ポケットモンスター サファイア編




Menu

Back Next



ルビーにBack ルビーにNext





第98話 『VSプリム、LIAR or LIAR』






『3月9日 時刻09:25 サイユウシティ』


ユウキ 「……おっし」

ポケモンリーグチャンピオンズリーグ3日目、本日のオープニングバトルは俺とプリムさんのバトルとなっている。
俺は普段より遅く6時少し位に起きると静かに部屋の中で時間が過ぎるのを待っていた。

ペル 「……もう行くの?」

ユウキ 「もうつっても10時前にはスタジアムに顔出さないといけないからな」

ペル 「……頑張って」

ユウキ 「おう、ありがとよ」

シャドウ 「ユウキ」

ユウキ 「ん?」

ペルのささやかな応援に笑顔で応えるとシャドウがゆっくりと話しかけてくる。

シャドウ 「最近見慣れない人物がこのホテル近くを徘徊している……どうする?」

ユウキ 「無視していいよ、邪魔だからって払えば、それが煽りとなっていらぬ火種を呼ぶよ」

シャドウ 「そもそもザンジークを匿うなど正気か?」

ユウキ 「お前もしつこいな、その人種的超至上主義的なのどうにかならないのか? 前時代的すぎるぜ」

俺はそう言ってため息をつく。
時間は無いがすこしこいつには今の時代的な説明が必要そうだな。

ユウキ 「いいか? ザンジークも人間もキメナも同じ知的生命体だ、そこになんの違いがある?」
ユウキ 「身体構造? 能力? 価値観? そんなものは『知』という文明的生命が生み出したものにすぎないだろ」
ユウキ 「違う種だから敵か? 同種以外は狩る者狩られる者か? ならば同種さえも殺す人間はすでにこの世にある存在ではないだろう」
ユウキ 「別種を認められる存在が、その価値観によって認められないのは仕方が無い……だが共に歩もうとする者を拒むのはただの愚者だ」
ユウキ 「大体お前は敵愾心が――」

シャドウ 「あ〜わかったわかった……それより時間はいいのか?」

ユウキ 「……ふん、お前には徹底的に協調性というものを叩き込む必要性がありそうだな」
ユウキ 「帰ってきたら、徹夜で叩き込むからな」

俺はそう言って立ち上がる。
大体シャドウにはやれザンジークや、やれキメナやとうるさい。
ザンジークだから敵とか正直そういうの、かったるいんだよね。
知的行動の取れない単細胞生物とか闘争本能しかない戦闘民族とかだったら仕方が無いけど、ザンジークはそこまで融和性がないわけじゃないだろう。
まずシャドウには相手を理解しようという気持ちが無い、相手に理解を求めて、自分が相手を理解せず何が融和か?
これは今の人間でも言えたことだが、その個が全を考えない知的生命体の特殊な精神構造だな。
うむ、もしかしたらこれは解明できたら論文としていけるかもしれないな。

ユウキ 「じゃ、行ってくる」

シャドウ 「うむ、そろそろベットメイキングが来る時間だ、俺たちも行こう」

ユウキ 「……行くってどこへ?」

ペル 「……屋上」

そう言ってペルとシャドウは立ち上がるとベランダからヒョイとジャンプしてホテルの上へと登っていった。

ユウキ 「……かったるい」

俺はそう呟いてポケモンリーグ本戦会場に向かうのだった。




……………。




『同日 時刻10:00 サイユウシティ ポケモンリーグ本戦会場』


シャベリヤ 『さぁ、本日も始まりました!ポケモンリーグ 本日はユウキ選手対プリム選手、ダイゴ選手対ゲンジ選手、イヴ選手対カゲツ選手の3戦をお送りしたいと思います!』
シャベリヤ 『さぁそれでは本日のオープニングバトルはこのふたりに熱く彩ってもらおうーっ!!』

ワァァァァァァァァァァ!!!

シャベリヤ 『まずはレッドサイドより登場するのはもはや説明不要! 注目の新人! 言視触聴の幻遊人ユウキ選手!』

ワァァァァァァァ!!!

ユウキ (……誰だ、かって変な異名つけた奴?)

最近ひとつ後悔していることがある。
ポケモンリーグに出るようになって無駄に有名になってしまったことだ。
偽名を使うイヴさんの気持ちが少しわかる。
妙に黄色い歓声も多く、ミーハーに見られている気がするが気にしないでおこう。
人を撒くのはこれでも得意だしな。

シャベリヤ 『さぁ、そして対するはブルーサイドより入場! ホウエン地方四天王が三! 氷炎のプリム!』
シャベリヤ 『2連勝の新人対2連敗の老練という奇妙な構図、勢いのまま押し切るか!? それとも一日の長としての力を見せ付けるか!?』
シャベリヤ 『注目の一戦です!』

ワァァァァァァァァ!!!

実況兼解説に乗せられて会場が割れんがごとく揺れる。
くそ暑いなかこの歓声は、ポケモンに命令する時も声を跳ね上げないといけないため素直にかったるいな。

ユウキ (にしても今日はいつも以上に歓声がでかいな……観客たち気合入りすぎだろ)

俺は汗を拭きながら、正面にいる涼しげな四天王を眺めた。
一見ドレス姿で暑そうな格好だが、汗ひとつ流さない冷ややかさ。
くそぅ俺も着替えたいけど、これサファイアだからなぁ……エメ仕様になったら矛盾するからだめなのか?
ていうかホウエン地方の皆さんって涼しげな格好(特にフヨウさんとか)しているのになんで俺って長袖長ズボンなわけ?
しかも厚手の手袋、どう見ても冬服で露出部分顔だけかよ。
おかげでエメラルドでは涼しげな服装に変更されたけど、これはサファイアなので衣替えは望めない。(泣)

ユウキ (さって、人を惑わす要素として用いるのは言、視、触……どれで攻めるべきか?)
ユウキ (人によってフィジカルな部分の強さ弱さは違う……俺はその弱い部分をちょっとつつくだけ……とはいえ、今回の相手は)

40度近くになろうかという暑い会場で一人涼しげにする相手だ。
まさにアレだな、ポケモンバトルでこのプリムに精神的動揺による命令間違いはないと思っていただこうッ! というやつだな。

ユウキ (かったる……珍しく正攻法か?)

