ポケットモンスター サファイア編




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第89話 『マザー』






『3月6日 時刻不明 場所???』


ミツル 「もう何日になるのかな…」

僕はある日『フューリ』と名乗る謎の少年と出会った日、僕は気がついたらとある密室に幽閉されていた。
ここがどこかはわからない。
ただ、ひとつだけ不思議なことがあった。
昨日…不思議なことにここにペルさんがやってきた。
数時間だけここにいたけど、すぐに別室に移らされた。

ミツル (…なんでこうなったんだろう、それにここはどこ?)

4畳程度の小さな部屋、内側からは決して開けられないドアと天井付近に小さな鉄格子の窓があった。
ほかはまさに何も無く、寝る時もベットも布団も無い。
1日1回食事が届くけど、正直状況が分からない。

ミツル (ペルさん、今、何しているんだろう……?)





ペル 「………?」

ユウキの本戦出場と引き換えに我が身を捧げて数時間後。
私はとある個室に一人だけ入れられると、白いドレスだけを渡され、着替えるよう言われた。
考えてみれば私は黒いワンピース1着しか来たことがない、着替えたこともなかった。
ずっと昔…私が生まれた時からずっと持っていた黒いワンピース。
不思議…身を守ることも容易に出来ないこんな物に感慨深くなるなんて。
いや…違う。
感慨深くなる理由は…これが私と私である理由を付けてくれた人を繋ぐモノだから。

メノース 「着替え終わったかな?」

個室の扉を外側から叩いて、メノースの着替えの催促とも思われる言葉がくる。
一応着替えた…服に特に興味なんてないが、まるで虚無のような白はすこし懐かしい気がした。

ガチャ。

メノース 「失礼、勝手に入らせてもらうよ…おっと、着替えてもらえたようだ」

ペル 「……」

メノースはドアを開けて、中に入ってくるが特に悪びれる様子はない。
別にこちらも、入られたからといってどうということはないけど。

メノース 「ふ、似合っているよ、その白いドレスは気に入ってもらえたかな?」

ペル 「別に…」

メノース 「ふむ、そうか…まぁいい。こちらとしては君を『彼女』に会わせるのにあのみすぼらしい格好ではまずいと思っただけだからね」

みすぼらしい…とはあの黒いワンピースのことか。
容姿なんてどうでもいいけど。
人間って不思議、どうしてそう体裁を気にするの?
…体裁…ちょっと違う?
どうでもいいか。

メノース 「着いてきたまえ、君は会わないといけない人物がいる」

ペル 「……」

私が会わないといけない人物…。
メノースより上に立つ人物?
メノースでも十分無限の時において、中核人物と思えるけどそれ以上の?

メノース 「…これから会うのは、我々人間とは違い、『高貴な存在』だ。くれぐれも粗相のないよう…と君に言っても無駄か」

高貴な存在…今、メノースは我々人間とは違いって言った。
ということは少なくとも『人間』ではない。
とすると…神?
人でなく、人と同等以上の認知力を持つ存在…と考えるとそこに到達するのは極端だろうか?
しかし、ザンジーク等異界の存在を酷く嫌う無限の時と、神にとって天敵である我々ザンジーク。
利害関係の一致はある…とはいえ…本当にありえるの?

メノース 「…この扉の向こう、そこに君が会うべき人物が居る」

はたして人物か神物か…。

ガチャ…ギィィ…。

? 「! この扉が開かれるなんて…何年ぶりかしら…ッ!?」

扉が開かれた先、そこに今の私と同じような白いドレスに実を包んだ女性がいた。
160センチそこそこの小さく、細い体。
エメラルドグリーンの長い髪が腰くらいに伸び、それより少し青みがかかった宝石のような綺麗な瞳があった。
木製の大きな椅子に座り、両手を腰の上に置き、こちらに振り返ったとき、少し驚いた顔をしていた。

