Menu




七夕特別作品『1000年の月日』



今日は7月7日…七夕とよび織姫と彦星が出会うとき。
日本でならどこでも誰でも知っているお話です…。
そしてそれはポケモンの世界にもあります…。

願い事ポケモン『ジラーチ』。
1000年に一度、七の月の始まりから7日までの1週間姿を現すとされるポケモンです…。
今回の物語はこのジラーチのかかわる物語です…。



『7月7日 ーファウンスー』

シャドウ 「………」

俺は今、ファウンスと呼ばれるホウエン地方の秘境の地に来ていた。
ここは遥か昔より存在し、その姿を変えない秘境の森だ。
森の周りは大きな山脈に囲まれ、地殻変動により固い地盤のみが地表に姿を現し、岩の塔が無数に大小立っている。
そして、その表面を覆うように木々がこの森を覆っていた。
ポケモンたちも多く、ホウエン地方の実にほとんどのポケモンが生息している。
人類の未踏査地域だ。

そして、俺はそんなファウンスの最深部。泉のある樹海に来ていた。
時に前回ジラーチが現れてから999年目、来年がジラーチの現れる1000年目だ。
俺は手に淡い緑の光を放つ槍を持ち、腰にモンスターボールを6個つける。
それ以外は何も無い、最小限の荷物だ。

シャドウ 「………」

俺は泉のすぐ側に立ち透明な水の中を覗き込んだ。

? 「今年も来ましたね…」

俺は泉の中をのぞいていると後ろから落ち着いた様子で女性の声が聞こえた。
俺がゆっくり振り向くとそこにはおおよそ場違いな和服を着込んだ女性がいた。
女性は20代くらい、俺よりも高い身長(俺自身160位だから仕方ないが)で170センチくらい。
腰まで真っ直ぐ伸びた美しいブロンドヘアーを靡かせ、常時細い笑い目の奥からは血液のように紅い瞳が怪しく輝いていた。
そして、腰のあたりから九本金色の美しい尻尾があった。
それは明らかに人でないことを現すものだった。

シャドウ「尻尾くらい隠しておけ、見られれば事だぞ…」

俺は強く睨みつけその女にそう言う。
その女はそれを聞くと顔色変えず笑い目のまま。

女 「あら? こんな場所に好き好んでくる人間などいないと思いますが?」
女 「それに見られても問題にはならないでしょう?」

シャドウ 「万が一だ…」

女はまるで気にしない。
元々あまり、人目を気にしない正確だからな。

ちなみに俺はこいつを知っている。
こいつの名は『フェルフェ』。
いわゆる化け物だ。

フェルフェ 「私の心配をしてくれるなんて珍しいですね…シャドウさん?」

シャドウ 「…いい加減うざったいんだがな…」

フェルフェ 「あら? それは私にも言えることですのよ? いい加減諦めてくれませんの?」

シャドウ 「………」

うざったい…そう言ったのには理由がある。
この女とはある意味因縁がある。
フェルフェと会ったのはこれで23回目。
『毎年』この日に現れる。
つまり23年目の因縁だ。

フェルフェ 「いい加減『ジラーチ』をこちらに渡してくださいな」

俺はそれを聞いて槍を静かにフェルフェに向ける。

シャドウ 「いい加減にしろ…そちらの都合にこちらを巻き込むな…」

俺はあくまで冷静を装いつつも槍を構えてフェルフェを睨む。
しかし、フェルフェは全く動じず、相も変わらず笑ったままだ。

フェルフェ 「『また殺す』のですか、私を」
フェルフェ 「あれは結構苦しいのですよ?」

シャドウ 「逆輪廻…その厄介な能力さえなければ苦しまずにすむだろう…」

そう、フェルフェは逆輪廻と呼ばれる特異能力を持っている。
逆輪廻とは死んだ時、未来へではなく過去へ戻るものの事だ。
そのせいで殺してもその場で蘇ってしまう。
正確には蘇っているのではないのだが死ぬ前にフェルフェの時間が戻ってしまうのだ。

フェルフェ 「幸せを得るためには犠牲はいるのですよ?」

シャドウ 「…どちらにしろジラーチを渡すわけにはいかん…」

フェルフェ 「頑固ですわねぇ…こちらは『この世界』ほど平和ではないのに…」

この世界…そう、こいつはこちらの世界の人間…いや、生物ではない…。
パラレルワールドのような平行世界から来た生物だ。

フェルフェ 「どうして、これほどまで似ているというのに違うのでしょうね?」
フェルフェ 「この世界は大変よいところですわ…安定した平和…安らぎ…未来がありますもの」

シャドウ 「………」

フェルフェ 「私には居場所はありませんけどね…あなたと同じように…」

シャドウ 「……」

フェルフェは皮肉のこもったような目でこちらを見てそう言う。
フェルフェのことを詳しく知るわけではないが、奴は平行世界でも未来から逆輪廻で訪れたらしい。
その平行世界の未来では合成ポケモンと呼ばれる生物達に支配されているらしかった。
合成ポケモンとはポケモンとポケモンが合体した物らしい。
奴は…フェルフェは『人間』と『キュウコン』の合成ポケモンらしい。

