ポケットモンスター サファイア編




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第54話 『嵐の中で輝いて』





『2月3日 某時刻 海底洞窟 最深部』


ゴゴゴ…ゴゴゴゴゴ…。

シルク 「何の音なの…ねぇ、ユウキ君」

ユウキ 「こすれるような音だな…特定は難しい」

俺たちはシャドウを倒した後、更に奥へと進んだ。
霧が周りを包む。
寒い…と、普通の人間なら言うだろう。
霧の中を歩けば当然服はビショビショに濡れ、そのせいで更に体感温度を下げる。
気温は18℃くらい、しかし体感温度はそれより更に下だろう。

ゴゴゴ…。

そして、岩と岩がこすれるような音。
もう、海底洞窟に入って何時間くらい歩いているんだろうか?
そろそろ、終わりな気はする。
そろそろ…。



カイオーガ 「…………」

シルク 「ユ、ユウキ君…これって」

ユウキ 「カイ…オーガ…!」

最深部、行き止まり…俺たちは霧に包まれた中でカイオーガを発見する。
カイオーガは大きな水溜りの中に沈んだまま、死んでいるかのように静止していた。
水面は小さく揺れており、海につながっているのが伺える。
封印されているようにも見えるな。

アオギリ 「ふ、どうだね、美しいだろう、眠っているカイオーガの姿は」

シルク 「!?」

ユウキ 「アオギリ!?」

突然、俺たちが来た通路の方からアオギリが姿を現す。
アオギリは不敵な笑みを浮かべて俺に近づいてきた。

アオギリ 「これが、古代ポケモン『カイオーガ』か」

アオギリは俺の前に立つと、カイオーガに目を向けた。

アオギリ 「どうやらシャドウは敗退したらしいな」

ユウキ 「そして、あんたも終わりだ」

俺はアオギリを睨んでそう言った。
しかし、アオギリは動じない。

アオギリ 「ふ、子供のする顔ではないな…いや、お前もキメナなら当然かもな」

シルク 「キメナ…?」

ユウキ 「キメナ? たしか、伝説の000番ポケモン?」

しかし、それがなんでここで出てくるよ?
お前も…?
俺がキメナ?

ユウキ 「わけがわからん…」

アオギリ 「ふ、知らんか…まぁ、いい」
アオギリ 「俺はこの日が来るのをずっと待っていた」
アオギリ 「それにしてもまさかここまで追ってくるとはな…」

ユウキ 「……」

アオギリ 「だが、それももう終わりだ!」
アオギリ 「俺の目的達成のため、君にはここで消えてもらう!」

ユウキ 「! でろ! ボスゴドラ!」

アオギリ 「いけ! グラエナ!」

ボスゴドラ 「ボース!」

グラエナ 「ガウ!」

俺は瞬時に後ろに下がり、ボスゴドラを出す。
向こうはグラエナだ。

ユウキ 「アオギリさん、あんたじゃ俺には勝てない」

アオギリ 「ふ、大きく出たな」

ユウキ 「俺はトレーナーとして多くの戦いを経て成長してきた」
ユウキ 「あんたは、トレーナーじゃない、ポケモンバトルなら負けはしない」

アオギリ 「たしかに、俺はトレーナーじゃない、だがな、俺は君より2倍以上の長い時を生きている」

ユウキ 「無駄だ…」

負ける気はしない。
初め、カイナで対峙したときは勝てる気がしなかったのに、今は全く逆だ。
アオギリはトレーナーとして優秀ではあるが、それは一般レベルでだ。
俺が向かう、ポケモンリーグはもっともっと上のレベルの世界。
だが、なんだろうか…?
さっきから嫌な予感がしてならない。

ボスゴドラ 「ボース!!」

ドガァ!!

グラエナ 「グラァ!!?」

気がつけば、ボスゴドラは勝手にグラエナを攻撃し、グラエナを倒している。
俺のポケモンたちはすでに俺の命令なしに的確に攻撃回避防御を行い、戦えるようになっている。
なにも、この戦いに何も危惧するものなんてないはずなのに…。
どうして、不安なんだ…。
ポケモンのレベルもこっちの方がずっと上なのに。
どうして?

シルク 「どうしたの? ユウキ君…?」

ユウキ 「…なんだか変だ」

気がつくと、横からシルクは不安そうに俺を見つめていた。
俺は違和感があるとシルクに言う。

クロバット 「クロッ!」

ポケモン図鑑 『クロバット:こうもりポケモン』
ポケモン図鑑 『高さ:1.8m 重さ:75.0Kg タイプ:毒 飛行』
ポケモン図鑑 『耳を澄まさないと聞こえない程小さな羽音で狙った獲物に忍び寄るぞ』
ポケモン図鑑 『後ろ足の羽で枝に捕まり休む』

ユウキ 「と、ボスゴドラ! 大丈夫か!?」

ボスゴドラ 「ボース!」

アオギリは気がつくとクロバットを出していた。
俺はボスゴドラの状態を見る。
ボスゴドラは元気よく返事をして、ダメージもほとんどなさそうだった。
この分ならまだ大丈夫そうだ。

ユウキ 「よし! このまま行くぞ、ボスゴドラ!」

ボスゴドラ 「ボスッ!!」

アオギリ 「クロバット! 『あやしいひかり』!」

ユウキ 「ボスゴドラ! 『まもる』! そして、『かえんほうしゃ』!」

クロバット 「クロ!」

クロバットは黒っぽい光を放つ。
しかし、ボスゴドラは『まもる』でそれを防ぐ。
そして、すぐさま『かえんほうしゃ』をクロバットにはなつ。

ゴォォォ!

クロバット 「クロッ!?」

クロバットは条件反射でか『かえんほうしゃ』を回避しようとする。
しかし、間に合わず、翼を焼かれる。

アオギリ 「クロバット!?」

ユウキ 「ボスゴドラ! 『メタルクロー』!」

ボスゴドラ 「ゴドッと!!」

ズカァッ!!

クロバットは左翼二枚を焼かれ、落ちた所をボスゴドラの『メタルクロー』を受け、壁に激突する。

クロバット 「クロ〜…」

ユウキ 「おっし!」

続いてクロバットもダウンする。
2連勝だ。

アオギリ 「ちっ! いけ! サメハダー!」

ユウキ 「もう一戦頼むぜ、ボスゴドラ」

ボスゴドラ 「ボスゴッ」

アオギリはクロバットがダウンすると、クロバットを戻し次のポケモンを出す。

サメハダー 「サメッ!」

ユウキ 「サメハダーか…」

なんだか、久しぶりに『通常』サイズのサメハダーを見た気がする。
こうやって見てもどう考えても大きいのに、なぜか小さく見えてしまうのは慣れだろう。
ま、大きさは関係ないんだが。

シルク 「ユウキ君ガンバッテー!」

ユウキ 「たく…ボスゴドラ! 『アイアンテール』!」

ボスゴドラ 「ボッスゴ!」

アオギリ 「跳べ! サメハダー!」

サメハダー 「サメッハ!」

ボスゴドラは接近して『アイアンテール』で攻撃しようとするとサメハダーはその場から3メートルほど飛び上がる。
当然ボスゴドラの攻撃がサメハダーに当たることはない。

ユウキ (いるんだよな! こういうサメハダー! 油断って言葉ほど恐ろしいものはない!)