メノース 「…お久しぶりです。ご気分いかかがですかな?」

? 「その…娘…は…?」

メノース 「さぁ? あなたは知っているでしょう?」

どうやら、私を見て驚いているみたいだった。
どうして驚いているのかわからない…ただ、見たことのない女性のはずなのに…どこか心が落ち着く気がした。

? 「あなた…こちらに…あ、いえ…こっちから行くわね…?」

女性はゆっくりと椅子から立ち上がると、それからは足早に私に駆け寄ってきた。

? 「この仮面は?」

メノース 「さて、それは本人が知っているのでは?」

ペル 「……」

私の顔半分を覆い隠す笑い目の仮面。
6周期ほど前、ラルドとエメルとの戦闘の際、私の顔についた。
それ以来、私に当たり前にあったザンジークの『Delete』能力はほとんど失われ、私に残ったのは不死の肉体だけとなった。
なぜこんな仮面がついたのか…それは私にもわからない。

メノース 「…席を外しましょうか、とりあえず私の仮説は実証されたようですし」

ペル (仮説?)

メノースの立てた仮説とは?
それより、私とこの女性にはなにか接点が?

ガチャン。

メノースが出て行って、二人っきりになった私と女性。

ペル 「あなた…は…?」

? 「私はエグドラルよ。ジョーカー…いえ、ペル」

エグドラル…確か数多に存在する世界で、この世界に存在する神…とりわけ主神クラスだったはず。
私のザンジークとしての名を知っているということは私がザンジークだと理解しているのね。

エグドラル 「…あなたに仮面がつくなんて…思っても居なかったわ」

ペル 「…仮面、この仮面の意味を知っているの?」

エグドラル 「…それは神への階段、あなたが新たなる存在へと『進化』する準備…」
エグドラル 「あなたと…こんな感じで会うなんて…ね…」

ペル 「…私をどこまで知っているの?」

エグドラル…まるで私を見て、愛しいモノを見るようだった。
正直わからない…だけど、なんでか知らないけどこの女性を見ると安心してしまう。
どうして…なんだろう?

エグドラル 「どこまで…? ふふ…」

突然、女性が私を抱きしめ、私の耳元で小さく呟く。

エグドラル 「なんだって…知っているわ…なぜなら…」

ペル (…? なんだろう…この感覚、昔同じぬくもりを感じたことがある気がする…これは…そう…これは…)

エグドラル 「わたしは…あなたの…」

ペル 「MOTHER?」

そう、この感覚私がこの世に生み出されたとき、マザーに抱きしめられた時と同じ感覚。
そして、この匂い…私の黒いワンピースに残った匂いだ…。

ペル 「ザンジーク・マザー? でも…どうして?」

エグドラル 「残念ながら私に、ザンジークとしての意識はないわ」
エグドラル 「でも、ザンジークとしての記憶は覚えている…いえ忘れていたのを思い出したという方が正しいのだけれど」

間違いなかった。
エグドラルは私たちザンジークの母、マザーだ。
でも何かがおかしい。
なぜマザーが、この世界の主神をしている?
それに、ザンジーク特有の銀色の肌、赤い瞳…それらがまるでない。
私も仮面が付いた際、今のように人間のような肌になり、ザンジークとしての体は銀色からボケた灰色の髪の毛と、赤い瞳のみとなった。

ペル 「キメナを使い、ザンジークの撲滅を図ろうとしたあなたがマザー…どういうことなの?」

エグドラル 「少し違うわ、私はこの世界を守ろうとしたに過ぎない、その際ザンジークに唯一対抗できるキメナを起用したに過ぎないわ」
エグドラル 「そして、私はザンジークでありながら、ザンジークではない」

ペル 「ザンジークでありながら、ザンジークでない?」

エグドラル 「あなたも、いずれそうなるわ…その仮面が物語っている…」

私の仮面が、ザンジークでありながらザンジークでない存在へとする?
まるで謎解きね…よくわからないわ。

ペル 「マザー、ビショップたちはマザーの帰りを待っている…帰ってあげて、そしてこの世界の『Delete』を」

エグドラル 「ビショップたちが…ごめんなさい。それはできないわ」

ペル 「どうして?」

エグドラル 「この世界は消すわけにはいかない、そしてもうひとつ…無限の時…」

ペル 「……」

捕まっているということ?
マザーほどの存在が、たかが人間ごときに?

