ポケットモンスター サファイア編




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第30話 『Passingpoint―通過点―』





ユウキ (チルットな…チルットねぇ…チルットか…チルットで…チルット!?)

審判 「では、チルット対ケッキング、始め!」
ユウキ 「た、タイム!!」

審判 「た、タイム? え、えと」

センリ 「いいだろう、審判5分」

審判 「わ、わかりました…手早く」

ユウキ 「どうも! こら、チルット!」

チルット 「ソウ、ユウキ、ラスト、ヤミニェ、タスタ?」

ユウキ 「わけのわからんこと言ってないでこっちこい!!」

俺はそう言ってチルットを呼び寄せる。

チルット 「全く、これは世界の常識的言語でやんすよ?」

ユウキ 「そんな異世界の話はいい!」
ユウキ 「いいか! 出ちまったものは仕方がないがお前が負けたらこっちはリーチなんだ!」
ユウキ 「加えて向こうは誰も倒れていない!」

チルット 「そんなの逆転すればいいだけのことっすよ」

ユウキ 「お前が簡単に言うな!」
ユウキ 「お前は案外頭の回転が速い、突飛な行動も取れる(それが裏目に出ることもあるが)!」
ユウキ 「大体はお前のパターンに任せるが、とにかくきばって頑張れ!」

チルット 「気楽に行こうぜ…なんとかなるからさ」
チルット 「これ、ご主人様の言葉っす、まぁ、頑張るっすよ」

ユウキ 「…任せたぞ」

チルット 「…ん」

審判 「もういいですか?」

チルット 「ハル、キハロナラス」

ユウキ 「はい」

審判 「では! はじめ!」

ユウキ 「いけ、チルット!」
チルット 「ハサキカナ、テヤカ、ワ、イハーテス!」

センリ 「いけ! ケッキング!」
ケッキング 「ケッキーン!!」

二匹は場の中央に向かう。
パワーも、スピードも、テクニックも、ウエイトも大きささえも相手の方が上だろう。
勝る物があるとすれば…突飛さか!

チルット (さて、マジでやろうとやらまいとこりゃ命がけっすね…)

センリ 「ケッキング! いあいぎ…!」

チルット 「ダブルドドン波ー!!!」

ケッキング 「ング!!?」

ユウキ 「チルットの『おどろかす』…?」

ケッキングは見事に怯んでいる。
しかし…ダブルドドン波?

チルット 「ふっふ〜ん、動けないんだよね〜ケッキング〜♪」

ケッキング 「!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

ケッキングの顔が蒼白になる。
まるで黒い眼差し睨まれたポケモンか大蛇に睨まれる小動物のようだ…。
そんなに怖いのか…あれが?

チルット 「チ〜チルルチ〜チル〜ル〜チ〜チルル〜…」

ケッキング 「け〜…き〜…ZZZZ…」

センリ 「! ケッキング!」

ユウキ 「おし!」

ケッキングはチルットの『うたう』で眠りにつく。
これはチャンスだ!

ユウキ 「もどれ! チルット!」

チルット 「リュー、ハケサシイシス〜♪」

俺はチルットを瞬時にボールに戻す。
起きる前に確実に倒す!

ユウキ 「でろ! ラグラージ!」

俺は最後の一匹にラグラージを出す。

ユウキ 「気合入れていくぞ! ラグ!」

ラグラージ 「ラーグ!!」

センリ 「くっ…!」

最後の一匹をもう決めたことが後悔か…。
このケッキングのダウンが後悔になるか…。

ユウキ 「ま、気楽にいってみるか!」
ユウキ 「ラグ! 『だくりゅう』!」

ラグラージ 「ラグー!!」

ザパァン!!

ラグラージは口から大量の泥水を出す。
それは眠っているケッキングを飲み込む。

ケッキング 「キ、キン…!?」

ケッキングは目を覚ます。
だが、もう遅い。

センリ 「ケッキング! しょうめ…!」

ラグラージ 「ラァッグ!!」

バキャァ!!

ケッキング 「!!?」

ズシーン!!

