ポケットモンスター サファイア編




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第4話 「ジム戦、そして…」






『9月28日 時刻12:55 カナズミシティ:ジム前』


ユウキ (どうしよう…どうすればいいんだ?)

俺は今、カナズミジムの前にいた。
今回の目的はジム戦…だったのだが。
いざという時に緊張してしまい、カナズミジムへと足が進まないのだった。
俺はただカナズミジムの周りをうろうろしていることしかできなかった。
しまいにゃ不審者として通報されそうだな…。

ユウキ 「ああ! こんなんでどうする俺!!」

俺は自分に喝を入れ、思い切ってジムへと足を踏み入れる。

ユウキ (こうなればなるようになれだ! 当たって砕けろ!)

ウイイイン。

カナズミジムの扉はシャッターになっており、俺がシャッターの前に立つと扉は独特の音を立てて開いた。

ユウキ 「たのもー!!」

俺はジム内へと入ると同時に大声でそう言う、しかし…。

シーーーン。

ジムの中から返ってくる声はなかった。
よくよく見ると中は電灯もついておらず真っ暗だった。
どうやら誰もいないようだった。
中は体育館のように広く20×10メートルくらいの広さがあった。
どうやらそこはバトル場のようで18×9メートル位の面積で土や岩が敷き詰められていた。
上を見れば暗幕が張っておりまさに体育館をバトル場に改装したようなところだ。

さて、話は変わるが、なぜツツジさんがここにいないのかについて考えてみよう。

ユウキ 「…あ!」

…答えは考えるまでもなかった。
俺は学校から逃げるように出て、真っ先にここに来た。
学校からここまで分かれ道もなく一本道、つまりツツジさんが先にここにくるには俺を追い抜かなければならない。
そして、俺はツツジさんに追い抜かれた覚えはない。
つまりまだツツジさんを見ていないんだから来ているわけがない。
もっとも、秘密の近道とかがあったら別だが…。

ユウキ 「…どうしよう」

…ふりだしに戻ったような感じだ…。

? 「…どうしたんです?」

ユウキ 「いや、ジム戦にきたんだけど…」

? 「まぁ、ジム戦ですか?」

ユウキ 「でも、不安と緊張でなかなか中に入れなくて…」

? 「はじめは皆さん同じですよ」

ユウキ 「まぁ、なんとでもなれって感じで中に入ったんですけど今度は誰もいなくて…」

? 「まぁ、今来たところですからね」

ユウキ 「……て、え?」

よくよく気が付くと俺の後ろに誰かがいることに気が付く。
さっきから会話が成っているだろうに…>俺。
にしてもこの声って…。
俺は咄嗟に後ろを向く。

ツツジ 「どうしたんです?」

ユウキ 「ツ、ツツジさん!?」

ツツジ 「はい、私がツツジですよ」

後ろにいたのはツツジさんだった。
ま、予想通りか…。

ツツジ 「ちょっと待っててください、ジム戦の準備をしますから」

ユウキ 「え…あ」

ツツジ 「? やるんでしょ? ジム戦」

ユウキ 「あ、はい…」

ツツジさんはそれを聞くと走って奥の部屋に進んでいった。
俺はただボーっとすることしかできなかった。
…結果オーライ?



…………。



そして、3時半になった頃、ポケモンバトル審査員(審判)がやってくるとジム戦は始まった。


審判 「これよりカナズミジム、ジム戦を行います!」
審判 「使用ポケモンは2匹、ポケモンの途中交代は挑戦者のみ有効!」
審判 「先制はジムリーダー!」
審判 「これよりカナズミジム戦第8期第172戦、ジムリーダーツツジ対チャレンジャーユウキの一戦を行います!」

審判は指定席に立つとそう言って俺のジム戦は始まった。

ツツジ 「ユウキさん、私は…やるからには全力を尽くします!」

ツツジさんの顔はそう言うと同時にその顔はまさに真剣そのものの顔になる。
やっぱ、ジムリーダーか。

ツツジ 「行くのよ! 『イシツブテ』!」

イシツブテ 「イシー!」

ポケモン図鑑 『イシツブテ 岩石ポケモン』
ポケモン図鑑 『高さ0,4m 重さ20,0Kg タイプ 岩・地面』
ポケモン図鑑 『地面に半分埋まりぐっすり眠る』
ポケモン図鑑 『登山者に踏まれても全く起きないよ』
ポケモン図鑑 『朝、餌を探して転がり落ちる』