エグドラル 「それに、今は『Delete』能力もないただの神族…ビショップたちから見ればただの『Delete』対象よ」

ペル 「ザンジークに『Delete』は意味がないはず…マザーの存在までは『Delete』できない」

エグドラル 「私はマザーではないわ、今はエグドラル…エグドラルである以上、もうザンジークとしての特性はないの」

ペル 「……」

エグドラル 「ペル…辛いこともあったでしょう…今は、休みなさい…」

ペル 「マザー……」



…………。



『3月6日 時刻11:25 ポケモンリーグ本戦会場』


シャベリヤ 『さぁ、時刻は11時…Aブロックの準決勝が終わり、いよいよBブロックの試合が始まろうとしています…ますが…』

ヨー 「…おいおい、どうなってんだよ…」

シャベリヤ 『対戦者が一向に現れず待ち呆け状態のヨー選手、ペルさーん! いるなら今すぐバトルフィールドにお越しくださーい!?』
シャベリヤ 『あとに5分で失格になっていまいますよー!?』



『同日 同時刻 ポケモンリーグ会場前』


ユウキ 「…あと5分か」

リュウト 「……おーい! ハァ…ハァ…!」

ユウキ 「! リュウトさん、居ましたか?」

リュウト 「ダメだ、ホテルにはいない、昨日帰ってきてないらしい」

ユウキ 「寝過ごしじゃないか…」

ケン 「おーい!! アカンー! 海岸にもおらへんかったでー!?」

遠くから、海岸沿いを調べてもらっていたケンも走ってやってくる。
ダメか…てぇすると、やっぱりそうなるか…。

ユウキ (時間は…? 11時…29分…55…56…57…だめだな)

シャベリヤ 『ええ、皆さん前代未聞ですが、ポケモンリーグBブロック準決勝第1試合はペル選手棄権につき、ヨー選手がBブロック決勝進出です!』

会場の外からでも会場の音が聞こえる。
普段の熱狂的な観客の声援はなく、ただそれぞれの小言がざわざわと反響して、会場の外まで響く。
てぇことは時間繰上げでBブロック第2試合がスタートか…たく。

ユウキ 「しかたねぇな…」

リュウト 「? ユウキ君、どこへ行く気だ!?」

ユウキ 「…ちょっとね…なぁに、Aブロック決勝までには帰るさ、ペルと違って棄権する気は無いからな」

リュウト 「…10分前までには戻っておくんだぞ?」

ユウキ 「大丈夫大丈夫、時間には正確な方だから」

リュウト 「……」

俺はそう言って、リュウトさんに別れを告げて、とある場所を目指す。
ああ…さっきのリュウトさんの顔、まるで何か化け物を見るような訝しげな目だったなぁ…。
俺ぁ笑っているつもりだったが…それだけ、表情に出ちまったわけか。

ユウキ (てぇことは、俺はそれだけ怒っているって認識していいんだよな…俺?)

俺は呼吸を整え、表情を整える。
激情までは消えないんだろうなぁ…まぁ、消すつもりもないけどよ。



…………。



リュウト 「イヴさん…」

イヴ 「リュウト君?」

リュウト 「ユウキ君が…その…」

イヴ 「ユウキ君? ふむ…」



…………。



ユウキ 「……」

俺は真っ直ぐRMUのホウエン支部ビルに向かっていた。
正直、今俺が何を考えているのかが自分でよくわかっていない。
ただ、心のどこかで怒っている自分が何となくだがわかった。

ペルは俺のために贄になった。
俺のために、誰かが犠牲になった……それがたまらなく嫌だ。

ユウキ 「……フォルム」

俺はRMUビルの側面で久しぶりに自身の隠された力、『スフィアフォルム』を解放する。
2つの半透明の珠が俺の左右に現れる。
この珠は俺の意思で、如何様にも姿を変える。
俺は珠を透明にして、スフィアのうち一つをRMUの中に放った。
スフィアフォルムは使えば使うほど、その能力を上手く、そして高度に使いこなすことが出来た。
最初は透明にすることは出来なかったが、今は透明にしてそのまま単独行動させることさえ出来る。
そして俺はそのままペルの居場所を探した。

