ポケットモンスター サファイア編




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第40話 『闇影』





ラルド 「よう、エメル」

気軽に話しかけてくる白髪の一人の少年。
相変わらず能天気な奴だな…。

エメル 「…どうした」

俺はいつものことなのでいつもどおり返事をする。

ラルド 「…相変わらずここは陰気臭いねぇ…」

エメル 「当然だ…霊験豊かな土地だからな…」

ラルド 「そして、カイオーガの拠点の近く…か」

エメル 「…『エミィ』は?」

ラルド 「エミィならキスイ先生のところにいるよ」

エメル 「そうか…」

俺たちの言うエミィと言うのは俺たちの軍医の『人間』の少女だった。
彼女は明るく、そしてラルドの初恋の相手だった…。

エメル 「これから大きな戦いが続く…少しでもエミィと一緒にいてやったらどうだ?」

ラルド 「へっ、相変わらず心配性だな」

エメル 「そうじゃない…」

ラルド 「わかってるよ…お前、遠慮しているんだろ?」

エメル 「遠慮…?」

ラルド 「知っているぜ、お前もエミィのことが好きなことくらい…」

エメル 「好き…か、わからない」

ラルド 「間違いねぇよ、だって俺たちは…」

エミィ 「ラルドー! エメルー!」

ラルド 「おっと、呼んでる」

エメル 「……」

ラルド 「俺達、親友だしな!」



? 「…さん! シャドウさん!」
アクア団員 「シャドウさん!」

シャドウ 「…『現実』(いま)か」

俺は夢から引き戻される。
まさか、今になってあんな昔の夢を見る羽目になるとはな…。
どうして今になってあんな夢を見てしまうのか…。

シャドウ 「今、何日だ?」

アクア団員 「え? えと…たしか12月7日だったと思いますけど?」

シャドウ 「そうか…」

そうか、だからか。
気がつけば…あれから6000回目のあいつの命日が来てしまったんだな…。

聖緑 『シャドウさん…あまり気負いせず』

俺の神槍『聖緑』はあくまで俺を気遣ってくれる。
今はさすがに銃刀法違反という『人間』の法律があるためどうどうと聖緑を外気の元にはさらけ出せない。
一応布で包んで隠している。
最初はアクア団の団員達も怪しんでいたな…。

シャドウ 「アオギリはまだ到着しないのか?」

アクア団員 「はい、もうしばらくかかりそうです」

シャドウ 「そうか、で、なんで起こした?」

アクア団員 「あ、いえ、実は皆がサファリパークに行きたいって…」

シャドウ 「行けばいいだろう」

俺はそう言う。
別に作戦がすぐに始まるわけじゃない。
今日一日遊ぶくらいの時間はあるだろう。

アクア団員 「ああ、いいですかね? じゃ、みんなと行ってきますね!?」

シャドウ 「羽目をはずし過ぎないようにな…」

そう言うと団員ははいって元気に言ってテントの外に走って出た。
俺はけだるい体を起こして立ち上がり、テントの外に出る。

エメル 「…相変わらず、辛気臭い場所だな…」

なんてことだろうな…今日に限ってラルドみたいなことを言っている。
俺は今、120番道路でベースキャンプを張っていた。
テントの外に出ると海を挟んでひとつの小さな島がある。
その島には取り付く場所はほとんどない。
何故なら島…というよりは山が海に沈んだ形だからだ。
そのため、そこは島ではなく山と呼ばれている。
そしてそこは…『送り火山』と呼ばれている…。

シャドウ (送り火山の霊力が俺に何かを伝えているのか?)

いくら『エミィの命日』だからといってあんな夢を見るだろうか?
それならこれまで幾度と無くこの日は過去の夢を見たはず。
…しかし、こんな事態はあまりに久し振りだ。
…何か嫌な予感がする…。

シャドウ (奴らが動いたか…しかし、どうする?)

ザンジークが動いている…今もどこかで暗躍しているのは確かだ。
だが、何をどこでどうしているかはさっぱりわからん。
ユウキは…?

シャドウ (そうだ! ユウキはどこだ!?)