色々シュミレートしてみるが、対プリムに対する決定打が思いつかない。
一応今回は理論上5匹で突破するつもりだ。
とはいえ、相手の戦略がわからん。
まぁ最初の二匹位は相手の戦い方を理解するために頑張ってもらうか。

審判 「ルールは使用ポケモン6匹! ポケモンの交代は両者自由!」
審判 「ただし道具の使用所持は原則として禁止、ポケモン図鑑は閲覧のみ許可します!」
審判 「なお、チャンピオンカーニバルにおいては休憩はございません!」
審判 「それでは両者不正のないよう、ポケモンをフィールドへ!」

俺の考えが纏まった頃には審判が試合開始のコールを出す。
一度ポケモンバトルのために頭をクールダウンさせれば、実況も歓声も聞こえない。
研ぎ澄まされた精神、これも俺のひとつの武器か。

プリム 「でてきてオニゴーリ!」
ユウキ 「いけ! コータス!」

シャベリヤ 『さぁ! 両者フィールドにポケモンを出した! プリム選手はオニゴーリ、ユウキ選手はコータスだ!』

今回のフィールド、今回は氷のフィールドだった。
熱気とは裏腹に涼しげなフィールド、一面氷に覆われなんの障害物もないステージはすこしスピードタイプには戦いにくそうだな。

ユウキ (一か八かの選択だったが、とりあえず乗ったか……)

とりあえず俺は相手のポケモンを見てホッとする。
プリムさんはトドゼルガなどの水もちも使うため、一概に炎タイプが有利とは限らなかった。
ていうか今回プリムさんと相対する上で俺のポケモンは不利がつくポケモンが多いのだ。
面倒くさいからカイオーガだしたろかと考えたが、さすがに勝負にならない気がしたので自重した。

ユウキ (さぁて? プリムさんはどう動くか)

有利なポケモンがいるなら退くのは当然の手段だ。
ましてプリムさんにコータスに有利なポケモンがいるのは確定的に明らか。
ならば、その上での交換のリスクも当然考慮できるだろう。
俺はその手を見て、プランを作る。
最初の不利は後の有利ってね。

ユウキ 「さぁ逃げなきゃ痛いぜ!? コータス、『かえんほうしゃ』!」

コータス 「コーーッ!」

コータスは甲羅の中の石炭を燃やして口から『かえんほうしゃ』を放つ。
オニゴーリは直撃すれば当然大ダメージ、まずはこの手で相手の出方を見る!

プリム 「オニゴーリ、『あまごい』!」

ユウキ (なに!?)

オニゴーリ 「オーニーーッ!!」

オニゴーリは青色の球体を作るとそれを空中へと放つ。
すると空は暗雲に包まれ、周囲は土砂降りとなる。
雨の量は凄まじくまるでスコールだった。

ユウキ (ちぃ!? これじゃ大してオニゴーリにダメージを与えられそうにないな!)

さすがに予想外だった。
氷タイプの使い手のプリムさんが、まさか水タイプを強化する『あまごい』を使うとは思わなんだ。
結果的には炎タイプの攻撃力は下がり、オニゴーリには最高の防御法なんだが。

ユウキ 「ちっ! だが弱点は弱点! 火力で押し切る! 『だいもんじ』!」

コータス 「コーーッ!!」

プリム 「地の利も天もこちらにある! オニゴーリ、『みずのはどう』よ!」

オニゴーリ 「ゴーリーーッ!!」

コータスの『だいもんじ』とオニゴーリの『みずのはどう』。
一見すると『だいもんじ』の方が威力が高いのだが、大雨の影響でこちらはパワーダウンし、相手はパワーアップしている。
様々な条件はかみ合ったが、結果的に威力は五分の様相でフィールド中央で爆発した。

ユウキ (ち……思ったより好戦的だな……! ここはオニゴーリを退かしたほうが有利だろうに!)

もっと知的な戦い方をしてくるかと思ったら予想以上に厄介だ。
烈火の氷人とはよく言ったものだ……使うポケモンはクールに、戦い方はヒートにか。

ユウキ 「コータス、もう一発『だいもんじ』!」

コータス 「コ……コォォォ……!」

ユウキ (ち……熱量の低下が激しいか)
ユウキ 「命令変更! 『オーバーヒート』!」

俺はコータスの状況を見て、すぐに命令を変える。
雨はまだしばらく残る、この状況でコータスは極めて不利だ。
交換するにも、後先考えると後でコータスの出番はなさそうだしな。

プリム 「烈火の氷人を舐めてもらっては困る! オニゴーリ! 『みずのはどう』!」

つくづく正面からごり押し狙ってくるプリムさん。
これは考え方を改めないといけないか。

技はオニゴーリの方が若干速かった。
だが今度はこっちの火力は違う。
向こうはどんなに頑張っても『みずのはどう』だろうが、こちらは上がある。

コータス 「コーーッ!!」

オニゴーリ 「!?」

ズドォン!!!

シャベリヤ 『ああっと!! コータス、圧倒的火力で押し切ったーー!! 『みずのはどう』は自然消滅! オニゴーリはどうなった!?』

オニゴーリ 「ゴォ……」

ズドン! と大きな音を立てて氷の上にオニゴーリが横たわる。

審判 「オニゴーリ、戦闘不能!」

ユウキ (おっし……俺らしくなかったかもしれないがゴリ押しで勝てたな)

知略で戦うタイプかと思ったが、予想以上にゴリ押しタイプだったからな。
まぁ、分かれば組し易しなんだがな。
とはいえ、カゲツさんの時もそうだったが強引な戦い方をする奴はチトしんどい。

プリム 「ご苦労様、オニゴーリ、お戻りなさい」

プリムさんは優雅にボールを取り出してオニゴーリを戻す。
まさか『あまごい』仕込んでいるとは思ってなかったなぁ……まぁ炎対策にはなるが……。
だが、これでは逆に彼女を苦しめる要素もある。
彼女の大半を占める水持ちの氷タイプ……たしかに水タイプの技は威力を上げるが逆に自身の天敵ともいえる技『かみなり』を必中の技に変えてしまう。