アオギリ 「サメハダー! 『ハイドロポンプ』!」

ユウキ (げっ!? なんつー技!?)

本来ハイドロポンプはサメハダーは覚えないぜ!?
てことは、遺伝技か!?

サメハダー 「サーメーッハーッ!!」

ドパァァァァァ!!

ユウキ 「ボスゴドラ! 倒れこめ!」

ボスゴドラ 「ちょっ! このっ!」

ドサァ! バシャァン!!

シルク 「あぶな〜、間一髪!」

ボスゴドラはその場から前のめりに倒れこんでなんとか『ハイドロポンプ』をよける。

ユウキ 「よし! 上に『かえんほうしゃ』!」

ボスゴドラ 「お返しよ! このっ!」

ゴォォォォ!

まだ、空中にいるサメハダーはボスゴドラの『かえんほうしゃ』で丸焼きにされる。

サメハダー 「サメサメ〜…」

急所にも当たったらしくサメハダーは焦げながら地面に転がった。

ユウキ 「終わりだ、アオギリ…」

サメハダーも倒れた今、もはやどんなポケモンが来ようとも俺たちを止めることは出来ない。
そして、アオギリもそれがわかっていてか次のポケモンを出す様子は無い。

アオギリ 「ふ…ふふ…、強いな…ポケモンバトルでは勝てないか」

ユウキ 「…?」

シルク 「な、なに? なんで笑っているの…?」

アオギリは負けたにも関わらず不気味に笑みを浮かべていた。
その顔はバトルが始まる前からずっと変わっていない。
奇妙といえば、そのままだろう…だがそれ以上に。

ユウキ (嫌な予感ここに来て最高潮…)

アオギリ 「だが、この勝負勝つのは俺だ!」
アオギリ 「俺にはこれがある!!」

ユウキ 「!!」

シルク 「紅い玉!?」

アオギリは懐から紅色の玉を取り出す。
ここに来てか!
だが、やらせるかよ!

ユウキ 「フォルム!!」

俺はスフィアフォルムを展開する。
使われる前に奪う!

アオギリ 「貴様! やはり貴様もキメナかっ!!」

ユウキ 「わけのわからないことを! 紅色の玉は使わせない!」

俺はスフィアをアオギリに投げつける。

アオギリ 「く…!? ん!? べ、紅色の玉が…!?」

ユウキ 「なっ!?」

突然、アオギリの紅色の玉が突然輝きだす。
紅色の玉が…勝手に輝いている!?

キィィィィィィィンン!!

頭の中に非常に高い周波数の音が響く。
そして、紅色の玉は激しく輝き、この洞窟の中を真紅に染めた。
しかし、光はすぐに消えるのだった。

アオギリ 「な、何が起こったんだ…?」

ユウキ 「……」

アオギリ自身何が起こったか全く理解できていない。
実際俺自身、いまいち状況が不明瞭だ。
だが、最悪の展開は結局訪れるらしい。

ユウキ 「……」

カイオーガ 「……!」

カイオーガの目が俺の方を向く。
こいつ…やっぱり目覚めてる!

(ラル…ド…!)

ユウキ 「!?」

な、なんだ!?
今、こ、声が…!?

不思議に思った瞬間だった。
予想はつくが誰が語りかけたかはわからない。
ただ、俺の頭の中にさっきの言葉が響いた瞬間。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

アオギリ 「!?」

シルク 「キャッ!? じ、地震!?」

ユウキ 「……」

地震は大きく、激しく洞窟内が縦揺れを起こした。
多少、天井が降ってくるがが気にしない。
すぐに地震はやむのだった。
しかし、その時には…。

アオギリ 「!? カイオーガがいない!? どこへ行った!?」

シルク 「き、消えちゃった!?」

ユウキ 「らしいな…」

なんと、地震の間にカイオーガはどこかへ消えたらしい。
やれやれだな…かったる。

ピピピ! ピピピ!

アオギリ 「ん? 外の団員からの連絡か…」

アオギリのトランシーバーに着信がある。
外から連絡らしいが、内容はわからない。
アオギリはすぐにそれにでるのだった。

アオギリ 「どうした…?」
アオギリ 「ふうむ…大雨が降っている…そうだろう」
アオギリ 「それこそが我々アクア団の目的、海を増やすためにカイオーガを目覚めさせた理由なのだからな」

どうやら、カイオーガは外に出ちまったようだな。
遠くからでもトランシーバーから激しい雨音が聞こえる。
激しすぎるくらいの豪雨の音が…。

アオギリ 「なんだと! 予想以上の雨でこのままでは我々も危険だと!?」

危険…とは外のアクア団のことだろうか?
こちらもあながち外れてはいないだろうが、どうやらやばいのは確からしい。

アオギリ 「そんな馬鹿な…とにかく様子を見ているんだ!」

アオギリはそう言ってトランシーバーを切る。
そのアオギリの顔は非常に苦い顔だった。

アオギリ 「おかしい…紅色の玉でカイオーガが目覚める」
アオギリ 「そして、コントロールできるはず…」
アオギリ 「なのに…どうして…カイオーガはいなくなった!? なぜなんだ!?」

ソレハ…オモイアガリ…。

マツブサ 「アオギリ!」

アオギリ 「! マツブサ!?」

突然、マグマ団が現れる。
マグマ団のリーダー、マツブサは2人の部下を連れて現れるのだった。

マツブサ 「なんてことだ…アオギリよ…カイオーガを目覚めさせてしまったようだな!」
マツブサ 「このままでは永遠に雨が降り続ける! このままでは世界は沈むぞ!?」

アオギリ 「なんだと…そんな…馬鹿な…!?」
アオギリ 「俺には紅色の玉がある…これがあればカイオーガをコントロールできるはず…できる…はずなんだ…」

マツブサ 「とにかく今ここで言い争いしている暇は無い!」
マツブサ 「外に出て確かめているといい! 目の前に広がっているのがお前の望んだ世界かどうか!」

マツブサさんはアオギリを連れると外へと急ぐ。

マツブサ 「ユウキ君! 君も急いで外に出るんだ!」

それだけ言い残して大人たちは外へ急ぐ。

シルク 「ユウキ君…?」

ユウキ 「かったる…行くか?」

シルク 「う、うん…」

これがかったるくなかったらなんなんだろうか?
正直怒ったり、悲しんだり、笑ったりするのもかったるい。
ただ、そのせいか今世界は非常にヤバイというのに心は異様に静かだった。

シルク 「ユウキ君…怖くないの?」

ユウキ 「怖くはない、そう思うのさえもかったるい」

シルクは俺とは違い、小さく震えていた。
怖いのだろうな、いきなりこの展開じゃ。
俺なら呆れるばかりだが。
もしかして俺って怒ってる?

