マナフィ 「マナッ!」

ハルカ 「!?」

マナフィが何やら掛け声をあげると、海底神殿の周りに渦巻く海流が止まる。
なるほど、マナフィが鍵ってわけね。
そりゃ、あれじゃ近づけないわね…。
そのまま、私たちは海底神殿内部へと入っていった。



………。



『時刻9:20 海底神殿・エントランス』


ハルカ 「うわ…凄い」

海底神殿の入り口は、とても言葉で言い表せないほど、神秘的だった。
石の造りであるようだが、中には緑もある。
正面には大きな扉があり、マナフィは階段を上っていく。
階段の横には大きな噴水が水を噴出していた。

マナフィ 「マナッ! マナマナッ!!」

ハルカ 「あ、ごめんごめん」

神殿に見とれているとマナフィがせかす。
何だか、最初の頃とは見違える位、しっかりしている。
日ごと日ごとに成長しているってことか…マナフィは、もう大人と同じ位になっているのかもしれない。
残された時間は…後僅かなのだから。



………。



『時刻10:00 海底神殿・中心部』


ハルカ 「…もう、大分歩いたけど」

マナフィ 「マナッ!」

マナフィはようやく止まる。
私はマナフィの側まで近寄ると、正面に凄まじい光景を見る。

ゴゴゴゴゴッ! ザザザザザァッ!!

ハルカ 「…はぁ〜」

そこはとてつもなく広い空間。
球体状の空間で、広さは…考えたくも無い広さだ。
単純に言うと、天井は100メートル位上。
地上も同じ位離れていた。
落ちたら、間違いなく死ぬわね。
そして、空間の中心部部には、孤立した場所がある。
下から細い一本の支柱に支えられているだけの場所。
一見すると、空中庭園にも見えた。

マナフィ 「マナッ!」

バッ! ヒュゥゥゥ…

ハルカ 「って、いきなりダイブ!?」

バッシャァンッ!!

マナフィは何のためらいも無しに飛び降りた。
そして、空中庭園の泉に着陸…もとい、着水した。

マナフィ 「マナ〜」

ハルカ 「…しゃあないわね」

ボンッ!

バシャーモ 「シャモッ!」

ハルカ 「バシャーモ、あそこまでお願い!」

バシャーモ 「シャモッ」

私はバシャーモを繰り出し、指示を出す。
バシャーモの脚力なら、問題なく跳べるだろう。

バッ! ヒュゥゥゥ…ドザァッ!!

私はバシャーモに抱きかかえられ、空中庭園にたどり着く。
そして、マナフィは更に前へと向かって行く。

ハルカ 「この先は…?」

先には祠のような物があった。
マナフィは一直線にそこへと向かう。
どうやら、そこで何かを行うのようね。
私はバシャーモと一緒にそこまで向かう。
が、いきなり何かに邪魔される。

バシャアンッ!!

ハルカ 「キャアッ!!」

バシャーモ 「シャモッ!?」

マナフィ 「!?」

私は後ろから、水を受け吹き飛ぶ。
勢いで前のめりに床を転がり、壁に突っ込んだ。

ハルカ 「くっそ…いきなり、何よ!?」

私はすぐに振り向き、状況を確認する。
すると、そこには『奴ら』が存在していた。

謎の人間A 「目標確認、これより任務の最終段階に入る」

謎の人間B 「任務了解!」

ラプラス 「ラプ!」

ゲンガー 「ゲン!」

ハルカ 「くっそ…まさか、ここまで来ていたなんて」
ハルカ 「一体どうやって!?」

謎の人間A 「ラプラス、『れいとうビーム』!」
謎の人間B 「ゲンガー『シャドーボール』!」

ラプラス 「ラプッ!」
ゲンガー 「ゲーンッ!!」

コキィィィッ!! ドバァッ!!

バシャーモ 「! シャモッ!!」

キィィンッ! ドオォンッ!!

