ポケットモンスター サファイア編




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第95話 『VSカゲツ、雨霰異常気象バトル!?』






ワァァァァァァァァァァッ!!!

歓声が木霊する。
リーグの時と同等か、それ以上の活気を持ってサイユウシティの中心にある競技場は揺れていた。
ホウエン地方ポケモンリーグは毎年ホウエン中からトレーナーが集まり、また観客たちも集まる。
競技場で観戦できない物はテレビで……あるいはラジオでと、様々な手段を用いてこのお祭りを見るのだ。


シャベリヤ 『――さぁ、カントーの方面では益々暖かくなりこの国全体がじょじょに過ごし易い気候になろうとしています』
シャベリヤ 『こちらテレビ視聴者の方はお分かりでしょうか……このホウエンリーグの熱気をっ!!』
シャベリヤ 『さぁ、春一番に開始されるこのポケモンリーグ! ついに本年度より採用となりましたチャンピオンカーニバルをもっていよいよ終了となっております!』
シャベリヤ 『これからどんな波乱が待っているのか!? 全21試合解説はこのシャベリヤが行います!』
シャベリヤ 『それでは最初の試合はぁ!?』

ワァァァァァァァァァッ!!

ユウキ 「……とりあえずかったる」

シャベリヤ 『第1試合! 縁があるのかまたもやオープニングバトル、片方はユウキ選手!』
シャベリヤ 『もはや説明不要か! しかしここでプロフィールを紹介!』
シャベリヤ 『ユウキ選手15歳、トレーナー歴は僅か5ヶ月!』
シャベリヤ 『ジョウト地方コガネシティ出身で現在ミシロタウン在住であのジムリーダーセンリの息子というエリート!』
シャベリヤ 『使用ポケモンのタイプは多種多様であり重量軽量、大型小型と使いこなすオールラウンダーだ!』

ワァァァァァァァァァッ!!!

いつも以上に気合の入った解説で、解説さんが巻くし立ててくる。
俺は多少かったるいと思いながらもそのまま正面の四天王を目視した。

シャベリヤ 『対してユウキ選手と同じくオープニングバトルを飾るのは四天王カゲツ選手!』
シャベリヤ 『こちらもホウエンの人には説明不要だろうが紹介するぞ!!』
シャベリヤ 『カゲツ選手21歳、トレーナー歴は8年!』
シャベリヤ 『ホウエン地方ハジツケタウン出身で一時はジョウト地方にも在住していたようだ!』
シャベリヤ 『徹底した悪タイプのエキスパートだが、その人生は波乱万丈。決して恵まれたとはいえない環境の中で確かな実力を身につけた天才だ!』
シャベリヤ 『ホウエン四天王の切り込み隊長カゲツ! まずは一勝もぎ取れるか!?』

カゲツ 「へ……面白くなってきやがった」

ユウキ 「グラードンの一件の時以来だな、おっさん」

カゲツ 「こら、おにーさんと呼べ! まだ俺ぁ21だ」

ユウキ 「やれやれ……大人気ないおにーさんだな」

審判 「両方とも口を慎むように!」

ユウキ 「……」

カゲツ 「へ……」

俺は四天王カゲツを見る。
いい面構えしているな……実に不敵だ。
恐らく四天王となる前も、なった後もさぞ修羅場を越えてきたのだろう。
さすがに年季が違うからな……どういう戦いになるか。

審判 「ルールは使用ポケモン6匹! ポケモンの交代は両者自由!」
審判 「ただし道具の使用所持は原則として禁止、ポケモン図鑑は閲覧のみ許可します!」
審判 「なお、チャンピオンカーニバルにおいては休憩はございません!」
審判 「それでは両者不正のないよう、ポケモンをフィールドへ!」

カゲツ 「……いい面構えだ」

ユウキ 「……!?」

カゲツの顔が一変した。
さっきまで見せていたオチャラケた様子が一変し、真剣な顔に早変わりする。

カゲツ 「よっしゃ! じゃあまぁ俺とお前でしかできないポケモンバトルをやってやるか!! でてこいグラエナ!」

ユウキ 「いくぞグラエナ!」

グラエナ(ユ) 「ガウゥッ!」
グラエナ(カ) 「ウォォォンッ!!」

シャベリヤ 『ああっと!? なんと両者最初のポケモンはグラエナ!』
シャベリヤ 『これはトレーナーの育成が真価を問われる興味深いバトルになりそうだ!』

カゲツ 「へ……俺に悪タイプのポケモンを差し出してくるとはあてつけか!?」

ユウキ 「まさか、いい経験させてもらいますよ、おにーさん」

俺は自分でもわかるくらい嫌らしい顔をしてカゲツを見る。
カゲツは『まぁいいか』と割り切ったような発言をしてポケモンを見直した。

ユウキ (グラエナ……この勝負負けてもいい、その代わりしっかりとカゲツのグラエナの勉強をしろよ?)

カゲツが一番手に出すポケモンはわかっていた。
カゲツとその妹のアスカ両方に共通する点だが、こういった公式試合では必ずグラエナを先発に出す。
だから俺はここでこちらもグラエナを出した。
勝負に勝つためではなく、今回は四天王と言われるほどのトレーナーの技術をグラエナに盗ませるためだ。

グラエナ(ユ) (負けるつもりは初めからないがな……まぁ、戦い方を見せてもらいましょうか)




ペル 「……」

シャドウ 「勝てるか?」

ペル 「……多分」

シャドウ 「多分、か」

ペル 「……」




カゲツ 「……グラエナ! 『とっしん』だ!」

グラエナ(カ) 「ガウッ!」

カゲツの一言でバトルは動き出す。
荒野のフィールドを駆けてカゲツのグラエナは俺のグラエナへと一直線にむかってきた。

ユウキ 「グラエナ、こっちも『とっしん』!」

グラエナ(ユ) 「ガーッ!!」

今回はまるでアメリカテキサスを思い浮かべるような乾燥した荒野がフィールドの舞台だった。
砂は僅かな風で舞い上がり、地面の質感まで再現されている。
後は雰囲気出しなのかイマイチどうしようか悩む『ケセランパセラン』と『サボテン』があった。
ちなみにどうでもいい話だが、『ケサランパサラン』とも言われるようだ。
どういったものかわからない人はググってみること。
まぁ、西部劇とかでよく出てくる訳のわからん植物状のタイヤみたいなのだ。

グラエナ(ユ・カ) 「グラーッ!」

砂煙を上げて『とっしん』する二匹のグラエナ。
2匹の足の速さは若干カゲツのグラエナの方が早く、フィールドやや俺側で衝突した。
そのスピードもあり、ダメージは若干こちらの方が大きい気がした。