フェルフェ 「あなたに人であらず、かといってポケモンでもない中途半端な生物の苦しみはわかるんじゃないんですか?」

シャドウ 「…何が言いたい」

フェルフェはいつも柔らかな笑みを浮かべる。
その笑みは俺にとってはいやらしい笑みにしか見えなかった。

フェルフェ 「ふふ…同じ半人同士ではないですか」

シャドウ 「!」

フェルフェ 「クスクス…可愛いですわね…見た目は子供ですものね…」

シャドウ 「…貴様」

フェルフェは俺を嘲笑うようにしている。
さすがに俺も感情が表面に出てしまう。

フェルフェ 「気に障りましたか? でも事実でしょう…」

シャドウ 「違う! 俺は人間だ! お前とは違う!」

俺はそれを否定する。
否定しなければ俺の全てを否定することになる。

フェルフェ 「そうですよ。私は人間ではないですよ?」
フェルフェ 「でも、事実を捻じ曲げるのは…」

シャドウ 「黙れ! 貴様に何がわかる!」

俺はつい大声を出してしまう。
フェルフェもそれにはさすがに少々驚くがすぐ元に戻る。

フェルフェ 「あなたこそ、なにがわかるんですか? あの現実を知らないくせに…」

シャドウ 「…!」

フェルフェは珍しく顔色を変える。俺もそれにはさすがに驚いた。

フェルフェ 「私は確かに人間ではありませんが、心は人間のままなんですよ?」
フェルフェ 「人間として生きたいのにそれが許されない…」
フェルフェ 「半人だから…それだけで人間に恐れられる…合成ポケモンから守っているというのに…」

シャドウ 「……」

フェルフェはゆっくり語り始めた。
そこには絶望しか感じられなかった。

フェルフェ 「でも、それでも…私は人間を守りたいのです」
フェルフェ 「そこでひとつの結論が出ました」
フェルフェ 「私には人間を守りきることは出来ないですが、世界を救えるポケモンがいることに気付いたのですよ…」

シャドウ 「……」

フェルフェはまるで確信に行き着いたように語る。
その顔には再び笑みが浮かんでいた。
性格なのか、それとも笑わなければやっていけないのか…。
そして、その世界を救えるというポケモンもわかる。

フェルフェ 「それが『ジラーチ』です」

シャドウ 「……」

予想通りの結論。
その悲惨さゆえ答えの物を求めるのだろう。
だが、だからといってみすみすジラーチを危険な世界に送るわけにはいかない。

フェルフェ 「千年彗星が近づく時、ジラーチの『真実の目』の力はあらゆる力を凌駕している…」
フェルフェ 「後は…この適合者を探すだけ」
フェルフェ 「それも、同じ仲間の一人が平行世界の今頃に探しに出ているわ…」

シャドウ 「……」

適合者…向こうの世界は知らんが、こっちでは千年に一度7の月の始まりに心清らかな少年少女にのみがパートナーとして一週間を生活する…。
そんな伝承が人々の間である。
しかしこっちも、ジラーチの出現条件、状況、時間、解呪、封印、全ての条件を調べ尽くした。
今までは輪廻の条件が揃わなかった、だからこそ来年のみがチャンスなんだ。
ここでジラーチを奪われるわけにはいかない。
いや、これまでも、これからもだ。

フェルフェ 「いい加減にしてくれないと殺しますよ?」

シャドウ 「お前に出来るのか?」

フェルフェ 「試してみますか?」

その場は静かにさっきに包まれる。
フェルフェの顔は変わらないが、たしかな殺気がフェルフェにはあった。

フェルフェ 「私達の世界にもジラーチはいるのですが、具体的な場所が分からないのですよ」
フェルフェ 「素直に渡してもらいたいものですね!」

フェルフェはそう言うと空気中に青い炎の弾『鬼火』を作り出す。
それは俺に向かって飛んでくるが俺は槍でそれを薙ぎ払う。

フェルフェ 「終わりじゃありませんよ!」

シャドウ 「ち!」

今度はふたつの鬼火と手から放たれる火炎放射が俺を襲う。

シャドウ 「聖なる力を持つ神槍『緑』よ! 守りの力を持って全てを弾け!」

俺がそう叫ぶと俺の槍『緑』から淡い緑の光が溢れフェルフェの炎攻撃は弾かれる。

フェルフェ 「厄介ですね…その槍の力」

シャドウ 「…無駄だ、お前の力では俺を倒すことすら出来ん…」

フェルフェ 「どうでしょうか? 世の中にはこんな戦い方もあるんですよ?」

シャドウ 「何…!?」

突然体が重くなる。
フェルフェは何もしていないように見えたが…!?

