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POCKET MONSTER a supplementary biography
Golden Sun & Silver Moon



第1話 『3人の旅立ち』




? 「はぁ、はぁ、はぁ…!」

時刻は朝の9:00。
予定の時間よりも1時間遅れて、焦る、ひとりの少女がいた。
季節は春の4月1日。
白のTシャツに、膝位までの青いスカートを身につけて走る少女。
身長は120cm位、体重は24kg。
年は9歳で、今年10歳になる。
新品のランニングシューズを履き、腰まで降りる長い髪を揺らして走る少女…。
その、少女の名は…

? 「あら、遅かったわね『キヨミ』」

キヨミと呼ばれた少女は、息を切らして声をかけてきた少女の前で止まる。
余裕の表情を持つ、この少女は、キヨミと全く同じ顔をしていた。
髪型も同じ、服装は黒いTシャツに赤いスカート。
見た目はただの色違いだが、彼女は10歳で今年11歳になる。
なお、彼女の方がやや身長が高かった。
そう、彼女の名は…

キヨミ 「キヨハお姉ちゃん…何で起こしてくれなかったの?」

私はそう言って、前屈みになる。
息が苦しい…ここまで家から全力疾走だから。
私が今いるのは、ジョウト地方のワカバタウン。
私たち姉妹の産まれの地でもあり、ウツギ博士の研究所もある、小さな町だ。
私たちは今日、初めて自分のポケモンを貰う。
今日から私たちは、ポケモントレーナーになる。

キヨハ 「…起こしても起きなかったからよ」
キヨハ 「私だって、早くポケモンが欲しいもの」

うう…こんな時に起きれない自分が恨めしい。
しかし、気を取り直して私は、目の前の研究所を見る。


『ウツギ研究所』


そう書かれた、看板を見ながら、私は躍る心を抑えた。
やっと、ポケモンがもらえる。
私はお姉ちゃんと一緒に、研究所の中へと入った。



………。



『4月4日 時刻9:05 ウツギ研究所・研究室』


ウツギ 「やぁ、ふたりとも! 遅かったね」

ウツギ博士は椅子から立ち上がり、私たちを見てそう言う。
ウツギ博士は、18歳で博士になった天才博士。
まだ、この研究所を作って1年も経ってないけど、町の人たちは凄くウツギ博士を尊敬している。
今、ウツギ博士はポケモンの『卵』について研究をしているらしいけど、まだその研究が実を結んではいなかった。
本当にポケモンが『卵』から産まれてくることがわかれば、それは凄いことらしい。

キヨハ 「おはようございます博士」
キヨミ 「おはようございます!」

ウツギ 「あはは、キヨミちゃんは元気だね」
ウツギ 「キヨハちゃんは、逆に大人しい娘だ」

キヨハ 「…ところで、私たちが貰うポケモンは?」

キヨミ 「そうそう! 博士、早くください! 私、もう貰うポケモン決めてますから!!」

私たちがせかすと、博士は少々苦笑いをした。
どうかしたのかな? 何だか気になる。

ウツギ 「う〜ん…実はね、ちょっと厄介なんだ」

キヨハ 「? 厄介…」

キヨミ 「ふえ?」

ウツギ博士は頬を掻きながら、ひとつのボールを取り出す。
恐らく、中にはポケモンが入っていると予想される。
私は、それを受け取った。

ウツギ 「…まぁ、とりあえず外に出してごらん」

キヨミ 「わぁ…やっぱり中にはポケモンが! よ〜し、出てきて!!」

ボンッ!

ヒノアラシ 「ヒノ〜!」

出てきたのは『ヒノアラシ』だった。
まさしく、私が欲しかったポケモン!

キヨミ 「やったー! ヒノアラシだ!! 博士、この子私が貰ってもいい!?」

ウツギ 「え!? あ、いや…まぁ、うん。そうだね…い、いいけど」

キヨハ 「……」

お姉ちゃんは何も言わなかった。
ただ、お姉ちゃんは不思議そうな顔をしていた。
私は、早速ヒノアラシに触れようとする。

ヒノアラシ 「ヒノー!!」

ゴアアアッ!!