イシツブテ…名前の通り岩石のような姿をし、いうなれば岩石に手が生えたといった容貌だ。
防御力が高いが格闘タイプには弱いから格闘タイプや水、草タイプで戦うのがセオリーだな。

ユウキ 「イシツブテ…岩ポケモンか…だったら!」
ユウキ 「行け! キノココ!」

キノココ 「キノー!」

岩や地面は水や草に弱い。
キノココは草タイプだから有利なはずだ。

ツツジ 「イシツブテ! 『たいあたり』!」

イシツブテ 「イシ!」

ユウキ 「避けろ! キノココ!」

キノココ 「キノ!」

イシツブテはその岩石の硬い体で思いっきりキノココに突っ込んでくる。
キノココはそれを何とか避わす。

ユウキ (まずい! キノココとイシツブテの距離が極端に縮まった!)

キノココは何とかイシツブテの『たいあたり』を避わすがその距離は10メートル程から1メートルほどに極端に縮まった。
この距離はキノココの距離ではないし、ツツジさんのイシツブテのほうが若干早い分不利だ。

ツツジ 「イシツブテ! 『ころがる』!」

ユウキ 「避けろ! キノココ!」

イシツブテはその丸い体を回転させてキノココに突っ込んでくる。
文字通り転がってくるわけだ。
キノココも何とか紙一重でそれを避わす。

ころがるは転がる。
丸い形のポケモンが主に使用する技で、自分の体を回転させて突っ込む技だ。
また、時間が経てば経つほど回転数が上がり威力が倍加する。
しかし、この技を使うとポケモン自身には止まることが出来ず、永遠に転がり続けるしかなくなる。
つまり、ボールに戻すかダウンするまで止まれないのだ。
まさに暴走したトラック状態…。

ユウキ 「よし、反…何!?」

ツツジ 「まだよ!」

何とイシツブテは地面からせり出した岩を使ってミニ四駆のようにカーブし、すぐにまたキノココに向かってきた。

ドカァン!

キノココ 「キノー!?」

ユウキ 「キノココ!?」

キノココはトラックに撥ねられた子供のように宙を舞いそして。

キノココ 「キノ〜…」

審判 「キノココ! 戦闘不能!」

キノココは目を回しぐったりし、審判は即戦闘不能を宣言する。

ユウキ 「く、戻れキノココ…」

俺はキノココをボールに戻すとちらりとツツジさんの方を見た。

ツツジ 「………」

ツツジさんはただ無言でこちらを見ていた。
表情からは何もわからない、喜ぶ様子もなく、あと一匹で勝てるという驕(おご)りもなく。

ユウキ (さすがはジムリーダー、やっぱり強い…だけど!)

俺は腰につけているモンスターボールラックからある1つのボールを取り出す。
それは俺が最も信頼しているポケモンだ。

ユウキ 「いけ! ミズゴロウ!」

ミズゴロウ 「ミズー!」

俺は2匹目にミズを出す。
ミズも負けたら俺の敗北だ…負けられない。

ツツジ 「イシツブテ、そのまま『ころがる』よ!」

イシツブテ 「イシッ!」

イシツブテはキノココ戦の回転を維持しながらむしろ回転を増し、ミズゴロウに向かってくる。

ユウキ 「ミズ! 『みずでっぽう』で止めろ!」

ミズゴロウ 「ミズー!」

ミズの『みずでっぽう』はイシツブテに当たるが、イシツブテは止まらない。

イシツブテ 「イシー…」

イシツブテも辛そうだが徐々に『みずでっぽう』を受けながらミズに迫る。

ユウキ 「ミズ! 負けるなー!」

ミズゴロウ 「ミィズゥーー!!」

ズパァン!!

突然弾けるような音。
回転の増していくイシツブテはミズゴロウの強烈な『みずでっぽう』をくらい、地面から浮いてしまったのだ。
スリップストリーム…イシツブテは自由がきかず、力が上にいき、弾けるように跳ね上がった。
やがて最初はスローモーションに見えたイシツブテの跳ね上がる姿も徐々に高速に地面に落ちた。

ドシャア!!