ハルカ 「!? バシャーモ!!」

バシャーモは私の前に出て技を受ける。
勢いで私の側まで吹き飛ぶが、踏み留まった。

ハルカ 「このぉ! やる気ならやってやるわよ! 行くわよ…って!?」

マナフィ 「マナッ!」

バシャーモ 「シャモッ?」

謎の人間A 「!?」
謎の人間B 「!?」

私はもう1体のポケモンを繰り出そうとすると、マナフィが前に出ていた。
まさか、やる気!?
でも、それならそれで私はバシャーモに集中できる!

ハルカ 「行くわよバシャーモ! ラプラスに『にどげり』!!」

バシャーモ 「シャモッ! シャモッ!!」

ドガァッ! バキィッ!!

ラプラス 「ラプーー!! ラプッ!」

バシャーモの蹴りを連続で受け、ラプラスは後ろに1メートルほど吹っ飛ぶ。
しかしながら、持ちこたえる。
予想以上に体力があるわね…もしかしたら氷タイプじゃないかとヤマ張ったんだけど、違ったのかしら?

図鑑で確認した方が良かったのかもしれないけど、多分載ってない気がしたので確認する気にならなかった。
元より、今更後の祭り。
こうなったらアドリブでやるしかない! いつだって私は臨機応変!!

謎の人間A 「ラプラス、バシャーモに『みずのはどう』!」

ラプラス 「ラプー!!」

ギュバァッ!!

マナフィ 「マナッ!!」

バシャァンッ!!

ハルカ 「マナフィ!?」

マナフィ 「マナッ!」

意外。マナフィはまるで元気だった。
そして、マナフィは何やら淡い光を放っている。
赤い光だ…あの技は一体?

謎の人間B 「ゲンガー! バシャーモに『サイコキネシス』!!」

ゲンガー 「ゲン〜!」

ハルカ 「まずい! バシャーモかわして!!」

バシャーモ 「シャモッ!」

ドギュウンッ!!

バシャーモのいた場所は、空間が捩れる。
バシャーモはジャンプで3メートルほど跳び上がってかわした。

ハルカ (く…相手が完璧に相性有利か!!)

予想以上に相性が響く。
ただでさえ、最初に攻撃をもらっているのだから、不利だ。
とはいえ、ここで退くわけには行かない!

ハルカ 「バシャーモ、ゲンガーに『オーバーヒート』!!」

バシャーモ 「シャモ〜…」

マナフィ 「マナッ!!」

ハルカ 「!?」

マナフィは空中にいるバシャーモの攻撃前に、何やら触覚を伸ばしてバシャーモに触れた。
そして、赤い光がバシャーモに移る。
次の瞬間、バシャーモは技を放つ。

バシャーモ 「モーーーーー!!」

ドッ! ゴオオオオオアアアアアアアアァァァァァァッ!!!

ゲンガー 「ゲッ!?」

ドグアァッ!! ゴオオオオオオオォォォッ!!!

謎の人間B 「!?」

ゲンガー 「ゲ…ゲ…」

ゲンガーは一撃でダウン。
とてつもない火力だった。
一体今のは?

ザシャッ!

バシャーモ 「…シャモッ」

ハルカ (…バシャーモ、平気なの?)

床に着地したバシャーモは、ほとんど問題ないようだった。
『オーバーヒート』を使ったにも関わらず、バシャーモは元気だった。
いつもなら、確実に疲れが見えるのに。
まさか…。

ハルカ (マナフィの技が影響?)

とはいえ、全く意味不明の技。
効果もわからないし。

謎の人間A 「…ラプラス、バシャーモに『ハイドロポンプ』!!」

ハルカ 「! バシャーモ!!」

私はバシャーモを呼ぶと、バシャーモはすかさず右横に跳ぶ。
今度は縦ではなく、横のためすぐに次の行動に移れる。
ラプラスは急な方向転換に、狙いを外す。

ラプラス 「ラプーーー!!」

ドバババババァッ!!

ラプラスの『ハイドロポンプ』は、見当違いの方向に向かう。
バシャーモはそのまま一気にラプラスとの距離を縮める。

ハルカ 「いいわよバシャーモ! 『ブレイズキック』!!」

バシャーモ 「シャモッ!!」

ゴオオォッ!!