キヨミ 「ぴぎゃ!?」

ウツギ 「あ、あ〜あ…」

キヨハ 「…予想通り、ね」

キヨミ 「ぽふんっ…」

私はヒノアラシの背中から噴出された炎に顔を焼かれる。
幸い、髪には火がつかなかった。
うう…いきなり酷い。

ウツギ 「やっぱり、人には懐かないのか…しょうがないよね」

キヨハ 「…この子は、一体?」

お姉ちゃんが、不思議そうな顔で博士に尋ねると、博士は苦笑いをして答える。

ウツギ 「うん…実はね、この子は遠い地方からやってきたヒノアラシなんだ」

キヨミ 「遠い地方!?」

キヨハ 「…それって、カントーやホウエンのような所ですか?」

ウツギ 「ううん、もっと遠い所さ…海を越えて、更に向こう側の」

キヨミ 「ふえ〜…どんな所なんだろ」

ウツギ 「ともかく、このヒノアラシは、異国に来たばかりで、ほとんど人にも慣れようとしてない」
ウツギ 「本来なら、僕がちゃんとしつけておかなきゃならなかったんだけど…ごめんね」

キヨハ 「…他のポケモンはどうしたんですか? 私、チコリータを貰うつもりだったんですけど」

ウツギ 「ごめん、実は今日はもういないんだ…ワニノコもね」

キヨハ 「…ということは」

ふたりは私を見る。

ウツギ 「そう…この問題児だけが残ったんだ」

キヨハ 「…ふぅ、仕方ないわね。キヨミ、その子は私に任せなさい」

キヨミ 「ちょ、何でそうなるの!?」

いきなり、お姉ちゃんはそんなことを言い出す。
さすがに私は、怒って反論する。

キヨハ 「簡単よ、あなたにその子は持て余すわ」
キヨハ 「私はあなたと違って、ちゃんとポケモンのことを勉強している、何も知らないあなたよりかはマシよ」

キヨミ 「イーヤ!! 絶対にこの子は私が育てるの!!」

私はそう言ってヒノアラシを抱き上げる。

ゴオッ!!

キヨミ 「ボフッ…」

またしても焼かれる…それを見て、お姉ちゃんは呆れる。

キヨハ 「はぁ…強情ね、怪我をするだけだってわからない?」

キヨミ 「大丈夫だもん! 私だって、今年で10歳! ちゃんとポケモントレーナーとして認められるんだから!!」
キヨミ 「ねっ、ヒノアラシ!?」

ヒノアラシ 「…ヒノ〜」

ヒノアラシは全く私の言うことを聞いていないようだった。
うう…不安。

キヨハ 「…参ったわね。こう決めたら、動かないでしょうね、この子は」

お姉ちゃんはため息をついて、そう悟る。
子供っぽくないよ、お姉ちゃん…。

ウツギ 「ごめんね、明日になったら新しいポケモンをあげるから」

キヨハ 「……」

? 「ちょっと待ちぃーー!! こんなことや思うて、キヨハちゃんへプレゼントや!!」

いきなり、研究所に少年が現れる。
ウェーブのかかった髪の毛に、茶色の半袖シャツと、青いズボン。
コテコテの関西弁を放ちながら現れたのは、私たちのよく知っている少年だった。

キヨハ 「あら、マサキ…その手に持っているのはまさか」

マサキ 「そのまさかや! この日のために、ワイがキヨハちゃんへプレゼント!」
マサキ 「遠慮せずに受け取ってや♪」

そう言って、マサキは格好つけながら、お姉ちゃんにボールを手渡した。
マサキは私たちの幼馴染で、本当はコガネシティ出身。
ウツギ博士の手伝いをしながら、研究員の勉強をしているインテリ系。
ポケモンと機械が大好きで、いつも何かの機械をいじっている。

キヨハ 「……」

ボンッ!