イシツブテ 「イ、イシ〜…」

審判 「イシツブテ、戦闘不能!」

イシツブテは目を回していた。
ダメージも大きかったろうがそれ以上に回転しすぎたな…。
どことなく目の回り方がそれっぽい。

ツツジ 「戻りなさい、イシツブテ…」

ツツジさんはイシツブテをモンスターボールに戻すと最後のもう1つのボールを取りだす。
これで互いに後がなくなった。

ツツジ 「なかなかやりますね…しかし私も負けませんよ!」
ツツジ 「出てきなさい! ノズパス!」

ツツジさんはボールを高く上げるとその中からあるポケモンが出てくる。

ノズパス 「ノーパノパ!」

ポケモン図鑑 『ノズパス コンパスポケモン』
ポケモン図鑑 『高さ1,0m 重さ97,0Kg タイプ 岩』
ポケモン図鑑 『磁石の鼻を北に向けたまま全く動かないと云われていたが1年に1センチ移動していることが観測された』

ノズパス…一見するとモアイにも見えるその姿は岩で出来ている。
その形はモアイに短くも太い手足をつけたような姿で大きな鼻の部分は磁力を持った砂鉄…すなわちコンパスできている。
40センチのミズに対して1メートルのノズパスはかなり大きかった。

ユウキ 「いけ! ノズパスに『みずでっぽう』!」

ツツジ 「『がんせきふうじ』!」

ノズパス 「ノパッ!?」

ミズゴロウ 「ミズ!?」

ミズの『みずでっぽう』は無防御のノズパスにヒットするが同時にミズの足元から縦長の大きな岩がせり上がってミズを動けなくする。

ユウキ 「ミズ!?」

ツツジ 「『がんせきふうじ』は岩石で相手の動きを封じる技…」
ツツジ 「ノズパス! 『いわおとし』!」

ツツジさんがそう命令するとノズパスは足で地面を叩く。
すると、またもや地面から岩がせり上がり、今度はミズの頭上からその岩が落ちる。

ミズゴロウ 「ミ、ミズ!?」

ユウキ 「ミズ!?」

落ちた岩はそのままミズに蓋をかけるように落ちたようだ。
『がんせきふうじ』で出来た岩で状況はよくわからないがピンチというのは確かだろう。
審判も岩の中の様子がわからずに困っていた。

ユウキ 「ミズ! 大丈夫か!?」

ミズゴロウ 「ミズ〜」

ミズは岩の隙間から小さく返事をする。
どうやら何とか無事のようだ。

ツツジ 「致命傷だけは避けたようですね…ですが!」
ツツジ 「ノズパス! 『たいあたり』!」

ノズパス 「ノパー!」

ノズパスはその体を使ってぶちかましに近い『たいあたり』をかまそうとする。
食らったら間違いなくアウトだ。

ユウキ 「ミ、ミズー!!」

俺は岩に向かって、中のミズに向かって叫んだ。

ミズゴロウ 「ミィィィズゥーー!!!」

カァァァ!

ユウキ 「な、なんだ!?」

ツツジ 「これは一体!?」
ノズパス 「ノパパ!?」

突然ミズのいる岩の隙間から眩しい光が放たれる。
その光でノズパスも動きを止める。

ツツジ 「構いません! 何かが起きる前に潰すのですノズパス!」

ノズパス 「ノパー!」

ツツジさんとノズパスは割り切ってその光に向かって『たいあたり』をかます。

ユウキ 「ミズー!」

ドカァ!

ノズパスの『たいあたり』は強烈で『がんせきふうじ』でできた岩はこなごなに砕けてしまう、そして。

ガシィ!

ツツジ 「な!?」

ノズパス 「ノパ!?」

ユウキ 「ミ、ミズ?」

体当たりした先には二本の足で立つ『ミズゴロウ』に似たポケモンがいた。
そしてそのポケモンはノズパスの『たいあたり』を二本の腕で受け止めていた。

ミズゴロウ? 「ヌマー!」

ポケモン図鑑 『ヌマクロー 沼魚ポケモン ミズゴロウの進化系』
ポケモン図鑑 『高さ0,7m 重さ28,0Kg タイプ 水・地面』
ポケモン図鑑 『水中を泳ぐより泥の中を進む方が断然早く移動できる』
ポケモン図鑑 『足腰が発達して二本足で歩く』