聖緑 『ユウキさんは120番道路の北部…そこを歩いています』

シャドウ (力を使えば2時間あれば確実に到達できるな)

俺は周囲を見渡す。
人気はまったくない。
隠れた気配も探ってみるが周囲100メートル以内に入るのはサファリパークの中のようだった。
俺はそれを確認すると迷わず『力』を使う。

シャドウ 「フォルム!」

俺の力はウイングフォルム。
その名の通り翼のフォルムだ。
俺の背中には白い…真っ白な力の塊である一対の大きな翼が生えている。
俺はそのまま飛ぶ。
そして、120番道路の北部を目指すのだった。



…………。



『12月7日:13時24分 120番道路』


エリートトレーナー 「ミロカロス! 『みずのはどう』!」

ミロカロス 「ミィロー!!」

ユウキ 「ラグ! かわして『マッドショット』!」

ラグラージ 「ラグー!」

ラグは敵のミロカロスの『みずのはどう』を回避すると回避と同時に『マッドショット』を叩き込む。
さて、早速だが俺たちは今エリートトレーナーのヤエコと戦っていた。
ヤエコは強い、といっても俺のレベルよりは1つ下だ。
ただ、ここら辺では最強だなって所だ。
なにしろこのミロカロス…。

ヤエコ 「ミロカロス! 『じこさいせい』!」

…を使うからだ。


じこさいせいは自己再生。
戦闘レベルで自分の怪我や体力を回復して技だ。
回復までに若干時間がかかるからその間に倒すべきだ。


ユウキ 「二度も同じ手が通用するか! 『とっしん』!」

ラグラージ 「ラグらー…!!?」

ユウキ 「!? どうした、ラグラージ!?」

突然、ラグラージの体が止まる。
一体何が起こった!?

ヤエコ 「ミロカロス! 『みずのはどう』!」

ユウキ 「くっ!? ラグラージ、『まもる』!」

ラグラージ 「ラージ!」

ラグラージはその場から動かず『まもる』を使う。
相手はまた回復してしまった。
それにしてもさっきのラグはどうしたんだろうか?

ユウキ 「まぁいい! ラグラージ! 『マッドショット』!!」

ラグラージ 「ラグー!」

ズパァン!!

ミロカロス 「ミロォ!? ミロ〜…」

ヤエコ 「ああっ!? ミロカロス!?」

ミロカロスはついにダウンする。
まったく、苦労させる。

ヤエコ 「私のミロカロス、耐久力には自信あったのに2発耐えなれないなんて…」

ユウキ 「まぁ、ラグラージ種っていうのは攻撃力が高いからな」

ラグラージ種は比較的に言えば全般的に力自慢が多い。
当然だろう。

ヤエコ 「ううん、あなたのポケモンのレベル逸脱しているわ」
ヤエコ 「私、四天王とも一度戦ったことがあったけど同等に力を感じたわ」

ユウキ 「四天王レベル? 買いかぶりすぎだな、そりゃ」

ヤエコ 「まぁ、さすがにまだそこまで到達していないにしろ恐ろしいほどの力を秘めているわ」
ヤエコ 「それにしても、さっき一瞬ラグラージに異変があったけど?」

ユウキ 「ああ、たしかに」

本当なら二回目の『じこさいせい』のとき『とっしん』でけりがつくはずだったのだが何故か途中で止まった。

ユウキ 「一体どうしたんだ? ラグ?」

ラグラージ 「ラググゥ〜…」

ラグラージは何故か神妙な顔をした。
もともと、俺に一番にて何とかなるさ的性格のコイツが戦いが終わってもこんな顔するとは。

ヤエコ 「もしかして…戦いのリズムを度忘れしちゃったんじゃない?」

ユウキ 「はっ? ラグ…あの木に『とっしん』してみろ」

俺は試しにラグラージに『とっしん』を命令する。
しかし、ラグは。

ラグラージ 「ラグラグッ!!」

ラグラージは首を横に振るのみ。
マジか…?