ラグラージはすぐにケッキングの懐に入り、腰の入った右フックを浴びせた。
ケッキングは体を一回転させて背中から倒れる。

審判 「ケッキング、戦闘不能!」

センリ 「2撃か…く」

珍しく苦い顔をしている。
だが、これでスイッチはいったかな?
ちょっとでも驕りがあったら勝てないぜ?
もっとも、どんな状況でも俺は勝たせてもらうが。

センリ 「いけ! 『ヤルキモノ』!」

ヤルキモノ 「ヤッキー!!」

ポケモン図鑑 『ヤルキモノ:あばれザルポケモン ナマケロの進化系』
ポケモン図鑑 『高さ:1.4m 重さ:46.5Kg タイプ:ノーマル』
ポケモン図鑑 『じっとしている事ができないポケモンだ』
ポケモン図鑑 『眠ろうとしても体の血がたぎってしまい森中を駆け回らないと収まらない』

ユウキ 「今度はヤルキモノか…」

パパは二匹目にヤルキモノを出す。
ケッキングの進化前だが少々性質が違う。
ヤルキモノはとにかく激しく動き回る。
また、特性『やる気』のせいで眠らない。

ユウキ 「チルットは無理、ラグで押し切る!」

ラグラージ 「ラーグ!!」

センリ 「「いくぞ! ヤルキモノ!」

ヤルキモノ 「ヤッキー!!」

ヤルキモノはやはりやる気満々だ。
あれがやる気なくなってもあれだが…。
性格反転ダケを食わせればってか?

センリ 「ヤルキモノ! 『みだれひっかき』!」

ヤルキモノ 「ヤッキッキー!」

ラグラージ 「ラグ」

ユウキ 「よーく、見ろよ」

ラグラージは冷静にヤルキモノを見定めている。
ヤルキモノは素早い。
しかし、ラグを甘く見ないでくれよ…。

ヤルキモノ 「ヤッキ! ヤルキ!」

ラグラージ 「…!」

ブォンブォン!

センリ 「!」

ラグラージは少ない動きでヤルキモノの動きを見切り、回避する。

ユウキ 「ラグ、『マッドショット』!」

センリ 「かわせ! ヤルキモノ!」

ラグラージ 「ラグゥ!」
ヤルキモノ 「ヤルッキ!」

ラグラージは『マッドショット』を至近距離でヤルキモノに放つがヤルキモノはそれを回避する。
さすがにただでは当たらないか。

センリ 「どういう育て方をしたかは知らないが相当の型破りだな…そのラグラージは」

ユウキ 「そうかね? 普通に育てただけだがな」

もっとも、普通というのが自由気ままにさせることならだが、な。
たしかに、種族によって育て方は変わる。
まぁ、俺はそいつの長所を伸ばすように育てただけだが。

ユウキ 「さて、それじゃそろそろ本気でやれるな、ラグ?」

ラグラージ 「ラグ…」

ラグはコクリと首を縦に振る。
だいたい体は温まったようだ。
俺の方はまだ、もうちょっとって感じだが悪くない。
なんというか本調子じゃないのは本当だ。
だが、戦うのは俺じゃない。
俺は後押しするだけだ。

ユウキ 「いけ! ラグ!」

ラグラージ 「ラーグ!」

センリ 「ヤルキモノ! 『ひっかく』攻撃!」

ヤルキモノ 「ヤーキ!」

ラグは一気にヤルキモノに近づき間合いを詰める。
近づかなきゃ『攻撃できない』もんな…。

ヤルキモノ 「ヤルッ!」

ラグラージ 「ラージ!」

ヤルキモノはラグに『ひっかく』攻撃をするがラグは怯むことなく受け止める。
そして、やや相手に遅れたが右ストレートを放つ。

ボォン!

ヤルキモノ 「ヤッキ!?」

ヤルキモノは頬を掠めてそれを避ける。
風切音から十分倒せる攻撃力を語っている。

ヤルキモノ 「ヤッキ!」

ラグラージ 「ラグ!」

ヤルキモノは危険と思ってか後ろに下がるが、ラグはそれと同じスピードで追いかける。

センリ (至近距離は不利だ! しかし…ヤルキモノは!)

ガシィ!

センリ 「! ヤルキモノ!?」

ヤルキモノ 「ヤル!?」

ラグラージはヤルキモノの腕を掴む。
俺はそれを見て。

ユウキ 「投げろ!」

ラグラージ 「ラーグ!」

ラグラージはヤルキモノを真上に投げる。

ユウキ 「ラグ! 『みずでっぽう』!」

センリ 「脇を固めてガードだ! ヤルキモノ!」

バシャアア!!