ユウキ 「…シルク、大丈夫か?」

シルクはあんまりにも震えているので、さすがに心配になって聞いてみた。

シルク 「ユウキ君…もうすぐ、もうすぐお別れくるよ…」

ユウキ 「は?」

シルク 「さっきの地震のとき、私がこっちの世界に来たのと同じ感覚だった」
シルク 「多分…もうそんなに時間も無いと思う…」

ユウキ 「それってどういうことだ?」

シルク 「…ユウキ君にとって今回の出来事は転機だよ、私にとっても…」
シルク 「そして、いよいよ、運命の誤差が修正されようとしている…」

ユウキ 「……」

シルク 「急ごうユウキ君! カイオーガをとめないと!」

シルクはそう言って走り出した。

ユウキ 「たく…結局シャドウの手のひらの上か…!」

俺もボスゴドラをボールに戻すとシルクを追って走り出した。
シャドウの狙いがこれか…そして、俺がカイオーガと戦うのもシャドウのシナリオ…。
わかっちまうとなおさらかったるい!
だが、やらなければポケモンリーグなんて言ってられない。
やるしかないのかよ!



『同日:某時刻 128番水道』


ザァァァァァァァァ!!!


俺たちは上に上がると、海の上に立っていた。
どういうわけか人5人分くらい立てるくらいに海底洞窟の先端がちょっと出ている。
靴は濡れるがしっかり海の上だ。
はたから見たら異常な光景だろうな。

ユウキ 「痛っ! つーか、まじで痛い!」

俺たちは外に出るやいないや散弾銃の玉でも浴びるかのごとく驟雨にさらされていた。
これが…カイオーガの力か…。

アオギリ 「そんな…馬鹿な…」

マツブサ 「これが、お前の望んだ世界か…?」
マツブサ 「日は雨雲覆われ、光が差すことなく、雨は矢のごとき凶器となり降り注ぎ…」
マツブサ 「雷は絶えることなく落ち、風は全てを吹き飛ばす…やがて世界は全て海に沈む…」
マツブサ 「放っておいても太陽の光を完全に遮っている…太陽の光無しでは地球は寒くなる…」
マツブサ 「もう一度言う! これがお前の望んだ世界か!」

アオギリ 「違う…俺は…こんな世界を望んではいない…」
アオギリ 「俺はただ…」

マツブサ 「とにかく! 今はカイオーガを何とかするのが先決だ! いくぞ!」

アオギリ 「あ、ああ…」

マツブサ 「ユウキ君、君はよくやったよ」
マツブサ 「こうなってはもう子供の出る幕ではない、後は大人たちに任せてくれ」

ユウキ 「…そう問屋がおりてくれるならね」

マツブサ 「ふ、心配しなくてもカイオーガは我々で何とかする」
マツブサ 「君は心配せずポケモンリーグを目指したまえ」

ユウキ 「……」

やがて、アクア団やマグマ団の船が近づいてき、アオギリたちはそれに乗ってどこかへと向かうのだった。

シルク 「私たちもなんとかしないと!」

ユウキ 「てもな〜…どこいるかもわからないのに」

大体、雨痛いし、雷降るし、風吹くし。
ほとんど台風じゃねぇかっ!
つーか、痛いし寒い!

? 「エアー!!」

ユウキ 「は?」

シルク 「な、なに?」

突然、甲高いエアームドの鳴き声が聞こえた。
て、海上にエアームド?

シルク 「う、上!」

ユウキ 「て…!?」

俺は上を見た瞬間、エアームドが急降下してくる。
その背中にはある種懐かしい人が乗っていた。

ダイゴ 「ユウキ君! どうして君がこんなところに!?」

ユウキ 「ダイゴさん…ダイゴさんこそどうしてこんなところに?」

ダイゴ 「僕はさっきアクア団とマグマ団の姿が見えたから気になってきてみたんだ」
ダイゴ 「それにしてもどうなっているんだい? 急にこんな雨が降るなんて…」

ユウキ 「実は、どうもカイオーガが目覚めちまったらしいんです」

ダイゴ 「えっ!? カイオーガが!?」
ダイゴ 「そうか…それで突然嵐が…」

ダイゴさんはそう言うと空を見上げた。
上を見上げれば黒い海…雲が空を覆っている。
大粒の雨が地面に降り注ぎ、強い風も吹いている。
まるで…嘆きのような空だ…。

ダイゴ 「雲は…ルネから出ている…?」

ユウキ 「え? ルネ…?」

シルク 「ルネって…ルネシティ?」

ルネシティ…フウとランの姉弟を破った後、カイオーガ捜索の足がかりとした街だ。
リュウトさんを送った場所でもある。
あの街から雲が?

ユウキ 「まさか…カイオーガはルネに!?」

ダイゴ 「かもしれない…ルネシティには言い伝えがある」

シルク 「言い伝え?」

ダイゴ 「遥か古代のポケモン目覚めしとき、ルネの扉開く…だったかな?」
ダイゴ 「あの街はカイオーガやグラードンと関係あると思っていいのだろう」

ユウキ 「……」

知らなかったな。
まさか、そんな言い伝えがあるとは。
まぁ、知らなくても当然か。
しかし、もしルネシティにカイオーガがいるのなら…。

ダイゴ 「僕はルネシティに行くよ! それじゃまた今度!」

エアームド 「エアー!!」

ダイゴさんはエアームドに跨ると猛スピードでルネへと飛んだ。

ユウキ 「でろ! チルタリス!」

チルタリス 「タリ〜っす」

俺はモンスターボールからチルタリスを出す。

シルク 「向かうんだね! ルネに!」

ユウキ 「ああ! 行くぞチルタリス! 目的地はルネシティだ!」

チルタリス 「了解っす! 行くっすよ!」

ユウキ 「ああ!」

シルク 「おっけー!」

俺たちはチルタリスに跨るとチルタリスは浮上する。
さすがにチルタリスにはエアームドほどの馬力は無い。
それゆえさすがにすぐに向かうことは不可能だ。
だが、船で行くよりは速いだろ!

チルタリス 「れっつゴー!!」

チルタリスはルネシティを目指し飛ぶ。
俺たちは雨風に耐え忍びながら刻一刻と迫る『決戦』に備えるのだった…。



…………。



ラティオス 「ルネですか…」

シャドウ 「……」

ラティオス 「行くんでしょ、シャドウさん?」

シャドウ 「行くだけな…しかし、手は貸さない」

ラティオス 「わかりましたよ、どうなっても知りませんからね」

俺たちは少し経ってからユウキ達の後を追うように出発する。
ユウキ…この嵐の中で輝けるか?