イーブイ 「ブイッ」

キヨミ 「わぁ、可愛い…」

キヨハ 「イーブイね、珍しいポケモンだわ」
キヨハ 「本当にもらってもいいの?」

マサキ 「もっちろんやー! そのために持ってきたんやから!」

そう言って、マサキは赤くなる。
全く、お姉ちゃんには甘いんだから。

キヨミ 「よし、練習がてら、こらしめてやる」
キヨミ 「ヒノアラシ、マサキに何か炎技をかましてあげて!」

ヒノアラシ 「ヒノ〜?」

キヨミ 「ほら、口から出るんでしょ? スッゴイのがこう…」

私はジェスチャーを交えながら、そう表現すると、ヒノアラシは悟ったのか、表情を変える。

キヨミ 「よしっ、行けー!!」

ヒノアラシ 「ヒーーーノーーーーーーーーーーー!!!」

ゴゴゴッ!! ドグウォワアアアアアアァァァァァァァッ!!!!

マサキ 「ペ、ペグ…」

どしゃあっ!

ものの見事に、倒れるマサキ…やば、やりすぎた?
って言うか、あそこまで凄いとは…。

キヨハ 「…い、今の炎は?」

イーブイ 「ブ、ブイ…」

ウツギ 「な、何なんだ今の技は? このヒノアラシは、まだ炎技なんて覚えていないはずなのに」
ウツギ 「ま、まさか産まれた時から技を!?」

キヨミ 「す、凄い技だね…今のがあなたの炎なのね?」

ヒノアラシ 「ヒ…ヒノ」

キヨミ 「!? どうしたのヒノアラシ!?」

ウツギ 「…これは、まさかさっきの反動で? でも、炎技を使って反動が来るなんて」

キヨハ 「『はかいこうせん』とかと、同じ類じゃ…」

ウツギ 「いや、そんな副作用のある炎技は聞いた事がない! まさか、未発見の技!?」

キヨミ 「あ、あはは…未発見なんだって、凄いね」

ヒノアラシ 「ヒ〜ノ」

1分ほど経つと、ヒノアラシはすぐに回復した。
やっぱり、さっきの技が原因だったんだ。

ウツギ 「ちょ、ちょっと待っててキヨミちゃん! 今、オーキド博士に聞いてみるよ!」
ウツギ 「もしもし、オーキド博士ですか!? 僕です、ウツギです!!」

ウツギ博士は、慌てながら電話をかける。
相手は、あのオーキド博士。
ポケモン研究の第一人者で、ポケモン図鑑を作った凄い人。

ウツギ 「…ええ!? じゃあ、あのヒノアラシは卵から?」

オーキド 『うむ! そう伝えられておる。詳細は不明じゃが、恐らく『ブラストバーン』と言う技じゃろう』

ウツギ 「ブラスト…バーン」

オーキド 『左様、ナナシマ方面のとあるトレーナーがそう呼んでおるらしい』
オーキド 『他にも、水の『ハイドロカノン』、草の『ハードプラント』と言う技もあると言う話じゃ』
オーキド 『いずれも、威力は「はかいこうせん」並で、使用後は1分程動けなくなる』
オーキド 『強力な技ゆえに、幼い内は使用は控えた方が良いかもしれんな』

ウツギ 「そうですね…わかりました、また何かあったら報告いたします!」

オーキド 「うむ! そのヒノアラシを育てる娘にも、宜しく伝えておいてくれ!」

ウツギ 「はい、わかりました!」

がちゃり!