ユウキ (その場限りの作戦じゃあるまい……だとしたらカゲツさんと変わらない)

カゲツさんは一匹一匹に独特の戦術を用意していていた。
あの戦い方は面くらったし、実際きつかったな……。
とはいえ、プリムさんも同様のことをやるとは思えない。
きっと……何かがあるはず。

プリム 「……さて、出番ですトドクラー!」

トドクラー 「トドーッ!」

トドクラーは氷上を躍り出ると手のひらをパンパンと叩いて自身をアピールする。
予想通り水持ちの兼用か。

ユウキ (ここから先の戦いでコータスが活躍できる可能性は低いと考えるべきか)

トカゲの尻尾切りみたいな真似は好きじゃないんだがな……。

ユウキ 「コータス、駄目元もう一発『オーバーヒート』だ!!」

コータス 「コ……コォッ!」

コータスは最後の力を振り絞り『オーバーヒート』を放つ。
すでに雨で弱りきり、文字通り最後の一撃になるだろう。
対するプリムさんは――?

プリム 「トドクラー、『みずのはどう』!」

トドクラー 「トドーッ!!」

対するプリムさん、やっぱり真正面から攻撃してきた。
トドクラーの『みずのはどう』は自身を中心に波紋を広げていく形の『みずのはどう』だった。
地面を伝いながら段々波紋は大きくなり、『オーバーヒート』の火炎と直撃、しかし……。

シャベリヤ 『ああっと!! 雨の影響もあってか『オーバーヒート』突破できない! そのまま『みずのはどう』がコータスにぃぃっ!!?』

コータス 「コーーッ!?」

ユウキ 「ちっ!」

審判 「コータス戦闘不能!」

コータスは見事宙に舞う。
当然と言えば当然だが耐えられるわけも無くダウンだ。

ユウキ (氷水か……これが存外厄介なんだよなぁ)

都合悪くか俺のポケモンに電気タイプがいないからな。
逆に氷タイプや水タイプを苦手とした奴のオンパレードだ、どうしたもんか。

ユウキ 「早い出番だが頼むぜラグラージ!」

ラグラージ 「ラグラー! ……ジ?」

ラグラージは勢いよく、ボールから出てくる。
だが、着地と同時に奇妙な声を上げて、自分の足を見た。

ユウキ 「? どうしたラグ?」

ラグラージ 「ラグゥ?」

俺はラグラージの太い足を見てみるが、特に異常は見て取れない。
だが……。

ユウキ (ラグの奴……いつもより重心が低くないか?)

気のせいかもしれないが、長いことその背中を見てきた……今のラグラージに違和感を感じるのは確かだ。

ユウキ (一体何が……?)

プリム 「トドクラー、『なみのり』です!」

ユウキ (と……考える時間はバトル中にはないか!)
ユウキ 「ラグ! かわして……ッ!?」

俺の命令、名前を呼んだときにはすでに理解しているラグは言い終わるより先に行動している。
たまに意見が合わず、俺の命令外のことをやってしまうがそれでもおおむね良好だった。
だが、今回は完全に俺の失策だったようだ。

ラグラージ 「グゥッ!?」

ラグラージが地面を蹴ろうとした瞬間、力を込めた後ろ足がツルン! と滑った。
そのまま前のめりに倒れ、そして追い討ちの『なみのり』。

シャベリヤ 『おおっと! ラグラージのアクシデントに更に大波が襲い掛かる!!』

俺はラグラージが転び、大波に攫われた所でようやく状況を完全に理解した。
俺にしては遅すぎたくらいだ。

ユウキ (――今日の会場の気温……ゆうに40度はあるか?)

それ位会場は暑い。
そして『あまごい』……会場はものすごい湿気だ。
すでに俺の全身はびしょぬれ、薄着のトレーナーの皆さん、下着が透けるかもしれませんのでご注意ください。
さて、会場からは場を維持するために常に冷気が噴出されてフィールドを凍らしているわけだ。
だが、会場は暑い……その上雨粒が凍った表面の結合を砕く。
その結果……氷の表面は軽く水が張られた状態になる……そう、ものすごく滑りやすい状態だ。

ユウキ (してやられたっ! 狙っていたのか偶然かは知らないがモロ面食らっちまったか!)

しかし、幸か不幸かようやく俺の頭も回転を良くして来た。
これ以上はやらせるか!

ユウキ 「ラグラージ! そのまま『なみのり』だ!!」

ちなみにこの間3秒あまり、まだ大波に飲まれているラグラージだが、水タイプのラグにとって激流に飲まれようと聞き間違えることは無い。

ラグラージ 「……!!」

大波の中から更に巨大な大波が出現する。
水の流れはあっという間に変わり、大波は逆にトドクラーを襲うのだった。

ユウキ (おし! ナイス俺! 静止時間9秒以内にケリをつける余裕でした!)

プリム 「トドクラー! 『あられ』よ!」

同じ水タイプの技で打ち合いをしたら分が悪いと思ったのかすぐに天候の変化を命令する。
だが、次の瞬間にはトドクラーの方が大波に飲まれた。

プリム 「クッ!?」

大波の勢いはプリムさんも襲ってしまう。
余波ではあったが、それは強力で油断をすればフィールドに引きずり込まれただろう。

トドクラー 「ト……トドーッ!」

しかし見た目の派手さとは裏腹にトドクラーは予想以上に余力を残している。
そのままフィールドの端で白い球体を作り出し、空中へと打ち上げる。
すると、大雨は瞬時に霰へと変貌した。

ユウキ (!? オイ……これは……やばくないか?)

俺は自分の状態に危惧を抱く。

プリム 「ユウキ君! もっとフィールドから離れなさい!」

そう言っているプリムさんはすでにフィールドから離れているな。

ユウキ 「言われなくてもスタコラさっさだぜぇい!」

俺は慌ててフィールドから離れる。
さすがに『凍死』したくはないからな。

フィールドから出る冷気も相まって、急に会場の気温が下がる。
このままフィールドにいたら、あっという間に服が凍り付いて俺という名の氷の彫刻の完成だよ。
びしょ濡れの状態でこれは洒落にならんわい。

ユウキ (て……フィールドのラグもやばいだろうが!)