ラプラス 「ラプッ!」

バシャーモはラプラスの手前で前に小ジャンプする。
そして右足に炎をまとわせ、前蹴りを放つ。

ドゴアァッ!!

ラプラス 「ラプーーー!!」

ハルカ 「!? まだ耐えるの!?」

かなり頑丈なポケモンだ…水タイプには炎は今ひとつだしね。
それなら…。

マナフィ 「マナッ!!」

フォンフォンフォン!

ラプラス 「ラ? ラプ〜〜〜」

ラプラスはいきなり眼を回す。
今のは『ちょうおんぱ』? マナフィの技ね。
タイミングは完璧! これでラプラスは動きが止まった。

ハルカ 「よーし、思いっきり蹴り抜け! 『にどげり』!!」

バシャーモ 「シャモッ! シャーモ!!」

ドガッ! ドゴォッ!!

ラプラス 「ラ、ラプ〜…」

ドズウウンッ!

ついにラプラスはダウンする。
よしっ! 完全勝利!!

謎の人間A 「!!」

謎の人間B 「予想外の被害…」
謎の人間B 「だが、切り札はまだある…」

ハルカ 「何ですって…?」

ボンッ!

カイオーガ 「ガアアアァァァァッ!!」

ザアアアアアァァァァァッ!!

ハルカ 「そんなっ!? カイオーガをゲットしたの!?」

いきなり、相手はカイオーガを繰り出す。
まさか、こんなことになるなんて…!

マナフィ 「マナッ! マナナッ!!」

カイオーガ 「ガアアアアァァァッ!!」

マナフィはカイオーガに語りかけるが、カイオーガは聞く耳持たないといった風だった。
カイオーガの影響か、神殿内部で雨が降り注ぐ。
このままじゃ、まずい…さすがにあれが相手じゃバシャーモは持たない!
こうなったら…あいつに頼むしかないわね! あんなルール無用の相手なら遠慮はしないわ!!

ハルカ 「戻ってバシャーモ!」

バシャーモ 「シャモ…」

シュボンッ!

ハルカ 「後は頼むわよ…『グラードン』!!」

ギュウウウゥゥンッ!!

グラードン 「グオオオオオォォッ!!」

カァァァァァァッ!!

グラードンの特性で『おおあめ』が『ひでり』に変わる。
これで一気に形成は逆転する。
水タイプの技は半減するのだから。

謎の人間A 「!? グ、グラードン!?」

謎の人間B 「まさか…グラードンの所有者なのか!?」

ハルカ 「グラードン、わかってるわね!?」

グラードン (無論…! しかし、このような小僧が相手とはな!)
グラードン 「グオオッ!!」

カイオーガ 「!? ガアアァァッ!!」

グラードンがカイオーガに向かって吼える。
すると、カイオーガは何やら怯む。
一体、どうしたというのだろうか?

グラードン (くだらぬ…その程度の覇気で我と戦えると思ったか!!)
グラードン 「グオオオオッ!!」

カイオーガ 「ガ、ガアアアァァァ!!」

明らかにグラードンにビビッているのがわかる。
カイオーガはグラードンを倒したポケモンのはずなのに…。

ハルカ (ん、待てよ? そうか…カイオーガって言っても)

このグラードンほど、長い時を生きているわけじゃない。
だから、グラードンは小僧と言ったのね。
意味はそのまま…子ども扱いしてるわけね。
なるほど、つまりは格が違う、と。
それなら話は早い、一気に押してしまおう。

ハルカ 「グラードン、『きりさく』!!」

グラードン 「グオオッ!!」

カイオーガ 「ガアアァッ!!」

ズバァッ!!

ズズズゥゥンッ!!

謎の人間A&B 「!?」

ヒュゥゥゥゥゥゥ……バッシャアアアアアンッ!!