電話が終わった博士は、改めて私を見た。
そして。

ウツギ 「キヨミちゃん、このヒノアラシは君に預ける」

キヨミ 「もっちろん! 初めからそう決めてたもん!」

私は笑顔で答える。
ヒノアラシは聞いてないようだったけど。

キヨハ (…『ブラストバーン』ね、いきなり見せてもらって悪いけど、攻略法は十分にあるわね)
キヨハ 「さぁ、行きましょうかイーブイ」

イーブイ 「ブイッ」

お姉ちゃんは、イーブイを連れて、外へと歩く。

キヨミ 「あ、お姉ちゃんどこへ!?」

キヨハ 「決まってるじゃない…ポケモンリーグを目指すのよ」
キヨハ 「私は、このイーブイと一緒にスタートするわ」
キヨハ 「あなたも、行くんでしょ?」

キヨミ 「も、もっちろん! 私だってこのヒノアラシと…ねぇ!?」

ヒノアラシ 「ヒノ〜…」

ヒノアラシはそっぽを向く。
うう…先が思いやられる。

マサキ 「うう…酷い目におうたわ」
マサキ 「おい、キヨミ! 何してくれんねん!?」

復活したマサキがそう詰め寄ってくる。
私は苦笑いを返した。

キヨミ 「ご、ごめんごめん…ちょっとむかつかいたら♪」

マサキ 「むかついたら…や、あらへんわ!! 死ぬかと思うたで!」
マサキ 「全く、折角コガネからはるばる、これ持って来たのに、気分悪いわ!」

そう言って、マサキは袋から大きな卵を取り出す。

ウツギ 「マ、マサキ君それは!?」

マサキ 「はい、ポケモンの『卵』です! コガネシティの南に住んでる育て屋さんから発見されました」
マサキ 「詳細は不明ですけど、間違いなくポケモンの卵やそうです」

そう言って、マサキはウツギ博士に卵を見せる。
それを手にして、ウツギ博士は震える。
やっと、出会えた…そんな感じだった。

ウツギ 「そうか…これがポケモンの卵」
ウツギ 「ようやく…ようやく出会えたんだな」

ウツギ博士は目に涙を浮かべて喜ぶ。
うう、何だかこっちまで涙が。

マサキ 「ただ、どうやって孵化するのかはわかってません」
マサキ 「育て屋さんが言うには、元気のあるトレーナーと一緒にいることで孵化するとも…」

ウツギ 「元気のある…」

キヨハ 「トレーナー…?」

キヨミ 「ほえ?」

全員が私を見た。
そして、ウツギ博士は真剣な顔をしてマサキを見る。

ウツギ 「そう言うことか…それで君は」

マサキ 「せや…ワイの知ってるトレーナーで、元気のある奴言うたら…」

キヨハ 「…仕方ないわね、これも運命かもしれないわ」

ウツギ 「キヨミちゃん…この卵、君が持っていってくれ」

キヨミ 「え、ええっ!?」

私はウツギ博士から卵を預かる。
いきなり過ぎて、一瞬頭が真っ白になった。

マサキ 「何が産まれるかはわからへん…せやけど、お前やったらそれを見ることが出来るかもしれんのや」
マサキ 「ワイもコガネまでは一緒に行ったる! それまでに孵らんかったら、またそれはその時やがな」

キヨミ 「…ほ、本当に私が?」

ウツギ 「そうだよ、君にしか出来ないと、僕は思ってるよ」

私は卵を抱きしめる。
そこからは、微かな鼓動が聞こえた気がした。

キヨミ 「わかりました! 私が頑張って育てます!」

ウツギ 「うん、いい返事だ! それじゃあ、後は君たちに任せる!」
ウツギ 「最後に、これを君たちにあげるよ…」

そう言って、博士は私たちにそれぞれ赤い機械を渡す。
これって確か…。

マサキ 「ポケモン図鑑やないですか!? まだ、世間にはそんなに出回ってないはずやのに、ええんですか!?」

ウツギ 「もちろんさ! マサキ君は研究者として当然。キヨミちゃんとキヨハちゃんにも、この研究を手伝って欲しいんだ」
ウツギ 「僕はまだ若い…研究者としてはまだまだ経験不足だ」
ウツギ 「だから、君たちに手伝って欲しい…このポケモン図鑑が完成するように!」

キヨハ 「わかりました、どこまでお手伝いできるかわかりませんが、やらせてもらいます」

マサキ 「まぁ、任しとき! ワイが完成させたるわ!」

キヨミ 「うう、何だか難しそうだけど、頑張ります!」

ウツギ 「うん、いい返事だ! それじゃあ、君たちにはもうひとつ餞別をあげよう」
ウツギ 「空のモンスターボールだ。30個づつ君たちにあげるよ」
ウツギ 「バトルで使うポケモンは6体、それ以外のポケモンはちゃんとバッグとかに入れておくんだよ?」
ウツギ 「6個装着できるボールラックも一緒にあるから、使うといい」