それは『ヌマクロー』だった。
ミズはヌマクローに土壇場で『進化』したんだ。

ツツジ 「まさか進化するとは…しかし!」
ツツジ 「ノズパス! 『がんせきふうじ』です!」

ユウキ 「二度も同じ技を食らうか! 距離を詰めろヌマクロー!」

ヌマクロー 「ヌマー!」

ヌマクローは二本足を器用に使いステップを使いながら距離を詰める。

ノズパス 「ノパッ!?」

ツツジ 「なっ!?」

ヌマクローはノズパスの『がんせきふうじ』をことごとく避わす。


がんせきふうじは岩石封じ…相手にダメージを与えると同時に動きを制限する強力な技だ。
攻撃パターンはふたつあり、ひとつはツツジさんが行ったように地面から岩をせり上げ、囲んで動けなくする。
もうひとつは体から岩を放ちぶつけて動きを制限する。
だが、この技にも弱点だってある…それは。


ユウキ 「命中率が安定しない…」

ツツジ 「!?」

ツツジさんはそれを聞くと明らかにうろたえる。

ユウキ 「『がんせきふうじ』は岩をせり上げて相手を包む、が…」
ユウキ 「その包むまでにその場から離れられる、または動く相手には的を絞れない…」

ツツジ 「…まさかもう気付かれるなんて…」

包むまで3秒ほどと結構短いがわかっていたらくらいはしない。

ユウキ 「ヌマ! 『みずでっぽう』だ!」

ヌマクロー 「ヌマー!」

今までのよりも更に一回り以上大きな『みずでっぽう』をヌマクローはノズパスに放つ。
ノズパスはそれを受けて吹っ飛び転げる。

ツツジ 「ノズパス!?」

ノズパス 「ノパ…」

ユウキ 「ヌマ! これで終わりだ! 『マッドショット』!」

ヌマは水の代わりに泥をヌマの『みずでっぽう』と同等の量の泥を放つ。

ノズパス 「ノ、ノパー!?」

転げたノズパスは動くことが出来ずヌマのマッドショットが直撃する。


マッドショットはマッドショット。
泥を敵に向かって放つ射程距離の短い間接攻撃で当たると素早さをダウンさせることがある。


ツツジ 「ノズパス!?」

ノズパス 「ノパ〜…」

ノズパスはもう戦えないようだった。

審判 「ノズパス! 戦闘不能!」
審判 「よってこの勝負チャレンジャーユウキの勝利!」

そして、俺の勝利が審判の宣言によって確定する。

ツツジ 「…参りました、お強いですね」
ツツジ 「これはカナズミジムジムリーダーに勝利した証『ストーンバッジ』です」

そう言ってツツジさんは俺の前まできてストーンバッジを直接手渡してきた。

ユウキ 「よっしゃー! ストーンバッジ、ゲットだ!」

ヌマクロー 「ヌマー♪」

俺はストーンバッジを受け取るとヌマクローと手を取って喜ぶ。

ツツジ 「あなたはこれからどうするんですか?」

ユウキ 「次のジムのあるところに行こうと思います!」

ツツジ 「そうですか…」

ツツジさんはそれを聞くと少し考えるような顔をして…。

ツツジ 「あなたならきっとポケモンリーグに出られると思います」

ユウキ 「はい! ありがとうございます!」

俺はそう言ってヌマクローをボールに戻しジムを後にする。



…………。



ジムの外に出ると時刻はもう4時頃だった。
俺は空が赤くなりつつあることに気付き今日のことを考えていると…。

ユウキ 「ん?」

視線を空から正面に向けるとある光景が目に飛び込んできた。

? 「どけどけー!」

どどどどどど!

『どどど』と足音を立てて、見たことのあるおっさんが駆け抜けていく。
アクア団のしたっぱ(予想)が駆けて行く。
もうひとりのおっさんの持っていたバッグも持っていたな…。

そして、その後すぐに。

おっさん 「まって〜…その荷物返して〜…」(泣)

とてててて…

気の抜けるような声を出してこれまた気の抜けるような走りで追いかける。
おなじく森で会ったおっさんだな。

とりあえずおっさん達を追いかけることにした。



………。
……。
…。



10分後…。
俺は町の出口でなさけない方のおっさんを見つける。
おっさんは町の外を見て途方に暮れていた。
おそらく、ていうか間違いなく逃げられたのだろう。
まぁ、仕方ないわな。

ユウキ 「おい、大丈夫か?」

おっさん 「あ、君! 助かったー!」

おっさんは俺を見ると神の救いの手がきたかのような顔でこっちに寄ってくる。

ユウキ 「事情はわかっているからどうすればいいか言え」

俺は簡潔にそう言うとおっさんは。

おっさん 「実は僕、デボンコーポレーションっていうところの社員なんだけど」
おっさん 「突然あの男に忍び込まれてあの荷物を盗まれたんだ」
おっさん 「あの荷物はとても大切なものなんだ、お願い! 取り返してきて!」

おっさんは手を合わせてそうせがんでくる。
だから聞いてやると言うとろうに。

ユウキ 「そんで町の外に逃がしちまったと?」

町の外は116番道路。
いくらなんでも外の世界に逃げられたら追いようがないぞ?