ユウキ 「『とっしん』をド忘れっすか? じゃあ、『マッドショット』!」

ラグラージ 「ラグー…!?」

…でない。
『マッドショット』が出ない。
もしかして、これも度忘れ!?

ユウキ 「じゃあ!」



………。
……。
…。



…結局、ラグラージはとんでもないことに『だくりゅう』、『まもる』、『マッドショット』、『とっしん』、『どろあそび』、『がまん』が使えなくなった。
使えるのは基本技の『たいあたり』、『なきごえ』、『どろかけ』、『みずでっぽう』と秘伝技の『なみのり』と『かいりき』だけだ。

ユウキ 「なんたるこっちゃー!?」

なんと、ラグラージさんほとんどの技が使えなくなってしまいましたぞ!?
これは予想外の大ダメージ!?

ヤエコ 「どうしてかしら?」

ユウキ 「お前の身に何があったんだ?」

ラグラージ 「ラ〜ジィ〜…」

ラグラージは酷く落ち込んだまま首を横にふった。
わからない…か。
次覚えるのは『じしん』だよな?
もしかして、これが関係しているのか?

ヤエコ 「もしかして、自分の力が強くなりすぎて一時的に力をセーブしているんじゃないかしら?」

ユウキ 「え?」

ヤエコ 「ごくごく稀にあるらしいの、ポケモンが無意識下に力をセーブしてしまう現象」
ヤエコ 「恐らくもうすぐじしんを覚えるレベルでしょ、あなたのラグラージは」
ヤエコ 「じしんを使うくらいのレベルのラグラージって四天王のポケモン並みのレベルよ?」
ヤエコ 「その力ってその気になったらひとつの街を半分は壊滅させられるくらいの力よ…だからセーブしちゃうの」
ヤエコ 「自分の力が本能的に怖いってことね、これは治しようが無いわ…」

ユウキ 「…力が怖い、か」

確かに、ラグラージが自分の力に恐れても仕方ないかもしれない。
それほどの力なんだろうな。
正直俺だって、自分の『フォルム』の力が怖い。
その気になったらこの国を滅ぼせるんじゃないかって位の力だからな。
ラグラージは普段はいつもダレていて、呑気にしているが、意外と繊細だったのか。

ヤエコ 「心の問題だから、きっかけがあればきっと治るはずよ」
ヤエコ 「しばらく、バトルは控えた方がいいかもね」
ヤエコ 「私のような各下ならともかく」

ユウキ 「いや、そんなことは…」

ヤエコ 「気遣いなんていらないわ…悔しいけど、今のラグラージにだって勝てないかもしれないんだから…」

ユウキ 「……」

敗者を勝者が慰めるは屈辱以外に何物でもないか…。
ならば、ただ覇道をいくのみか。
しかし、これは逆だな…。
弱い相手と戦えば余計に自分の力に恐怖するかもしれない。
むしろ強い相手と戦って絶体絶命に追い込まないといけないかも。
…トレーナー戦は控えになってしまうな。
この調子ならサーナイトも同じ症状が出そうだ。
むしろ奴の方が出る確率が高そうなんだがな?
チルタリスやボスゴドラは大丈夫だろう、あれでいて自分を理解しているうえ歯止めの効かない奴らだからな。
ラグラージ…やっかいなことになったな。

ヤエコ 「私は一旦ヒワマキに行くわ、さようなら」
ヤエコ 「うんと強くなったらまた挑ませてもらうわ」

ユウキ 「ん、進言ありがとう」

それで俺たちは別れる。
はぁ、どないしましょ…?



…………。
………。
……。



チルタリス 「うりゃー! チルタパンチ! チルタフック!」

ラグラージ 「ちぃ…!?」

チルタリス 「うはは! 弱い! 弱すぎる! これが我々のエースか!?」

コータス 「ラグラージさん苦戦していますね〜」

ボスゴドラ 「こりゃ、マジでやばそうね…」

チルタリス 「チルタカエル!!」

ボスゴドラ 「調子に乗りすぎ!」

チルタリス 「ぎゃぷらばっ!?」

たまらずボスゴドラのラリアットがはいる。
チルタリス…リタイア。



ユウキ (…だめだな、こりゃ相当根が深そうだ…)

技がまともに使えないというのも問題だがそれ以上に気負いすぎている。
いわゆる相乗効果か…。
まいったね…どうやって治療したらいいもんか?