シャドウ 『どういうことだ緑!?』

緑 『…封印術、呪い、禍々しき力です…』
緑 『しばらくですが私の力は封印されてしまいました…』
緑 『あなたにも呪いがかかっています、本人にもダメージはあるでしょうが気をつけてください』

シャドウ 「ちぃっ!?」

緑はそう説明する。
俺はただの槍と化した緑を握り締めフェルフェを見つめる。

フェルフェ 「これでただの人間ですよね?」
フェルフェ 「素直に降参してください…あなたは死ねばそれで終わりなのですから」

シャドウ 「ち…」

奴は俺に気を使うが俺もそれに答えるわけにはいかない。
まだ奥の手が無いわけでもないが…。

シャドウ (背に腹は変えられんか…)

シャドウ 「フォルム…」

フェルフェ 「!?」

俺は静かにボソッと呟く。
しかし、これはただ呟いただけじゃない。力の解禁だ。

フェルフェ 「まさか、そんな力も持っていたとは思いませんでしたわ…」

フェルフェの顔からは余裕は見えない、余程驚いたようだ。
それもそうだろう、今の俺には白い光の翼が生えている。
俺の中にある力の塊が具現化したものだ。
こんな姿をした奴はフェルフェの世界でもいないだろう。
俺自身こんなことが出来るのはまだ2人しか知らない。
俺含めてだ。

シャドウ 「いくぞ…!」

俺は一気にフェルフェに近づく。

フェルフェ 「早いっ!?」

フェルフェは反応しきれていない。
俺はその隙に槍を上から振り下ろす。

シャドウ 「はぁ!」

フェルフェ 「くっ…!?」

フェルフェは咄嗟に体を倒して俺の一撃をかわす。
しかし、俺の動きはこれだけでは終わらない。

シャドウ 「終わりだ!」

俺は振り下ろされた状態からそのままフェルフェの心臓に槍を突き刺す。

フェルフェ 「………」

シャドウ 「……」

俺は心臓から刺さった槍を抜き、翼を解除する。
フェルフェは即死したようでピクリとも動かない。
しかし…。

シャドウ 「ち…相変わらずの再生力か…」

フェルフェは驚くことに飛び散った血がフェルフェの体に戻り始めていた。
逆輪廻が始まったのだ。

フェルフェ 「ふ、ふふ…結構…痛かったですわ」

フェルフェはまだ心臓が再生している途中だという喋り出していた。

シャドウ 「痛いなら無理をしない方が良いんじゃないのか?」

フェルフェ 「あなたが…言う台詞じゃないでしょう?」

フェルフェは結局喋りながら完全再生してしまう。
こいつには時間でも殺さない限り再生し続ける。
恐らく消滅させても復活するだろうな…。

フェルフェ 「これで後2回…」

シャドウ 「…?」

あと2回? 何のことだ?

フェルフェ 「やはり、私では勝てないようですね…」

シャドウ 「悪いが…俺にも俺の護るモノがある…」

それがある限りはたとえ相手がだろうと倒すのみだ。
もっともこいつはいくら殺しても意味は無いか…。

シャドウ 「もうやめろ…残酷なようだがお前の世界のためにジラーチを犠牲にするわけにはいかない」

フェルフェ 「…私の目的はもうひとつあるのですよ…」

シャドウ 「何…?」

フェルフェはゆっくり立ち上がり服の埃を払って言った。

フェルフェ 「シャドウさん…私達の所に来てくれませんか?」

シャドウ 「…!」

フェルフェは突然、突拍子もないことを言う。
しかし、フェルフェの目には冗談で言った気配はない。

シャドウ 「残念だがそれもできない…俺には約束がある…」

フェルフェ 「やはりそうですよね…」

フェルフェはわかっていたようにしている。
当然か。これに答えていたら23年間も拒みつづけてはいないか。

シャドウ 「俺からも言わせてもらおう…」

フェルフェ 「え…?」

シャドウ 「この世界の土になれ…これ以上ジラーチを利用しようとしないというのならば拒みはせん」

フェルフェ 「残念ですけど…それは受けられません」

シャドウ 「……」

フェルフェは迷う様子もなくそう答える。
ある程度予想はできていたがな…。

フェルフェ 「あなたに自分の世界を捨てることが出来ないように私にも同様に出来ないんです…」

フェルフェは胸に手を当てそう言う。

シャドウ 「……」

フェルフェ 「今回は諦めますわ…でも私達には必要なんですよ…」
フェルフェ 「あなたも…ジラーチも」

シャドウ 「……」

フェルフェはそう言うと静かに歩きながらフェルフェはファウンスの密林の中に消えていった。
時にジラーチが目覚めから再び眠りについて999年…ユウキがこのホウエン地方にやってくる2ヶ月前のことだった。

シャドウ 「…ジラーチ、待っていろもうすぐだ、もうすぐお前を幸せに出来る…」



fin



後書き



Menu

inserted by FC2 system