…………。
………。
……。



『同日:某時刻 ルネシティ』


チルタリス 「到着っす!」

ユウキ 「ご苦労チルタリス!」
ユウキ 「…あ、ダイゴさん! チルタリス、ダイゴさんの所に下ろしてくれ!」

チルタリス 「オッケーっす!」

俺たちはあれから2時間ほど飛んでルネシティにたどり着いた。
雨は更に激しさを増し、このルネを中心に世界を黒く染めつつあった。
もはや、今が朝か夜かさえわからない。
ただ、この2時間で早くも空気が『寒い』と感じられていた。
確実に、太陽の光がさえぎられている。
一筋の光明がさすことも無い。
まるで絶望の世界だ…。
だったら光になるしかない…。
嵐の中で輝いて…!


ユウキ 「ダイゴさん!」

ダイゴ 「ユウキ君…! やっぱり来たんだね」

俺はチルタリスにダイゴさんの目の前で下ろしてもらうと、チルタリスをモンスターボールに戻した。

? 「君がユウキ君?」

ユウキ 「え? あなたは…?」

ダイゴさんの隣には俺の知らない長身の男性がいた。
どこか異国を感じさせる真っ白な服を着て、白いベレー帽を被り、やや鋭い目つきとエメラルド色の髪をした男性だった。

ダイゴ 「彼の名はミクリ、このルネを守っている人だよ」

ミクリ 「ミクリと言います、君の事はダイゴから聞いていましたよ」

ユウキ 「は、はぁユウキといいます」

シルク 「私、シルクって言います」

俺たちはその場で自己紹介をする。
するとミクリさんはシルクを凝視した。

シルク 「な、なんですか…?」

ミクリ 「異界の者…成る程、運命ですかね…」

ユウキ 「!」

ミクリ 「今、この世界は全てを海に沈めようとしている」
ミクリ 「しかし、我々人間にはそれを止めることは出来ない」
ミクリ 「藍色の玉と紅色の玉が離れたとき、こうなることは決定されていた…」

ミクリさんは半分諦めたようにそう言った。
だが、もう半分は何か策のあるような…そんな目をしていた。
この人…諦めていない。

ミクリ 「ユウキ君、君は運命に選ばれているようだな」

ユウキ 「え…運命?」

ミクリ 「持っているはずだ、藍色の玉を」

ユウキ 「! これ…ですか?」

俺はバッグから藍色の玉を取り出す。
取り出した藍色の玉はなぜか不思議に淡く藍色の輝きを放っていた。

ミクリ 「間違いない…どうやら世界は君の双肩にかかったようだ」

ユウキ 「へ…?」

双肩って…まじすか!?
一体どういうことで!?

ミクリ 「ついて来てくれ、君には資格がある」

ユウキ 「は…ぁ?」

ダイゴ 「ほら、こっちだよ」

俺はいまいち意味不明だった。

シルク 「いこ、ユウキ君!」

ユウキ 「あ、ああ…」

俺たちはルネの山を登り奥地へ進む。
その先に何があるのかは知らない。
ただ、非常にかったるいことやらされる予感がした。

ダイゴ 「…雨」

ユウキ 「え?」

ミクリ 「ダイゴ…?」

突然、ダイゴさんが足を止めた。
俺たちも吊られて足を止める。

ダイゴ 「大地に恵みを与えてくれるはずの雨が今は僕たちに不安を与えている…」
ダイゴ 「一体どうしてなんだろうね…」

ダイゴさんはそう呟くと再び歩き出す。
俺たちは何も言えないまま更に奥へと進んでいくのみだった。

やがてしばらく行くと鳥居が見えてきた。
鳥居の先には洞窟になっており、その鳥居の前には二人の巫女がいた。
なにやら…ちょっとやばい雰囲気だな。

ミクリ 「ユウキ君…この先にカイオーガは『眠っている』」

ユウキ 「眠っている? どういうことですか?」

カイオーガは目覚めたはず。
それに眠っているのならこの嵐は一体?

ミクリ 「カイオーガは紅色の玉で不完全な封印を解かれたんだ」
ミクリ 「だが、紅色の玉だけでは完全に離れず半ば暴走状態でこの嵐を起こしている」
ミクリ 「君にはその藍色の玉でカイオーガを目覚めさせてこの嵐を止めてほしい」

ユウキ 「それは…藍色の玉を持つ者の使命ですか?」

ミクリ 「…そうだ」

ミクリさんはやや口ごもるが、覚悟したようにそう言った。
その言葉で俺も納得がいった。

ユウキ 「やってやろうじゃありませんか! 行きますよ!」

たとえ封印を解いた結果どうなろうとも今は仕方がない。
まずはカイオーガを完全に目覚めさせないとな…。
その結果…戦闘になろうとも!

ダイゴ 「シルクちゃん、君はここで待っているんだ」

シルク 「え…でも…」

ユウキ 「大丈夫だ、任せとけ」

シルク 「う、うん…」

シルクは俺についてこようとするが、ここに入れるのは藍色の玉を持つ者のみ。
シルクは不安そうな顔でこっち見送っていた。
俺はそれに努めて笑顔で返すのだった。



…………。
………。
……。



どれくらい歩いただろうか…。
どれくらい歩くのだろうか…?
俺は暗い洞窟の中を光もなしに歩いていた。
不思議に状況が手に取るようにわかる。
なにより感じる…カイオーガの気配が…。
俺はその気配に引き寄せられるように暗闇の洞窟を突き進んだ。

ユウキ (どうなるんだろうか…これから)

もうすぐ…もうすぐカイオーガと対面する。
その時何がおきる…?
わかるわけも無いのに…俺は想像をしてしまう。
決してたどり着くことの無い答えを求めて…。
そして、答えへとたどり着く…。

ユウキ 「カイオーガ…」

カイオーガ 「……」

俺はカイオーガのいる最後のフロアに入った。
中はなぜか明るい。
しかし、霧が深くカイオーガの姿を完全に把握することは出来なかった。

ユウキ 「カイオーガ…目覚めろ!」

俺は藍色の玉をカイオーガにかざす。
すると藍色の玉は勝手に輝くのだった。
紅色の玉と同じように不思議な音を放ち、激しい光で世界を藍色に染める。
しかし、光はすぐに消えるのだった。

そして…カイオーガは目覚める…。

(ラル…ド?)

ユウキ 「カイオーガだな…?」

カイオーガ (声が…でない…しゃべれない?)

ユウキ 「安心しろ、喋らなくても手に取るようにわかる」

そう、不思議なことに俺はカイオーガの考えていることが手に取るようにわかった。
なぜかは本当にわからない。
ただ、それのお陰でカイオーガの考えがわかる。

カイオーガ (ラルド…久しぶりだな)

カイオーガも納得したのか俺を睨みつけてそう言う。
いや、考える…か。
しかし、こっちは納得がいかない。

ユウキ 「ひとつ言っておく、俺はラルドではなくユウキだ」

カイオーガ (ユウキ…?)

ユウキ 「ああ、人違いだよ、さぁ、そんなことより早く嵐を止めてくれ」
ユウキ 「このままじゃ、世界が海に沈む」

カイオーガ (……)

ユウキ 「ん? どうしたよ?」

カイオーガ (グラードンの気配が無い)

ユウキ 「あ? そりゃまぁな…」

なんだか、とてつもなく嫌な予感がする。
もしかして…とんでもないことをしてしまったのでは…。

カイオーガ (グラードンがいないのならば…この世界は…私の物だ!!)
カイオーガ (人間、私を目覚めさせたことは礼を言おう!)
カイオーガ (その褒美に苦しまずこの世界から消してやろう!)