グラードンの技を食らってカイオーガは後ろに吹き飛ぶ。
それに巻き込まれ、ふたり組みは一緒に下の水面へと落下した。
さすがに上がっては来ないだろう。
何故カイオーガがあいつらに使われていたのかは疑問だけど、ね。

グラードン (恐らく、妙な機械を使っていたのだろう…カイオーガの意思で動いているようには見えなかった)

ハルカ 「そっか…って言うことは、何かで操ってたってわけね」
ハルカ 「ま、ともかくお疲れ様、戻ってグラードン」

ギュウゥゥゥンッ!

私はグラードンを珠に戻す。
そして、マナフィを見る。

マナフィ 「マナッ」

マナフィは、すぐに祠へと向かう。
私も後に続いた。



………。



マナフィ 「…マナ」

ハルカ 「これは…」

祠の内部には三段重ねの噴水があった。
タワー型になっており、一番上から水が落ちてきているようだ。
そして、そこには何やら不思議な色を放つ珠があった。

マナフィ 「マナッ!」

バシャシャ!!

マナフィは噴水を上ってその珠の側まで進む。
そして、マナフィがそれに触れると、海底神殿は揺れ始めた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

ハルカ 「!! 海底神殿が動く?」

まるで移動でもするかのように、海底神殿は揺れていた。
つまり、これで私の役目は終わり…マナフィは、残された時間の中で、使命を全うする。

ハルカ 「マナフィ…」

マナフィ 「…マナ」

私の呼び声に、マナフィは寂しそうな顔をする。
別れの時が来たのだ…これは、避けようがない。

ハルカ 「マナフィ、残された時間、元気でね…」

マナフィ 「マナッ!」

ハルカ 「ダメよっ! こっちに来ちゃダメ!!」

マナフィ 「マナッ…!」

私は強く言ってマナフィを止める。
マナフィは、目に涙を浮かべ、今にも泣きそうな顔をする。

ハルカ 「泣かないで…あなたはこれからとても大事な使命があるの」
ハルカ 「だから、さようなら…マナフィ」

私はそう言って背を向ける。
そのまま去ることに、躊躇いはなかった。
初めから覚悟していたことだ…この時が来るのは。
でも…。

マナフィ 「マナッ! マナナッ!!」

ハルカ 「……」

マナフィは必死に私を呼ぶ。
今にも飛びついてきそうだ。
でも、私は振り向かない…それがマナフィのためだから。

マナフィ 「マナー! マナッ!!」

ハルカ 「………」

ザッ…ザッ…

私は歩みを止めない。
ゆっくりとだけど、私は祠を出て行く。
その瞬間…。

マナフィ 「ハルカ!! マナッ!!」

ハルカ 「!? あなた…今」

私は思わず振り向いてしまう。
そして…。

ベチィッ!!

マナフィ 「マナッ!! ハルカ!! マナナッ!!」

マナフィは、出会った初めの頃のように、私の顔に張り付く。
そして、私もあの時と同じように、マナフィの後ろ首を掴んで引き剥がす。

ハルカ 「ぷはっ! もう、こんな時までダメじゃないの!!」

マナフィ 「マナ…」

マナフィはしゅん…と俯く。
どうして、すっきりと別れられないのか…。

ハルカ (でも…)

よく考えたら、わかることだった。
マナフィは…もう何千、何万と同じ様な出会い、別れを繰り返しているのだ。
マナフィは…そうやって何度も転生し、同じ使命を全うしてきた。
そして、今も…。

ハルカ 「…でも、ダメなのよ」

ぎゅっ

マナフィ 「マナ…」

私はマナフィを抱き寄せる。
マナフィはそれが安心するのか、私の胸に頬を擦り寄せる。
それはまるで、人間の子供のような仕草だった。
いや…私にとっては、本当の子供と同じなのかもしれない。

ハルカ (私が見た、初めての卵から孵った、初めての赤ちゃんポケモン)

産まれたてのポケモンを見るのは初めてだった。
それがマナフィであったことは、幸運でもあり、不幸でもある。
でも、私は誇りに思いたい。
マナフィと出逢って、一緒に過ごせたことを。
例えそれが、短い間だとしても。