ラグは真上に『みずでっぽう』を放つ。
ヤルキモノはガードを固めてこらえる。

ユウキ 「…わかるだろ? 次の手で終わるぜ?」

センリ 「……」

俺はあえてパパにそう言った。
しかし、パパはだんまりを通す。
…わかっているだろうに。

ユウキ (ま、情けをかけるつもりは今はないが)

結論は下す。

ユウキ 「ラグ! 落ちてきた所を蹴れ!」

センリ 「ヤルキモノ! ラグラージの体を蹴れ!」

ラグラージ 「ラグ!」
ヤルキモノ 「ヤッキ!」

ラグはヤルキモノを蹴ろうとするがヤルキモノはラグの体を蹴ってその反動で逃れる。
所詮は付け焼刃…。

ユウキ 「『どろかけ』だ!」

ラグラージ 「ラージ!」

バシャ!

センリ 「ヤルキモノ!?」

ヤルキモノ 「ヤキ!? ヤルキッ!?」

やはり、空中に浮き避けられないヤルキモノにラグは『どろかけ』を放つ。
ヤルキモノは目に泥が入り、地面への着地を失敗する。
俺は容赦なく次の命令を下した。

ユウキ 「ラグ! 『だくりゅう』!」

ラグラージ 「ラーグ!!」

ザァパァア!!

ヤルキモノ 「や〜るき〜…」

審判 「ヤルキモノ、戦闘不能!」

センリ 「よくやった…ヤルキモノ」

パパはヤルキモノをボールにもどす。
次のポケモンはなんだ…?

センリ 「いけ! ケッキング!」

ケッキング 「キーング!」

パパが最後に出したのはケッキングだった。
まさかもう一匹用意しているとは思わなかった。
ケッキングにしろヤルキモノにしろジョウトでは使っていない。
まだ、ゲットしていなかったポケモンだ。
当然、どのような戦いをするかはわからない。
まぁ、こっちのやり方を通すしかないな。

ユウキ 「ラグ、戻れ!」

俺はラグをモンスターボールに戻す。
ケッキングが相手ならチルットの方がいいだろう。
ヒットアンドウェイは明らかにチルットの方が向く。

ユウキ 「いけ! チルット!」

チルット 「またまたやってきましたチルットでやんす〜♪」

ユウキ 「チルット! 『うたう』だ!」

チルット 「御意ーっ!」

センリ 「ケッキング! 『さわぐ』!」

ケッキング 「ケーッキン! ケーッキン!!」

チルット 「なんとぉー!?」

ユウキ 「くぅ…」

ケッキングは騒ぎ始める。
こんな状態ではおちおち歌うこともできない。
どうやらヤルキモノからしっかり継承しているようだな…。

ユウキ 「なら、『みだれづき』だ!」

チルット 「やー! たぁー!」

それならばと俺はチルットに攻撃を命令する。
ケッキングはかわすことも攻撃することもできはしない。
それが『なまけ』だ。

センリ 「く! 『ひっかく』攻撃!」

ケッキング 「キーン!」

ユウキ 「上昇だ!」

チルット 「キィーン!」

ケッキングはやや遅れてチルットに襲い掛かる。
しかし、時既に遅し、チルットは上昇してケッキングの攻撃をかわす。

ユウキ 「『なきごえ』!」

チルット 「チィルー!」

センリ 「くっ! 怯むな!」

ケッキング 「キーン!」

安全に戦えば時間はかかるかもしれないが間違いなく勝てる。
空を飛べるチルットは有利だ。

センリ 「やむをえまいな…」

ケッキング 「キン…」

チルット 「…チル…?」

ユウキ 「…?」

空気が変わった…?
チルットも本能的に悟ったか動きを止めた。
なんだ…この違和感…。
まるで、感じたことの無い感覚だ…。
覚悟でもない…捨て身…?

ユウキ 「よくはわからんが…チルット! 『つつく』!」

チルット 「チルーっと!」

ケッキング 「んぐ!」

センリ 「ケッキング!」

ユウキ 「なんかされる前に離れろ!」

チルット 「チルット!」

チルットはその場から上昇する。

センリ 「『はかいこうせん』だ!!」

ユウキ 「なっ!?」

ケッキング 「ケッキンー! グー!!」

ドガァンン!!