カゲツ 「続いて『あくのはどう』!」

ユウキ 「こっちもだ! グラエナ!」

グラエナ(ユ・カ) 「ガウーーッ!!」

今度もカゲツのグラエナの方が若干速い。
両者の体から発せられる『あくのはどう』は攻撃力を持って敵に襲い掛かる。
その波動は2匹の中央でぶつかり合い、爆発を起こした。

グラエナ(ユ) 「ガウウッ!?」
グラエナ (カ) 「グラッ!?」

爆発の反動で両ポケモン後ろへと吹き飛ばされるがカゲツのグラエナの方が後ろにより吹き飛んでいる気がした。

ユウキ 「そうか」
カゲツ 「わかった」

両者同時に口が開いた。
俺は少し驚いてカゲツを見たら、カゲツも少なからず驚いているようだった。

カゲツ 「どうやら俺のグラエナはそちらに比べ攻撃力が高い攻めのグラエナのようだな」

ユウキ 「対してこっちは、守りのグラエナね」

性格もある程度災いしているだろうな。
スピード、攻撃、特殊などの面において負けているが、体力、防御、特防などにおいてこちらが勝っている様子。
能力だけの勝負なら互角らしいな……。
後はポケモンとトレーナーのアビリティの数が勝敗を分けるだろう。
奇しくも解説さんが言っていた通りの展開か。

カゲツ 「よし、ここは俺たちの馬力の違いというやつを見せてやるか! グラエナ『のしかかり』!」

グラエナ(カ) 「グラッ!」

ユウキ (『のしかかり』!? 技マシン技じゃない!?)

世の中にはポケモンに技を伝授させるトレーナーだっている。
恐らくその類だろうが驚いたな。

ユウキ 「グラエナ、『まもる』!」

グラエナ(ユ) 「グラッ!」

グラエナはおなじみ絶対防御フィールドを展開して待ち構える。
カゲツのグラエナは上から馬乗りになるようにグラエナに襲い掛かるが、フィールドに阻まれて失敗した。

カゲツ 「そのまま『かみくだく』だ!」

しかし、カゲツとそのグラエナも怯むことなく『まもる』の効果が消えた瞬間素早く俺のグラエナの腹に噛みついてきた。

グラエナ(ユ) 「ガ、ガウゥゥーッ!?」

グラエナが悲鳴を上げる。
『かみくだく』は俺のグラエナは持っていない技だ。
さすが四天王といったところか、グラエナひとつとっても習熟率が違う。

ユウキ 「負けるなグラエナ! サボテンに『アイアンテール』!」

グラエナ(ユ) 「グ……グラーッ!!!」

グラエナはすぐ近くにあったサボテンに『アイアンテール』を放つ。
サボテンは『アイアンテール』を喰らうと、爆散し飛び散った。
腹にかみついていたカゲツのグラエナはサボテンの大きな塊がグサリと刺さる。

カゲツ 「うげっ!?」

と、ポケモンよりむしろトレーナーが痛そうな顔をした。
しかし、カゲツのグラエナは中々の根性で決して口を離そうとはしなかった。
俺のグラエナは尚苦しむ。

ユウキ 「……一か八かだ! グラエナ、『のしかかり』!」

グラエナ(ユ) 「! ガ、ガウ!」

俺のグラエナは『のしかかり』なんて習得していない。
しかしグラエナは一瞬戸惑った様子だが、見よう見まねの『のしかかり』を敢行した。
かみついたグラエナを下にして、大きく真上に跳びあがりそのまま重力落下に従いカゲツのグラエナを押しつぶした。

グラエナ(カ) 「グラァッ!?」

溜まらずカゲツのグラエナは俺のグラエナから離れた。

カゲツ 「大丈夫か、グラエナ!?」

グラエナ(カ) 「グ……ググ……」

グラエナは体が震えるだけで上手く動かないようだった。

カゲツ 「麻痺状態!? 技として成立したってのか!?」

そうカゲツのグラエナは『のしかかり』の副作用で麻痺状態になっていた。

ユウキ (あんなぶっつけ本番で『のしかかり』を習得したのか……事前に見せてもらったのはラッキーだったな)

恐らく先に見せてもらってなかったらこの技は成功しなかったろう。
2度できるかは俺にもわからないが、グラエナはこの技を成功させた。
そしてそれはチャンスでもある。
ただし……。

グラエナ(ユ) 「グ……ガァ……ガァ……!」

グラエナの苦しい顔はカゲツのグラエナのそれ以上だった。

ユウキ 「……グラエナ、『とっしん』だ!」

グラエナ(ユ) 「グ……グラーッ!!」

グラエナは苦しい体を起こしてカゲツのグラエナに『とっしん』する。

カゲツ 「動けグラエナ! 『あくのはどう』だ!」

グラエナ(カ) 「……!」

シャベリヤ 『トレーナーの声に反応するグラエナ! しかし痺れて動けない!! そのままぁ!?』

グラエナ(ユ) 「ガーッ!!」

ドッカァァァァ!!!

まるで猛スピードで走る車と車がぶつかったような大きな音がした。
『とっしん』を受けたカゲツのグラエナも吹き飛んだが、こちらのグラエナも自分の体を支えることが出来ず後ろに吹き飛んだ。

審判 「りょ、両ポケモン戦闘不能!」

互いのグラエナはダメージに立ち上がることが出来なかった。
審判はそれをみて両ポケモンにダウンを宣告する。

シャベリヤ 『なんとー! 攻撃した側もその反動でダウン! この開幕のオープニングバトル、まずは相打ちからスタートだ!』

ユウキ 「戻れ、グラエナ」

カゲツ 「ち……戻ってくれグラエナ」

俺は傷ついたグラエナをボールに戻し労う。

ユウキ (これでいいのかねぇ……ペル?)

俺は昨日のバトルを少し思い出す。
俺はある意味原点回帰してバトルに望んでいた。
まだ我武者羅だったあの旅の始まりを思い出しつつ、そして新たなるステップへの進化を求めて。

カゲツ 「二匹目だ! いけダーテング!」

ユウキ 「でてこい、キノガッサ!」

シャベリヤ 『さぁ、互い2匹目は両者草タイプ!』
シャベリヤ 『しかし、相性的には格闘タイプをもつキノガッサが悪タイプでもあるダーテングに対して有利だ!』

ユウキ (次鋒はダーテングで来たか)

両ポケモンダウンだったから何がくるかわからなかったが運がいいのか悪いのかダーテングが相手だった。

ユウキ (相性はいいが、アビリティを考えるとどうだかな……)

俺は頭を掻いて、この先の戦局を考える。
詰められるほど相手のアビリティは低くない。

カゲツ 「おいチャレンジャー、俺の二つ名は知っているか?」

ユウキ 「? 二つ名?」

カゲツ 「四天王切り込み隊長ってぇのがまぁ一般には知られ気味だが……俺は『地象繰騎』のカゲツ! その意味を教えてやらぁ!」
カゲツ 「やれ! ダーテング!」

ダーテング 「ダーテン!」

ダーテングはジャンプすると、そのまま真上に赤い球体を投げ飛ばした。
打ち上げられた赤い球体は上空で弾けると人工太陽が出来上がる。
その影響化で日差しは一気に強くなった。