おっさん 「大丈夫、116番道路の先にあるカナシダトンネルは今は工事中で行き止まりだから」
おっさん 「だからこの先はないんだよ!」

おっさんはそう言う。
ないんだったらゆっくりでも追えばいいだろうに。
このおっさんが追っても返り討ちに合うだけか…。

ユウキ 「んじゃ追っかけてくっから待っててくれよ」

俺はそう言うと走ってアクア団のしたっぱの後を追った。



…………。



そして午後10時。

ユウキ 「チックショー! まだ着かないのかよ!」

俺は今だ116番道路を歩いていた。
まさかこんなに長いとは思わなんだ。
俺は道の途中にあった実のなる木の木の実を食べて空腹は逃れていた。
木の実の味は…とても…辛かった。
『クラボのみ』という木の実でさくらんぼのような物なのだが凄く辛い…。
ポケモン達は平気で食していたがやはり味覚が違うのだろうか。
当社費ハバネロの0,7倍(!?)は辛く感じた。





『次の日 某時刻 116番道路』


そして俺はついに次の日を迎えていた。
まさか、カナシダトンネルがこんなに遠いとは…。
朝起きたときは山が見えてきた程度でトンネルは遠そうだった。

ユウキ 「今日こそ着きますようにっと!」

俺は日の昇る太陽に向かって願掛けをするとアクア団のしたっぱのいると思われるカナシダトンネルを目指す。
今日でも着かなかったらどうするかな…?

? 「ニン!」

ユウキ 「あん?」

突然真下から変な声が聞こえた。
俺は真下を向くとそこには…。

ポケモン図鑑 『ツチニン 下積みポケモン』
ポケモン図鑑 『高さ0,5m 重さ5,5Kg タイプ 虫・地面』
ポケモン図鑑 『鋭い爪で樹木の根っこを削り水分や栄養を吸収する』
ポケモン図鑑 『太陽の光はまぶしいので苦手』

そいつはツチニンだった。
地面に這いつくばっている虫のようなポケモンだから気がつかなかった。

ツチニン 「ニン! ニンニン!」

ツチニンはなにやらやる気満マンといった感じだった。
バトルを挑みにきたのか?

コマンド

 たたかう
→にげる

俺は迷わず逃げるを選んだ。
こんな所で時間をロスしたくないからだ。

ユウキ 「悪いなツチニン! こんな所で時間をロスするわけにはいかないんだ!」

ツチニン 「ニン?」

俺はそう言うとその場から走り出す。

ツチニン 「ニン!?」

ユウキ 「今度会ったら相手をしてやるよ!」

ツチニン 「ニン…!」(ドップラー効果)

ツチニンは俺を追いかけてくるが足が遅いためどんどん離される。
しまいにゃドップラー効果で奴の声が…。


………。
……。
…。


『同日 某時刻 カナシダトンネル』

ユウキ 「ふう…やっと着いたか」

あれから1時間後、俺はやっとカナシダトンネルの前まで来ていた。
俺は常に小走りでいたため呼吸を整えていた。

ユウキ 「ふぅ…さて、行く…か?」

俺はトンネルの中へと入ろうとすると変な老人が入り口の前にいることに気付く。

? 「うおおお! わしのピーコちゃんがぁ!!」

なにやら泣き叫んでいた。
俺は怪しい奴には近づくなという本能に任せて気付かれないようにトンネル内へと進入した。


トンネル内は割と明るくまだ工事中といった感じだった。
コンクリートとかで固めるわけでなく自然のトンネルのようだ。
トンネルは結構広く、その道は大人二人分が余裕で通れるような広さだった。

したっぱ 「ん? げ!? テメェは!?」

そのトンネルの奥にはアクア団のしたっぱがいた。
ちゃんとバックも持っている。
どうやら行き止まりで立ち往生していたようだ。
あと、微妙に気になっていたのだがキャモメがこの男と一緒にいた。
ゲットしたのだろうか?