フィールドのラグラージも大波に飲まれたんだ。
体はびしょ濡れだ、いくら人間とは構造が違うとはいえ副次的効果も発動する!

ラグラージ 「ラグ……グゥ……」

シャベリヤ 『ああっと! ユウキ選手のラグラージ! 体のところどころがすでに凍り付いている!』

ユウキ (ち……! 霜焼けも発生している、おまけに足が地面と完全に一体化してやがるな)

プリム 「トドクラー、『ふぶき』よ!」

ユウキ 「ラグ! 自分に『がんせきふうじ』!」

俺の頭の高速演算はすでに次の手を考えている。
甘く見るなよ、そんな奇策で俺を止められると思わないでくれよ!?

プリム 「ッ!? 一体なんのつもりで!?」

ラグラージ 「ラググッ!? ラ、ラージ!」

ラグラージは岩の気を体から放出し、自身の周囲に岩を具現化する。
そしてそれをラグラージの周囲に打ち込み、ラグラージを動けなくした。
更に追い討ちの『ふぶき』がラグラージを凍らしてしまう。

シャベリヤ 『ラグラージ! 岩の中で凍ってしまったかぁ!? まさに絶体絶命!!!』

ユウキ 「――ひとつ聞く、この一連の流れアンタの手の内かい?」

プリム 「? ふふ……アハ……アハハハハハ! そうね、こうも簡単にラグラージが落とせるなんて思ってなかったわ。あまりに簡単すぎて笑ってしまった、失礼」

ユウキ 「……liar」

俺はボソッとそう呟いた。
当然プリムさんは気づいていない、よほどラグラージを警戒していたのかそれをあっさりと『行動不能』にして喜んでいる。

プリム 「アハハハ……あなた、トドクラーみたいなタイプ苦手でしょ? 電気タイプいないものねぇ♪」

ユウキ 「そうだね……正直苦手だ、だがアンタ一手間違えたな」

プリム 「アハハ……え?」

ユウキ 「Liar game……! 騙し合いで俺に勝とうとしたのが間違いだ!」
ユウキ 「ラグラージ、『じしん』!」

ラグラージ 「――ッ!!!」

ズドォン!!

プリム 「え? きゃあっ!?」

トドクラー 「と、トドーッ!?」

ガシャァン!!

氷の地面に亀裂を与え、周囲の岩を粉砕して姿を現すラグラージ。

シャベリヤ 『な、なんとぉーーっ!? ラグラージ凍ってなかったのか!? その姿まるでダメージを感じさせない!』

プリム 「そんな!? あの状況……凍ったはずでしょ!? !? liar……ですって?」

ようやく気づいたかと、俺はニヤッと笑う。
そう、騙されたと実感した時、俺の反骨精神は騙す方に向かっていた。
だから……俺も『嘘』をついた。

ユウキ 「悪いなプリムさん、ラグラージはつい凍っている振りをしてもらった……ただしばらく動けないのは事実だったから時間稼がせてもらったよ」

プリム 「!? まさか『ねむる』!?」

ユウキ 「さすがは、いやさすがさすが四天王、実に勘がよろしい」

そう……その通りだ。
事の流れはこうだ。

ラグラージは瞬時に自身を覆うように『がんせきふうじ』を放つ。
目論見どおり、ラグラージは岩に覆われて動けない代わりにその姿は外からは確認しづらくなった。
そして『ふぶき』がラグラージを襲ってきたんだ。
確かに凍る可能性もあったが、それは周囲の岩が防寒具の役割を果たし、凍らせるのを遅らせた。
ここから先俺は命令していない、だがラグラージが何をやるかは理解していた。
危険を感じたラグラージが次に何をしたのか。

それはプリムさんも言ったとおり『ねむる』だ。
『ねむる』は自身の体力を完全回復させ、状態異常も治してしまう優れた技だが、反面本当に眠ってしまう為しばらく動けない。
そう、『ねむる』も『行動不能』になるのだ。

ユウキ 「『凍り』と『眠り』を履き違えたアンタのミスだ」

プリム 「くっ! トドクラー、れいとう……!」

ユウキ 「遅いッ! 『マッドショット』!」

ラグラージ 「ラージッ!」

トドクラー 「ト、トドーッ!?」

今度は先手を打たせてもらった。
プリムさんの命令より先に俺の命令が入りラグの一撃はトドクラーを確実に仕留める。

審判 「トドクラー、戦闘不能!」

シャベリヤ 『決まったーーっ!! 絶体絶命からの大逆転ッ! やはりこのチャレンジャー侮れない! このまま一気に押し込めるか!?』

ユウキ (オイオイ無茶言うなよ解説さん、相手は四天王だぜ? 相手の奸計に気づくのが遅れたらやられてたっつーの……そんな楽にいけるか)

どんな戦術、戦法であれ有効であるならば使う……プリム氏はそういった戦術に長けている。
世が世ならば名軍師にでもなれそうだな。

ユウキ (戦術、用兵術、先天の明……さて、諸葛亮……と比べるのはおこがましいが、俺の戦術魅せてみようか)

もっとも……俺は諸葛亮のような忠義の信なんぞ信じない不届き者の大嘘つきだがな。

プリム 「……いいでしょう。楽に勝てるなんて到底思ってなかったわ……私の本気あなたに見せましょう!」

プリムさんの顔がより一層真剣になる。
トドクラーを戻すと次のボールに手をかけた。

プリム 「いくわよ! トドクラー!」

トドクラー 「トーッ!」

シャベリヤ 『さぁプリム選手の3匹目はまたもやトドクラー、対するはユウキ選手の主力ラグラージ! 果たして止められるのか!?』

ユウキ (止めてくるだろうなぁ)

ここで狙うべきは三つのうちのひとつ、『先』と『先の先』と『後の先』。
先とはやられる前にやること、先の先とはそれの出鼻をくじくこと、後の先はそれにカウンターのように行動をあわせることだ。
どれかひとつ間違えてもとめてくるだろうなぁ。

さぁ……どれだ、どれがくる?
こちらが攻めるか、それとも守るか?
プリムさんの性格から考えて先は無いだろうな……とすると先か後の先か。
とはいえプリムさんは今、若干高揚している。
ハイになる人間はおのずと行動が早くなりがちだ、とはいえ相手は烈火の氷人、氷炎のプリム……クールとヒートが同居した珍しい人だからなぁ。

ユウキ (伸るか反るか!)