キヨミ 「よしっ、装備完了!」

私たちはそれぞれ、貰ったものを装備する。
これで準備は万端、いつでも出れる。

ウツギ 「旅は長く、険しいものになると思う」
ウツギ 「でも、忘れないでくれ! 君たちにはかけがえのないパートナーと一緒だってことを!」

キヨミ 「はい!」
キヨハ 「はい」
マサキ 「はい!」



………。



こうして、私たちは旅に出た。
ワカバタウンを出て、何が待っているのかはわからない。
でも、私たちは迷うことなく、外へと出て行った。
この時、私たちは紛れもなく、『ポケモントレーナー』となったのだ!





………………………。





『時刻10:00 29番道路』


オタチ 「オタッ!?」

シュボンッ!!

マサキ 「よっしゃ! 『オタチ』ゲットやで!!」

キヨハ 「こっちも、『コラッタ』を捕まえたわ」

キヨミ 「うう…私、まだ」

ふたりは、簡単にポケモンをゲットする。
だけど、私は未だにゲットができなかった。

マサキ 「って言うか、ヒノアラシ全然懐いてへんやんか…そらあかんわ」

キヨハ 「だから言ったのよ、持て余すって」

キヨミ 「うう…それでも頑張るもん」

ヒノアラシ 「ヒノ〜」

ヒノアラシは相変わらず私の言うことを聞いてくれなかった。
はぁ…こんなんで、大丈夫なのかな?



………。



マサキ 「よっしゃ、『ポッポ』ゲット!」

キヨハ 「随分、調子いいわね…」

マサキ 「もちや! ワイとこいつの仲も中々になってきたわ!」
マサキ 「なっ、チコリータ!」

チコリータ 「チコッ!」

マサキはチコリータに話しかけると、チコリータは笑顔で答える。
いいなぁ、私もあんな風になりたいのに…。

キヨミ 「むぅ…あなたも少しは頑張ってよ〜」

ヒノアラシ 「ヒノ〜」

私は屈んでヒノアラシの顔を見て言うが、ヒノアラシはそっぽを向いて聞こうとしない。

キヨハ 「…まだ言うことを聞かないの?」

キヨミ 「うん…何でだろ? マサキに攻撃した時は言うこと聞いてくれたのに」

マサキ 「さらっと、怖いことを言うな…」

マサキはそう言って、後ずさる。
全く、冗談がわかんないかなぁ?

キヨハ 「…だったら、少し無理やりにでもその気にさせてみる?」

キヨミ 「え? それってどう言う…」

キヨハ 「イーブイ、ヒノアラシに『たいあたり』よ」

イーブイ 「ブイッ!」

ダダダッ!

キヨミ 「って、いきなり〜!?」

イーブイ 「ブイー!」

ドカァッ!

ヒノアラシ 「!! ヒノッ!」

ズシャァッ!

ヒノアラシはかわすことができずに吹っ飛ぶ。
ノーマルタイプの『たいあたり』だから、通常よりも威力が大きい。
ヒノアラシは派手に吹っ飛んだ。

キヨミ 「ヒノアラシ、大丈夫!?」

ヒノアラシ 「ヒ、ヒノッ!」

バシュウッ!

ヒノアラシは、背中の炎を激しく燃やして大丈夫とアピールする。
おおっ、何だかやる気になったみたい。

キヨハ 「これで少しは、やる気になったかしら?」

マサキ 「せやけど、これはただ怒らしとるだけとちゃうん?」

キヨハ 「いいのよそれで、最初の内はこれ位喧嘩腰の方が、やりやすいわ」

そう言って、お姉ちゃんはこっちを見て笑う。
いつも私に見せる余裕の表情。
私は、今までお姉ちゃんとの勝負で勝ったことはない。
何回やっても、私は勝つことが出来なかった。
だけどそれは…

キヨミ (ポケモンバトル以外での話! ポケモンバトルなら、まだ負けたわけじゃない!!)
キヨミ 「ヒノアラシ、反撃よ! 『たいあたり』!」

ヒノアラシ 「ヒノッ!」

ダダダッ!