ハルカ 「私…マナフィのことは絶対忘れないから」

マナフィ 「…ハルカ」

マナフィは私の名前を呼ぶ。
マナフィは、いつの間にか、覚えていたのだ。
それが、私には凄く嬉しかった。
マナフィが、次に産まれて来る時は、忘れているのかもしれない。
でも、その時はまた新しい人との出逢いが、紡がれるのだろう。

ハルカ 「…ありがとうマナフィ、私を選んでくれて」

マナフィ 「ハルカ…マナッ」

私は、マナフィを離す、そして私は出来る限りの微笑で。

ハルカ 「マナフィ…さようなら、元気でね」

マナフィ 「ハルカ! マナ!!」

マナフィは私の手を掴んで離そうとしなかった。
別れたくないのはわかる。
でも、私は行かなければならない。

ハルカ 「…ごめんなさい、私には、私を待ってくれている人がいる」
ハルカ 「だから、行くの…あなたには、残された僅かな時間で、やらなければならないことがあるでしょ?」

マナフィ 「…マナ」

マナフィは、わかったのか…手を静かに離す。
そして、すぐに。

バシャンッ!!

マナフィ 「…マナッ」

カァァァァ…

マナフィは噴水の珠を持ち上げ、その中から何かを引き出す。
マナフィの手には、ひとつの物体が持たれていた。
それは、まるで卵のような形だった。

マナフィ 「ハルカッ! マナナッ!!」

バシャシャ!

マナフィは再び私の元に駆け寄り、その卵を私に渡す。

ハルカ 「これ…私に?」

マナフィ 「マナッ!」

私はそれを受け取る。
不思議と、その卵は私の手に吸い付くような感覚だった。
まるで、前に一度体験しているような…そんな感覚。
でも、違和感はなかった…何故なら。

ハルカ (マナフィの時と似てるから)

紛れもなく、あの時の感覚だ。
そうか…これもポケモンの卵なのね、きっと。

ハルカ 「ありがとう…大事にするね」

マナフィ 「マナッ!」

マナフィは、最後だと言わんばかりの笑顔を私に向ける。
でも、その瞳には涙が浮かんでいた。
必死に泣くのをこらえて、マナフィはついに別れを告げたのだ。
私は先に泣きそうになるが、我慢する。
マナフィが我慢してるのに、私が泣けるわけ…ない。
私も精一杯の笑顔で…。

ハルカ 「さようなら、マナフィ」





………………………。





『時刻11:00 海底神殿・近海』


カァァァァ…

ハルカ 「……」

ヒナタ 「あれは…ハルカちゃん!!」

カヅキ 「無事だったんだ!! 良かった…」

私は、マナフィの作ってくれた泡で海面に浮かぶ。
結局最後まで、マナフィは世話を焼いてくれた。
私は、マナフィから貰った卵を大事に両手で抱え、ヒナタさんたちが来るのを待った。
そこには、まだボールに戻していないホエルオーの姿もあった。

ホエルオー 「ホエ〜」

ハルカ 「ホエルオー…ありがとう、迎えに来てくれたのね」

スタッ!

私は、泡から外に出て、ホエルオーの背中に乗る。
そして、ヒナタさんたちの乗る船に乗船した。

ハルカ 「ホエルオー、ご苦労様…ゆっくり休んでね」

ホエルオー 「ホエ〜」

シュボンッ!

私はホエルオーをボールに戻し、一息つく。
これで…何もかも終わった。
ようやく、本当の居場所に戻れそうね。

ヒナタ 「…ハルカちゃん、無事でよかった」

カヅキ 「心配したよ、何かあったんじゃないかって」

ハルカ 「あはは…大丈夫でした」

私は笑みを浮かべてそう言う。
後何回、こんな体験したらいいんだろうか?
ポケモントレーナーを続ける限り、続く気がした。

カヅキ 「ところで、その抱えてるのは何?」

ヒナタ 「見た目は、マナフィの卵にそっくりだけど…」

ハルカ 「…マナフィが、最後に残してくれた卵です」

私はその卵を改めて見る。
色や形はマナフィのそれに酷似しているけど、微妙に違う。
まず、色がちょっと暗い感じ。
マナフィのそれほど透き通ってなかった。
後は、微妙に鼓動が違う。
これはちょっと曖昧だけどね。