ユウキ 「!? フォルム!」

ズガァァァァァァァァァァァン!!!!!

ゾッとした。
もし、0,1秒俺のフォルムの展開が遅れていたら俺はどうなっていたか。
俺がフォルムを展開した次の瞬間にはものすごい水圧が洞窟内を駆け巡る。
足場がなくなる感覚を覚える。
いや、浮いていた…。
何がおきたのか全くわからない。
ただ、気がつくと…宙に浮いていた。

ユウキ 「へ?」

街が見えた。
民家がいくつも山の斜面に立っている。
さらに山の向こうには海…って、え!?

ユウキ 「外!? なんで!?」

俺は気がつくとルネの上空200メートルくらいの高さに飛んでいた。
てか、飛ばされていた。

ユウキ 「で、出ろ! チルタリス」

俺は急速降下をしながらチルタリスを外に出す。
このままじゃ水面か地面に大激突!?
どっちにしても確実に死ぬ!?

ユウキ (フォルムを展開していなかったら本当に消滅していただろうな)

ぞっとする、山にぽっかりと穴が開いていた。
恐らくカイオーガの仕業だろう。
なんてこった…。

チルタリス 「大丈夫っすかマスター!?」

ユウキ 「ああ、なんとかな」

俺はフォルムを解除するとチルタリスに適当な場所に下ろしてもらった。


カイオーガ (ふはは! 久しいな空気は! 海は! 空は!)
カイオーガ (全てが久しい! 再びこの世界に立てるとはな!)

カイオーガはルネの中心にいた。
世界は依然大雨が降り、雷は鳴り、風は吹き、嵐が巻き起こっていた。

ユウキ 「カイオーガ!!」

カイオーガ (ん? ほう、生きていたのか)

カイオーガはこちらを見る。
生きていた…ね。
こっちは正直生きた心地がしなかったが。

ユウキ 「てめぇ何考えてやがる!」

カイオーガ (ふ、いきがるなよ人間、所詮貴様たちは何も出来ないくずなのだ)

ユウキ 「なんだと」

ちょっとカチンと来る。
なんですか?
見下すってわけっすか?

カイオーガ (この世界は支配者である私が管轄する、よってこの世界は水に沈める)

ユウキ 「当方に迎撃の用意アリ、覚悟完了」

チルタリス 「マスター?」

ユウキ 「てめぇ都合で世界を沈められてたまるかー!」
ユウキ 「でてこいみんな!」

俺は持っている6匹(5匹)を全員を出す。

ユウキ 「カイオーガ! やっぱりお前はもう一度眠ってもらう!」
ユウキ 「覚悟しやがれ!」

カイオーガ (ほう、このカイオーガをもう一度眠らせると? 面白い)
カイオーガ (かつて辛酸舐めさせられたのだ! その落とし前つけさせてもらおうか!)

カイオーガは極太レーザー…もといハイドロポンプを俺(達)に放つ。
でかすぎて俺達全員まとめてっすか?

サーナイト 「はぁっ!」

ズバババババァッ!!

サーナイトは正面に立ち、なにやら球状のフィールドを張ってハイドロポンプを弾く。

ユウキ 「サメハダー 『かみくだく』!」

サメハダー 「サメッハー!」

ユウキ 「ボスコドラ、コータスは『かえんほうしゃ』だ!」
ユウキ 「チルタリスは上空から『りゅうのいぶき』!」

ボスゴドラ 「わかったわ!」
コータス 「コー!」
チルタリス 「おっけーっす!」

ユウキ 「ユレイドルは水中潜って待機、隙を見て攻撃しろ」

ユレイドル 「ユ…」

俺は全員に指示を与える。
悪いが全員がかりだ。
ここで確実に倒させてもらう!


サメハダー 「サメー」

カイオーガ (ぬっ!?)

サメハダーはその巨体でカイオーガに噛み付く。

カイオーガ (貴様!)

サメハダー 「サメッハ!?」

カイオーガはサメハダーをすぐに引き剥がす。
しかし、すぐに次の攻撃は入る。

チルタリス 「『りゅうのいぶき』っす!」

ゴォォォォ!

『りゅうのいぶき』はカイオーガを襲う。
さすがのカイオーガもこれなら…。

ピシャァーン!!

チルタリス 「!!!?」

ユウキ 「チルタリス!?」

突然、雷がチルタリスに落ちる。
カイオーガの『かみなり』か!?

カイオーガ (次はそこ!)

ボスゴドラ 「えっ!?」
コータス 「コーッ!?」

ギュオオオオオオッ!!

『かえんほうしゃ』を放つ二匹に超ド級にでかい水の球体『みずのはどう』が襲い掛かる。
ただでさえ雨で威力の弱っている『かえんほうしゃ』はカイオーガの『みずのはどう』にかき消されてそのまま2匹を襲う。

ズガァァン!

ボスゴドラ 「キャアッ!?」
コータス 「コーッ!?」

地面を抉るほどの威力を持った『みずのはどう』は二匹を吹き飛ばすのだった。

サーナイト 「くっ! だったら…」

サーナイトはカイオーガに『10まんボルト』を放とうとする。
しかし、放つ前に…。

ピシャァン!!

サーナイト 「ああっ!?」

ユウキ (モーションなし…回避のしようが無い!)

カイオーガ (次は貴様だ! 人間!)

ユウキ 「!?やば…!?」

カイオーガは俺に向かって『ハイドロポンプ』を放つ。
回避動作に入ったがもう手遅れだった。
ぐっばいマイ人生!

シルク 「ユウキ君!」

ユウキ 「えっ…?」

バッシャーーンッ!!

目の前を人が宙を舞う。
まるでトラックに跳ねられたマネキンのように体を一回転させて舞う。
俺の知っている人物が…俺を庇って…。

バッシャーン!!

ユウキ 「シルクーっ!!!」

シルクは俺を庇って『ハイドロポンプ』の直撃を受ける。
シルクはそのまま4メートルくらい跳ね上がり、そのまま海面にたたきつけられた。
俺は慌ててシルクの元に向かう。

ユウキ 「大丈夫か!? シルク!?」

シルク 「な、なんとか…」
シルク 「私、水タイプだから水には強いし…」

シルクは奇跡とも言うべきか、意識を保っている。
だが、ダメージがでかい。
生きているだけでも僥倖なのだが、シルクは体を痛めている。
衝撃までは防げない…。

ユウキ 「なんで、あんな無茶を!」

シルク 「私は大丈夫だから…」

ユウキ 「大丈夫じゃない! 怪我をしているじゃないか!」

シルク 「はは、大丈夫だよ…それより早くカイオーガを…」

ギュオオオオオッ!

再び『ハイドロポンプ』が俺を襲う。
お構いなし…か、だったら。

ユウキ 「フォルム…」

キィン! バシャアアアッ!