ちなみに俺は夕暮れ時、野戦キャンプを張っていた。
ようするに野宿だな…今日は。

ラグラージ 「ラグラ〜…」

ユウキ (おまけに落ち込むし…)

もしかしたら知らず知らずラグにはプレッシャーがかかり続けてきたのかな?
ナギさん戦では出場しなかったが、何かとラグにたよる局面は多かった。
それゆえにこんな事態を招いたのかも…。
他のポケモンたちもそれぞれ自分達なりにラグを気遣っているようだが、ラグには逆効果かもしれない。
チルタリスに至ってはあざ笑っている気さえする。

サーナイト 「マスター…ラグラージさんどうなっちゃうんでしょう?」

ユウキ 「時間が治す…そう思いたいね」

はっきり治るっては言えなかった。
いかんせん治し方が無いんだから…。
ただ、きっかけを待つしかない。
治るきっかけが何なのかはわからんが…。

サーナイト 「ラグラージさん、自分わからないようになっちゃったんですよね…」
サーナイト 「まるで浮き足立ちで…片肺飛行のエアブレーンにも等しいですよ…」
サーナイト 「そりゃ、たしかにラグラージさんの力って突出しているし、強いけど…」
サーナイト 「ラグラージさんが気にしなくても、僕たちが、なによりマスターが側にいるのに…」
サーナイト 「だから、そんなに気にしなくてもいいのに…」

ユウキ 「…たしかにな」

今は悩ますしかないか…。
その内わかるだろう…自分の力がどんなに恐ろしくても俺達が助けてやるって。
俺たちは仲間なんだ、大切な…そう、大切な…。

ユウキ 「お前も自分の力が怖くなったりするのか?」

サーナイト 「…怖いですよ、今まで一度たりとも本当の力を使ったことは無いけど、それでも怖いですよ」
サーナイト 「でも、自分の場合、ただマスター守りたい…力になりたいだけですから♪」

サーナイトはそう言って屈託のない笑顔を向ける。
見方次第か。
力は盾にも矛にもなる。
矛盾するようだけど、それが真実…。

ユウキ 「ラグは、その力を矛ではなく盾に使いたいのかもな…」

そう思う。
傷つけるためではなく、守るために使いたい…。
でも、知らず知らずのうちにただ相手を殺傷するために強くなっているのが怖かったのかも。
深層心理はわからんが…。
俺、同様にな…。

リリーラ 「!?」

ユウキ 「? どうした、リリーラ?」

突然、ボーッとしていたリリーラが首をこちらに向けて凝視する。
いや、見ている先が違う…俺の後ろの森?

サーナイト 「マスター!!」

突然サーナイトが森から俺を守るように森に向かって立ちはだかり、構える。
森になに…。

ユウキ 「誰だ…!?」

夕暮れ時、空が赤くなり、暗くなりつつある時間帯。
森の奥に気配を感じる。
殺気がないもんだから気付かなかったが、誰かいる。
はてさて、相手は客人か天敵か?

? 「いい反応だ、ポケモンも、トレーナーも」

ユウキ 「……?」

違和感を感じる。
森の奥には全身を灰色のロープで身を隠した生物がいる。
赤い二つの目を持っている以外露出箇所がないため判別は出来ない。
声は男の物だ。
はっきり言って怪しすぎる。
俺の過去の経歴からこの格好の者は…。

ユウキ 「ザンジークか?」

そう思ってしまう。
しかし、違和感を感じたのはだからだ。
ザンジークを見たときのあの感覚がない。
あの、全て破壊したいといった衝動が微塵も沸いてこない。
単なる変人さんか?
しかし、その生物は。