ヒノアラシは、イーブイよりも速い動きで一気に突っ込む。
スピードの乗った『たいあたり』がイーブイに向かう。

ドコォッ!

イーブイ 「ブイー!!」

イーブイはまともに受け、後ろに吹っ飛ぶ。
さっきのお返しと言わんばかりの攻撃だ。
いいわよ、これで一気に…

キヨハ 「イーブイ『しっぽをふる』」

イーブイ 「ブイッ♪」

フリフリ♪

イーブイは可愛く尻尾を振り始める。
それを見てか、ヒノアラシは一瞬戸惑う。
その隙を見ると、お姉ちゃんはすぐ指示を出す。

キヨハ 「イーブイ『たいあたり』!」

イーブイ 「ブイッ!!」

ダダダッ!

ヒノアラシの隙を突いて、イーブイが突っ込んでくる。
今度食らったらまずい! 私はすぐに指示を出す。

キヨミ 「ヒノアラシ『にらみつける』!!」

ヒノアラシ 「! ヒノーッ!!」

イーブイ 「ブ、ブイ〜!!」

ズザザァッ!!

キヨハ 「!?」

ヒノアラシは正面から迫ってくるイーブイに向かって、睨みつけた。
ヒノアラシに睨まれ、イーブイは驚いて動きを止めてしまう。
今度は、こちらのチャンスだった。

キヨミ 「今よヒノアラシ! 『たいあたり』!!」

ヒノアラシ 「ヒーノー!!」

ドッカァッ!!

イーブイ 「ブイーー!!」

ズシャァッ!!

イーブイは二度目の『たいあたり』を受け、倒れた。

マサキ 「そこまで! この勝負ヒノアラシの勝ち!」

マサキがそう宣言し、私たちの勝利が決まる。
って、別にマサキは審判でもなんでもないんじゃ?
まぁ、別にいいけど♪

キヨハ 「…戻ってイーブイ」

シュボンッ!

お姉ちゃんは、無表情にイーブイを戻す。
むぅ…ちっとも悔しそうじゃないし、何か複雑。

キヨハ (…結局、バトルでは忠実に指示を守ったわね)
キヨハ (性格は案外『まじめ』なのかもね)

キヨミ 「やっぱり、あなたはバトルが好きなんでしょ?」

ヒノアラシ 「ヒノ?」

私は始めてみた時から思っていた。
この子はきっと、バトルが好きなんだと。
だから、他のことにはほとんど興味を示さない。
荒っぽそうな性格に感じるけど、全然違う。
この子はただ、バトルが好きなだけ。
私はそれがわかっただけでも、良しとした。
これからも、この子とは上手くやっていける…そんな気がした。

マサキ 「にしても、そろそろ夕方になりそうやな?」

キヨハ 「そうね…今日の所は先へ進みましょう」

キヨミ 「さ〜んせ〜い!」

私たちはこうして、隣の町である『ヨシノシティ』へたどり着いたのだった。



………。
……。
…。



『同日・時刻6:30 ヨシノシティ・ポケモンセンター』


店員 「はい、あなたのポケモンはすっかり元気になりましたよ」

キヨハ 「ありがとうございます」

お姉ちゃんはそう言って、ポケモンを受け取る。
これで、私たちは全員回復を終えたことになる。

キヨミ 「…はぁ、結局私は何もゲットできなかったなぁ」

マサキ 「ええやんか、別に…無理して捕まえる必要はあらへん」
マサキ 「ワイは図鑑の完成のために集めるけど、トレーナーとしたら6体のみで頑張った方が、ええ場合もあるからな」

キヨハ 「そう言うことね、図鑑のデータは3人で集めていけばいいもの」
キヨハ 「29番道路で捕まえてないのは後1種類だけ…すでにデータが埋まっているポケモンを捕まえる必要はないわよ」