ユウキ 「追い詰めたようだな…」

俺はそう言って一歩近づくと…。

したっぱ 「くそ! 近づいてみろ! こいつがどうなっても知らないぜ!?」

そう言いながらも一歩引いて一緒にいたキャモメの首根っこを掴む。

キャモメ 「キャ、キャモー!!」

キャモメはただ泣き叫ぶ。

ユウキ 「それがどうした…殺るならさっさと殺れ」

俺はそう言い放つ。
正直言ってキャモメは関係ないし。
別にどうなってもかまわないっていうのが本音だし。

したっぱ 「な!? くそ!」

ユウキ 「悪漢共に御慈悲は無用…」

俺はそう言ってもう一歩近づく。
すると相手はついにプレッシャーに負けて。

したっぱ 「け! こんなもん返してやるよ! 覚えてろー!!」

したっぱはそう捨て台詞を吐いて荷物(キャモメ付き)を置いて逃走する。

ユウキ 「あの世でも二度と俺の前に顔を見せるなよー!」

俺はそう言って見送る。
するとすぐに入り口から誰かがものすごい勢いでやってくる。
さすがに言い過ぎたか?
そう思ったがどうやらそれは杞憂だったようだ。

老人 「うおおお! ピーコちゃぁん!!」

入り口の前にいた老人だった…もしかしてピーコってこのキャモメ?

ピーコ 「キャモー!」

老人 「おお! ピーコちゃん! よかった!」

老人はそう言ってピーコ(キャモメ)を孫のように抱きしめる。
キャモメもやっと恐怖から脱したといった面持ちで老人に近づいた。

ユウキ (さて、荷物も取り返したし、さっさと戻るかね…)