ケッキングの口に集まったエネルギーは真上に飛んだチルットの向けられる。
幸い、外れて天井に穴が開いただけだが当たっていたらチルットは終わりだったであろう。

ユウキ 「だが」

ハズレはハズレ。
当たらなかったのはパパの不運だ。

ユウキ 「チルット、『みだれづき』!!」

チルット (な〜んか、まだ嫌な予感が残るっすけど…)
チルット 「やるっきゃね〜っす!!」

ケッキング 「キンキンーッ!!?」

いくらチルットの攻撃力が低くても重ねられればダメージは蓄積する。
ここは落としにかかった方がいい。

センリ 「ケッキング! 『からげんき』!」

ユウキ 「えっ!?」

パパはある意味とんでもない技を宣告する。


からげんきは空元気。
『状態異常』なら絶大な攻撃力を出す。

だが、今は…!?

ケッキング 「キングッ!」

チルット 「しまっ!?」

バシィ! ドガァ!

ユウキ 「チルット!?」

審判 「チルット、戦闘不能!」

チルットは一瞬反応が遅れて『からげんき』をモロに受けてしまった。
思ったより『はかいこうせん』からの復帰が早かった。
まさか…『はかいこうせん』の『反動』が狙い…?

ユウキ 「ちぃ…もどれ、チルット」

俺はチルットをモンスターボールに戻す。
結局、ラグで3匹か。

ユウキ 「いけ! ラグラージ!」

ラグラージ 「ラァーグ!!」

パパのケッキングは思ったよりダメージを負っている。
こちらのラグはダメージそのものはほとんどないが、さすがに疲れを感じはじめている。

センリ 「これが最後か…」

ユウキ 「……」

さて、そろそろ覚悟がすえてきたかな…?
やっと、やる気になってきた。

ユウキ 「…ふぅ。よし、ラグ! いくぞ!」

ラグラージ 「ラーグ!!」

センリ 「ケッキング! いけ!」

ユウキ 「ラグ! 全力だ!」

ケッキング 「キーング!」
ラグラージ 「ラグッ!!」

二匹のポケモンはバトル場の中央でぶつかり合う。
技は使っていない。
まずは力比べか!

ラグラージ 「ラグ…ゥ…」

ケッキング 「キン…」

センリ 「むぅ…」

ユウキ 「よし、力負けしていない」

種族的能力ではケッキングの方が上だがラグは互角に持ち込んでいる。
なら、勝てる!

センリ 「ケッキング、『からげんき』!」

ユウキ 「ラグ、なにもするな!」

ケッキング 「ケッキンー!!」

ケッキングは張り手の要領でラグを攻撃する。
しかし。

ドカァ!!

ラグラージ 「ラァグ…」

センリ 「!?」

ラグラージは平然とはいかずともそのまま受け止める。
なるほど、そのままでも必殺の一撃だな…。

ユウキ 「だが! 『たいあたり』!」

ラグラージ 「ラージ!!」

ドカァ!!

ラグはケッキングに思いっきり頭から『たいあたり』する。

センリ 「くっ、持ち直せケッキング!」

ユウキ 「まだだ! 『どろかけ』!」

ラグラージ 「ラァ!!」

ケッキング 「キン!?」

まず、ケッキングの目を潰す。
しかし、まだ終わらない。

ユウキ 「『マッドショット』!」

続いて、足。
ラグのマッドショットは足にぬめりつく。

センリ 「くっ!? ケッキング、『はかいこうせ…!」
ユウキ 「『だくりゅう』!」

押す時は押す!
すでにチェックメイトだ!

ケッキング 「キィン…キィン…グゥ〜…」

ドサァ!