? 「ほう、いい勘だ、わかるはずがないのにな…」

ユウキ 「!?」

チルタリス 「マスター!」

ボスゴドラ 「ユウキ!」

同時にチルタリスとボスゴドラも俺の前に立ち、壁になる。
ザンジーク…今までのとは違う…。

? 「御初目お目にかかる…私はザンジーク、『ザンジークビショップ』だ」

今度はビショップか。
たかし幻術士とかそんな意味だったな。
なるほど、口調からも理知的なものを感じるな…。

ユウキ 「ひとつ、質問していいか?」
ユウキ 「俺はザンジークを見ると強制的に殺したくなるんだ…」
ユウキ 「それが、どういうわけかあんたを見ても全くその気が沸かない…なんでだ?」

ビショップ 「ふっ、それは私がザンジークであってそうでない存在だからだ」

ユウキ 「?」

ビショップ 「ふっ、余人にはこれ以上語るべきではないな」

ボスゴドラ 「ビショップ…こいつがね」

チルタリス 「一応初めてっすね…」

ユウキ 「知っているのか、お前ら?」

ボスゴドラ 「知っているわ、名前とどんな奴かだけね」

チルタリス 「オイラも…」

サーナイト 「…僕は、知らない…」

三奏の三匹のうち二匹は知っていた。
知らないのはサーナイトだけか。
一体、何者なんだ?

ビショップ 「ふっ、やはりそちら側についたか、ボォウス」

ボスゴドラ 「私は初めっからこっち側よ!」
ボスゴドラ 「それと、今の私はボスゴドラ!」

ビショップ 「ふっ、なんでもいいがな…」

チルタリス 「計算高いあなたの事だ…今のうちにおいらたちを抹殺しようっていう算段っすか?」

ピショップ 「ふっ…、私はそんな無粋なことはしない」

サーナイト 「じゃあ、一体…!?」

ピショップ 「サフィ、君はまだ自我を取り戻していないようだな?」

サーナイト 「サフィ!? それが僕…?」

チルタリス 「今のサーナイトさんはサーナイトさんっす! それ以上でもそれ以下でもないっす!」

ピショップ 「そうか、ならそれでもいい…」
ピショップ 「私が、今回直々に来たのは他でもない…君に会うためだ」

ユウキ 「俺…?」

ピショップは依然ロープで全身を隠しながら俺を指差す。
ナイトは腕が剣だったし、指があるかは微妙だが。

チルタリス 「マスターに何の用っすか!?」

ビショップ 「別に命をとりに来たわけではない…確認に来たのだ」

ユウキ 「!? はやっ!?」

サーナイト 「マスター!?」

突然、ビショップが消えたかと思うとサーナイトたち三人の壁を突破して俺の目の前で顔を近づけていた。

ビショップ 「こう見えてもスピードには自信があってね」
ビショップ 「折角だ、顔くらい見せておこう」

そう言うとビショップは顔のロープをとり始める。

ユウキ 「な…人間!?」

ビショップ 「ふっ、驚くか、驚くだろうな…もっと化け物を想像していただろうから」

それは形こそ人間だった。
ただし、肌の色は銀色で、目は血の如く赤く、髪の毛は白い。
顔はかなり若く20代前半のような顔立ちだ。
美形…ちゃ、美形か。
肌色じゃねぇけど…。

ビショップ 「人間はもっとも進化した種族だ、そして私はザンジークの中でもっとも進化した者」
ビショップ 「この体、この顔立ちは必然だ」

よく見るとビショップはそのどれもが人間のそれと変わらないことに気付く。
一体何なんだ、ザンジークって!?

チルタリス 「くっ!? マスターから離れろ!!」

サーナイト 「マスター!」

ボスゴドラ 「このぉ!!」

ビショップ 「ふん…」

ドガァ!!