俺は覚悟を決める。
膠着状態は相手に考える材料と時間を与えるだけだ。
混乱させるほどの速攻が有効!

ユウキ 「ラグ! いわな……!」

プリム 「『アンコール』! 今度はそっちが遅い!」

ユウキ (ち!! 仕掛けは先の先かっ!)

俺の仕掛けは先、相手はそれを読んで先の先。
やはり上手くはいかんな。

ラグラージ 「ラ、ラーグッ!!」

ラグラージは『アンコール』を受けてもう一度『マッドショット』を放ってしまう。
トドクラーに命中するも腹部の脂の多い部分で大したダメージも与えられない。

ユウキ 「戻れラグラージ!」

兵は拙速を尊ぶ。
俺は『アンコール』を受けると迷うことなくすぐにボールに戻した。
さて、こちらの手持ちを考える時間は与えない……といっても、すでに相手の頭には全ての俺のポケモンがリスト化されているだろうがな。

ユウキ 「でてこいボスゴドラ!」
プリム 「トドクラー、『ぜったいれいど』!」

互い、相手の行動を見てから命令する余裕なんて無い。
互いがイニシアチブを取ろうと必死に先を取ろうともがくが、その結果予測は出来てもその後は運任せしか残らない。
たく、どこに運任せに戦う戦略家がいるかねぇ?

シャベリヤ 『ああっと! プリム選手、必勝の一撃! しかし『がんじょう』の特性を持つボスゴドラには意味が無いッ!!』

隙を突いた絶対の攻撃だったが、ボスゴドラには効果が無い。
だが俺の不利が変わるわけではない。
なんせボスゴドラは水が弱点だからな。
それを踏まえた上で二手三手考えないといけないのはさすがに萎えるなぁ。

ユウキ (……んが、気が気じゃないのは相手も同じ!)

息つく暇もない。
出てきたと同時に言葉つなぎに命令が走る。
ポケモンの反応速度さえ超えそうな俺たちの戦術、命令は解説さえまともに追いつかない。

ユウキ 「『メタルバースト』!」
プリム 「『あられ』!」

シャベリヤ 『『ぜったいれいど』を防いだボスゴ……ああっと! 更に追い討ちかと思いきや、ユウキ選手の戦術をいなし――!』

当然、絶対的な一撃を与えられる水タイプの技で攻め立ててくるかと思いきやまさかのソレ読みで『あられ』で状況を整えてくるプリムさん。
裏を掻いたと思ったら、また裏を掻かれる。
次、プリム氏に『アンコール』はないと踏む。
『ぜったいれいど』が無い以上『アンコール』をすると常に『メタルバースト』のカウンターが危惧される場面になる。
加えて補助技などで身を固める方法もあるが、その場合いつ『アンコール』が解けてこちらの反撃があるか相手に全く予想が出来ない。
だが、その運にかけるのもこの展開には必要になるかもしれない。
俺はしないがね!

プリム 「『たきのぼり』!」
ユウキ 「もういっちょ! 『メタルバースト』!」

またもや互いの命令が同時に走る。
別に息を合わせているわけじゃない、機先を取ろうとした結果同時になっただけだ。
まぁ、正確には俺の場合1拍と半置いて命令出したから若干、後なのだが。

トドクラー 「トドーッ!!」
ボスゴドラ 「ボッスーーッ!!」

トドクラーの一撃を全身で受け止めるボスゴドラ。
直後ボスゴドラの体が銅鑼のように反響し、そのダメージをトドクラーに倍返しする。
ふっとぶトドクラー、しかし物理技の『たきのぼり』ではその倍でもトドクラーを仕留めきれない。

ユウキ (安全策かっ! 案外臆病だな!)

だが、結果としてこちらが追い詰められたのは事実。
次のポケモンのボールはすでにスタンバイしている……が。

ユウキ (ただじゃやられねぇぞ!)

攻撃技は間に合わない、次は一撃確実に決めにくるのは容易にわかる。
それが正解だし、こちらにはそれに対抗できる術も無い。

ユウキ 「ボスゴドラ、『でんじは』!」
プリム 「トドクラー! 『みずのはどう』!」

少しこちらの方が発言が早い。
互い次の手は前の命令が出た時点で決まっていただろうが、言語の処理速度ではこちらの方が早かったようだ。
だがポケモンの反応速度は五分だった。
トレーナーがそれだけのレベルの行動を行えてもポケモンがそれに対応できるとは限らない。
とりわけうちのボスゴドラでは、俺のマックススピードでの思考処理速度には到底反応できていない。
それが仇になるほどではないが、これだけの高速指令戦になるとそれが妙に気になった。

トドクラー 「トッドーーッ!!」

ボスゴドラ 「!? ゴドラーッ!?」

シャベリヤ 『トドクラー! 渾身の力を込めてボスゴドラを強襲! ボスゴドラ重ねてのダメージに耐え切れず溜まらずダウンですっ!!』
シャベリヤ 『しかしトドクラーも先に『でんじは』を浴びたか、動きが硬いぞ!?』

プリム (勝ったが死に残りか……殿を任せるには死にすぎているわね……)

ユウキ (これでトドクラーも死に体だ……『ねむる』……なんて消極策はありえないだろうな……)

俺は少し休憩する。
相手に考える時間を与えているが、このままじゃ両方ぶっ倒れるだろうな……さすがに叫びっぱなしで喉も痛いし。

シャベリヤ 『……さぁ、両者しばしの沈黙、先ほどまで両者の間で吹き荒んだ見えない嵐は今、不気味な静けさを持っています』
息もつかぬ攻防、その後にある静かな時間。
その時間になにか意味があるものと観客たちは一挙一動頑なにこちら観察する。

ユウキ (……ここまでは嘘を入れさせないために、両者相手に思考時間を与えなかった)