ヒナタ 「そっか…マナフィは、ハルカちゃんに何か残したかったんだね」
ヒナタ 「自分がハルカちゃんと生きた、証を…」

ハルカ 「…はい」

カヅキ 「まぁ、ともかくこれでようやくミッションも終了だね!」
カヅキ 「やっと本部に戻れるな…あ〜疲れ…とぉっ!?」

ズッバアアアアァァァァァァンッ!!

ハルカ 「!?」

ヒナタ 「な…!!」

カヅキ 「そんな…嘘だろ!?」

私たちは唖然とする。
それはそうだろう…私たちの前方には、『戦艦』がいるのだから。
どう考えても、謎の組織のものに違いない。
どうやら、力づくでマナフィを奪うつもりらしい。

ハルカ 「…ここまで来て、ようやく終わると思ったのに!」

ヒナタ 「あんな物まで持ち出すなんて…何を考えてるの!?」

カヅキ 「正気の沙汰じゃないな…こんな小さな船に向かって発砲までしてきたんだ!」

さすがに戦艦と言うだけあり、かなり大きい。
ホエルオーでさえ、小さく見えるサイズ。
あの中に、何人の兵隊が潜んでいるのか…もはや、絶体絶命だった。

ヒナタ 「例え、敵わないとわかっていても!」

カヅキ 「守るべきものがある内は、逃げることなんて出来ない!」

ヒナタ 「それが!」

カヅキ 「ポケモンレンジャーなんだから!!」

そう言って、ふたりは私を庇うように前に出る。
無理だ! 相手は戦艦!
いくらポケモンレンジャーでも、どうしようもない!
こんなのは軍隊の仕事じゃない!

ハルカ 「でも…諦めたくなんかない!」
ハルカ 「こんな所で死んでたまるもんですか!!!」

私がそう叫ぶと、それに呼応したかのように水は動き出す。
そして、その流れが一瞬止まったかと思うと…。

ゴゴゴゴゴゴッ!!

ハルカ 「!? 雨?」

ポツポツ…ザアアアアアァァァァァッ!!

いきなり雨が降り出す…この現象はもしかして!?

カイオーガ 「ガアアァァ!!」

マナフィ 「ハルカッ! マナーー!!」

ハルカ 「マ、マナフィ!!」

ヒナタ 「こ、これは…」

カヅキ 「凄い…水ポケモンの大群だ!!」

ペリッパー 「ペリーーー!!」
サメハダー 「サメッハーー!!」
ラブカス 「ラブーーー!!」
サニーゴ 「サニ〜!」
ランターン 「ラーン!!」 ジーランス 「ジ〜」
ハンテール 「ハンッ!」
サクラビス 「ビスッ!」
ホエルオー 「ホエーーー!!」

マナフィ 「マ〜ナ…フィーーーー!!!」

ズババババッ!! ドォンッ! バシャァンッ!!

カヅキ 「凄い凄い! 一斉攻撃だ!!」

ヒナタ 「これなら、いくら戦艦でも!」

ハルカ 「マナフィ…まさか、私たちのために!」

マナフィはカイオーガの背に乗り、水ポケモンたちを指揮していた。
その姿はまさに蒼海の王子。
水タイプの大群に攻撃され、戦艦は怯みを見せる。
そして、ダメ押しのようにマナフィは攻撃指令を送る。

マナフィ 「マナッ! マナナー!!」

カイオーガ 「ガアアァァッ!! ガアアアアアァァァァ!!!!」

ギュゥゥゥ…! ギュバババババババアアアアアアアァァァァァァァ!!!!

謎の人間 「か、艦長!? 正め…!!」

艦長 「そ、総員た…!!」

ズバアアアアアアァァァァァンッ!!