ユウキ 「え…?」

三匹は一斉にビショップに襲い掛かった。
しかし、一発の打撃音と共に三匹は別々の方向に吹っ飛んだ。
その攻撃はまるで目で追える物ではない。
一発で三匹を吹き飛ばしたのか…それとも3発…?
どちらにしても、俺の勝てる相手ではない…。

ビショップ 「ふん、何をしても私に触れることさえ貴様らにはできん…」

ビショップはまるでつまらなそうだ。
こいつ…なんて圧倒的なんだ…。

ビショップ 「ふむ、おもったより落ち着いているな」

ビショップは俺を見てうすら笑う。
コイツは殺気がない、殺す気がないのは確かだ。
しかし、それゆえに何を考えているのかさっぱりだ。

ビショップ 「ふ…」

ユウキ 「!?」

ビショップ 「動くな」

ビショップは突然俺の額に手を伸ばしてくる。
俺は動けなかった。
動いた場合…命の保障は出来ない。
同時に、コータスたちも動けないようだ。
リリーラはともかく、コータスやラグラージも恐怖している。

ビショップ 「ふっ、適合か…間違いない」

ユウキ 「何を…うぅ?」

ビショップが手を離すと突然、目の前が真っ暗になる。
それと同時に意識が落ちていく。
睡眠薬でもかがされたの…か?



ドサァ!

サーナイト 「マ、マスター…」

僕は痛い体を起こして立ち上がる。
マスターは突然、倒れてしまった。
一体…何をしたんだ!?

サーナイト 「マスターに何をした!!?」

僕は怒りを込めてそう叫ぶ。
しかし、ビショップはまるで動じない。

ビショップ 「なあに、ちょっとおまじないをかけただけさ」

サーナイト 「おまじない…?」

ビショップ 「ふっ、これ以上話す気はない」
ビショップ 「そろそろ、さら…!?」

ドスゥ!!

突然、ビショップの頭を掠めるように槍が地面刺さる。
いや、ビショップがかわした!?

ビショップ 「まさか…!?」

シャドウ 「…ち」

サーナイト 「シャドウ!?」

それはあのアクア団のシャドウだった。
なぜ、ここに!?

ビショップ 「やはり、貴様か! エメル!!」

シャドウ 「その名は捨てたと、言った!!」

ブウォン!!

シャドウは両手に持った槍でビショップを薙ぐ。
しかし、ビショップは物凄いスピードでそれをかわした。
そして、懐から一刀の刀を取り出した。

ビショップ 「因縁だな…まさか、こんな所で出会うとは」

シャドウ 「そして、最後だ、貴様はここで消滅する」

ピショップ 「ふ、悪いがここで貴様とやりあう気はないんでな」

シャドウ 「貴様の意思など関係ない、貴様は死ぬべき存在だ」

ビショップ 「ふっ、貴様はただ掌上で踊っていればいいのだよ! 影のままな!!」

ビショップはそう言って目にも留まらぬスピードで姿を消す。

シャドウ 「待て!!」

サーナイト 「シャドウさんこそ待って!!」

僕はシャドウを止める。
シャドウは僕に気付いてくれて足を止めてくれた。

シャドウ 「……」

サーナイト 「なんで、助けてくれたんですか…?」

シャドウ 「…別に助けたわけではない、ビショップがいたからだ」

サーナイト 「ビショップを知っているんですか?」

シャドウ 「…俺の抹殺対象だ」

シャドウさんには疑問がある。
なぜ、こんな場所にいるのか。
何者なんだろうか。
いや、それ以前人間か?
背中には純白の翼が生えているぞ!?

チルタリス 「く…エメル…シャドウ…?」

シャドウ 「?」

チルタリス 「そうか、そういうことっすか」

サーナイト 「チルタリスさん?」

チルタリスさんは苦しそうに立ち上がり、シャドウさんを見た。

チルタリス 「どうして、あなたは?」

シャドウ 「…俺には俺の目的がある」

チルタリス 「…マスターの、ユウキさんの敵ですか?」

シャドウ 「今は、な」

チルタリス 「そうっすか」

シャドウ 「今は、お前たちが全力で支えてやればいい…俺はビショップを追う!」

そう言って、シャドウさんはビショップに劣らぬスピードで消える。

サーナイト 「チルタリスさん、あの人を知っているんですか?」

チルタリス 「…いや、初対面っす」

初対面…でも、知っている。
僕だけが何か、何も知らない…。
一体何故僕だけ…?