スフィアは生命体に接触することで俺にそれを伝える。
探すのはペルだ。
ペルは人間じゃない……それは初めて出会った時からわかった。
ただ、それが何を意味するかは推測の域でしかないが、少なくともペルは俺に負の意味を持つ娘じゃない。

ユウキ 「――! 見つけた!」

俺はペルの気配を感じた。
近くにもう一人人間じゃない何かがいたが、今はどうでもいい。
俺はスフィアを少しペルの側から離す。

ユウキ 「でてこい、白夜」

俺は空間から白夜を引き抜く。
やるのは初めてだが……理論的には恐らくやれる。
俺は、自分の側に置いておいたスフィアに白夜を振る。
俺が剣を振るとスフィアの中で空間に切れ目が出来る。
通常なら空間の切れ目はすぐに修復される、だが俺はスフィアで力場を作り、空間の切れ目を広げた。
俺はそのまま、何事も無いように空間の切れ目へと入り込んだ。



…誰も実証できなかった。
だが、もしかしたらありえるかも知れない事象。
白夜は空間に切れ目を入れる。
つまり世界という括りを持つ、鎖を断ち切ることができると言うことだ。
しかし考えてみると、その鎖を断ち切るとその先には何があるのか?
通常なら、何もない虚無の世界へと誘われるのかも知れないが……だが、もう一つの仮説も考えられた。

もう一つの仮説……最も安定した、もしくは安定させた同じ世界のBの地点へと繋ぎ目を作ること。



キィィィン……!

ユウキ 「到着……か?」

俺は空間の切れ目から抜け出し、周りを見渡した。
周りは本当にビルの中かと思うくらいの立派な個室だった。

ペル 「! ユウキ?」

ユウキ 「! よぉペル」

真後ろにペルがいた。
いつもと違い、まるでウェディングドレスのような白いドレスを着たペルがだ。

エグドラル 「! まさか……ユウキ、さん?」

ユウキ 「! あんた……どこかで?」

ペルの後ろにいた一人の女性。
エメラルドグリーンの長い髪、やはりペルと同じように白いドレスを纏った大人の女性だ。
何故か……どこかで見たことがある気がするんだが…思いだせないな。

エグドラル 「一応、初めましてですね……ユウキさん」

ユウキ 「? 初めまして? ということは俺はアンタと会ったことがあるのか?」

少なくとも俺の記憶にこんな女性はいない。
まぁ、もっともこの女性も人間じゃないようだし何があるかはわからんが。

ペル 「それより、どうしてここにユウキが?」

ユウキ 「……ああ、それだがペル。お前ポケモンリーグ棄権になっちまったぞ」

ペル 「……そう」

ユウキ 「いいのか……? わざわざバッジを8つも集めて参加した大会だろ?」

ペル 「別に構わない……元々、ユウキに会いたかっただけだから」

ユウキ 「……そうか、それなら別に構わないがな」

一応聞いておきたかった。
一応ペルだってポケモンリーグに参加したんだ、何か思うものもあると思ったんだが。
だが、ペルには特に大会に未練はないようだった。

ユウキ 「…ペル、お前どうしてここにいるんだ?」

ペル 「? どういうこと?」

俺の言葉にペルはよくわからないという風に首を傾げた。
俺はちょっと心の中でかったるいと思いながらも。

ユウキ 「ペル。お前がRMUとどんな取り引きをしたかは俺にはわからない」
ユウキ 「だが、お前がここにいることで俺に大会への復帰を認めさせた…そうだろう?」

ペル 「……うん」

ユウキ 「それはなんでだ? どうしてそうしたんだ?」

ペル 「……分からない。ただ…ユウキが大会に出ていたときすごく生き生きしていたのが頭にちらついて……」

ユウキ 「……そうか。ペル、お前いい奴だな」

俺がバトルで生き生きしていたことも驚きだが、それが理由で自分を引き換えに俺を大会に復帰させたペルにも驚きだな。
だが、ちょっと筋違い…だな。

ユウキ 「ペル……俺は正直、仲間が犠牲になるのは気分が悪い」
ユウキ 「俺自身が迷惑を被るのもごめんだが、俺の性で誰かが迷惑被るのも御免だ」
ユウキ 「ペル、お前がどう思っているかは分からないがここはお前の居場所じゃないと俺は思う」
ユウキ 「ペル、一緒に来い。お前には俺たちと一緒にいる資格がある」