俺はそう考え何事もなかったかのようにその場を去ろうとするが、しかし…。

老人 「君がピーコちゃんを助けてくれたのか!」

ユウキ 「え?」

案の定この老人に掴まってしまう。

老人 「ありがとう! ピーコちゃんを助けてくれて!」
老人 「わしの名はハギ! 103番道路の海辺に住んでいるからもし何か困ったことがあったなら寄ってくれ!」

ユウキ 「え? あ、はぁ…」

ハギ 「さ、それじゃ家に帰ろうかピーコちゃん」

ピーコ 「キャモー♪」

そう言うとハギ老人とピーコちゃんはさっさと帰っていってしまう。

ユウキ 「…ま、いいか」

何がいいのかはさっぱりわからないが俺もとりあえずさっさとこのトンネルを抜けることにした。


外に出ると太陽の光がまぶしかった。
実際はトンネルの中が薄暗かったからその反動でそう感じるだけなのだが…。

俺は荷物の入ったリュックサックを背負うと帰りのことを思い、溜息が出た。
そして帰りの一歩を踏み出そうとしたその時…。

? 「ニン!」

ユウキ 「………」

朝と同じ展開…。
ツチニンが数メートル先にいた。

ツチニン 「二ィ…二ィ…」

ツチニンはなにやら息を切らしていた。
まるでずっと走っていたかのようだ。

ユウキ 「ん? ずっと…?」

俺はそこでピーンとくる。
もしかして…朝のあいつ?
もしそうだとしたらかなりの根性の持ち主だな。

ツチニン「…ニィ…ニィ…」

ツチニンは大きく乱れた息を整えるようにして深呼吸をした。
ポケモンでも深呼吸するんだなとつい無駄なことを考えてしまう。

ツチニン 「ニン! ニンニン!」

そしてツチニンはやる気満マンといった顔でこっちを見る。
間違いなく朝のあいつだな…。

ユウキ 「OK! 相手をしてやろうじゃないか!」
ユウキ 「いけ! ラルトス!」

ラルトス 「………」

俺はボールからラルトスを出す。
ラルトスはボールから出るとすぐに臨戦体制をとった。
…と言ってもただ相手の方を向いただけだが。

ツチニン 「ニン!」

ユウキ 「避けろ! ラルトス!」

ラルトス 「………!」

ラルトスはツチニンの『ひっかく』攻撃を横によけてかわす。

ユウキ 「よし! 『ねんりき』だ!」

ラルトス 「…はぁ!」

ツチニン 「ニン!?」

ツチニンはかわすことできず(かわせと言うのが無茶か…)直撃する。

ツチニン 「ニィ…ニン!」

ラルトス 「ああ!?」

ツチニンは怯まずそのままひっかく攻撃をしてきた。
さすがそれにはラルトスも攻撃を受けてしまう。

ラルトス 「この!」

ラルトスはそれにお返しと言わんばかりにもう一発『ねんりき』を放つ。

ツチニン 「ニン!? …ニィ…」

ツチニンはそれが効いたのか一発目はやせ我慢だったのかあっけなくダウンする。

ツチニン 「ニン!」

ツチニンは起き上がると善望の眼差しでこちらを見ていた。

ユウキ 「あんだ?」

ツチニン 「ニン! ニン!」

ラルトス 「『大将! 俺も連れてってくれ!』…だそうです」

ユウキ 「そ、そうか」

突然ラルトスが口調を変えたのかと思ってびっくりする。
勝手に訳すとは…俺内部でラルトスの評価プラス1だな。

ユウキ 「んと、確かまだボールが余ってたな…」

俺は腰のボールラックから空のモンスターボールを取りだすとそれをツチニンの前に出す。

ユウキ 「この中だけどいいか?」

とりあえず尋ねておく。
ポケモンをモンスターボールに入れないという例はあまり聞いたことはないが個人の意思は尊重したいからな。

ツチニン 「ニンニン」

ツチニンはこれでいいようだ。
俺はそれを確認するとトンっとツチニンのでこにボールを当てる。
ツチニンは全く抵抗することなく即ボールは例の機械音を出してゲットが決まる。

俺はボールを回収しラックに入れるとカナズミの方を見て溜息を1つする。

ユウキ 「はぁ…カナズミに着くのは明日か…かったる」

ミシロ〜トウカ間が半日でつくだけに異様に長く感じる。
まぁ、まだ旅は始まったばかり、これくらいで弱音は吐けないか…。

ユウキ 「よし、それじゃゆっくりカナズミに帰ろうか」

ラルトス 「はい、マスター」

こうして俺たちはカナズミへと帰る。
そう、旅は始まったばかり…。
旅はまだまだ続く…。

ユウキ 「帰ったらどうするかな…」




ポケットモンスター第4話 「ジム戦、そして…」 完






今回のレポート


移動


カナズミシティ→116番道路→カナシダトンネル→116番道路


9月29日(ポケモンリーグ開催まであと153日)


現在パーティ


ヌマクロー

ポチエナ

ラルトス

スバメ

キノココ

ツチニン


見つけたポケモン 13匹



おまけ



その4 「アクア団のしたっぱ」




さて、今回のおまけは彼…アクア団のしたっぱである。
まぁ、タイトルにもそう書いてあるからわかりますよね?

さて、アクア団のしたっぱと言ってもピンからキリまでありますが今回は本編3話目でユウキにやられた彼である。
名前がないのでそう、シタッパとでもつけましょう…。

シタッパ 「ヲイ…俺ってその程度の存在かよ…」

うっせーな、脇役風情が名前を貰えただけありがたく思え。

シタッパ 「ひでぇ作者( と書いて神と読む )だな…オイ…」

さて、本人は無視して今回は彼シタッパのお話、どうぞ彼のやられっぷりをご堪能ください。

シタッパ 「…やられるわけ…? 俺の話なのに…」

…冗談だよ…。(キリッ)

シタッパ 「本当かよ!?」



…………。
………。
……。



シタッパ 「チクショウ…あのくそ餓鬼めぇ〜」

俺は今トウカの森にいた。
もうすぐトウカシティ側の出口に着くところだ。
さっきカナシダトンネルにいたのにと思ったやつ…気にしたら負けだ。

俺は今カイナシティを目指していた。
あの餓鬼のせいでカナズミでの作戦が失敗したから仕方なく第二作戦に合流しなければならないのだ。

シタッパ 「しっかしどうしたもんかな…」

カイナへ行くにはカナシダトンネルからしかなかったのにそこが通行止めとはな。
後は空から行くか、海からムロタウンを経由して行くかしかないな。
しかしそこでも問題はある。
飛行機も船もないのだ。

シタッパ 「まぁ、船はパクッちまえばいいか」

今ワルだなと思った奴…だってワルだもん。

幸いこのトウカの森を抜けた先には海岸がある。
そこにある船を一隻失敬させてもらえばいいか。

シタッパ 「船があればいいが…」

また1つ問題が…。
次から次へと新しい問題が生まれやがる…。
それもこれも全てあのクソ餓鬼が…。←逆恨み

そんなこんなで俺はトウカの森を抜け、104番道路と105番水道をつなぐ海岸線に出る。
後は…運次第だな。
まぁ、無かったら無かったでまた考えよう。


シタッパ 「あった、一隻」

俺は海岸に一隻、小型船があるのに気付く。
俺はそれに近づくと周りに目を配る。

シタッパ 「…! 人がくる!」

俺はトウカシティの方から一組の親子がくるのを確認するとその船の腹に隠れる。

やがて親子はこの船の前で立ち止まりなにやら会話をしていた。
まずいな…もしかしてこの船はこの親子のか?