サーナイト 「あの、シャドウさんは…」

チルタリス 「とりあえず、今はマスターの敵っす」

チルタリスさんはそう言ってマスターの側に寄る。
やがて動けなかった皆も一斉に倒れたマスターの側に寄った。

チルタリス 「マスター、大丈夫っすか?」

チルタリスさんは心配そうに言った。

ユウキ 「…大丈夫だよ、一応な」

ボスゴドラ 「ユウキ…!」

サーナイト 「マスター! よかった…!」

マスターは意識を取り戻した。
しかし、だるそうにしている。
どうしたんだろう…?

ユウキ 「畜生、なんなんだよ…」

マスターは何やらふてくされていた。
そして。

ユウキ 「今日はこのまま、寝る…かったるい」

マスターはそう言うとそのまま寝てしまうのだった。

ボスゴドラ 「もういいや…私も寝よ」

チルタリス 「そうっすね、自分も寝るっす…」

そういうと、みんなその場で寝転んだ。
もう、雨降ったらどうするんだろう?
まぁ、いいかその時はその時…。
僕も…寝よう。




ポケットモンスター第40話 『闇影』 完






今回のレポート


移動


ヒワマキシティ→120番道路


12月6日(ポケモンリーグ開催まであと85日)


現在パーティ


ラグラージ

サーナイト

ボスゴドラ

コータス

チルタリス

リリーラ


見つけたポケモン 48匹




おまけ



その40 「適合」




ビショップ 「ふっ、適合か…間違いない」

ユウキ 「何を…うぅ?」

ビショップが手を離すと突然、目の前が真っ暗になる。
それと同時に意識が落ちていく。
睡眠薬でもかがされたの…か?



…………。
………。
……。



ユウキ (ここは…どこだ?)

気がつくと俺は、見たことのない世界にいた。
空は全体がオーロラで包まれたかのように色鮮やかに、そして変わり変わる。
地面は土のようで、しかし、地面に足をつけているのに浮遊感がある。
みると、いくつもの空に浮かぶ大小様々な島のひとつに自分は立っているようだ。
そして、周りは埃や虫のようにも見える光の玉(ウィルウィスプ)が浮かんだり、泳いだりまるで無軌道だ。
雲はない、生物も無い。
現実感も全くない。
ただ、あるのは俺だけらしい。

ユウキ(ここは夢か?)

明らかに現実ではないというのにそんな疑問詞がでる。
あるいは夢でさえもないかもしれないからだ。
ここは天国…あるいは地獄かもしれない。
しかし、まぁ苦しみや恐怖は全くない。
かといって安堵や気持ちいいといった感覚もありえない。
まぁ、天国とか地獄なんて宗教の元生まれた物であって、天国や地獄を生で語れるものなどいない。
そんな曖昧な存在はまさに虚ろでしかないのかもしれない…。

ユウキ (やっぱり死んだのか…?)

思えば、仕方がないのかもしれない。
相手が悪すぎた…あいつは…ビショップはやばすぎる。
いかに俺が人外の化け物でもあれには勝てる気がしない。
まず、アイツが本気なら恐怖が先立つ。
他のザンジークなら破壊しつくしたいという強烈な反転衝動でごまかせれて戦えるかもしれないが、奴には衝動が起きない。
つまり、『人間』のまま戦わないといけない。
そんなの無理だ。
力は同じでも恐怖は違う。

ザッザッザ…。

足音が聞こえる。
誰だろうか。
また、どこから…?
思えば、他の者はどうしていないんだろうか?
ここが死者の…いうなれば魂の在る場所だとすれば、他の死者の魂があってもいいと思うんだが?
あるいは、この光の玉全てが死者の魂か?
言うなれば…俺以外には人には見えない。
逆に言えば他の死人には、俺が光の玉に見えるのかもな…。

ユウキ (じゃ、この足音の矛盾は何?)