俺は少なくともペルを仲間だと思っている。
確かにペルは得体が知れないが、ペルは良い奴だ。
善とか悪とかそんな下らない括りは必要ない、俺はペルを良い奴だと思うだけだ。

ペル 「……でも」

突然、ペルが口を渋る。

ユウキ 「? どうしたペル?」

ペル 「ごめんなさい。私は……行けない」

ユウキ 「!? その女性が理由か?」

俺はペルの状況を想定しながら、着いて行けない理由を考えた。
その結果、後ろの女性が原因かと推測に至った。

ペル 「……うん」

ユウキ 「そうか……だったらその女性は連れ去る、これならどうだ?」

ペル 「!? それは……」

珍しくペルが驚いた顔をした。
この女性がペルにとってどんな存在なのかは知らない。
だが、正直俺には関係ないし、ペルをここから引き剥がせるならなんだっていいと思った。

エグドラル 「…ユウキさん。申し訳ありませんが私はここを離れるわけにはいきません」

ユウキ 「勘違いするな。あんたの意見なんて聞いていない」

エグドラル 「!?」

俺はこの女性に興味なんて無い。
ペルがこの女性の側を離れられないなら連れ去るだけだ、これにこの女性の理由は必要ない。
もし、その結果火の粉が降ってくるようなら振り払うだけだ。

エグドラル 「……それだけ、あなたもペルのことを大事に思ってくれているのですね」

ユウキ 「? その言い回し……あんた一体何者だ?」

少し女性に興味が出た。
この女性はペルを見守る人間の位置の発言をした。
ペルの上に当たる者ということか?

エグドラル 「……私はエグドラル。かつてザンジーク・マザーと呼ばれた存在……」

ユウキ 「……!? ザンジーク……」

随分と久しぶりに聞いた気がする言葉だった。
ザンジーク…しかしマザー?
ザンジークの母親だと?

エグドラル 「ユウキさん、ペルが好きですか?」

ユウキ 「あんたいきなりだな……好きだよ。友人としてだがな」

エグドラル 「それが、ザンジークでも?」

ユウキ 「関係あるかっ!? 人だろうとそうでなかろうとペルはペルだ! そいつを友人として好きになるのに理由がいるのか!?」

俺はこの女性に不思議と苛立ちを感じていた。
その性か、この女性にきつく当たりそして怒鳴ってしまった。

ユウキ 「……すまない。どなっちまった」

エグドラル 「……いえ、むしろありがとうございます」
エグドラル 「怒鳴られたなんて……久しぶりです」

女性はそう言いながら俯いた。

エグドラル 「ペル……あなたは幸せになれるわ……行きなさい」

ペル 「マザー?」

エグドラル 「ザンジークとはなんなのか? その真理をあなたは知ることが出来る……そしてそれを知る時、あなたは幸せの意味を知るわ」

ペル 「……マザー」

ユウキ 「ペル……」

ドタドタドタドタッ!

突然外からドタバタと足音が聞こえてきた。
どうやら、俺の怒鳴り声やらなんやらが原因のようだな。

ユウキ 「どうするペル?」

ペル 「……マザー」

ペルはエグドラルという女性を見る。
心なしか不安そうだった。

エグドラル 「行きなさい…ペル」

ペル 「……うん」

ペルはうなづく。
俺はペルの手を握り、再び白夜で空間に切れ目を入れた。
そして一目散にその場から退散する直前。

ユウキ 「あんたはここにいるのか?」

エグドラル 「ええ」

ユウキ 「そうか、ごきげんよう」

俺はそれだけ言って空間の切れ目にペルと一緒に突入して、ビルから脱出した。




ドタドタドタ!
ガタァン!!