シャベリヤ 『出たー! カゲツの『にほんばれ』! ここからが四天王の本領発揮だーっ!!』

カゲツ 「地は無……無から焔は生まれた」

ユウキ 「……? プレッシャー?」

ザラリとカゲツとダーテングから嫌な空気を感じた。
元々カゲツからはトレーナーとしてはやや荒々しい気配を感じていたが、それが一気に落ち着いた感じになると今度は恐怖に似たプレッシャーを感じる。

カゲツ 「ダーテング、『じんつうりき』!」

ダーテング 「ダーッ!」

ダーテングは団扇のような両手をキノガッサに向けるとキノガッサが苦しみ出す。
『じんつうりき』の効果でキノガッサはなにか幻を見て、精神的ダメージを受けているのだろう。

ユウキ 「キノガッサ、負けるな『マッハパンチ』!」

キノガッサ 「キ……キノ……キノォ!」

キノガッサはダメージに耐えながらダーテングに近づき、『マッハパンチ』を放つ。

パァン!!

まるで鞭を叩いたような音。
次の瞬間俺は戦慄した。

カゲツ 「いい攻撃だ……だがぬるいぜ!?」

ユウキ 「パー……リング!?」

シャベリヤ 『ああっと、ダーテング伸びたキノガッサの腕を外に弾いた!!』

キノガッサの『マッハパンチ』をダーテングは正確に見切り、当たる直前に腕を振り払い『マッハパンチ』の軌道を逸らして回避を成功する。
馬鹿げている、こんな回避方法をとってくるなんて!

カゲツ 「ダーテング、そのまま『つばめがえし』!」

ダーテング 「テンッ!」

ダーテングは瞬時にキノガッサの後ろに回って『つばめがえし』をヒットさせる。
腕の伸びきったキノガッサはそれを受けて前のめりに倒れた。

ユウキ 「! キノガッサーッ!!」

キノガッサ 「キ……キノォ……!」

キノガッサは苦しげに立ち上がりファイティングポーズを取った。
くそったれ……ここまでポケモンのアビリティに差があるとは思わなかった。
考えてみればこっちはまだ1年にも満たないトレーナーだ。
相手はもう何年もトレーナーやっているんだ、追いつけってのが無理な話か。

ユウキ (例え相性が悪くても下手な技だったら跳ね返される……どうする!? こんな相手との対戦経験なんて無いぞ!?)

さすがは四天王のポケモンだ。
これまで戦ったどんなトレーナーのポケモンよりも堅牢で隙が無い。
『ようりょくそ』の特性で素早さまで上がって手が着けられない。

キノガッサ 「……キノッ」

キノガッサは突然正拳突きの構えを取る。
何をする気だ……と一瞬思ったがすぐにそれの答えが俺にはわかった。

ユウキ (あいつ……! へ……そうだな、俺らしく行くか!)

俺はキノガッサの意図を読み取り相手の行動を見た。

カゲツ 「何をする気かわからないがこれで終わりだ! 『ソーラービーム』!」

ダーテング 「ダーテーン!!」

ユウキ 「いけぇ! 相手の硬直を見逃すな!」

ダーテングは瞬時に巨大なレーザーをキノガッサに発射する。
その極太レーザーはキノガッサを飲み込んだがキノガッサは前進を止めず、ダーテングの懐に入ると。

ドッスゥゥッ!!

ダーテング 「ダ、ダッテンーーッ!?」

キノガッサ 「キ……キノ〜……♪」

キノガッサの拳がダーテングの腹に突き刺さる。
するとダーテングの体から紫色の光が放たれるとそれがキノガッサに手から伝い、キノガッサに吸収された。

シャベリヤ 『ああっと! ここでまさかの『ドレインパンチ』がダーテングに炸裂! 効果は抜群だぁ!!』

ダーテングは苦しみ、左手を地面につけた。
対してキノガッサは体力を吸収して大分楽になる。

カゲツ 「馬鹿な……『ソーラービーム』を耐えるだけの体力なんて残っていなかったはず」

ユウキ 「ああ、あれはキノガッサの騙しだ、ピンチなフリ」

カゲツ 「!? な……」

キノガッサはあっかんべーをしてカゲツを挑発する。
まぁ、実際にはフリをするほどの体力は残っていなかっただろうが賭けが成立したのは事実だ。

カゲツ 「ち! ダーテング『つばめがえし』!」

ユウキ 「キノガッサ! 『こらえる』から『はっけい』!」

残念ながら『つばめがえし』を破る方法はない。
破れはしないが……対処法はある。

ダーテング 「テンーッ!!」

ザッシュウッ!!

相手の目を利用して放たれる『つばめがえし』は相手の目の前でその姿を一瞬で消して、死角から攻撃することに極意がある。
単純だが、決して破ることはできない技で威力が見た目より低いことを除けばとても強力な技だ。
ポケモンによって死角の取り方は様々だが、ダーテングは一瞬でキノガッサを飛び越え、空中からその扇状の手でキノガッサを切り裂く。
だが、ここでキノガッサは『こらえる』を行い、ダーテングの攻撃をギリギリ耐え切る。
そして攻撃を喰らった方向に対してキノガッサは瞬時に『はっけい』を行った。

ズドォン!!

地面を踏み抜き相手を打ち抜く『はっけい』はまるで大砲が放たれたかのような派手な大きい音を立てた。
ほんの1秒ちょっとだが、その時間がえらく長く感じる浮遊時間。
ダーテングは『はっけい』を受けて吹き飛びそして……。

ズササササァァァァァァッ!!!

審判 「ダーテング、戦闘不能!」

シャベリヤ 『決まったーっ! ダーテング、『はっけい』を受けてたまらずダウンです!』

カゲツ 「ち……もどれダーテング!」

カゲツは苦い顔をしてダーテングを戻した。
実力においては明らかにダーテングの方がキノガッサより上だった。
にもかかわらず、トレーナーの策略によりカゲツは敗北を喫した。
そりゃ苦い顔になるわな。
キノガッサがあのポーズを取らなかったら俺もここまでの展開は思いつかなかっただろう。
あいつが諦めなかったから俺もこの展開を作り出した。
先に勝利を確信したカゲツが負けた理由はそこだ。

カゲツ 「……でてこい、ノクタス!」

ノクタス 「ノクタッ!」

シャベリヤ 『さぁ、カゲツ選手3匹目はノクタスだ!』
シャベリヤ 『ダーテングと同じく草と悪を併せ持つノクタス! キノガッサはもうフラフラだが油断はできないぞ!?』

カゲツ 「地は焔に包まれ、やがて地は乾燥し砂が覆う」
カゲツ 「ノクタス、『すなあらし』!」

ノクタス 「ノックタ!!」

ビュオウッ! ビュオオオオオオッ!!!