この勝負ストレートにやったら五分五分のバトルは出来るだろう。
ただそれでは作戦もへったくれも無い。
それに五分五分ではどちら勝つか検討もつかない……戦において勝てない作戦を掲示する軍師がどこにいるだろうか?
運が絡む……というのは存外嫌いじゃない。
作戦を立てても確実性にかける物などそんなもの作戦とは呼べない。
人は猪じゃないんだ、突撃かまして、真っ向から相手とぶつかりあうなんてナンセンスだ。
だが理詰めに詰めて、ガッチガチの詰め将棋というのもそこまで好きではない。
猪馬鹿にはたしかに楽な戦法だがリスクがない……スリルがない。
プリムさんは初めて遭った同じタイプのトレーナーだ。

ユウキ (俺と同じ嘘つきさん……真っ向から勝負し、全てに乾坤一擲を賭すタイプでもなければ、全てに合理性を持たせて全てを頭の中で終わらせるタイプでもない)
ユウキ (言うなれば俺たちは第3のタイプ……虚言、無い物を引っ張り出して在るように見せる者……嘘つきトレーナー)

ブラフ、それは知らなければ真実。
夢幻を現実に摩り替えるのが……俺たち戦い。

ユウキ (さて……A worthless drama such as the dinner of the toy……開幕しようか)

俺は今一度自分に気合を入れる。
『あられ』も止み、晴天を覗かせる空。
俺は光を一身に浴びてプリムさんの方を向く。
勝負はあせる必要は無い、でも……のんびりもしていられない。
虚言はばれなければ真の言葉。

ユウキ 「さぁ、行こうかヌケニン!」

ヌケニン 「……」

シャベリヤ 『さぁ! ついにユウキ選手動き出した! 小休止十数秒あまりの沈黙を破り出てきたのはなんとヌケニン!』

プリム (ヌケニンですって!? 霰の粒ひとつ当たった程度で倒れるポケモンを6匹のセレクトに入れたというの!?)

見てわかるほどプリム氏が動揺している。
そう、このバトルにおいて全く以って不利といえるポケモン……それがヌケニン。
確かに氷タイプや水タイプの技の攻撃は受けないヌケニンだが、プリム氏の使う『あられ』……これの一粒でヌケニンは倒れるほど脆い。
さぁ、プリムさん……toy boxは俺が開いた……一緒に遊ぼうじゃないか。

プリム 「くっ! 私は烈火の氷人プリム! 見えない闇を恐れるものか!!」

ユウキ (そうさ、恐れてはいけない……けれど慢心はいけないよ……俺の闇はブラックホールのように全てを飲み込むからね)

プリム氏の同様をあざ笑うように、俺は笑みを浮かべる。
動に動を連ねたさっきのバトルから一変。
言動ひとつがバトルの勝敗を左右しそうなほど張り詰められた空気。
プリム氏は勝利へと向かい光を放つ、だが俺は不気味闇を身に纏い勝利へと向かうその光を飲み込む。
同じ嘘つきでも彼女は光だ、陽光照らす太陽のような光、俺とは真逆の存在。
だからこそ、本性が出る……否、出せる。

この光を飲み込み、貪り、プリム氏の精神を陵辱せしめよう。

プリム 「トドクラー、『あられ』!」

ユウキ 「ヌケニン、『かげうち』」

ヌケニン 「……!」

俺はプリム氏の命令を悠々と聞いて命令を下した。
すでに麻痺しているトドクラーにはソレで十分。
そして氷の地面を這う影はトドクラーを強襲する。
もはや死に体のトドクラーには耐えるだけの体力は無い。

審判 「トドクラー戦闘不能!」

プリム 「……くぅ、戻ってトドクラー! お疲れ様ねゆっくり休んで」

シャベリヤ 『決まったー! 嵐の後に待っていたのはまるで漆黒の闇かっ!? 刹那の一撃がトドクラーを捕らえ、ついにプリム氏のポケモンが半数を割った!』

これでプリムさんは折り返しだ。
俺はまだ2匹しかやられていない。
これは絶対的なこちらの有利だ。
そうそうこの状況をひっくり返すつもりは無い。

プリム 「出てきなさい! オニゴーリ!」

オニゴーリ 「ゴーッ!」

次にプリムさんが出したは最初の一匹とは別のオニゴーリ。
最初のオニゴーリは場を整えるためのオニゴーリだったが今度は目的が違うと思うべきだろうな。

プリム 「オニゴーリ、『あられ』!」

ユウキ 「おお、怖い怖い。でてこいラグラージ」

俺はヌケニンを戻すと、ラグラージを再びバトル場に出す。
あいも変わらず地面はツルンとしており、一瞬転びそうになるがなんとか態勢を整えた。
そしてフィールドは再び『あられ』に巻き込まれた。

プリム (ヌケニンを戻した!? くぅ……読めないわね……一体何を考えているの彼は?)

ユウキ 「ラグ、『じしん』!」

ラグラージ 「ラーッジッ!」

プリム 「くっ! オニゴーリ、『こごえるかぜ』よ!」

オニゴーリ 「ゴ、ゴーッ!」

先に発生したのは当然ラグの『じしん』。
オニゴーリは攻撃を食らった後反撃を行う。
ちゃんとした足場なら回避も可能だったろうが全て転んでは困るので回避命令も出さすに受けさせる。

ユウキ 「まずはこちらの足場くずしかい? だがダメージの量は見て明白……このままパワーに任せてゴリ押し態勢に入れば、残り引数の関係で俺の勝ちだぜ?」

プリム 「! くぅ……ッ!」

『こごえるかぜ』をくらい身を縮こませるラグ、素早さが下がったのは明白だ。
だが、『こごえるかぜ』程度ではラグにはほとんどダメージは無い、だが相手のオニゴーリはもう一発『じしん』を耐える体力は無い。

ユウキ 「天候は厄介だが、一匹分こちらには余裕があるんだヌケニンは出番ないかもなぁ?」

俺は頭を掻いてかったるそうに天を見る。
プリム氏の表情はわからないが、確実にプリム氏の脳裏にヌケニンがこびりついたはずだ。

ユウキ (プリムさんに逆転勝利する術は一応ある……だが、果たして嘘か真実かも見えない現状でその選択が出来るかどうか)

プリム 「くっ! 『ふぶき』よ!」

ユウキ 「ラグ、『まもる』」

オニゴーリ 「ゴーッ!」
ラグラージ 「ラグッ!」

オニゴーリの口から放たれる猛吹雪、しかしラグラージは守りの態勢に入りそれをしのぐ。
万全の状態のラグラージに『ぜったいれいど』は効かない。
となる一撃で屠るか凍らせるかだ。
残念ながらオニゴーリにこちらを一撃で倒す技はある技除いて全くない。
凍らせる確率ならまだあるが、それも運次第だ。

ユウキ (さて、勝負を確定させるためだ……悪く思わんでくれ)

プリムさんはすでにこちらが仕掛けた罠の解除に一杯一杯だ。
特に『ヌケニン』、この単語の意味を彼女は理解できずじたばたしている。

プリム 「くっ! そのポケモンは私にとって危険すぎるっ! 『だいばくはつ』よ!」

ユウキ (はい、それが正解)

オニゴーリ 「ゴーリィーー!!」

ズッドォォォン!!!