メノース 「どうしました!?」
メノース 「!? ペ、ペルは!? ペルはどこです!?」

エグドラル 「……」

ドタドタと焦って部屋に入ってきたのはメノースだった。
ペルはユウキさんと一緒に既に脱出した。
それでいい……ペル……あなたは幸せになる資格がある。
ザンジークたちには存在しない感情……あなたは気づいていないかもしれないけれどそれは確実に存在するわ。
笑いなさいペル……哀しみなさいペル……あなたは幸せになれる……。

エグドラル (ユウキさんの最後……ごきげんよう、か)

私にはユウキさんの最後の冷ややかな一言が胸中に残っていた。
『ユウキさんも』私のことが嫌いなのかな……。

エグドラル (意外と傷つくのよ……冷たくされるのって)



…………。



キィィィン……!

ザシャ!

空間の切れ目から抜け出した先は海岸だった。
とりあえずペルを連れて脱出成功だな。

ユウキ 「大丈夫か、ペル?」

ペルは俺の手を握ったままコクリと頷く。
俺はその顔を見てとりあえず、安心した。

ユウキ 「とりあえず、RMUは信用ならん。ペルもどこかに隠れるのがベストだが……」

ペル 「ユウキの側は?」

ユウキ 「ダメだ、危険すぎる。とりあえずペルは俺の部屋にいてろ部屋番はわかるよな?」

ペルは分かると頷く。
とりあえず、大会もあるので俺はずっとペルと一緒にはいられない。
だからとりあえず、ペルは俺の部屋で待っていてもらおう。
一応、万が一のための『護衛役』も呼んでいるしな。

ユウキ 「…一応俺の部屋までは一緒についていってやるよ」

俺はペルの手を引っ張るとすぐ近くのホテルへと向かった。




ポケットモンスター第89話 『マザー』 完






今回のレポート


移動


サイユウシティ


3月6日(ポケモンリーグ本戦4日目)


現在パーティ


ラグラージ

サーナイト

チルタリス

ユレイドル

ボスゴドラ

コータス


見つけたポケモン 66匹






おまけ



その89 「敗北者たちへの挽歌」





あ、テステス。
あ、さてさて本編ではペルが試合場に現れず棄権となりましたが、その間他の皆さんは何をしていたのか?
今回は、そういった皆さんのお話です。
それではおまけその89、始まりと御座候〜♪(テケンテンテン、テテン♪)





タクマル 「う〜ん……現れないねぇ?」

リフィーネ 「どうしちゃったんでしょうか?」

ケン 「あの嬢ちゃん何考えとるんやろな…」

ワイら敗北者たちは、次の試合、ヨーVSペルの試合を見るため観戦席にいた。
しかし、ヨーは試合場におるものの、ペルが一向に姿を現さない。

リュウト 「そういえば、控え室にもいなかったが……?」

カラクサ 「このままじゃ棄権とみなされるよ?」

アスカ 「遅刻っていうのは聞いたことあるけど……試合放棄なんて聞いたこと無いよ…?」

そりゃないやろな。
勝てるにしろ負けるにしろまず試合に顔ださんなんてありえへん。
せやけど、あの嬢ちゃんホンマなに考えとるかさっぱりやからなぁ〜。

チカ 「どうでもいいけど、あと10分よ?」

ケン 「そういえば、なんでお前はここおるねん?」

チカ 「なによ、別に居たっていいでしょ?」

ケン 「どう考えても勝手にやってれば系のツンデレ嬢の癖に」

チカ 「ちょ……!? そういう人が誤解するような発言はやめてくれる?」
チカ 「私だって、大会の観戦くらいするわよ」

サティ 「だけど、これは興醒めかしら〜?」

ケン 「あれ? サティちゃんいたん?」

サティ 「それはあんまりかしらーっ!?」

リュウト 「……探してくる。どうも気になる」

リュウトはんはそう言うと席を立つ。
それを見てワイは。

ケン 「ワイも行くわ。準決勝で試合をブッチなんて気分悪いしな!」

ワイはそう言ってリュウトはんと一緒にペルを探しに行くのだった。




おまけその89 「敗北者たちへの挽歌」 完


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