人工太陽が煌くフィールドは一転して、砂嵐に包まれた。
大量に舞った砂は視界を極度に悪くし、ポケモンや人間にも少なからずダメージを及ぼす。

ユウキ 「この砂嵐でも十分倒れる……せめて一発かませ! 『マッハパンチ』」

キノガッサ 「キ……キノーッ!!」

キノガッサはノクタスに一直線で向かい、『マッハパンチ』をノクタスに放つ。

ドカァッ!!

突然相手の体が吹っ飛んだ。
次の瞬間。

キノガッサ 「キ……キノーッ!?」

キノガッサが痛がる。
俺はギョッとした。

シャベリヤ 『ああっと! キノガッサが攻撃したのは本物のサボテンだぁーーっ!!』

キノガッサはノクタスと間違えて、本物のサボテンを攻撃してしまった。
ノクタスの特性『すながくれ』だ。
ノクタスは砂嵐に紛れ込んでサボテンに擬態する特徴を持つ。
こうなると極度に視界が悪いためサボテンとノクタスを区別することは不可能だ。

審判 「キノガッサ戦闘不能!」

やがて砂嵐のダメージでキノガッサは立つことが出来なくなりダウンする。
そりゃそうだろうな、ダーテングのダメージをなんとか耐えたって言っても残り体力なんて残ってなかった。

ユウキ 「戻ってくれキノガッサ、よく頑張ったな」

俺はキノガッサをボールに戻し、次の戦略を練る。
どうやったらこの天候の中ノクタスに対抗できるか。

ユウキ (ち……能力を使えば見分けることは出来るが、そりゃ反則だもんな)

キメナとしての能力を使えば砂嵐中のノクタスを発見することも出来るだろう。
だが、それは俺のポリシーにも反する。
人間としてできる限りのことで戦うだけだ。

ユウキ 「でてこい、ユレイドル!」

ユレイドル 「……ユ」

砂嵐の中ユレイドルは平気でボールからでて佇む。
そのぼんやりと光った一つ目は視界の悪い砂嵐中で目立っている。
元々ノクタス相手に砂嵐の中で隠れることなんて出来ないだろうが、目立つのもどうかだな。

シャベリヤ 『さぁ、ユウキ選手の3匹目はユレイドル! ユウキ選手も2匹目は草タイプだ! ただしこちらは岩タイプでもあるぞ!?』

ユウキ (とりあえず砂嵐の恩恵を受けれるのはノクタスだけじゃない、こっちもそうだ)

砂嵐中岩タイプのポケモンは特防が上がる。
こうなるとユレイドルはまさに鉄壁の特殊防御力を誇る。

カゲツ 「ノクタス、『きあいだま』だ!」

ノクタス 「ノークター!!」

どこからかノクタスの『きあいだま』がユレイドルに放たれる。

ズパァン!!

ユレイドルは回避が出来ず直撃を受ける。
しかし。

ユレイドル 「……ユ」

シャベリヤ 『ノクタスの一撃! 効果は抜群だがユレイドルまるで平然としている!?』

カゲツ 「く……ここまで硬いのか!?」

ユレイドルの特殊防御力を甘く見ては困るな。

ユウキ 「ユレイドル、『ねをはる』」

ユレイドル 「ユ」

ユレイドルはその場に根を張り、大地からエネルギーを吸収し継続的に体力を回復させる。
ただしこの技を使用した以上ユレイドルはもう固定砲台だ。
相手の攻撃の回避はこちらからは絶対に無理になった。
後は相手が外すのを祈るだけだな。

カゲツ 「ち! だったら『ニードルアーム』!」

カゲツは痺れを切らし、ユレイドルに接近戦を挑んでくる。
ノクタスは跳びあがり、上空からユレイドルに『ニードルアーム』を放った。
ユレイドルの頭は『ニードルアーム』を受けるとまるでメトロノームのように反復運動を起こす。
さすがに物理は結構効いたらしい……だが。

ユウキ 「痺れを切らした時点でそっちの負けだ! 『あやしいひかり』!」

ユレイドル 「ユ〜……」

ユレイドルの瞳が怪しく光るとその光がノクタスに移る。

ノクタス 「ノ〜ノクタ〜???」

ノクタスはユレイドルの目の前でクルクルと目を回していた。
ノクタスは混乱状態になったのだ。

ユウキ 「一気にいくぞ! 『ヘドロばくだん』!」

ユレイドル 「ユ〜」

ユレイドルは目の前でクルクルと回るノクタスに『ヘドロばくだん』を放った。
いくら『すながくれ』の特性を持っているとはいえ、この目の前では回避できないようで爆発に飲まれて吹き飛んだ。
対してあまりに近すぎたのか、使ったユレイドルまでダメージを受ける。

ノクタス 「ノ……ノクタ〜???」

ノクタスはまだ平気だが顔色が悪かった。
どうやら『ヘドロばくだん』の副作用により毒状態になったようだな。

カゲツ 「くっ! 俺の声を聞けーーーー!!! ノクターーースッ!!! 『ニードルアーム』だーーっ!!!!」

カゲツの怒号にも似た声がフィールドに広がる。
瞬間、ノクタスが応えた。

ノクタス 「! ノクタッ!」

ノクタスは瞬時にユレイドルに近づいて、もう一度『ニードルアーム』を放つ。

シャベリヤ 『ノクタス、混乱が解けた! そして『ニードルアーム』が決まったぁぁ!!』

ユウキ 「ち……押し切れ『ヘドロばくだん』!」

ユレイドル 「……!」

しかし、ユレイドルは仰け反ったまま動こうとしない。
やばい……『ニードルアーム』の効果が出ちまったか!?

カゲツ 「よしっ! 一気に決めろ! 『かわらわり』!」

ノクタス 「ノークター!!!」

ズッガァァァン!!