俺は静かにフォルムを展開した。
フォルムを俺達をその丸い球体で囲み、一切の外的影響を寄せ付けない。
カイオーガの攻撃でさえも…。

カイオーガ (その力…まさか死徒?)

ユウキ 「くだらねぇことぐだぐだ言ってるんじゃねぇよ…かったるいな」

カイオーガ (…どうやら、只者ではないようだな)

ユウキ 「ああ、どうにも人間じゃなさっぽくてな」

カイオーガ (…ふん!)

ピシャァン!

雷が俺の頭上に降る。
しかし、やはりそれも俺に当たることは無い。

ユウキ 「無駄だ」

俺のスフィアフォルムを貫くことは出来ない。
何でこんな能力があるのかは知らないが今はありがたい。
あいつを…叩きのめせる。

ユウキ 「いけ」

俺は静かに二つあるうちのひとつのフォルムをカイオーガに投げつける。
普段のフォルムは霊態というか幻態というか、とにかく全てをすり抜けてしまう。
ところがちょっと気を込めれば(?)あっというまに鋼鉄化してしまう。
その硬さは限度を知らず、絶対に球状を崩さない。
球体でしか存在できないがこの球体は無敵の硬さを誇っている。

ドカァ!!

カイオーガ (ぐ!?)

ユウキ 「まだだ…!」

ドコッ!

俺は容赦なく上からフォルムをたたきつける。
フォルムを遠くにいても俺の意思だけで遠隔操作できる。

カイオーガ (ちい…なんというやつだ)

ユウキ 「タフな奴…倒すのは無理か?」

相当痛いはずなのだがカイオーガはまだぴんぴんしていた。
負けようもないが…勝ちようもないな…。

チルタリス 「つ〜、まだ痛いっす」

サーナイト 「あたた…」

コータス 「コ〜」

ボスゴドラ 「二人まとめてじゃなかったら絶対やられてた」

サメハダー 「サメ〜…」

ユウキ 「お前ら、大丈夫だったのか?」

シルク 「みんな…」

チルタリス 「あの馬鹿無茶苦茶するッス」

ユウキ 「ああ、ちょっとまずいな…このままじゃ時間切れでこっちが負けだ」

シルク 「え? なんで?」

ユウキ 「水面見てみろよ」

シルク 「え…あ!?」

シルクは下を見て気づく。

シルク 「水面が…気がついたら腰まで」

さっきまで膝だったのにもう腰まで水面が上がっている。
すでに一部浸水している家屋もある。
このままじゃ世界が沈むのは時間の問題。

ユウキ (どうする…どうすれば奴に勝てる)

時間をかければたしかに倒すことは可能だろう。
だが、それでは世界が沈んだ後になる。
それでは意味が無い…。
それにまた寒くなっている。
このままずっと戦い続けるのは体力的にも無理だ。
逆にあっちは嵐を起こす事態は体力も減らないだろう。

ユウキ 「理不尽だな…」

さて、困った…。
どうしたものか?

チルタリス 「…結局人間様には勝てないってことっすかね〜…」

サメハダー 「サメ?」

コータス 「コ〜?」

ユウキ 「どういう意味だ?」

チルタリス 「マスター倒すの諦めるっす!」

サーナイト 「え!?」

ユウキ 「血迷ったか貴様ーっ!」

さすがにずっこける。
諦めるって…そりゃゲームオーバーっすよ?

チルタリス 「まぁまぁ、たしかに倒すのは諦めるっす…そうなるともうやれることはひとつっすよ?」
チルタリス 「あいつも所詮はポケモンっす…だったらあいつもおいら達と同じように」

ユウキ 「…ゲットか?」

チルタリス 「そうっす! やつも野生のポケモン! ゲットするっす!」

…たしかに、ゲットも手ではある。
しかし、それにも問題はある。

ユウキ 「どうやってゲットする?」
ユウキ 「近づくのも至難…しかもアレだけ元気な奴をゲットするのは不可能に近いぞ?」

弱らせるにしても時間がかかりすぎる。
その前にこちらがやられる。

チルタリス 「だから、人間様には勝てないんすよ」
チルタリス 「恐らくアオギリもこれを想定してアレを持っていたんじゃないんすかね?」

ユウキ 「…マスターボールか!」

人間が作った最高のボール…マスターボール。
野生のポケモンなら絶対に『捕まえられる』伝説のボール。
たしかに…これなら。

ユウキ 「人類の英知にかけるしかないか…」

シルク 「それなら勝てるの?」

ユウキ 「ああ…勝てる」

シルク 「だったらやろうよ!」

ユウキ 「そう…だな!」

俺は覚悟を決める。
ポケモンゲット開始だ!

ユウキ 「みんな! 協力してくれるよな!?」

チルタリス 「当たり前っす!」

サーナイト 「お手伝いしますよ!」

コータス 「コー!」

サメハダー 「サメ!」

ボスゴドラ 「いっちょやりますか!」

全員、俺に協力してくれる。
ありがたい…本当にそう思えた。

チルタリス 「マスター! 乗ってくれっす!」

ユウキ 「ああ! 頼むぞチルタリス!」

シルク 「ユウキ君頑張って!」

ユウキ 「ああ…! て…シルク!?」

シルク 「えっ!? どうしたの!?」

ユウキ 「…いや、なんでもない」

俺がシルクの方を振り返ったとき、シルクの体が背景に透けていた。
しかし、すぐにシルクは実体を取り戻したように背景と離れた。
消えかけている…。

チルタリス 「行くっす!」

ユウキ 「ああ!」

チルタリスは俺を乗せてカイオーガに急行する。
後は仲間を信用するしかない。



シルク (もう…時間が無い)
シルク (もう一度ユウキ君と会うのは無理か、お別れ言えないね…)

わかる…わかってしまう。
もう私はこっちの世界にはいられない。
帰らないといけない…。
せめて、何か手伝いたかったな…。
でも、それは私じゃなくて、あなたの大切な仲間がしてくれるから…。

私の体が浮いている。
景色から…地面から。
もう消えている…。
足が…手が…体が。

シルク (さようなら…ユウキ君)



カイオーガ (くらえ!)

ギュオオ!!

チルタリス 「緊急回避っす! 振り落とされないようにするっすよ!?」

ユウキ 「くうっ!」

チルタリスはカイオーガの激しい対空砲火を回避しつつ、カイオーガに迫る。

サーナイト 「はぁ!」

バチィン!

カイオーガ (!?)

ボスゴドラ 「まだまだ! ダメージ無くても!」

コータス 「コー!」

サメハダー 「サメー!」

ゴオオオオッ!!

ボスゴドラとコータスはカイオーガに『かえんほうしゃ』を放ち、サメハダーはその巨体を活かして体当たりする。

カイオーガ (ちっ!? 下!?)

ユレイドル 「ユ…」

ユウキ (ユレイドル…! いい仕事する!)

ユレイドルは隙を見てカイオーガに絡めついていた。

カイオーガ (ち! 舐めるな!!)