お姉ちゃんとマサキはそう言うが、自分は納得できない。
お姉ちゃんはイーブイとコラッタが手持ち。
マサキはチコリータ、オタチ、ポッポの3体。
私は、ヒノアラシと卵だけ…このままじゃヒノアラシもきっと寂しいよ。

キヨミ 「よ〜しっ! 私今からポケモン捕まえに行くんだから!」

マサキ 「アホかっ! 今から行ったら帰ってくんのは深夜やぞ!」

キヨハ 「そうよ、ひとりで行くのは止めておきなさい」

ふたりは止める。
でも、私は聞かなかった。

キヨミ 「大丈夫だもん♪ 私にはヒノアラシがいるんだから! それじゃあ行って来ま〜す」

私は勢いよく、外に出る。
そして、私は再び29番道路に向かう。



………。



『同日 時刻8:00 29番道路』


キヨミ 「わ…もう暗くなっちゃった」

ヒノアラシ 「…ヒノッ」

バシュウッ!

キヨミ 「わ、明る〜い。ヒノアラシありがと〜♪」

ヒノアラシ 「…ヒノッ」

私はヒノアラシの頭を撫でてあげる。
すると、ヒノアラシは少し照れたような表情をした。

キヨミ 「あははっ、やっぱりヒノアラシって可愛い♪」

? 「ヒノアラシ…お前がトレーナーになったんか?」

キヨミ 「!? だ、誰!?」

突然、草むらの方から声がする。
やや低めの声。
でも、明らかに子供の声だった。
草むらからゆっくりと現れる姿は、夜の闇で隠れていた。

? 「ワニノコ『みずでっぽう』!!」

ワニノコ 「ワニー!!」

ブシュウッ!!

ヒノアラシ 「ヒ、ヒノッ!?」

バシュウッ!!

ヒノアラシは咄嗟に飛んできた『みずでっぽう』をかわす。
い、いきなり何するのよ!?

キヨミ 「何よっ! いきなり攻撃することないじゃない!!」

? 「あれをかわすんか…なら、ワニノコ『ひっかく』!!」

ワニノコ 「ワニーー!!」

ザシュウッ!!

ヒノアラシ 「ヒ、ヒノーー!!」

ヒノアラシはまともに食らって吹き飛ぶ。
まずい、攻撃力が全然違う!
私はヒノアラシにすぐ指示を出した。

キヨミ 「ヒノアラシ『たいあたり』!!」

ヒノアラシ 「! ヒノー!!」

ワニノコ 「!?」

ドカァッ!

ヒノアラシは、すぐに反撃を放つ。
いいわ、まだまだ戦える! この調子なら…

? 「まるで効かへんな…ワニノコ『みずでっぽう』!!」

ワニノコ 「ワーニーー!!」

ブシュウッ!!

ワニノコはすぐに反撃してくる。
そんな、まともに食らったのに!?

ブシャァッ!

ヒノアラシ 「ヒ、ヒノーーー!!」

ザシャァッ!!

まともに食らってしまい、ヒノアラシは苦しむ。
炎タイプに水タイプは効果抜群!
このままじゃ…!

ヒノアラシ 「ヒ、ヒノッ…!!」

バシュゥゥッ!!

? 「!?」

キヨミ 「ヒノアラシ…まだ戦うの?」

ヒノアラシは背中の炎を更に激しく燃やす。
今までで一番大きな炎だった。
そして、その炎の灯りで、相手の姿がぼんやりと見える。
正確な姿まではわからないけど、確かなことがひとつわかった。

キヨミ (…男の子? 悪いけど、一瞬気を取られたわね!)
キヨミ 「ヒノアラシ、『ブラストバーン』!!」

少年 「!?」

ヒノアラシ 「ヒ〜ノーーーーーーーー!!!」

ギュッ! ゴバアアアアアァァァァァァァッ!!!!

ヒノアラシの口から、とてつもない炎がレーザーのように放たれる。
マサキに向かって撃った時とは比較にならない威力。
ワニノコは驚いた表情でそれに飲み込まれた。

カッ! チュドオオオオオオオオオォォンッ!!