フィールド中央でオニゴーリの『だいばくはつ』が巻き起こる。
『まもる』を使った後のラグラージは隙だらけ。
加えて『こごえるかぜ』で素早さが下がっているから、なおのことどうしようもない。

ラグラージ 「ら、ラジィィーッ!?」
審判 「両ポケモン戦闘不能!」

シャベリヤ 『決まったー!! 自らを犠牲にする技を放ったオニゴーリ! その代価は最大の難敵ラグラージを倒すに至った!!』





アカネ 「……どうも不自然やね」

ハルカ 「え? 不自然って?」

アカネ 「ユウキらしくあらへん……アイツ何考えとるんや? あそこはヌケニンに交換しとくべきやろ、どうせこの先も活躍なんてあらへんのに」

ハルカ 「うーん、たしかにここでラグラージを犠牲にする意味ってなんだったんだろう?」

アカネ 「出すだけ出しといて、余裕見せすぎとちゃうんか?」

ハルカ 「まぁ、ユウキ君のことだし、きっとなにかあるんだよ!」

アカネ 「ふーむ……ホンマ訳わからんやっちゃ、戦う方としては敵わんでホンマ」





プリム (ヌケニンをここで出さなかった……やっぱりなにかある……絶対にある……ヌケニンを確実に仕留められる手は絶対に残さないと……!)

ユウキ 「ご苦労さんラグラージ、今日のお前100点満点だぜ♪」

俺はボールにラグラージを戻し、次のポケモンの用意にかかる。

ユウキ 「でてこい、サメハダー!」

サメハダー 「サメッハッ!」

プリム 「出番よ、ユキメノコ!」

ユキメノコ 「メノメノ〜」

プリムさんが出してきたのはユキメノコ。
オニゴーリがメスの場合のみ『めざめいし』を用いて進化することが出来る。
一応警戒していたが予想通り、この局面で使ってきたか。

プリム 「サメハダー!? ここで!?」

ユウキ 「別におかしくないだろ、特に不利にはならない……とくにゴーストタイプでもあるユキメノコにはむしろ有利じゃないか」

プリム 「だ、だけど! 水場があるとは限らないのに!?」

ユウキ 「あるぜ、水場……見ろよ」

プリム 「!?」

フィールドの中央、オニゴーリの爆心地にはぽっかりと穴が開いていた。
俺はサメハダーをその穴の中に飛び込ませる。
相当分厚い氷だったがラグの『じしん』にとどめに『だいばくはつ』でかなり脆くなっていることがわかった。
水を得た魚の恐怖、存分に味わってもらおうか。

プリム 「くっ! 戻ってユキメノコ!」

ユウキ (正しい選択だったが早合点だったな……まぁいいか)

プリムさんはすぐにユキメノコを戻すと最後のポケモンのボールを手に取った。
恐らく俺の予想通りならば……!

プリム 「出てきてトドゼルガ!」

ユウキ 「サメハダー『かみくだく』!」

サメハダー 「サメッハーーッ!!」

通常ポケモン図鑑に載る物より遥かに大きなサメハダーはまるでシャチようだ。
薄い氷の地面を突き破り、真下から登場したトドゼルガの不意をつく。
自然界の者同士ならば一瞬でトドゼルガは肉塊と化していただろう。
だが、相手は鍛えられた四天王のポケモンだ。

プリム 「トドゼルガ! 『いわくだき』!」

トドゼルガ 「ゼ……ゼガァ……ッ!!」

サメハダーの強烈な『かみくだく』。
だがトドゼルガは痛みに苦しみながらもサメハダーに強打を放つ。
効果抜群の一撃にサメハダーは溜まらずトドゼルガを離して水中深くに退避する。
対するトドゼルガも自分のいるべき足場が崩れてしまったため水中にもぐった。

トドゼルガの特性『アイスボディ』が危惧されたが、ここで『あられ』も止んでしまう。
まだトドゼルガに余裕はありそうだし、逆にこちらは一発でピンチか。
いや、むしろ一撃耐えられただけで行幸だな。

ユウキ 「サメハダー! 『つじぎり』!」

サメハダー 「サメーッ!!」

水中のサメハダーは捉えきれる速度ではない。
水中を蛇行しながらも確実にトドゼルガを捕らえ距離を狭める。

プリム 「トドゼルガ! 確実に仕留めるわよ! 『こおりのキバ』!」

トドゼルガ 「ゼガッ!」

サメハダー 「サッメーーッ!!」

サメハダーの背びれは鋭利な刃物となってトドゼルガを切り裂く。
だがトドゼルガはそれを耐え切り、サメハダーの腹にトドメの一撃を放ってきた。
元々打たれ弱いサメハダーにこれ以上耐えることは出来ない。

サメハダー 「サ、サメェ〜」

プカァ〜……とサメハダーは浮かんでくる。
それを見て審判ははっきりとサメハダーの戦闘不能を宣言した。

プリム 「よし! よくやったわトドゼルガ!」

ユウキ 「戻れサメハダー、ご苦労さん」

シャベリヤ 『さぁ!! ここでプリム選手追いついた! このまま逆転できるか!?』

ユウキ 「させるかっての、いくぜ! サーナイト!」

サーナイト 「……」

サーナイトはボールから飛び出すと流氷の上にチョコンと立った。
息継ぎのため水上に顔を出すトドゼルガ、ダメージを見る限りそれほど余裕も無い。

プリム 「トドゼルガ! ここを押さえれば勝てるわよ! 『たきのぼり』!」

トドゼルガ 「ゼガーーッ!!」

トドゼルガは水しぶきを上げて、サーナイトに襲い掛かる。
そのスピードはさすが水タイプといおうか、相当の速度がある。
だが……サーナイトに速度なんてものはそれほど関係しない。