ノクタスは右腕を振り下ろし、ユレイドルの頭を地面に打ち付けた。
ユレイドルは度重なる攻撃についに動かなくなった。
ダメージか、時間切れかはわからない。
だがそれでダウンなのは明白だった。

審判 「ユレイドル戦闘不能!」

ユウキ 「戻れ、ユレイドル!」

シャベリヤ 『決まったー!! ノクタス2連勝! しかし毒を浴びてしまいノクタスも危険だ!』

多少運が絡んだノクタスVSユレイドルだったが、最終的にカゲツが運を勝ち取りユレイドルは破れた。
だがノクタスも効果抜群の『ヘドロばくだん』を受け、さらに毒状態になって苦しい。
さらにノクタスの運を攫うかのように……。

シャベリヤ 『さぁ、そして砂嵐も消えて天候は再び元に戻った!』

砂嵐は時間経過により消えてしまい、そして俺は安心してこいつを出す。

ユウキ 「でろ、コータス!」

コータス 「コ〜!」

俺が4番手に出したのはコータスだった。
砂嵐中はこちらの攻撃が外れるのを恐れて出せなかったが、この状態なら問題ない。

カゲツ 「ち……ここでか」

カゲツも苦い顔をしていた。
まだまだ勝負はどちらに転ぶかわからない。
それはカゲツも理解しているようだった。

カゲツ 「ノクタス! 最後の一撃お見舞いしてやれ! 『はかいこうせん』!」

ノクタス 「ノークータースッ!!!」

ノクタスは両手にエネルギーを集め、それを一気にコータスに放射してくる。
コータスの鈍重さで回避は不可能だなと俺は認識し、素直に攻撃に移った。

ユウキ 「コータス、『かえんほうしゃ』!」

コータス 「コーッ!!」

ズガァァァァァン!!!

コータスが吹き飛ぶほどの衝撃があった『はかいこうせん』だが爆発の中心から『かえんほうしゃ』が飛び出しノクタスを襲う。

ノクタス 「ノクーッ!?」

ノクタスの強烈な一撃は思ったより苦しかったがコータスは安定してノクタスを倒した。

審判 「ノクタス戦闘不能!」

シャベリヤ 『さぁ最後に一花咲かせましたが、これでノクタスもダウン! いよいよカゲツ選手も4匹目だ!』

カゲツ 「でてこい、シザリガー!」

シザリガー 「シーザ!」

カゲツの4匹目はシザリガーだった。
アクア団が使うのを度々見たが、それに比べると随分強そうだった。
戦いなれた相手と思って油断すると痛い目を見そうだな。

カゲツ 「砂舞い乾燥した地、やがて地には雨が降る……」
カゲツ 「シザリガー、『あまごい』!」

シザリガー 「シーザー!!」

第3弾、今度は青い球体を作るとそれを天高く打ち上げる。
空で青い玉は弾けると雨雲を呼び、フィールドには大雨が降った。

ユウキ (さながら異常気象だな……こりゃ)

さて、今度はコータスの苦手な雨か。

カゲツ 「シザリガー、『バブルこうせん』!」

シザリガー 「シーザッ!」

ユウキ 「戻れコータス」

俺は瞬時にコータスを戻す。
これはさすがに勝ち目がないわ。
勝てないならさっさと戻す、これが吉だな。

ユウキ 「でてこいチルタリス!」

チルタリス 「チ〜ル〜♪」

俺はチルタリスを出す。
シザリガーの『バブルこうせん』が飛んできたがチルタリスは瞬時に身を捻って回避した。

シャベリヤ 『さぁ、ここでユウキ選手ポケモンを交代します! でてきたのはチルタリスだ!』

カゲツ 「ドラゴンタイプか……たしかに水タイプの技は効果が今ひとつだがな……シザリガー、『れいとうビーム』!」

シザリガー 「シーザーッ!!」

キィィン!!

シザリガーの右ハサミから『れいとうビーム』が放たれる。
大雨が降る中、周囲を凍らせながら放たれる『れいとうビーム』は真っ直ぐチルタリスに向かう。

ユウキ 「チルタリス、かわして『りゅうのはどう』!」

チルタリス 「チーールーーッ!!!」

しかしチルタリスは巧みに『れいとうビーム』を回避してシザリガーを逆に攻撃した。

シザリガー 「シザッ! シーザ!!」

ユウキ 「当たらなきゃ意味無いぜ、おにーさん!」

俺はあからさまカゲツを挑発した。
シザリガーは『りゅうのはどう』を受けても割とピンピンしている。
素直にチルタリスの攻撃力不足が目立つな。
的確に弱点を突きながら戦うポケモンだと改めてわかる。

カゲツ 「ち……これだから飛行タイプは鬱陶しい」
カゲツ 「だが……対処法が無いわけでもないぜ! シザリガーアレをチルタリスに投げつけろ!」

カゲツはそう言うとケセランを指してそう命令した。
て、ケセランパセラン!?

シザリガー 「シーザーッ!!!」

シザリガーはケセランパセランをチルタリスに投げつけてきた。
あまりの驚きにチルタリス慌ててケセランを回避したが、そこにまっていましたいわんばかりにシザリガーの攻撃が来る。

カゲツ 「シザリガー、『いわなだれ』!」

シザリガー 「シザッ!!」

シザリガーはその両手のハサミで地面を叩くと、地面から岩が飛び出して回避先のチルタリスを襲った。

ズガガガガッ!!

チルタリス 「うぎゃあっ!?」

チルタリスは『いわなだれ』を喰らって地面に落ちてしまう。

カゲツ 「よし! そのまま『クラブハンマー』!!」

シザリガーはそのまま地面に倒れるチルタリスに容赦なく追い打ちをかける。
以外と素早いシザリガーだが、さすがにこちらも黙ってはいない。

ユウキ 「『つばめがえし』!」

チルタリス 「このぉ! 調子に乗るんじゃねぇっす!!」

シザリガーの『クラブハンマー』はチルタリスに向かって放たれるが攻撃した瞬間チルタリスは消えてしまい、シザリガーの攻撃は何もない空間を切り裂くだけだった。
そして攻撃の瞬間、シザリガーは真後ろからチルタリスの『つばめがえし』を受けた。

シザリガー 「シザッ!? シザーッ!!」

シザリガーは驚いた程度のダメージでまだまだ平気の様子だった。
シザリガーのやつ思ったより頑丈だな……いやチルタリスの攻撃力が低いのか。

ユウキ (まぁ、チルタリスの本来の本領は攻撃にあらずだが)

チルタリスは本来攻撃よりもむしろサポートに優れる種族だ。
攻撃でその本領を引き出すことは出来はしない。

カゲツ 「シザリガー、後ろに『つじぎり』!」

ユウキ 「遅い! チルタリス『りゅうのまい』!」

シザリガーは瞬時に振り返ってチルタリスを襲った。
しかしチルタリスは『りゅうのまい』を踊りながらそれを回避する。
昨日戦ったドラピオンが相手だったら同じことは出来なかった。
あいつに比べればこのシザリガーの『つじぎり』なんて止まっているようなものだ。
チルタリスは踊りながら上空へと飛びあがり、態勢を整える。

ユウキ 「チルタリス、『そらをとぶ』!」

チルタリス 「タリーッす!!」

チルタリスは一気に上空へと飛びあがり、停滞する。

ユウキ 「……」

カゲツ 「……」

周りの観客たちも息を呑んで押し黙り、周囲は雨粒が地面を叩く音で支配されていた。
だが、やがてその支配を俺の一声が打ち破った。

ユウキ 「いけぇっ!!」

俺が大きく宣告する。
するとチルタリスはシザリガーに急降下する。

カゲツ 「俺は逃げん! 迎え撃つ!」

シザリガー 「シザッ!!」

どうやらカゲツは『まもる』気はないらしい。
勇敢なことだ、さすが四天王の切り込み隊長。
逃げる時も前進の精神か。

カゲツ 「シザリガー、お前の全力を見せろ! 『クラブハンマー』!!」

チルタリス 「チルチルチルーッ!!!!」
シザリガー 「シザーーーッ!!!!」

互いの攻撃が交錯した。
あまりの超高速に俺の動体視力でも追いつかず、チルタリスとシザリガーは背中合わせで地面に降り立っていた。
やがて……。

シザリガー 「……シザ」

ドサァッ!!