審判 「ケッキング戦闘不能! よって勝者ユウキ!」

ユウキ 「ふぅ…おしっ!」

やっと、通過した…そんな感じだ。
すでにバッジも貰っていないのにおもわずガッツポーズを小さく取ってしまっている。

センリ 「負けたか…ふっ、まさかもう追い抜かれてしまうとはな…」
センリ 「いつの間にか、子供っていうのは大人の知らないところで大きくなっていくんだな…」

ユウキ 「どうかな…? ただ、今回は絶対に勝つつもりだったからね」

俺は左目を閉じながらそう言った。
するとパパは小さく笑っていた。

センリ 「ふっ、私もまだまだだな…」

ママ 「はーいはいはい! しんみりムードそれ位にして今日はおいわい!」

ユウキ 「ママ!?」

センリ 「ママ…」

突然、襖(ふすま)をあけて入ってきたのはママだった。

ママ 「ユウキが帰ってきた、アーンド! ユウキのパパ越え記念!!」
ママ 「今日は張り切るわよー!!」

ユウキ 「ママ…」

嬉しいには嬉しいが恥ずかしい…。
親ばかか…。

センリ 「まさか、朝から忙しそうにしていたのはそのためか…?」

ママ 「当たり前でしょ♪」

センリ 「初めから私の勝利は考えに無かったわけか…」

ママ 「ママにはわかっったもーん♪ ユウキはかならず勝つって!」

ユウキ 「…かったる」
センリ 「……」

なんか、今日のママはやたらにハイテンションだな…。
ちょっとついていけない…。

ユウキ 「ま、いいか」

とりあえずそう思っておく。
今日くらいただただ喜んでおこうか…。



…………。
………。
……。



そして、その夜…。


ママ 「さぁ、今日はご馳走よ♪」

ユウキ 「あ、はは…」

センリ 「ふ…」

さすがに苦笑してしまう。
母さんも超張り切ってジムメイトまで誘っての大晩餐会になっている。
しかし、それそのものは別にいい。
何が苦笑の原因かというとやはりパパだ…。
まさか、自分を負かせた相手を祝わないといけないのだからな。
さすがにパパのジムリーダーとしての心を考えると素直に喜べない。
俺って何かと気苦労しているよな…。

ユウキ (へんに賢いのも考えもの…)

苦笑するしかないな…今回は…。

センリ 「ほら、もっと食え、今日の主役はお前なんだ」

ユウキ 「…あ、ん…」



………。



ラグラージ 「いやぁ〜…苦労した…」

戦いの終わったポケモンたちはジムの屋敷の縁側でくつろいでいた。

チルット 「いたた…まだ背中痛いっす〜…」

コドラ 「あらあら、ご愁傷様ですねぇ〜♪」

コータス 「でも、無事でよかったですね♪」

サーナイト 「でも、グラエナさんは大丈夫でしょうか…?」

ラグラージ 「重傷だろ…あのケッキングの強烈な一撃をモロ受けちまったんだぜ?」

グラエナだけはここにはいない。
ジム戦で大きな怪我を負い、ポケモンセンターに預けられてしまった。

チルット 「五体満足なだけマシっすよ…でも」

コドラ 「グラエナさんはここでリタイアですねぇ〜♪」

サーナイト 「ついに、グラエナさんも…か」

ラグラージ 「古参は俺とサーナイトだけになったな…」

チルット 「補充員はリリーラっすよね」

コータス 「そうですね」

ラグラージ 「あいつ、結構不気味なんだよな…」

チルット 「なに考えているかさっぱりっすからね…」

サーナイト 「あはは…ん?」

コドラ 「あらぁ〜?」

サーナイトが晩餐の開かれている部屋の方を見ると食器を持ったユウキが近づいてきていた。

ユウキ 「お前ら、晩飯だ」

ユウキはそう言って大皿を二枚ポケモン達の手前に置いた。

ユウキ 「母さんが作った料理だけど、食べとけ」

サーナイト 「はーい」

ラグラージ 「腹はしこたま減っている、今日は食うか!」

チルット 「同感っす♪」

ユウキ 「ふっ、お前ら…ご苦労な…」

ラグラージ 「ん…」

チルット 「ういうい」

ユウキはそう言うとまた、部屋の方へとゆっくり歩いて向かった。
部屋の中からはユウキの母親が手招きをしている。
ユウキは頭をポリポリと掻くと足早に向かうのだった。

しかし、部屋に入る直前、ユウキは立ち止まり空を見上げる。

空はよく晴れ、星が光り、月が明るく地を照らしている。

ユウキ (やっと…第二のスタート地点に着いたな…)
ユウキ (やっと…やっと…過去の清算が出来たな…)

ママ 「ユウキ、はやくはやくー!」

ユウキ 「はーいはいはい」

ユウキは小さく笑むと賑やかな祝いの中に入っていった。




ポケットモンスター第30話 『Passingpoint―通過点―』 完






今回のレポート


移動


トウカシティ


11月13日(ポケモンリーグ開催まであと108日)


現在パーティ


ラグラージ

グラエナ

サーナイト

コドラ

コータス

チルット


見つけたポケモン 45匹




おまけ



その30「崩れ」




ユウキ 「…ほんと、こっちの空は綺麗だな…」

俺は風呂を上がった後縁側に座り込んで空を見ていた。
まるで都会であることを忘れさせてくれるようなこの綺麗な空…。
特に見栄えのあるわけでもない。
星の絨毯というには星は少ない。
ただ、綺麗だな…そうとは思えるけど。