カイオーガの口から放たれた『ハイドロポンプ』が、艦橋を打ち抜く。
そして、連続でカイオーガは次の技を放つ。

カイオーガ 「ガアアアアァァァァッ!!」

キュィィィ…! ギュアアアアアアアァァァッ!!! カッ!! チュドオオオオオオオオオオオオオオオォォォォンッ!!

『破壊光線』が戦艦の胴体を貫通する。
次の瞬間、閃光と共に戦艦は海へと沈んだ。
哀れな人間の末路だろう…同情の余地はないわね。

ハルカ 「…マナフィ、ありがとう」

カヅキ 「ありがとう皆ーーー!! この恩は忘れないからねーーー!!!」

ヒナタ (結局…敵の組織は何なのか、わからなかった…)
ヒナタ (一体何故マナフィを狙ったのか? 戦艦まで駆り出して、何をしたかったの?)

私たちは、手を振りながら別れを告げる。
マナフィはカイオーガの背に乗り、見えなくなるその時まで手を振り続けてくれた。

ハルカ 「…マナフィ、ありがとう」

マナフィ 「ハルカ…マナ」





………………………。





こうして、今回の事件は幕を閉じた。
結局、敵組織の正体はわからず仕舞い。
様々な謎を残したまま…私たちはそれぞれの居場所に戻っていった。





………………………。





『某日 某時刻 ???????』


研究員 「…結局、戦艦ひとつ潰して得られた物は、これだけですね」

総帥 「…マナフィか、さすがに面白い見世物だったぞ」

研究員 「あ〜あ、被害総額大変だなぁ…こりゃ」

今月の請求が目に浮かぶ…また色々開発部から文句言われるだろうなぁ。
僕はポッ○ーをかじりながら、今回の成果を見直す。

研究員 「結局、試作のスナッチマシンじゃ1回のバトルで限界ですね」
研究員 「カイオーガ位の力になると、パワーが足りないや」

総帥 「くだらぬ…所詮は偽のゲットに過ぎん」
総帥 「しかし、あのハルカと言う少女…どうやってグラードンを?」
総帥 「面白いデータではあるな…ふふふ、サンプルに相応しい」
総帥 「これで、楽しみがもうひとつ増えると言うものだ」

そう言って、総帥は部屋を出て行く。
久し振りにあの人の笑みを見た気がする。
とはいえ…。

研究員 (人を人と思わぬあのやり方、いつか痛いしっぺ返しを食うんだろうなぁ)
研究員 (ま、それは僕も同じ、か)





………………………。





『2月19日 某時刻 ポケモンレンジャー・ベースキャンプ』


ヒナタ 「じゃあ、ここでお別れね」

ハルカ 「はい…色々とご迷惑をおかけしてすみませんでした!」

私は誠心誠意を込めて頭を下げる。
素直な気持ちだ、このふたりがいなかったら、私はきっとこの世にいない。

カヅキ 「あははっ、これもきっと何かの縁だったんだろうね!」
カヅキ 「それにしても、ハルカちゃんの制服も似合ってたんだけどなぁ…このままフィオレ地方に来てレンジャーになる気はない?」
カヅキ 「僕たちからリーダーに推薦するからさ!」

ハルカ 「いえ、止めておきます」
ハルカ 「私には、私のやることがあります」
ハルカ 「今は、ポケモンリーグに出ることが私のやるべきことですから!」

ヒナタ 「そうね、惜しい気はするけれど、ハルカちゃんにはやっぱりそっちの方が似合う気がするわ」
ヒナタ 「でも、覚えていてね…何かあった時は、いつでも私たちが駆けつけてあげるってことを」