ワニノコ 「ワ…ワニ」

少年 「な…アホな!? 水タイプのワニノコが一撃で…」

キヨミ 「どうよ! これが私のヒノアラシの底力!」

私はガッツポーズを取って、勝利を確信する。
危なかった…耐えられたらどうしようかと思った。

ヒノアラシ 「ヒ、ヒノッ…」

ドシャッ!

キヨミ 「あ、あわわっ! 戻ってヒノアラシ!!」

シュボンッ!

私は力尽きて倒れたヒノアラシをすぐに戻す。
参ったな…さすがに反動が凄すぎる。
オーキド博士が使用を控えるように言っていたのは、このためだったのね。

少年 「戻れワニノコ」

シュボンッ!

少年 「…しゃああらへんな、負けは負けや」
少年 「お前の顔、覚えとくで!」

そう言って、少年はヨシノシティの方面に、走り去っていった。
何だか、不思議な少年。
マサキと同じような喋りかただし、黒い服に身を包んでるし。
忍者ごっこかな?
ともかく、私は再びポケモンセンターに戻ることにした。



………。



『同日 時刻8:20 ヨシノシティ・ポケモンセンター』


店員 「はい、あなたのポケモンは元気になりましたよ」

キヨミ 「どうも…」

私はヒノアラシを返してもらい、お姉ちゃんとマサキのいる場所に向かった。

キヨハ 「…ワニノコ使い、か」

マサキ 「ワカバタウンでもろたんやろな…ワニノコみたいな貴重なポケモンを、そうやすやすと持ってる奴がおるとは思えへん」
マサキ 「しかも、『みずでっぽう』をつこうたらしいな?」

キヨミ 「うん、スッゴイ威力だったよ…一発でヒノアラシがやられそうになったもん」

マサキ 「アホッ、本来ならやられて当然や…ワニノコが『みずでっぽう』を覚えるには、それなりの時間が必要や」

キヨミ 「そ、そうなの?」

キヨハ 「そうね…一朝一夕の経験で覚えられるものじゃないって言うのは確かよ」
キヨハ 「もっとも、Lvの高い相手を倒し続けていれば別だけど」

マサキ 「どっちにせよ、いきなり攻撃してくるなんて、危ないやっちゃ」
マサキ 「同じ関西人として、許せへんわ…今度出てきたら、ワイがぶっ飛ばしたる!」

キヨミ 「おお…頼もしい」

キヨハ 「さすが、男の子ね」

マサキ 「せやろ〜? いやぁ〜! やっぱ男やったらこれ位言わんとなぁ!」

マサキは簡単にのろける。
全く…お姉ちゃんには弱いんだから。

キヨミ (でも…あの男の子、何でいきなり襲ってきたんだろう?)





………………………。





『同日 時刻??:?? ???????』


? 『ゴウスケか…収穫はあったか?』

ゴウスケ 「はい…それなりには」

? 『そうか、例の情報は得られたか?』


ゴウスケ 「いえ、いずれも情報無しです…」

? 『そうか…では、しばらくお前の判断に任せる…』
? 『好きに行動しろ…ただし、表沙汰には動くな』
? 『トレーナーとして動く分には構わんが、裏の事情は隠しておけ』

ゴウスケ 「はい、お任せください、サカキ様」

ブツ…

ワイは、通信機器の電源を切り、周りを確認する。
誰もおらへん…まぁ当然やが。
しかし、今日戦うたあの女の子、ごっつ強かった。
いや、女の子よりもあのヒノアラシや。
とんでもない技使いよる…桁違いの威力や。
倍近いLv差があると踏んでたんやが、偉い間違いやった。
返り討ちに会うとは微塵も思ってなかったんやが。
しかし、あの女の子のおかげで、いきなり作戦に支障が出るわ。
本来なら、ちゃっちゃとヒノアラシを奪うつもりやったんやが…。
こら、計画の練り直しやな…サカキ様も気の長いお方とは言えんからなぁ。

ゴウスケ 「さて、こっからは一旦普通のトレーナーや、まずは直接接触してみるか」

ワイは服を普段着に着替え、次の目的地に向かう。
さて、まずは下調べや…



…To be continued




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