サーナイト 「!」

サーナイトはその場から『テレポート』して別の流氷の上に降り立つ。
突然目の前から消えたサーナイトに戸惑うトドゼルガ。
そして不意を突かれたプリム氏にも同様の焦りが出る。
俺はサーナイトに命令していない、ただ単にサーナイトが自分で判断し『テレポート』しただけだ。
恐らくサーナイトのことだ、『アレ食らったら痛そうだなぁ、命令無いけど勝手に避けよっと』て位の考えで避けたんだろう。

プリム 「トドゼルガ! 後ろよっ!」

ユウキ 「命令が遅いぜ! サーナイト、『10まんボルト』!」

サーナイト 「はぁ!」

振り返るトドゼルガ、だがそこにサーナイトの『10まんボルト』が襲い掛かる。

トドゼルガ 「トドーーッ!?」

激しく苦しむトドゼルガ、サーナイトが放電を終えるとトドゼルガはプスプスと煙を上げて倒れた。

審判 「トドゼルガ、戦闘不能!」

シャベリヤ 『決まったーーっ!! プリム選手の主力トドゼルガ轟沈! さすがに弱点にはかなわなかったか!!』

プリム 「『テレポート』がありえることくらい想定内だったはずだわ……私のミスね、ごめんなさい」

プリムさんは自責の念にかられてか妙に弱気なことを言いながらトドゼルガを戻した。
最後に出てくるのは当然。

プリム 「出てきなさい! ユキメノコ!」

ユキメノコ 「メノ〜」

シャベリヤ 『さぁ! ついにプリム選手最後のポケモン! だがユウキ選手の残りはサーナイトとヌケニン! タイプ相性を考えればまだ逆転も考えられる!』

プリム (ヌケニンが何をしてくるか? そろそろカードが切られても不思議ではないはず……でも私のユキメノコはどんなカードだって乗り切るわ!)

ユウキ 「さぁってどうしようかねぇ?」

プリム 「悩んでいるようなら、こちらから行くわよ! 『シャドーボール』!」

ユキメノコ 「メーノー!」

ユウキ 「残念、『ふういん』」

サーナイト 「!」

ユキメノコ 「!? メノッ!?」

プリム 「なっ!?」

確かに『シャドーボール』は脅威だが封印してしまえば怖くない。
プリムさんはまさかの技にまた度肝を抜かされたようだ。

プリム 「くっ! だったら『ふぶき』!」

ユウキ 「くぅっ! だが一撃で倒せると思うなよ! サーナイト、『さいみんじゅつ』!」

プリム 「!? なっ!?」

ユキメノコの『ふぶき』、それはサーナイトを襲う。
サーナイトにとっても多大なダメージだが、サーナイトは『ふぶき』に晒されながらも真っ直ぐユキメノコを捕らえ、その心を手中に収めた。

ユキメノコ 「メノ……ZZZ」

プリム 「ユキメノコッ!?」

ユウキ 「さぁ、今度はこっちの番! 『シャドーボール』!」

サーナイト 「ハァーーッ!!」

サーナイトは相手が眠っているのをいいことに、精一杯力を溜め込んで『シャドーボール』を放つ。
眠り動けない、ユキメノコ……そして。

ズドォン!!!

黒い爆発、吹き飛ぶユキメノコ。
そして審判の声。

審判 「! ユキメノコ戦闘不能! よって勝者ユウキ選手!!」

シャベリヤ 『きまったーーっ! 最後まで読めない攻防! その結果勝利を掴んだのはユウキ選手!』

ワァァァァァァァァァ!!!

プリム 「戻ってユキメノコ……ごめんなさい」

ユウキ 「おっし、ご苦労様サーナイト」

サーナイト 「はい、マスター♪」

思ったより余裕のあるサーナイトを戻すと俺はプリムさんの傍まで近寄る。

プリム 「……なにか用かしら?」

ユウキ 「とりあえず、ポケモントレーナーとしての礼儀には習っとこうと思って」

俺はそう言って手を差し出す。
それを見たプリムさんは少し驚いた様子だったが素直に手を差し出してくれた。

プリム 「完敗だわ……理詰めをするタイプだと思ったら、嘘もつけたのね」

ユウキ 「俺は本来嘘つきだよ、理詰めをするのはそっちの方が楽だから」

プリム 「ふ……ねぇ、結局ヌケニンはなんだったの? 意味無く入れたわけじゃないでしょ?」

ユウキ 「ん? ああ……あれか。えーとね、アレは単なるブラフ」

俺はまさかの質問に悪いかとも思ったが正直に答えを言った。
ヌケニンはブラフだ、なんの意味も無い。

プリム 「はぁっ!? ちょ……ええっ!?」

ユウキ 「いや、このバトル本当5匹で終わらせるつもりだったから、6匹目は正直どうでも良かった、だからヌケニンを入れた」
ユウキ 「別に深い意味は無い、遠慮なくブラフとして使っただけさ」

プリム 「……騙された……」

ユウキ 「ふふふ、戦っている間は何が嘘で何が真実かわからなったでしょ? 戦っている間はそれも真実」

俺の見せた見えない闇……だが、その真実は。

ユウキ 「真っ白な空室」





ポケットモンスター第98話 『VSプリム、LIAR or LIAR』 完






今回のレポート


移動


サイユウシティ


3月9日


現在パーティ


ラグラージ

サーナイト

チルタリス

ユレイドル

ボスゴドラ

コータス


見つけたポケモン 66匹






おまけ



その98 「今回もお休みです」





相変わらず6匹戦をやると行数余りませんね。
最終話までに一回おまけやりたいけど、いつ出来るやら。
では、また次回。

ユウキ 「予告やるだけでもいいんじゃねぇか?」




おまけその98 「今回もお休みです」 完


ルビーにBack ルビーにNext



Back Next

Menu

inserted by FC2 system