シザリガーが横に倒れる。

審判 「シザリガー、戦闘不能!」

シャベリヤ 『きまったーーっ!! まさに一閃! シザリガーたまらずダウンです!』

審判の宣告で一気に会場がヒートする。
カゲツ 「戻れシザリガー! 頑張ったな」

カゲツはシザリガーを戻して労うと、ようやく5匹目のポケモンのボールに手をかけた。

カゲツ 「でろっ! マニューラ!」

マニューラ 「マーニュ!」

ユウキ 「マニューラ、氷タイプか……」

アスカも使っていたな。
あれに比べると格段に強そうだ。
とにかく素早くドラゴンタイプにとっては天敵か。

チルタリス 「チル……チル……!」

ユウキ (チルタリスも疲れているな……)

体力に自信がないわけではないがシザリガー戦で思った以上に消耗したのか。

カゲツ 「地は雨雲に覆われる、やがて地は冷え凍る」
カゲツ 「マニューラ、『あられ』!」

マニューラ 「マーニューッ!」

マニューラは水色の球体を空に打ち上げると雨は徐々に霰へと姿を変えた。

ユウキ 「チルタリス、今のうちに『うたう』だ!」

チルタリス 「チ〜チルルル〜♪」

俺はマニューラが『あられ』を行っている間にチルタリスに『うたう』を使わせる。
マニューラのような素早いポケモンを相手にするのは厄介だ。
さすがにやつの『れいとうパンチ』を受けたらひとたまりも無い。

マニューラ 「マ……マニュ……」

カゲツ 「マニューラァァッ!!! 俺の声を聞けぇぇっ!!! 『こおりのつぶて』!!!」

マニューラ 「! マ、マニュッ!!」

ユウキ (だぁぁぁ、またかよ!?)

マニューラは眠りそうな顔のところ、またもやカゲツの怒号のような声で阻止されてしまった。
混乱は治すわ眠りは治すわあんたはルビーの乾坤一擲か!?
そんなことを心の中で突っ込んでいる間にマニューラが瞬時に作り出した『こおりのつぶて』が高速弾と化してチルタリスを襲った。

チルタリス 「うっぎゃーーーっ!?」

シャベリヤ 『決まったーーっ!! 効果は抜群だーーっ!!』

チルタリスの残り体力からもすでに『こおりのつぶて』で一撃だった。
やっぱ氷はだめだわ。

審判 「チルタリス戦闘不能!」

ユウキ 「よっし、戻れチルタリス」

シャベリヤ 『さぁ、これで両者2対2! 大接戦のこのバトル、勝利を引き出すのはどっちだ!?』

ユウキ 「もう一度出るべし、コータス!」

コータス 「コーッ!」

俺は再びコータスを出す。
氷タイプに炎はまぁセオリーだな。
マニューラはドラゴンタイプには圧倒的に強い傾向を持つが、炎タイプには基本的に弱い傾向がある。
特にコータスとの相性は最悪だ。
大抵の場合マニューラは何もできない。
この場合素直に交換するのがセオリーだ。

だ・が。

カゲツ 「逃げん! 迎え撃つ!!」

などと言って気合を入れる。
そうだよ……この人そういう人なんだよ。
ジム戦かっつーの、素直に交換すりゃいいのに……。
この人性格的に絶対損しているよ。

ユウキ (とはいえ、その損を補い余りあるアビリティの高さは四天王でもトップクラスだからな……)

カゲツ 「マニューラ、『あくのはどう』!」

ユウキ 「コータス、『かえんほうしゃ』だ!」

マニューラの行動は速い、瞬時にコータスに向かって『あくのはどう』を放つがコータスの『かえんほうしゃ』の方が威力が高く結果的に相殺される結果となった。

ドカァァン!!

カゲツ 「マニューラ、『いやなおと』!」

ギギギギギギギギギッ!!

マニューラは爆発で黒煙が立ち上がる中爪と爪を擦り合わせて文字通り嫌な音を出し始める。
『いやなおと』の効果によりコータスの防御がガクッと下がるそうだ。
とにかくイマイチ意味がわからんがとにかく防御が下がるのは確か。
カゲツは決して退かないが、命令は的確だ。
伊達に四天王をやっていないというのがわかる。

カゲツ 「そのまま『つじぎり』だ!!」

カゲツは待ったなしにガンガン攻めてくる。
防御を知らない攻撃一本槍ではないがとにかく命令を絶やさない。
命令の圧倒的数で相手を圧倒するのがカゲツのスタイルなのだろう。
しかも、無駄に適切だから迂闊な行動を取るとカウンターを取られかねない。
その真価は素早さを活かせるポケモンの時発揮されるようだな。

マニューラ 「マーニューッ!!」

ユウキ 「ち! コータス、『てっぺき』から『こうそくスピン』!」

コータス 「コ、コーッ!」

コータスはその場で甲羅の中に丸まり『てっぺき』を行う。
直後マニューラの『つじぎり』がコータスを捉える。
ガガッと甲羅を削るような音がするとコータスの甲羅に傷が付いていた。
そして直後コータスは高速で回転してマニューラを弾き返す。
大したダメージにはなりえないが、高速で動くマニューラを捉えるには技は限られてしまう。

カゲツ 「マニューラ、『ちょうはつ』!」

マニューラ 「マニュ! マニュマニュ!」

マニューラは『こうそくスピン』で弾き返されるも空中でクルリと1回転して重力落下に従い地面に降り立ちながら『ちょうはつ』を行う。
これでコータスは能力アップができなくなった。
やばいな……命令が追いつかない。

カゲツ 「マニューラ、もう一度『つじぎり』!」

マニューラは地面に着地すると、その着地の反動を利用して飛びあがりコータスを襲う。

ユウキ 「くそっ! ちょっとは落ち着けっての! 『ねっぷう』!」

マニューラのスピードも災いしてどんどんカゲツの命令が出る。
オマケにあのマニューラ多分せっかちな性格だ。
とにかく早く早く動きたがっているのがよくわかる。
俺のラグもせっかちだがこいつはそれ以上だな。

マニューラ 「マーニューッ!!」

ザッシュウッ!!