ママ 「ユ〜ウキ!」

ユウキ 「ママ…?」

突然後ろから顔を覗かせてくる。
俺は顔を下ろしてママの方を見る。

ママ 「夜は結構冷えるわよ、そろそろ部屋で寝なさい」

ユウキ 「うん」

もう季節も11月、確かに夜は寒い。
こっちに来た当初はあんなに暖かかったんだがな…。

ユウキ 「そろそろ寝よ…」

ママ 「久し振りにママと寝る?」

ユウキ 「冗談でもよしてくれ…」

俺はそう言うとさっさと部屋に向かうのだった。



………。



世界は変わる…。
世界は回る…。
世界は巡る…。


『アア…巡ル巡ル…ドンナニ時ハ過ギテモ』


空は美しい…。
空を輝かせる月…。
地を照らす月…。
水面にその美しき姿を写す月…。
歪でありながら…真を描く…月…。


『ドンナニ時ハ過ギテモ…月ダケハ変ワラナイ…ロクセンネン…カワラナイ』


6000年…そう、6000年。
私の意味は6000年前生まれた…。
私の価値は6000年前起きた…。
私は…6000年間存在さえ出来なかった…。


『ドンナニ時ガ変ワッテモ…私ノ存在意義ハ変ワラナイノネ…』


私は世界に不要な存在…。
神に反逆する存在…。
ただ、『Delete』するだけ…。


『何故ッテ…? ソレハ不要ダカラヨ…』



いつまでも/どこまでも
必要な/不要な
現/虚
  私は/ワタシワ
真実/空虚
いつまでも/どこまでも
ただ/ただ



『私ハ…世界ヲ裏切ルダケ…』





………………。



ガサ…。

サーナイト (…ん?)

近くで物音がする。
誰か起きたのだろうか?
僕は目を凝らして物音のした方を見た。

コドラ 「どんなに時が過ぎても変わらないのは月くらいかしら?」

サーナイト (コドラ…さん?)

どうやら、コドラさんのようだ。
て、コドラさんどこへ行くんだろう…?

サーナイト 「トイレ…? いや、ちょっと違うかな…?」

コドラさんは屋敷に入っていった。
なんだろ…なんだか気になるな…。

僕はこっそりとコドラさんの後を追った。



コドラ 「時は有限なり…」
コドラ 「闇夜の空は蒼く…」
コドラ 「月は赫く染まり…」
コドラ 「地は雪のごとく…」
コドラ 「神に愛される者…神に尽くす者…」
コドラ 「儚き者…ただ…散るのみ…」

私はゆっくり草木さえも眠る丑三つ時にユウキの部屋に向かう。

ギギィ…。

ユウキ 「……」

ユウキの眠る部屋に入るとユウキはぐっすりと眠っていた。
寝顔を覗くとまるで子供のようにぐっすりと眠っている。
ふふ…可愛い物ですわね…まだまだ子供なのだから当然でしょうか…。

コドラ (それでも…すでに危険な存在…)
コドラ (『我々』の存在さえも…脅かす…神に愛されし者…神に尽くし者…)

私はユウキから少し離れる。

コドラ 「だからこそ…消えなければならない…」

危険分子は即『削除』。
不幸な物よね…あなた生まれる前から…『Delete』されるべき存在だもの…。

サーナイト 「コドラさん…?」

コドラ 「…!?」

突然後ろから声をかけられた。
後ろには驚いた顔のサーナイトがいた。
まさか…付けられていた?
それとも、気付かれた…?

コドラ 「あらぁ〜? サ〜ナイトさん?」

サーナイト 「どうしたんですか、こんな深夜に?」
サーナイト 「何か…今のコドラさん変でしたよ?」

コドラ 「そうでしょうか〜? 私はただ、ユウキの顔を身にきただけですよ〜…」
コドラ 「でも、もう戻りますね〜」

どうやら…今回は命拾いのようですね…ユウキさん…。
今、ここでサーナイトを消すことは可能でしょうけど、それではあなたに私を消されませんからね…。
サーナイト…これもあなたの主を護る本能でしょうか…?



サーナイト 「…なんだか、とても胸が痛いよ…」

何でだろう…ただただ、不安が僕の心を塗りつぶす。
まるで、日常が根底から崩されるようだ…。
単なる不安からくる妄想だろう…それは間違いないと思う。
でも、この不安はどこから来るんだろう…?


おまけその30 「崩れ」 完



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