ハルカ 「はい! ありがとうございます!!」

私はもう一度、深く礼をする。
私はこの出逢いを忘れることはないだろう。





………………………。





そして、事件終了から2日後。
私は、ようやく本来の居場所に帰ってきた。
新しい、仲間を抱きかかえて。


『2月20日 某時刻 トクサネシティ・海岸』


フィーナ 「あ、ハルカさん!?」

メフィー 「わわっ! 悪霊退散〜!!」

ハルカ 「いきなり縁起でもないこと言わないで!!」

私は皆に再会して早々、ツッコミを入れる。
全く、私がいない間、どうなっていたんだか…きっと平穏無事に休日を過ごしてたんでしょうね…。

キヨミ 「ほら、やっぱり生きてた!」

キヨハ 「あら、さすがねぇ…賭けはあなたの勝ちよ」

ハルカ 「…賭けてたんですか? 人が命がけで帰って来たって言うのに」

キヨミ 「あははっ、私は信じてたんだからいいじゃない!」

ハルカ 「…それでも、傷つきますけどね」

全く…何考えてるんだか、このふたりは。

ヒビキ 「まぁ、殺しても死なない女だとは思っていたがな」

サヤ 「…無事で何よりです」

このふたりも全く変わらず。
まぁ、一番マトモな反応かもしれない。

ハルカ 「そう言えば、あれから結構時間経ったけど、サヤちゃんジム戦は勝てたの?」

私がそう聞くと、サヤちゃんは一言。

サヤ 「…ぶいっ、です」

そう言ってVサインをする。
う〜ん、珍しい光景を見た気がする。
いつの間にか、サヤちゃんにもユーモアがプラスされているわね。

サヤ 「ところで、気になっているんですが、ハルカさんの手に抱かれているのは何ですか?」
サヤ 「不思議な生命力を感じるのですが…」

フィーナ 「あ、そう言えば…ハルカさん何抱えてるんですか?」

メフィー 「ポケモンの卵…にしては見たことない柄ですね」

キヨハ 「…確かに見たことのない柄ね」

キヨミ 「案外、珍しいポケモンだったりして」

ヒビキ 「ふむ…興味深いな」

サヤ 「もうすぐ…産まれそうな感じがします」

皆は物珍しそうに卵を見る。
そして、卵はいつの間にか輝きを始めていた。

ハルカ 「え…?」

カァァァァァ…

卵は、次第に形を作っていく。
そして、そこから形作られるポケモンは…。

? 「フィオ?」

ハルカ 「あれ…これって、マナフィとはちょっと違う」

キヨハ 「マナフィ…って言うことは、まさかこれが『フィオネ』!?」

キヨミ 「フィオネって…確か幻のポケモン、マナフィに関係あるって言う!?」

ヒビキ 「…成る程、相当な拾い物のようだな」

ハルカ 「…そっか、あなたフィオネって言うのね。よろしくね、私はハルカよ」

フィオネ 「フィオ〜?」

フィーナ 「わぁ、可愛い…産まれたばかりだから、まだ赤ちゃんなんですよね〜」

メフィー 「イメージ的には水タイプみたいですけど、どうなんでしょう?」

キヨハ 「正解よ、フィオネは水タイプ」
キヨハ 「とはいえ、育てたトレーナーを私は聞いたことがないから、それ以上の情報は知らないわ」
キヨハ 「見たのも初めて…資料として見た事はあるけれど、ね」

なるほど、やはり相当なレア度らしい。
これは大事に育てないと…マナフィに申し訳ないものね。

フィオネ 「フィオ♪」

ハルカ 「あははっ、仕草もマナフィそっくり」

キヨハ (ハルカちゃん…マナフィに会ったのかしら?)

キヨミ (やっぱり、ハルカちゃんには天性の運命力が味方しているのね)
キヨミ (通常、ありえないような出逢いを良くも悪くも引き寄せる)
キヨミ (だからこそ…私も戦いの場に戻ったのよ)

ハルカ (マナフィ…私、きっと忘れないからね)
ハルカ (あなたと過ごした短い時間…足りない分は、全部この子に注いでいくから)

フィオネ 「フィオ〜♪」

私はフィオネを抱っこして、ゆりかごの様に揺さぶる。
それが気持ちいいのか、フィオネは安らかな鳴き声をあげた。
私は、決して忘れない…私を助けてくれたポケモンレンジャーのふたりを。
そして、蒼海の王子を…決して。





マナフィ 「マナ〜♪」



…To be continued




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