コータス 「コーッ!? コ、コーッ!!」

コータスはマニューラに顔面を切り裂かれる。
しかしコータスもここは意地を見せて『ねっぷう』を放ってみせた。
攻撃直後の反撃のためマニューラは『ねっぷう』に飲まれて大きく吹き飛んだ。

マニューラ 「マニューッ!?」

素早いが防御力の薄いマニューラには大きなダメージになったようで明らかにダメージでのノックバックがあった。
しかしここでまたカゲツマジックとも呼べる執念が発生する。

カゲツ 「負けんじゃねぇ!! マニューラ『こおりのつぶて』!!」

マニューラ 「!! マ、マニューーッ!!!」

明らかにダメージで仰け反っていると言うのにマニューラはカゲツの声に応えて仰け反りながら攻撃してきた。
両手を背中に向け『こおりのつぶて』を作り出しそれをコータスも見ずに打ち出す。
マニューラの『こおりのつぶて』はコータスの甲羅の頂上にある空洞に叩き込まれた。

ユウキ 「やばっ!? そこは……!?」

『こおりのつぶて』なんてコータスには大した攻撃ではない。
だが空洞は別だ。
そこに水や氷タイプの技を撃たれると一気にコータスの体温が低下してしまう。
いわゆるコータスの急所だ。

コータス 「コ……コォ……」

マニューラが相手を見ずに撃ったからこそ起きた奇跡ではあるが、これによりコータスは一気にクールダウンしてしまった。

シャベリヤ 『これはなんというアクシデント! コータス動きが止まってしまった!』

カゲツ 「今だーーーー!! マニューラーーーー!!! トドメをーーーーうてーーーーーーーー!!!!!!」

マニューラは決して背中を地面には付けず、両足で地面に着地しするどくコータスを睨みつけると小細工なしにコータスへと向かった。
元々打たれ弱いマニューラだ、ダメージは隠せないようだ。

ユウキ 「……死なばもろとも!! 『だいばくはつ』だ!!」

コータス 「……!!」

マニューラ 「マニューッ!!」

マニューラの技は『きあいパンチ』。
思いっきり拳を後ろに引き、隙だらけのポーズから放たれる正拳突き。
その拳がジャストコータスに触れた時だった。

ガコン!

まるで起爆スイッチを押したかのごとくコータスが大爆発を起こす。

ドッカァァァァァァァァン!!!!

一瞬耳が潰れてしまうかと思うほどの轟音。
そして視力を一瞬にして奪う強い閃光。
吹き飛ばされるほどの爆発が黒煙を会場全体に広げる。

コータス 「……」

コータスを中心にフィールドはまっ平らにされてマニューラはカゲツ側のフィールド外で倒れていた。

審判 「両ポケモン戦闘不能!」

カゲツ 「……もどれマニューラ!」

ユウキ 「悪いなコータス」

俺はコータスに謝りつつコータスをボールに戻す。
大爆発を使ったのは初めてだ。
今までこの技だけは使うことが出来なかった。
俺は臆病だから、自分を犠牲にする技なんてとても使わせることができなかった。
でも使わないといけない時もある。
ポケモンたちは俺のためなら喜んでやってくれる。
それが心を痛めると同時に、誇らしくもある。
とりあえず俺の中でトラウマ技ベスト3に入る技だな。
出来れば二度と使いたくない。

シャベリヤ 『なんと土壇場の『だいばくはつ』によりフィールドが綺麗に掃除された!! その衝撃でマニューラもダウン!』
シャベリヤ 『両者最後のポケモンは交換なしの一発勝負になってしまったぞ!?』

カゲツ 「ラストはお前に任せるぜ、アブソル!」

アブソル 「ソール!!」

ユウキ 「オーラス! ボスゴドラ!」

俺はボスゴドラを最後のポケモンとしてセレクトしておいた。
鋼タイプは悪タイプの攻撃に強い、加えて高い防御力を持つため決戦用としてセレクトしておいたのだ。

シャベリヤ 『さぁ、最後のポケモンはカゲツ選手お馴染みアブソルだ! 対するユウキ選手はボスゴドラ!』
シャベリヤ 『相性の上ではユウキ選手有利そうではあるが、ここで初勝利をもぎ取るのはどっちだ!?』

カゲツが選んだのはアブソルだった。
どうやらカゲツには馴染みの深いポケモンらしいな。
恐らくカゲツの最大のパートナー。
どんなトレーナーでも最初に仲間にしたポケモンっていうのは思い入れがあるものだからな。

ユウキ 「強敵だな……気を引き締めろよ?」

俺はボスゴドラの背中にそう言った。
ボスゴドラは何も言わず、背を向けたまま小さくコクリと頷いた。

ユウキ 「おっし、んじゃ形勢逆転を計るか」

アブソルは悪タイプだが非常に幅広い技を覚えることができる。
当然四天王のアブソルともなれば、悪タイプの攻撃が通りにくい鋼への対策とてあるだろう。
そのことを考えた上で行動を選択しなくては素早さの低いボスゴドラでは滅多打ちになるだろう。

ユウキ 「ボスゴドラ、『ロックカット』!」

ボスゴドラ 「ボースッ!!」

ガン! ゴンッ!

ボスゴドラの体が圧縮されたように体をへこませて変形を行う。
正直、この技は初めて見たがこんな技だったのか……。
岩を削るとはどういう意味かと思ったが、削ったような感じに見えるようになったわけだな。

カゲツ 「! アブソル『かえんほうしゃ』!」

アブソル 「ソールッ!!」

アブソルは口から炎を吐く。
ボスゴドラは素早く身を翻し、それを回避した。

シャベリヤ 『ああっと! 360キロの巨体が素早く動いたっ!! 硬い上速い! まさに最強の機動要塞誕生かっ!?』

カゲツ (俺のアブソルより速ぇか……! 予想は出来ていたが!)

ユウキ 「おしっ! 主導権はとった!」

ボスゴドラは今まで素早さが低い故に主導権がどうしてもとれなかった。
何よりいくら硬いといってもそれは物理面に対しての話で特殊面はむしろ柔らかい。
相手が特殊攻撃を持っているだけでボスゴドラは戦いにならないのだ。
だが、相手より速いのなら話は別になる。

カゲツ 「くっ! アブソル左に『つじぎり』!」

アブソル 「ソールッ!!」

ガインッ!!