ゴォォォ!!

ユウキ 「なに!?」

突然、何をしたのかさっぱりだが津波が起きる。
無差別に民家さえ巻き込んで、空を飛んでいる俺達以外に多大な被害を与える。

カイオーガ (もらったぞ!?)

ユウキ 「!?」

ピシャァン!!

カイオーガの『かみなり』がチルタリスと俺を襲う。

チルタリス 「くうっ!?」

チルタリスは踏ん張る。
しかし、その反動で俺の体が飛び出す。
やばっ!

ユウキ (カイオーガとの距離4メートル…ここから投げても弾かれるのがオチ!)
ユウキ (かといって接近を試みても迎撃されるのが後の結果! どうする!?)

絶望だった。
もうチャンスが無い。
俺のポケモンたちは度重なるダメージでこれ以上は危険だ。
ここで俺がミスったら…もう…。

しかし、その時…。

キィィィン!

ユウキ 「なんだ!? 空間に切れ目!?」

突然、空間に切れ目が入り、まぶしい光が切れ目からこぼれる。
そして切れ目から…。

ラグラージ 「ラグー!」

ユウキ 「ラグ!?」

突然、右手に剣を持ってラグラージが現れる。
何でこんなときに!?

セレビィ 「いっけー! ラグ! やっちまえー!」

ユウキ (セ、セレビィ!? ダブルショック! なぜに!?)

ラグラージ 「ラーグ!」

カイオーガ (!?)

ラグラージはカイオーガの体に乗りかかり、手を当てる。
その瞬間はとても静かで何も起きていないかのようだった。
しかし…。

カイオーガ (なん…だと…!?)

カイオーガは確実に大ダメージを被った。
ラグの『震貫』…!

ラグラージ 「ラグー!」

ラグはコッチを見て叫ぶ。
ラグに後押しされた…!

ユウキ 「距離3メートル! いけ! マスターボール!」

俺はマスターボールをカイオーガに投げる。

カイオーガ (な、なに…!?)

カイオーガはマスターボールの放つ、素粒子不定変格赤暗粒子体に包まれマスターボールに閉じ込められる。
カイオーガでさえもマスターボールに抗うことは不可能。
カイオーガはなすすべなくゲットされる。

ユウキ 「カイオーガ…!」

俺はカイオーガのボールを掴む。
しかし、後に待っているのは海面のみ…。
そのまま俺は海へと落ちるのだった。

バッシャアアン!

サーナイト 「マスター!?」

沈む…疲れたな…。
とはいえ、浮上するのもかったるい…。
まじで…疲れた。

ラグラージ 「らぐ…」

ユウキ 「ラグラージ?」

ラグラージが俺を掴むと浮上する。
ありがたい…。

バシャアッ!

海面に顔を出す。
空が見えた…。



雨はやみ…雷も風もやみ…嵐は収まった。


そして、光が…ホウエンに差した…。


嵐は…終わったみたいだな…。



俺は右手に握られたマスターボールを空にかざした。

ユウキ 「カイオーガ 、ゲットだな」




ポケットモンスター第54話 『嵐の中で輝いて』 完






今回のレポート


移動


海底洞窟→128番水道→空路:ルネシティ


2月3日(ポケモンリーグ開催まであと26日)


現在パーティ


サーナイト

ボスゴドラ

コータス

チルタリス

ユレイドル

サメハダー


見つけたポケモン 56匹

クロバット

カイオーガ



おまけ



その54 「対決! リュウトVSアダン(後編)」




前回のあらすじ!

リュウトとアダンのジム戦は後半戦を迎えようとしていた!
開幕ラブカス相手にキングドラを失い、コモルーでラブカスを撃破。
つづくトドクラーもコモルーで倒すがこの時点でコモルーの疲労は限界に達していた。
あえなくコモルーもアダンのキングドラに倒されて、ついにバトルは互い後の無い最後のバトルに入ろうとしていた!



リュウト 「……」

ハクリュー 「……」

アダン 「……」

キングドラ 「……」

俺達は無言の中にいた。
すでに最後のバトルのコールもあり、いつでも仕掛けられる。
にも関わらずお互い仕掛けることは無い。
何かを待つかのように…俺達は制止した時間に身を委ねていた。

リュウト (…このバトルはいままでのバトルとは違い、俺に大きな意味を与えてくれた)
リュウト (この勝負例え負けても悔いは無い…)
リュウト (しかしやるからには…勝つ!)

リュウト 「ハクリュー! 『りゅうのいかり』!」

ハクリュー 「リュー!」

俺はハクリューに遠距離から『りゅうのいかり』をコールする。
この技はどんなポケモンにもある程度のダメージを与える。
さぁ、どうするアダンさん!

アダン 「キングドラ、『こうそくいどう』」

キングドラ 「ドラ!」

キングドラは『こうそくいどう』で水上を素早く動き、ハクリューの『りゅうのいかり』を回避する。
キングドラはそのままハクリューを幻惑し始める。

リュウト 「ハクリュー! こっちも『こうそくいどう』だ!」

ハクリュー 「リュー!」

ハクリューも『こうそくいどう』で素早く動き、キングドラに対抗する。

アダン 「ふ、『たつまき』」

キングドラ 「キング!」

キングドラは高速で動きながら『たつまき』を水面に放つ。

リュウト 「! 右だ!」

ハクリュー 「リュー!」

突然、ハクリューの下の水面から水竜巻が巻き起こる。
成る程、水上ならでは技だ。
だが、当たらなければ…!

アダン 「ふ、この技は二段構え…回避しても…」

キングドラ 「キン!」

リュウト 「!? なに!?」

キングドラは突然更にスピードを増す。
なぜ!?

ザァァァァァ…。

リュウト 「!? 雨…だと?」

なんと、天井から雨が降ってきた…。
馬鹿な…『あまごい』は使用されなかったはず…。

リュウト (まさか! あの『たつまき』は水を巻き上げるための技!?)

これは俺の推測だあの『たつまき』は水中の水を天井に巻き上げ、一時的に雨を降らせる技ではないだろうか?
キングドラの特性は『すいすい』、これは雨が降っていれば素早さが倍になる。
当たれば当然ダメージを受け、回避されてもこのように雨が降る。
よく出来た技だ!

アダン 「キングドラ、『ハイドロポンプ』です」

キングドラ 「ドラー!!」

ズバァン!!