ミツル 「それじゃ、お父さんお母さん行ってくるね」

ミツルの父 「すまないな…ついていけず…」

ミツルの母 「元気でね…ミツル」

ミツル 「うん」

ミツルの父 「カナシダトンネルが通れたらもっと早くシダケまでいけたのだがな…」

ミツルの母 「船の操縦、大丈夫ね…?」

ミツル 「大丈夫、ちゃんと向こうに行くよ、それに僕にはこのラルトスもいるし」

そういう会話が聞こえるとドスンと誰かが船に乗る音が聞こえた。
ミツルとかいう奴だろう。
俺は船にエンジンがかかったのを確認すると気付かれないように船の後部席に乗り移り、隠れる。

ミツル 「それじゃ行ってきまーす!」

ミツルの母 「元気でねー!」

ミツルの父 「ちゃんと電話をしろよー!」

エンジンの入った小型船は徐々にスピードを上げこいつの親御さん達の声は徐々に小さくなる。
この少年も親御さん達が見えなくなると前を向き舵(かじ)に専念する。
俺は頭をそっと外に出し、もう既に大海原に出ているのを確認するとようやく体を乗り出す。

ミツル 「! あなたは!?」

少年はバックミラーに俺が姿をだしたのに気付いて慌ててこっちを向く。

シタッパ 「気にすんな…怪しい者じゃない」

本当は全然怪しいだろうがあえてそう言う。
実際このままカイナへ行ってくれるのなら俺は何も言わないし、何もしない。

ミツル 「…あなたは?」

少年はもう一度そう言う。
しかし今度は一回目の不審者を見た時のような顔ではなく、相手を信用した顔で。

シタッパ 「ああ…すまんな、俺はシタッパっていう」

俺は簡潔にそれだけを言う。
あまり言葉を使って自己紹介するのは苦手だしな。
少年もそれで納得したようで特に追求もせずまた前を向き舵をとる。

ミツル 「あ、自分ミツルっていいます、シタッパさんはどうしてこの船に?」

少年が自分の名前を言うと最もな質問がくる。
奪ってカイナへ行くつもりだったんだ…なんて言うことが出来る訳がない。
俺は頭をフルに回転させて上手い言い訳を考える。

シタッパ 「いや、この船がカイナを通りそうだったんでな…」

俺は少年の方を見ず水平線を見ながらそう言う。
こんな言い訳で納得してもらえるか…。

ミツル 「そうだったんですか、だったらその前にムロを経由しますけど一緒に行きますか?」

シタッパ 「こんな怪しいおっさんを連れて行ってくれるのか?」

ミツル 「それ矛盾してますよ? さっき怪しくないって言っていたじゃないですか」
ミツル 「構いませんよ、僕は怪しいとは思っていないし、ひとりだと寂しいから」

少年は前を向いているのでどんな顔をしているのかわからないがきっぱりそう言う。
なんていうか、少年は単純だった。
汚れを知らないってやつかな…。
ちなみに自分で自分をおっさんと言っているが俺はまだ22だ。
だが、いろんなやつにおっさん扱いされてきた。
そんなにふけて見えるのか?

ミツル 「カイナまでですけどよろしくお願いしますねシタッパさん!」

少年はくるりと振り返り屈託の無い笑顔でそう言った。
その少年の笑顔は俺の人生には全く無いものだった。
ガラにも無く俺はその少年の笑顔を汚させてはいけないと思えた。

シタッパ 「えと…」

ミツル 「ミツルでいいですよ」

シタッパ 「ミツル、よろしく…」

ミツル 「はい…!」

本当に…本当に屈託の無い笑顔。
俺はすぐにまた海の方に顔をやり無言になる。
こいつの汚れを知らない顔がひどく俺には印象深かった。
この速度なら一週間あればカイナにつく。
こいつを利用するというのはあまり俺の心に反するが今は仕方が無い。
そんなこともしなけりゃ大人は生きていけないか…。
俺はただ海を見ていた。
俺にはミツルは眩しすぎる。
せめて俺みたいな歪んだ大人にはなって欲しくないものだ…。




おまけその4 「アクア団のしたっぱ」 完



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