俺はそう思って、後ろを振り向く。

ユウキ 「と、をい…」

俺がいた…。
いきなり、鏡かと思った。
が、そこにいた紛れもなく『俺』なわけだ。
驚いた時間は多分0.7秒未満。
前例あるからな…。

? 「驚かないな…」

ユウキ 「正体…知っているからな」

間違いない…こいつは俺だ…。
力のことも教えてくれたしな…。

ユウキ 「結局お前は何なんだ…?」
ユウキ 「俺以外で答えろよ」

俺は知っている。
俺と同じ顔をしているコイツを…。
昔、人を殺した正体。
ついこの間…煙突山の火口の中にぶっ込んだ時、俺にフォルムの力を教えてなんとか助けてくれた。
やつは言う…俺だと。
矛盾しまくりだ…そろそろ本当の所を教えていただきたい所だ。

? 「ザンジーク…」

ユウキ 「はい?」

ザンジークって…まじ?

? 「『ザンジークイノセント』」
イノセント 「Fake・Rare…そしてInnocent」
イノセント 「これらが、アナザーザンジークといわれる存在…」

ユウキ 「あ〜だこ〜だ言ってもザンジークではあるのか?」

イノセント 「それを言ったらおしまいだがな…」

どうやら、ザンジークらしい。
オーマイガット…まさか、自分の中にザンジークがいるとは。

イノセント 「俺は真祖たるザンジークにキメナであるお前の体に宿らされた」
イノセント 「まぁ、詳しいことはお前は知らないだろうし、教える気もない」
イノセント 「別にボスコドラの中のFakeのように乗っ取ろうなんて気もさらさらない」

ユウキ 「それ、信用できるのかよ…」

ザンジークの時点でいかがわしい。
とはいえ、今まで助けてくれた経歴があるからな…。

イノセント 「信用しろ」

ユウキ 「お前、俺みたいなこと言うな…」

イノセント 「知るか…」
イノセント 「俺は楽しみたいだけだ、特に目的があるわけでもない」
イノセント 「今回、お前に会ったのはきまぐれだ」
イノセント 「まぁ、ここにお前が来るなんて思わなかったしな」

ユウキ 「…ここってどこだ? あと、お前らザンジークの目的はなんだ?」

疑問が多すぎる。
特にザンジーク。
一体何が目的で俺に接触しようとしているんだ?
どうやら、俺は奴らには厄介な存在なようなんだが…。

イノセント 「ここは夢幻の世界…ザンジークの目的はDelete」

ユウキ 「デリート? 何を消去するんだ?」

イノセント 「俺が教える必要はない」
イノセント 「俺はお前の影なり闇なりとして人生を楽しめたらそれでいい…それだけだ」

ユウキ 「ダレてんな…」

イノセント 「ちょっと、事態が変わって面白くなったんでな…傍観者になることに決めたんだ…」

ユウキ 「敵か? それとも味方なのか?」

イノセント 「どっちでもない、言ったろ? 傍観者だって」
イノセント 「さぁて、そろそろお帰り願おうか…どうやってこの世界に来たかは知らないがここはお前が来ていい場所ではない」

ユウキ 「あ、おい…ちょっと!!?」

突然視界がグラっと傾く。
そして落ちる感覚。
畜生…まだ、問い詰めることあるってのに…。
だが、わかったことがある。
ザンジークは一枚岩ではない。
ボスゴドラの中のFakeと呼ばれるザンジーク。
俺の中にInnocentと呼ばれるザンジーク。
俺の前に直接現れたknight、Bishop。
そして、まだ見ぬRare。



…………。



チルタリス 「マスター、大丈夫っすか?」

チルタリスは心配そうに言った。

ユウキ 「…大丈夫だよ、一応な」

ボスゴドラ 「ユウキ…!」

サーナイト 「マスター! よかった…!」

みんなはほっとしたような顔をしている。
こっちはかなりむかつきかげんな上、かなりいらついている。

ユウキ 「畜生、なんなんだよ…」
ユウキ 「今日はこのまま、寝る…かったるい」

ザンジークは組織的に動いている…。
関わりたくもないに勝手に俺を巻き込んで。
勝手に命狙われて、わけのわからない思いをしている。
なんなんだよ、俺はただポケモンリーグを目指しているだけなのに…。
むかつく…。




おまけその40 「適合」 完



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