リュウト 「ハクリュー!?」

ハクリュー 「リュッ!?」

ハクリューは後ろからハイドロポンプの直撃を受ける。
幸いドラゴンタイプのハクリューに水タイプの技は通用しにくい。
こんな簡易的な雨では水タイプの技の威力アップにもつながらないし、ダメージはそこまでではない。

リュウト 「ハクリュー! 『りゅうのいぶき』!」

ハクリュー 「ハックゥゥー!」

ハクリューはキングドラに『りゅうのいぶき』を放つ。
しかし、あれだけ高速で動くキングドラを捕らえることは出来ず、当たることは無い。

アダン 「キングドラ、『れいとうビーム』」

キングドラ 「キン!」

リュウト 「く! 飛べ! ハクリュー!」

ハクリュー 「ハク!」

キングドラは横から『れいとうビーム』を放つが、ハクリューは間一髪空に舞い、攻撃を回避する。
いくらキングドラが速くなっても間接攻撃のスピードまで速くはならない。
そして、ハクリューは短時間なら空も飛べる。

リュウト (キングドラの動きに規則性はない…予測は不可能か…)

雨はそろそろ止む…そうなれば一時的にスピードは下がるだろう。
しかし相手はあのアダンさん、次に何を仕掛けてくるかわかったものじゃない。

リュウト (なにかされる前に決着をつけるにはどうしたらいい!?)

アダン 「キングドラ、『はねる』」

リュウト 「なに!?」

キングドラ 「ドラ!」

キングドラは突然素早く跳ねた。
なぜここでそれを!?

アダン 「ふ、『ダイビング』です」

キングドラ 「ドラ!」

キングドラは跳ねたと思ったら今度は水中に潜った。
そしてそのまま…。

バシャアアアッ!

再び跳ねる。
それは…跳ねて潜る繰り返しだった…。

リュウト (なんだこれは…これは一体…!?)

ハクリュー 「ハ、リュー…?」

ピシャ、ピシャ!

リュウト 「! 水しぶき?」

バトル場は激しく水しぶきが舞う。
当然だ、キングドラがアレだけ水を巻き上げれば…。

リュウト 「水を…巻き上げる?」

アダン 「ふ…さぁ、見せてあげなさいあなたのイリュージョンを!」
アダン 「キングドラ! 『アクアスプラッシュ』!」

リュウト 「!!?」

キングドラ 「キング!!」

キングドラは跳ねると同時に自分の真下に『たつまき』を放った。
その竜巻は、キングドラを巻き込んでしまう。
しかし、キングドラはそのまま体を回転させる。
竜巻はその回転に負けるようにはじける。
巻き上げられた水しぶきは散弾銃のようになって全体を攻撃する。

ハクリュー 「リュー!?」

リュウト 「!? ハクリュー!?」

ババババババッ!!

水しぶきがフロア全体に当たる。
ダメージはそこまでの技ではない…しかし回避できる技ではない。
やっかいだ…。

リュウト (アダンさんの戦闘バリエーションは俺に対処できたものじゃない…どうする!?)

アダン 「キングドラ、『のしかかり』です!」

キングドラ 「ドラ!」

リュウト 「後ろに『りゅうのいぶき』!」

ハクリュー 「リュー!」

キングドラは後ろからハクリューを強襲する。
しかし、俺はそれを見切ってハクリューに後ろを攻撃させる。
しかし…。

バシャアン!!

キングドラ 「キン!」

キングドラは水面をたたくと素早く跳ね上がる、そのまま慣性の法則でこちらの攻撃を回避したままハクリューにのしかかってくる。

ハクリュー 「リュ!?」

バシャァン!

ハクリューはそのまま水面にたたきつけられる。

リュウト (くそ! また水か! どうする!? この水…何としないと勝ち目は無いぞ!?)

相手はたくみに水のフィールドを利用している。
さすがにフィールドの使い方が恐ろしく巧い。
さっきの攻防の一致の回避動作といい、水竜巻やアクアスプラッシュといい、このフィールドを最大限に活かしている。

リュウト (まてよ…水? もしかしたら…)

俺は考えてみる、もしかしたらこの作戦は通用するかもしれない…。

リュウト (だが、それにはキングドラの動きが決め手になる…)

俺はキングドラを見る。
雨は降っていない…スピードは互角か。

リュウト (だったらこの技でスピードを増せば!)
リュウト 「ハクリュー! 『りゅうのまい』!」

ハクリュー 「ハクゥゥ!」

ハクリューはその場で『りゅうのまい』をする。
この技はハクリューの素早さと『攻撃』を上げる技だ。

リュウト 「よし! 『たたきつける』だ!」

ハクリュー 「リュー!」

ハクリューはさっきより一段階速いスピードでキングドラに飛び掛る。
そしてのそのままその自慢の長い尻尾で『たたきつける』攻撃を行う。

アダン 「そのような隙だらけな技は当たりませんよ、回避です」

そう、隙だらけの技だ。
それゆえにジム戦で使用されることは無い。
非常にノーマークの技といえよう。
しかし、スピードの上がったハクリューの攻撃はキングドラもあまり距離を離せるものではなく、眼前で避けるというものだった。
その結果…。

バシャァァッン!!!

アダン 「なに!?」

ハクリューは水面を激しくたたきつける。
その結果、ものすごい水量が宙を舞い、キングドラの視界をさえぎった!

リュウト 「そのまま巻きついて『りゅうのいぶき』!」

ハクリュー 「リュー!」

ハクリューはキングドラの一瞬の油断を突いて後ろから巻きつき、『りゅうのいぶき』を放つ。

ゴォォォォッ!

キングドラ 「キンーッ!?」

キングドラは顔面に直撃を受ける。
効果は抜群だ! さすがに効くだろう!

アダン 「く…キングドラ! 『れいとうビーム』!」

キングドラ 「キンー!」

キングドラは巻きつくハクリューに『れいとうビーム』を放つ。
しかし、この至近距離は明らかにハクリューの距離、『れいとうビーム』は当たらず、巻きつきは逆にきつくなりもう一度『りゅうのいぶき』を受けるのだった。

リュウト (アダンさんの命令に余裕が消えた、このバトルもらった!)
リュウト 「ハクリュー! トドメだ! たたきつけろ!」

ハクリュー 「ハクー…リュー!!」

ハクリューはキングドラの首を尻尾で掴んだままフランケンシュタイナーの勢いでキングドラを水面にたたきつける。

バシャアアアアッ!!

アダン 「キングドラ!」

リュウト (どうだ!?)

キングドラ 「キン〜…」

キングドラは目を回して水面に浮かび上がる。
俺はそれを確認した瞬間右手を握り締めていた。
勝った!

審判 「キングドラ戦闘不能! よってこの勝負挑戦者リュウトの勝ち!」

リュウト 「…よし!」

ハクリュー 「リュ〜♪」

勝った…7つ目バッジゲットだ!

アダン 「…お見事です、リュウト君、君の勝ちだ」

リュウト 「アダンさん…」

アダン 「レインバッジ、これは君にこそふさわしい…持って行きなさい」

リュウト 「レインバッジ…ゲットだ!」

俺はアダンさんからレインバッジを受け取る。
このバトル…なんとか勝てたがもし4体戦だったらどうなっていただろう…。
その時は負けていたかもしれない…そう考えるとこの勝利はとても貴重に感じた。

アダン 「君はまだ荒削りだが良いものを感じる…頑張りなさい」

リュウト 「はい…!」

こうして俺のルネジムでの戦いは終わった…。
後は1つ。
これは…まだ1月20日の話…。
本編の一週間も前の話…。




おまけその54 「対決! リュウトVSアダン(後編)」 完



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