ボスゴドラ 「ッ!!」

ボスゴドラは最初自分の素早さが一気に上がったことに戸惑った様子だったがすぐに慣れて小刻みに動き素早くアブソルに接近した。
しかしカゲツは最初にボスゴドラがアブソルのリーチ内に入る場所を予測し、それが見事に的中してボスゴドラの進攻を止めた。
だが、火力不足だな。

ボスゴドラ 「ボーッスッ!!」

アブソル 「ソルーーッ!?」

ボスゴドラは力任せにアブソルを吹き飛ばした。
それほど体重のないアブソルは上からの力には踏ん張れるが、下からの力には弱くそのために簡単に宙を舞う羽目になったのだ。
まぁ、四つんばいの特性だな。

シャベリヤ 『アブソル、ボスゴドラに弾き飛ばされた! これは絶体絶命か!?』

ユウキ (な訳ねぇだろ……仮にも四天王だぜ?)

たしかに初戦においてはこちらが優勢だったが、ここからこの戦いはフェイズ2に入る。
カゲツさんがこちらのボスゴドラの防御力、速度を認識し、こちらもアブソルの攻撃力、速度を認識した。
互い、最初のフェイズに比べるとダメージは無いが手札が理解できている。
ここから俺なら化かし合いを行うが、そこはカゲツさんだからなぁ……。

カゲツ 「ち……やってやろうじゃねぇか! 『いわくだき』!」

ユウキ 「ボスゴドラ、お前らしくやれ、『かえんほうしゃ』!」

ボスゴドラ 「ボス? ボスーッ!」

ボスゴドラは一瞬振り向き何のことか分らない顔をしたが、すぐにアブソルの方を向き『かえんほうしゃ』を放つ。
アブソルは直線的な動きで『かえんほうしゃ』を回避してそのままアブソルは射程圏内に入る。

ボスゴドラ (あたしらしくあたしらしくあたしらしく? あたしらしくっていうと……?)

アブソル 「ソールーッ!!」

ドッカァァァ!!

シャベリヤ 『いったーーー! アブソルの『いわくだき』がクリーンヒット! 効果は抜群だぁ!!』

ユウキ (だが、物理じゃまだ落ちない……とはいえ効果抜群)
ユウキ (出来れば回避したいが、もとより全部回避なんて不可能……だったら、当てられる時に当てる!)
ユウキ 「いけ、ボスゴドラ!」

ボスゴドラ 「! ボ、ボースッ!!」

ドッゴォォォォ!!!

アブソル 「!? ソールーッ!?」

カゲツ 「!? アブソルーーッ!?」

この攻防の一様はこうだ。
アブソルは宙を飛び、ボスゴドラの頭に『いわくだき』を放つ。
その右手から放たれた一撃はボスゴドラを怯ませたが、こちとらボスゴドラも受けるのは慣れてる。
ゆえにすぐに反応ができ、瞬時に空中に浮いて無防備なアブソルの腹に『アイアンテール』が直撃する。
人間なら骨折どころか、脊髄が真っ二つになりそうな一撃で、アブソルは真っ平ら地面を何度も転がった。
土煙が上がり、砂がアブソルの綺麗な毛に絡みつき、アブソルのダメージの大きさが物語られた。

シャベリヤ 『強烈な反撃! アブソル大丈夫なのか!?』

カゲツ 「うおおおおおおおおおおおおっ!! アブソルーーーーーー!!!!!」

アブソル 「! ソ……ソルゥ……!」

アブソルは満身創痍の体を押して立ち上がった。
見た所すでに気力だけで立っている状態だが、この状態こそまさに怖い。

シャベリヤ 『アブソル耐えます! だがこの状態が続くと危険だっ!』

ユウキ (俺なら降参だね、リーグ戦のような長丁場でポケモンの怪我なんて冗談じゃない……まして、死ぬかもしれない怪我なんて)

アブソルの立ち上がり方、どう考えても楽なダメージじゃない。
これ以上物理的衝撃を受ければ、それこそ背骨が折れる……!

ユウキ 「……終わりにしろ! 『かえんほうしゃ』!」

ボスゴドラ 「ボースッ!」

既にアブソルには回避する体力は無いはずだ。
俺はこれを最後と思い、ボスゴドラに命令を下した。

カゲツ 「! やらせるかぁ!! アブソル『ふいうち』!」

アブソル 「ソ、ソール!!」

アブソルは既に空元気のはず、にも関わらず素早い動きでボスゴドラの背中に回り、攻撃を加えた。

ユウキ (ち……動くだけでも楽ではあるまいに!)

カゲツ 「これで終わらせろ!! 『ばかぢから』!」

アブソル 「ソ、ソールッ!!」

ボスゴドラは振り返る。
だが、そこにアブソルは飛び掛り、その文字通り馬鹿力でボスゴドラの頭を叩いた。
『いわくだき』で防御力が下がったこともあり、これはさすがに致命的に思えた。

ボスゴドラ 「…!」

シャベリヤ 『ボスゴドラ膝が落ちた!! これでダウンかぁ!!?』

ボスゴドラ (痛ぅ……あんたもいい度胸しているわよ、ちょっと動くだけでも痛いでしょうに!)
ボスゴドラ (ユウキだったら、手が鈍るかもしれないけど……あたしは……)
ボスゴドラ 「甘くないわよーーー!!」

アブソル 「!? ソルーッ!?」

ズガァァン!!!

シャベリヤ 『ああっと! ボスゴドラ、ここでアブソル地面に叩きつけた!』

ボスゴドラはアブソルの頭を鷲掴みにすると、そのまま地面に叩き付けるのだった。

審判 「! アブソル戦闘続行不可能! よってアブソル戦闘不能!」

アブソル 「!? ソ……ソル……!」

カゲツ 「! く、そ……」

アブソルはなおも立ち上がろうとする。
だが、審判はこれ以上の戦闘の続行は不可能として、アブソルをTKOにした。

シャベリヤ 『なんという幕引きか!? アブソルはまだ戦う意思はあるが、審判はそれを辞さずTKOだ!』
シャベリヤ 『何はともあれオープニングバトルを制したのはユウキ選手!!』

ワァァァァァァァァァァァァァッ!!!!

勝負の決着に観客の歓声が一気に沸きあがる。
ボスゴドラはドスンドスンと俺の側まで歩み、腰を下ろす。

ユウキ 「よ、お疲れさん」

ボスゴドラ 「ボ……ボース……」

ユウキ (相変わらず綺麗な顔では帰ってこない女だ、まぁ、らしいっちゃらしいか)




ポケットモンスター第95話 『VSカゲツ、雨霰異常気象バトル!?』 完






今回のレポート


移動


サイユウシティ


3月7日


現在パーティ


キノガッサ

グラエナ

チルタリス

コータス

ボスゴドラ

ユレイドル


見つけたポケモン 66匹






おまけ



その95 「できるわけありません、ハイ」





ユウキ 「ちーす、主人公のユウキっす」
ユウキ 「えー、今回はおまけなしです。多分これ以降おまけはほとんど入らないと思います」
ユウキ 「大変申し訳ございません、では次の話を好ご期待」
ユウキ (はぁ……かったる)




おまけその95 「できるわけありません、ハイ」 完


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